暇は短し駄弁れよ16歳   作:並兵凡太

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今回の登場メンバー:篠宮可憐、野々原茜、我那覇響、如月千早、ジュリア


選ばれたのは16歳でした。

「み、みんな……ちょっと聞いて欲しいことg」

「ボディががら空きだぜ可憐ちゃん!」

「ひぅん!」

 

 とある平日の夕方。日ごとに変わる梅雨だか夏だか分からないような湿度と温度の中、暇を持て余したうら若き乙女たちは何をするでもなく、まるで高校の休み時間のようにただただ控室にたむろしていた。

 これはそんな中での一幕。

 何やら落胆した面持ちで入ってきた篠宮可憐を迎えたのは野々原茜の鋭い一撃だった。完全に油断していた可憐のへそ目掛け迫る茜の手刀。防御姿勢を取る間も与えずその指先は服の上からへそを軽く抉ってするりと撫で上げる。上がる悲鳴。この間僅か三秒の出来事である!

 

「えっ何……? い、今何が起こったの……?」

 

 混乱し戸惑う可憐。当然である。しかし一方で、仕掛けた側であるはずの茜もまた困惑していた。

 

「えっ可憐ちゃん困るよ……急にメスの声出さないでよ……」

「だっ、出してないよ……!」

「いや今のはメスの声だったよ……エロかったもん」

「え、えろ……!?」

「ナニをナニされた時の声だったよ……」

「茜ーまだ昼間だぞー」

 

 さすがにこれ以上は見過ごせないと感じたのか他所から苦言が呈される。可憐は助けが入ったとそのどこか南国の風を感じられる声の主に目を輝かせた。

 

「響ちゃん……!」

「おぉおぉ、可哀想に……意地悪なネコにイジメられたんだな」

 

 まるで姉を慕う妹が如く駆け寄った可憐を我那覇響は膝に抱えて撫でる。甘えた相手が響ということもあってどちらかというとその絵面はペットと飼い主のそれに近いような気もするが。

 

「駄目だぞ茜、可憐をイジメちゃあ。やってることが昨日のハム蔵と同レベルだぞ」

「茜ちゃんをまるでペットのように叱られても」

「事務所のみんなはペットみたいなもんだぞ」

「豪語しおる……」

 

 ここまで言い切られてしまうとツッコむ方が野暮な気がしてくる。さすがは先輩の貫禄といったところだろうか。

 

「ちなみにその観点だと茜ちゃんはネコだとして可憐ちゃんはどうなるのかにゃ?」

「可憐は最高のモルモットだぞ」

「響ちゃん……それどういう……?」

 

 ゾンビを思わせるデンジャラスな高笑いが聞こえそうな形容に可憐は思わず訝しんでしまう。哺乳網齧歯目ヤマアラシ亜目テンジクネズミ上科テンジクネズミ科テンジクネズミ属モルモット。愛玩用とも知られる小型の可愛らしい齧歯類で確かに小動物っぽさのある可憐のイメージにもそぐうのだが、その名前を聞くとどうしても実験動物(モルモット)を思い浮かべるのも事実で。

 心配そうに尋ねる可憐へ、響は満面の笑みで答える。

 

「可憐は臆病で可愛いからモルモットさー」

「響ちゃん……!」

「あと可憐に何か試してみても笑って許してくれる辺りもモルモットだぞ」

「響ちゃん……!?」

 

 哀れ篠宮、茜に突かれたのを裏付けるように両方の意味でモルモットだったのである。食物連鎖最下位は愛玩されるように響の隣に大人しく腰を下ろすほかはない。

 

「ちなみにそこで歌詞書いてる千早はヒバリで知らん顔してギター弄ってるジュリアはイヌだよ」

 

 飛び火したのはかつてユニットでもあった二人である。ちなみに今日ここにたむろしているのは彼女ら含めた五人で全員だった。

 しかしそれはそうとしても可憐に味方が増えるわけでもなく、悪戯な野良猫茜は再び哀れなモルモットを煽る。

 

「ふふふ……たとえヒビキンの腕の中に収まったとしても茜ちゃんの猛攻は止められないにゃ~……!」

「ひぃ……響ちゃんたすけて……」

「茜と可憐は仲が良いなぁ」

「響ちゃぁぁん……!」

「どうしたどうしたー? 篠宮ビビってるぅー! へいへいへい!」

「篠宮がビビってるのはいつものことだろ……」

 

 騒がしさにあてられたのか生来のツッコミ気質からか、ジュリアが思わず苦笑いを浮かべて、若干酷いことを言われつつも可憐は新たな助けを求めて窓際の彼女の下へ。

 

「ジュリアちゃん……私のおへそを守って……」

「自分のへそは自分で守れよ……」

 

 一応寄ってきたので相手はしてやるがぞんざいに扱うジュリア。声に出さずとも『呆れた』と思っているのが分かるやれやれ度合いで、そもそもを茜に尋ねる。

 

「んでお前は何で可憐のへそ狙ってるんだよ」

「ほら、最近ユリッチのおへそ流行ってるじゃん? だからその延長だったら可憐ちゃんかなーって」

「とばっちりじゃねぇか」

 

 百合子がへそを狙われたからと言って可憐がへそを狙われる道理は全くないのである。なんとなく系統は似ているような気もする二人だが明確な共通点は少ない。

 しかしこのままでは埒が明かず、16歳たちは意味もない硬直状態に陥るかに見えた。だがそこに救いの青い鳥が。

 

「ところで篠宮さん」

 

 歌詞の仕事がひと段落したのか、集中で沈黙を保っていた千早が穏やかな口調で姦しい喧騒に加わる。

 

「入ってきた時何か言いたげでしたが、どうしたんですか?」

「ち、千早さん……!」

「あっ可憐ちゃん尻軽」

「おいバカネ」

 

 新しい救いの女神が現れて目を輝かせる臆病なモルモット可憐、そしてその様子を野次る茜と止めるジュリア。その甲斐もあって、尋ねられた可憐は本来口にしようとしていた話題を切り出す。

 

「じ、実は……また成人女性だと思われてしまって……」

「いつものことだぞ」

「茜ちゃんもそう思う」

 

 可憐としては同情を求めて口にしたのだが哀れその願いは届かず響と茜にばっさりと切り捨てられてしまうのだった。すかさず助けを求めて千早の方を向けば

 

「それは……また……」

 

 みたいな柔和な笑みを浮かべられるだけである。打ちひしがれる可憐に、茜がその身をソファーに投げうちながら全身を舐め回すように眺める。

 

「だって可憐ちゃん、16歳って見た目してないもん」

 

 特別低いわけでもない身長、成熟した体と一見高飛車にも見える顔立ち、更に私服もぐっと大人びたものが多いことを考えると可憐には申し訳ないが外見だけで16歳と判別するのは不可能なように思えた。

 

「そ、そんな……千早さんは……?」

「私、ですか?」

「千早さんも年上に見られることありませんか……?」

 

 確かに千早もこの中では随分と大人びている方だろう。彼女の場合は言動もしっかりしていて、更に身長も女性にしては高めであるため可能性はあった。

 しかしその返答は芳しくなく。

 

「確かに私も大学生に間違われたりしますが……でも学割は効くので」

「うぅ……学割……」

 

 よよよと彷徨ってまた響の隣に落ち着く可憐。取り敢えずその頭を片手間に撫でる響。悲しきかな差額三千円。高校生にとって三千円とは大きい額でもなかったが決して少ない額でもなかった。

 

「どうしたら16歳に見えるのかな……響ちゃん……」

「そんなの自分に聞かれても困るさー」

 

 むしろ響は16より下に見られることもあるアイドルである。聞く相手をある意味間違えているのであった。今日の篠宮可憐は何かとツイてない。

 だが『どうしたら16歳に見えるのか』という話題は案外全員の心に刺さったらしく。

 

「そもそも16歳らしさって何かしら」

「それだよねー」

 

 千早の浮かべた疑問に茜も同意していた。もちろんパッと解答が出てくるなら誰も苦労はしていない。方々で唸る声を切り裂いたのはスマホ片手のジュリアだった。

 

「16歳……結婚とバイクの免許と200ml献血だってさ」

「民放改正で結婚は出来なくなるって」

「チハは耳ざといな……あっ、後は『破瓜(はか)』って呼び名もあるみたいだな」

「破瓜? 何それジュリアン、えっちな言葉? それともマオリ族?」

「えっちでもラグビーでもねぇよ。『瓜』の感じが『八』を二つ重ねたように見えるから、だってさ」

「へー……自分、初めて知った」

 

 ちなみに『破瓜』には処女喪失の暗喩の意味もあり、茜の聞いた『えっちな言葉』というのはあながち的外れでもないのだがそれは彼女らが知る由はない。

 

「でもこれは由々しき問題かもしれないよ……」

 

 ここで茜はこの事態を一人大きく問題視していた。そしてそれを声高に訴えるのである。あまりにも流れが唐突なのは駄弁る女子高生にはよくある光景なので誰も気に留めなかったが。

 

「千早、また茜が由々しき問題だって言ってるぞ」

「もうそんな時間?」

「ねぇ二人とも冷たくない?」

 

 ここぞという見せ場を潰される茜。こういうときの先輩陣の結託のしようは色んな意味で流石と言わざるを得ない。まぁそれでも茜は続けるのだが。

 

「それが我々の選ばれない理由ではないかな、と茜ちゃんは思うわけよ! 我々は選ばれねばならないっ!」

「ま、また危なさそうな言い方を……」

「さすがSSRが最後になった女は違うなー」

「ジュリア、それは野々原さん以外にも飛び火するからよくないわ」

「茜ちゃんに飛び火する分には良いように聞こえちゃうなー」  

 

 可憐が弄ばれていた状態から一転、今度は茜が非難轟々である。これが女性コミュニティの恐ろしいところだと思わざるを得ないし、明日は我が身なのである。南無三。

 しかし茜の問題提起はこの程度では収まらない。

 

「みんなお忘れではないかね? ここに集まっているのは――他でもない! MTGのユニットに選ばれてないウーメン!」

「温麺?」

「違う! Woman!」

 

 ここにいない16歳と言えば恵美、亜利沙、海美。言い替えれば夜想令嬢、トゥインクルリズム、閃光☆HANABI団である。そして茜の言う通りここにいるのは何の因果かまだユニット曲に選ばれてないアイドルたちだった……のだが。

 

「我那覇さん、これは私たちには関係のない集まりみたい」

「帰るかー」

「あたしも若干居辛いな……チハ、あたしも一緒にいいか?」

「待って待って! 取り敢えず座って!」

 

 共通点があると見られた五人のアイドルは意外にも結束力はなく、慌てて茜が呼び止めるのだった。ちなみに千早と響はそもそも選ばれるかどうかも分からないので離脱しようとし、ジュリアは上記の流れを汲むユニットにはいないが彼女は同じMTGシリーズの属性曲にいるので居辛くなったのである。解説おしまい。

 

「で、でも16歳の話題とその話題、何の関係が……?」

「良いことを聞いてくれた可憐ちゃん! やはりAngelは鋭い!」

「やっぱりあたしら三人に喧嘩売ってんのか」

「ごめんなさい」

 

 今日は野々原茜も厄日らしい。

 だが可憐に聞かれたことは答える辺り妙に律儀なのもやはり野々原茜だった。単に語りたいだけとも言うが。

 

「我々16歳組はね、年齢的アドバンテージがあまりにも薄い!」

「一応聞いてあげるぞ」

「ありがとうヒビキン! 数が多いから覚えにくいし、かといって14歳組ほどメジャーでもない! おまけに結婚できなくなった! 16歳のウリって何!?」

「知らねぇよ……」

「迷走してるわね」

「エタハモ冷たい!」

 

 茜の言い分ももっともであったが、ジュリアと千早の反応ももっともであった。しかしこのまま押し切られては現状は何も変わらないと意気込んで茜は更に弁を滾らせる。

 

「だからこそ、16歳ならではのウリを見つけなきゃいけないと思うわけ! どうかなヒビキン?」

「そのさっきから言ってる『ウリ』は『破瓜』と掛かってるの?」

「ちょっ……! 我那覇さん……! ぷふっ……!」

「嘘だろ千早ちゃん……」

 

 意見を聞こうと思ったらしょうもないダジャレが帰って来て案の定それで一人がドツボにハマるというピタゴラスもびっくりの連鎖現象に茜も唖然とする他はない。さすが先輩方、破天荒が過ぎる(?)。

 茜は二人は駄目だと見限って、慣れ親しんだツッコみ役と体の良い弄り対象へと目を向ける。普段から16歳だと思われてない可憐は浮かばないようだったが、ジュリアは適当に考えながらもそれっぽいことを口にする。

 

「大人と子供の中途半端な感じ……とかじゃないのか?」

「それはつまり子供のような精神性と大人のような体の色気的なアレかな? ジュリアちゃんのえっち!」

「誰がえっちだ!」

「でもその方向性はプロデュースとして悪くない……」

「聞けよ! バカPみたいなこと言いやがって……」

 

 哀れツッコみ役はボケ殺されるのである。対する茜はその解答に何らかの光明を見出したらしく、ゲラってる千早を見て楽しんでいる響と憤慨するジュリアに軽く尋ねる。

 

「ねぇ、うちの16歳の中で『精神は子供っぽいけど体つきはえっち』って誰が一番それっぽいかにゃ?」

「変な言い方で変なこと聞くなよ……」

「いいからいいから」

 

 しかしこの場において思考が回る二人が考えた結果、不思議とそれは一致していた。

 

「難しいけど……恵美だと思うぞ……」

「あたしもそう思ってしまった……」

「茜ちゃんもそう思ってたー」

 

 満場一致である。ちなみに当の恵美は件の夜想令嬢で何かミーティングがあるらしくこの場にいない。可憐は一人、ここにいないがために魔女裁判のようになった友人を憐れんでいた。可哀想な恵美ちゃん。

 しかし篠宮可憐、恐らく今日は厄日なのである。

 

「うーむ。じゃあここにいる誰かだとすると?」

「ここにいる人?」

 

 千早もゲラから復活して、加わらなくてもいいのに話題に加わろうとする。また頭を捻る四人が導き出した視線の先にいたのは――その恵美と仲が良く比較的特徴も共通性のある、金髪の少女だった。

 

「わっ、私……!?」

「確かに、所さんと篠宮さんは似ているところがありますし……」

「やっぱり可憐は最高のモルモットさー!」

「ということだよ可憐ちゃん……取り敢えず16歳組を売り出すための実験台に……!」

 

 悪の秘密結社もかくやと言わんばかりの表情でわきわきと詰め寄る茜。普段自分が陥るようなポジションにいる後輩を見て面白がる響。そして真面目にそう思っている千早。

 この三人はダメだ、小動物的生存本能に従ってそう判断を下した可憐は残る一人であるジュリアに助けを求める。

 

「じゅっ、ジュリアちゃ……!」

「ごめんなカレン……多分ここでカレンじゃなかったら嫌な予感がするんだ……誰かの犠牲は必要なんだよ……」

「そ、そんなぁ……」

 

 無情にも断られてしまう。そうしている間にも茜と響の魔の手が迫り、可憐はぷるぷると震えながら自身より先に候補に挙がった恵美の帰還を切に願うのだった。

 余談だが、ここで茜によって分析されたデータが後に16歳組がユニットとしてデビューする際プロデュースのベースになるのだが……それはまた、いつかの未来に。

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