「いぇーいみんなー! 燃ーえてーるかーい!」
「燃えてるヤツらならレッスン中だよ」
とある平日の夕方。傾き始めた春のうららかな日差しの下、暇を持て余したうら若き乙女たちは何をするでもなく、まるで高校の休み時間のようにただただ控室にたむろしていた。
これはそんな中での一幕。
学校からそのまま来たのだろう、制服姿の野々原茜は超銀河美少女を名乗らんばかりの勢いで颯爽登場! したのだが、しかして女子高生たちのたむろする控室の反応は薄かった。
「あー……今日から練習始まるんだっけ、
「おう」
茜はそれだけで悟ったらしく、大人しく定位置であるソファに腰を下ろした。灼熱少女再結成の報自体は、既に彼女らのライングループで速報済みであり、いつもなら共に暇しているはずの恵美と海美はそちらに出払っていた。
「可憐ちゃんと亜利沙ちゃんはー?」
「カレンならそこ」
「いるけど……」
「うぉっ」
茜がアイドルらしからぬ野太い声を上げたのはちょうど向かい合うソファに座っていた可憐だった。つまり茜の正面にいたのである。
「ごめんね可憐ちゃん、茜ちゃん今日は茜ちゃんより大きい胸の人は見えない日なんだ」
「な、なにそれ……」
「おいこらバカネ喧嘩売ってるのかおいこら」
順に90、80、79。たった1違うだけでも現実は現実である。
そしてもう一人の少女・松田亜利沙はというと、少し離れた場所でスマホを前に興奮していた。
「ふぉぉぉぉぉ! 始まってしまいましたぁ! ありさの心にも火が点きましたよ~! 心に点いた火、略して心火を燃やして駆け抜けてみせます~!」
茜も若干察してはいるものの、一応形式を踏まえてジュリアに尋ねてみる。
「あれは?」
「あれは15時からずっとあの調子」
「ふぉぉぉぉぉお! 報酬のスキル名エモいです~!」
「数時間ずっとあれかぁ」
さすがに茜ちゃんもあれには勝てないなー、とぼやきながら、茜も茜でスマホを弄り始める。ちなみに対面する可憐は何やらアロマを弄っており、ジュリアは相変わらず窓辺でギターだった。いつもの風景と言えばいつもの風景である。
「あー……茜ちゃんも灼熱少女入れば良かったかなー」
「お前にはクレブルがあるだろ……」
「ジレちゃうなー」
「き、聞いてない……」
野々原茜が話を聞いてないように見えるのもまた、割と日常茶飯時だった。
「でも確かに、恵美ちゃんもウミミンも火属性って感じするよね~」
「なんだそれ」
別にアタシと茜が水属性って感じはしないだろ、とジュリアが突っ込んでいたがしかし同意する声も一つ。
「ありさ、なんだかわかる気がします~」
もう一人の火属性、松田亜利沙である。ちなみにこの方式で言えば篠宮可憐は光属性である。
「海美ちゃんは王道の火属性、恵美ちゃんは複属性って感じしますね~」
「さっすが亜利沙ちゃん、わかりてだねー」
「わかりてですーっ!」
相変わらず中身があるようでない会話を繰り広げる二人を見て、ジュリアが「何の話だ?」と可憐に問うが、彼女も彼女でふんわりとしか理解出来ていなかった。高校生の生態において雰囲気でのみ成り立つ会話というのはさほど珍しくないのである。
「と、ところで亜利沙ちゃん、イベントはもういいの……?」
「ご心配ありがとうございます、可憐さん! でもありさ、大丈夫ですっ! 今ある資材は消えたので取り敢えず休憩です~」
「い、石も?」
「もちろん!」
「す、すごいね……頑張ってね……」
可憐は亜利沙のギャラの使い方を垣間見てしまったのだが、それはそれだった。一転して今度は茜が、三人の前に躍り出るような形で立ち上がる。
「じゃあさじゃあさ! 茜ちゃんは何属性かな!」
さっきの『海美と恵美は火属性っぽい』という話の流れなのだろう。問われた三人は一応考え込んだ挙句、それぞれの見解を口にしてみる。
「……水系高位じゃないか?」
「いえ、やっぱりノーマルタイプかと」
「わ、私は甲属性かなって……」
「おーけい、ゲームを指定しなかった茜ちゃんが悪かった」
参った参ったHAHAHAHAHA、といった具合で洋画よろしく肩を竦めてみせる茜。
「まぁいいや。ともかくともかく、茜ちゃんたちは灼熱少女じゃないわけだし」
うんうん、と何かを肯定するように頷いて茜は元の位置に戻る。全く今のくだりに内容なんてなかったわけだが、しかし16歳女子高生の会話に内容を求める方が野暮なのだ。
「しかしでも、これは由々しき問題だよ」
「由々しき問題ですか!?」
「どこがだよ……」
食いつく亜利沙と食いつかないジュリア。これが釣りゲームならおそらくレア度が高いであろう反応を見せたジュリアに、茜がビシリと釘を刺す。
「危機感がないねジュリアン!」
「そりゃ危機感じてないからな」
全く話の内容が掴めない、といった具合のジュリアと困惑している可憐に、茜が事の次第を説明する。
「つまりだよ! 茜ちゃんたち――いわゆる『バーニングガってない』16歳組は! 日の目を見る機会がないってことだよ!」
「な、なんですってー!」
もちろん反応したのは亜利沙だ。可憐は相変わらず困惑するばかり、そしてジュリアが呆れてため息。
「チハたちも違うだろ」
「千早ちゃんもヒビキンも昔からの固定ファンがいるから! 茜ちゃんたちとは登場機会が違うから!」
「た、確かに……」
納得してしまったのは可憐である。臆病な彼女にとってこの話題は割と刺さってしまった……のかもしれない。
「と言う訳で茜ちゃんたちの存在感を損なわないための会議を今から始めようと思う」
「う、うん……」
「わかりましたーっ!」
「ほら、ジュリアンもこっち来て」
「仕方ないな……」
呆れながらも応じて可憐の隣に腰を下ろすジュリア。なんだかんだ言って人付き合いは良いのである。
こうして始まった『バーニングガってない16歳』会議。
初めに対策案の口火を切ったのは議長(?)をも務める茜だった。
「例えば……ガシャでメインを張るとかどうかニャ!?」
「あっアタシ一抜けた」
「わ、私も……」
「ありさもそれなら大丈夫ですー」
「あっごめんこの話題茜ちゃんだけが悲しくなるやつだったねごめんだから戻ってきてSSR女子たち! カムバック!」
最早必死である。なおここに例え灼熱少女の二人やAS16歳の二人を加えたところで、四月頭現在SSR未実装なのは野々原茜だけであった。早急な実装が求められる。
「じゃあ……可憐ちゃんはどうする?」
「ど、どうって……?」
「我らがバーニングガってない四人衆の目立ち方だよ」
その名称なんとかならないのか、と思わなくもないが可憐はそんなこと言わない。今まで巻き込まれるだけ巻き込まれてある種受け身だった彼女は、戸惑いつつも考えた挙句。
「……ば、灼熱少女を乗っ取る、とか……?」
「おっ、大胆な攻勢に出たねー」
どこぞで聞いたような案を口にしたのだった。
「で、誰が乗っ取るの? 可憐ちゃん」
「えぇ、と……その…………ARRIVE……?」
頭の中がPSLだったのだろうか。
「だってよジュリアン。いやーファイナルのリーダーは格が違うねー」
「リーダー風吹かせてきたな。春一番か」
「ありさたちARRIVE関係ありませんものねー。いいですよねーARRIVE」
「あっ、その、今のは冗談で……! ううぅ……」
一斉攻撃である。内部分裂がこうも容易く起きることを考えると、レジスタンスというのは歴史が証明するように脆い勢力であるのかもしれない。
「じゃあそう言うジュリアンは?」
「アタシか? ……まぁ一応考えるけどさ」
未だに茜の言う『危機』とやらがいまいち理解できないジュリアだったが、それはそれとして考えることは考えてみる。
「……その、なんだ。二人の魅力をこっちでもカバー出来ればいい……とか?」
「それ結構危ない案じゃない? 大丈夫?」
「アタシも言ってて大丈夫じゃない気がしてきた」
つまるところ二人の魅力を食ってしまう、ということなのでアイドルとしての高坂海美と所恵美の沽券に関わりかねない話である。この案は自然と却下だった。
そしてそうなれば最後に焦点が当たるのは当然亜利沙の案である。
「ありさの案はですねー……ユニットです!」
「ユニット?」
「はいっ!」
聞き返されて喜んだツインテールは絶妙に跳ねる。
「よく考えたらこの四人って誰も一度も同じユニットになってないじゃないですか」
「ん……?」
「…………あっ、確かに」
「い、言われてみれば、そうかも……」
彼女たちが一瞬でこれまでを振り返る。PSLではそれぞれがクレシェンドブルー、エターナルハーモニー、リコッタ、ARRIVEとバラバラのユニット。デュエットを組んだこともこの中ではなく、昨年の武道館公演も日程で見ればもちろん被りはあるが、星座ユニットで考えればアクアリウス、ピスケス、スコーピオ、アリエスと一度も被っていなかった。ユニット曲の存在するLTPでも同様である。……なお、ここでは全国キャラバン編の西エリア及びフォーマルアテンダーは考えないものとするのだが、そこはご了承いただきたい。
回想終了し、亜利沙が続ける。
「と言う訳で、灼熱少女の対抗ユニット……じゃないですけど、四人でユニットです! どうですか!?」
「……アリ、なのでは」
ニヤリ、と不敵に笑ったのは茜。彼女が可憐とジュリアに目配せをしてみれば、その二人も意外と満更ではないという感じであった。
「対策案出たね……ユニット名は『16歳@バーニングガらない』でどうかニャ?」
「『どうかニャ?』じゃねぇよダメだろ……」
「ユニットコンセプトそのまんまだね……」
「いやユニットコンセプトとしてもおかしいだろ。どう見ても余りものユニットじゃねぇか」
「じゃあありさがバッチリのコンセプトを考えてみせますーっ!」
傾きつつあった夕日は既に落ち、辺りは暗くなり始める。
ここで冗談交じりに軽く交わされたユニット談義が、ゆくゆくは正式採用、そして灼熱少女の二人を迎えた39プロジェクト16歳組ユニット、更に千早と響も加えて……と発展していく小さなきっかけになるのだが――――それは遠い遠い、ifのお話。