現状ではこれが精一杯…
徳永製薬会社の正門から、大きな音を立て、複数の大型トラックが入ってくる。
やがて、敷地内に入ったトラックは、出迎えた人物の前で停車する。
出迎えた人物は、ここの所長・徳永である。
やがて、停車したトラックの中から、にこやかな顔をした、ビジネススーツの男・「佐伯」が降りてくる。
「やあ、徳永さん。どうやら、厄介事が発生したようですね。困ったものです」
そういう男の顔は、ちっとも困ったようには見えない。
「12号が、うちの研究所職員に連れられ、逃走したのだ。職員のほうは昨夜のうちに、身柄は確保したのだが…」
「…肝心の12号のほうが、行方不明、と…それで?職員の口は割れたのですか?」
「いいや、本人は知らないの一点張りだ。この調子では本当に知らないのかもしれん…だとしたら、くそっ!どうしたら良いのだ!!」
徳永は、イラつく気持ちを抑えきれずに、地団太を踏む。
「まあまあ。あせりは余計血圧を上げるだけですよ?所で、その逃げた職員の私物を拝見したいのですが?」
「私物?それは構わんが、一体それで何が分かるというのだね?」
徳永の許可を貰い、「佐伯」の部下と思しき人物が、研究所内に入っていく。
「まあ、ただのカンですが、こういう場合、これが結構当てになるものなんですよ」
「?」
しばらくして、男の無線に部下からの連絡がはいる。
「そうですか、やはりありませんか…。ということは、可能性はありますね…
後はただ待つだけ。釣りと同じですな」
「さっきから何をいっとるのだね?釣り?何を悠長な…」
徳永の言葉を「佐伯」が制す。
「こういう場合はね、焦ったほうが負けなんですよ。我々は待つんです。獲物がかかるまで、ひっそりとね」
そういって、「佐伯」は楽しそうに笑った。
◆◆◆
「…さて、今回はどういった事件なのかね、明智君?政府の機密文書をめぐる陰謀系なのか、テロリストから、高官の娘を守るアクション系なのか、はたまた、空から謎の美少女が降ってきたファンタジー系なのか?」
「その、隣の帽子の方が、今回の事件の依頼者なんですよね?もったいぶらずに教えてください」
ショッピングモール内にある喫茶店にて、広瀬孝一はやってきた佐天涙子と、初春飾利に追及を受けていた。
佐天は、某探偵映画の悪役のような口ぶりで、(おそらく昨日やっていた映画の影響だと思われる)初春は、本当にワクワクといった感じで、孝一達を見つめている。
…その視線が、痛い…
(…二人とも、僕をスパイや探偵かなんかだと勘違いしていないか?だれだよ、明智君って?)
そう思い、佐天達の顔を見る。
テーブルを挟んでこちらを見つめてくる瞳は、早く話せと催促している。
…しかたない。こうなった以上、説明しないわけにはいかない。そう思い、孝一は口を開く。
「あ、あのね?一つ約束して欲しいんだけど、絶対に、驚かないで欲しいんだ。この娘はちょっと、事情が深いというか、ある人と関係があるというか…」
無駄だとは思うが、一応予防線は張っておく。
「分かってる、分かってる。訳あり事件は孝一君の十八番じゃん。いまさら驚かないって」
二人はうんうんとうなずいている。
「そう…それじゃあ、エル」
そう言って、エルに帽子を取るよう促す。
エルはこくんと頷き、帽子を取る。
「あ…」
「え…」
一瞬、沈黙が訪れた。
「え?御坂…さん?その髪…どうして…?」
「でも…御坂さんより幼い…。妹さん…?」
おそらく二人の頭には、現在大きな?(はてな)マークが浮かんでいるはずだ。
ここは一気に畳み掛けるしかない。
「いやあ~昨日の帰り道に、美坂さんのクローンを拾っちゃってさー。とっても可愛かったんで、つい家に持って帰っちゃったんだ。あはははは」
「…」
「…」
…ダダすべりだった。
◆◆◆
「ほえー。ほんとに御坂さんにそっくりだー」
ぷにぷに
「でも、妹さんみたいで、かわいいです」
さわさわ
「あう…。くすぐったいです…」
現在エルは、佐天と初春の二人組み挟まれ、体をぺたぺたと触られまくっている。
その様子は傍目から見たら、どの様にうつっているだろう。友達とじゃれているように見えているだろうか?
出来ればこの三人には、本当にそんな関係になって欲しい。孝一はそう考えていた。
二人には全てを話した。
エルが御坂美琴のクローンであるということ。
第七学区にある、製薬会社から逃げてきて、追っ手が探しているということ。
二人は冗談だと受け取らずに、本当に真剣に話を聞いてくれた。
孝一には、それがとてもうれしかった。
「さて、スキンシップはこれくらいにして、作戦会議を始めましょう」
初春がエルから離れて、カバンから小型のノートパソコンを取り出す。
「徳永製薬会社。重点疾患領域の新薬開発と製造を主に行っている会社。特にこれといった特徴のない、普通の中小企業ですね」
初春がパソコンのモニターに、徳永製薬会社のホームページを開く。
「しかしてその実態は、日夜人体実験を繰り広げ、世界制服を企む、悪の組織って所かな?」
初春の説明の続きを、佐天が多少(?)歪曲して引き継ぐ。しかしあながち間違っていない。
現に、エルの姉妹たちに、怪しげな薬を投与し、実験を繰り広げているのだ。
そんな事を考えていると、
「…孝一さんに、先に言っておくことがあります」
そういって、初春が孝一に話しかける。
「現実的に考えて、このまま逃げ続けるのは不可能です。孝一さん。まさか、一生エルちゃんを部屋から出さないなんて、考えていないでしょう?」
初春がもっともな質問を孝一にぶつけてくる。
(…確かにそうだ。
エルを守るという気持ちは、本物だ。それは今も変わらない。しかし、具体的にどうやって?と聞かれると、まったく答えが出てこなくなる。
蓄えなら、多少はある。それでエルと二人、生活できるはずだ。…そう思っていた。
だが、自分が学校に言っている間は?エルをずっと部屋から出さないのか?
いつまで?ずっと?死ぬまで?)
「…ゴメン、初春さん。正直、そんなこと、考えたこともなかった」
初春の問いに、孝一は素直に謝ることしか出来なかった。
「いいえ。分かってもらえただけで、十分です。さっきも言いましたが、このまま逃げ続けるのは不可能です。ですから、早急に決着をつけるためにも、こちらから攻撃を仕掛けてみようと思います」
初春が何か物騒なことを言い出し、孝一と佐天は顔を見合わせる。
「ええ?初春?攻撃って、会社を爆破でもするの?」
思わず佐天はそんな事を聞いてしまう。
「まさか、そんなことしませんよ。ただちょっと、徳永製薬会社のサーバーにハッキングを仕掛けるだけです。そこで、人体実験に関する情報を手に入れ、アンチスキルに通報します。場合によっては、ネット中に拡散させます。要は、災いの元凶を元から断ち切るんです。そうすれば、エルちゃんが追い回されることは、二度となくなります」
「うおお…。さらりと、とんでもない事言っちゃったよ、この娘…」
「…」
(初春さんは、絶対に怒らせないようにしよう…。下手したら、個人情報を丸裸にされかねない…)
ニッコリと、何でもないような顔をして微笑む初春に、孝一は恐ろしさを禁じえなかった。
「…さて、今後の対策は立てれた。後は、もっと協力者が欲しいね。ひょっとしたら、ヤツラに気づかれて、襲撃される可能性もあるし…。今の私達には、孝一君の能力以外、身を守るすべがない…」
そういって佐天が口元に手を当てて、思考している。確かに、敵が大多数で攻めてきた場合、孝一のエコーズでは、対処しきれない。基本的に、複数での戦闘はエコーズには向いていないのだ。
「思い当たるのは二人…。御坂さんと白井さん。でも、御坂さんはなぁ…。
『この娘はあなたのクローンです』って、面と向かって言いづらいなぁ…」
佐天はテーブルに突っ伏して、ゴロゴロとし出す。
「それじゃあ、とりあえず白井さんから先に連絡して、後で御坂さんに連絡するか、決めましょう」
そういって初春は白井宛にメールを打つ。
「あれ?メール?電話じゃないの?」
「佐天さん。今は授業中ですよ。おそらく白井さんは電話には出れません。でも、これなら…。
まあ、今は緊急時なので、致し方ありませんよね」
そう言って、打ったメールを白井宛に送信する。
「初春。なんて打ったの?」
「うふふ。こう打ったんです。『裸になった御坂さんが、ショッピングモール内で倒れていました。今は、喫茶店で休ませています。これからどうしましょう?』って」
「あははは。まさかぁ~。白井さんも、そこまで…」
佐天がそういった瞬間。喫茶店の入り口付近で、金切り声を出す少女が居た。
「お姉さま!!『裸』のおねぇ様はどこですの!?初春!?はやく、目を覚ます前に、愛のメモリーに記録しなくては!!お姉さま~!!?」
「…え~…さすがの私も、引くなぁ…」
孝一が知っている、あの凛々しく、優雅に立ち振る舞う彼女の姿は、そこにはなかった。
いたのはビデオカメラ片手に、獲物を探すエロハンターと化した少女だけであった…
◆◆◆
「…事情は分かりました。まさか、本当にクローンだなんて…
うーむ…本当に、見れば見るほど、お姉さまに生き写し…」
ペタペタ
「あう…。孝一様。この方たちは、どうしてエルの体を触りたがるのですか?」
「ごめんよ…儀式みたいなものと思って、ちょっと我慢してね…。それで白井さん。協力していただけるんですか」
エルに過剰なスキンシップを図る黒子に、孝一は協力者になってくれるかどうか質問をする。
「協力?それは勿論させていただきますわ。彼女はいわば、美琴お姉さまの分身。お姉さまの危機は、わたくしの危機と同じですもの。ですが、一つ、あなた方に確認しておきたいことがあります」
確認?何のことか分からず、孝一達は首をかしげる。
「事件解決した後の、エルさんの身の振り方ですわ。まさか、ずっと広瀬さんのお宅にお邪魔させておくつもりではないのでしょう?…いいですか?どんな形であれ、戸籍や後ろ盾は必要となります。その辺り、あなた達は考えているのですか?」
「あー…」
「それは…」
孝一達が言いよどむ。とりあえず、エルを助けることしか考えて居なかった為、そのような事は失念していたのだ。だが、考えてみれば、エルがこれから先も安心して暮らしてゆく為にも、後ろ盾となる存在は必要となってくる。
「やっぱり、考えていませんでしたのね…まあ、わたくしにも、ツテがないわけではありません。この件はわたくしにお任せなさい」
本当に、非常に不本意だが、白井は婚后光子に協力を求める事を考えていた。彼女の財力なら、後ろ盾には申し分ないし、事情を話せば彼女は分かってくれるような気がしたのだ。それが無理なら、多少強引でも初春に戸籍やその他諸々を偽造して貰うという手もある。しかし、あくまでそれは最終手段での話だ。
「あのー、白井さん。御坂さんには、やっぱり連絡したほうが良いでしょうか?事情を知らないとはいえ、当事者には違いないですし」
初春が白井に、美琴にも連絡したほうがいいか訊ねる。たしかに美琴の力を借りられるのなら心強い。だが…
「…今回の件、美琴お姉さまには、しばらく秘密に致しましょう…全てが終わった後、おいおい話していくという方向で、お願いいたします」
白井は美琴に協力してもらうことを、拒否してしまう。それは前に美琴と会話をした、ある内容が起因だった---
…それは他愛のない会話。もしも自分のクローンが目の前に現れたら?という内容で、美琴たちが持り上がっていた時。白井は何気なく、美琴に質問してしまう。
--お姉さまは、どうなさいます?ご自分のクローンが、目の前に現れたら…--
--そうね、やっぱり薄っ気味悪くて、私の目の前から、消えてくれって思っちゃうわね--
…本気ではない。そう思いたかった…
だけど、実際にエルと対面したとき、もしエルを拒絶するような発言をしたら?
エルを罵倒したり、心無い言葉を浴びせたら?
美琴お姉さまに限って、それはありえない…と、言えるだろうか?
そう思うと、白井はどうしても美琴に連絡することが出来なかった。
「そうですね。やっぱり、いきなりエルちゃんと合わせるのは、早急すぎかもしれませんね。それじゃ今回の件は、美坂さんには秘密の方向で行きましょう」
初春がそんな白井の思惑をよそに、話をまとめる。
「あー。それじゃあ最後に、孝一君からみんなに向けて、何か一言貰おうかな?何か言いたいことがあるでしょう?孝一君?」
そういって佐天が孝一に締めの挨拶を任せる。
(そうだね。僕も、今のこの気持ちを、みんなに伝えたかったんだ。ありがとう。佐天さん)
そう思い孝一はみんなに向けて、話し始める。
「えーと、まず始めに。誰にも相談もせず、一人で勝手に行動して、どうもすいませんでした。
皆さんが居なかったら、問題は何も解決しませんでした。皆さんは本当にすごいです」
そういって孝一はぺこりと頭を下げる。
「僕はみんなと知り合えて本当に良かった。皆さんは、僕の最高の友達です。ですから、友達として、一つお願いがあります。この娘も、エルも、皆さんの友達に加えてやってください。お願いします」
再度、深々と頭を下げる。
すると佐天が、やれやれといった感じで声を掛ける。
「孝一君は、まだ私たちのことを見くびっているようだね」
「ですよねー」
「ですわね」
三人とも口々に、孝一を非難する。
「私達はもう、エルちゃんと友達のつもりだよ?」
そういって、「ねー?」と三人ともエルに抱きつく。
「友達?エルと皆さんは、友達になったのですか?一体、いつの間になったのでしょうか?」
エルが三人に、もぎゅっとされながら、尋ねる。
「エルちゃんと会った瞬間だよ。こういうのはね、フィーリングが大事なんだから!」
「そうですわ。理屈ではないんですの。ただ、あなたと、友達になりたい。理由はそれで十分ですわ」
「そうです!かわいい物は正義です!私、もっとエルちゃんをなでなでしたいです!」
(…本当に、僕は頭でっかちの大馬鹿野郎だ…目の前に、こんなにすばらしい人たちが居るんじゃないか…)
孝一は、エル達4人のやり取りを見て、泣きそうになった。
そんな孝一を見て、佐天はニッカリと笑い、こう言った。
「友達なんて、お願いしてなるもんじゃないんだよ?こうやって、自然と、なっていくものなんだから!」
◆◆◆
喫茶店での作戦会議の後、孝一がレジで会計を済まそうとしていると、
エルがそっと懐からカードを取り出し、孝一に手渡た手渡そうとする。
「え?エル?これは?」
「これをお使いください。かあさまがエルに使うようにと渡されたものです。一月分、食べるのには困らないお金が入っているそうです」
「だめだよエルちゃん。これはエルちゃんのお金だよ?こういうのは、きちんと節約しておかなきゃ」
佐天があわてて止めに入る。しかしエルは首を横に振り、否定する。
「涙子様。皆様には先程、いろいろなものを貰いました。…楽しい思い出を貰いました。暖かい心のふれあいを貰いました。そして、エルを、皆さんの友達にして貰いました。ですが、エルには返せるものが何もありません。エルも何か、感謝の気持ちを表したい。ですから、使っていただきたいのです」
孝一と差天が、顔を見合わせる。エルが自発的に何かをしようとしている。
佐天達と出会ったことで、エルに何か、感情の変化が現れたのだろうか?
そうだとしたら、とても、うれしい。
「わかったよ。それじゃ、遠慮なく、使わせてもらうよ」
そういって孝一はそのカードを受け取った。
◆◆◆
「分かりました。第七学区のショッピングセンターです。喫茶店の会計の際、カードを使用したものと思われます」
「…掛かりましたね。意外と近いか…。これなら、爆薬の仕込にもそれほど時間は食わない…
監視カメラは?」
「捕らえました。12号です。複数の男女と一緒です」
「なるほど…彼らが12号を匿っていたのですか…。おそらく、青臭い友情ごっこでもやっていたんでしょうねぇ…実に若い。駆動鎧の準備は?」
指揮車両の中、「佐伯」は部下の男達に次々と指示を出している。
その「佐伯」の単語の中に、「爆薬」や「駆動鎧」という単語が出てきて、同席している徳永は不安になる。
「…君たちは、一体何をするつもりなのだね?12号を回収するのに、何故、「爆薬」など使うのだ?」
思わず徳永は聞いてしまう。
「またまたぁー。私達は、あなたの尻拭いをするんですよ?せっかく12号を回収するのですから、私達にも何か特典があってもいいんじゃないですかね?例えば、新型駆動鎧のテスト実験とかね?」
「佐伯」がにこやかに笑う。
徳永は、このとき初めて、自分は何かとてつもなくヤバイ組織と手を結んでしまったのではないだろうかと後悔した。しかしそれも、後の祭りである。
数十分後。
「…目標は、ショッピングセンターを出て、遊歩道を歩いています」
「囲み終わりました?"バンデット"と"グライム"の準備は?」
「全てクリアです。」
「よぉーし。では、さくっといっちゃいますか」
そういって「佐伯」は、現場に待機している男達に指示を出した。
◆◆◆
「では、初春。作戦決行は、今夜という事で、よろしいのですね?」
「はい。今夜中に、全てを終わらせます!」
白井の問いに、初春は右腕に力こぶを作って答える。
ショッピングセンターの帰り道。孝一達は、今夜の作戦について話していた。
もっとも、頼みの綱は初春だけなので、孝一達は、応援することしか出来ない。
それでも全てを見届けたい。孝一はそう思い、初春の自室にお邪魔させてもらうことにしたのだ。
今夜は長い戦いになるかもしれない。そう思い、夜食、お菓子、ジュースなどを買いあさってきた。
これでもう、準備は万端である。
「しっかし、孝一君も大胆だねー。深夜の女の子の部屋に、上がりこみだなんて?このこのぉー。孝一君の、エロ魔人!」
佐天が孝一を冷やかし、肘でつんつんと突く。
その一言で、白井がハッとなり、孝一に嚙み付く。
「はっ!、そういえば!ちょっと広瀬さん!何当たり前のように、初春の部屋に入ろうとしているんですの!反対!大反対ですわ!あなたは自分の部屋で、おとなしく待っていなさい!」
「そ、そんなぁー。ここまで来て、仲間はずれなんて、そりゃあないですよ…」
孝一が白井に、猛烈に抗議していると---
「え?」
「なんですの?」
突然大型のトラックが、孝一達の100メートル位前で、ビルに激突した。
そして、
ブシュゥウウウウウウウウ
凄まじい勢いで、トラックから煙が吐き出される。
「な、なんだこれは!?」
「ガ、ガス!?」
身の危険を感じ、孝一達が後ろに退避しようとする。
だが---
ギィィィィィィィィ
後ろにも大型トラックが停車し、同様に煙を吐き出している。
そして、ボシュッ!ボシュッ!と何かが孝一達めがけ発射され、炸裂する。
「うッ!?ゲホゲホ!?目が・・・!?」
「ゴホゴホッ!!」
「いっ息が…」
あたり一面が真っ白に染まり、視界がまったく見えなくなる。
孝一達は立つことを諦め、口元を押さえ地面にしゃがみこむ。
◆
「…12号を保護してもらって、どうもありがとう。お嬢さん方。でも、窃盗はいけないなぁ…
拾ったものは、ちゃんと落とし主の所まで、届けなきゃ…」
◆
「ゴホッゴホッ…こいつら、正気か!?日中の、こんな人通りが多いところで…エルを連れ戻すためだけに!?くそ!エル!佐天さん!みんな!どこだ!」
視界は完全に白一色に染まり、見ることが出来ない。その孝一の背後から、孝一の倍はある人影が姿を現す。
「!?」
◆
「…だから、これは、おしおきです。少しばかり痛い目を見て、人生の厳しさを肌身で感じなさい」
そういって「佐伯」は駆動鎧に命令を出す。
◆
真っ白に染まった世界の中で、駆動鎧のセンサーだけが怪しく輝いていた。