真・恋姫†無双 仲帝国の挑戦 〜漢の名門劉家当主の三国時代〜   作:ヨシフおじさん

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85話:揚州動乱

                 

 むせる返るほどの異臭。もし風が吹こうものならば、耐えがたいほど濃厚な臓物と血の臭いを吸い込むことになるだろう。

 土砂降りの後の地面のように、その場所は大量の水分を吸収していた。もちろん雲から降り注いだ雨水ではなく、人体から流れ落ちた鮮血である。深紅の血液を吸い込んだ土は泥濘となり、その地をひとり歩いていた男の足を止めた。

 

「終わりか……つまらねぇな」

 

 地面に散らばる死屍累々を無造作に踏みつけ、紀霊は後処理を部下に命じる。

 今回もまた退屈な任務だった。領主が課した重い賦役に耐えかね、農奴が反乱を起こし、それを軍が鎮圧したというだけのこと。どうにも華北の戦乱によって景気が悪化しているらしく、今年はそういった類の仕事が多い。今しがた紀霊が軍を率いて全滅させた農村も、そんな場所のひとつだ。

 

「……チッ」

 

 苛立ちも度を越せば可笑しく思えてくると言うが、今の紀霊はまさにそんな表情をしていた。

 かれこれ数年間、まともな戦いをした記憶が無い。農民反乱や工作員狩りには事欠かないが、そんなものは戦の内に入らなかった。相手は満足な武器もなければ戦闘技術も身に着けておらず、家畜を屠殺するように死体へと加工すれば仕事は終わる。生来の残忍さから弱者をいたぶる趣味が無いわけではないが、そればっかりではどうしても飽きるのだ。

 

「久々にやりあえると聞いて、飛んできたらこのザマかよ。……笑えねぇ」

 

 徐州戦役も完全に肩透かしだった。ギリギリまでじらされた揚句、やっと戦いが始まったかと思いきや南陽から停戦命令が飛んできた。彼我の戦力差だか損得分岐だかが原因らしいが、そんなものは自分の知ったことではない。それから後は、ひたすら暴動と反乱を潰す日々。華北では袁紹と公孫賛がハデに争っているという情報が流れてくるだけに、なおさら今の境遇が不満だった。

 

「いつからだったか? こんなフ抜けた小競り合いしか起こらなくなったのは」

 

 懐古趣味など持ち合わせてはいなかったが、昔はもっといい世の中だった。競い争い、生と死の境界線はもっと曖昧で、その日その瞬間を生きていたはず。

 

「将軍、人民委員会から召喚状が来ております」

 

「そうかよ」

 

 苛立ちを隠そうともしない事で、紀霊は召喚状をひったくる。

 

「……………読め」

 

 紀霊は字が読めない。文盲である。現場からの叩き上げといえば聞こえは良いが、要するに真っ当な教育を受けていないという事である。

 なにせ当時の識字率は悲惨なほど低く、読み書きのできる者は支配者階級か商人ぐらいのもの。ゆえに平時に限れば、名家の出というだけで士官に抜擢され、更に金を積めば将校になれる袁術軍の人事制度は至極合理的なものであった(皮肉な事に、最も識字率の低い軍隊は実力主義の徹底された曹操軍であった)。

 ちなみに今日では何かと評判の悪い政治将校であるが、彼らは軍人である前に文官であり、読み書きが出来るという点では重宝されていたという。

 

 始めは不機嫌丸出しで剣呑な表情をしていた紀霊だったが、部下が書面を読み上げるにつれ、変化が見られるようになる。

 

「戻るぞ、宛城に」

 

 ややあって紀霊はそう告げた。心なしか口元が歪んでいる。彼の元に届けられたのは、どうやら吉報であったようだ。紀霊という異常者にとって、という条件付きではあったのだが。

 

 

 

 ◇◆◇

 

 

 

 江南の地は、長らく漢帝国の一部でありながら『辺境』としての地位に甘んじていた。偉大なる漢帝国の威光も、時の首都から遠く離れたこの地に届く頃には薄まってしまうのだ。それゆえ政府の力が弱く、法律が充分に機能しないため分権化が進む傾向にある。

 もともとこれらの地域では、漢帝国の設立以前から血縁や地縁で結ばれた中小グループが数多く存在していた。これらは常に武装しており、政策等が中央政府と食い違ったり、外部勢力が侵攻してきた場合には、対抗して闘争を繰り広げた。ときには、集団内において抗争を繰り広げることもある。また、最近になって台頭してきた資産家や地主もまた、己の私有財産を守るために私兵を設けるケースもあった。

 

 漢帝国が事実上名前だけの組織になってからも、その状況は相変わらずであった。漢帝国に代わって江南を牛耳るようになったのは袁家だが、彼らもまた豪族たちが私兵を持つことを許可している。領地支配はコストのかからない間接統治に留め、地方行政・治安維持機能はそのほとんどを地元豪族にそのまま委任しているからだ。だからこそ袁家は江南で迅速に、また混乱も少なく勢力を拡大できたと言って良いだろう。

 

「現在、揚州には顧・陸・朱・張の4家からなる『呉の四姓』、周家、そして州牧の劉繇や会稽太守・王郎など大小23ほどの軍閥が存在し、これらの兵力を合算すれば10万ほどの軍勢に達します。最近では名家同士での婚姻を通じて、血縁による結びつきを強めているという話です」

 

 外務委員長・閻象の報告に、会議室がざわつき始める。揚州情勢における変動が原因ではない。その程度の事情はすでに全員が承知であり、むしろ何故いまさらそのような事を蒸し返すのかという疑念だった。

 

「10日ほど前、揚州へ派遣された使節団が帰路へつく途中、盗賊に(・ ・ ・ ・)襲われて(・ ・ ・ ・)行方不明(・ ・ ・ ・)になったという話はご存じでしょう。しかし、その内の一人が辛くも襲撃を逃れて脱出し、現在は我々の保護下にあります」

 

 そこで閻象は言葉を切ると、ちらりと横目で劉勲を見る。

 

「事情聴取をしたところ、重大な事実が判明しました。――彼らに襲撃を行った人物は笮融、運河襲撃事件の首謀者として指名手配中の人物です」

 

「それはつまり……」

 

「はい。揚州政府は我々に対し、虚偽の報告をしていたということになります」

 

 どよめきが起きた。なぜ揚州政府がそんな行動をとったのか。それは何か、後ろめたいことがあるからではないのか。

 

「――ほぉ、そういう話かよ」

 

 最初に反応したのは紀霊だった。にやけた笑みを浮かべ、周囲を見渡しながら言う。

 

「つまり今の話は、場合によっちゃ粛清ごときじゃ済まねぇって事か」

 

 紀霊はここに至って、ようやく理解していた。そもそも市街地の中心部で、襲撃事件が自然に起こるはずがない。ましてや指名手配中の人間が、そんな自殺行為をするなどあり得ない。独断で動いたのではないだろう。誰かが煽っていたのだ。

 それは揚州牧・劉繇かもしれないし、曹操のような外敵かもしれない。どちらにせよ、あるいはそれ以外の誰にせよ、紀霊にとって大差なかった。肝心なのは、「敵がいる」という事実だ。

 

 袁家の秩序と人民の安全を脅かす敵がいる。そして敵は実力で排除されなければならない――それさえ理解できれば、紀霊にとっては十分だった。

 

「もし揚州全体が関与していたなら、こりゃ袁家に対する反逆だ。そうなったら、揚州名士の大半を消す必要があるよなァ?」

 

 ほとんどの人民委員が息を飲む。最終的に、10万人もの軍勢を敵に回す可能性のある粛清を断行しなければならないとすれば、とんでもない大事である。下手に長引けば内戦まっしぐらであり、多方面に敵を抱えている袁家にとっては深刻な脅威となる。

 

「だが、まだ可能性の話だろう? そこまで性急に結論を出さずとも……」

 

「しかし近縁の揚州の急速な進歩と軍備拡張は、いずれ連中が我らの脅威になることを示唆しておる。反乱の芽は早いうちに摘んでおくべきだ」

 

 会議室は続く袁渙の発言に動かされて雰囲気が一変していた。議論は紛糾するも、論点は破壊をどこまで留めるかであって、揚州への対応は最初から決まっていた。州牧・劉繇およびそれに関係のある揚州名士については、全員を逮捕・粛清することに一切異論は出なかった。

 

 これまでの袁家は間接アプローチを是とし、力尽くでねじ伏せる行為を無能と蔑んでいた節がある。しかし今の袁家には、最早そんな余裕は残されていなかった。経済封鎖をしたり、交渉によって合意形成を行う時間はない。

 ここまでは袁家側の都合であったが、では交渉の余地があったのかと問われればそうとも言えなかった。そもそも先に強硬手段に出たのは揚州の側であり、まともな組織なら勝算なしに強硬策など取りはしない。もし袁家から商品の代わりに兵士を輸出されようと―――暫くの間は自分たちだけでやっていけるという自信があるのだ、揚州には。

 

 

 

 ◇◆◇ 

 

 

 

 外に対して脆弱な軍勢が、時として内には強い。袁術軍はまさしくそうした軍隊であった。これまでのところ、袁術軍はいかなる反乱をも、のさばらせはしなかった。人民委員会議で揚州への懲罰的な遠征が承認されると、袁術軍はすぐさま本領を発揮した。

 

 まず外務委員長・閻象は、袁家に次ぐ揚州のキーパーソンである荊州牧・劉表を中立化させる事に成功する。軍務委員長・袁渙の動きは更に迅速だった。財務委員会と連携し、戦費と調達と兵の動員を一ヶ月以内に完了させる。

 

 野山を埋め尽くす6万の軍勢は、まさに壮観の一言だった。4日後には追加の増援2万も参加する。対する揚州は総兵力こそ10万だが、各豪族の私兵の寄せ集めでしかないため、一度に集結できる数はせいぜい4万程度でしかない。誤解のないように付け加えると、揚州軍の動員兵力が少ないのではなく、袁術軍が多いのだ。

 

 袁術軍は強制挑発された民間船に乗って長江を超え、3週間以内に全軍が揚州の地に上陸した。先発部隊は既に遥か前方で展開しており、敵情報告をもたらしている。その伝えるところによれば、揚州軍は3万に達する兵力を要塞に集結させたという。

 牛渚要塞、ここには揚州軍の武器と食糧が蓄えられており、長江と湿地帯という自然の要害を利用して、防勢正面を狭めていた。もっとも、要塞そのものは城壁に囲まれた永久築城ではなく、強力な補給拠点といった類のものだった。

 

 この時、袁術軍には2つの戦術目標が与えられていた。1つ目は揚州軍の殲滅であり、2つ目は牛渚要塞の占領である。袁術軍総司令部は無益な攻城戦を避けるべく、短期決戦での包囲殲滅を狙う。具体的には部隊を3つの軍団に分け、囮が敵軍を要塞から引きずり出し、野戦で撃滅するという戦法である。

 

 第1軍団は囮を担当。司令官は紀霊。兵力1万2000

 第2軍団は要塞から誘引された敵軍の側面を圧迫。司令官は華雄、兵力2万4000

 第3軍団は敵後方に回りこんで退路を断つ。司令官は孫策、兵力は2万

 

 揚州動乱の緒戦となった“牛渚の戦い”であるが、その勝敗は半日も経たぬうちに決した。

 

 この日、最初に戦場に到着したのは紀霊将軍の率いる第1軍団であった。自軍より少ない袁術軍の姿を認めた揚州軍司令官・樊能は大きく悩まされる。防御の優位を捨てず要塞に籠るべきか、袁術軍が集結しない内に要塞から出て各個撃破を目論むべきか……熟考の末、樊能が選択したのは後者であった。

 

 両軍の接触はその二刻後であり、この時点で数的優位は揚州軍にあった。しかし袁術軍司令官・紀霊は彼我の戦力差をものともせず――それどころか作戦そのものすら無視して――猛攻を開始する。

 

「カハッ、ははははははははははは―――――ッ!」

 

 紀霊は戦場を跳ね回り、まるで加減を省みず武器を力任せに叩きつける。武器ごと敵の体を砕き、死体から得物を奪い、それで再び破壊をもたらす。

 

「遅せェ、遅せぇぞ! テメェらの力はそんなもんかよォ!!」

 

 常識で考えればまったくの異常事態。万を超える軍団指揮官が、自ら戦場で武器を振るうなど狂気の沙汰でしかない。

 だが、常軌を逸した行動に反して、紀霊の指揮そのものは適確だった。接近する揚州軍の姿を認めるやいなや、保有する弩兵と弓兵の全てを強引に前進させて足止めを行わせた。数で上回る揚州軍が浮ついたのは僅かな間でしかなかったが、紀霊は間髪入れずに全騎兵部隊を突撃させる。

 

 馬上槍突撃(ランスチャージ)――長大な槍を構えた騎兵による突撃、これが袁術軍騎兵の主な戦い方であった。銅鑼が鳴り響き、1000騎の騎兵が口々に大音声を発しながら愛馬を走らせる。20尺(約3.5m)前後の槍と剣で武装した袁術軍騎兵は、更に100騎ほどの小グループに分かれ、横列を組んで疾駆した。それぞれの小グループは広く散開し、揚州兵の黒目が見える距離まで速度を上げると、グループごとに密集しながら突撃する。

 

 もちろん揚州軍も必死に応戦しようとはした。しかし序盤の袁術軍による射撃で部隊の足並みが乱れている中、散開しながら高速で移動する騎兵を捉えるのは至難の業だ。全軍が乱れているために防御の構えを取るには時間が足りず、かといって弓兵で射撃しようにも照準ないし火力の集中が追いつかない。

 

 浮足立った揚州軍が放つデタラメな射撃をものともせず、袁術軍騎兵は敵軍の只中へと突入した。その威力は凄まじく、衝撃で騎兵槍の大半が折れてしまうほど。しかし大半の兵士は、騎兵の運動エネルギーを正面から受け止める前に逃亡していた。揚州軍の兵士たちは鎧を脱ぎ捨てて逃げまどい、戦列の至る所で虫食い状に穴が開き始める。それはさながら、水漏れの生じた決壊前の堤防であった。

 

 一方の袁術軍は、そのまま勢いに乗って総攻撃を開始する。騎兵の開けた戦列の間隙に向かって、後続の兵士たちが続々と突っ込んでゆく。

 

「いいねぇ、やっぱこうでなきゃなァ!! 戦場ってのはよォ!!」

 

 紀霊の顔が加虐の満足感に歪む。嬉々として肉を切り、返り血をさも美味しそうに舐めて拭き取る。一通り周囲の敵を一掃すると、新たな獲物を探し始める。そして見つけたのは、辛うじて戦列を維持している槍兵の一団。

 

「へぇ、こりゃあ驚きだ。やれば出来るじゃねぇかよ………てめぇら、簡単に死ぬんじゃねえぞ?」

 

 狂気の奔流が進路を変えた。落ちていた斧を引っ提げ嬉々として突っ込む司令官と、それに付き従う1万の軍勢。勝ち戦で調子に乗った袁術軍は、嗜虐の喜びに目覚めていた。血に酔った人間に特有の、異様な興奮に支配されているのだ。

 

 

 三刻後、揚州軍の陣営は壊走していた。要塞司令官・樊能は逃走。死傷者は確認できただけで5000名近くにも上る。牛渚要塞は無傷のまま、武器・食糧ともに袁術軍の手に落ちた。3万対1万2000という数的優位にありながら、この結果である。まさに惨敗であった。

 

 対する袁術軍は、これまでの弱兵ぶりが嘘であるかのような勝利を収める。否、現場にいた兵たちの言葉を借りれば「大勝利」であった。

 

 ――少なくとも、戦術的には。

 

 

 ◇

 

 

 翌日、「3倍の敵を蹴散らした名将」紀霊は身に覚えのない責めを受けていた。

 

「バカじゃないの!? 敵軍を蹴散らしてどうすんのよ!」

 

「あァ?」

 

 前線視察に来た劉勲から開口一番、功績を全否定するような言葉が飛び出る。この反応は紀霊としても予想外であった。これほどの大戦果、大勝利なのだ。特に出世や賞賛には興味のない紀霊であるが、一ヶ月は遊郭通い出来るだけの賞金ぐらいは期待しても罰はあたるまい。。

 しかし戦場に遅れて到着した2人の同僚(孫策、華雄)、そして劉勲に勝利を報告した彼に与えられたのは、女性特有の甲高い金切り声だった。

 

「ったく、自分から数的優位を捨てるとか信じらんない! せっかく完璧な計画を立てたのに……これじゃ作戦が台無しよ!」

 

 紀霊は訝しむ。目の前で自分を糾弾している女、劉勲が何を言っているかさっぱり分からなかったからだ。

 

「ンだよ、クソババァ。勝っちゃ悪ィのかよ」

 

「ええ、そうよ!」

 

「ババァも含めて否定しないのかよ」

 

 だいいち軍人に勝つな、というのは本末転倒もいいところだ。やはり何故責められているのか分からない。分かったのはせいぜい、やっと劉勲が若作りを諦めて婆の自覚を持った事ぐらい。

 

「紀霊、あなた絶対に“取りあえず目の前の敵を殴ればいいや”とか思ってたでしょ。そもそも作戦の意図って考えたことあるワケ?」

 

 怒れる劉勲は、立ちつくす紀霊に向かって嫌味と愚痴を連弩のように浴びせかける。

 

 ――こういう時は適当に相槌を打つに限る。反論したり、自分の意見を述べてはならない。

 

 紀霊の経験上、キレてる時の劉勲とは会話が成立しない。そもそも劉勲も会話をする気がないのだろう。事の正否は問題ではない。単にストレス発散のため、自分の言いたい事を言っているだけなのだ。ゆえに否定したり、会話を遮ってはならない。気の済むまで喋らせておき、精神の安定を――。

 

「……紀霊、アナタちゃんと人の話聞いてる?」

 

「ああ」

 

「じゃあアタシがなんで怒ってるか、原因を言ってみなさい」

 

 知るかボケ。 紀霊はそう思ったが口には出さず、辛うじて聞き取っていた(あるいは嫌々ながらも耳に入ってしまった)劉勲の言葉を反芻する。何となく、思い当たる節はあった。どうやら目の前の面倒な女が苦労して考えた“完璧な計画”とやらを、自分が台無しにしてしまったらしい。

 かなりアバウトにそう伝えると、劉勲はむくれながらも渋々といった様子で頷いた。どうやら彼女の方も、もともと紀霊の誠実さと理解力には期待していなかったらしい。

 

「まぁ、だいたいそんな感じよ。揚州は広いから、持久戦の構えを取られると厄介なの。だから敵主力を決戦に引きずり出して、包囲殲滅まで持ち込むつもりだったのに………これで泥沼確定だわ……」

 

 

 ともかく、揚州で起こった動乱は、当事者たちの予想以上に長引きそうであった。

 

 現状、軍の質と量、戦術・作戦レベルの全てにおいて袁術軍が優位にあるが、戦略レベルではそうとも言い切れない。袁術軍のみを相手取ればよい揚州軍に対して、袁術軍は徐州にいる曹操軍との2正面戦線。しかも徐州の劉備、そして荊州牧・劉表という油断のならない同盟者を抱えている。豫州には反乱軍の残党もいるし、本拠地・南陽郡ですら暴動と一揆が頻発している。

 獅子身中の虫を抱えた獅子……傍目には巨大でも、その内実は見かけ倒しでしかなかったのだ。




 袁術軍は弱くない!……いや、強い!

 数でごり押しとか言われてる軍隊だって、格下と戦えば少数で多数を撃破出来るんです。露土戦争とか……。
   

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