Fate/Double Rider   作:ヨーヨー

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今回は戦闘場面いっさいなし!

むしろパラレルワールドと思っていただきたい番外編③です。


番外編③

「慎二くん、入るよ」

「…何度言っても変わらないよなその事後報告」

「ははは。ごめんよ」

 

このやり取りも長年続いてしまえば、いい加減怒鳴ることも少なくなっている。幼少の頃など罵声と同時に辞書を投げつけたものだったなと視線を再び手にした魔術書へと向けようとする慎二に光太郎は無言でグラスを差し出す。

 

よく見れば光太郎の手にはトレイがあり、その上に自分用のグラスとブランデーが並んでいる。確かその酒は父親秘蔵の一品ではなかっただろうか…

 

「出来れば明後日くらいに一緒に謝ってくれたら嬉しいかな~」

「…はぁ」

 

ワザとらしく溜息をついた慎二は魔術書を閉じ、グラスを取って光太郎に無言で突き出す。言葉にせず、返事を出した義弟の行動に満面の笑みを浮かべた光太郎はブランデーの封を開けてグラスへ注いでいく。

鼻腔を抜けるブランデー特有の芳醇な香りを楽しみながら義兄が自分の分を注ぎ終わるの待つ慎二。こうして義兄と飲むのは、いつ以来だろうか。

 

いや、今日ばかりは普段アルコールをあまり摂取しない光太郎が飲もうとする気持ちは理解できた。先に光太郎からの誘いがなければ、自分から尋ねたのかも知れない。

 

なにせ明日は………

 

 

 

 

「お待たせ」

 

 

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日、結婚式を迎える桜ちゃんに…」

 

 

 

 

 

 

『乾杯』

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、慎二と光太郎の義妹である間桐桜の結婚式を翌日に控えた夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

「そっか。じゃあその本は」

「ああ。あいつが攻撃魔術を実践した際に参考にした奴さ。桜の奴、初めて標的の一部を黒焦げにしたのを見て、飛び跳ねて喜んでたよ」

「なるほど。こういう日ってアルバムを引っ張り出したりするものだろうけど、慎二君にとっては、そっちの方が桜ちゃんとの思い出が深く刻まれてるんだね」

「…そう言うことにしといてやるよ」

 

グラスを軽く振り、合わせて揺らめく液体を見つめる慎二と光太郎の会話の内容は、やはり桜との記憶だ。

 

間桐家に来たばかりは人見知りで、泣き虫だった桜。しかし、光太郎や慎二と過ごす内に身も心も強くなり、笑顔の似合う女性へと成長を遂げていった。

 

今考えれば、仮面ライダーである自分と肩を並べて共に戦うまで強くなるとは思いもしなかけどと、光太郎は苦笑を浮かべて机の上に飾られている写真立てを見る。

 

 

ゴルゴムを打ち破った後、命を得たサーヴァント達と共に撮影した写真の中の桜は本当に嬉しそうに笑っている。桜はいつも自分を笑顔にしてくれると義兄2人に言ってくれたが、その自分に笑顔を取り戻してくれたのは、桜であることを光太郎と慎二はは決して忘れない。

 

 

身体を改造され、養父を惨殺された事で心を閉ざしていた光太郎に再び感情を取り戻すきっかけを作った。

 

 

祖父に役立たずの烙印を押され、その原因と思い込んでいた2人に罵声しか浴びせなかった慎二に、義兄すら匙を投げかけた際も凝りもせず話しかけてくれた。

 

 

こうして思い出を肴に酒を飲みあえるのは、彼女がいたからこそだろう。

 

今の自分達を形成してくれた掛け替えのない大切な妹が明日、自分自身の人生を歩み出す。

 

嬉しさよりも、寂しさが強まってしまっているのは、仕方のないことだろう。

 

 

だから明日は笑顔で見送らなければならない。

 

 

今まで、ありがとうという言葉と共に。

 

 

 

「んで、明日の準備は問題ないのか?」

「うん。なんせスポンサーがすごいからね」

「…まぁ、アーチャーが仕切ってるから大丈夫だろう」

 

資金提供はギルガメッシュ、会場準備はアインツベルン。それだけならば不安しかないメンツであるがそこで登場したのがアーチャーである。凛に付いてロンドンに渡っていたが桜が式を挙げると聞きつけ姉と共に帰国。

兎に角金に物を言わせて派手な内容にしようとする金持ち2人に待ったをかけて、予算を踏んだんに使いながらも新郎新婦が望む静かな内容へと変更されていったのだった。

 

やはり、桜は彼にとっても大切な存在だったのだろう。

 

「ま、僕たちは僕たちの役目を全うしとくか」

「賛成」

 

 

その後も兄妹となってからの話が続いていき、気が付けばもうすぐ日付が変わろうとする時刻となっていた。

 

「っと。もうこんな時間か。そろそろお開きだね」

「そうだな…さっさと部屋戻れよ。嫁さん不貞寝してんじゃないの?」

「そうさせてもらうよ。それじゃ、また明日」

「ああ」

 

 

 

返事を聞いた光太郎が部屋を後にする姿を見送った慎二は、残った僅かなブランデーをグラスへと注いでいく。

 

窓を開け、夜空に浮かぶ月に向かいグラスを掲げる。

 

 

 

 

「…おめでとう。桜」

 

 

 

明日、妹に捧げる心からの言葉を口にして。

 




という、桜の結婚前夜という内容でございました。

桜を演じる下屋さんがご結婚されたというめでたいニュースを聞き衝動的に作ってしまったこの話。
しかし桜に一切出番がないという…

あ、桜さんのお相手はご想像にお任せしますね(笑)

ちなみにこの時点で光太郎とメデューサさんとの間に双子の女の子を儲けており、慎二は高校時代の腐れ縁で美綴さんといい感じになっているというところまで妄想しております。


改めて下屋さん。ご結婚おめでとうございます。

劇場版での活躍を楽しみにしております!!

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