広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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やっと…終わった…
第二部完結です。


続く日常

グワシャアアアアアアアアンン!!!

 

突如大きな音を立てて砕け散る窓ガラス。

 

「孝一君!」

 

佐天はその大きな音が発生した瞬間、何かに掴まれたように外に投げ出された孝一を目撃した。

思わず、割れた窓に駆け寄ろうとするが…

 

「嬢ちゃん!コイツを適当に結べ!早く!!」

 

そう言って、サーレがそこら中からかき集めてきたテーブルクロスを佐天に投げる。

 

「わっ?…と、と…。なんですかこれ!?」

 

今はそんなことをしている場合じゃ!と佐天は抗議しようとするが、それをサーレが遮り、こう付け加える。

 

「アイツは…孝一は、絶対にここまで来る!その時の命綱に、コイツが必要なんだ!」

 

 

 

 

                        ◆

 

 

ゴォォォォォォォォ!!!

 

上空数百メートルにて、孝一とパープルヘイズは絡み合い、激しく上下の位置を交換し合いながら凄まじいスピードで落下している。

 

「くっそおおおおおお!」

 

「グゥギャワァァァァォォォォォォォ!!!」

 

先程からパープル・ヘイズの手を振りほどこうとするが、うまくいかない。

その両手は、痛いほど孝一の右腕に食い込んでいる。

 

孝一はふっと下を見る。

地面は確実にこちらに迫っており、後数秒もしないうちに激突するのは確実である。

 

(act2の文字で、助かるだろうか?数十メートル先ならいざ知らず、数百メートルのビルから落下しているんだ…確実に、助かる保障は、どこにもない!

それに、仮に助かったとしてもその先は?地上に降りたコイツを、一体誰が倒せるって言うんだ!

今しかないんだ!ここで、確実に、太陽に当てて消滅させないと!!)

そして孝一は最後の勝負に出る。

 

「このおッ!」

 

孝一は、左手でパープル・ヘイズの頭をがっちりと掴み、体をねじる。

 

 

グラッ

 

孝一達の体が揺れ、僅かに角度が変わり、孝一がマウントポジションを取る形となる。

その瞬間!

孝一はパープル・ヘイズが纏っているテーブルクロスを引き剥がした。

 

「ギャオォォォァアァァァ!???」

 

さんさんと輝く日光がパープル・ヘイズの全身を照らす。

そのとたん、パープルヘイズの全身から、紫色の煙が立ち上り、苦しみだす。

そしてついに、孝一の右腕を離してしまう。

 

パープル・ヘイズと孝一の距離が、次第に離れ始める。

パープル・ヘイズの全身はぼろぼろと崩れ始め、その顔は命の危機にさらされた動物のような表情をして、孝一を見つめている。

 

(ごめんな…お前も生物である以上、この地球上で生きる権利は、あるんだと思う。

でも、お前が生きるって事は、結果、僕達が滅ぶということに繋がるんだ…

だから、ごめんよ…)

 

そして孝一はact2を出現させ、

手に持ったテーブルクロスにact2の文字を貼り付け、触れる。

 

『ドォッ!ゴォォォォォォォン!!』

 

「グウッ…!!?」

 

とたんに孝一の体は、凄まじい勢いで、ビルの最上階の辺りまで弾き飛ばされる。

 

「アォォ…ォ…ォ…」

 

その光景を遠めで見ながら、パープル・ヘイズは自身の消滅を実感していた。

体は粉々に砕け、指令系統は破壊され、人型形態を維持できなくなる。

やがてさらに細かく散り散りとなり、

 

「……」

 

やがて塵となって、消えた…

 

 

                     ◆

 

 

ビルの最上階まで飛ばされた孝一は、あるものを待っていた。

きっと彼なら、サーレさんなら、自分と同じ事を考え、行動に移してくれているに違いない!

そう信じた。

 

「孝一!!!!」

 

割れたガラス窓からサーレが現れ、クラフト・ワークで何かを投げる体勢をとっている。その手には先程まで佐天と一緒に数珠繋ぎにしたテーブルクロス---それを投げやすいように丸状にしたもの---が握られている。

 

「受けとれぇ!!!」

 

そしてそれを孝一目掛けて投げる!

丸まっていたテーブルクロスは途中でバラけ、一本の線となり、孝一目掛けて放物線を描く。

 

「クラフト・ワーク!!」

 

そしてそれを空中で固定する!

それはまるで一本の橋のように、孝一の手前で固まっている。

 

「うああああああああ!!!」

 

孝一は右手を伸ばし、狙いを定めて掴む!

 

ガシイッ!!!

 

この手は絶対に離したくない。そう思いながら左手でもしっかりとテーブルクロスを掴む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…サーレさん、信じていましたよ…サーレさんならやってくれるって…」

 

「サポートするって、いったろ?それよりパープル・ヘイズは?やったのか?」

 

「はい…あいつは完全にこの世から消え去りました。」

 

固定されたテーブルクロスによじ登り、孝一はそう答える。

これで全て終わった…スマートな勝ち方ではなかったが、ともかく世界は救われたのだ。

 

 

(いや、今はそんなことを考えるのは後だ。いまはとにかく、地面に足をつけたい…)

 

そして孝一は、サーレ達と合流した。

 

 

 

                     ◆

 

 

「はぁーっ…死ぬかと思った…」

 

無事に元いた祝賀会会場まで生還した孝一は、膝をついて床に突っ伏した。

今ほど、足の下に地面がある事が、ありがたいことはない。本気でそう思った。

 

「まったく…無茶をして…」

 

駆けつけた佐天が、そう言って涙ぐむ。

 

「まぁまぁ…嬢ちゃん。それはそれ、結果オーライって事で、

こうして孝一のヤローも無事生還できたんだしよぅ、ついでに世界も救えたんだし、

まずはそっちを喜ぼうぜ」

 

そういってサーレが佐天をたしなめる。

 

(世界を、救った…か…。)

 

かつてはそういうヒーローに憧れていた孝一だったが、いざ自分がその当事者になると、これほど大変なものはないんだと、改めて実感する。達成感も、あまりない。

 

(とにかく今は、ベッドに突っ伏し、横になりたいよ…)

 

 

そんな考えを、

 

「そこの三人、動くな!!」

 

という大声が遮った。

 

見ると、大量のアンチスキルが孝一達を取り囲むようにして銃を構えている。

 

「お前達には不法侵入、暴行傷害の容疑、及びに大統領暗殺未遂の容疑がかかっている!

すみやかに両手を頭の上に組み、投降しろ!」

 

その目は孝一達をはっきりと、凶悪なテロリストだと認識しており、

不必要に動けば、相手が未成年だろうと発砲してくるのは確実だった。

 

(…そりゃぁ、そうだよなぁ…僕たちが無許可でビルに侵入して、アンチスキルの人に暴行を働いたのは事実だもんなぁ…ウイルスのことなんて、言っても信じてもらえないだろうし…)

 

元凶であるパープル・ヘイズはすでにこの世に存在しないのだ。そのウイルスの事が書かれたレポートは、銀のアタッシュケースと共にジャックが持っており、手元にはない。

それに、それを彼らに見せた所で、彼らが納得するとは到底思えない。せいぜい良く出来た創作だと思われるのが関の山だ。

 

(…終わった、な…。)

 

『中学生二人、大統領ビル内に侵入!目的はテロか?』

ふっと、頭の中で、今夜のニュースの見出しが出てきた。

せめて佐天さんだけでも、何とかできないものか…そう思いながら頭に手を載せようとしたが、出来ない。

 

「あ…れ…?」

 

見ると佐天さんも同様らしく、何とか体を動かそうともがいている。

 

(これって?この能力って…?)

 

その時孝一の後ろの方で声がした。

 

「動くなっつったよなぁ~。お前らこそ、動かないほうが、いいぜえ。お前らの目の前にある。宙に浮かんでいるテーブルクロス。その中にゃぁ、猛毒の殺人ウイルスが仕込まれているんだぜぇ。

俺が能力を解除したら、即お陀仏だぁ」

 

「な…に…?」

 

ザワッ

 

そうアンチスキルの間にどよめきが走り、一斉にそのテーブルクロス周辺から距離をとる。

 

「その通りよ!俺と、あそこでうずくまっている大統領補佐官とで、大統領を暗殺しようとした!!

だが計画をそこのガキ共に聞かれちまってよぉ…時間もなかったし、しょうがねぇから人質としてつれてきた!おかげで、今、役に立ってるぜぇ…立派な人質としてな!!

動くなよ!発砲するなよ!?無関係の人間を、あんたらは撃てねぇだろぉ?」

 

そういって、サーレはジリジリと後ろに下がる。その先には大きく割れた窓ガラスがある。

 

(人質?共犯?ああ…そうか…この人は…)

 

孝一と佐天は悟る。さっきのわざとらしい説明口調は、この為…

全ての罪を自分が被るつもりなんだ。

 

(この人は”悪役をやってくれている”んだ。)

 

「俺はこのまま逃げるぜ!いいか坊主、穣ちゃん。全て忘れな!これまでのこと全て、悪い夢だと思って忘れるんだ!それが今後のためだぜ、お互いのなぁ!後、間違っても俺のことをしゃべんじゃぁねぇぞお!」

 

その目は、俺の行為を決して無駄にはするな、と語っていた。

そして、

 

「うおおおおおお!」

 

サーレはビルの屋上から飛び降りた。

 

サーレを逃がすまいと、アンチスキルが割れたビルの方向に近づくこうとする。

それを、孝一が制する。

 

「待ってください!あの人、ウイルスを消滅させる方法をしゃべっていました。

日光です。日光に当てると、ウイルスは消滅します!」

 

とにかく今は少しでも、彼の逃げる時間を稼ぐ。

それくらいしか、孝一と佐天には出来なかった。

 

 

 

                      ◆

 

 

陽は次第に傾き、あたり一面をオレンジ色の夕日が包んでいる。

時刻は午後五時半。あの事件から二時間以上経過していた。

現在孝一達は、大統領がいる高級ビルのラウンジ内でコーヒーを飲んでいる。

先程まであった現場検証やら、事情聴取からやっと開放された為である。

周囲では、アンチスキルの人間が慌しく動いている。

それを遠めで眺めながら、佐天は笑った。

 

孝一が突然笑いだした佐天に「どうしたの?」と質問する。

 

「いや、ね?何か、大事になったなぁって。普通の一日になるはずだったんだよ?

初春を冷やかしに言った後、ちょっとそこらでお茶して帰るだけのなんでもない一日。

それが、まさかバイオテロ事件に巻き込まれるなんてねぇ…。信じられる?

どこの映画に紛れ込んじゃったんだよって話だよ」

 

そういって佐天はニヤニヤと口元を緩ませる。

 

「私達って、世界を救ったヒーローって事になんのかなぁ…。でも、それを誰にもいえない…

うう…もどかしいよぉ…」

 

「ヒーローなんて、進んでなるもんじゃないよ。こんな事件に毎回巻き込まれるなんて、当事者からしたらたまったもんじゃないと思うよ。やっぱり、ぼくは平和な日常を送れる人生のほうがいいなぁ」

 

「うん。それは私も同感。正直、こんな大事件には、しばらく関わりあいたくないなぁ…

…でも、フフフッ。やっぱり退屈しないなぁ、君といると」

 

「え?」

 

その一言に、孝一はドキリとする。

 

「私、孝一君と知り合えて良かった。ホントだよ?なんか、毎日が充実してるって感じで、楽しいの。

ひょっとしたら、君には事件に遭遇する才能があるのかもしれないね」

 

「うぐ…」

 

そんな才能要らない…孝一は本気でそう思ったが…

 

「こんな事件になって不謹慎だとは思うけど、すごいワクワクしたの。

こんな気持ちになったの、子供の頃以来だよ。

たぶん、きっと、孝一君の身の回りではこれからもそういう事件が起こると思う。

でも私は、そんな孝一君に、これからも関わっていきたい。孝一君が見ているものを、私も見てみたい。

一緒に、冒険してみたい!」

 

(それって、まるで愛の告白みたいじゃないか。)

 

そう思って孝一の心臓はドキドキしだし、顔が赤くなる。

佐天も自分の発言が孝一を勘違いさせてしまったと気づき、慌てて「違うから!」と、訂正する。

そしてゴホンと咳払いをして、

 

「まあ、とにかく、これからもよろしく」

 

そういってわらった。

 

 

 

                    ◆

 

 

 

「ふぁぁぁぁぁ」

「あふっ」

 

朝の通学時、佐天と孝一は大きなあくびをした。

 

「お二人とも、夜更かしですか?いけませんよぉ、佐天さん。夜更かしは美容の大敵ですよ?」

 

そういって初春が、まるでおばさんみたいな口ぶりで忠告する。

 

「ぅぅ…いや、まあ…夜更かしというか、まるで寝てないというか…」

 

「…右に同じ…」

 

孝一と佐天の目の下には大きなクマが出来ていた。

あの後、アンチスキルに再び事情聴取を受け、それが終わったらまた違う関係者から事情徴収を受け、それが終わったら…と、繰り替えされること数十回。

そしてそれが三日間も続いている。

昨日も、孝一達が開放される頃には、すでに朝日が昇っていた。

 

 

「よう、お二人さん!」

 

そんな時、幻聴が聞こえた。それどころか目の前に幻が見えている。

口元にひげを蓄え、小太りの男。アンチスキルに拘束されたはずの、ジャック・ノートンである。

 

「お二人の…知り合いですか?」

 

そうおずおずと切り出す初春に、二人がこれは幻聴や幻視ではないことを悟る。

 

 

『ジ・ジャックさん?なんで?ここに?』

 

驚きのあまり、思わず二人の声が重なる。

 

「フフン!いやぁ~お前らにも見せたかったぜ!敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げで大活躍する俺様の姿をよ!」

 

「…」

 

そういうジャックをいぶかしげに見つめる孝一達。

 

「…と、まあ冗談はそれくらいにして、本当はサーレの野郎に助けてもらったんだ。あいつはいい奴だぜ。護送車に押し込められた俺を、わざわざ助け出してくれた。それでそのまま風のように立ち去っちまった。」

 

「良かった…サーレさん…」

 

サーレが無事と分かり、孝一達は安堵する。あの後、サーレが捕まったという情報も、ニュースも出ていなかった。一応は無事だということは分かったが、それからどうなったのか不明で、ずっと気にかかっていたのだ。

 

「ああ、それと、一つお前らに伝言を預かっている。」

 

ジャックが思い出したかのように孝一達に告げる。

 

「伝言?」

 

「『またな』だってさ」

 

その言葉は短いながらも、サーレの無事をあらわしているようで、孝一達はほっとする。

孝一達がしばらくその言葉の意味をかみ締めていると、それを遮るかのように、ジャックが言葉を発する。

 

「さて、前置きが長くなったが本題だ。お前らに頼みてぇことがある」

 

そういって唐突にジャックが懐から名刺を取り出し、孝一と佐天に手渡す。

 

「名刺?何で?誰の?」

 

孝一と佐天はそう疑問に思いながら、名刺を見る。そこには

 

『爪楊枝から戦闘機まで、あなたの探し物、見つけます。   探偵会社ノートン』

 

と書かれていた。

 

「…」

 

「いやぁ~。何かいい儲け話がないかと思ってな?ずっと考えていたんだ。そしたら知り合いにこれを紹介されてよぉ…一念発起して会社を立ち上げてみたんだわ。社長は当然、俺様」

 

そして孝一達の手をとり、

 

「ただなぁ、肝心の従業員がいやしねぇ、現在募集中だ。そこでだな、親友であるお前らに、是非とも手伝って欲しくてだな…」

 

そうお願いする。

 

「…ジャックさん」

 

そのお願いに対し孝一は

 

「申し訳ありませんけど、突然、学校に用事を思い出しました。急がないといけないので、これで失礼します。二度と会う機会がないことを、切に願っています」

 

そういってダッシュで逃げ去った。

 

「お…おい、そりゃあねぇぜ!親友!?」

 

「あ、ははははは…。あれ~?そういや私も、学校に用事があったな~。そ、それじゃ失礼しまーす」

 

そういって佐天も「孝一くーん。待ってー」とジャックから離れていく。

 

「まッ待ってくれ、金か?金なのか?分かった!今なら一割り増しでつけてやる!もう仕事の依頼受けちまったんだよ~!頼むから、考え直してくれ~!!」

 

「…え?あれっ?えーっと?…」

 

後にはポツーンと初春だけが取り残される。

やがて

 

「ち、ちょっと待ってくださーい!一体なんの事なんですか?仕事って何なんですか?

私だけのけ者にしないで、ちゃんと説明してくださーい!!」

 

そう叫び、彼らの後を追う。

 

 

滅亡を迎えるはずだった世界の危機は回避され、以前と変わらない日常を紡ぎ続ける。

その影にあった、彼らの活躍など、まるで無かった事にして。

しかしそれでも、彼らの誰一人として、そのことに愚痴をこぼすものなどいなかった。

自分達の日常を守る。それだけで、彼らは満足だったのだ。

彼・彼女達にとって、これはなんでもない物語。身近な日常を守った、ただそれだけの話。

 

 

「おい、親友!頼むから、待ってくれー!」

「お断りします!人が見てますんで、話しかけないでください」

「うう…寝不足で頭痛い…」

「ま…まって~…ゼーゼー…くださ…い…。ハーハー」

 

 

そして今日も、彼らの日常は続いていく。

 

 

 

 




やったー。第二部完結!
飽きっぽい自分が、まさかここまで続けられるとは!
完走できた自分を自分で褒めてあげたい!

とりあえず、疲れました…
色々至らない小説ですが、自分が今出来る事を全力投球しました。
完結させることに意義がある!そう思い、やってきた次第です。
肉体的には疲れましたが、精神的には、ほんと楽しかったです。
これが二次小説の醍醐味なんでしょうね。
第三部は何を書くのかまだ未定ですが、ネタが思いついたらまた投降します。
ありがとうございました。



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