では、試験的な番外編2本目をどうぞ。
雷雲轟く空の中を節足を思わせる機関を常に動かしながら移動するクライシス要塞。
その一室である指令室では、最高司令官であるジャーク将軍は自ら作戦指揮を執ると主張したゲドリアンへと目を目を向ける。
「何?策があるというのかゲドリアンよ」
「ハハッ!」
「…申してみよ」
「まずはこいつをご覧ください!」
ジャーク将軍に許しを得て頭を上げた牙隊長ゲドリアンは大げさに手を振るうと指令室の扉を通り、1体の怪人が姿を現した。
『シャアァァァァァァッ!!』
雄叫びを上げて登場した怪人は額から触覚を生やし、昆虫のような強靭な顎をガシャガシャと震わせている。腕は節足のように長く丸太のような太さと筋力を持ち、如何にも怪力の持ち主であると伺える。
しかし、怪魔界では見たことも無い生物である事を疑問に思うジャーク将軍へゲドリアンは怪人の紹介を始める。
「こいつの名前はジムカデムカ…地球に生息するムカデという生物の細胞を怪魔界の生物に取り込んで作り上げた怪魔異生獣でございます」
「ほう…」
ゲドリアンの解説と共にモニターへ映し出されるデータを眺めるジャーク将軍は興味深く眺めているが、同じくデータを目にした他の隊長から苦言が飛び交う。
「オイオイ。そのデータを見る限り『ムカデ』っていう虫けらには幾つもの手を持っているんだろう?こいつの場合は2つしか持っていないぜ」
「フン。大方製造の段階でしくじったのであろう」
機甲隊長ガテゾーンと海兵隊長ボスガンの発言を主人と自分への侮蔑を汲んだのか、ジムカデムカはその腕を2人に向けたと直後、手首の形状を変え、鋭い刃へと姿を変えると腕を鞭のように伸ばすとガテゾーンとボスガンの首目がけて振り下ろす。
『ッ!?』
突然の攻撃に目を見張る2人の隊長であったがガテゾーンは頭部を胴体から分離させ回避し、ボスガンは腰から剣を引き抜くと同時に首へと迫った凶刃を凌ぎ切り、耐えることに成功する。
「こいつは驚いた…随分器用な事ができるじゃないか」
「そんな事より、躾がなっていないぞゲドリアン!早く腕を下ろさせろ!!」
「ケケケ…こいつは他の奴らよりちょいと血の気が多いのが欠点だから気を付けろよ…」
感心するガデゾーンは頭部を浮遊させながら息を荒立てているジムカデムカを眺め、未だ怪人の刃に押され続けているボスガンは生みの親であるゲドリアンへ怒声を浴びせる。ボスガンの姿をニヤニヤと笑うゲドリアンが手を上げると同時にジムカデムカは大人しく引き下がり、主人の背後へと移動した。
「それとさっきガテゾーンが言った通りにジムカデムカはムカデが基になっているにも関わらず手は2本しかない。そこで、こいつの出番だ」
ゲドリアンの言葉に続くように現れたクライシス帝国の雑兵チャップは大皿を運び始める。その中央に積まれているのは、地球では良く見られる野菜…トマトであった。
そのトマトが目の前に置かれた途端にジムカデムカは手に取るとむしゃぶりつき、口から果汁をまき散らしながらも次々と頬張っていく。その汚らしく食す姿を正視できない諜報参謀マリバロンは思わずゲドリアンへと尋ねる。
「…こんなことをさせて何の意味があるというの?」
「ヒェヘヘヘ…まぁ見てな。そろそろ始まるぜ…」
トマトを平らげ、手の平に残る果汁を舌で舐め繕うジムカデムカに異変が起こる。
喉を唸らせるジムカデムカの脇と肩が突然と盛り上がり、ミチミチと音を立てて皮膚に亀裂が走っていく。そして皮膚を突き破って現れたのは新たなの4本の腕。計6本の腕となり、それぞれの拳をワキワキと動かすジムカデムカの姿に驚く幹部達へゲドリアンは空となった皿に飛び散っているトマトの残骸を指でなぞりながらジムカデムカの身に起きた現象を語り始める。
「このジムカデムカは地球の食い物である『トマト』ってのを取り込むことで異常な程の細胞分裂を始める。こいつがさっき以上のトマトを食い続ければ、唯でさえ強力な武器である腕がガデゾーンの言った通りに100本以上になるって寸法よ!」
不意打ちとはいえ、クライシスの隊長を務める2人を唸らせる武器と俊敏性を持つ腕がさらに増え、強力な怪人へと進化する。あの攻撃を100以上の手によって繰り出されれば、あの『倒すべき敵』に攻撃を与える暇もなく滅する可能性は十分にある。
「よかろう。ゲドリアンよ、今回の作戦は貴様に一任する。見事我らの憎き敵を打倒してみせよ!」
「ハハァッ!!」
指令を下したジャーク将軍に跪くゲドリアンの口元がニヤリと笑う。今回の作戦指揮を任せられたゲドリアンの得意になっているだろうと考えるボスガンは気に入らない様子であったが、あれ程の力を持った怪人を用意されてしまったのならば口出しは出来きずに拳を強く握るしか出来なかった。
「ま、今回は高見の見物とさせてもらうぜ。ところでさっきの赤い実…トマトだったか。あんなもんチャップ共に命令して世界中からかき集めれば話が早いんじゃないか?」
頭部を再び身体へ接続したガテゾーンの最もな意見にゲドリアンは立ち上がりながら答えた。
「まぁその通りだがな。ジムカデムカをパワーアップさせるにはそこらにあるトマトじゃぁ1000個あったって腕の一本も生えやしねぇ」
だがなと言葉を区切ったゲドリアンはモニターに映し出されている青い惑星…地球のある部分を禍々しい指を向ける。
「地球の日本…しかも限定された場所の土と人間に作られたトマトが必要だ。今回ジムカデムカに食わせた最高に相性のあうトマトもそこで栽培されたものよ」
「その土地を襲い、大量にトマトが手に入れば…腕が千本に増える可能性だってあるぜぇ…」
クライシス帝国が新たな侵略を策謀する一方、間桐光太郎達は…
「眩い日光の下で労働に励む…それはとてもつもなく辛いことかも知れないけれど、いつかは何事にも代えがたいひと時となる。そう思わないか慎二く―――」
「くたばれこの野郎」
腹が立つ程にハツラツとした笑顔の間桐光太郎に対し、無表情で義兄の顔目がけ泥だらけの軍手を放り投げる間桐慎二。泥や水によって湿った状態に加え、軍手の中に少量の泥を仕込むという荒業を光太郎はすんなりと受け止め、中の泥を落としながらポケットに常備していた新品の軍手を慎二へと投げ渡すのであった。
「駄目だよ慎二君、道具を粗末に扱っちゃ!」
「あのなぁ…」
目元をひくひくと動かす慎二は現在自分が置かれている状況に我慢できず、広大な田畑に大声を木霊させた。
「なんでッ!!せっかくの夏休みにッ!!!こんなところでタダ働きしなくちゃ行けないのかってことだよおおぉぉぉぉぉッ!!!!」
「タダじゃないよ。収穫した野菜を一部貰えるって約束だよ」
魂の叫びを爆発させた慎二へ光太郎はあっけらかんと労働による報酬を口にするが、慎二にとっては自分がこの場所で労働すること自体が気に食わない様子だ。
事の発端は数日前。
夏休みを迎え、翌年に迫った受験に向けて勉強の計画を立てながら高校最後の夏をいかに楽しもうかと考えていた矢先、慎二を含め間桐家の長男たる光太郎は
「田舎で野菜を取ろう!」
と突拍子のない発言をし、慎二の意思などお構いなく準備を進めてしまう。
自分以外の反対意見を期待した慎二だったが、桜とライダーは対価である野菜が手に入ることで納得してしまい、3対1の多数決によって反対派の慎二は強引に間桐家夏野菜ツアーに連行される結果となったのである。
そして現在、光太郎と同じく作業着であるつなぎを着こみ、トウモロコシ畑の収穫と雑草抜きと言う中々ハードな役割へ当てられたのだった。
「ほらほら、あと少しで休憩なんだから頑張ろう!!」
「…チッ!!」
ワザとらしく舌打ちした慎二は鍔つきの帽子を被り直し、しゃがみ込んで雑草抜きを再開する。文句を言いつつも手を抜かずに作業をするあたり、実は楽しんでいるのではないだろうかと推察する光太郎の背後から今回の依頼主である人物の声が響いた。
「そろそろ昼餉だ。中断するがいい」
「ああ、そうさせてもらうよ」
光太郎達と同じつなぎであるが新品である2人と比べて使い込まれ、一部伸びきってしまっている箇所を見ればどれだけ農作業へと従事ていたか一目瞭然とわかってしまう。
そのような姿であっても美丈夫であることに変わりのないかつてアサシンのサーヴァントであった佐々木小次郎は帽子をかぶり直すと、早くしろよと言い残し、その場を後にする。
「や~、カッコいい人はどんな服でも着こなしてしまうもんなんだね」
「そう言う光太郎は本当の意味で似合ってるよ。泥だらけの格好は」
通じない皮肉を述べた慎二は首にかけたタオルで汗を拭いながら佐々木の後ろ姿を眺めている義兄を置いて、休憩場所へと向かっていく。
「あ、兄さん達!お疲れ様です!」
肌を日光で焼かないようにとの周りからの配慮で長袖のブラウスにもんぺ、そして割烹着を着込んでいる桜は麦わら帽子の片手で押さえながら自分達のいる場所へと歩いてくる光太郎と慎二へと笑顔で手を振っている。
ライダーも桜と同じ姿であり、その長く艶やか髪を頭頂部で結んでポニーテールとなっている。当初は光太郎達と同じ格好で力仕事を希望していたがお局達の『あんたみたいなめんこい女子はそんなことしたらいかん!」と押されてしまい、結局は桜と同じくきゅうりやトマト等の収穫を手伝いへと繰り出されてたのである。
「はぁ…」
「メデューサ姉さん、一緒に作業が出来なくて残念でしたね」
「わ、私はここまで来て光太郎と…」
「あれ?私、光太郎兄さんなんて一言も言っていませんよ?」
「…………………」
この少女にはどんどん言い負かされている。というか遊ばれているのではないだろうかと悪寒を感じるライダー達の元へ光太郎と慎二が到着。光太郎は違う作業となっていた為、自分達と分かれたライダー達の作業着姿を知らずにいた。そして開口一番、こんな感想を告げる。
「へぇ、その恰好の姿も新鮮だな。髪型も似合ってるね!」
「そ、そう言う光太郎も普段と違って…その…逞しく見え、ます…」
「…あ、ありがとう。慎二君にも褒められたけど、メデューサにも言われたら…なんだか、もっと嬉しいや」
頬を朱色にしたライダーの口から感想を返された光太郎は照れながら横目を向ける姿を目にし、やけに動悸が激しくなっているなと思いながら視線を落とす。
なぜか光太郎とライダーの近くにいると体感温度が5℃程上昇したような感覚を味わったと義弟と義妹は後に述べている。
バカップル(慎二談)が通常へと戻った頃にようやく昼食へとありつける一同はブルーシートの上に広げられた弁当である大量のおにぎりや惣采、取れ立ての野菜が用意されていた。
「さぁ、たっぷりと召し上がっとくれ!」
笑顔で勧める老人の言葉に遠慮することなく、光太郎達は頂ますと手を合わせて食事を開始する。その味は打ち所のない、素晴らしいものだった。桜は隣に座る女性へレシピを聞きだし、懸命にメモまで取っている程だ。これで料理の師にまた一歩と近づけるかなと微笑んでいる光太郎は手にした紙コップへ冷えた麦茶が注がれていることに気付く。
「あ、すみません。そろそろなくなりそうだったので」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
「あの、伺いたいことが…」
光太郎へとお茶を提供してくれた女性は光太郎の隣に膝を下ろすと、視線を別方向に向けながらも小声で尋ねて来た。
「あの…みなさんって佐々木さんとお友達…なんですよね」
「ええ。冬木って街に彼がいた時に」
「それで…その…今日いらした女性が2人いるんですけど…佐々木さんとふ、深い仲だったり…」
「え~っと…」
なんとなく女性の意図が見えた光太郎は箸で摘まんだキンピラゴボウを眺めながらフムフムと頷く桜とおにぎりで梅干しを引き当ててしまった涙目のライダーを見る。女性の言う佐々木…アサシンはほぼ柳洞寺と間桐家の門番として冬木にいたため女性関係で浮いた話など聞いたことはない。ましてや直接対決は無かったがライダーとは当初殺し合う関係にあったなど言えるはずもなく、適当にごまかす他ないと判断する。
「いや、それはありませんね。というか聞いたことないですねハイ」
「で…ですよねですよね…!ヨシッ!!」
光太郎の回答に何度も頷いた女性は振り返ると小さくガッツポーズを決める。どうやら、余程あの侍へご執心らしいと推測する光太郎はふと野菜へ全く手をつけていない義弟へ注意をする。
「慎二君、せっかくの取れ立てなんだから食べなきゃダメだよ」
「ほっとけ。僕はドレッシングのかかったサラダしか食べる気はしないね」
溜息をついてもう一押しするかと口を開けようとした光太郎よりも早く動いた人物がいた。慎二の隣に座っていたアサシンは無言で収穫されたトマトをまるごと一つ、好き嫌いする少年の前へと差し出す。
「………………」
「…わかったよ、食えばいいんだろ食えば!」
アサシンが手にしていたトマトをむんずと掴み、大きく口を開いてかぶりつく慎二。その味は市販のトマトはさほど変わりはない。変わらないはずなのに、どうしてここまで静かな気持ちとなってしまうのだろう。こんな所に来てしまい、農作業を手伝う羽目になったというイラつきも収まり、心を落ち着かせてくれたトマトを一口、また一口とかじる内に、トマトは慎二の手から消えていた。
「…うまかった」
「小僧の口からそのような言葉が出るとはまさに僥倖。食された野菜も喜ぶことであろう」
「…ずいぶんとファンシーな事言うようになったな。野菜と会話でもしてんの?」
トマトを食べさせたお返しにからかい半分で尋ねてみた慎二へアサシンは相変わらずの不敵な笑みを浮かべ、流暢に答えた。
「無論、こちらに対して声で返すことなどできまい。だが、私達が思いを込めて育てれば、野菜は『食した時』応えてくれる。小僧が味わった、まさにそれでな」
アサシンの主張に慎二だけでなく光太郎達も唖然とする。まさかここまで野菜栽培に対して深い考えがあるとは…同席している老人達もウンウンと同意を示している。
「まぁ、受け売りだがな」
そう締めるアサシンはお茶を啜ると食事を再開した。アサシンの…いや、アサシンへ教えた人物の言葉に感服した桜は手を合わせると隣でどれが梅干し入りでないかとおにぎりの列を睨むライダーへ声をかける。
「素敵な言葉でしたね!」
「ええ…彼に対してそこまで影響を与えるとは、余程の人物のようです…」
確かになとライダーの意見に頷く光太郎の横にいた女性…宮本むさしはお茶の入った薬缶を手に持ったまま俯いてしまっている。良く見れば、彼女の耳が強い日差しとは関係なしに赤く染まっているように見えていた。
その日の収穫が終わり、日が完全に沈んだ夜。光太郎達がお世話になる家の1階では歓迎会と称する酒盛りが行われていた。この村では何かと理由を付けてどんちゃん騒ぎをするのが日常茶飯事のようであり、アサシンも物静かな雰囲気を壊さぬまま、酒を煽っているらしい。
間桐家は収穫の疲れもあって慎二と桜は床に就いており、2人の分も盛り上げるということでライダーが村きっての酒豪達と飲み比べをしている最中だ。結果は…後ほどわかるだろう。
騒がしくも楽しい宴会とは余所に、光太郎とアサシンは2階の空室へと移動していた。
その部屋はこちらにいる間に慎二の勉強が捗るようにと用意された部屋であり、風通りが良いので日中でも涼しく勉強には最適な場所と言えるだろう。
光太郎はアサシンと向かい合い、彼の用意した地酒を飲み交わしながら、本来の目的を告げる。
「すごいな。思った以上に馴染んでいて驚いたよ。これだと…」
「『様子を見るまでもなかった』…か?」
口に運んでいた杯をピタリと止める。光太郎の反応を見て口元を歪めるアサシンの顔を見て、参ったと言わんばかりに一度深く息を吐いた。
「お見通し…か」
「物好きな事だ。それぞれの道を行くサーヴァント達を気に掛けるなど。下にいる者が妬いてしまうぞ?」
誰を指しているかは置いておき、光太郎はアサシンの指摘には反論せず手にした杯を口に運ぶ。
アサシンの言う通り、光太郎はかつてサーヴァントであった者達と定期的に連絡を取り合っていた。組織に属するランサーや近所に住むキャスターとは普段から連絡を取り合えるが世界中を旅しているイリヤへ着いて行ったセイバーやバーサーカー、ギルガメッシュとは
あちらからコンタクトしてくれない限り話すことも難しい。
今回、行く先も告げず旅立ったアサシンとこうして会えたのも、キャスターへ必死に頼み込んで遠視魔術をした結果であった。
かつての戦友の安否はもちろんだが、クライシス帝国という新たな悪と戦い続けている光太郎にとって、無事に自分の人生を歩んでいてくれるという結果だけでも知り得たかったのだ。
「…お主から見て、この村はどうだ?」
窓から見える月明かりを眺めるアサシンは光太郎の顔を見ることなく尋ねている。そんなことは聞かれるまでもない。アサシンの知人であるというだけで自分達という部外者を暖かく迎え入れてくれる優しい人々が住む村だ。
何よりもアサシンが充実した毎日を送っているのだから、光太郎は自身を持って答えることができる。
「いいところだよ。笑顔ばかりで、暖かい場所だ」
「左様。ここならば、命を賭して守るに値する」
「…………………」
「いくら田舎と言えど世界で起きている情報くらいなら周知できる。光太郎の戦いもな」
「もし、ここで奴らが現れたら、戦うのか…?」
もう、かつての力を持っていなくても。
だが、それこそわかりきっている答えだ。
アサシンは、佐々木小次郎はこの村の人々の為に戦える。ここに住まう人々とこれからも笑い合う為に。サーヴァントとしての力を半分も発揮できなくても、彼は戦うのであろう。
「…いや、余計な質問だったね」
「ふむ、口説く手間が省けたというものだ」
だがなとアサシンは言葉を区切ると、闘う覚悟とはまた違う気持ちを吐露する。
「戦いの中で散ることへの恐怖はない。しかし、ふと考えたことがある。万が一に戦いのない日々を送る事ができた時…」
「私達は、人としての生涯を終えることができるのか…」
その問いに光太郎が答えを出すのを待たず、アサシンは夜風に当たると言って部屋を後にした。
「お主に問うべきことではなかったな。すまぬ」
と光太郎に謝罪をして。
光太郎は窓から見える月を眺めながらアサシンの言葉を自身へと向けている。
聖杯の魔力と光太郎の願いによって人としての命を得たサーヴァント達だが、人としての寿命を迎えることが出来るとまでは分からない。アサシンは多くの人々と触れ合う内にそのような不安を抱いたのかもしれない。
村の人々の為に戦う決意は確かにあるが、同時に『人間』として共に生き、死ねるのかという疑問。
幼い頃に改造人間にされた光太郎は現在まで他と人間と同じように成長を遂げているが、寿命まで同じとは限らない。
周りが人としての命を全うする中、自分だけが取り残されていく。
光太郎は今までに大切な者を失ってきたが、1人では無かった。慎二と桜と出会い、ライダーという掛け替えのない存在と多くの仲間にめぐり会えた。
だがこの先自分だけが死ぬことなく、未来永劫生きていくのだとしたら…
孤独でいることに、耐えられるのであろうか。
「光太郎…?」
「メデューサ…歓迎会は、どうしたの?」
「もうとっくにお開きです。他の皆様も明日は早いからと帰っていきましたよ」
「そっか…」
「ここが例の部屋ですか…確かに、風が心地よいですね」
部屋に入ってきたライダーからは酒の香りはするものの酔っている様子はない。飲み比べは彼女の圧勝で終わったのであろう。窓際から月を見上げる彼女の姿を見て、アサシンの言葉がより強く心へと伸し掛かった光太郎は…
「こ、光太郎ッ!?」
「…ごめん。ちょっとだけ、このまま…」
「………………」
背後から、ライダーを抱きしめていた。
突然の行動に驚くライダーだったが、次第に落ち着き自分の肩に回している光太郎の手に、自分の手を重ねた。
「少し、だけでですよ?」
「ん…」
消え入るように短く答えた光太郎はライダーが苦しまないように、抱きしめる力を強める。
(先の事は、分からない。けど、メデューサと一緒にいる今は、確かにあるんだ)
自分の手の中にいるという確かな現実と彼女の暖かさが、光太郎の中にある不安を和らげていくのであった。
翌朝、まだ日が昇り切っていない時間帯に宮本むさしは記録用紙を持って畑を回っていた。
(もう、佐々木さんったら…)
むさしは昨日、客人達がいる前でかつて『自分の教えたこと』を堂々と発言し、した件について問い詰めたがのらりくらりと躱されてしまっていた。しかしその反面、自分が教えた事をしっかりと覚えていてくれているという事に破顔してしまうが、ハッと我に返って首を左右に振る。
(いやいや、だめよむさし!ここはしっかりと文句言わないと…あれ?)
決意を固めるむさしはトマトの栽培場でコソコソと動いている集団を見かける。遠目で分かりずらいが、今の時間帯に収穫する予定はない。だとすれば…
「こらぁ――ッ!!野菜ドロボーッ!!!」
夜中ではなく、まさか朝方からそんな輩が出没するとは思いもしなかったむさしは近所にも住まう人々にも聞こえるように大声で駆け寄っていく。これだけ騒げば曲者たちも逃げ帰ると踏んでいたが、視界に捉えたその曲者共は自分の常識の範疇を超えた存在と知ることとなった。
「え…………?」
自分と『彼』が育てたトマトを次々と手にしていく連中は妙なマスクとプロテクターを纏い、意味不明な言葉を口にしている。だが、むさしはそれよりも奥でゆっくりと身体
をこちらへと向ける異形の姿を見て、喉が裂ける程の悲鳴を上げた。
『イヤアァァァァァァァァァッ!!!!』
「ッ!?」
日課として早朝トレーニングを実施していえた光太郎とライダーは悲鳴の上がった方へと一斉に振り向いた。そして自らトレーニング参加を志願したアサシンは聞き覚えのある声に嫌な予感を膨らませ、木刀を捨てて声が聞こえた方角へと駆けていく。
「へへへへ…こいつはちょうどいい。トマトを栽培した本人に作り方を聞き出しておこうじゃぁねぇか。どうやってあのトマトを作るのか・・・」
「何するのッ!?離してッ!!」
背後にジムカデムカを引き連れたゲドリアンは目的のトマトを手に入れただけでなく、その作り手であろう女性を捕まえたことに高揚して飛び跳ね続けていると、このタイミングでもっとも出会いたくない相手の叫びに思わず背筋が震えてしまった。
「そこまでだクライシスッ!!」
「げぇッ!?なぜお前がここにッ!?」
「それはこちらの台詞だッ!!むさしさんを離せッ!!」
「ケヘヘヘ…そうはいかねぇ。こいつには俺の怪魔異生獣ジムカデムカを強化する為に利用させてもらうんだからなッ!!」
「何ッ!?」
ゲドリアンは目の前に現れた宿敵達の前で一度は慌てるが、最初の目的を既に達成したことで舞い上がり、むさしを拘束した理由まで語りだしてしまう。
「こいつの育てたトマトはジムカデムカの腕をさらに増やす作用を持っている。そのトマトはここの土と作り手の相性によって生まれたはずだ…だからこの女と土を要塞に持ち帰り、ジムカデムカを最強の怪魔異生獣に育てるまで利用するって寸法よッ!!」
「…………………」
ゲドリアンの言う事に今一ピンとこない光太郎達だったが、むさしを連れ去ろうとするなば黙っていられない。
「…お前達の好きにはさせない!」
「うるさい!やれジムカデムカッ!!」
『シャアァァァァッ!!』
ゲドリアンの命令を受けてジムカデムカは口から怪光線を駆け寄ろうとする光太郎達の足元に着弾させる。思わず後退してしまった光太郎達が再び前を向いた時には、ゲドリアン達は勿論、むさしも姿を消していた。
「どうしますか、光太郎…」
「…むさしさんを連れていくということなら、転送装置を使うはず。この近くにまだいるはずだ」
「わかりました。シンジ達へ連絡します」
「頼む」
ライダーへ指示を送った光太郎は先ほどから一言も口を開かず、むさし達が立っていた場所の奥…取りこぼされ、無残に踏みつぶされたトマトや他の野菜を見つめている。光太郎はゲドリアンの言っていた通りにクライシス要塞に連れて行かれる前に彼女の救出を優先的に考え、アサシンに協力を仰ごうとするが…
「…昨日、私がお主の弟に話したことを覚えているか?」
「…作り手の思いに、野菜が応えてくれる…だったか」
光太郎の回答に無言で頷くアサシンは、やはりこちらへ顔を向けずに話し続けた。
「あのトマトは…私と彼女が協力して育てたものだ」
「そう、だったのか」
「あの物の怪が推測した事…あれはトマトに私から無意識のうちに流した魔力が影響しているかもしれん」
「そんな…」
馬鹿なとは言い切れない。魔術に関しては未だ慎二に教えられている身としては、このままアサシンの立てた仮説を聞くことしかできない。
「この時代で『作る』ことを何一つ知らない私に彼女は嫌な顔一つせず、懇切丁寧に教えてくれた。その中でも、思いを込めて作る、という言葉は強く私に残った。ただ相手を切る事だけしか考えることが出来なかった私にな」
サーヴァントとしての力をほぼ失ったとしても、彼等の体内に宿る魔力は並みの魔術師を遥かに凌駕するほど持ち合わせている。何かを念じるという行為だけで魔力がその手から流れたとしても、不思議ではない。
「そして私から流れた魔力を汲んだ野菜によって怪人が強化されてしまう。なんとまぁ、皮肉なものだ。私自らこの村へ脅威を呼び寄せてしまうとは…」
「……………………」
昨夜、アサシンはこの村の平穏を脅かす相手には命を懸けて戦うという誓いを話してくれた。しかし、その相手を自分の手で生み出してしまった事実が、彼の抱いている不安をさらに大きくしてしまう。これからも、人よりも長く生きるかも知れない自分が原因でこの先も村にクライシスのような敵を呼び出してしまうのだとしたら…
光太郎は自分の手の平を見つめ、あの夜アサシンの話を聞いた後にライダーを…愛する女性を抱きしめた事を思い出す。確かに自分が生き続けることで先に何があるのかと恐怖を抱くことはある。だが、それはあくまで可能性の話だ。そして、今すべきことは未来に怯える事ではないと決意した光太郎は手を握りしめ、立ち尽くしているアサシンの肩を叩く。
「行こう、アサシン」
「光太郎…しかし、私は」
「先のことなんて誰にも分からない…けど、今貴方に出来ることはここで思いふけることじゃない」
「………………」
「行こう。貴方に大切な「今」を教えてくれた人を、助けるんだ!」
畑から離れた雑木林の中。チャップ達が予め用意されたドラム缶の中に次々と奪われたトマトが投げ込まれていく様子を見て、ジムカデムカは涎をダラダラと流している。その不気味な姿に怯えるが、それ以上にむさしは自分とアサシンで育てた野菜があのような化け物に食べられしまうのが我慢できなかった。
「やめてッ!!それは…佐々木さんが私達の村に来て、初めて育ったトマトなのッ!!なんで、あんた達みたいな人に食べられなきゃならないのよッ!!」
「うるさいッ!お前にはジムカデムカをさらに強くする為にこき使ってやるのだからありがたく思え!!」
「お断りよ!あんた達の為に野菜作りなんて、死んでもごめんだわ!!」
「生意気なぁ…!」
むさしの抵抗に苛立ちを隠せないゲドリアンはクライシス帝国への転送準備を進めているチャップに指令をだし、ロープに縛られ自由に動けないむさしを乱暴に掴み上げると、地面へと投げ捨てる。
「痛ッ!!」
倒れたむさしへ棍棒を持ったチャップ達がジリジリと迫っていく。自分へこれから起こるであろう暴力に対し、身を捩って立ち上がろうとするむさしだったが、力が入らず立ち上がる事すらできない。
「少し痛い目に合わせてやる…やれ!チャップども!!」
ゲドリアンの号令を受け、武器を振り上げるチャップを見て、むさしは思わず目をつぶる。心の中で、慕っている人の名を叫んで。
(佐々木さん…!)
しかし、いつまでたってもむさしに武器が振り下ろされることは無かった。
(え…?)
ゆっくりと目を開けたむさしは、これは夢ではないかと錯覚する。自分へと迫った脅威を長刀で薙ぎ払う陣羽織を纏った人物は、見間違うことなく、心で叫んだ人なのだから。
「無事のようだな。むさし」
「さ、佐々木…さん?その、恰好は?」
「説明は後ほど。今縄を切る」
言うと同時に刀を一閃させると同時に彼女の動きを封じていた縄がハラリと落下し、むさしを自由の身とする。それを確認すると、聖杯戦争時の戦装束となったアサシンはむさしを庇うように刀を構える。
「ケっ!!でやがったな元サーヴァント!!」
「遅くなってしまったな。許せ」
「誰も待っちゃいねぇ!!ジムカデムカ、さっさと食らいつくしてしまえぃ!!」
待っていましたと言わんばかりにトマトの入ったドラム缶へと手を伸ばすジムカデムカであったが、ドラム缶に触れる寸前に足元がグラつくと当たりを見回すと、急に揺れが強くなり自分だけでなく周りのチャップ達までもが振動に立っていられず次々と転倒していく。
「な、なんだぁッ!?」
ゲドリアンの叫びへと答えるように、地面を揺らしていた存在は、地表を突き破りその姿を露わにする。
赤い重装騎マシン『ライドロン』はチャップ達を跳ね飛ばし、車体前部で展開した顎『グランチャー』でドラム缶を掴むと急後退。アサシンとむさしの元へと移動した。
「こ、これって」
「安心するがいい。味方だ」
常識を逸脱した車を目にして茫然とするむさしへアサシンがフォローすると同時にライドロンの扉が開かれ、運転席から慎二と桜が姿を現す。
「間に合いましたね!」
「ったく、今日は一日勉強のつもりだったのに…」
続いて現れた別々の反応を示す2人の客人に、今度こそむさしの思考は追いつけず、もはや夢なら覚めて欲しいという状態だ。
「お、お前達どうしてここにッ!!」
「…今朝、光太郎に電話で叩き起こされたんだよ。悲鳴の聞こえた場所を見に行くから、もしもの時の為にコイツに乗り込んでろってな」
「はい、おかげで直ぐにこっちへ来れました」
気だるそうにライドロンの車体上部を拳で軽く叩く慎二に笑顔で同意する桜。この場に協力者が集っている…嫌な予感を抱くゲドリアンはさらにこちらへと接近するエンジン音が響く方へと顔を向ける。その先には…
「き、来やがったぁッ!!」
青いバイク…光機動生命体 アクロバッターを駆って現れた光太郎と後部に同乗しているライダー。急ブレーキをかけ、降りると同時にヘルメットを外した光太郎はゲドリアンを睨む。
その感情は…紛れもなく、怒り。
「もう逃がさないぞ、ゲドリアンッ!!」
光太郎は右手を前方に突出し、左手を腰へ添えた構えから両拳を交差させるような動きで空を切ると右拳を脇に置き、左肩から左肘を水平にして左拳を上へ向けた構えをとる。
「変ッ身ッ!!」
叫びと共に左手を腹部へ移動させると同時に右手を天高く輝く太陽を掴むように掲げた。
右手首の角度を変え、ゆっくりと正面に下ろすと素早く左肩の前まで移動させ、勢いをつけ右側へと振り払うと再び拳を握って脇へと移動させ、左腕を大きく回して拳を立てた構えとなる。
光太郎の瞳の奥で、光が爆せる。
体内に宿るキングストーンと太陽の光によって生まれた『ハイブリットエネルギー』が全身を包み、2つの力によって生まれたベルト『サンライザー』が出現。
サンライザーから放たれる2つの輝きにより、光太郎は光の戦士へと姿を変える。
「トァッ!!」
変身を遂げた光太郎はムジカデムカを飛び越え、着地したと同時に背後に立つ敵へと振り返り。左手をサンライザーに添え、右手を天へと掲げる。
そして光太郎の額のランプと胴体のサンバスクから放たれた眩い光にゲドリアンやジムカデムカ、チャップ達も目を手で覆い隠してしまう。
輝きが失せたと同時に、光太郎は変身した姿の名を高らかに名乗り上げた。
「俺は太陽の子ッ!!」
「仮面ライダーBLACKッ!!R、Xッ!!!」
強く拳を握りしめた光太郎は視界が回復しても同様が続く敵に向かいを指差す。
「クライシスッ!!人々が思いを込めて育てた野菜を奪い、怪人の力に変えようとするなど俺は絶対に許さんッ!!」
「しゃ、しゃらくせぇ!やれ、ジムカデムカッ!!」
トマトを奪われた怒りに燃えるジムカデムカはゲドリアンの命令を待つまでもなく光太郎へと掛けていく。自分に向ってくる敵を討つべく光太郎は高く跳躍するが、その姿にゲドリアンはニヤリと笑った。
『シャァァァぁァァッ!!」
「何ッ!?」
高くジャンプしている光太郎の背中に痛みが走る。ジムカデムカは無防備である光太郎の背後まで腕を伸ばし、手の形状を刃に変えて不意打ちを成功させたのだ。
「ぐッ…なんなんだあの腕は…?」
「光太郎ッ!後ろです」
「なッ!?」
奇襲により落下してしまった光太郎の姿をみて、アサシンと同じく戦闘装束へと姿を変えたライダーはチャップ達を蹴散らしながら光太郎へさらに凶刃が迫っていることを伝えるが既に遅く、6つの刃が次々と光太郎へと叩きつけられた。
「いいぞ、いいぞジムカデムカッ!!そのままRXの手足を潰してしまえッ!!」
主の言葉を聞いて伸ばした腕の先端を刃から針状へと変え、防御に徹している光太郎はなんとか回避しようとするが残る2つの刃に翻弄されてしまい、両手両足を貫かれてしまった。
「グアァァァァッ!!」
「光太郎ッ!!」
「兄さんッ!?」
義兄の悲鳴を聞いた慎二と桜だったが、チャップ達の相手にしているため駆けつけることができない。見れば光太郎は両手両足を貫かれただけでなく、まるで凧上げをされているようにジムカデムカによって持ち上げられている。その姿を見て歓喜に溢れるゲドリアンは両手で激しく打ち鳴らしながらジムカデムカの隣まで移動して苦しむ敵の姿を見上げている。
「よぉし止めだッ!!首を跳ね飛ばしてしまえッ!!」
残る2つの手を刃から鎌のような形状へと変え、光太郎の首を切断するために腕を伸ばしたその時だった。
『ッ!?』
光太郎の手足を貫いていた感覚がまるでなくなったとジムカデムカが考えた直後、光太郎の身体が液体化し、伸びた腕を伝って急速に接近。液体の体当たりを受け、ジムカデムカの身体が揺らいでしまったその一瞬、再び人の姿となったと同時に両手で握った剣を振り下ろし、怪人の腕を一本切り落とすことに成功する。
「し、しまったぁッ!!」
RXの厄介で、警戒しなければならない形態。
青いボディとなった光太郎は手にした剣を逆手に持ち、両手を広げて現在の姿の名を名乗った。
「俺は怒りの王子ッ!RXッ!!バイオッ、ライダーッ!!!」
自身の肉体を液状化、ゲル化する能力を持つバイオライダーとなった光太郎はジムカデムカの拘束を抜け、大ダメージを与える事に成功するが、ジムカデムカの姿を見て目を見張る。
「腕が…再生している!?」
「ケヘヘヘッ!!その通りだッ!!いつもの怪魔異生獣とは大違いなのだッ!!」
少しずつではあるが、切り落とした腕から再生を始めている。再び腕が6本となっては不利になると考えた光太郎はバイオブレードを構え、ジムカデムカへと迫るが再度刃へと変わった残る5本の腕による四方から繰り出される変幻自在の攻撃に遮られてしまう。
「くっ…!」
「よし、再生が終わったッ!!ジムカデムカッ!!いくら液体になろうが攻撃できなきゃ意味がねぇ。止めずに攻撃を続けるんだ!!」
再び完全に6本の手となった嵐のような斬撃に物理ダメージはないものの、これでは反撃すら難しい。そう考える光太郎だったが、先ほどの攻撃と、腕を一本失った時での攻撃が明らかに力の差が出ている気付いた。
(もしかして、再生にパワーを回している間は攻撃も弱まってしまうのか?なら…)
敵への攻略が思いついた光太郎は再度身体を液状化し、ジムカデムカと間合いを取る。その隣は、ちょうどチャップ達を切り伏せてこちらに合流したアサシンが同じく腕を6本持つ怪人を眺めている。
「どうやら苦戦しているようだな」
「ああ。けど、対処する方法は浮かんだ」
「ほう。なら、試すとしよう」
「アサシン…」
「出来るのだろう?私と、光太郎ならば…」
光太郎は自分の意図を理解した上で合流したアサシンを見る。彼が浮かべる不敵な笑いには、戦いに赴くまでの迷いは一切感じられない。聖杯戦争の、否、あの時以上に闘志を燃やしている。彼とならば、可能だと確信した光太郎はゆっくりと頷く。
「ああ、行こう、アサシンッ!!」
「心得た」
「
光太郎が叫んだと同時に、彼の身体に変化が始まる。
光太郎の赤い複眼とベルトの中央にある赤い結晶が群青へと染め上り、手にしたバイオブレードの刃が伸び、両刃から日本刀の形状へと変わっていく。
アサシンに外見の変化はないものの、光太郎から流れるハイブリットエネルギーをその身に受けて聖杯戦争時とは比べものにならない魔力を身体に宿した。
両者は寸分狂わず同じ動きを始め、両手に持った刀を水平に構える。
そしてアサシンを『佐々木小次郎』と言わしめた神業が2人から打ち出された。
『秘剣・燕返し』
時間差などなく、全く同時に繰り出された『6つの斬撃』により、ジムカデムカ最大の武器である6つの腕は全て切り落とされ、怪人は余りの痛みに絶叫を放った。
『シャギャアァァァァァァァァァァッ』
腕1本ならば他の腕で攻撃している間に再生は可能だが、6本全てを失ってはそうはいかない。悶える敵の姿を見て、バイオライダーからRXへと姿を変えた光太郎はこの絶好の機会を逃すはずがなかった。
「今だッ!!」
膝を着き、右手を力強く地面へ打ち付けると、大地を強く蹴って跳躍。
身体を丸め、空中で後転しながらも前方へ落下していくという離れ業を見せながら突き出した両足にエネルギーを纏わせ、ジムカデムカの頭部めがけ叩きつける。
「RXッ!!キィックッ!!!」
キックを受けたジムカデムカは2転3転と大地を転がり、ふら付きながらも立ち上がろうとする敵に対し、着地した光太郎は右手を上へと突出し、左手を腰に添えた構えと取る。
「リボルケインッ!!」
右手を腰に添え、入れ替えるように大きく振るった左手を腰のサンライザーへと翳す。光太郎は広げた左手の中で光から形成された柄を握ると一気に引き抜き、右手へと持ち変える。
太陽の光を結晶化した光子剣『リボルケイン』を水平に構えた光太郎は、再び高く跳躍!
「トァッ!!」
掛け声と共にリボルケインをジムカデムカへ向けて急落下し、着地と同時に怪人の胴体へと光の刃を深々と突き刺した。
『シャギャアアァァァァァッァッ!!!』
「ムゥンッ!!」
更に強くリボルケインを押し込み、光エネルギーを流し込んでいく。次第にジムカデムカの背中から体内に溢れているエネルギーが火花となって放出を始めてた。
十二分にエネルギーを流し終えた光太郎はリボルケインを一気に引き抜き、ジムカデムカから離れていく。
断末魔の声を上げるジムカデムカに背を向けながらリボルケインを天へと掲げ、大きく振り回して頭上で両腕首を交差させた直後、一文字を切るようにリボルケインを真横へと振るった。
その直後、倒れたジムカデムカは大爆発の中へ消えるのであった。
「ちきしょ~!!覚えていやがれッ!!!」
捨て台詞と共に、残ったチャップ引き連れてゲドリアンは逃げ出していく。光太郎達は敵の後を追うことなく、敵の敗走する姿を見続けいた。
「そう…だったんですか」
戦いの全てを見てしまったむさしへ、アサシンは村にたどり着くまでの事を説明した。自分が、全うな人間でないことも含めて…
「…………………」
「受け入れられなくて当然だろう」
「一つだけ、聞いてもいいですか」
「…うむ」
むさしは俯いていた顔をゆっくりと上げ、アサシンの顔を見る。
「佐々木さんは、これからも私達と一緒にいてくれるんですよね?」
「…………………」
てっきり今回の事件で糾弾されるとばかりと考えていたアサシンは呆気にとられ、逆に聞き返してしまった。
「…いいのか?むさしが危険な目にあったのは」
「佐々木さんのせいなんかでねぇ!悪いのは…悪いのはあいつらだ!」
涙目となったむさしは今度こそアサシンに対しての不満をぶつける。
「どうして…そうやって自分の責任見たいに言っちゃうんですか?今回だって、佐々木さんも被害者なんですよ?私達2人で育てた野菜があんな事になるし…佐々木さんは謝る前に、怒るべきなんですよ…」
まさか泣かれてしまうとは思いもしなかったアサシンは、ついに泣き出してしまったむさしの頭を優しく撫でることしか出来なかった。
その光景を眺めていた光太郎達は踵を返し、村へと戻っていく。
「よろしいのですか?放っておいて」
「ああ。それよりも、荒らされた畑に関しての説明を考えなきゃね。今行けば、まだ騒ぎが大きくならずに済む」
ライダーの質問に答えた光太郎は、これでアサシンが悩みも一つの回答を出すのではないかと考える。
未来よりも、今を守る為に戦うという答えを…
2日後
事件も野菜泥棒はトマトを持ち切れず、放棄していったという形で収まり、光太郎達は冬木へと帰宅する日となった。
「今回は世話になったな」
「こちらこそ、こんなにもお土産ありがとう」
見送りに来たアサシンとむさしへ手に持った袋一杯に詰まった野菜を見せる光太郎。彼だけではなく、ライダーや桜、慎二も同様に野菜を手にしていた。
「また、来てくださいね。その時は冬木での佐々木さんのお話を聞かせて下さい。特に、門番のお話を」
「やれやれ…」
慣れとは恐ろしいものだなと隣の女性の懐の深さに溜息を付いたアサシンは戦闘時での不敵な笑みとは違う、穏やかな笑いを浮かべながら光太郎へと決意を伝える。
「今回のことで、決めたよ。私は生きよう。その先がどうなろうと、あの村を守る」
「そっか」
「そして、お前が窮地に陥った時は、手を貸させてもらう。今回の、せめてもの礼だ」
「…ありがとう」
互いに握手を交わした後、光太郎達は到着したバスへと乗り込み、帰路へとつくのであった
その先に孤独という結末が待っていようと、今を守る為に戦い続ける。アサシンの誓いを聞き、打倒クライシスをさらに強く決意する光太郎だった。
…では、言い訳を始めましょう。
この話はもしRX編をそのまま続いていたら25~6話辺りを想定して作ったお話です。敵が単純にクライシスのみだった場合、こんな展開になるかなぁ…という。
そして原作RXを知らない方にとっては??な展開であるかもしれませんので軽い解説を。さらに詳しいことはお手数ですがググっていただければと思います。
・仮面ライダーBLACK RX
光太郎が後述のクライシス帝国によって変身機能が破壊され、宇宙へ放り出された(!?)後に太陽の光を浴びて生まれた進化形態。BLACKを遥かにしのぐパワーと能力を持ち、今回登場したバイオライダーや未登場のロボライダーへ多段変身も可能。
・クライシス帝国
異次元から現れた新たな敵。一度は光太郎を仲間として勧誘するが拒否された為宇宙へと放りだず。これが全ての悲劇の始まりと知らずに…
・アビリティ・リンク
RXが持つ小説オリジナルの力。
一度大聖杯に触れた後遺症で、光太郎はサーヴァント全員と深層意識でパスが繋がった状態にあり、RXとなったことでライダー同様、その力と能力を任意で共有できるようになった。
スイッチを入れる為の掛け声は士郎を参考にしている。
これによりRXはサーヴァントと同じ技をつかえ、サーヴァントもRXから提供されるエネルギーによって聖杯戦争時以上のパワーを発揮できる。
また、パスで力を繋いでいる間はRXの一部がサーヴァントの特徴となる色が複眼に現れる。
たとえば、キャスターと力を共有する場合、ロボライダーの目が紫へと変わり、ボルテックシューターから協力な魔力弾をキャスターと共に打つことができる。
逆にRXの力をサーヴァントが使うことも可能であり、ギルガメッシュがエアでリボルクラッシュをRXと共に打ち出すなんてORTもびっくりな展開も可能…
てな感じで、話を展開していこうかなと考えたりします。これが生かされるか、はたまたリセットするかは不明ですが・・・
長い後書きとなりましたが、続編に関しては製作決定!とここに宣言いたします。
ちょいとプライベートも関係し、連載は5月以降になるかな~という所です。
それでも待って頂き、読んで頂ければ幸いでございます。
そして、番外編は思いつき次第ちょいちょい載せていく予定。今度は短いのにしよう…リクエストもあれば、作ってしまう…かもしれない(おい)
では、これにて失礼!