広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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今回目指したのはホラー映画。こういうの大好きなんです。


無邪気な悪魔達

「いやあ~。まいったっスよ。いきなり周りがすっげぇ暗くなったと思ったら、土砂降りの雨でしょ~。正直、死ぬかとおもったっスわ。あっ、おばあちゃん。スープおかわり」

 

 そういいながら、2人の先客の内の1人、大泉亮(あきら)は、バクバクと食事を食べながら、孝一達に話しかけている。いや、厳密に言うと、大泉が一方的に話し、孝一達は相槌を打つだけしか出来ないという状況なのだが・・・・・・。その食べ方は、とても汚い。まるで野良犬が食い散らかしたかのようだ。

 

「・・・で、オタクらはどういった関係?その子供、まさかアンタらの?」

 

 一方、もう一人の先客、柳原隆二(りゅうじ)は食事に一口も付けず、孝一達を値踏みするように見つめている。

 

「ち、違いますよ。この子は、ただの迷子で・・・・・・」

 

「フーン。という事は、彼女、じゃあないんだ?なら、俺がアプローチしてもいいってことだな」

 

 孝一は柳原の発言を否定するが、もはや柳原の視線は孝一に向いていない。彼の視線は孝一の隣の席に座る佐天涙子。その中学生にしては豊かに育った胸部に向けられていた。その視線を痛いほど感じ、さっきから佐天涙子は押し黙ったままだ。このまま「やめてください」というのは簡単だが、それで止めてくれる相手だとはどうしても思えなかった。むしろ、相手が嫌がれば嫌がるほど歓ぶタイプだと感じ取った彼女は、必死にガマンしている。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「ふぇぇ・・・・・・」

 

 音瑠が敏感に異常さを感じ取り、涙目になる。

 

 食堂の雰囲気は完全に壊されていた。この一方的にしゃべりかける大泉亮と、佐天涙子に精神的視姦を行う柳原隆二によって。

 

「ゴ、ゴメン。あたし、ちょっと気分が・・・・・・」

 

 榊原の視線に耐え切れなくなった涙子は、ついに席を立ち、二階へと駆け上がってしまう。

 

「佐天さんっ!」

 

 孝一がキッと榊原を睨み付ける。

 

「ンだよ?俺なんかしたかよ?ただ見てただけでしょうが~?」

 

 そういって柳原は下卑た笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・最低だ。あんた」

 

 そうはき捨て、孝一は涙目の音瑠を伴い、佐天涙子を追いかけていった。

 

 

 

 

「あはははは。ヤナさん、さいって~。だって。ギャハハハハ!」

 

「うっせ。それより、いい女だったよなぁ~。ああいう純朴な感じの女を、俺色に染め上げてぇ~」

 

 3人だけとなった食堂に、大泉の笑い声と、柳原の名残惜しそうな呟きが響いていた。その様子をじっと観察していたロルフが2人に向けて口を開く。

 

「・・・・・・若いあんたらに、こんなこと言うべきではないのかもしれんが、もう少し、人の気持ちというものを汲み取った方がいいと思うぞ?」

 

「あれれ~。せっきょーですかー?いやーん。僕ちゃんこわーい」

 

 大泉がバカっぽい声をあげて、わざとらしく怯えたフリをする。

 

「ワリっ。俺耳が悪いんだ。悪ぃがもういっぺん、いってくんね?」

 

 柳原も悪意の篭ったにやけ顔で、ロルフの次の反応を待っている。

 

「綺麗なものは、綺麗なままでいて欲しい。わざわざ綺麗に咲いとる花に、汚水をぶっ掛ける事もあるまい。じゃが・・・・・・」

 

 ロルフはにやりと笑い、2人を見つめる。

 

「それと同時に、ワシはお前さん方のような人間が、大好きなんじゃ。濁った瞳。歪んだ心。醜い魂の持ち主がね」

 

「っ!?」

 

「!?」

 

 何故だか知らないが、2人の背筋に、ゾワリとしたものがはしった。

 

 その理由は、何故だか分からない。

 

 だけど分かる。

 

 この爺さん。なんかやばい。

 

 

 「おまちどおさま。スープのお替りを持ってきましたよ。アラアラ、音瑠ちゃん達はもう上がってしまったのね。せっかくデザートも用意したのに」

 

 メイソンは心底残念そうにつぶやき、お替りのスープを、緊張で顔がこわばっている大泉の前に差し出した。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~。情けないなぁ。あんな視線一つで、こんなヘコムだなんて」

 

 佐天涙子は自室のベッドにうずくまり、マクラを頭に被って落ち込んでいた。

 

(初春相手には平気でやってることなのに、いざ自分がそういう対象に見られたら、このザマかぁ)

 

 正直、食堂には戻りたくない。というより、あいつらの顔を見たくない。

 

 あの視線。

 

 はっきりと自分のことを性の対象としてみていたあの目。

 

 そのことを思い出し、涙子はブルッと体を震わせた。

 

 

 しかし、そのこととは別に、やはりお腹は空くわけで・・・・・・

 

 涙子のお腹がぐぅとなった。

 

(お腹へった・・・・・・。そういえば殆んど何も食べずに、逃げてきたんだっけ。でも、下には降りたくない。でも、お腹が~!!)

 

 その時コンコンと部屋の扉を叩く音がした。

 

「佐天さん。僕だよ。悪いけど、ドアを開けてくれないかな」

 

「おねえちゃん、あけて~」

 

 声の主は孝一と音瑠だった。

 

(・・・・・・そういえば、音瑠ちゃんを置いてきちゃった。ついでに鍵まで閉めちゃった。私と一緒の部屋なのに。私ってば、なんてドジなの?)

 

 涙子はバッと勢い良くベッドから起き上がると、急いで鍵を開け、ドアノブをまわした。すると、目の前に大量の料理が乗った銀のトレーが現れた。その料理から発せられる匂いにつられて、たまらず涙子のお腹はグゥと鳴った。

 

「佐天さん、お腹空いてない?実はメイソンさんに大量に残り物を貰っちゃってね。一緒に処分してくれる人を探しているんだけど」

 

 

 実はこれは半分は本当である。涙子を追って彼女の部屋まで来た孝一達だったが、涙子が殆んど食事をしていないことに気がついた。そこで、柳原たちが食堂から消えたのを見計らって、食器を片付けているメイソンに頼んで、彼女の分の食事を用意してもらったのである。しかし一緒にいたロルフに、「お前さんたちも殆んど食べていなかったじゃろ?ついでだから、残りもんも全部持って行きなさい」とこのように大量の食事を貰ったのである。

 

 

「音瑠もしょぶんにきょうりょくするの~」

 

 孝一と同じように銀のトレーを持った音瑠が「しょっぶん♪しょっぶん♪」と謎の歌を歌っている。たぶん涙子を元気付かせようとしているのだろう。彼女のトレーにはおいしそうな、生クリーム入りのムースが乗っており、音瑠がトレーを揺らすたびにブルブルと揺れている。

 

「おねえちゃん。いっしょにたべよ♪」

 

「・・・・・・うん。」

 

 おいしそうな料理と、涙子を見つめる音瑠の瞳に勝てるものはなかった。涙子は早々に白旗を揚げると孝一達を部屋に招きいれた。

 

 

 

 

 

「ああ~くったくった。あのじいさんとばあさん。すんげえ気味悪かったけど、メシだけはうまかったわ。もー動けん」

 

 ベッドの上でゴロンとしていた大泉は腹をぼりぼりとかき、柳原を見る。

 

 柳原は小型のポシェットからナイフとスタンガンを取り出し、出力のチェックをしている。

 

「なあ、ヤナさん。マジでやんの?」

 

「当たり前だ。お前ェも早く準備しろよ」

 

 そういって大泉に空のリュックを投げてよこす。

 

「お前は、この家の高そうなもんを片っ端からそのリュックに入れるんだ。これだけでけぇ屋敷なら、宝石とか貴金属とか金になりそうなもんは山ほどあるはずだ」

 

「その間にヤナさんは?あの女としっぽりお楽しみですか~?そんなにあの女が気に入ったんスね~」

 

「そりゃそうだ。隣の敷地にうまそうな果実が実ってたらどうすんよ?奪うしかないっしょ。この屋敷にゃあ俺ら除いて、チビなガキ2人と、ヨボヨボのジジイとババアしかいねぇ。簡単にやれるって」

 

 そういうと柳原はスクッと立ち上がり、部屋から出て行く。

 

「はー。しょうがねえ。一仕事しますか。ヤナさん。俺にも後でお楽しみを残して置いてくださいよ?」

 

 後に残された大泉は、ため息をつきながらも準備を整え、部屋を出て行った。

 

 

 彼らが去った部屋。

 

 彼らの行動の一部始終を観察していた”もの”がいたのだが、その事に彼らが気がつくのは、もう少し経ってからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 柳原の目はランランと輝きを増していた。もうすぐ、うまそうな果実が手に入るのだ。どのようにして料理してやろうか、どんな泣き声をあげるのか、そんな事を考えるだけで、滾る物がある。彼は現在2階に降りてきており、佐天涙子の部屋まであと少しという所まで来ていた。獲物を駆る。そのことを考えている時が、柳原にとって、至福の瞬間であった。だから、彼が佐天涙子の部屋まで来たとき、不意に後ろから声を掛けられたときには、驚きよりもまず怒りの感情が先走っていた。

 

「どうしたんですか?柳原さん。あなたの部屋は3階ですよね?佐天さんに何か様ですか?」

 

 孝一が後ろの壁にもたれかかり、感情を表に出さずに問いかける。その声はどこか冷めたものがある。

 

「て、てめ・・・・・・」

 

「警告は一度だけします。今すぐ自分の部屋に帰ってください。そうでないなら、実力で排除させてもらいます」

 

 その声にはなんの抑揚もない。ただ、ありのままの事実を、柳原に告げている。

 

「お前ェに何が出来んだよ!チビのてめぇが!!」

 

「僕を甘く見ないほうがいいですよ。やるなら、一歩も体を動かさずに、あなたを排除することも出来るんですから」

 

「~~!!」

 

 柳原は頭に血が上り、懐に隠し持っていたナイフを取り出し、孝一に突きつけた。だが、それは一瞬のことだった。

 

 ナイフが、重い・・・・・・

 

 柳原の持ったナイフが、どんどんと重くなっていく。その重さは、5キロ?10キロ?柳原の手がブルブルと震えだす。そしてついに、その重さに耐え切れずにナイフを落としてしまった。

 

 ・・・・・・柳原の足に・・・・・・

 

「ウガッッ・・・・・・」

 

 あまりの激痛に叫び声を挙げたかったが、それは叶わなかった。見えない”なにか”に自身の口元を塞がれていたからだ。

 

「んー!?んんー!!」

 

 孝一は人差し指を口元において、「シー」っと、静かにしろのジェスチャーをとる。そしてこう付け加えた

 

「いっただろう?僕を甘く見るなって」

 

 とたんに体が軽くなって、自由を取り戻す。

 

「あ・・・・・・あああ・・・・・・」

 

 柳原は恥も外聞も投げ捨て、這うようにしてその場を逃げだしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・おっ、この食器高そー。いただきっ」

 

 4階の貴賓室と思わしき場所。大泉は誰もいないことを確認すると、どんどんと貴重品を手持ちのリュックへと投げ込んでいる。

 

 彼らは窃盗の常習犯だった。こうして、ビルやマンションに忍び込んでは、金品を物色する。そこに若い女性がいれば、しっかりと頂いていく。そうやって欲望のままに生活していた。

 

 今回は楽な仕事だと、大泉は思っていた。あの老夫婦が見回りに来ることもないだろうし、来たとしてもボコボコにして、明日になったらズラかればいい。それにこんな所でさび付かせているくらいなら、自分達の役に立ったほうがこの貴重品も本望だろう。それくらいの軽い気持ちだった。

 

 

「クスクスクスクスクスクス」

 

「?」

 

 今、何か声がしたか?

 

 大泉は作業を中断して周囲を見渡す。だが、誰もいない。周りは、高そうなアンティークと安物の人形くらいだ。気のせいだと、大泉は再び作業に取り掛かろうとする。

 

「ケケケケケケケケケケ」

 

「!?」

 

 まただ。今度は気のせいじゃない。はっきりと、何かの笑い声と足音を聞いた。

 

「だ、誰かいるッスか~!?スミマセン。部屋ぁ、間違えちゃったみたいで~」

 

 この期に及んで誰も信じないような嘘で取り繕う大泉。だがその問いに答えるものはいない。

 

「はっ、ははっ・・・・・・」

 

 なんかヤバイ。直感的にそう感じた大泉はジリジリと後ずさり、出口のドアに擦り寄る。だが--

 

 バタン!という音とともに、ドアが閉められる。

 

「うっうわぁ!」

 

 もう限界だ。大泉は脱兎のごとくドアに近づき、ドアノブをまわす。しかし、何か強い力で押さえつけられているのか、ドアが開かない。

 

「くそ!くそっ!くそっ!!なんだよ!なんなんだよ!!コレ!!」

 

 ドンドンと扉を叩く大泉。もはや自分が窃盗目的でこの部屋に侵入したということを忘れてしまっている。

 

「開けろ!フザケンなよ!!おい!コラァ!!・・・・・っぅ!?」

 

 その時、大泉は違和感を覚えた。あまりに興奮しすぎていたため反応が遅れたが、足が、痛い。何かで引っかいたのか?

 

「?」

 

 大泉は痛みの原因を見ようと足元を見る。そして凍りついた。

 

 そこには可愛らしい人形が2体いた。

 

 その2体の人形は、互いに協力し合い

 

 ゴリゴリと

 

 糸ノコで大泉の足首を切り取ろうとしているのだ。

 

 しかし糸ノコで骨を切るのはさすがに無理だったようで、代わりに大量の鮮血が大泉の足首からあふれ出していた。

 

 「うぎゃぁぁ!!!」

 

 ガクリと大泉の体がバランスを崩し、床に激突する。右足がぜんぜん動かない。アキレス腱を切られたのだ。

 

「ひぃ!ひぃいい!!」

 

 大泉は必死に両手を使い人形を払いのけようとする。だが--

 

「ゲゲゲゲゲギャギャギャ」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」

 

「フフフフフッフフフフフフフフフ」

 

 貴賓室にいた大量の人形達が、それぞれの手に凶器を持ち、大泉に飛び掛った。

 

 ピエロの人形は背中にハサミを付き立て、

 

 可愛らしいウサギの人形はナイフで大泉の頬を抉り出し、

 

 ドレスを着た女性型の人形はマチバリで大泉の左目を刺した。

 

 皆いずれも、普段の可愛らしい笑顔とはかけ離れた、醜く歪んだ笑い顔を浮かべている。

 

「ぐあぁ!!」

 

 大泉は残された左足で何とか立ち上がり、ドアにタックルをかました。さっきまでアレほど開かなかったドアは、意外とあっさり開き、大泉は命からがら部屋から出て行く。そこで凍りついた--

 

 部屋の外にも大量の人形達が、それぞれいびつな表情を浮かべて大泉を出迎えてくれていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 

 (飛び越えるっ。飛び越えるしかネェ!!何とかジャンプしてあいつらを飛び越えて、3階まで降りるんだ!そうすりゃきっと助けを呼べる!)

 

 心臓の動悸が激しい。めまいがする。右足は使い物にならない。左足だけで何とかジャンプするしかない。大泉は覚悟を決めた。

 

「うわあああああ!!」

 

 叫び声と共に、大泉は飛んだ。

 

 

 人形達は彼の悪あがきに、何の反応も示さなかった。ただ静かに、悪意のこもった視線を、逃げる大泉の背中に投げかけていた。

 

「やった、やったぞ!後はこの階段を下りれば・・・・・・」

 

 大泉が勢い良く階段を下りようとした瞬間。彼は自分が助からないことを悟った。

 

 ・・・階段の下に大量の人形達が大泉を待ち構えていたからだ。そしてその事に気をとられ、大泉は階段にロープが張られていることに気がつかない。あっ!と叫んだときには、すでに手遅れだった。

 

 

 

 ・・・・・・全てがスローモーションのようだった。

 

 階段を落ちていく自分も

 

 それを見上げる人形達も。

 

 目の前にキラリとした光る糸のようなものが張られているのも。

 

 「・・・・・・」

 

 それがピアノ線だということに

 

 大泉は自身の首が胴体から離れるまで気がつかなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




3連休っていいですね。執筆に時間がかなりさけますから。

でもこの話し、ちょっと長くなりそう。予定では3話くらいで終わらせるはずだったのに・・・・・・
出来れば連休中に終了させたかったかな・・・・・・
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