広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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ネタが出来たので、投稿します。
今回からは、マイペース更新です。


第三部
実験サンプル12号


透明なガラスに覆われた部屋で、少女は倒れていた。彼女は額から大粒の汗を流し、口元からはよだれをたらし、そしてヒクヒクと痙攣を繰り返している。その様子は誰がどう見ても異常なのにも関わらず、誰も彼女を助けるものはいなかった。周囲の人間はガラス越しに、そんな彼女の状況をモニターで逐一チェックしている。

 

「心拍数190。血圧170にまで上昇。なおも増大中。」

 

周囲の大人たちは様々な器機を操作し、彼女の様子を観察している。彼らは皆、白い白衣を着用しており、これが何らかの違法な人体実験であることは、容易に想像できた。

 

「…………ぁ……ぁ…」

 

ガラスの檻に閉じ込められた少女は、すでに虫の息である。しかしそんなことなど誰も気にせず、わずかな変化も見逃さないようにと、じっと彼女を凝視している。

 

「なんだ?あれは?」

 

研究員の一人が、彼女の周辺に何か異常な現象が起きていることを発見する。

それはスライムのような形状をしており、まるで彼女を守ろうとするかのように、周りを取り囲んでいる。

やがてそれはガラスの中から出ようとしているのか、ガラス一面に広がった。

 

「…発現した。11体目にして、ようやく成功だ!」

 

研究員たちが歓喜の声を上げる。しかし、すぐさまそれはざわめきに変わる。

スライムの一部が、電子ロックの中に進入し、外に出てきた為だ。

 

「うわあ!」

 

スライムは周囲にいた職員数名の体内に、体を尖らせ、突き刺すように侵入していく。

 

「あああああああ!?」

 

突き刺された職員は、スライムに侵食されていき、どろどろに溶け始めていく。

 

「……」

 

やがて、彼らはスライムと同化されてしまった。

 

「ヒッ…!」

 

スライムは次の獲物を求め、さらに近くの研究者数名を取り込もうとする。

 

だが---

 

スライムは突然痙攣を起こし、やがて床に落ち、ドロドロの液体状に分解していき、やがて消滅してしまった。

 

 

「…心肺停止。サンプル11号、完全に機能を停止しました。」

 

あのスライムは、今わの際に、彼女が発現させた能力であった。しかし本体である彼女が死亡したため、スライムはこれ以上顕現することが出来ず、消滅してしまったのである。

 

そのオペレーターの発言を受け、死亡した11号と呼ばれた少女を回収に、防護服を着た男数名がガラスの部屋に入っていく。その光景を遠巻きに眺め、一人の男は浮かれ、叫んでいた。

 

「素晴しい!…11体だ!たった11体目にして、我々は意図的に能力を発現させるすべを発見した!

後はこれを改良し、投与しても死なないレベルにまで持って行かなくては!!

…そういえば、12号は?次は奴の実験のはずだ!」

 

その問いに、誰も答えられない。やがて、一人の職員がおずおずと手を上げ、

 

「あのー。12号でしたら、安宅さんが最終調整があるとかで、連れて行かれましたが…」

 

「…なんだと!?そんなこと、一言も命令しておらんぞ!!」

 

男は額に青筋を浮かべ、職員に怒鳴り散らした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

深夜。第七学区のとある公園。

そこに一台の車が止まっている。

 

「私にできるのは、ここまで。あとは自由にしなさい。」

 

そういって女性はポケットからカードを取り出し、助手席の少女に手渡す。

 

「私のキャッシュカードよ。とりあえず一か月は、食うに困らない金額が入っているわ。使い方は、紙に書いておいたから、後で読みなさい」

 

そういって少女に車から降りるように促す。

 

「恐らく、追っ手が私達を探しているでしょう。とりあえず、私がヤツラを引きつけておくから、その隙に、身を隠しなさい」

 

無責任なことを言っている。女性・安宅はそう思った。

自分は、この何も知らない少女に、「都会の真ん中に置き去りにする、後は勝手にしろ」と宣言したのだ。これが無責任と言わずしてなんというのだろう。

 

(だけど、それでも、あそこに置いておくよりは良い。あそこにいたら、確実に死が待っているだけだから…)

 

 

女性がキーをまわし、エンジンを始動させる。車から降りた少女はこちらをじっと見つめている。女性は窓越しに、少女に話しかける。

 

「これが、私から言える最後の命令…。『生きなさい』

あなたは人間よ。人間なら最後まで、足掻いて、足掻き続けるの。生まれ持った生が終わる、その瞬間まで。そして学びなさい。この世界のことを。あなたの世界は、今はまだ白紙の状態。これからその白紙に、色々な事を書き込むの。楽しいこと、悲しいこと、辛いこと。その全てが、あなたという人間を作り出す要素と足りえるの。だから、行きなさい。そして、体験しなさい。この世界を」

 

(願わくば、あなたの事を理解してくれる人達に、出会えますように)

 

そして女性の乗った車は、少女を残し、どこかへと走り去ってしまった。

 

「…」

 

少女は、その車が去った方向を見つめていた。何時までも、何時までも見つめていた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「ごっはん♪ごっはん♪おっいしい、ごっはん~♪」

 

柵川中学の昼休み。

佐天涙子が謎の『ごはんのうた』を歌いながら、初春飾利の机に弁当を広げ、初春と真向かいに座る。

その隣の机には、同じく広瀬孝一が弁当を広げ、中からサンドウィッチを取り出し、佐天達に手渡していた。

 

「はい。佐天さんに初春さん。残った材料で作ったものだけど、良かったら食べみて」

 

「うわあ。おいしそうです~。それじゃ、遠慮なく頂きます。モグモグ…

…これは、アボカドと、お肉が入っていますね。すごくおいしいです。広瀬さん、本当に料理がお上手なんですね」

 

「じゃあ私はこれっ。中身は何かな~?どれどれ…おっ、タマゴ発見~♪定番だけど、ふわトロでおいしー!」

 

佐天が親指を立て、孝一に対し、「グッジョブ!」と、労いの言葉をかける。

 

孝一が彼女達とお昼を一緒にするようになって、かなりの日数が経った。きっかけは、佐天が孝一の作った弁当を見て一言、「おいしそー」とつぶやいたことがきっかけだった。以来、味見と称して何度も弁当の何割かをあげているうちに、いつの間にかこのような流れとなってしまったのだ。

まあ、孝一にとっては、一人分作るのも二人分作るのも大差ない事なので構わないのだが、問題は周囲の孝一達を見つめる視線(主に男子)である。

 

 

「ブツブツ…ちくしょお…一人、ハーレムルート攻略中かよ…俺にもそのギャルゲー、やらせろよ…」

「孝一君は、僕のものだったのに~(涙)」

「フフ…やはり、現実などクソゲーではないか。奴のステータスに異常が生じておるぞ(負け惜しみ)」

「リア充じゃあー!リア充がおるぞー(怒)」

 

等々、彼らの嫉妬、羨望、うらやましいぞ、このヤロー!等の視線を受け、今日も孝一達は平和な(?)お昼を過ごしていた。

 

 

◆◆◆

 

「ちくしょー。何なんだよ、もう」

 

放課後の帰り道、孝一は一人、愚痴をこぼしていた。帰りの放課後、いきなりクラスメイトの男子数名に喫茶店まで拉致され、佐天さん達の事について根掘り葉掘り聞かれた挙句、その場の料金まで払わされたためである。

 

(しかも、にこやかに泣いていたし…)

 

まったく、訳が分からない。そんなことを一人愚痴っていると、

 

「お穣ちゃん。こんな所、一人でどうしたの~?ひょっとして、誘っちゃってるとか?」

「行く所がないんなら、案内してやるよ?もちろんみんなで楽しませてもらうけど(笑)」

「ハァー、ハァー。青い果実…うまそう…ハァー、ハァー」

 

そんな声が裏路地の方からしてきた。

 

(またか…こりないなぁ…)

 

ポリポリと頭をかきながら、孝一は声のするほうに歩いていった。

 

「…何をしているんですか?こういう事はやめてくださいって、前にも言ってあると思うんですけど。」

 

「ああん?なんだ、てめぇ!?今こっちは…」

 

そういって凄もうとした不良の一人が、孝一の顔を見るなり、とたんに青ざめる。

 

「…お、おまえ…いや、あなた様は…?!」

 

他の不良たちも、孝一の姿を確認するなり、とたんに勢いを失くし、怯えだす。

 

「おいおい、どうしたんヨ?何でこんなチビガキに…」

 

一人だけ事情を飲み込めない不良が、仲間達の行動に、訳が判らないといった顔をしている。

 

「馬鹿野郎!お前は日が浅いからわからねぇだろうが、この人には逆らっちゃいけねえんだ!

この方は、広瀬孝一さんだ!俺たちなんかが束になってもかなう人じゃねえんだ!」

 

孝一がエコーズの能力を身につけて間もない頃、不良達相手にエコーズの実験をしていたことがあった。

その際にあまりに街の治安が悪いことが気になったので、ここらを仕切っている不良たちのアジトに乗り込み、リーダー格の男を(強制的に)説得させたという事があったのだ。以来、ここの治安は以前と比べ比較的に良くなったが、同時にここらの不良たちの間で、広瀬孝一の名前はある主の都市伝説として語り継がれることとなったのだ。

 

「す、すいませんでした!こ、この女の子が道に迷っていたようなので、ご案内して差し上げようと思ってただけなんです!!決して、やましい気持ちがあったわけでは無いんです!!おい、お前らも謝れ!礼だ!」

 

「ス、スイヤセンデシター!!!!」

 

そういうと不良たちは、その場から逃げ出すようにしていなくなってしまう。後には孝一と少女だけが残った。

 

「…」

 

最初孝一は、そこにいる人物が女性だとは思えなかった。彼女は小柄で、男物のだぼついた服を着ていた為、見ようによっては少年のようにも見えた為だ。頭に被っている大きな帽子も性別を特定することが出来ない要員となっていた。とりあえず孝一は彼女に声を掛けてみることにする。

 

「危ない所だったね。でも、こんな所を一人で歩くのは危険だよ。次からは気をつけたほうがいいよ」

 

そういって少女に言うが、反応が無い。その大きな帽子からは、彼女の表情は伺えない。

 

「あのー?」

 

孝一がなんとか会話を続けようとしたとき、少女が口を開いた。

 

「…さっきの方達は、どこへ行かれたのですか?身を隠す場所を提供していただけると、おっしゃっていたのに…」

 

少女は、そのかわいい声とは裏腹に、どこかずれた返答をする。

 

「あの、真に受けちゃだめだよ?さっきの人達は、悪い人たちなんだから。君によからぬ事をしようとしてたんだよ?」

 

「ワルイヒト?ワルイヒトとはどんな人なのですか?」

 

…なんだ、この娘?

孝一は目の前の少女に強い違和感を覚える。会話がかみ合わない、というか無知。まるで三・四歳児が受け答えしているような感覚を覚えた。思わず孝一は、頭に浮かんだ疑問を、少女にぶつけてしまう。

 

「…君はだれ?」

 

その問いに、少女は

 

「私は、何者でもありません。サンプル12号。研究所ではそう呼ばれていました」

 

そういって帽子をとる。

 

「…!」

 

その容姿に、孝一は驚く。自分が知っているある人にそっくりだったからだ。

彼女の髪は真っ白で、あの人より2、3才幼く見える。

だがそれでも、あの人に似ている。孝一は思わずこうつぶやいてしまう。

 

「…御坂、さん…?」

 

それが孝一と、サンプル12号と呼ばれた少女との、初めての出会い。

それがどのような物語を紡ぐのか、今の孝一には知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 




とりあえず第三部開始です。のんびり、マイペースで投稿していきたいと思います。
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