右手に持ったマイクを通して優しく透き通る声音がドーム中に響き渡る。この言葉を発するただそれだけでこの空間を掌握しているように思える。
僕は榛名優
ではない。
正確にはこの『世界』にいる榛名優に転生した別人だ。俺は前世で急性心筋梗塞で呆気なく20年という短い生涯を終えたらしく神様が可哀想だからもう一度人生やり直してこいと言うので仕方なく首を縦に振ったという経緯だ。
神様が光る杖で俺の頭を軽く二度叩くと俺は光に包まれ気がつけば大好きだった『風夏』の主人公に転生していた。正直最初は戸惑ったよ大好きなマンガだったからこの『世界』に転生できたことは嬉しかったけど自分がいざ主人公の立場になるとくるものがあったよ。
というわけで俺は榛名優として二度目の人生を歩むことになったのだがこれまたマンガで読んだことがそのまま全く同じタイミングで起きるから対応に困ったよ。一語一句間違わずに立ち振る舞いから作らないとズレが生じるからね!
まあ、今はそのズレがとんでもないことになっているのだけど…。それはおいおい話すとしてこれまでのことを簡単に説明しよう。
最初の風夏との出会いはそのままで携帯壊され引っ越しして初登校から携帯を忘れて翌日には空の写真を撮っていると風夏が偶然映り込んでしまい代機まで空に投げられるというそのままの展開が待っていた。
そして那智先輩との風夏のいざこざを夏の海の家のバイトでどうにか終わらせ夏開けに三笠を含んだ3人で軽音部を強制的に同好会として結成させられた。
那智先輩は見た目は怖いけど本当は仲間想いで友人想いの人間なんだと目の前で見て思ったよ。三笠は目の前で見ても爽やかイケメンだなと思ったね。同性愛者の発言をされても嫌ではなかったかな俺にとっての親しい友人だし数少ない俺ではない榛名優の友人なんだからさ。
原作では海の家でベースを弾いてなかったけど俺は弾いたからね!前世ではまったく弾けなかったけど榛名 優の体に宿ってからは基本的なことだけは自然とできたよ。んで風夏の歌声は本当に心が体が震えたよ。
なんかね心から楽しみたいもっと続けたいって自然と思わさせられる不思議な力を持った声だった。
んで紆余曲折があって家の前で幼い頃の約束の仕方指切りをファンに写真撮られて学園祭に繋がるんだけどそろそろ言葉での回想やめたほうがいいよね?
次からその場面のこと思い出すから見てね。正確には自分が格好いいこと言ったのを知って欲しいだけなんだけどねではどうぞ~。
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「優!ちょっとこれ見てよ!」
朝寝ていると姉の響が知歳を連れて慌ただしく俺の部屋に入ってきてゆっくり寝たかったのに起こされた俺は少し機嫌が悪かった。
「朝早くに何?2人とも」
「いいからこれ見てよ!」
差し出されたスマフォを見るとTwitterに俺と氷無小雪との指切り写真がアップされており驚くべきスピードでリツイートされていく。俺が見ている5秒の間にも10回以上リツイートされていく。
「…マジか」
「どうすんの?」
「どうする言われたって…」
そう原作と同じように俺はどうすることもできない。昨日のあれは約束を交わしただけだが見方によっては恋人同士に見える。本当のことを言えば収まるかもしれないがファンは信じないだろうし余計にヒートアップさせることになりかねない。
おそらく氷無小雪も同じようなことが事務所で起こっているだろう。Twitterや電話で連絡を取ることは可能だが今連絡すれば余計に不安にさせるかもしれない。今は我慢するしかない。
「取り敢えず学校には行くよ」
学校に行く間俺を見る視線が突き刺さり気分が悪かった。露骨に声をかけたり写真を撮るような輩はいなかったが俺の方を指さしながら友人達とひそひそ話しているのを見ると陰口と同じで精神的にきつい。
「原作と同じようになんか言われるんだろな」
教室のドアを開けて中に入るとクラス中から視線が突き刺さり予想通りの結末にげんなりするがそんなことをお構いなしに声をかけてくる。
「榛名あれ何だよ!?」
「お前ら恋人同士なのか!?」
「いや、その」
「ふざけんな!なんでお前なんだよ!」
「よく告白したな氷無小雪」
俺が何か言おうとしても他の質問に邪魔され説明できない。人によっては胸ぐらを掴まれ今すぐにも殴りそうな形相をした男子生徒までいる状況は余計に俺を疲弊させた。
ちらっと窓の奥に座る友人に目を向けると顔を背けられもう1人に視線を送るが「人が多すぎて助けに行けない」とノートに書いて見せてきた。
まあ、そりゃ15人も押し寄せてきてたら1人では助けに行けないよね俺でもその時はスルーしてると思うから気持ちは分かる。
「はーいHR始めるから座ってね~」
担任の友美先生のおかげでその場はなんとかなったが一日地獄だったのは言うまでもない。一番辛かったのは氷無小雪を応援してくれていた風夏と口をきけなかったことだ。それは俺としても榛名優としても悲しかった。
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風夏とも和解しあれよあれよという間に学園祭当日、体育館の舞台袖から少しだけ覗くと予想以上の集まりに引いてしまう。まあ、引いた理由の原因の大半は柄の悪い奴らばっかだったことだね。
「摩耶姉や響、知歳、バンドメンバーがいるから怖くはない!」なんて言えたら格好いいけど俺は原作崩壊させるわけにはいかないから言えない…。でもあんなこと言われたらやるしかねえよな。
『バンドメンバーも同罪だこらー!謝罪しやがれ!』
だったらまず俺1人で出てやると覚悟を決め出ようとすると那智先輩に引き留められた。
「何するつもりだ?」
「…みんなに迷惑がかからないように僕が全て受け止めます」
「そういう意味じゃねえよ!それでてめえが怪我したらどうすんだよてめえがいるからこのバンドは成立するんだろうが」
「その通りだよ優君」
「秋月?」
那智先輩の後ろには堂々とした秋月が立っているそれも誰より強い「成功させる」という思いが込められた空気を纏って。
「風夏の言う通りだね」
「ええ、本当に」
三笠も沙羅先輩も同感らしく決意に満ちた表情で俺を見てくれる。
「兄さんからの伝言『文句を言うやつには自分に出来ることで黙らせろ』だって。風夏ちゃんは歌声で那智先輩はドラムで三笠君はキーボードで私はギターでそして優さんはベースで見返してやりましょう」
「じゃあ行こうか『伝説』を作りに」
「うん!」
そうだ原作の榛名優はこんな素晴らしい友人と先輩達に励まされてみんなが共感する今日を書き続けたんだだったら俺もやるっきゃない。
「おい、お前の覚悟あとで聞かせろよ?」
「え?」
「お前の気持ちは全員が知ってるだからここでお前の覚悟をベースに乗せて伝えるんだそれと言葉でもな」
那智先輩は俺の気持ちを知っているらしいいや全員が知っている。それでも俺のために動いてくれるのだろうかこんな危険を冒してでもそこまでして俺の気持ちを伝えなければならないのだろうか。
準備をするためにステージに向かう4人の背中からはライブを成功させるという気迫が伝わってくる。ここで引き下がったら弱虫以下だだったらベースを弾く指が折れるまで弾き続けるんだ。
意を決しステージに立つと野次と怒声が飛び交う。
「出てきたぞ!」
「ぶち殺せ!」
「Twitterに氷無小雪と一緒に映ってたオタクっぽい奴だぞ!」
無視してセッティングをしていると原作通り瓶が飛んできた。ベースにぶつかって割れた破片が顔を引き裂き血が流れるのが分かった。
「榛名!」
「優さん!」
「「優君!」」
4人が走り寄ってきて心配してくれる。
「お前血が出てるぞ!それにネックが折れてるな…」
「こんなのすぐには直せない…」
「よっしゃ命中!もう一発バンドメンバーも同罪だ!」
2本目が秋月に向かって飛ぶが俺はすぐに立ち上がり風夏を護るように集団に向けて背を向け手を広げる。背中にかなりの衝撃が広がるが不思議と痛みは感じなかった。
「優君!」
風夏の心配を無視して投げつけた本人を睨み付ける。
「おい、てめえら誰に物を投げてやがる」
冷え切った声を聞いた投げつけた本人を含めた大勢は震え上がった。
「瓶は投げつける物じゃねえだろうが。俺に投げつけるのは構わないだが他のメンバーに手を出したら俺はてめえらをぶっ殺すいいから黙ってそこで見ていろ俺達がどれだけ必死にこの日のためにやってきたのか見せてやる。文句があるならライブの後に聞くだがライブ中に邪魔すれば首がないと思え」
振り向くと唖然とした表情のメンバーが俺を見ている。
「どしたのみんな?」
「お前本当にいつもの榛名優か?」
「当たり前じゃないですかそれより早くしないとまた投げつけられますよですよねヤッさん?」
「「「「え?」」」」
舞台袖にはベースを持ったヤッさんが驚いた様子で立っている。
「お前こっち見てねえよな?」
「ヤッさんなら来てると思っただけですよそれで何のようですか?」
「ベース壊れたらライブどころじゃねえだろうがほらよ」
渡されたベースを見て原作を知っている俺でもその存在感に圧倒された。
「これは…」
「ニコに殺されるから壊すなよ?俺は特等席で見させてもらうぜ」
「もう大丈夫ですさあ『伝説』を作りに行きましょう!」
笑顔を見せると全員が気持ちを察してくれたらしく準備に取りかかる。
「さあ始めようか」
風夏の言葉が引き金となり那智先輩が合図を送る。
風夏のプロ顔負けの声量と世界観に集った人達は魅了されている。その声に合わせて俺もハモりで歌う。
サビに向かって風夏の声と三笠、那智先輩、沙羅先輩そして俺もヒートアップしていく。すると今まで圧倒されているだけの人達が音楽に乗り始めた。
短い中で完全に会場を自分達の世界に取り込んだ風夏の声は世界まで響くだろうそう錯覚させるほどだった。
「みんな聞いてくれてありがとうここでサプライズしようと思います」
俺はベースを風夏に預け観客に成り代わった人並みを抜け1人の女性の手を握りステージに上る。向かい合って帽子と眼鏡を外すとメンバーが驚く。
「榛名気付いてたのか?」
「確証はありませんでしたけど近付いて確信しました。たまちゃん一緒に歌おうよ今しか出来ない世界を作るんだ」
「やろうよ小雪ちゃん『星の降る街』!」
「うん!」
俺のマイクを渡し三笠が優しい音色を奏で始める。先程とは違いアップテンポではなくスローバラードが『Climber's High!』の余韻が残る会場を包み込む。
Hedgehogsの代表曲でもあり原作の榛名優、氷無小雪、風夏が大好きだった『星の降る街』だ。
ハモりではなくユニゾンで歌うからこそ2人の良さが最大限に発揮されるのだと俺は思った。
本当に凄いんだこの2人は日本が世界に誇る歌声を持っているって思った。
「今回私の軽率な発言でいろいろとお騒せして申し訳ございませんでした全ての責任は私ですにこ君は何も悪くありません本当に申し訳ありませんでした」
突然の謝罪に一同は困惑を隠せないがさらに困惑させる発言を俺がしてやる内心クソ人の悪い笑みを浮かべていたのは内緒だけど。
「ここで僕からも言わせてもらいます僕はたまちゃんの告白を受け入れます。今回返事をせず黙っていたのはあの場で余計なことを言えばたまちゃんに迷惑がかかると思ったからです。たまちゃんこれからよろしくお願いします」
「はい!」
氷無小雪はとてもかわいらしい笑顔でイエスと返事をして俺に抱きついてきた。
「「「「「「「「…えええええええええええ!」」」」」」」
一同は一拍おいて絶叫した。「いやあぁぁぁぁぁ!!!」「嘘だろぉぉぉ!?」「くそー謝罪受け入れて損したぁぁぁぁ!」といった嘆きや怒りが聞こえるが俺は完全に意識からシャットアウトして胸にすり寄ってくる氷無小雪を優しく抱きしめた。
「やれやれここで言うとは」
「さすが優さんです!」
「優君、小雪ちゃんおめでとう!」
「ふふ僕も抱きしめてよ優君」
「てめえは離れろ」
約一名おかしな発言をしてくるので氷無小雪を護るように離れる。
「お幸せにな」
ヤッさんも気恥ずかしいのか舞台袖からニコのベースをもって逃げるように去って行った。
片付けを終え追い出されるように学校から出ると氷無小雪が校門前で待っていた。でも何故か野次馬や生徒もいないのである意味不気味だ。
「どうしたのたまちゃん?誰もいないけど」
「事務所と警察に連絡して封鎖してもらったの一緒に帰りたかったから…ダメかな?」
無茶苦茶可愛いと思った同時にずっと護らなきゃダメだって思った。
「ダメじゃないよ僕も一緒に帰りたかったからさあ帰ろうたまちゃん」
「うん!」
俺の差し出した左手を花の咲くような笑顔で優しく握り返してくれた。
「にこ君ずっと一緒だよ?」
「うんずっとだ」
俺は強く細いでも力強く生きている右手を握り返した。
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『それでは最後の曲聞いて下さい【雪花火】』
氷無小雪がアンコール最後の曲をアナウンスするとドーム内は大きな歓声に包まれた。
俺との交際が公になってから最初に出したこの曲はスキャンダルで全く売れないだろうという批評家の想定を覆しその年最大のヒットとなった。
その勢いは年内に留まらず翌年も売れ行きを伸ばし累計販売枚数はダブルミリオンを記録し音楽会に残る偉業を成し遂げた。
三笠によって名付けられた俺達のバンド『The follen moon』はあの学園祭を機に氷無小雪と同じ事務所と契約を交し正当なバンドにのし上がった。
初めてみんなで作った『Fair wind』をはじめ『for you』『Wings of light』『&you』など数々のヒットを世に送り出した。活動はメンバーの予定に合わせて行うため活動できない次期が多くライブチケットが販売されると瞬く間に売り切れな状態だ。
今日は氷無小雪ドームツアー最終公演最終日のためアンコール以外の楽曲は全てファン投票で行われている。アンコールは2曲のみだが1曲目の『星の降る街』もとても良かった。あれほどの完成度で歌えるアーティストは日本にもほとんどいないだろう。
今の俺は氷無小雪のベース兼マネジャー兼婚約者という立ち位置だ。学園祭から3年経ち卒業と共に氷無小雪からベースオファーと逆プロポーズには驚かされたがいつでも側にいれるのだから文句を言えばファンから罵倒されるのは目に見えている。
俺と氷無小雪の婚約が大々的に報道され批判的な意見が多いと思ったが意外と肯定的な意見が多く安心した。その背景にはあの学園祭で逃げずに演奏を続け観客の前で告白したのが大きな要因だとかではないとか…。
歌い終わると割れんばかりの拍手とドームが壊れるのではないかというほどの歓声が起き今回のツアーは大成功を収めた。
「にこ君お礼を言わなくちゃ」
「うん」
バンドメンバーと手を取り合いお礼を言い半年にわたる『氷無小雪ドームツアー』は幕を下ろした。ライブを終え大成功したことに喜んでいる氷無小雪の笑顔を見て俺は原作のファンという視点からではなく1人の男として氷無小雪を愛そうと心に深く刻み込んだ。
俺と氷無小雪いやたまちゃんとの二人三脚はいつまでも続く死が2人を分かつときまで。
「たまちゃん、ライブ終わった後で悪いんだけど少し良いメロディーが浮かんだから聞いてくれないかな?」
「うん、にこくんの曲聞かせて!」
たまちゃんの透き通るような声が個室休憩室に響いた。
歌の良さを伝えたくて歌詞を書いたら「著作権に引っかかる可能性がある」とご指摘頂いたので削除いたしました。でも良さを伝えたい!聞いてほしい!どうすればいいですか?