【短編】誘われて隣人になり、気付けば通い妻になっていた話   作:ウルハーツ

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 日曜日の今日、私は何時もの様に合鍵で入ったお姉さんの部屋で掃除をする。アイドルに休みはあっても、それが学校が休みである土日とは限らない。だから今日もお姉さんは家を出ていて、私は朝からお姉さんの朝ごはんを作ったりお弁当を用意したり。で、お姉さんが家を出た事で掃除を始めた訳だけど……今、私の目の前には物凄く見覚えのある包みが置いてあった。

 

「……お姉さん。お弁当、忘れてる」

 

 それは今日の朝、私が用意したお弁当の包み。普段から日に寄ってお弁当が要る日と要らない日があるけれど、今日は要る日だった。でもそれが目の前にあるって事は、間違い無くお姉さんは今現在昼食が無い状態。確か今日はダンスのレッスンだった筈。疲れてお腹も空くだろうし、昼食が無いのはきっと辛い。建物の中には喫茶店もあるって聞いたけど……持って行くべきかも知れない。

 

「入れて貰えない、かも」

 

 だけど私はそもそもお姉さんと仲が良いってだけ。届けに行っても建物に入れて貰えないかも知れないし、お姉さんに渡して欲しいとお願いしても難しいかも知れない。ファンからの届け物。多分、警戒されると思う。……あぁ、連絡すれば良いんだ。

 

「忙しいかも知れないから、メッセージにして……掃除、終わらせよう」

 

 私は携帯でお姉さんへお昼前にお弁当を届けに行くと送り、止めていた掃除機を再び動かして掃除を再開する。そしてそれが終わってから一度隣である自分の部屋に戻って外出の準備をして、マンションを出る。向かうは美城プロダクション。ちょっと緊張するけど、お姉さんのお弁当を鞄に入れて私は地図を確認しながらそこへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 大きな建物に思わず見上げる形で私は固まってしまう。確かに写真とかで見た事はあったけれど、生で見るのは今回が初めて。大きな会社だから当然かも知れないけど、それでもこの建物の中にお姉さんが居ると思うと改めて別の世界の人みたいな気がする。自分の事じゃ無いけど、ちょっとだけ誇らしくも。

 

「入れるかな……?」

 

 不安に思いながら建物へ。関係者で無くても近づける場所は少しあるけれど、私が目的を果たすには現アイドルに会う必要がある。だから私は関係者しか入れないであろう場所に立って居る人にお姉さんの名前を出して内容を伝えるけど……結果として、お姉さんに会うのを許してはくれなかった。多分、ファンか何かが好きなアイドルにお弁当を作って来た。と思われてる。お姉さん、メッセージ確認して無いのかな? 忙しくてそれどころじゃない、とか?

 

 時間は既に11時を回っていて、お昼の時間まで後少し。どうしようか悩んでいた時、突然聞き覚えのある「ぇ」と驚く様な声が聞こえた事で私は振り返った。そこには何故かありすが立って居て、私の姿に驚いた様子で目を見開いていた。かく言う私も驚いていて、何故彼女がここに居るのか訳が分からなかった。

 

「ありす……何で、ここに?」

 

「そ、それは私の台詞です! どうしてここに……ぁ」

 

「? ……ぇ……?」

 

 私の質問に同じ様に返したありすが私の後ろを見て今度は小さく反応したのを見て、私は振り返った。入れて貰えなかった関係者が入る事の出来る扉。そこから出て来たのは文香さんと知らない女の人。親し気に会話をし乍ら出て来た2人は私に気付いて、女の人は初対面だから当然首を傾げる。だけど文香さんはありすと同じ様に目を見開いて驚いていた。そして私もありすと同じ様な反応をしていて、混乱しながらもドンドン理解出来て行く。この建物の関係者。以前お泊り会で聞いた2人が持つ共有の秘密。……全部、分かった。

 

「ありすも文香さんもアイドル、だったんだ」

 

「あ、あの……その……はい」

 

「……隠してて御免なさい」

 

「えっと……これ、どう言う状況?」

 

 文香さんがしどろもどろになりながら肯定して、ありすが申し訳なさそうに謝る。そして私達の中でだけで話が進んでしまった為に置いてけぼりになってしまう女の人。多分、この人もアイドルなんだと思う。

 

 取りあえず落ち着いて話をする事になって、私達は邪魔にならない場所へ移動。そこでまず最初にしたのは私と文香さん達の関係を女の人に話す事だった。女の人の名前は速水 奏さん。予想通りアイドルで、説明を聞いて「なる程ね」と納得してくれた様子だった。

 

「で? 貴女は2人がアイドルだと知ってどう思ったの?」

 

「っ!」

 

「……」

 

「2人が一番気になるのはきっとそこよね」

 

 速水さんの言葉に分かり易く反応するありすと不安そうに此方を見つめる文香さん。そして私の答えを待つ速水さん。……確かに自分に置き換えて見れば、2人の不安は分からなくも無い。友達にテレビに出る様な存在だと知られたら、態度が変わるんじゃないかと不安にもなる。でも、そういう事じゃ私はある意味耐性があると言えるのかも知れない。だって、私の幼馴染は今現在同じアイドルだから。

 

「驚きました。後は、嬉しかったです」

 

「嬉しい? それは自分の友達がアイドルだったから?」

 

「奏さん「はい」っ!」

 

 少し棘のある速水さんの言葉。それを聞いて文香さんは口を開いたけれど、私は頷いて肯定した。途端に少しだけ速水さんの目が鋭くなった気がして、だけど言いたい事は最後まで言わなきゃ伝わらない。だから私は言葉を続ける。

 

「文香さんもありすも、綺麗で可愛いんです」

 

「!?」

 

「ぁぅ」

 

「アイドルになるのに容姿は大事ですから、それが証明されたんです。性格は今までの付き合いで良い人なのを知ってます。だから【私の友達は私の主観じゃ無くて本当に綺麗で可愛かった】。それが嬉しいんです」

 

「……そう」

 

 速水さんの鋭い目が何時の間にか優しい様な、面白い物を見つけた様な目に変わっていた。文香さんとありすは俯いてて表情が見えないけど、何か頭から湯気が出てる気がする。すると突然速水さんが立ち上がり、2人の間に入って何かを耳打ちし始めた。

 

「良かったわね」

 

「ちょ、ちょっと風に当たって来ますっ!」

 

「わ、私も一緒に行きます!」

 

「えっと……行ってらっしゃい」

 

「ふふ」

 

 何を2人へ告げたのかは分からない。だけど突然文香さんがそう言って、ありすも続く様にして2人は一緒に建物の外へ逃げる様に出て行ってしまった。私に出来たのは見送る事だけ。楽し気に離れてく2人を見る速水さんに何をしたのか気になって……私は大事な事を思い出した。そもそも私がここに来た理由はお姉さんにお弁当を届ける為。速水さんなら説明すれば何とかしてくれるかも知れない。

 

「あの、速水さん」

 

「奏で良いわ。敬語も無しよ」

 

「……流石に年上の人には出来ません」

 

「私、17よ」

 

「え。あ、そうなんですか……」

 

「えぇ。だから、良いわね?」

 

「は、はい。あ、えっと……分かった」

 

 奏の言葉に驚かされると同時に私は今までに無い押しの強さに思わずたじろいでしまう。お姉さんの場合は自然とだった。文香さんの場合はそこそこ付き合いがあって出来た。でも今日が初対面でいきなり敬語も無しと言うのはちょっと難しい。だけど明らかにそれを伝えても引いてくれそうに無いから……多分、私は諦めるしかない。

 

「で、何?」

 

「あ……えっと、お願いがある。新田 美波と言うアイドルにこれを渡して欲しい」

 

「え? 美波?」

 

「知ってるの?」

 

「えぇ。知ってるけど……もしかして貴女、美波の幼馴染?」

 

 私が頷いて肯定すれば、奏は先程よりも好奇な視線で私を眺め始める。そして満足した様に一度目を閉じると、「良いわ」と言って包みを手に取ってくれた。

 

「これは美波に渡してあげる。……その代わり、この後昼食を文香と食べるつもりだったのよ。付き合いなさい」

 

 この後特に用事も無かった為、私は奏の提案を受け入れた。そして奏が出て来た扉から再び中へ入って行くのを眺めていると、文香さんとありすが戻って来る。ほんのり頬が赤いけど、どうやら何時もの様子に戻っているらしい。お互いに色々動揺したけど、取り敢えず言えるのは……私達は何時も通り友達って事。

 

「文香さん。この後、奏さんとの昼食。私も一緒にする事になった。……良い?」

 

「! は、はい。大丈夫です」

 

「むぅ。私も一緒に行きたいですけど、この後あるので残念です」

 

「ありすはまた今度、ね」

 

「っ! はい!」

 

 文香さんの許しも得て、残念そうにするありすの頭を撫でながら約束をすれば可愛らしい笑顔で返事をしてくれる。すると突然奏の入って行った扉が勢いよく開き、何処か怯えた様子の奏が私達を見つけるなり私と文香さんの手を掴んだ。

 

「急いで喫茶店の方に行くわよ!」

 

「え、えっと、奏さん? 一体何が……」

 

「説明してる暇は無いわ! 貴女も私に付いて来なさい!」

 

「わ、分かった」

 

 文香さんと私は彼女の言う通りに喫茶店へ行くためにありすへ別れを告げてその場を後にする。一体奏に何があったのか……落ち着いた後も、彼女は教えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美城プロダクションにあるカフェ。そこで奏に誘われて文香さんと昼食を取る事にした私は奏からまるで尋問を受ける様に色々な事を質問される事になった。最初は文香さんとの出会いやありすとの出会いを聞かれて、お泊りした事も話して。他にも料理が出来る事や恋人はまだ出来た事も無い、等の話をした。……でも何となく分かる。奏は一番聞きたい事を聞いて来ていない。

 

「あの、どうしてここに……?」

 

「私の幼馴染のお姉さん、文香さん達と同じでアイドルをやってる。今日はお姉さんがお弁当を忘れたから、届けに来た」

 

「っ! 前から話に出す事はありましたけど、アイドルだったんですか?」

 

「えぇ。それもそのお姉さん、どうやら美波の事みたいよ」

 

「美波さん!?」

 

「文香さんも知ってるんだ」

 

 文香さんは驚いたまま私の質問に頷いて、お姉さんの名前を出した奏は何故か遠い目をしていた。そして私と目が合うと意を決した様に口を開き始める。

 

「貴女と美波って、本当に唯の幼馴染?」

 

「? どう言う事?」

 

「いや、さっきお弁当を渡した時の美波の反応が……いいわ。やっぱ何でも無い」

 

「気になる」

 

「気にしない」

 

「……」

 

 凄い気になるところで話を止める奏。続きの言葉が聞きたいけれど、どうやら言ってはくれない様子。仕方ないと私は諦める事にして……近づいて来る頭にうさ耳っぽい物を付けた店員さんと思われる女の人に視線を向けた。

 

「お待たせ致しました! チョコレートパフェになります!」

 

「……」

 

「目が輝いてるわよ」

 

「……可愛いです」

 

「それではごゆっくり~!」

 

「ありがとうございます」

 

 可愛らしい笑顔とウィンクで告げる店員さんにお礼を言って、スプーンを手に最初の一口。舌を通して伝わるクリームの柔らかさと混ざるチョコの甘さに自分でも顔が少し緩むのを感じる。目の前に座る奏と文香さんがジッとこっちを見てるけど……欲しいのかも知れない。

 

「少し、食べる?」

 

「私は別にいいわ。満足だもの」

 

「私も大丈夫です」

 

 楽しそうに微笑む奏と優し気に見つめる文香さんの目にちょっと気恥ずかしさの様な物を感じ乍ら、私はパフェを食べる。15分程掛けて全てを食べ終わり、会計を済ませてカフェを後にすれば奏と文香さんはこの後もレッスン等がある為、別れる事に。お互いにお礼を言い合いながら離れた私は目的も果たした事で帰ろうとする。すると私の携帯が突然鳴り始めた……相手はお姉さんだった。

 

「はい、もしもし」

 

『今何処に居るの!?』

 

「えっと……346カフェって場所の前。今から帰るところ」

 

『他に、誰か居るの?』

 

「誰も居ないよ。あ、お弁当は間に合った?」

 

『うん。凄く驚いたけど、大丈夫。美味しかったよ。何時もありがとう』

 

 ちょっと照れを感じ乍らも電話を続ければ、お姉さんも今日はそろそろ帰宅すると言う話になった。時間にして凡そ1時間後にはこの建物を出れるらしく、それを聞いた私はお姉さんに待っている事を伝えた。急いで帰っても何も無いから、別に何の問題も無い。何故かお姉さんは余り気乗りしてない様子だけど、私はカフェで待ってると伝えて電話を切った。

 

「いらっしゃいませ~! ってあれ? 何か忘れ物ですか?」

 

「あ、いえ。人を待つ事になったのでもう1度入りました。今度は1人です」

 

「そうでしたか。それじゃあ此方の席へどうぞ!」

 

 再び頭にウサギの耳を付けた様な店員さんに連れられて今度私が座ったのはカウンターの席だった。厨房が見える場所で、どうやらピークの時間も過ぎたらしく余り客席に人の姿も多く無い。私を案内してくれた店員さんは少ないお客さんの元で注文を取った後に厨房の方へ戻り、私と目が合うと近づいて来た。

 

「何か注文します?」

 

「流石に居座るのも気が引けます。……ミルクティー、お願いします」

 

 店員さんは笑顔で頷いて奥へ戻る。すると突然厨房の方から「うさみん」とか言う言葉が響いて……店員さんがそれに返事をする姿が私の目には映った。明らかに人の名前じゃ無いから、愛称何だと思う。頭にウサギの耳の様な物もあるから、確かにそんな感じ。私と同じくらいの身長に見た目からすると同い年。なのにこうやって働いている人の姿を見ると、私も何かした方が良いんじゃ無いかと思ってしまう。今している事と言えば学校に行って、お姉さんの家で家事をするくらい。一応両親の仕送りで生活は問題ないけど、何時までも甘える訳にはいかない。

 

「お待たせしました~♪」

 

「ありがとうございます」

 

「……何か悩み事ですか?」

 

「あ……いえ。唯この先の事を考えてたので」

 

「先の事……失礼ですけど学生さん、ですよね?」

 

「はい。今は高校2年生です」

 

「高校生……ならちょっとしたアドバイスです! 将来の事、未来の事を考えるのはとっても大事ですけど、学生の時間は今しかありません! その今限りある時間を大事にするのが一番だと思いますよ?」

 

「今限りある時間……そう、ですね。ありがとうございます。覚えて置きます」

 

「はい♪ ……はっ!? って偉そうに語った私も学生なんですけどね! あはは! あはは! ……はぁ」

 

「?」

 

 何故か突然焦った様子で言葉を続けたうさみんさんはそのまま厨房の方へ入って行く。気のせいか見えなくなる瞬間、溜息をついている様にも見えたけど……『同い年くらいで偉そうに話してしまった』とでも思ってるのかも知れない。私は寧ろそんな考え方もあるんだと知って感謝したい。何かちょっと実感と言うか哀愁が籠ってた気もするけど、多分気のせいだと思う。

 

 それから適当に時間を潰していると、来客を知らせる音と共に私を呼ぶお姉さんの声が聞こえて私は振り返った。レッスンの後で急いで来たのか汗が額に滲んでいて、私は過去に文香さんへ行った様にお姉さんの額をハンカチで拭う。

 

「御免ね、待たせちゃって」

 

「大丈夫。もう、帰って平気なの?」

 

「えぇ。他の人にも挨拶はしたから、大丈夫よ」

 

 私はそれを聞いてカウンターの席から立ち上がると、ミルクティー一杯分の会計をする。レジはうさみんさんで、私は彼女に改めてお礼を言った。うさみんさんは少し照れた様子乍らも笑顔で「お互いに頑張りましょう!」と言ってくれて、私はそれに頷いて答えた。その後、お姉さんと一緒に同じマンションまで帰宅。その際、何時もの様に私の手を握るお姉さんの手は少し強い気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……失敗、しちゃったなぁ……」

 

 彼女と帰宅した後、夕食を終えて彼女が自分の部屋へ戻ったのを確認してから私は彼女が準備して置いてくれたお風呂で今日あった出来事を思い出す。何よりも今日の出来事で印象に残っているのはやっぱり彼女が私の忘れたお弁当を持って来てくれた事。それはとても嬉しい事で、大切にされてると分かる出来事。……なのに私が抱く思いは複雑だった。

 

 

 

 それは丁度お昼前のレッスンをしていて、間の休憩時間だった。携帯を確認する暇も余り無くて、もう1度レッスンをしたらお昼休憩に入れる。そんなタイミングの時、突然私の元に現れた奏さんとその手に持つ見覚えのある包みに頭の中が一瞬真っ白になってしまった。そしてそれが何なのかを確認する為に私が口を開く前に、奏さんはそれが何かを教えてくれた。

 

「美波。貴女の幼馴染ちゃんがお弁当持って来たわよ。はい、これ」

 

 そう言って渡される包み。だけど私の頭の中は真っ白で、徐々に理解出来て来るのは彼女が今私と同じこの建物の中に居るって事。それが分かった瞬間、今すぐにでも会いたくなると同時に彼女が奏さんと話をしたんだと焦りながらも何処か私の心は冷たくなっていた。

 

「奏さん、ありがとう。あの子はまだ居るの?」

 

「えぇ。この後、文香と一緒に昼食を食べる約束をしたわ」

 

「……そうなんだ」

 

 駄目。そんなの絶対に駄目。今すぐにでも彼女の元に行って、帰って貰おう。そんな会いたい思いとここに居て欲しく無い思いが混ざり合って、私は部屋から出ようとした。だけど、タイミング悪くトレーナーの青木さんが戻って来てレッスンを再開すると言われて……思わず睨んでしまったのかも知れない。

 

「に、新田? どうした?」

 

「……いえ、何でも無い……です」

 

「それじゃあ、私は彼女と昼食を食べて来るわね?」

 

「……」

 

「っ!」

 

 はっきり言って、彼女の元へ行く事を邪魔された気がして私は青木さんを恨めしく思ってしまっていた。そして彼女と一緒にこれから昼食を食べると言う奏さんにも……目が合った瞬間、顔を真っ青にして青木さんや私に何処か怯えた様子で声を掛け乍ら出て行く奏さん。今思えば、あれは私の目を見て怯えていたんだと思う。

 

 

 

「はぁ……奏さんと一緒にご飯を食べて、そこには文香ちゃんも居た。……やっぱり、偶然じゃ無いんだね」

 

 前々から可能性は感じていた。あの子が極稀に話すここに住み始めてから出来た友達。年上で本が好き。……そんな人物、世の中には沢山居る。だけど彼女だと疑い始めたのは、文香ちゃんの読む本とあの子の読む本が同じ物だと気付いた時から。最初は唯の偶然だと思った。だけどそれが2度、3度と続けば流石に偶然じゃないと分かった。だけどまだ確信を得るには至らなくて……でも今回の出来事で確信した。あの子が私に話してくれた友達は、文香ちゃんなんだと。

 

「……」

 

 お風呂から上がった私は沢山のあの子に囲まれた部屋でベッドに転がり、携帯の画面を凝視する。そこには『鷺沢 文香』と出ていて、ちょっと指で触れば彼女に電話もメールも送れる。無意識に人差し指を画面に近づけていた私はふと、自問する。

 

「私は、電話を掛けてどうするの?」

 

 あの子は友達が出来た事を嬉しそうに話していた。そんなあの子が悲しむような言葉、例えば『友達を止めて』なんて言える訳が無い。寧ろそれを文香ちゃん越しにあの子が知ってしまったら、あの子から離れるのは私になってしまう。そんなの、絶対に駄目。

 

 手に持っていた携帯を充電出来る様にして、私は手からそれを離した。……思うのは以前感じた様な危機感。何時でも壊れてしまう可能性のある私達の関係。一瞬、一瞬だけ浮かんだ想像は常軌を逸していて、私は流石に駄目だと頭を振り払う。そのまま考えていた私は気付けば自然と眠ってしまっていた。




続くかどうかは相変わらず未定です。


常時掲載

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