【短編】誘われて隣人になり、気付けば通い妻になっていた話   作:ウルハーツ

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何となく思い付いて書いてしまった短編その3です。


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 私には2人の幼馴染がいる。家が隣同士で私が物心つく時からずっと一緒だった。その2人は姉弟で、弟君と私は同い年。だから小学校や中学校が殆ど一緒で、お姉さんの方は少し年上だったから小学校以降は同じ学校で会う事等殆ど無かった。でも窓を開ければお姉さんの部屋が見えるし、お互いにバルコニーに出て話す事もあれば飛び移って部屋に遊びに行くことだってあった。だから学校とかでは一緒じゃ無くても、殆ど毎日顔を合わせてたと思う。

 

 ある日、私と弟君。そしてお姉さんは人生の岐路の1つである進路について話す事になった。私と弟君は中学校を卒業して、お姉さんは高校を卒業する。私は家から一番近い高校に通おうかと考えていたけれど、そこで私はお姉さんに言われた。

 

『今の場所から離れて違うところに行くのも良いかも知れないよ?』と。

 

 確かに私は生まれてからずっと同じ町で過ごして来た。お父さんもお母さんも心配性だから1人暮らしとかは難しいかも知れないけど、町の外を知る為に行動を起こす良い機会かも知れない。……少し考えていた時、今度は弟君が自分が通おうと思っている高校について話し始めた。そこは隣町の高校で、家から通うとなれば少し今までよりも早起きするだけで済むような場所。偏差値が少し高い場所だけれど、成績は私も弟君もお姉さんと言う家庭教師のお蔭で悪く無い。そこに通うのも選択肢の1つだった。

 

 町から離れるか、今の町で暮らし続けるか……大きな選択だと思う。悩む私に今度はお姉さんが静かに、そして寂しそうに語り始めた。何でもお姉さんはもう行きたい大学を決めたらしい。だけどそこは今の家から通うには遠くて、だから大学生になると同時に1人暮らしを始めるとか。何時も一緒に居たお姉さんが居なくなってしまう事実は思った以上に衝撃で、私は声が出なかった。でもその後に続けたお姉さんの言葉に私は絶句してしまう。

 

『一緒に町を出て見ない?』

 

 お姉さんが私に町の外へ出る様に進めたのは、自分に着いて来て貰うため? 確かに仲が良いし私だってお姉さんの事は大好きだ。でもまさか自分の進学に合わせて私を誘うとは思わなかった。当たり前の話だけど、私がお姉さんの希望する大学に通える訳じゃない。でもお姉さんの話によれば先程弟君が提案した隣町の高校と偏差値も然程変わらない高校が大学の近くにあるらしい。驚きながらも私は再び悩み始めた。……私が俯いている間、お姉さんと弟君の間に火花が散ってた事なんて知りもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果から言えば、私は町の外へ出る事に決めた。生まれてから15年。過ごして来た町を出るのは不安で仕方が無かったけど、何れは親元を離れる必要がある。高校生で1人暮らしをするのは少ないかも知れないけれど居ない訳じゃない。最初お父さんやお母さんに反対されたけれど、お姉さんと同じマンションで過ごす事を知って悩んだ末に了承してくれた。……そう、私はお姉さんが大学に進むと同時に住み始めるマンションで同じ様に1人暮らしを始める。お姉さんは一緒の部屋でも良いと言っていたけれど、流石にそれは断った。そしてお父さんと話をした後、私はお姉さんが住む部屋の隣に住む事になった。

 

「ふぅ……こんな物かな?」

 

 私は見慣れない間取りや壁の色、窓の外に広がる景色を視界に納め乍ら額を拭う。まだ微かに寒さが残る時期だけれど、実家から運んで貰った家具の整理をすれば流石に汗も出る。流石に女1人でタンスとかを運べる訳じゃないから、そこは引っ越し業者の人に任せたけど。

 

「実家……1人暮らし、か……」

 

 これからはお父さんやお母さんが住んでいる、今まで私が住んでいた場所を実家と呼ぶ。そう考えると複雑な気分だった。まだ初日と言う事もあって当然乍ら今居るこの部屋が自分の家、という感覚が無い。何処かの家にお邪魔している気分だ。まぁ、何れそれも慣れて来るだろう。

 

「っと、報告しなくちゃ」

 

『部屋の整理が終わったら教えてね?』

 

 そう言ったお姉さんの言葉を思いだした私は家の鍵を手に玄関から廊下へ出る。施錠をしっかり確認した後、隣の家に向かえば【新田】と書かれた表札を確認して玄関の前でインターホンを1回。微かに聞こえるチャイムの音が響いた後、しまっていた扉の鍵が開いた。そしてそこから顔を見せるのは幼馴染のお姉さん。茶と言うよりは栗と言った方が正しい色合いの髪を長く伸ばし、毛先を揺らしながら私の顔を見てニッコリと微笑みを浮かべたお姉さんは私に部屋の中へ入る様に促した。

 

「一通りの整理は終わったよ。安心して」

 

「そっか。あ、何か飲む? まだ冷蔵庫は冷えて無いでしょ?」

 

「うん。じゃあ、お願い」

 

 十年以上一緒に居たせいか、遠慮と言う物はお互いに無いと言って良い。お姉さんの言う通り部屋の整理は終わったけれど、届いたばかりの冷蔵庫などは殆ど冷えていない。一応飲み物は用意していたけれど、現在部屋に置かれているであろうそれは多分常温になっている。流石に冷たいのが飲みたいから、お姉さんの提案に頷いて私は置いてあったテーブルの傍にあるソファへ座り込んだ。部屋を見渡してみれば、棚の上に置かれた写真の集まりに視線が止まった。私と弟君がお姉さんと一緒に映ってる写真やお姉さん達の両親が映る写真。私だけが映る写真もあるし、お姉さんとのツーショットもある。まだ1日目なのに、私はもう懐かしいと思ってしまった。

 

「はい、ぶどうジュース。好きだよね?」

 

「ありがとう。……ふぅ。美味しい」

 

「ふふ、良かった。1人暮らしは大丈夫そう?」

 

「正直まだ分からないよ。でもお姉さんも居るし、それ程不安は感じて無いかな」

 

「何か困った事があったら遠慮なく言ってね?」

 

 聖母の微笑み。そんな言葉が似合いそうな程に優しい笑みを見せるお姉さんに私は頷いてもう1度コップを手にジュースを口に流す。数日後、私は高校生に。お姉さんは大学生になる。私は分からないけれど、お姉さんなら簡単に彼氏を作る事も出来るだろう。お姉さんは私達が住んでいた町の中で一番可愛くて綺麗だった。身内……じゃないけれど、一緒に居た故の贔屓目が混じっているかも知れない。でも私はお姉さん以上に綺麗な人にあった事がまだ無いと断言出来る。だから大学内でお姉さんは噂になるかも知れない。新しい場所に居るのだから、他にも綺麗な人はいるかも知れないけれど。

 

「明日はどうするの? 学校は来週からだよね?」

 

「駅からここに来る途中で古本屋があったみたいだから、どんな場所か見たい。後は適当に家の周辺も知りたいと思う」

 

「お買い物もしないと駄目だよ?」

 

「あぁ、そうだった」

 

 今まで家事の手伝いをする事はあってもその全てを担った事は無い。でもこれから1人暮らしをするのなら、当然その負担は全て自分で背負う事になる。幸い生活費についてはお父さんが仕送りをしてくれると言ってくれた為、無理にアルバイトをする必要は無い。だからまずは自分で自分の生活を管理出来る様になる必要がある。

 

「良ければ明日は一緒に外に出て見ない?」

 

「そうだね。お姉さんが良いなら私は問題無いよ」

 

 翌日の約束をして、私はお姉さんの家から自分の家へ戻る事にした。私達がこれから住むマンションにはリビングとは別に玄関から続く廊下の途中で部屋が1つだけある。お姉さんの家にあるその部屋は扉が閉じられていて中が見えなかったけど、そこは私が気にする事じゃ無いだろう。因みに私はその部屋を寝室にするつもりだ。あぁ、もしかしたらお姉さんも同じかも知れない。さっきも思ったけど、私が気にする必要は無いだろう。

 

 整理の終わった部屋を見渡して、私はお風呂に入るなどして今日1日の残り時間を過ごす。既に運んで貰ったベッドは寝室にある為、布団をセッティングすれば後は眠るだけ。明日も忙しくなりそうだと感じ乍ら、私は慣れない部屋の雰囲気を感じて眠りに付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の流れは早いもので、私が1人暮らしを始めて1年が経った。最初の1月程は慣れない事に苦戦する事も多かったけれど、半年もすればそれが当たり前になる。時にはお姉さんに助けて貰う事もあった。だけど今では大抵1人で熟す事が出来る様になったと思う。

 

 私の予想通り、お姉さんは大学で噂になる程の美貌だったらしい。ミスコンでは1位に輝いたらしく、恥ずかしそうにその事を話す姿は今でも覚えている。幼馴染として、私も誇らしい気分だった。他にもラクロス部に入った事や友達が出来た事等を話してくれるお姉さん。私の話も聞きたがるから、お互いにお互いの生活について大分理解していると思う。因みに私は友達と言える存在が1人だけ出来た。と言っても学校に居る人では無い。学校では良くて知り合い程度であり、部活も入っていないから。私の友達はこの街に来た際に気になった古本屋で知り合った年上の人。学校のクラスメイトよりも話した回数は少ないけれど、私が少し心を許しているのは間違い無いと思う。

 

「?」

 

 突然部屋の中にインターホンのチャイムが鳴り響いた。宅配等で来客はあるけれど、今は何も注文していない。セールスか何かの勧誘か……いや、それ以上に可能性が高いのはお姉さんかな? 考えながら扉越しに覗き穴で外を見れば、そこには予想通りお姉さんが立っていた。唯その雰囲気は何時もと違う。何か、迷ってる?

 

「あ」

 

「お姉さん、何かあったの?」

 

「う、うん。少し相談したい事があって」

 

 扉を開けてすぐに話し掛ければ、頷いた後にそう続けたお姉さん。流石にこのまま玄関の外に立たせて置く訳には行かない。私はお姉さんに家の中へ入って貰い、扉を閉める。お互いにお互いの部屋に入るのは慣れた事で、お姉さん専用のクッションとかがソファには置いてあったりする。逆も然り。

 

「あのね、私……あ、アイドルにスカウトされたの」

 

「アイドル? テレビとかで見るあの?」

 

「うん」

 

 お姉さんの相談内容に私は驚かずにはいられなかった。今まで綺麗だと思った事は何度もあるけれど、まさかスカウトまでされるとは思わなかった。私の綺麗だと思うレベルは幼い頃からお姉さんが基準だったから、ハードルが少々高いのかも知れない。そのスカウトが正真正銘本物の芸能事務所からなら、お姉さんは綺麗の中でも抜きん出ている証明と言えるだろう。私はまずそのスカウトして来た相手が信用に値するかを調べる事にした。貰った名刺の名前と事務所の名前を確認して、ネットで事務所について調べる。……名刺に書かれていた事務所の名前は、美城プロダクションだった。

 

「結構な大手事務所だね……本当にそこの人なら、凄い話だと思うよ」

 

「どうすれば良いと思う?」

 

「……お姉さんはどうしたいの?」

 

「私……?」

 

「そう。今ここで無責任に受けた方が良いって言うのは簡単だと思う。逆もそう。でも一番大事なのはお姉さんがどうしたいか、だよ」

 

「私が、どうしたいか……」

 

 幼馴染がアイドルになるとなれば、それは嬉しい事なのかも知れない。だけどお姉さんが足を踏み入れるか迷っている世界は間違い無く一筋縄じゃいかない場所。数多く挫折している人も居るであろう世界に足を踏み入れるなら、自らの意思でないとその内の1人になりかねない。身内では無いけれど身内みたいな存在だから、私はお姉さんに挫折して欲しく無い。もし本気で挑むなら、出来る限りサポートしたって良い。何が出来るか分からないけど。

 

「お姉さんが挑戦したいと思うなら、私は全力で助ける。全てはお姉さん次第だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからまた数か月が経った。お姉さんはスカウトを受けてアイドルの卵として活動を始め、それに伴って大学の後に事務所に行く等で帰りが遅くなる事が多くなった。レッスンは中々に厳しいらしく、帰って来ると同時に倒れる様にしてベッドで寝てしまう事もあると言う。掃除も洗濯もしている時間が無いと久しぶりの休日に私に話すお姉さんを見て、私は悩んでいた際にお姉さんへ言った言葉を行動に移す事とした。お互いに合鍵を預け合っている中と言う事もあって、お姉さんが居ない内に掃除や洗濯を済ませる。アルバイトをしていない事が幸いして、私は放課後時間が開いているからそんな苦労にならない。1年以上1人暮らしをして来て料理も大分上手くなったと思うから、夕飯の用意も出来るだろう。

 

『寝室には絶対に入らないでね?』

 

 私がお姉さんの家で家事をすると告げた時、言われた言葉を思いだす。初めてお姉さんの部屋を訪れた際に気にしてもしょうがないと思った玄関からリビングの間にある部屋。予想通り私と同じく寝室にしていたらしいお姉さんは何故か私にそう釘を刺す様に言った。寝室だからベッドとかあるだろうし、出来れば干したいとは思う。でもお姉さんが態々そう言って家を出るぐらいだから、余程隠しておきたい何かがあるんだろう。流石に気になりつつも、私は夕飯の支度をする事にする。

 

「ただいまぁ」

 

「お帰り。ご飯出来てるよ。お風呂も沸いてる。どっちにする?」

 

「お腹空いたから、先にご飯が良いかな」

 

「分かった。荷物預かるから寛いでて。置いたらよそうから」

 

 お姉さんから荷物や上着を預かってハンガーに掛けたり等した後、ご飯や味噌汁をよそってテーブルの上へ並べる。自分の分も用意して食事を始めれば、お姉さんは「美味しいよ」と微笑んで食べ続けた。自分の為に作る事は沢山あるけれど、こうして誰かに食べて貰うのはまた違う気分。美味しいと言って貰えるのは凄く嬉しく感じた。

 

「ご馳走様。美味しかったよ」

 

「なら良かった。食休みしたらお風呂に入って。前みたいにここで寝ちゃ駄目」

 

 以前お姉さんは食べた後、疲れのせいかソファで眠ってしまった事があった。入っちゃいけない寝室にその時ばかりは運ぼうかと思ったけど、そもそも私はお姉さんよりも背が低くて力も無くて……結論から言えば私にお姉さんを運ぶことは出来なかった。結局上にタオルケットなどを被せるだけして隣の私の部屋に戻ったけど、今回はそうならない様に予め言っておく。しっかり覚えていた様で、お姉さんは頷いて返した。疲れのせいか、少し眠そうにしながら。

 

 食器を洗っている内にお姉さんが脱衣所へ入って行く。このマンションの浴槽にはお湯炊き機能がついているから、今でも暖かいだろう。しっかり入って行ったのを確認して、私は最後の食器を洗い終える。もう私の部屋に戻っても良いんだけど……流石に何も言わずに帰るのは良く無い。私はお姉さんがお風呂から出るまで待って、挨拶をしてから自分の部屋へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの子が帰った。今頃隣の部屋でお風呂に入っている頃かも知れない。幼馴染で妹みたいな存在で、私にとって大切な人。今通っている大学に行くことを決めた時、一番の問題は家を離れなければいけない事だった。初めての1人暮らしは不安な物が数多くあったけれど、それ以上に不安だったのは彼女と簡単には会えなくなってしまう事。当時は想像するだけで手が震えて、だから私は彼女が私と同じ様に家を出て私のすぐ傍で過ごす道を示した。弟の妨害が多少はあったけれど、結果は私が勝ったと言って良い。

 

「はぁ……」

 

 寝室に入った私はそのまま前からベッドに倒れ込んだ。柔らかい布団に身体を沈めて、そのまま横に手を伸ばせば160㎝の長さがある抱き枕を腕に抱え込む。そして身体をうつ伏せから横にすれば、大きな抱き枕に描かれた彼女の姿が私の目に映った。抱き枕だけじゃ無い。頭の下に敷いた小さな枕にも、窓から外を遮断するカーテンにも……天井にだって壁にだって、何処を見回しても彼女が映る。普段感情を余り表に出さない彼女が稀に見せる微笑みや不機嫌そうな顔。本を読んでいる姿からエプロン姿で料理を作る姿まで、沢山の彼女が私を囲んでいる。決して彼女には見せられない、私の寝室(世界)

 

「そう言えばあの本、文香ちゃんも読んでた様な……ふぁ~」

 

 ふと思い出した事が眠気に追い出されて消えていき、徐々に目が閉じて行く。明日も大学に行って、放課後は事務所でレッスン。帰ってくれば彼女が手料理で迎えてくれて……忙しい日々ではあるけれど、充実していると思う。何時か私がアイドルとして成功出来たら、彼女を養っていく事も夢じゃない。その為にも今この時を頑張って過ごして行かないと。

 

「お休み」

 

 あの子の事を思い浮かべて、あの子に言う様に告げて、私は眠りについた。




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