【短編】誘われて隣人になり、気付けば通い妻になっていた話 作:ウルハーツ
聞こえて来るのは騒々しい機械音や園内に響き渡る音楽、お客さんの会話が混じった音。普段自分から進んで来る様な場所では無いけれど、今日この日私はお姉さんと2人で遊園地へ足を運んでいた。
事の発端は私が文香さんの家でケーキを作って泊まった日の翌日。買い物をして帰宅する途中で偶然合流したお姉さんに誘われた。何でもお姉さんの担当プロデューサーさんからこの場所の無料チケットを貰ったらしく、アイドルの知り合いは基本的にお姉さんがオフの日は忙しいって事で私に白羽の矢が立った様子。遊園地、最後に来たのは何時頃だろう。小学校で6年生の時にあった修学旅行で来た記憶が最後かも知れない。あの時は弟君と同じ班で色々乗った記憶がある。
「何から乗ろうかな。何か乗りたいのはある?」
「無難にジェットコースターとか、お化け屋敷とか、かな。お姉さんは?」
「う~ん、私も何でも良いよ? あ、でもここのレストランには行きたいな。とっても美味しいってプロデューサーさんが言ってたの」
「乗りものじゃない」
お姉さんらしいと言えばらしいけど。思わず呟いた言葉にお姉さんは笑って私の手を掴むと歩き始めた。結構人気な遊園地みたいで人混みは激しいから、逸れないために効果的な行為だと思う。……何れ私が男の人に手を引かれる時は来るのかな? お姉さんは綺麗でアイドルだからその手を望む人は多そう。
「観覧車はやっぱり最後が良いから、最初はあれなんてどうかな?」
辺りを見渡しながら考えていたお姉さんが指を差して提案したのはコーヒーカップ。弟君はティーカップって呼んでた気がする。どっちでも合ってるらしいけど。真ん中のハンドルみたいなのを回すと速度が速くなるんだけど、お姉さんとなら安心出来る。修学旅行の時にも乗ったけど、班の人が調子に乗って回すから酷い目にあった。
受付へ繋がるお客さんの列に並ぼうとした時、お姉さんが私の手を強めに掴んでそれを止める。少し驚いて振り返った私にお姉さんは入場口で一部を切られた無料チケットを見せ始めた。入る時もお姉さんが2枚持ってて、私はそのチケットの詳細を見ていないけど……何かある様子。
「このチケット、実は唯の無料チケットじゃないの。優待券って言う少し良いチケットなの」
優待券。言葉の通り優待。つまり優遇されるって事なんだろう。まさかそんな凄いチケットだとは流石に思わなかった。そんなチケットを貰えるお姉さんは……現役アイドルだから可笑しな話じゃ無いのかも。益々私で良かったのか心配にもなるけど、お姉さんが誘ってくれたんだからそこは信じよう。それよりも並ぶ時にそれを言うって事は、そう言う事なんだろう。良く見れば長い列の横に短いながらも受付に繋がる数人の短い列がある。
「行こっか?」
「分かった」
長い列に並んでいる人達に少し申し訳無くも思うけれど、優待券を持つ人が何十人も居る訳では無いから大丈夫だと思う。私はお姉さんに手を引かれ乍ら短い列の並びに立って、少しの間だけ待ち続けた。優待券を持つ人となれば少しだけ目立っても仕方ない。お姉さんはテレビにも出てるから変装してるけど、そんなお姉さんと一緒の私は普段通り。少し、場違いに感じなくも無い。
「お待たせ致しました。優待券をご提示ください」
「これです」
「はい。はい、確認しました。どうぞ空いてるカップにお入りください」
私達を含めて3組が先に入り、その後長い列から順番に何組かが入り始める。カップの数からして13組ぐらいが限界。やがて全部のカップに人が入った後、陽気な音楽と共に回り始めた。静かに優しく、私とお姉さんは互いを見合う。何か、気恥しい気がする。
「少し回そっか?」
「だね」
余りにも緩やかな回転は少し詰まらない気もして、お姉さんの提案に頷いてからスピードを変えるハンドルに触れる。反対側にお姉さんが触れて適当に回せば、お姉さんの背後に見える景色の流れる速さが変わり始めた。……成長、なのかな。昔は凄い楽しかった気がするんだけど、今は何とも言えない。そう考えると成長って良い事ばかりじゃ無いのかも知れない。
音楽が止まって私とお姉さんはカップの外へ出る。取り敢えず分かった事は、楽しむ上でもう少しインパクトが必要って事。今の私の感性だとメリーゴーランドとかもそんなに楽しめないかも知れない。うん、やっぱり王道でインパクトのあるあれに乗ろう。
「次はこれに乗ろう」
「あ、もうジェットコースターに乗るの?」
「大丈夫。この遊園地、ジェットコースターだけでも4種類ある。他にも乗り物はあるから、簡単には終わらない」
一応来る事が決まった時から軽い下調べは済ませてある。中々来ない分、本気で楽しむ為にも激しいのに乗るべきだと思って私は園内の地図に載っているジェットコースターの1つをお姉さんに提案した。そして私の説明を聞いて頷いてから歩き出し、やがて到着した場所で目に映る光景に驚いた様子を見せる。実は私が提案したジェットコースターは園内で2番目に激しいらしい。因みに1番は日本のTOP3に入る激しさだとか。そう考えれば2番目と言ってもその激しさは結構なものだと思う。ちょっと固まったお姉さんはゆっくりと私に振り返り始めた。
「あ、あれに乗るの?」
「駄目?」
「だ、駄目じゃないけど……うん。分かったわ」
ちょっとぎこちない様子で確認するお姉さん。最悪私だけでも良いけれど、一緒に来たのだからやっぱり一緒に乗りたい。お姉さんは少し困った様に顔を逸らして悲鳴の聞こえるジェットコースターを眺めた後、覚悟した様子で了承してくれる。優待券だからすぐに自分達の順番になる為、今の内に心の準備は必要。お姉さんの了承を得て私は手を引きながら短い列に並んだ。そして私達の順番はすぐにやって来て……中々聞けないお姉さんの悲鳴が私の隣で響き渡った。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。唯少し……少し休憩させて」
「分かった」
ベンチに座る私の膝に頭を置いて横になるお姉さんの表情はまだ少し青褪めている。覚悟を決めたお姉さんだったけど、ジェットコースターの激しさにその覚悟は太刀打ち出来なかった様子。無理させてしまった負い目もあって、私は少しでも早く元気を取り戻せる様にお姉さんの頭を撫で続ける。不思議と頭を撫でられるのは、安心出来る気がするから。まぁ、気を許した相手限定だと思うけど。
ふと、騒がしかった園内が更に騒がしい気がして私は顔を上げる。かなり遠くではあるけれど、園内のステージに人が集まっているらしい。音楽も流れているから、何かやっているのは明らか。観客の何人かが団扇や色付きの棒……確か、サイリウムだった筈。それを振っているから、アイドル関係の人が居るのかも知れない。まぁ、居ても不思議じゃないと思う。そもそもお姉さんが優待券を手に入れた理由はプロデューサーさんらしいから、何かの伝手で手に入れたと考えるべきだと思う。もしその伝手がこの遊園地の関係者なら、お姉さんが所属する美城プロダクション関係の何かがここで行われても不思議じゃない。
「御免ね。折角の遊園地なのに」
「ううん。無理させた、私のせい」
「そんな事……少しはあるかも」
「……」
「ふふ、大丈夫。唯もう少しだけこのままで居させて。ね?」
閉園時間まではまだまだある。それでお姉さんの気分が少しでも良くなるなら、膝を貸すくらい何の問題も無い。気付けば私の方に顔を向けて深呼吸するお姉さんの頭を撫でながら、もうしばらく私達は休憩を続けた。……そして聞こえて来ていた音楽が鳴り止んだ頃、お姉さんは私の膝から離れて身体を起こした。何か、さっきより調子が良さそうに見えるのは気のせい?
「もう、大丈夫。また何か乗りましょう?」
「ジェットコースターは、止めとく」
お姉さんがお礼を言いながら立ち上がったのを見て、私もベンチから立つとまた別の乗り物に乗る為に歩き始めた。観覧車は最後が良いって言ってたから、他に乗るならメリーゴーランドとか? でもさっきのを考えるとやっぱり楽しめない可能性が……。
「あ。あそこに入らない?」
「……」
突然掛けられたお姉さんの言葉に私は指を差された方向へ視線を向けた。そこにあったのは巨大な骸骨のオブジェクトの下にある扉。『絶望の館』とジャンルが分かり易く書かれていて、私はそれを前に思わず固まってしまう。……お化け屋敷は小学生にもなっていなかった幼い頃、物凄く怖い場所に入ってしまった事が理由で苦手。お姉さんはそれを知ってる筈だけど、とても良い笑顔で私を見つめて来る。でも、流石に嫌。
「あっちに回転系の乗り物が」
「2人、お願いします」
「はい。どうぞお入りください。無事、帰って来てくださいね?」
「……」
まさかの強引な手に出たお姉さん。正反対へ進もうとする私の腹部を片腕で抱えてレッスン等で培った体力と力を活かして軽々私を運び、優待券を提示して中へ私ごと入ってしまう。もう少し身長があればこんな簡単に運ばれる事は無かった筈。私の平均以下の身長が、お姉さんの平均以上の身長が今はとても恨めしい。扉を潜ってしまえばもう後戻りは出来ないとばかりに閉められて、お姉さんは私を解放した。
「酷い」
「私が一緒だから、大丈夫だよ」
「…………」
『きゃぁぁぁぁ!』
「!?」
「!」
前方から聞こえて来る誰かの悲鳴。思わず傍に居たお姉さんの身体にしがみ付いてしまって、お姉さんは私を受け止める為か身体を固くしていた。強引に連れて来られて少し怒りが無いとは言わないけど、お姉さんから離れられる気がしない。もう戻れないのなら、何とかここを早く出るしか他に道は無い。
「行こう。進んで」
「え、えぇ。そうね。……あの、このまま進むの?」
「仕方ない。他に方法が無いから」
「そ、そう。……なら、仕方無いわね。……ふぅ」
全てお姉さんのせいだから、文句は言わせない。進む覚悟が出来たのか、溜息とは違う息を吐いて歩き出したお姉さん。その身体にくっ付いて私も歩みを進め始めると、途中で作り物と誰が見ても分かる脅かし要素が何か所かに渡ってあった。最初から置かれている物なら覚悟は出来る。だけど突然来る物に関してはどうしようも無くて、その度にお姉さんの身体に顔を埋めて目を逸らす事しか出来なかった。少し力が強くなってしまう時もあったかも知れない。何かお姉さんが呻いている時もあって、それも少し怖かった。……そしてやがて見えて来る光を前に私は思わず駆け出していた。
「外……! 終わった……!」
太陽の陽射しを眩く感じ乍らも終わった事への安心感に心が満たされ、私は後ろに振り返った。そして中で遭遇した脅かし要素以上の恐怖を感じずにはいられなかった。だってそこには鼻から流す血に塗れたお姉さんが居たから。服も前が血に染まっていて、その姿はお化け以上に怖い。そしてもしかしてと思いながらお姉さんの身体を掴んでいた手を見れば……私の手は血だらけだった。
「……ぁ……」
「……っ!」
ジェットコースターでお姉さんが倒れた次は、私の番になった。
目が覚めたらお昼を当に過ぎていて、先程座っていたベンチに今度は私がお姉さんの膝を借りる形で横になっていた。流石に血で汚れた服のまま過ごす訳にもいかなくて、目が覚めて次にしたのはお土産コーナーで服を買う事。遊園地のマークやマスコットが描かれたTシャツが売っていて、私とお姉さんは同じ柄の色違いを購入して着る事にした。購入の際、血に汚れた服だったせいで店員さんに心配されたのは仕方の無い事。全部、お姉さんが悪い。
「体調は大丈夫?」
「平気、お姉さんは?」
「うん、少しボーっとするかな。時間も丁度良いし、お昼にしよっか?」
お姉さんの提案に頷いて、私達は遊園地のレストランで食事をする事にした。多分お姉さんがボーっとする原因は血が足りないからだと思う。結構な量だったから。園内のレストランはお姉さんが聞いていた通り、中々美味しかった。値段もそれなりにするけれど、お姉さんはその値段が苦にならない程度には稼いでいるから問題無い様子。私は自分が払える範囲で注文するつもりだったけど、お姉さんが好きに頼んで良いと言い始めた時は困った。明らかに私の分も払ってくれるつもりみたいで、自分で払うと言っても『一緒に来てくれたお礼だよ』と言われてしまったから。結局、甘えてしまった。アルバイトもしていない私のお小遣いでは確かに何を頼んでも痛かったから。
「ありがとう」
「ううん。さっきも言ったけど、一緒に来てくれたお礼だから良いの」
改めてお礼を言えば、お姉さんは微笑みながらそう言ってくれる。
お腹も満たされて体調も少し良くなった。気を取り直して何かに乗る話になった時、お姉さんが倒れていた時に流れていた音楽がまた聞こえ始める。あの時はそれどころじゃ無かった為に気付いて無かったお姉さんも今回は気付いた様で、聞こえて来る音楽に首を傾げながらその方角を見始める。遊園地に存在するステージ。私は良く分からないけど、お姉さんは聞こえて来る音楽を聞いた事がある様子。
「知ってる曲?」
「え、えぇ。私と同じプロジェクトの子が歌ってるの。多分、あそこに……」
同じプロジェクト……つまりアイドルの知り合いって事で間違い無い筈。仲が良いのかは分からないけど、挨拶に行くのかどうするのかはお姉さんの判断次第。オフだから仕事の事を忘れる為にも関わらないか、オフだからこそ仕事をしているアイドル仲間を激励しに行くのか。
「どうする?」
「多分大変だと思うから、余計な手間を増やさない為にも会わないでおくわ」
そのアイドルが激励をどう受け取るかによるとは思うけれど、お姉さんは今回気を使わせない為にも近づかない事にした様子。気付けば音楽が静かになり始めて、ステージの方からスピーカーで増幅された声が聞こえて来る。女の子の声で、随分特徴的な喋り方……? 何か似た様な喋り方を聞いた事がある気がする。
「行こっか。次はバイキング辺りでどうかな?」
「分かった」
お姉さんの言葉に頷いて、私達はステージから離れる。最後に聞こえた『闇に飲まれよ!』って言葉に私はやっぱり似た何かを知ってる気がした。
あれからバイキングを始め、回転系の乗り物や園内で一番緩やかなジェットコースター等に乗った私達は気付けば夕方を迎えていた。遊園地の営業時間は17時30分まで。今の時刻は17時で乗れて後1つか2つくらい。そして最後に乗る乗り物と言えば、お姉さんの希望通りに観覧車になる。
観覧車には今までにない程に長蛇の列が出来ていた。最後の締め括りに乗ろうとする人は沢山居るって事。優待券で早く乗れるとは言え、結構混んでるこの状況では少し待つのも仕方ない。元々優待券自体が贅沢で狡い物だと思うから、待って当たり前だと思うけど。
「楽しい時間はあっと言う間だね」
「だね。……今日はありがとう。誘ってくれて」
お姉さんの言葉に改めて今日のお礼を告げる。お姉さんは少し驚いた様子を見せて、その後何かを言おうとして……私達の元に駆け寄って来る足音と共にその目を見開き始めた。何かと思って後ろを見れば、そこには同じ様に目を見開く2人の女の子。
「まさかこんな場所で出会うとはね。神の悪戯、かな?」
「み、美波さん!? 何でここに!?」
「あ、あはは……偶然だね、蘭子ちゃん。飛鳥ちゃん」
驚く2人の言葉に軽く手を振りながら声を掛けるお姉さん。何となく、何となくこの2人が先程ステージで歌っていたお姉さんのアイドル仲間なんだと察する事が出来た。仕事が終わって残りの時間を遊園地で過ごしていたのかも知れない。そして時間が終わりに近づいて来たから私達と同じ様に観覧車へ乗りに来たって事だと思う。
「お次の方、どうぞ」
スタッフさんの言葉に私達が一斉に視線を向ける。明らかにその目は私達4人を見ていて、話をして居た事で同じグループと勘違いされてしまったのかも知れない。後が並んでいる為に迷っている時間も無くて、自然と私達は同じゴンドラに4人で乗ってしまう。ゆっくりと地上から離れ始めるゴンドラの中で、私達は向かい合う様に座ったまま無言だった。
「ふ、2人は仕事でここに?」
「蘭子と共にステージに立っていたよ」
「! 慈悲の女神は何故この場に? そして眷属……じゃない。えっと……あ、天使は一体?」
お姉さんの言葉に答えるのは飛鳥と呼ばれていた少女。そしてそれに続く様に話し始めたのは蘭子と呼ばれていた少女で、だけどさっきとは明らかに口調が違っていた。何となく慈悲の女神って言うのがお姉さんなのは分かる。そしてその傍に居る私は女神の傍に居るから天使って事? 何か、やっぱりこの喋り方を知ってる。……そう、あの頃の彼に似てる。
「彼女はこの前話した私の幼馴染で」
「あぁ、偶に家の事をしてくれるって言う。あの時は美波さんに男が居るかも知れないって騒いだから記憶に残っているよ」
「?」
「僕は二宮 飛鳥。君は僕の事を知らないかも知れないけど、僕は君の事を知っているよ。僅かにだけどね」
「……」
「へぇ、君は思わないんだね。「こいつは痛いやつだ」って。普通の人ならまず最初にそう言う目を向けて来るものだけど、君は違う様だ。君の目は……そう、何かを懐かしんでいる」
「うん。合ってる」
「わ、我が名は神崎 蘭子。この眼と共に魔界より降臨した堕天使よ!」
「眼……魔界……」
「やっぱり驚かない。一体君は僕達越しに何を懐かしんでいるんだい?」
2人の自己紹介を聞いてまた思い出していた時、二宮さんに聞かれた事で私は一度お姉さんに視線を向ける。首を傾げるその姿は私の思い出している事が同じく分かっていない様で、私は2人を見ると答えた。
「昔、似た様な喋りをする人が居た」
「我らの同族か!?」
「今は違う。所謂黒歴史だから」
「……あぁ」
「その様子だと、美波さんは思い当たる節がある様だね」
「我らの先人か。どの様な存在だ?」
「えっと……私の弟よ」
そう。私の記憶にある2人に似た喋りをする人物。それは弟君。2人の種類は大分違うけど、弟君は2人を足して半分に割った様な喋りだった気がする。眼や魔界は言ってたし、天使や女神も私やお姉さんに言ってた。後は腕がどうとか、封印がどうとか。喋りは神崎さん程難解じゃ無かったけど、あれは単に言い回しが思い付かなかっただけだと思う。中学を卒業する頃にはもう止めてて、その話をすると奇行に走る事があったから忘れてた。……懐かしい。
「女神に近しい者か。是非邂逅してみたいものね!」
「止めて上げて。多分、蘭子ちゃん達を見たら柱に頭でも打ちつけ始めると思うから」
「良く群衆に言われるよ。僕達の行為は何れ身を滅ぼす事に繋がるとね」
「この眼と力がある限り、我が滅びる事は無いわ!」
「弟君も似た様な事、言ってた」
そして今じゃその思い出自体を封印している訳だから、彼女も未来で同じ事になるのかも知れない。でも、2人はお姉さんと同じアイドルの筈。ならキャラが立つと言う意味では成功しているのかも。弟君と違って意味を成しているのかも。
気付けばゴンドラは一番上に到着していて、私達は茜色に染まる空とその下に映る光景を眺める。綺麗な景色は見ているだけで心地良くて、今日の楽しかった出来事を思い出すと共に終わりである事も思い出さずにはいられなかった。
「天界から下界を見下ろすのは気分が良い。魔界なら更に気分が良いわ!」
「確かにここから見たら下は下界かも。でも魔界って、地面の下な気がする」
「魔界の創造に場所は無関係よ。天界の更に上空に存在すると我は望んでいる」
「魔界から降臨したのに、魔界の場所を知らないの?」
「こ、降臨した時はまだ力無き幼子だった故」
「……普通、蘭子の喋りを聞けば流すか関わらないのが人だ。だが彼女は蘭子と正面から対話している」
「多分、弟のお蔭で慣れてるのね」
一緒に景色を見ながら神崎さんと話をする横で二宮さんがお姉さんと話をし続ける。やがてゴンドラが下に到着して降りる事になり、それと同時に閉園10分前を知らせる放送が聞こえ始めた。
「僕達はプロデューサーに帰りを送って貰う事になってるから、ここまでだね」
「慈悲の女神よ! そして我が先人の眷属よ。闇に飲まれよ!」
「お疲れ様」
「2人とも。また事務所でね?」
二宮さんと神崎さんの言葉を、特に後者を何となく理解しながら返せば嬉しそうな顔で手を振って離れて行く。お姉さんの言葉に二宮さんはお辞儀をして同じ様に背を向けて、私とお姉さんも帰る為に歩き始めた。
その後は特に何も無く、夕食を外食で済ませて家に帰宅。それぞれの家で夜を過ごして何時もの様に朝を迎えるだけだった。
彼女と遊園地に行ってから数日。事務所に到着した私を出迎える人達の中に蘭子ちゃんの姿があった。飛鳥ちゃんは居ない様で、蘭子ちゃんは私の姿に気付くと挨拶と共に言葉を続ける。
「我が先人の眷属と魔具にて交信したいが、我の力では再び邂逅する事は敵わない。慈悲の女神よ、我を彼の者へ導いて貰いたい!」
何となく何が言いたいのかは私にも分かる事が出来た。携帯を手にLINEの画面を見せ乍ら以前彼女を呼ぶのに使っていた呼び方を混ぜて告げる内容からして、彼女の連絡先が知りたいって事なんだろう。彼女の連絡先は当然知っているけれど、私は少し迷ってしまう。蘭子ちゃんの事は決して嫌いじゃない。寧ろ同じアイドルの仲間として応援してる。だけど、私以外の誰かが普段から彼女と連絡を取り合うのは……余り面白くない。唯でさえ泊まりに行った日辺りから他の人と連絡を取り合っている様子だから余計に。でも流石に携帯を持って無いなんて可笑しいと思われそうね。
「流石に勝手に教える訳には行かないから、今度確認してくるね。それまで待っててもらえる?」
「致し方無い。時を待つとするわ」
蘭子ちゃんはそう言って私から離れて自分の時間に入り始める。楽しみと言った様子で笑顔を見せる彼女の姿に、私は飛鳥ちゃんと遊園地の後に会った時にした会話を思い出した。
『蘭子、どうやら彼女を気に入ったみたいだね。無理も無い。数少ない理解者だったんだからね』
蘭子ちゃんの言葉はとても特徴的で、時にはプロデューサーさんも理解出来ない時があるらしい。飛鳥ちゃんは大抵理解出来るみたいだけど、彼女以外に理解出来る人物はとても少ない。何となく伝わる事もあるけれど、それでも通訳が必要な時もあるから理解出来てるとはきっと言えない。だからこそ過去に弟の蘭子ちゃんと似た時期を私よりも共に過ごしていた彼女は蘭子ちゃんの理解者になれる。
「御免ね」
だから私の行動は薄情で酷い事だと自分でも分かる。彼女に聞く事もせずに何らかの理由を付けて連絡先を教えない様にしようとしているのだから。だけどそう分かっていても私にはなれない。彼女と蘭子ちゃんを繋げる橋には。
正直後半の2人は勉強不足だと理解してる。でも登場させたかった……!
三度今後は続くか不明。これまで通り調子に乗って思い付けば可能性もある。出したい人も居るんだけど、美波さんのガードが思った以上に固くなってしまって若干後悔。
常時掲載
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