広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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とりあえず続いた第二話。
孝一君は身につけたエコーズをどう扱うのか。



エコーズ

僕が手に入れたこの能力・・・・「エコーズ」・・・・

物体や物に音を貼り付け、反復させる能力・・・

こいつが何なのか、なぜ僕に発現したのか・・・それは分からない。

だけど面白い能力だ、使い方によってはいろいろなことが出来そうだ・・・

その為には、こいつの能力をもっと知る必要がある・・・・

 

 

「おはよう」

「・・・あ、ああ、おはよう?」

「あはよう」

「お、はよう?」

朝、柵川中学のホームルーム前。クラスメイト達は広瀬孝一の朝の挨拶に困惑していた。

一見、ただの挨拶である。しかしその挨拶には以前の彼と違ったものを感じた。

どこか自信にあふれた、態度と口調。それは普段の孝一を知っているクラスメイトからすれば

違和感が拭えないものだった。

 

「おっはよう広瀬君。朝から上機嫌だねぇ。ねぇねぇ、何かいいことあったの?

ひょっとして、お金拾ったとか?」

「さ・・・佐天さんっ。」

その孝一の変わりように興味を持ったのか、クラスメイトの佐天涙子が話しかけてきた。

佐天涙子はクラスのムードメーカー的存在であり、

親友の初春飾利にセクハラ行為を繰り返している問題児でもあった。

とくに初春飾利にたいするセクハラ行為は周りの男子生徒からすれば

「目の毒」以外の何者でもなく、思春期の青少年達にはまさに拷問だった。

孝一もそんな青少年の一人であったので、どこか佐天涙子には苦手意識を持っていたのだが・・・。

 

「?」

頭にはてなマークを浮かべて孝一の返答を待っている佐天涙子。

「うっ、うん。ちょっといいことがあったからさ・・

それを契機に自分の生き方を変えてみようかと・・・」

「それで挨拶から?くぅ~若いねぇ~青春だねぇ~

そういう青臭い所、私は嫌いじゃないよ。」

・・・・自分だって同い年の癖に・・・そう孝一は心の中で思っていたが、

あえて無視して

「あっあのさ。佐天さん。前から思っていたんだけど。その、初春さんに対する

セクハラ行為はやめた方ががいいんじゃないかな?

周りの目の毒だし、初春さんも嫌がっているし。」

 

この際だから、クラスメイトの皆が思っていることを代弁しておこう。

そう思い、佐天さんに対し苦言を呈す。

「!!そぉ~ですよねぇ~!!」

その言葉に反応して、佐天さんの後ろに控えていた初春飾利が同意する。

それはもう、おもいっきり。擬音でウルウルという泣き声が浮かびそうなくらいの涙目で

佐天さんに対し抗議する。

「やっぱり広瀬さんもそう思いますよねぇ~!もう、どうして佐天さんはいつもいつも

私のス・・・スカートをめくるんですか!?立派なセクハラですよ?

やめてくださいって何度もいっているのに~!」

「ええぇ~?セクハラじゃないよぅ~。アレは一種のスキンシップだよぅ~。」

と、口をとがらせてブーたれている佐天さん。

本人だけが、自覚なし・・・。クラスメイトの誰もが絶句した

 

 

 

 

「エコーズ、出て来い。」

深夜11時頃、孝一は誰もいない川原でそっと自分の分身を呼び出した。すると

ズワァ

孝一の胸の辺りから、緑色の奇妙な物体が出現した。

それは、生物なのか機械なのか、

この世のどこにもこんな生き物はいないであろう姿をしていた。

しかしこうやって夜中に何度もエコーズを出現させ、

この能力の実験を行っているうちに、孝一はこれがもう一人の自分、

もしくは自分の精神力が形になって現れたものという認識を持つようになった。

最初こそ戸惑ったものの、いまでは自由自在にこのエコーズを使うことが出来る。

 

そのなかで分かったことがある。

まず一つ、エコーズには射程距離があるということ。

どこまで行けるか試してみたところ大体50メートル程度、それ以上はどうしても進めなかった。

しかし意識を集中すれば離れている所にいても、エコーズが見たもの、聞いたものを認識することが出来た。

これは大きな武器になりそうだ。

 

二つ目、物体はすり抜けられないこと。精神体なのだからすり抜けられると期待したのだがだめだった。

三つ目、力が弱いこと。色々試してみたが、小学生の児童程度の力しかないようだ。せいぜい小瓶や空き缶

を持ち運ぶことが出来る程度の事しか出来ない。つまり、戦闘になった場合。殴り合っての実践には不向きという事だ。

四つ目、物体に貼り付けられる音は、何度でも。ただし、孝一が認識している音に限る。

エコーズの能力は孝一が日常生活で聞いた音を、文字に変換してそれを物体に貼り付ける。というものである。

その為、孝一自身が聞いたことの無い音は、貼り付けることは出来ないということである。

五つ目、エコーズの姿は一般の人間には認識できない。これはとてもありがたい。つまり、不意打ちが可能

ということであり、敵に気づかれること無く先制攻撃が可能ということだ。

戦闘において、これほど有利なことは無い。

 

 

 

エコーズの実験を終えた帰り道。孝一は帰り際にトラブルに遭遇した。

「やっやめてくださいっ。」

「へっへっへっやめるといってやめる馬鹿がどこにいるよ?」

例によって例のごとく、深夜時間帯になるとこの手の馬鹿が増えて困る。

学園都市第七学区は比較的普通の、安全とされている学区であるが、それでもこの手の馬鹿がいるのは

なぜだろう。最近では銀行強盗や爆破事件など凶悪犯罪も増加傾向にあり、

ジャッジメントやアンチスキル

がひっきりなしに事件の対応を迫られているという話を聞いたことがある。

(そしてココにもその事件の余波がってとこかな?)

そのアンチスキルの巡回も、今は見えない。そして周りには誰もいない。

まあいたとしても見てみぬフリをするのが関の山だが・・・・

 

「嫌がっているだろう?やめろよ。」

「あん?」

「だれだてめえは?」

弱いものをいたぶって、気分が高揚している不良たちの感情を逆なでするように、

咎める声がかかる。こういう邪魔をされるとマジで白ける。

不良たちの顔は明らかにいらだっていた。だが・・・

「だれだっていい、とにかくやめろ」

「はっ?だれにむか・・・・」

「やめろ」

その少年の眼光に、不良たちはすくむ。なぜだ、相手は見るからに中学生じゃないか。

しかもこっちは3人だあんなチビガキに負けるはずが無い。

それなのに・・・・なんで足がすくむんだ?

 

(相手は三人、ちょうどいい。今日もエコーズの実戦経験を積ませてもらおう)

対する孝一は冷静に相手を分析する。実は彼がこの手の相手と戦うのはこれが初めてではなかった。

エコーズが発現してからすでに二週間。その間孝一はこういう不良のトラブルに

自分から何度も足を突っ込んで関わってきた。その理由はエコーズの経験値を上げるため。

その為に手っ取り早く戦える相手として不良を選んでいたのだ。

 

「!!」

少しもおびえることなく前進してくる孝一に対し、不良達は相手を取り囲む作戦に出た。

一人を囲み、一気にけりをつける。ケンカの常套手段だ。

(それは前に経験したよ)

そう孝一は嗜好しながらなおも距離をつめる。

(まずは、観察。相手の弱点を探る。この中で一番弱そうなのは・・・

僕を取り囲んだ真ん中のオールバック。手にはナイフ。目は少しおびえている?

ナイフを持って威嚇という事は。何の能力も持っていない可能盛大!まずはこいつから攻撃だ!)

そう思考すると孝一はエコーズを出現させ、エコーズによる攻撃を繰り出す。

ドシュン!

エコーズの繰り出した拳から「ドシュン!」という音が具現化し、オールバックの不良の顔に張り付く。

(まずは復習。エコーズに張り付いた文字は少しずつ大きくなり反復する。)

ドシュン!ドシュン!ドシュン!

「なっなんだこの音?どこからでてんだ?おっ俺の顔?」

いつもの通りオールバックの男は耳を押さえながら困惑し、やがて倒れこむ。これでこの男は片付いた。

後二人。こいつらは武器を持っていない。つまり何らかの能力者ということ。

 

「なっなにをしやがった?」

(応える義理は無いよ。それにもうエコーズの攻撃は完了している。)

よく見ると、二人組みの男のうち、一人の顔に「ギィーィィィ」という文字が張り付いている。

だがこの男には何の変化も見られない。能力の不発?

(よしっ。思ったとおり。何の変化も見られない。)

だが孝一には焦りが見られ無かった。

(時間は30秒後に設定。4,3,2,1・・・・)

ギィーィィィ!!!

「ぐわぁ」男が耳を抑えて悶絶する。この音は、黒板を爪で引っかいた時に発生するあの不快音!!!

それの一瞬の隙を孝一が見逃すはずも無く。

「シュッ!」

バキィィ

男の顎にクリーンヒットした。

 

孝一はエコーズでの実験を繰り返すうち、音を反復させるという能力にも変化をつけることは出来ないかと思案していた。そして数度の実験を繰り返すうち、一度貼り付けた音を時間差で発生させるという方法を思いついたのだ。

(よし。実験は成功だ。設定できる時間を長くするのが今後の課題だな。そして・・)

ゆっくりと孝一は残る一人に振り返る。

(あと一人)

 

「はぁ!!」

ボウゥゥ!!

残る一人の手の平からバスケットボール大の炎が発生し、孝一めがけ発射する。

(発火能力(パイロキネシス) か?)

「っ・・!」

孝一はそれを間一髪交わす。だが・・・

孝一と男のちょうど間にいたエコーズは少量だったが、炎の球を右肩に受けてしまう。

「グウッ?」

その時、孝一の右肩に痛みがはしる。

(炎はよけたのに?なぜ?もしかしてエコーズが受けたから?まさか・・・)

「ハッハァ。おっオレ様を、なめんじゃねぇ!!!死ね!焼け死ねぇ!!!」

ボゥッ ボゥッ ボゥッ

連続して炎の球が孝一めがけ襲う。

(そうか、エコーズが受けたダメージは、僕にもフィードバックするのか)

そのまま相手との距離を保ちつつそれらの球を全てよける。幸い相手のレベルは低く、

バスケットボールをそのまま相手に投げているのと変わらないので軌道が丸見えである。

おまけに距離が離れると威力もなくなるようである。

つまりさっきのはラッキーパンチだったということになる。

(だけど、貴重な情報を入手できた。これでもう、むやみにエコーズを出すことは無い。)

そのまま相手に向かい走る!

「はっ!玉砕覚悟かぁ!!なら、死ねぇ!!!」

ボゥッ

男が孝一に炎の球を出すのと同じタイミングで!

「!?」

男の視界が急に塞がれた。

「なっな?なん--」

ガスッ

孝一の右フックが男の顔面を捕らえ、そのまま沈黙させる。

男の顔にはコンビニで使用するビニール袋が張り付いていた。

そう、孝一はエコーズに命じ、そこらへんに落ちていたビニール袋を男の顔に張り付かせたのだ。

(力の弱いエコーズでも機転を利かせればピンチをチャンス変えられるって事だ。

使える。エコーズは使いようで幾らでも戦える。)

 

 

そんな時---

孝一の背後から少女の声が聞こえた。

「そこのあなた、動かないで」

「!?」

「一部建築物の器物破損。及びに集団暴行の疑いで、あなたを拘束いたします。」

振り返ると、髪をツインテールにした少女が孝一に腕章を見せるように立っていた。

そして声高々に宣言する。

「ジャッジメントですの!」

 

 




ツインテールの人を登場させてみました。
これからどうなるのか、作者にも分かりません。

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