広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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こういう物語を書いていると、本当に話が進んでいるのかどうか分からなくなるときがあります。


ジャック

ズワアッ!

 

男の体内から、人型の物体が飛び出す。

ソイツは歯を食いしばっているような顔つきをして、孝一の体を掴もうとその手を伸ばす。

 

「エコーズ!」

 

とっさに孝一はエコーズact2を呼び出し、繰り出される右手をいなす。

その瞬間!

 

ビタッ!

 

「え?」

 

相手の腕をいなしたエコーズが動かなくなる。いや、それだけじゃない。

 

(か…からだが…うごかない…)

 

孝一の体も、まるで何かに固定されてしまったかのように、動かせなくなる。

 

「お前っ…まさか、俺と同じような能力を…」

 

男はいきなり発現したエコーズに驚いているようだ。

しかし、その言葉の先を続けようとする前に…

 

ズルッ

 

男は白目をむいて倒れこんだ。

 

見ると男の後ろには、いつの間にか回りこんだジャック・ノートンが

銀のアタッシュケースを持って息を切らせていた。

おそらく、このアタッシュケースの角で、男の後頭部を殴ったのだろう。

 

「ゆっ…油断したなぁ?…お、おい、少年に譲ちゃん!逃げるぞ!」

 

「あれ?動ける?」

 

さっきのは一体?この男の能力なのか?

そう思う孝一をおいて、ジャックはどこかへ走っていく。

 

「孝一君!あのおじさん、行っちゃうよ?追わなきゃ!」

 

そういって佐天は孝一の手をとる。

 

(そ、そうだ!今はあの人を見失っちゃいけない、

きっと、なにかヤバイ事件に関わっているんだ、あの人。

大統領訪問、謎の男達、アタッシュケース、能力者…

これだけの条件がそろったんだ。何も関係ないはずがない!)

 

そう思い、孝一たちはジャックの後を追った。

 

 

 

                       ◆

 

 

「つっ~…」

 

孝一達がいなくなった後。

男、サーレは目を覚ましていた。

頭がズキズキする。触ってみると、後頭部に大きなタンコブが出来ていた。

 

「くそっ!俺としたことが…こんな油断を!」

 

(これで任務に失敗なんぞしたら、また、サリーの奴にどやされちまう…)

 

彼はいわゆる、便利屋という商売を生業として生計を立てていた。

今回の任務もその一環で、「受け取った商品と依頼者を、目的の場所、時間まで護衛する」

というモノだった。

途中までは、トラブルもなく順調だったのだが…

 

(あのやろぉ…怖じ気づきやがったのかぁ…ま、気持ちは分かるが…)

 

あの男が逃げた理由は、あの銀のアタッシュケースだろう。

あの中に何が入っているのかは、依頼者も言わなかったが、おそらく爆弾の類だ。

おそらく爆弾テロを起こすつもりなのだ。

その行為自体、サーレは気に入らなかったが、それはそれ。

与えられた任務は、きちんとこなさなければならない。

 

(その為にも、あのアタッシュケースは絶対に手に入れる!)

 

そう決意して、サーレは孝一たちの後を追っていった。

 

 

                     ◆ 

 

 

 

「さあ、答えてください。一体あなたは何をやったんですか?そしてあいつは誰なんですか?」

 

とりあえず身を隠すため、裏路地まで逃げてきた三人。

辺りは塗装工事の途中なのだろう、ペンキの缶やら梯子やらが置いてある。

 

「ええ…っと…それは…だな…」

 

はじめは何か良い言い訳を探していたジャックだったが、二人の問い詰めるような眼差しに

さらされ、ついに折れてしまった。

 

「俺が追われている原因は、これさぁ」

 

そういって、手にした銀のアタッシュケースを孝一と佐天に見せる。

 

「何が、入ってるんです?」

 

当然の疑問をぶつける佐天。

 

「それは俺にもわからねぇ、ただ俺は、指定された日時にコイツを相手に渡す。

それだけ言われてただけだからな。だが、あいつらの口ぶりからすると、おそらく、爆弾」

 

”爆弾”という言葉を聴いた瞬間、孝一たちはスザッと後ずさりする。

 

「ば、爆弾!?なんで?そんなものが?というか、どうしてあなたがこんなものを?」

 

孝一はそう口にしたが、頭のどこかでは理解できていた。このようなものを学園都市に持ち込むことができるということは、おそらく…

 

「俺は、密航者だ」

 

ジャックが、孝一の疑問に答えた。

 

 

 

 

 

                       ◆

 

 

「密航者?あなたはテロリストなんですか?」

 

当然の疑問を口にする孝一に、ジャックは一言「ちがう」と否定する。

そしてどっかりと地面に腰を下ろし、銀のアタッシュケースの鍵穴部分を、

持参していた小型の工具セットでカチャカチャといじる。

 

「学園都市に来るのは、俺の夢だった。」

 

そして彼は話し始めた。

 

「子供の頃。俺はスーパーマンに憧れてた。誰だってそうだろう?

とにかくあの頃の年代は、自分より大きな力を持ったものに、とかく強い憧れを示すもんさ。

俺もその一人だった。よく友達と木の上から、スーパーマンごっこと称して飛び降りてたっけ。」

 

そういって遠い目をしながらも、作業を進める。

 

「だがそんな時、悲劇が起こった。交通事故さ。ダンプカーと俺たち家族の乗った車の正面衝突。

親父たちは即死。俺は意識の戻らぬこん睡状態で病院に担ぎ込まれた。

それから何十年も植物状態だったらしい。俺が目を覚ましたのは十年前。

事故からもう、二十年も経っていた。」

 

もうすぐロックが外れる。ジャックはその手ごたえを感じた。

 

「学園都市について知ったのはその後さ。俺を回復させた医療器具。それにリハビリの機器や薬。

これらは全て学園都市の技術が使われていた。学園都市側からしたら何世代も前の型落ち品さ、でも、

それでも、俺は救われたんだ…」

 

カチャン、とロックが外れる音がする。

 

「だから、どうしても来て見たかった。俺の子供の頃の夢をそのまま体現したかのような、学園都市にな。

だが、俺はもう四十。学生として入るには年を重ねすぎたし、ここの関係者でもねぇ、そんな俺がここに来るためには、体を張るしかなかったんだ。」

 

「それで、密航…」

 

孝一たちにはジャックの気持ちが理解できた。自分達も、同じ思いをもって、この学園都市にきたのだから。

もし学園都市にくることが出来なかったら、おそらく、ずっと誰かと自分を比較し、劣等感を持ったまま生きていたに違いない。

 

「さて、俺の話はもういいだろう。それよりコイツの中身は…」

 

そういってジャックはアタッシュケースの中身を空ける。

 

「え?ちょっと、爆弾が…」

 

爆発するんじゃ?と孝一達が言う前に、ジャックは中身を取り出す。そして疑問を口にする。

 

「何だ?コイツは?」

 

それは爆弾ではなかった。

それは実験などで使う試験管で、中に紫色の液体が入っていた。

 

「薬品?爆弾じゃなく、毒殺するつもりなのか?ん?」

 

アタッシュケースの中身にはまだ何か入っている。試験管に目を取られて

視界に入らなかったが、何かのレポート用紙だ。

 

とりあえずこれは後で読んでおこう。そう思いジャックはそのレポート用紙を懐にしまう。

 

「さて、と。とりあえず、この妙な薬品を、どうするかだが…」

 

そういい、ジャックは二人をみる。その目は「どうする?」と彼らに問いかけている。

 

「そんなの決まっています。アンチスキルに連絡しましょう。こんな怪しいもの、

このままにしてはおけませんよ」

 

そう孝一が言うと。

 

「そうだ!白井さんに連絡しよう。あの人はレベル4の空間移動能力者(テレポーター)です。

この試験官ごと、安全な場所まで移動できるはず!」

 

そういうと佐天は携帯をいじり白井と連絡を取ろうとする。

 

しかし

 

「え?え?何?体が、動かない?」

 

佐天は体がまったく動かせなくなっている自分に、軽いパニックを起こしている。

 

「見つけたぜぇ。まったく、手間取らせやがってよぉ」

 

そして、いつのまにか佐天の後ろにいた人影がゆっくりとこちらに向かってきた。

公園で孝一たちを追いかけてきた男・サーレである。

 

「とりあえず、人気の無い所にいると思って、上から探していて正解だったぜ」

 

上?そう思い孝一は上空に視線をやる。するとサーレの上空では小石が大量に浮かんでいた。

 

(浮かんでいる?違う、止まっている?こいつの能力って、もしかして…)

 

孝一は公園での一軒を思い出す。あの時、あいつの拳に触れたエコーズはまるでその場に固められたかのように動けなくなってしまった。

 

(固める。固定?そうか、あいつの能力は触れたものを固定する能力!)

 

しかしそれが分かっていても今は動くことが出来ない。佐天さんを人質に取られてしまったからだ。

 

「ケータイ、だしな。ボウズ。おっと、能力はだすなよ?

一瞬でも出したら、分かってんだろうな?

ジャック、お前ぇも携帯持ってんだろ?出せ。」

 

そういってサーレは二人に携帯を出すよう要求する。

そして

 

「壊せ」

 

携帯を破壊するよう命じる。

 

(くそ!こっちに渡せって言ってくれれば、携帯に貼り付けたaut2の文字で攻撃できたのに…)

そう思いながら、孝一は携帯を足で踏み、壊す。

 

敵は孝一の能力に警戒してか、孝一を近づかせない。

 

「お譲ちゃん。悪いが携帯は壊させてもらうぜ?こっちも任務を全うするまでは

連絡されたくねぇんだ」

 

そういって佐天の携帯をとり壊す。

 

「女の子の携帯を壊すなんて、最低ですね」

 

あまりに悔しかったのか、佐天がそう悪態をつく。

 

「最低?そうかもな…だが最低でも俺はプロだ。仕事は全うしなくちゃならねぇ。

ジャック、次はその試験管と銀のアタッシュケースだ!よこしな!」

 

そういっても、孝一に警戒の視線は怠らない。

 

「よーし、確かに受け取ったぜ。」

 

キキィッ

 

孝一たちの十メートルくらい後方で音がする。

見ると黒いバンが止まっていた。運転手は、カフェでサーレと会話していた人物だ。

 

「ブツは奪取した。これでお前らに用はねぇ。俺はお前達に何もしねぇ。その代わりお前達も何もするな。

俺たちを探そうとしたり、アンチスキルに連絡するのもやめときな。」

 

そういい残し、サーレは黒いバンに走り去る。

 

そしてバンは、どこかへと走り去っていった。

 

 

時刻は昼の十二時。

大統領暗殺の時刻まで、残り三時間…

 

 

 

 




原作では名前も出なかったやられキャラ、サーレーさんです。
パラレルワールドなので名前もサーレにし、パッショーネも存在しないので
何でも屋という設定になっています。

五部の中では結構気に入っているキャラです。

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