Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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ライダーロボ…かぁ。お願いだからJさんをこれ以上…

おそらく今まで最長記録となる今回のお話。

では、どうぞ!


第71話『創世王最後の日』

(ブラックサン…)

 

創世王の攻撃を避け続けるシャドームーンは宿敵とそのサーヴァントが黒い泥の中へ消えた光景が未だ目に焼き付いていた。

 

光太郎が助けようとしたのは、人間ではない。聖杯が儀式の為に形作った仮初の存在だ。聖杯戦争に参加するマスターとしての光太郎の行動は常軌を逸脱している。

 

だが、シャドームーンは光太郎がライダーを助ける為に呪いの塊である聖杯へ彼女と共に落下した事を呆れても、愚かとは思えなかった。

 

光太郎に取ってライダーのサーヴァントは人間と同じ…もしくはそれ以上の感情を向けていることは当初から分かっている。そのサーヴァントも口にしているか不明だがマスターに叶わぬ思いを抱いているのだろう。

ライダーが光太郎に取って守るべき者であるならは、光太郎は迷うことなく、考えるよりも早く身体が動いてしまうに決まっている。

 

(私には分かっていた。創世王があのサーヴァントを聖杯の泥へと投げ込んだ時から、ブラックサンの行動が)

 

それは同じ存在…世紀王だからか。それとも、キングストーンを持つ者同士だから理解できたのか。

 

否。

 

改造される前から光太郎の行動など彼にとっては深く考えるまでもなく理解し、予想も出来た。それは間桐光太郎とシャドームーンの肉体となった人間は、強い繋がりがあったからだ。

 

シャドームーンにとってそれが何であるかは分からない。だがこれだけは言える。

 

 

自分の知る世紀王ブラックサンは、あのような事でくたばる奴ではない。

 

 

 

「ならば、私は私の目的を果たす」

 

創世王は聖杯へ落ちたブラックサンではなく、自分の肉体を狙うだろう。その為致命傷となる攻撃はしてこないはず。その証拠に創世王が放っているのはシャドームーンも得意とする電撃…こちらの動きを止めるためのものだ。

 

「そんなもので私が捕まると思っているのか…!」

 

シャドームーンは掌に緑の雷を収束させ、槍のような形状へと変化する。シャドームーンが未だ見せてなかった技を警戒し、創世王が攻撃を中断したその刹那、シャドームーンはその場で強く地面を蹴り、創世王の真上を30メートル以上飛び上がった。

 

「オォッ!!」

 

シャドームーンによって投擲された雷の槍は落下を始めたと同時に拡散。無数の刃となった雷が創世王へと降り注ぐ。

 

『おのれ、小細工を…!』

 

だが、攻撃は創世王へ当たることは無かった。雷の散弾は創世王の足元に突き刺さるだけで、身体のどの部分も狙って放たれたものではない。この時、創世王はシャドームーンが聖杯の少女を苦しめない為に自分へ直接の攻撃が出来ないと推測した。再び自分のに傷を負わせれば少女を苦しめるという過程を通して治癒をする。ブラックサン同様、この世紀王にも人間としての甘さが残っている故かもしれない。

少女がゴルゴムの基地内で唯一心を許した存在がシャドームーンであったように、シャドームーンも少女を気に掛ける節が見られた。

 

器同士の傷のなめ合いと嘲笑した創世王はこれを好機とし、飛び上がっていたシャドームーンが着地する瞬間を狙うため、創世王は指先に力を収束させる。

 

身を持って教えなければなるまい。

 

他人を…ましてや聖杯の部品に過ぎない人形などに情をかけるなど、ゴルゴムの世紀王失格であるのだと。

 

シャドームーンが着地するまで2メートルを切った直後、創世王の指から放たれた怪光線は真っ直ぐに飛んで行き、標的を捉える…はずだった。

 

『なに…!?』

 

怪光線が接触する寸前、シャドームーンは真横から疾風の如く現れた緑色の陰に浚われて攻撃が当たることを免れた。攻撃を躱され、急ぎシャドームーンを助けた存在へと目を向けた創世王は動けぬはずであるマシンの名を口にする。

 

『バトルホッパーだと…』

 

創世王の攻撃が当たる直前にシャドームーンを乗せ、救出したバトルホッパーは巨大な複眼を思わせるライトを強く光らせると搭乗者のシャドームーンの操縦なしにドリフトし、創世王に向けて爆走を開始した。

 

「私に操縦されるまでもないということか。面白い、貴様がブラックサンと培った走り、見せてみろ!」

『PiPiPi…!』

 

グリップを握るシャドームーンへ言われるまでもないと物申すように電子音を響かせたバトルホッパーはさらに加速。正面から突進するバトルホッパーに向けて五指を向ける創世王だったが不意に自分の膝裏へ衝撃が走り、上体のバランスが大きく崩れてしまったことに気付く。何事かと急ぎ振り向いた先にあったのは、自分の足を押し続けているもう一台のバイクの姿があった。

 

『これはブラックサンが乗っていた…まさか先ほどの攻撃はッ!?』

 

シャドームーンが創世王に向けて打ち出した雷の散弾は創世王への攻撃でも目くらましでもなく、バトルホッパーとロードセクターを拘束していた光の網を打ち抜き、自由の身とするためだったのだ。

 

「今更気付いても遅い!」

 

シャドームーンの声を合図と取ったロードセクターは急後進。創世王とある程度の距離を離れた様子を見計らったシャドームーンはバトルホッパーのグリップを手放し、両手を創世王へと向け再びシャドービームを連射する。狙うはやはり創世王ではなくその足元へと打ち出すシャドームーンの意図が読めず防御に徹する創世王の視界を段々と土煙が覆っていく。

またもや目晦ましかと周囲を見渡す創世王の耳に唸るエンジン音を捉える。場所は自分の左方向。こちらへ不意打ちを仕掛けようとしているようだが、そう何度も手に掛かる程愚かではない。

左肘にある黒い刺…シャドームーンのエレボートリガーよりも鋭いそれを延長し、まるで死神の鎌を思わせる形状へと変えた創世王はこちらに向かってくるシャドームーンの首を切り落とす為に腕を引き、待ち構える。

 

『首など後から生やせばよい。死ぬがいいッ!!』

 

風を切る音と共に放たれた創世王の鎌により、バトルホッパーを駆って突進したシャドームーンの首は宙を舞う。頭部を失ったシャドームーンを乗せたまま創世王の横を駆け抜けていったバトルホッパーに遅れること数秒後、ポトリと足元へ落ちた世紀王の首を見た創世王。確実にシャドームーンを始末したはずだというのに、不安は一向に拭えない。

 

『…ッ!?』

 

その予感は的中した。

 

創世王が見つめていたシャドームーンの首が急に歪み始め、砂の山の塊へと変わってしまった。顔を上げれば、未だ晴れない砂埃の奥で停止しているバトルホッパーが乗せていたのは人の形をし、首の部分だけが欠けた砂人形であり、それは役目を終えたかのように崩れ去った。

 

『今のはキングストーンを使った幻術…!ならば奴は―――」

 

創世王がようやくシャドームーンの仕掛けたデコイの正体を見抜いたと同時だった。巨大な鎌を生やした創世王の腕は、鮮血を散らしながら重力に引かれて落下した。

 

いつの間にか背後に立ち、ゴルゴムの聖剣サタンサーベルを振り下ろしたシャドームーンの手によって。

 

『ヌ…オォォォォォォォォォォッ!?』

「片腕を失えば流石に吠えるか…」

 

サタンサーベルの刃に付着した血液を振るい落としたながら、腕の断面を右手で押さえながら蹲る創世王を見下ろすシャドームーンは冷たく言い放った。

 

『き…様!まさか、全てはサタンサーベルを手にする為に…!』

「その通りだ。貴様の前で呼び出した場合、奪われる恐れがあったのでな…」

 

シャドームーンと光太郎が死闘を繰り広げ、互いに最後の一撃を打ち合おうとした寸前、創世王はシャドームーンが手放したはずのサタンサーベルを遠隔操作し、光太郎の胸を串刺しにした。もし創世王の前でサタンサーベルを呼び寄せた場合、主導権を奪われ今以上に戦力を増してしまう恐れがあった。そこでシャドームーンはバトルホッパーや幻術を使い創世王へ注意を引き寄せている間にサタンサーベルを召喚。創世王にサタンサーベルを奪われることなく奇襲に成功したのだ。

 

「そして今は小娘を介して魔力を補給出来るような精神状態ではあるまい」

『こ、これはッ!?』

 

創世王の足元に緑色の魔法陣が現れた直後、地面へ縫い付けられたように動きを封じられた上に光の網が覆いかぶさった。

 

サーヴァント達の動きを封じた魔法陣に加え、バトルホッパーとロードセクターを閉じ込めた魔術の2つを合成した二重の結界に創世王は苦悶の声を上げる。

 

『私が使った術を…見ただけで…しかも同時にだと…?』

「貴様に使用でき、私に仕えぬはずがない」

 

 

創世王の驚愕に構うことなく踵を返したシャドームーンは聖杯の一部と化したイリヤの姿を見上げる。聖杯に囚われ、意識を失っている少女に向けて、シャドームーンは人差し指をゆっくりと向けた。指先に緑色の光が灯ると、その光は細い線となりイリヤの額が照らされる。

シャドームーンとイリヤを結ぶ細い光を不思議に思い士郎は隣でサーヴァントを支える凛へと尋ねた。

 

「遠坂。あれって…?」

「正直私にも…けど、この状況で無意味なことではないはずよ」

 

士郎は再び目をシャドームーンと自分と因縁浅からぬ少女へと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その空間では、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは無数の鎖で拘束されていた。

 

まるで自分は聖杯という運命に縛られていると現しているような状態に、乾いた笑いが浮かぶ。

 

しかし、特段矛盾の生じる話でもない。聖杯を完成させ、幻となった第三魔法を再現する。それがアインツベルンの悲願であり、その為に彼女は生み出されたのだから。

 

だからこそ母親と同じく聖杯として生まれ、死んでいく運命を受け入れるはずだった。あの言葉を聞くまでは。

 

 

 

『貴様がゴルゴムに忠誠を誓うというならば、命を失わずに聖杯を取り出すことも可能だ。先の短い命も、永遠にする事もな…』

 

 

 

揺らいでしまった。

 

聖杯の為に無理な調整をされ、短い寿命とされた自分が生き長らえることが出来るという甘い言葉に。

 

(なんて、愚かなのかしら)

 

期待した報いだったのかもしれない。

 

本聖杯戦争から逸脱し、追加で召喚された名も知らない英霊の魂達を得て完成した聖杯。本来の機能も遂げられず、呪いを生み出す井戸と化し、死ぬまでゴルゴムに利用されるのが相応しいのだろう。

 

今回もそんな末路を受け入れようとした時、自分を揺るがす存在が現れてしまった。

 

「…何しに来たのよ」

 

彼が動けるようになったことを喜ぶべきなのに、裏腹の言葉が出てきてしまう。これ以上惑わしてほしくない。やっと役目に従事するべき時に現れた世紀王はイリヤの都合などに構うことなく、また一方的に告げた。

 

「私はただ、確認に足を運んだに過ぎん。お前に以前聞いた質問の答えをな」

「…っ」

 

イリヤは目を背ける。今できることは彼が聞こえる言葉に耳を貸さないだけだ。だと言うのに、口が勝手に開いてしまう。

 

「…お断り。今だって貴方やシロウ達を殺そうとしてるアイツに忠誠が誓える訳ないでしょ?あんな奴に従うなんてゴメンよ」

「………………」

「それにこれが私が選んだ道なの。聖杯を生み出し、そして死んでいく。そう教わってきたんだから…」

「ならば、私が眠っている時に話した内容は偽りだったのか?」

「…っ!?」

 

今ある現実を受け止める為に。自身を説得させる為に開いた言葉が止まってしまう。シャドームーンの言った言葉は、彼がまだ光太郎との戦いの傷が癒えず、再生カプセルで眠っている横でイリヤが一方的に話したことであった。

 

 

ゴルゴムの基地で居場所のない彼女が唯一落ち着ける場所。何度も通っているうちにイリヤは母親と父親に聞かされた世界についてシャドームーンへ語っていた。聖杯戦争以前は城の敷地内から出た事のないイリヤにとっては、父とから聞かされた世界の景色は御伽話以上に憧れであり、いずれ母親と共に見に行こうと約束をした。

しかし、約束は果たされることは無かった。それどころか、父親は自分を裏切り、母親を見殺しにしたという失望が彼女を襲う。真実はアインツベルンの当主によって歪められた内容となっているのだが、幼いイリヤにはそれが全てだった。

彼女はその怒りを父親の義理の息子である衛宮士郎へとぶつけることで晴らそうとしていたが、それでもイリヤの中であの楽しかった日々は忘れらなかった。

 

その思いと、母親が自分と一緒に見たいと言った世界を回ってみたいと思わず口から漏らした事を不意に思い出したイリヤは、ゆっくりとシャドームーンへと見上げる。自分の話を聞いて…覚えていてくれたのかと。

 

 

 

「今となってはゴルゴムのことなどどうでもいい。私が知りたいのはどのような形になっても生き延びたいのかということだ」

 

イリヤを縛っている鎖に亀裂が入る。

 

「貴様の言っているのはただの諦めに過ぎん。自分に降りかかっている聖杯の呪いを抵抗なく浴び、逃れようともしないだけだ」

「あ…あ…」

「…それでも分からんのなら内容を変えて問うぞ。貴様は生きたいのか」

 

 

 

 

 

「答えろ、イリヤスフィール」

 

 

 

 

初めて名前を呼ばれたイリヤの目から涙が溢れる。どうして彼は、今聞きたい言葉ばかりを言ってくれるのだろう。聖杯ではなく、イリヤという存在として扱ってくれるのだろう。利用する為にさらったくせに。

戯言だと、自分の話したことなど無視すれば良かったのに。

そんな疑問よりも、イリヤの口から飛び出たのは、彼の問いに対する本音という回答だった。

 

「生き…たい。生きたいよぉッ!」

 

「生きて切嗣の言った世界を…お母様が見たかった世界を見たい…シロウ達と遊びたい…」

 

「貴方と…まだ話したいことがたくさんあるのッ!だから…私は、生きたいッ!!」

 

イリヤの涙と共に溢れ出る言葉に反応して、彼女を縛る運命というなの鎖が一本一本千切れいく。だが、シャドームーンはそんな時間など待つまでもなく、腕を振るった。

 

彼女を拘束した鎖は、シャドームーンの手によって全てが一瞬で砕け散った。

 

 

 

 

 

 

「言うのが遅いのだ。馬鹿者め」

 

光を止め、腕を下ろしたシャドームーンの複眼と関節が緑色の光が宿る。世紀王の力を発動したシャドームーンはそのエネルギーを腹部のキングストーンへ全てを集中させる。

 

「シャドーフラッシュッ!!」

 

ベルトから放たれる眩い閃光。

 

 

「兄さん…あれって」

「ああ。光太郎とは違うけど、やっぱり似てるな」

 

桜と慎二はその光を眺めて、義兄の放つ光とは別の何かを感じた。

 

光太郎が放つものが暖かい日の光とするのならば、シャドームーンのものは闇夜の中で道を照らしてくれる優しい月の輝き。その光に照らされ、道に迷っていた少女は聖杯の呪いが剥がれていく。ゆっくりと降下する少女へシャドームーンは跳躍。

少女を抱き止めると慎二と桜の前へと着地した。

 

近くにいたキャスターや宗一郎は警戒するが、桜は臆することなく近づき、自分のライダースジャケットを一糸纏わぬ少女を包む。穏やかな寝息を立てている少女に微笑みながら慎二と共にイリヤをシャドームーンから受け取り、ゆっくりと地面へ寝かせた。

 

「…ありがとうございました」

「なぜ礼を言う」

「なんとなくです。やっぱり、貴方は兄さんの――きゃッ!?」

 

急に桜を突き飛ばすシャドームーン。倒れそうな義妹を支えた慎二は何のつもりだと怒鳴るつもりだった。

 

シャドームーンの腹部に黒い刺が生えてきた光景を見るまでは。

 

「ぐっ…もう、抜け出したのか…」

『…あんなもの足止めに過ぎん。しかし愚かなことだ。そのような人形にかまわず私に止めをさせばよかったのだ』

「全く持って、同意見だ…!」

 

結界から抜け出した創世王は切断された腕にあった刺を掴み、力を込めたことでシャドームーンを背後からの不意打ちを仕掛けていた。背中に突き刺さり、腹部へと飛び出た刺によりシャドームーンのベルト『シャドーチャージャー』が破損し、

火花が散っている。

シャドームーンの力の源であると同時に命と言える月のキングストーンを制御・維持する部分が破損したシャドームーンは戦いのダメージも相まって、段々と力を失っていく。

それでもシャドームーンは震える手で刺を掴み、手にしていたサタンサーベルで切断。振り向くと同時にサタンサーベルから光線を発射するが難なく躱されてしまった。

 

「ぐっ…思ったよりも傷が深かったか…」

 

さらに激しくバチバチと音を立てるベルトへ手を当てるシャドームーンに、桜は涙目になりながら訴える。

 

「どうして…どうして私なんかを!」

「勘違いするな…貴様達にもしものことがあれば、ブラックサンは感情に飲まれ、真の力が発揮できん。この後にある決着で、余計な事を考えさせるわけにはいかん…!」

「でも、それならアンタだって同じじゃないのか!?今の状態で…」

 

シャドームーンへ近づこうとする桜を引き留め、同じく大声を上げる慎二。あの傷は間違いなく致命傷。光太郎だって同じ傷を負えば生きられるかどうかも分からない程だ。

 

「いらぬ気遣いだ…このような傷、私に、は…」

 

サタンサーベルを杖代わりにしようにも力が入らず、ついに倒れてしまうシャドームーン。それでも、サタンサーベルは決して離そうとはしなかった。

 

『その闘志だけは認めてやろう。だが、死ぬ前にその身体を…ぐぉッ!?』

 

倒れたシャドームーンの身体を奪おうと一歩踏み出した創世王は立ち止まり、残る右手で頭を押さえながら苦しみ始めた。光太郎とシャドームーンの攻撃によるダメージが遅れて襲ったのかと思案するが、ここに来るまで情報を共有していたバゼットはある事を思い出す。

 

 

 

「寿命…あの怪物の命が、尽きようとしているのか?」

「そういや、その為に黒い兄ちゃんとあの銀色の身体を狙ってたんだっけか?」

 

マスターの言葉を捕捉したランサーは槍を支えに立ち上がる。今のままでは宝具を発動は難しい。仮に使ったとしても相手の心臓に届く前に消滅しかねないのだ。

 

「くっそ…相手が動けねぇ好機だってのによ…!」

 

 

『おのれ…ならば今すぐ…むッ!?』

 

自身の寿命と連動しているかのように現れた太陽の巨大黒点が間もなく消滅しようとする中、急ぎシャドームーンの肉体を奪おうとする創世王だったが、溢れ続けていた聖杯の呪いがピタリと止まっていることに気付く。

 

「聖杯から妖気が消えた…まさか」

 

アサシンの予感が的中したかのように黒い泥であった聖杯から触れただけで死へと誘う呪いが消失していく。黒い泥はやがて眩い白色へと姿を変え、聖杯は真の姿を現した。

 

そして純粋な魔力の池となった大聖杯の中央が渦巻き、湧き上がると同時に黒と紫の陰が飛び出したのであった。

 

帰還を待ちわびていた信二と桜は、その名を呼ばずにはいられなかった。

 

 

「光太郎ッ!!」

 

「ライダーさんッ!!」

 

聖杯から帰還した光太郎は家族に向かいゆっくりと頷いた後、倒れてしまったシャドームーンへと視線を向ける。

 

「信彦…」

「光太郎…今は」

「ああ…わかっている!」

 

今すべきことは創世王を倒す事。聖杯の悪意全てをその身に受けた光太郎のダメージは未だに深い。ならばこそ急ぎ決着をつけようとするが、創世王は再び光太郎を嘲笑した。

 

『フハハハ…まさか聖杯を浄化して現れるとは…見事と言っておこう。しかし、同時に愚かなことをしたものだ』

 

切断された腕を聖杯へと向ける創世王。それに反応するかのように聖杯から白い触手が伸び、創世王へとゆっくり接近する。

 

「ちょっと、あのままじゃ…!」

「ああ。再び創世王の傷が癒えてしまう。しかし、なぜ落ち着いていられる?」

 

再び魔力により力を補給…それどころか聖杯の魔力を全て吸い取り、光太郎達なしでかつての力を取り戻しかねない状況だと言うのに、光太郎とライダーに焦りを微塵も見せない姿にアーチャーは疑問に思った。もしや、どうなるか知っているのか?

 

 

「無駄だ。創世王」

『ふ…貴様の言葉など聞き…ヌオォォォォッ!?』

 

光太郎の忠告を無視し、聖杯の魔力に触れた創世王の傷口が焼け焦げる。煙を上げる傷口を抑える創世王には何故だという言葉しか浮かばない。そしてその回答は光太郎から告げられた。

 

「創世王…お前が聖杯の魔力を呪いなしに吸収できたのはあの少女という窓口があってからこそだった。そして今は聖杯は呪いもなくなり、完全な機能を取り戻している。そう、『聖杯が認めた者』しか使用できないという機能も含めてな」

「なるほど…そうなればいくら無色の力と言えど、聖杯を掴んだ者以外には毒にしかならない。だから創世王は触れる事すらできなかった」

 

光太郎の言葉を聞き、キャスター顎に手を当て納得したかのように頷く。これで創世王は聖杯の魔力を取り込むことは出来ず、治癒することも出来なくなった。

 

 

『…………………………』

 

押し黙る創世王。

 

聖杯からも拒絶され、着実に命が尽きる時間が迫っている。手段のなくなった敵の首領へ最後の攻撃をしかけようと構えた。その時だった。

 

 

 

 

 

『いらぬ』

 

 

 

 

創世王の一言と同時に大地が大きく揺れ始めた。無論、自然現象による自身などではない。立つことすら儘ならない中、倒れそうなライダーを支える光太郎は立ち上がり、天井を見上げる創世王の叫びを聞いた。

 

『ここで私が死ぬというのならば、この世界など…この惑星など、もういらぬッ!!私と共に滅びるがいいッ!!』

「創世王ッ!?お前、まさか…」

『このまま私はメルトダウンを起こし、地球の核へと落下する…悔やむがいいブラックサン。貴様は、地球を滅ぼす片棒を担ぐのだッ!!』

 

この場にいる全員が敵の宣言に驚きを隠せなかった。創世王を追い詰めていた結果、最後になって地球を破壊する行動へ走ってしまった。

 

 

「そんな事はさせんッ!!」

 

創世王の足元が段々と赤く変色していく。地面へ溶かし、地球の中心に到達する前に倒さなければならない。光太郎は迷う間もなくその場から跳躍し、最大の技を創世王に放った。

 

「ライダーッ!キィック!!」

『無駄だッ!!』

「く…があぁッ!?」

 

光太郎のライダーキックが届く寸前、創世王が発生させた強力なバリアに弾き飛ばされてしまう。地面を転がる光太郎へ駆け寄るライダーは己の目からキングストーンフラッシュと同等の力をぶつけるが、まるで効果はない。

 

「そんな…キングストーンの力も通用しないなんて」

「あれだと…ロードセクターのスパークリングアタックでも効果はない…か」

 

仮にロードセクターでの体当たりを試みても破壊されてしまう可能性が高い。地震による振動で周囲には大きく亀裂が走り、既に天井から瓦礫が降り注ぎ始めている。いつこの空洞も崩壊してもおかしくはない。

 

『さぁ後悔するがいい者共…この創世王に逆らった事をなぁッ!!』

 

あまりにも身勝手な行動。だが、あのバリアを敗れる手段が何一つ浮かばない一同はただ創世王が地球を滅ぼす光景を見ているしかない自分の無力を呪っている中、光太郎は創世王の言葉にある『もの』が浮かんだ。

 

(そうだ…俺も創世王の候補だというのなら…呼べるはずだ!)

 

自分の命を幾度となく脅かしたその名を、光太郎は絶叫するかのように轟かせた。

 

 

「サタンサーベルッ!!」

 

 

光太郎から数十メートル先。自分の手の中でカタカタと揺れるサタンサーベルに気が付いたシャドームーンはゆっくりとその手を解放する。自由の身となり、飛んでいくゴルゴムの聖剣を眺める後、再び意識は遠のいて行った。

 

 

「あれはッ!?」

 

慎二達から見れば嫌悪感しか抱けない、一度義兄の命を奪った剣。専らシャドームーンが使用していた剣が、同じく世紀王である光太郎の元へと飛来していく。今、創世王の強力なバリアを敗れるとしたら、創世王の腕を切り落としたあの剣しかない。

 

光太郎はその手に取ろうと腕を伸ばし、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

掴もうとした寸前に、粉々に砕け散ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言っただろう…貴様達を後悔させるのだと』

 

 

創世王は手をサタンサーベルの破片が散らばった場所へと向けている。つまり、創世王はかつての愛刀を自ら破壊したのだ。そして破壊したということは、サタンサーベルであのバリアを破壊する可能性があった事になるが、今となってそのような分析は無意味であった。

 

 

最後の希望すら創世王に打ち砕かれ、手段はもはやない。

 

 

だというのに、光太郎は立ち上がった。

 

 

「く…さっきのライダーキックで力の大半を使ってしまったか」

「しっかりしてください。コウタロウ」

 

ふらついてしまうが、隣に立つサーヴァントに支えれる。その顔には不安はない。むしろ、地球がいつ滅びるかも分からない時だというのに、優しく微笑んでいる。

 

「いつも無理しているコウタロウは何処にいったのですか?」

「ハハ…いつもと言っていることが逆、だな」

 

こんな顔されては、こちらも弱音なんかを吐いていられない。光太郎は再び自身の力で立ち、創世王に向かい構えた。

 

「いくぞ…創世王ッ!!」

 

 

 

「光太郎さん…」

 

倒れても何度も立ち上がる姿を見つめている士郎の横で、今まで肩を貸していたサーヴァントも彼の影響を受けたのか、微笑みを浮かべて立ち上がった。

 

「どうやら、諦めていないのは彼らだけではないようです」

 

そうして目を横に向ければ、間桐兄妹が何か有効な手段はないのかと手持ちの道具であれこれと言い合っている姿を見て、士郎はゆっくりと目を閉じる。光太郎はかつて自分に言った。

 

守り、失いたくないものがあるから戦えるのだと。そして、自分に出来る戦いをしろと。

 

光太郎とライダー、慎二と桜も懸命に今自分に出来る事を実践している。もう、大切なものを失わない為に。

 

ならば、自分もできることを、すべきことをする時。今やらずに、いつやれというのだ。

 

決意と共に目を開いた士郎は己の力全てを右手に集中させた。

 

 

 

「――投影開始(トレース・オン)!!」

 

バチバチと掌の中で弾ける魔力。まるで体内の血液が沸騰するような熱さ。神経が焼き切れるような痛み。発狂してもおかしくない痛みが士郎の中で駆け巡るが、それでも衛宮士郎は形創ることをやめようとしなかった。

 

「アアアアアアアアァァァァァッ!!」

 

震える右手を左手で固定し、今輪郭を現し始めた『剣』を幻想として生み出す為に、衛宮士郎は止まるわけにはいかない。

 

「いけない士郎ッ!それを生み出すのは…神代の宝具を投影しようとするに等しい…もし完成したとしても士郎は…」

 

それに、今は彼は自身で傷を癒すことは出来ない。戦いの前に、彼と自分を繋いでいた彼女がかつて所持していた『鞘』を取り出してしまっている。腕から千切れるような痛みに耐えながらも投影を続ける士郎の視界が傾く。

 

いくら精神力で術を続けようが、身体が言うことを聞いてくれなかったのだろう。だが、いつまでも身体は倒れることは無かった。誰かが士郎の身体を支えたようだったが、誰かと視線を向けたと同時に飛んできたのは聞きなれた友人の怒鳴り声だった。

 

「ボサッとしてないで投影を続けてろよッ!また輪郭が歪んできただろっ!!!」

「慎二…」

 

慎二の背中にのしかかるような状態となった士郎は自分を倒させまいと支える友人の名を呟きながら、再び投影に意識を集中させた。

 

「悔しいけど、今の僕には光太郎を助ける手段は浮かばない。だから…今衛宮がやっていることがあいつの…『兄さん』の助けになるんなら、いくらでも支えてやるッ!!」

 

慎二の言葉に熱を受けたように、士郎が作り出そうとする幻想に力が宿っていく。さらに魔力が削られ、痛みが増していくはずなのに今以上に痛覚が広がっていない。むしろ、痛みがどんどん和らいていく感覚に、士郎は自分の背中に手を当てて傷を癒し、

同時に魔力を送ってくれている名を呼んだ。

 

「桜…お前も」

「だい、じょうぶです!こんなもの、兄さんと比べたら…」

 

強気に笑って見せる後輩の助けを借りたことで、より形をはっきりさせていくものを見ながら、桜は言葉を続ける。

 

「こうして、私の知らないところで先輩はボロボロになっていたかもしれません。本当なら、やめて欲しいくらいです。でも、先輩は止まるわけには、いかないんですよね?」

「…ああ」

「なら、一緒に無理させて下さい!先輩は、1人じゃないんですから」

「…………」

 

不思議と、力が湧き上がってくる気分だった。そう、今は燃え盛る火の海でただ1人逃げ出した自分ではない。家族と、仲間がいる。大切な人々を守る為に、正義の味方となると誓ったのだ。だから、こんなところで諦めるわけにも、死ぬわけにもいかないのだ。

 

 

 

「どうやら、貴様は違う道を行きそうだな」

「え…?」

 

「全く、無茶するんじゃないの」

「姉さん…?」

 

集中する余り気が使なったのか。見ればアーチャーが自分と同じく投影しているものに右手を添えており、凛は桜の流す魔力のコントロールを行っている。

 

「いい?私が桜の流す魔力を誘導するから、貴方はだた魔力を全力で士郎に流していくことだけを考えなさい」

「は、はい!」

 

先程よりも早く、膨大な魔力が士郎へと流れていく。和らいでいた痛みが、完全になくなっていくかのように。それ以上に、士郎は不思議だった。自分の創り出そうとする幻想に他の者が手を加えたというのに、乱れるどころか完成に迫っている。

この英霊は、本当に何者なのと考えるが、そんな疑問を許さないアーチャーの撃が飛ぶ。

 

「たわけ!集中力を乱すな!!今、貴様がすべきことは何だ!!」

「…ッ!?お前に言われなくたって、解ってる!!」

 

交る士郎とアーチャーの魔力が生み出した幻想はついにその姿を現し始めた。だが、まだ足りない。

 

「いいか!直に触れていなくてもその力がどれ程強いかを自分で決めろ!だだしそれに限界があると考えるな、私達が作り出そうとしているのは、そういうものなのだ!!」

「アアアアアアアッ!!」

「そうだ…『俺達』に出来るのはただそれだけだ。考え、生み出す。イメージすることは、常に最強の自分のみ!!」

 

魔力を注ぎ込むだけではなしえない。それが持っている強さ。自分達の創造を遥かに超えるものをイメージしてこそ完成する。

 

士郎とアーチャーの幻想が、今形となった。

 

 

『――投影完了(トレース・オン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはぁッ…!」

 

こうして地面を転がるのは何度目だろうか。キングストーンフラッシュを放っても揺らぎもしない創世王のバリアに挑み続ける光太郎は、やはりまたも立ち上がった。

 

『いい加減諦めるがいい。もう結果は変わらん』

「そうはいかないな…」

 

だが、流石に立つのがやっととなってきた光太郎は再度攻撃を仕掛ける為に創世王との距離を測る。敵は10メートル以上先におり、バトルホッパーと共に囮になってくれたライダーも弾き飛ばされ、自分の背後にいる。彼女達が攻撃されない為にも今以上後ろに下がる訳にはいかない。

しかし、時間は止まってはくれない。創世王の足首までが地面へと沈み、そのペースはどんどん早まっていく。どうすればいいと迷う光太郎の耳に、かつて自分の正義と意地をかけて戦ったサーヴァントの声が届いた。

 

 

 

 

「間桐光太郎ッ!!」

 

 

振り向いたと同時に自分の目の前に迫ったそれを光太郎は本能的に掴み、思わずその名を呟いた。

 

 

 

「サタンサーベル…!」

『馬鹿な…あり得ん!!』

 

創世王ですら驚くしかない。確かにサタンサーベルは先ほど創世王自身によって粉々になったはずだ。もう、この世に存在しない。それに、サタンサーベルを掴んだ途端に力が伝わってくる。まるで、みんなのお思いを込めて作られたように。

 

「これは…」

 

サタンサーベルが飛んできたその先では、ぐったりとしながもこちらへ微笑みかけている士郎や凛、慎二と桜の姿があった。そしてこちらに弓を向けたまま相変わらず不敵な笑みを浮かべたアーチャーは、静かに前へと倒れた。

 

サタンサーベルを創り出す為に士郎と共に魔力を注ぎ、さらに光太郎へと届けるために弓を引いたことで力を使い果たしたアーチャーの役目は終わったように倒れてしまう。勝利を確信したような笑みを浮かべて。

 

「さぁ見せて見ろ。仮面ライダー…」

 

 

 

 

まるで自身の手の先にあるような一体感。そして失った力が戻ってくるような気持ちとなった光太郎に反応するように、キングストーンに輝きが宿っていく。

 

「受けて見ろ…創世王ッ!!」

 

大きく腕を振るい、手にしたサタンサーベルを創世王へ向けて投擲。赤い光を宿したサタンサーベルは真っ直ぐ創世王に向けて飛んでく。

 

『ならば、再び破壊してくれるわッ!!』

 

手を翳し、サタンサーベルに自壊するように命令するが、受け付けない。何度やってもその結果は変わらず、サタンサーベルと創世王の距離は縮まっていく。

 

『な、なんなのだあの剣はッ!?』

 

創世王へと迫るサタンサーベルはかつて創世王が手にしていた剣ではない。士郎が、そして彼を支えた慎二や桜達が光太郎の為だけに生み出した新たな剣なのだ。

 

だからだろうか。創世王には、サタンサーベルの形状が全く別の形に見えてしまったのは。

 

 

 

 

金色で染まった柄が黒へと変わり、蛇を思わせる刺の生えた金色の鍔が洗練された銀色の円形となり、その中央では赤い風車が光を放ちながら回転している。

 

そして血のような紅い刀身が蒼白に輝く光の刃となっていた。

 

まるで、太陽の輝きを宿しているかのように。

 

だが、やはりその剣はサタンサーベルだった。

 

そう創世王が理解した時には、サタンサーベルはバリアを破壊し、胸へ深々と突き刺さっていたのだから。

 

 

 

『ぐ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?』

 

絶叫を上げると同時にバリアも消失し、メルトダウンも停止した。

 

サタンサーベルはその役目を終えたかのように消え失せ、残ったのは創世王の胸にくっきりと残った傷痕だけであった。

 

 

この時を、逃すわけには行かない。

 

 

 

「今だああああぁぁぁッ!!!」

 

 

光太郎はもがき苦しむ創世王に向かい走り始める。その背後には、いつも間にか自分を追いかけるように走り迫る巨人が刃を横なぎに振るってきた。

 

「■■■■■■■■――ッ!!」

 

咆哮する巨人―――バーサーカーの行動を読んでいたかのように光太郎は飛び上がり、自分の背中に迫っていたバーサーカーの斧剣に着地。同時にバーサーカーは右足を軸にして回転。両手で斧剣の柄を掴み、斧剣に乗った光太郎を打ち出すように全力で真横に振るった。

 

そのタイミングに合わせて光太郎も斧剣を蹴り、弾丸のようなスピードで創世王へと接近する。

 

 

 

 

 

「ライッダアアアアアアアアアアァぁぁぁぁッ!!」

 

 

光太郎は右拳を、創世王の傷に向けて突き出した。

 

 

 

「パアァァァァァァァァァァァンチッ!!!」

 

 

 

キングストーンの力も籠めない。ただ力任せの拳。

 

だが、今の創世王の胸板へと叩き込まれた攻撃はそれだでも効果は絶大だった。

 

 

 

『ガハァッ!?お…のれぃ!!』

 

 

それでも創世王は倒れない。右腕を振るい光太郎を突き飛ばすと口のマスク部分を解放し、破壊光線を発射する。こちらに目を向けられず、回避不能とされた攻撃だったが、光太郎の前に展開された魔法陣…防護壁によって阻まれてしまう。

 

遥か後方。マスターに支えられたキャスターが発動させた魔術はそれだけではなかった。

 

吹き飛ばされながらも次の攻撃の為に体勢を整える光太郎の落下地点に展開される二つの魔法陣。そこから飛び出したランサーとアサシンはこちらを見て笑いながら互いの武器を交差。光太郎が仕掛ける攻撃の為に、足場を作ったのだ。

 

頷いた光太郎が交差した箇所に両足を付けたと同時に、残る魔力を腕の筋力に回した2人のサーヴァントは全力で光太郎を打ち上げた。

 

「さぁ―――」

「行ってきやがれぇッ!!」

 

 

自分の跳躍する高さを遥か凌駕する領域まで上る光太郎。だが、それを許す創世王ではない。こちらに攻撃を繰り出すまでに仕留めようとその腕を光太郎へと向けようとするが、幾層の鎖が絡まり、腕を振るうことは出来なかった。鎖が伸びる先で鎖を両腕で引くギルガメッシュはニヤリと笑いながら言った。

 

「今度は腕どころか指全てを封じているだろう?」

 

そして動けない自分に地上で迫るもう一つの存在。

 

黄金の剣を構え、風を纏いながら接近する騎士王の姿。

 

「ハアァァァァァッ!!」

 

『オノレ…』

 

口から次に散弾型の攻撃をセイバーへと向けて放つが、セイバーは止まらない。腕が傷つこうが、頭部に触れ、解けてしまったブロンドの髪が風に靡こうか構うことなく創世王へと肉迫する。そして自身を守ってくれていた銀色の甲冑を魔力へと戻し、それ全てを剣の刃へ注ぎこんだ。

 

約束された(エクス)―――」

 

大きく振りかぶった剣を創世王の胸板目がけ、振り下ろす。

 

「―――勝利の剣(カリバー)!!!」

 

 

『ぬがぁッ!!』

 

ガキンッと金属のぶつかり合う音と共に弾かれるセイバーだったが、並行して走るバトルホッパーとロードセクターの上にしがみついたことで落下することは免れた。

 

 

創世王の胸板には小さく亀裂が走る。だが、それだけでも充分だった。

 

 

『ぐぅ…ならば貴様から―――』

 

鎖ごとギルガメッシュを引き寄せて始末しようとする創世王だったがその動きが止まる。緑色の雷が創世王の首を縛りつけていた。ギルガメッシュとは反対に位置する場所へ立っていたシャドームーンの放ったシャドービームによって。

 

 

左右から鎖と雷によって引かれ、動きが取れない創世王に向けて攻撃を放つ絶好の機会。その役目は、もう彼…否、彼と彼女しかいない。

 

 

 

「さぁ、決めよ光太郎ッ!!」

「………」

 

遥か上空を漂う存在へと叫ぶギルガメッシュに続き、シャドームーンも顔を上げた。

 

 

 

光太郎は自分よりも先に愛馬に跨って浮遊していたライダーと合流する。

 

もはや語る言葉は互いにない。

 

今やるべきとはただ一つ。

 

 

 

 

「行こう。ライダー」

「はい」

 

ペガサスから飛び降り、光太郎と並ぶライダー。

 

2人の意図を汲んだかのようにペガサスは背後へと移動し、後ろ足を力いっぱいに引く。

 

それに合わせて、体を下へ向けながら光太郎とライダーはペガサス後足の蹄へとつま先を乗せる。同時に、ペガサスは思い切り2人を地表へと向け蹴り下した。

 

創世王のいる場所へと急降下する光太郎とライダーは同時に前転、そして背中合わせとなり光太郎は右足を、ライダーは左足を突き出した。

 

 

 

 

「この一撃に、全てを懸けるッ!!」

 

 

光太郎が叫ぶと同時に複眼と関節部が真っ赤に染まる。その直後、赤い光が全て光太郎の右足へと収束する。

 

 

同時にライダーの左足にも魔力が集っていき、紫色に輝き始めた。

 

 

『させるかぁッ!!』

 

再び破壊光線を口から発射する創世王だが、光線は迫りくる光に全て弾かれてしまう。

 

 

創世王へと迫る赤と紫の光はより強くなり、2重螺旋を描く星となった2人は、これまでに多くの敵を葬り、最初で最後になるであろう攻撃を創世王へと叩き込む。

 

 

 

 

 

 

「ライッダアアアアアアアアアアァぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

「ダブルぅッ!!!」

 

 

 

 

『キイイイイイィィィィィィィィィックッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故だ…』

 

 

 

そう口から零す創世王の背後には、変身を解いた傷だらけの光太郎と、ライダーが着地していた。

 

 

 

 

『何故、だ…』

 

 

 

同じ言葉しか話せない創世王の胸には大穴が空いている。そして次第に炎を上げながらボロボロと崩れていく。

 

 

『な…だ…』

 

 

 

もう言葉すらまともに離せずに崩壊する光太郎はゆっくりと振り返り、塵と化していく敵を見つめた。

 

この敵が今まで仕出かしたことは決して許されることではない。同情の余地も、駆ける言葉すら浮かばない。

 

だが、最後ぐらいは看取るべきだと光太郎は思った。

 

永遠の孤独の中で、誰にも心開くことが出来ず、頼る事すら許されなかった。

 

甘い感傷に過ぎないと言われるかも知れない。

 

それでも、その最期を誰かが知っていなければいけない。

 

そう考えた頃には、ゴルゴムを総べていた存在は、完全に消滅していたのだった。

 

 

 

 

 

 

「終わったの…ですね」

「ああ…けど」

 

まだ、仕上げが残っている。あの大聖杯を破壊するまでは、まだ終われない。そう一歩へ出た光太郎の前に立った存在は、先程よりも激しく火花をベルトから散らせている。だが苦しむ様子もなく、悠然と光太郎へ告げるのであった。

 

 

 

 

「ブラックサン…『俺』と戦え」




2つに分ければよかったかな…

次回は2人の最期の戦いです。

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