【短編】誘われて隣人になり、気付けば通い妻になっていた話   作:ウルハーツ

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 普段、私の携帯が着信を知らせる事は余り無い。学校で知り合いは居ても、友達と言える相手の居ない私の数少ない電話の相手はお姉さんや弟君。後は文香さん達。凄く偶に両親からの連絡が来たりもするけれど、普段一緒に居るお姉さん以外は余り多く連絡を取り合う事も無かった。

 

「……」

 

 そんな私の携帯が珍しく着信を知らせる音楽を鳴らし続ける。電話番号は一切身に覚えのないもので、出るべきか出ないべきか……少し怖いけど、大事な内容かもしれない。もし間違い電話だったとしたら、間違いだと伝えないとまた掛かって来る可能性もある。出よう。

 

「はい、もしもし」

 

『やっと出たわね。電話に出るのが遅いわよ』

 

「……もしかして、奏?」

 

 聞き覚えのある声に心当たりの名前を言えば、電話の向こう側で相手が肯定する。どうして奏が私の電話番号を知っているのか分からないけれど、取り敢えず自分の知っている人物が相手だった事に安心した。

 

『実は同じアイドルの子に、文香の友達で美波の幼馴染って貴女の事を話したら思いの他食い付いちゃって。これから時間、あるかしら?』

 

「これから?」

 

 奏の誘いに時計を確認する。今日は休日で、今はお昼を過ぎた時間帯。お姉さんは何時も通りアイドルの仕事で、しかも今回はドラマの撮影らしい。夜中のシーンを取る必要もあるらしくて、泊まる事が決まってる。お姉さんは凄い嫌そうな顔してたけど、売れてる証拠なんだから仕方が無い。私が『頑張って』と言った時、帰って来たら肉じゃがが食べたいって久しぶりにリクエストされた。

 

 それはともかく、つまり今日の私はお姉さんの部屋を掃除する他にやる事が無い。そしてそれは午前中にもう済ませてしまった。だからお姉さんの為に料理を用意する事も無い私は、十分に時間を持て余している。……でも、正直奏の誘いに乗るのは不安が大きい。彼女の言う通りなら、これから会うかもしれない相手は皆アイドル。ただの一般人として、そんな彼女達に交ざるのは非常に引け目を感じてしまいそう。

 

『アイドルだけど、気にする必要は無いわよ。皆、個性が強いだけだから』

 

 だけど奏はそんな私の心を見透かしたみたいに電話越しで語り掛けて来る。確かにアイドルと言っても同じ人間で、お姉さんや文香さん達と変わらない。知らない相手と会うのはちょっと怖いけど、何らかの手段で私の電話番号まで調べて電話してくれた奏の為にも。ここは引き受けよう。

 

「分かった」

 

『ふふっ、ありがとう。それじゃあこの前と同じ346のカフェで』

 

 そう言って、奏からの電話は切られる。予想外の事態に少し焦ってしまいながらも、私は彼女に言われた通り外出する準備を整えてから家を後にする。向かう先はお姉さんが毎日の様に通う、美城プロダクション。あそこへまた入る機会が来るとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2度目とはいえ、その大きな外観はいつ見ても壮観。私が少し緊張しながら中へ入れば、以前とは違って予め話の通っていた奏が出迎えてくれた。彼女が傍に居れば、私が中に居てもおかしいとはきっと思われない。1つ不安が無くなると共に、これからの事にまた緊張してしまう。

 

「突然、悪いわね」

 

「ううん、大丈夫。でも、何で私が気になるの?」

 

「まぁ、そう言う子達だったから。としか言い様が無いわね」

 

 奏の言い方からするに、そのアイドル達は好奇心旺盛な……達?

 

「奏。もしかして、1人じゃない?」

 

「誰も1人なんて言ってないわよ。今から会うのは3人。でも1人はもう、会った事があるって本人が言ってたわ」

 

 まさかの事実に緊張が高まる。と同時に疑問に思う。私と会った事のあるアイドル? 今までアイドルと会った事なんて殆ど……あ。

 

「取り敢えず待たせてるから、行きましょ」

 

「うん」

 

 何となく、1人は予想を付けられそう。どちらかまでは分からないけれど、多分そうだと思う。もしそうだとすれば、奏以外にも知り合いが居るのは心強い。

 

 346のカフェに入った時、以前も接客をしていた頭に付けたウサギの耳が目立つ店員さんが迎えてくれる。向こうも私の事を覚えてくれていた様で、奏と入って来た私を見て驚いた様子を見せる。でもすぐに店員さんとして迎えてくれて、奏は既に座っている席へ向かい始めた。当然、私も彼女について行って……向かい合わせの席に座る3人が私達に視線を向ける。

 

「! わ、我が先人の眷属よ! 闇に飲まれよ!」

 

「久しぶり、神崎さん」

 

「むっ……我が言霊を理解する貴女は既に、我の眷属。故に余計な言葉は不要よ!」

 

「そっか……じゃあ奏みたいに蘭子。で良い?」

 

「! 良い!」

 

 予想通り、私と会った事があるアイドルはお姉さんと遊園地に行った時に出会った2人の内の1人。私を見て嬉しそうに立ち上がり語り掛けて来る彼女の姿を見て、私も少しだけ嬉しく思えた。これから蘭子と呼ぶ事になって、満足気に座った彼女は目の前にあったスイーツを食べる。どうやら待ってる間、食べていたらしい。

 

「凄い……本当に蘭子ちゃんの言葉が分かるんだ」

 

「しかも美波さんの幼馴染で、文香さんとありすちゃんの友達って……色々凄いにゃ」

 

 そしてそんな私達を私の知らない2人が信じられないものを見る様な目で見ていた。

 

 1人は正にギャルって感じの人。目立つピンク色の髪が物凄く特徴的で……はっきり言って、私がそんなに仲良く出来る様な人ではない気がする。

 

 もう1人は一見、普通な感じにも見える。でも一際目立つ物が彼女の頭にはあった。それは、猫耳。傍に居るピンク色の髪が霞む程に、それは目立っていた。

 

「えっと……」

 

「あ、ごめんね! ちょっと衝撃的過ぎて……アタシは城ヶ崎(じょうがさき) 美嘉(みか)だよ。よろしく★!」

 

「みくは前川(まえかわ) みくにゃ。話には聞いてたけど、かなり小っちゃいにゃ」

 

 2人の自己紹介を受けて、私も自己紹介を返した。思った通り、城ヶ崎さんは何と言えば良いのか。凄く、きゃぴきゃぴしてる。そして前川さんは、ちょっと失礼。確かに昔から身長は伸びないけど、別にそれで困った事は……無い訳じゃないけど、どうしようも出来ないんだから仕方ない。もう私が諦めてるんだから、触れないで欲しい。

 

「何か、凄いみくちゃん見られてるね」

 

「ふふん! みくのオーラに見惚れてたにゃ?」

 

「違う。身長の事、傷ついた」

 

「にゃ!? ……あぁ~、その……ごめん」

 

「別に良い。もう諦めてるから」

 

「結構気にしてたのね、貴女」

 

 意外そうな声で奏が言えば、何とも言えない空気に包まれてしまった。私のせいでもあるから、何とかしてこの空気を変えたい。私は蘭子の隣に座って、取り敢えずメニュー表にあるデザートの欄を覗き込んだ。この前はチョコレートパフェだったから、今度は違う何かにしたい。……苺パフェも良いけど、限定のマンゴーパフェもある。迷う。

 

「何か、無表情なのに楽しそうに見えるんだけど」

 

「甘い物に目が無いみたいなのよね、彼女」

 

「やっぱり子供……な、何でもないにゃ!」

 

 私がメニューを見ている間、話をしている3人。前川さんだけ言葉の途中で2人から睨まれて慌てた様子で訂正しているけれど、一応全部聞こえてる。でも今はそんな事より、どちらを食べるべきか。迷う。凄く迷う。

 

「我が先人の眷属よ、欲望に従うが良いわ」

 

「蘭子?」

 

「召還の代償として、ここは我らが貴女の痛みを受け入れよう!」

 

「……良いの?」

 

「えっと、要は代わりに支払いをすれば良いって事よね? なら主にこの2人の我儘で呼んだ訳だし、それぐらい出してくれるわ。ねぇ、2人とも?」

 

「にゃ!?」

 

「まぁ、仕方ないか。今日は私達が出すから、貴女は遠慮せずに好きなの頼んでね☆!」

 

「それじゃあ……これと、これにする。奏、ボタン押して」

 

「良いけど、太るわよ?」

 

「平気」

 

 奏は心配してくれるけど、私は余り太らない体質だからその心配は殆ど無い。体型に気を使うアイドルの前で言うべき事じゃないから、絶対に口には出さないけれど。ボタンが押されてすぐに、あの店員さんがやって来る。

 

「うさみん、さん?」

 

「はい! ご注文を承ります!」

 

 この前来た時に愛称で呼ばれていた事を思い出して、私も呼んでみる。どうやら間違っていなかった様で、店員さんは笑顔で頷いてくれた。私は彼女に悩んでいた苺パフェとマンゴーパフェを注文。去って行く姿を見送ってから、向かいに座る2人に視線を向けた。現在、私は蘭子と奏に挟まれる形で座っている。そして私達の向かいには城ヶ崎さんと前川さん。一応落ち着いた事で、話を始める空気が自然と出来上がっていた。

 

「何を話せば良い?」

 

「アタシはどんな人か気になったってだけだから、もう殆ど解決してるんだよね」

 

「みくはまだにゃ。美波さんがあんなに綺麗でエロス溢れる秘訣を聞き出すにゃ!」

 

「そんな秘訣、知らない」

 

「嘘にゃ!」

 

 前川さんが身を乗り出して言ってくるけれど、本当に私には分からない。確かにお姉さんは昔から一緒に居る私の目から見ても凄い綺麗で、クラスの誰もが憧れる様な存在だった。こっちに来てお姉さんが大学のミスコンで優勝した時は、驚きと共に納得もしてしまった。私達の地元だけじゃなく、世界が共通してお姉さんを綺麗だと思った訳だから。でも、お姉さんが何か綺麗になる努力をしているのかと聞かれると……分からない。私の知らない努力があるのか、それとも自然が生み出したのか。何か、考え続けるとお姉さんが神格化され続ける気がする。

 

「美波さんしかしてない、美波さんを作る何かをみくも知るにゃ! それでみくも美波さんみたいに綺麗になるにゃ!」

 

「……前川さんは、綺麗になりたいの?」

 

「当然にゃ!」

 

 私の言葉に胸を張って答える前川さん。その姿は綺麗って言うよりも、可愛いの方が合っている気がした。でも、アイドルじゃなくても同じ女として。綺麗になりたいって気持ちは分かる。……特に私は傍にお姉さんが居たから、お姉さんみたいになりたいって憧れ続けていた時期もある。ううん、今もなのかもしれない。

 

「私に出来る事なら、協力する。でも、何をすれば良い?」

 

「普段美波さんがどんな生活を送っているか、教えて欲しいにゃ! 後、みくで良いにゃ!」」

 

 前川さん……みくに言われて、私はお姉さんの1日を端的に説明してみる。お姉さんがしている事と言っても、出来る限り早寝早起きを心掛けて朝昼晩のご飯を抜かない様にする事。後は休みの日は晴れでも雨でも運動を欠かさない様にして、他には……

 

「凄い、普通」

 

「別に美波が特別な事をしてるって訳じゃないと思うわよ」

 

「そんな筈、そんな筈無いにゃ……そんな筈が……」

 

「苺パフェとマンゴーパフェ、お待たせしました!」

 

 みくが落ち込み始めたタイミングで注文したパフェを持って来るうさみんさん。私はそれを受け取ると、慰めって訳ではないけれどスプーンにクリームを掬い上げてみくの口元へ持って行った。少し拗ねた様子で、でも目の前に来たそれを見て一度私を見た後にみくはパクリ。途端、その表情が少し緩んだ。

 

「私も、綺麗になりたい。でも綺麗になる方法、分からないから……ごめん」

 

「……薄々分かってたにゃ。美波さんは何か特別な事をしてる訳じゃないって事は。でも、羨ましいにゃ」

 

 また肩を落としてしまったみくに、今度は苺のソースも混じったクリームを差し出す。また一目私を見てからパクリと口に含んだ彼女の表情が、緩んだ。何か餌付けしてる気分。

 

「みくは、綺麗より可愛い。だね」

 

「……へ?」

 

「……来るわよ。文香やありすがやられた彼女の馬鹿正直が」

 

「っ! ごくっ」

 

 何か奏が小声で城ヶ崎さんに言っているけど、今は落ち込んでしまったみくに思った事を伝える方が大事。ただの慰めでしかないかもしれないけれど、今私は思ったから。それを伝えるだけ。

 

「みくの嫉妬する姿とか、頑張ろうとする姿は綺麗より可愛いだと思ったから。それに、クリームを食べて顔が緩んでるのは本当に猫みたい。愛らしい、かな?」

 

「……そ、そうかにゃ?」

 

「うん。それに私はお姉さんが羨ましいけど、みくみたいに頑張れる人も凄いと思う」

 

「何か、凄い照れるにゃ……でもそこまで言うなら、今日から私のファンになるにゃ!」

 

「お姉さんのファンだから、それは無理」

 

「ガクッ」

 

「でも、前川みくを私はこれから応援する。約束」

 

「……仕方ないにゃ。これからみくはもっと凄いアイドルになって、ファンを虜にしていくにゃ! それは美波さんの幼馴染だって例外じゃないにゃ!」

 

「うん」

 

 みくの目に炎が灯った気がした。相手に伝えたい事はちゃんと伝える。そうしないと、伝わらない事もあるから。何とか元気を出してくれたみくの姿に安心して、私はパフェに口を付けた。その時、燃えていたみくが何かに気付いた様に小さく「ぁ」と言ったけど……まだ食べたかった? 流石にこれ以上あげると、無くなっちゃう。

 

「見事な言霊であったわ、我が先人の眷属よ」

 

「何も特別な事は言ってないよ」

 

 蘭子が急に私を褒めるけど、別に褒められる様な事は言ってない。やっと感じられるクリームの甘さに舌鼓を打つ中、そんな私を頬杖を突きながらジッと見つめて来るのは城ヶ崎さんだった。何かその目は優し気で、苦手な雰囲気だったのに少しだけ安心してしまう。

 

「城ヶ崎さん?」

 

「美嘉で良いよ。奏と同い年なんでしょ? なら、私もそうだからさ」

 

「……美嘉」

 

「うん」

 

 さっきまで感じていた雰囲気は本当に何処かへ消え去っていた。自分で同い年と言っているのに、その目は小さな子を見つめている様で……何だろう。昔のお姉さんみたい。

 

「食べる?」

 

「それじゃあ、一口貰おうかな」

 

 ジッと見て来る理由が分からなくて、取り敢えずパフェ掬ってをみく同様に差し出してみる。やっぱり美嘉は優しい声音で答えて、私が差し出したクリームの載るスプーンをパクリ。みく程ではないけど、僅かにその表情が綻んだ気がした。

 

「むぅ……我にも」

 

「はい」

 

「ふふっ、じゃあ私も貰おうかしら?」

 

「……無くなっちゃう」

 

 蘭子や奏も便乗して催促してくる。どんどん無くなるクリーム。気付けば苺のパフェはもう残り半分も無くなっていた。まぁ、一応彼女達が出してくれたんだからそんなに文句は無いけど。……2つ頼んで良かった。

 

「我が先人の眷属よ。慈悲の女神を介して貴女に向けた言霊、聞き届けて貰えたかしら?」

 

「? 何の話?」

 

「人間が作りし魔具による交信を成す為、貴女との懸け橋を慈悲の女神に託した筈」

 

「そんな話、聞いてない」

 

 蘭子から連絡先を聞かれたなんて、お姉さんからは一言も聞いてない。毎日忙しいから、伝え忘れてしまったのかも。だとしたら蘭子には悪い事をしてしまった。私は蘭子に謝って、携帯を取り出す。蘭子が携帯でLINEの画面を見せれば、私もLINEを開いて蘭子と友達に。そう言えば、奏はどうやって私に連絡したのだろう?

 

「奏。私の連絡先、誰かから聞いた?」

 

「文香からよ。もう登録してあるから、貴女もしなさい」

 

「分かった」

 

「あ、みくも交換するにゃ!」

 

「私もして良い?」

 

 特に断る理由は無いから、了承して2人の連絡先も登録する事に。……気付けば私の携帯の中にはアイドルの連絡先が7件もある。普段からそうだけど、益々不用意に携帯を失くしたりしない様に気を付けないと。アイドルかどうかを別にしても、私の携帯にこんな数多くの連絡先が入る時が来るなんて、想像もしてなかった。

 

 お互いの連絡先を登録した事で、不思議と距離が縮まった気がした私達はそれから一緒に過ごし続けた。だけど全員が何時までもそこに居られる訳じゃない。夕方から奏は仕事がある様で、そのタイミングで解散する事になった。

 

「今日は来てくれてありがとう。中々楽しい時間だったわ」

 

「うん。私も」

 

 会計を済ませてカフェを出たところで、奏に言われて私も同意する。みくも美嘉も蘭子も同じだったみたいで、3人は同時に頷いた。皆アイドルで毎日忙しいから、また会う機会なんて殆ど無いかもしれない。でも何時かまた出来るなら、皆で今日みたいに集まって話したい。……今考えると、今日のは所謂女子会だったのかも。

 

 4人と別れて真っ直ぐに自宅へ帰り、私は部屋の中へ。それから適当に準備をしてお姉さんの部屋へ入った時に気付いた。今日、お姉さんは帰って来ない。

 

「慣れって、恐ろしい」

 

 私は自分の部屋に再び戻って、今日はそれからお姉さんの部屋に入る事は無かった。寝る前に携帯がLINEの通知で鳴って、それが蘭子からだと分かって返信。向こうも返信して来て……気付けば夜遅くまで、私は蘭子とやり取りをし続けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 他県へドラマの撮影でやって来た私は撮影を終えて、旅館で泊まる事に。普段食べる事の無い郷土料理はとっても美味しかったけれど、何か物足りなかった。それは私があの子の料理にきっと慣れてしまったから。寝る時もあの子の写真一枚じゃ物足りなくて、中々寝付けなかった。お蔭で朝は少し寝不足気味になってしまった。……今、あの子は何をしているだろう? もう起きて、朝ご飯は食べたのかな? 以前は彼女が泊まりに行ったけど、今回は逆。寂しがってないかな?

 

「? 蘭子ちゃんから?」

 

 ふと、携帯に蘭子ちゃんからの通知が来ていた事に気付いて指紋認証で画面を開いた。ロック画面に出ていた言葉は寝起きだったせいか読むのを忘れてしまって、私はLINEを開く。そしてそこに書かれていたのは、思いもよらなかった内容。

 

昨日(さくじつ)、我が先人の眷属との交信が可能となった事をここに記す』

 

『後、お忙しい時にお願いしてしまってごめんなさい!』

 

 我が先人の眷属は、あの子の事。彼女との交信が可能になったって事は……蘭子ちゃんが、彼女の連絡先を知った? なんで? どうして? 身体が震える。汗が湧き出る。どんな形で蘭子ちゃんがあの子の連絡先を知ったのかは分からない。もし蘭子ちゃんが私に相談していた事が彼女の耳に入れば、私が黙っていた事がばれてしまう。私は慌てて蘭子ちゃんに返信を返した。

 

『ごめんね! お願いされてたのに、忙しくてあの子に話すの忘れてたの!』

 

 これで何とか誤魔化す事が出来るなら……! 既読が付いた! 蘭子ちゃんの方から吹き出しが出て来て数秒。返って来た一文に私は心底安心した。

 

『おはようごじゃいます! 彼ちょもそうじゃはいかといってましは!』

 

 寝起きで慌てて返したみたいな誤字の連続だけど、言いたい事は十分に伝わった。私はもう1度、『ごめんね』と返してから携帯を布団の上に放る。

 

 どんどん彼女の交友関係が広くなって行く。彼女にとって、それはきっと悪い事じゃないのは分かってる。でも誰かとの交友関係が広がれば、その分彼女は別の誰かを見る様になる。誰かと遊びに行けば、その間私は彼女と居られない。それが嫌だから、そうならない様にしていたのに。

 

 離れたくない。一緒に居たくて街から連れて来たのに、彼女と居られなくなるなんて嫌。……彼女とずっと一緒に居るには、どうすれば良いんだろう?

 

『新田さん。起きてますか』

 

「あ、はい! ……今はお仕事に集中しないと。私を応援してくれる、あの子の為にも」

 

 だからお願い、私を見ていて。もし私以外の誰かのファンになったりしたら。私じゃない誰かを見る様になったら。きっと私は今のままじゃ居られないから。




もしも次回があるのなら、そろそろ美波さん大勝利も必要かも……。


常時掲載

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