広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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ちょっと急ぎすぎかな? とも思いましだが、ダラダラと長くなり過ぎるのも何なので、タイトルどおりの内容です。


急変

 気が付くと、そこは観覧車の中だった。そしてそこにはおかっぱの少女・・・・・・

 

「え? え? えええっ? ミハルさん?」

 

 昨日も見たような光景。というか・・・・・・まんま夢の続きである。

 

「・・・・・・生きてたの?」

 

 とりあえずそう訪ねてみる。

 

「いえ、死んでるわ」

 

 冷静なツッコミが返ってきた。

 

「今の私は、例えるなら、携帯の内部電源のみで稼動しているようなもの。いずれ、そのエネルギーも切れて、その魂は天に召されるわ。でもその前に、この件だけはどうしてカタをつけたかったの。・・・・・・例えどんな結末を迎えようとね。・・・・・・4人の被験者のうち、一人を探し出す事が出来たわ。名前は、古谷敦。住所も分かってる。・・・・・・私は、彼の夢の中に入り込み、何度も警告をしたわ。でも、聞き入れられなかった。だから、君にお願いしたいの。生身の君の意見なら、死者の私より効果があると思うから・・・・・・」

 

「・・・・・・いいですよ。やってみますよ・・・・・・」

 

 孝一には、四ツ葉の言葉が頭に残っていた。

 

(人を助ける事が出来る力を持っているのに、それをしない人間を罪だとはいいません。だけど、軽蔑はします)

 

 

 

 人を助けることの出来る力。

 

 それが僕にはあるという美晴と四ツ葉。

 

 全てを鵜呑みにするわけではないけれども、何故か心動かされた。

 

 だったら、やってみよう。後悔しないように、出来る事をやってみるんだ。

 

 孝一はそう決意し、美晴を見る。美晴は「ありがとう」と小さくつぶやき、そのとたんに、周囲の世界は白一色に包まれていった。

 

 

 

 

 

 

 「キャアアアアッ!!」

 

 午前九時。通行人が行き交うスクランブル交差点で、突然女性の悲鳴が上がった。女性は四つんばいで道路にうずくまり、下半身を押さえている。

 ・・・・・・女性はスカートを太った男性に奪われていた。

 

 その男性、古谷敦はその女性の下着を剥ぎ取ろうとにじり寄る。周囲の通行人が敦を止めに行こうとするが、敦はあらかじめ持参してきた包丁で牽制し近づかせない。そんな敦の目の前に、突然ジャッジメンとの少女が登場し、瞬く間に彼を拘束してしまった。

 

「ジャッジメントですの!あなたを婦女暴行の現行犯で拘束しますの!」

 

 白井黒子はそういって、敦を見下ろした。しかし、当の敦は余裕綽々である。

 

「せっかく追いはぎゲームやってたのに、もうゲームオーバーか・・・・・・。ちょっとむかついた。ゲームを変更してまた来る」

 

 そういうと敦は「リセット」と叫び、時を巻き戻した。

 

 

 

 

 

 

 古谷敦は選民思想のある少年だった。子供時代には、自分は選ばれた少年であり、いつか天空から美少女が自分を迎えに来てくれるといつも考えている子供だった。その気持ちは今でも残っており、彼は周囲の人間が馬鹿に見え、折り合いをつける事が出来なかった。その為、その憤りをインターネットの掲示板を荒らしたりして憂さを晴らしていた。

 彼は自分の人生に満足していなかった。

 

 ・・・・・・そんな時、あのメールが着た。

 

 正直、胡散臭いと思った。だが同時に、胸の高鳴りを覚えた。

 

 (あなたは選ばれました)

 

 それは子供の頃から待ち望んでいた言葉。佐伯とかいう胡散臭い男に不平不満をぶちまけながらも、その実、彼が掲げる試験管から目が離せなかった。

 

 そして現在。

 

 彼はスタンドという新しいおもちゃの魅力に、すっかり酔いしれたいた。

 

 

◆ 

 

 

 午前九時。通行人が行き交うスクランブル交差点で、突然女性の悲鳴が上がった。女性は全身血だらけで道路にうずくまり、そのままビクンビクンと痙攣しだす。

 

「ヒッ」

 

「うわぁあ!」

 

 周囲の通行人は、突然発生した凶行に恐れをなし、我先にと逃げ惑っている。後には、血だらけの包丁を持った敦一人。そんな敦の前に白井黒子が姿を現した。

 

「!? あなた、自分が何をしているのか分かっていますの!?」

 

「おいでなすったな。さあて、一体何週でクリアできるんだろうな?」

 

 そういって敦は、持っていた包丁を白井目掛けて突き出した。

 

 

 

 

 午前十一時。

 

「・・・・・・おう、ヤス。お前どこいんだよ?」

 

 通学路をぶらぶらと歩きながら、リーダー格の少年は、取り巻きの少年の一人と連絡を取る。彼ら3人は何故か同時に学校を休んでいた。おまけに金づるの内田和喜も学校を休んでいたため、面白くなくなって、早退したのだった。

 

「あ、相原さん? その重要な話があるんで、ちょっと家まで来てくれませんか?」

 

「・・・・・・重要な話ぃ?」

 

 リーダー格の少年は「今すぐ話せ」とせっつくが、なぜだか少年は「ついたら話します」の一点張りだ。ついに折れたリーダー格の少年は、「わかった」といって電話を切った。

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・こ、これでいいですか?」

 

 ヤスと呼ばれた少年は震え声で、和喜に尋ねる。見ると、彼の耳たぶには大きな穴が開けられ、そこに鎖が通されていた。

 

「じょーとーじょーとー。あとはあいつが来るまで、・・・・・・ヒヒッ」

 

 和喜は後ろに目を向け、2人の少年をみる。少年のうち一人は、歯が全て折られており、口から大量の血を吐き出している。そしてもう一人は鼻がつぶされたのか、鼻がありえない方向へ捻じ曲がっていた。彼らは全裸にされ、首輪をつけられている。その首輪の鎖は、先程のヤスと呼ばれた少年の耳に通されている。

 

「うっ・・・・・・。うっ・・・・・・。うっ・・・・・・」

 

「も、もう勘弁してください・・・・・・」

 

 少年達は口々にスイマセンや許してくださいといい続けている。だが、そんな彼らの謝罪の言葉など、和喜には届いていない。

 昨日の夜、少年の一人をボコボコにした後、和喜はその足で、二人の少年のアパートまで行き、同じように半殺しの目にあわせた。そして、彼らを連れ去り、お互いを逃げれない状態にして監禁したのだ。

 

「後は、メインデュシュだけだ。・・・・・・喜びな、”和喜”。もうすぐ、クライマックスだぜぇ!」

 

 そういって和喜は自分の右腕に話しかける。

 

 しばらくして、ヤスの携帯が鳴り出す。どうやらリーダー格の少年がマンションの近くまで来たらしい。

 

「ヒヒヒッ。うまく誘導してこの部屋に上げるんだ。もし余計なことをしゃべれば・・・・・・」

 

 そういってヤスのアバラの辺りをしこたま殴りつけた。

 

「や・・・・・・。やります・・・・・・。やりますから。もう殴らないで・・・・・・」

 

「ギャハハハハハハハッ!!」

 

 狂ったようにして笑う和喜に、彼らは縮こまり、震える事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 午後・五時三十分。

 

「・・・・・・どなた?」

 

「・・・・・・あの、高井直人さんですか?」

 

 夢で美晴から聞いた住所を頼りに、孝一は高井直人のアパートまで来ていた。高井は始め、孝一のことを警戒していたが、「君が見た夢のことで話しがある」というと、彼を自室まで入れてくれた。

 

「それで、何の話だよ?」

 

 高井はウーロン茶をコップに注ぐと、「ん」といって孝一に差し出す。

 

「高井君。君の現状は はっきり言って、かなり危険だ。出来れば、今すぐにでも、しかるべき機関に保護してもらったほうがいい。僕の知り合いにジャッジメントに勤めている子もいるし、そういうのを専門に扱っている機関も知っている」

 

 孝一は高井から受け取ったウーロン茶をぐっと飲み干すと、一気にそう告げた。

 

「・・・・・・夢で見た女と同じこと言うんだな」

 

「だけど信憑性はあるだろ? 一日に、2回も同じ警告を受けたんだ。絶対無視するべきじゃない」

 

 孝一は真剣な表情で、高井の顔を見る。その真剣な表情に高井は次第に事の重要性を認識しだす。そしておもむろに、こんなことを言い出した。

 

「・・・・・・なあ、この力って、なくすことは、出来ないのかな?」

 

「?」

 

「・・・・・・最初はよぉ。やったーって思ったぜ? ケンカすりゃ負け無しだし、・・・・・・その・・・・・・ものをパクってもばれたりしなかった。でもよ・・・・・・だんだんと、コイツ言うことを聞かなくなってきやがったんだ。ある日、不良グループの抗争に介入した。その時はいい気になってたんで、ちょっとしたヒーロー気取りだった。世直しのつもりだったんだ・・・・・・」

 

 高井はそこでぐっと押し黙ると、かすれ声でこういった。

 

「あそこまでやるつもりは、なかったんだ・・・・・・」

 

 高井の話では、能力でちょっと殴って気絶させるつもりだったらしい。だが、そこで能力が暴走した。

 

「俺のスタンドだっけ? ・・・・・・ソイツが不良の腕を思いっきり捻じ曲げやがったんだ。当然、相手の腕はプラプラと変な方向で気味悪く揺れ動いていたよ。それでもこいつは止まらなかった。不良たちの、足を折り、血反吐を吐かせ、頭蓋骨を砕いた・・・・・・。その時俺は はっきりと理解した。こいつは・・・・・・」

 

 高井はその言葉を最後まで言えなかった。彼の体から、巨大な人狼の様なスタンドが現れ、高井の体を、鍵爪の手で握り締めたからだ。

 

「ぎゃああああっ!」

 

 悲鳴を上げる高井を握り締めたまま、人狼のスタンドはそのまま窓を破壊し、外へと逃走した。

 

「スタンドの、暴走!? まずい、追わないと!」

 

 孝一は表に飛び出し、高井の姿を探す。

 だが、スタンドどころか高井の姿も確認できなかった。

 

「くそっ! どこだっ!・・・・・・どこにっ!」

 

 高井の姿は、忽然と消えてしまった。

 

 

 古谷敦

 内田和喜

 高井直人

 

 

 ・・・・・・スタンドの人体実験に翻弄される被験者達。

 

 それぞれ時間軸の異なる彼らの物語は、終局へ向けて加速し始めた。

 

 

 

 

 


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