広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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途中まで書いて、白井さんを登場させれば一気に最上階までいけたのに!と、後悔。
でもいまさら後には引けず、このようになってしまいました。


突破作戦

学園都市第三学区のとある高級ホテル。

現在ここにはサマルディア共和国の大統領とその多くの関係者が滞在している。

そして最終日である今日は、学園都市主催の祝賀会が開催されることになっている。

その為ホテルは物々しい警戒態勢になっており、いたるところに黒服やSP、アンチスキルと思わしき人物が、しきりに無線で誰かと交信している。

そんな状況の中、軽自動車から遠巻きにホテルを眺める四つの視線が合った。

 

「くぅ~。やっぱり、簡単には中に入れそうにねぇな」

 

と、ジャックがぼやく。

 

「サーレさん。あなた、その男の人を護衛していたんでしょ?何とか言い訳を考えて、

中に入ることは出来ないんですか?」

 

佐天が何か打開策がないかとサーレに問いかける。

 

「無理だな、譲ちゃん。俺の任務は奴がホテルに入るまで、安全に護衛すること。その後は別の奴に任務は引き継がれる。当然、そこで契約は終いだよ。」

 

そう言って、サーレは肩をすくめて見せる。

 

「奴…大統領補佐官を、なんとしても捕まえないと…でも、もう時間がない…」

 

そう孝一がつぶやき、時計を見る。

 

事件の黒幕は大統領補佐官だった。

彼は変革を求めない保守派側の人間であり、国際協調や科学技術の発展などを推し進める

改革派に属する大統領を、常日頃から疎んじていたのだ。

彼らがどのようなルートで、パープル・ヘイズを入手したのかは不明だが、とにかく三時から行われる大統領のスピーチの際にそれを使用するのは確定事項である。

 

現在の時刻は、二時三十分。後三十分しかないのだ。

 

「…しょうがない、多少無茶でも、強行突破で行きましょう。僕のエコーズで爆発を起こして

相手の気を引きますから、その隙にみなさんは正面から入ってください」

 

「…孝一君。なんか最近過激になってきたね」

 

そう佐天が突っ込みを入れた。

 

 

 

                     ◆

 

「…あのう…」

 

「何だお前は、ここで何をしている?」

 

不審者がいないか警戒中のアンチスキルの男は、話しかけてきた少年を一瞥する。

 

「実はさっき、知らない男の人から、こんな手紙を貰っちゃって…なんか危ないことが書いてあるんで、

知らせたほうがいいかなって…」

 

そういって少年はアンチスキルに手紙を渡す。そこには「目の前のセダンは爆破させてもらう」と書かれていた。

 

「…なんだと?」

 

そういって男はセダンのほうを見る。

 

それと同時に

 

セダンが突然爆音を上げ、炎上する。

 

「……」

 

しばらく呆然と眺めていた男はハッとしてこう叫んだ。

 

「テ…テッ…テロだ!」

 

男はすぐさま無線で応援を要請する。そして爆音を聞きつけた他のアンチスキルもやってきて、あたりは騒然となっていった。

 

男の隣にいた少年・孝一はすぐさまaut2でもう二、三個程車を爆破しようと行動を開始する。

普通の小石にact2で『ドゴォォォォン!』という文字を貼り付ける。そして車の上空でそれを落とす。

それだけで即席の爆弾の完成である。

立て続けに起こった爆発で、現場の連携が一時的にマヒする。見ると正面入り口を固めていた、アンチスキルの数が大幅に減っている。これなら何とか入ることが出来そうだ。

そして、孝一は急いで佐天たちと合流するべく、男の隙を見て逃げ出した。

 

 

 

                    ◆

 

 

孝一が入り口を通るとき、アンチスキル数名が後ろ手で手錠を掛けられて拘束されていた。

恐らく、サーレが能力を使ったのだろう。そして転がされているアンチスキルは佐天達が待機しているエレベーター付近までぽつぽつと続いていた。

 

「孝一君!早く、こっちへ!」

 

佐天が孝一に向かい、叫ぶ。

周辺にはかなりの数のアンチスキルが、孝一を捕まえようと一斉に動き出していた。

 

「ハアハアハアッ…」

 

孝一は全力で駆ける。前方にいる男達をかわし、タックルを避け、エレベーターまで走る!

…だが、無常にも数名のアンチスキルが、孝一に追いつき、背後に手をかけようとしていた。

 

(つかまる!?)

 

孝一が彼らに捕まり、拘束されることを覚悟したその時、

 

「うあああああ!」

 

ジャックがアンチスキルの前に躍り出て、銀のアタッシュケースを振りかざした。

 

「すまねぇ、少年!どうやら、ここでお別れみてぇだ!おい、お前ら!俺に触れるなよ!

このアタッシュケースの中にゃあ、爆弾が入ってんだ!このビルなんぞ、簡単に吹き飛ぶぐらい、強力なのがな!」

 

そういって孝一の手をとると、エレベーターの中に突き飛ばし、

 

「はやくボタンを押せェ!!」

 

と叫ぶ。

その声に反応し、サーレがボタンを押した。

 

「ジャックさん!」

 

「短い間だったが、結構楽しかったぜ!絶対に、世界を救え…」

 

そうして、扉は無常にも閉じてしまった。

 

「…」

 

ウィィィィィィィ

 

エレベーターの上昇する音だけが、狭い室内に響き渡る。

 

「…すまねぇ、ボウズ。恨み言なら後でいくらでも言え。だが…」

 

「いえ、分かっています。僕たちには時間がない。こんな所で、立ち止まっていられないって事は…

でも…」

 

孝一はしばらくうつむき、やがて顔を上げた。

その顔は、必ず事をやり遂げるという決意に満ちていた。

 

(そうだ。後悔するなら後でもできる。今は試験管を奪取する。その事だけ、考えるんだ。)

 

孝一は時計を見る。

 

(あと・・・二十分…)

 

孝一の顔に焦りの表情が浮かんでいた。

 

 

 

                    ◆

 

 

 

超高級ホテルの最上階で行われている祝賀会。

大きな窓ガラスから学園都市を一望しながら、煌びやかな服やタキシードを着た多くの関係者達が

テーブルに座り、歓談を行っている。時刻は二時五十五分。まもなく、大統領によるスピーチが執り行われる。

 

そんな会場に、柄の悪そうないかつい男と、中学生が二人という、なんとも場違いな三人組が乱入してきた。

 

「あの、壇上の椅子に座っているのが、大統領ですよね?じゃあ補佐官はどこにいるんですか?」

 

「隣の席の男だ。まずいぜ、手に何か持ってやがる!」

 

孝一は早速エコーズact1を出現させ、音の文字を作り出す。

試験管を奪い取る余裕は、もうない!このまま射程距離まで近づき、音の攻撃で眠ってもらう!

 

その時、孝一たちが入ってきた入り口の方から、ザワザワと物音がし出し、何事かと来客の多くが

後ろのほうを見る。

 

(くそっ!気づかれた)

 

先ほど、会場付近にいたアンチスキル数名を気絶させ、ここまでやってきたのだ。

もう少し時間が稼げるかと思ったのだが…

 

孝一はちらりと壇上のほうを見る。

…その瞬間、大統領補佐官の男と、目が合ってしまう。

 

「…!」

 

男は孝一たちに気づくと、すくっと立ち上がり、座っている大統領を見下ろす。

その手には何かを持っている。

 

瞬間!孝一は走り出した!

射程距離に入るまで、後十メートル!しかし、それでは間に合わない!

孝一はact1に新しい文字を作り出すよう命じ、天井に向け、その文字を投げつける!

 

(一瞬でも、動きを止めろ!天井を向け!その瞬間に、試験管を奪い取る!)

 

 

その時、天井から巨大な爆音が発生した。

 

「!!?」

 

そのあまりの轟音に、男は天井をちらりと見てしまう。

 

「エコォォォズ!!」

 

孝一はそう叫び、男の手から試験管を奪い取る。そして、壇上に昇り、男にタックルをかます。

 

「ぐぅッ?」

 

(捕まえた!もう離さない!離すもんか!)

 

そう思い、男の足にしがみ付く。

 

「サーレさん!早くコイツに『クラフト・ワーク』で固定を!」

 

遅れてやってくるサーレに孝一はそう叫ぶ。

 

(やったぞ!これでコイツを拘束すれば、事件は終わる。全て決着だ!)

 

そう安心する孝一の耳元で

 

パリン

 

試験管の割れる音がした。

 

「な…に…?」

 

「…想定、していないと思ったのか?お前たちがここに来ることを…」

 

そういって、男は笑う。

 

「お前たちが奪ったのは、ニセモノだよ。本物は、今、私が割った奴だ…

クックックッ…猛毒の細菌を、たっぷりとその身に受けるが良い」

 

見ると男の左手には割れた試験管が握られている。

おそらく胸ポケットに忍ばせておいたのだ。

 

割れた試験から、紫色の気体が発生している。

その毒々しい色から、周囲の人間は明らかに劇物の類だと認識したのだろう。

少しづつ、少しづつ後ろに下がり、ついには我先にと濁流のように入り口に押し寄せる。

とたんに辺りは阿鼻叫喚の様相を呈し、孝一たちの周辺には誰もいなくなった。

 

「あ…あ…あ…」

 

孝一達は声も出ない。絶対に防がなくてはならない事が、起きてしまった。

これから、どうなる?どうする?

分からない、答えが出ない…

やがて、絶望する孝一たちの目の前に、ゆっくりと、人型の悪魔が現れた…

 

 

 

 




『パープル・ヘイズ』の登場です。
さて、問題はどうやって倒すか、ですが…

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