広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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今思いました・・・・・・。複数のキャラを登場させると、そのキャラに関する結末まで考えなくてはならないということに・・・・・・。通常の三倍しんどい・・・・・・


崩壊

 午前九時。

 

 白井黒子との戦闘・一週目。

 突き出した包丁を難なくかわされ、拘束される。ゲームオーバー。

 

 白井黒子との戦闘・二週目。

 包丁による突きをかわされた瞬間に振り向き、殴りつけようとするも失敗。再び瞬間移動した彼女によって拘束される。ゲームオーバー。

 

 白井黒子との戦闘・三週目。

 今度は通行人を人質にしてみる。だが、そのせいで、反応が遅れ、振り返ることも出来ずに彼女に拘束されてしまう。ゲームオーバー。

 

 

 白井黒子との戦闘・49週目。

 

「くっ!?」

 

 まるで予知したかのように、瞬間移動先に攻撃を仕掛けてくる敦に、白井は困惑していた。最初、白井は敦の背後に立ち、その体を拘束しようとした。だが、まるでそれを見越したかのように、目潰しの砂を振掛けられてしまう。あまりの突然のことだったので、白井の目にまともに砂が入ってしまう。その瞬間を敦は見逃さず、包丁による突きを繰り出す。

 

(この後の行動は前々回で体験済みだ。この女は俺の突きを逃れるために、瞬間移動する。だが、視界が見えない状況での移動だから、周囲に気を配れない。通行人が落とした鞄が移動先にあって、アイツは一瞬バランスを崩す! そこを刺すっ!)

 

 敦の思ったとおり、白井は移動した先で、鞄に足をとられバランスを崩す。そのことを予測していた敦は、そのポイントに、すでに体を走らせている。そして----

 

「死ぃねぇええええええ!!」

 

 掛け声と共に、白井の腹部に包丁を深々と突き立てた。

 

「そ、・・・・・・ん、・・・・・・な・・・・・・」

 

 地面に倒れこんだ白井は、自分の置かれている状況が理解できなかった。

 

 何故?

 

 どうして?

 

 だがその思考も、だんだんと薄い膜がかかったようになる。周囲に聴こえるサイレンの音がやけに遠くに聴こえている。

 

「ヨッシャーッ! ミッションコンプリートッ!!」

 

 対する敦は、まるでゲームをクリアしたかのように。高々と勝利宣言をすると、白井に話しかける。

 

「ゴメンネェ。痛かったでしょ。でも大丈夫。すぐ元通りになるから」

 

「・・・・・・もと・・・・・・どおり・・・・・・?」

 

 何を言っているのか理解できない。すると敦は、軽いネタバレでも教えるような気軽さで白井に自分の能力のことを話し始めた。

 

「俺の能力ってさあ、時間を1時間巻き戻す事が出来るんだよねー。その能力をちょいと発動させれば、全てリセット。無かった事に出来るって寸法さ。でも、あんた強いねぇ。あんたをハントするのに49週もしちゃったよ。それももう終わり。ステージクリアっ。 よーし、時間を巻き戻そーっと」

 

 敦はエヘヘッと笑い白井を見ている。その顔には罪悪感のかけらもない。まるで本当にゲームでもやっているかの様に、あけっけらかんとしている。

 その様子に、白井はむかっ腹が立った。何とか一矢報いたかった。でも、もう、自分の体は動かせそうにない。だから、最後の負け惜しみのつもりで、こんなことを言ってみた。

 

「・・・・・・能力をつかうに、は・・・・・・。リスクが、とも、・・・・・・なう・・・・・・。くっ。・・・・・・それだけ、の・・・・・・能力・・・・・・代償は、高くつくんじゃあ、・・・・・・ありません・・・・・・? ・・・・・・ぐっ・・・・・・」

 

 それっきり、白井はピクリとも動かなくなった。それをみて敦は、馬鹿にしたようにして笑った。

 

「ひゃひゃひゃひゃっ。リスク? 何言ってんだよ? この能力にそんなもん、ありゃしねーっつーの。バーカ。バーカ」

 

「イヤ。アルゼ、オ前ェ」

 

「ははははは・・・・・・はっ?」

 

 引きつる表情の敦に、ドクロ顔のスタンドはそういって、時間を巻き戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後一時。

 

「・・・・・・よくさあ、イジメを扱ったドラマでさあ。散々虐められていた主人公が、最終回でようやっとイジメから解放されるっていうシーン、あるじゃん」

 

「ンーっ!? ンーッ!? ンンンーー!?」

 

「大体が、担任や親や弁護士の協力とかでさー? いじめっ子がちょっとい追い詰められたとたん、主人公と和解したりしてさー? ハッピーエンドっぽい終わりになるジャン? あれって、理不尽じゃね?」

 

 ヤスのマンションの一室。ここでリーダー格の少年は、彼の取り巻きの少年達に体を拘束されていた。口には猿轡を噛まされ、怒鳴り散らすことも出来ない。そんな彼の周りをぐるぐると歩きながら、和喜の体を乗っ取った出来物は、誰に聞かせるでもなくしゃべり続けていた。

 

「だって1話から10話まで、散々虐められてだよ。最終話で、イジメグループがちょっと泣きついて和解って・・・・・・。ありえねぇだろ? 結局、こすズルい イジメグループの作戦勝ちさ。絶対ほくそ笑んでるぜ、あいつら。・・・・・・でも、お前は違うよなぁ! お前は泣きついたりしないよなぁ!? ええ? リーダーさんよぉ!!」

 

 そういって和喜の姿をした出来物は、リーダーのわき腹に何度も何度も何度も、パンチをお見舞いした。そのたびにリーダーは悲鳴にも似たうなり声を上げる。しだいにわき腹がどす黒い紫色に変色していく。

 

「ん? 何かいいたそうだナァ? おいヤス。猿轡とをれ」

 

 もはや彼らの関係は一変していた。ヤスは出来物の命令に素直に「はいっ!」と答え、猿轡を外す。

 

「ゲホォ! ウゲェっ! お、ま、え・・・・・・。こんな、ことして、ただで・・・・・・」

 

「はい。終了ォ!! まだ調教が足りないようだなぁ!?」

 

 リーダーの悔し紛れの言葉をさえぎり、出来物はリーダーの頬にボールペンの先端を突き刺した。

 

「おごぉああああ!?」

 

「・・・・・・あと1時間。追加決定ぃいいい!」

 

「ま、まて。・・・・・・まって・・・・・・!!!?」

 

 再び悪夢のような調教が始まった。

 

 

 

 

 

 

 午後二時。

 

 このアパートに監禁されていた時は、あれほど強情な態度を崩さなかったリーダーも、徹底して、執拗な度重なる調教という名の拷問に、ついに折れてしまった。というか、精神に偏重をきたしてしまった。

 

「うぁああああああああああんっ!!! おれが・・・・・・ぼぐがっ!!ぼぐが悪がっだでずっ! もうじまぜんっ。ゆるじでぐだざいいいいいい!!!」

 

 リーダーの手足の爪は全てペンチで抜き取られ、さらにそこに待ち針が何個も突き刺さっている。

 

「もう、もう限界ですっ!!! 鼻からいっぱい血が出て息が出来ませんっ! アバラも何本か折れています! このままじゃ、僕たち死んでしまいますっ! もう、あなたには手を出しませんっ!! 誓いますっ!! 奪ったお金もお返ししますっ!! だから、だから・・・・・・お願いですっ!! 助けてくださぁぃぃぃ!!」

 

 取り巻きの三人は恥も外聞も投げ捨て、床に頭をこすり付けて土下座をしている。そんな彼らの様子は、完全に負け犬のそれだ。そんな彼らの懇願を----

 

「だめだ」

 

 出来物は一蹴した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・・おい、カズキよぉ。どうだい? 気分はぁ。・・・・・・満足だろぉ? 今まで見下してきた連中が、今じゃお前に媚びへつらってんだぜ? 最高だろ? 最高の気分だろ?)

 

 出来物は心の中の和喜にそう呼びかけながら、パシャパシャと携帯でリーダー達の姿を撮影する。彼らは一矢纏わぬ姿で寝転がっており、和喜の機嫌を損ねないよう、体を出来るだけ動かないようにしている。

 

「おいリーダー。 今日からお前、俺の代わりな? 代わりに虐められろ。・・・・・・取り巻き3人。明日から学校でコイツをいたぶれ。やり方はいつもやってんだから、わかんだろ? それを一ヶ月でローテ組んで、交互に虐めあえ。・・・・・・逆らったらこの写真を学校中に、ネット中にばら撒く。住所も晒す。分かったな?」

 

 4人は涙でグジャグジャの顔で、何度も何度も頷きあっている。

 

(・・・・・・最後にもう二、三発。どたまをしこたま殴りつけておくかぁ。カズキよぉ。奴等が憎いだろ? お前もやってみろよ? 絶対、すっきりするぜぇ!!)

 

 出来物はそういうと、体の主導権を和喜に戻した。

 

「・・・・・・」

 

 ぼおっとした意識から急速に覚醒した和喜が見たものは・・・・・・

 

「ひっく・・・・・・ひっく・・・・・・」

 

「ううっ。ママァ・・・・・・」

 

「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい」

 

「ゆるじで・・・・・・。ぐだざいぃ」

 

 

 ・・・・・・血まみれで

 

 まるで子供の様に泣きはらしながら

 

 自分に許しを請うクラスメイトの姿だった。

 

「うわああああああああああああああ!!!」

 

 和喜は絶叫すると、そのまま部屋から逃げ出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

午前八時。

 

 さわやかな風を感じる朝。

 通学路には、これから会社や学校へ向かう人々が、ぽつぽつと現れ始め、目的の場所へと歩を進めている。

 そんな朝の始まりの路上で、怒鳴り声を上げる人物がいた。

 

「どういうことだよ? 何だよリスクって!? 聞いてないぞっ! オイッ!」

 

「・・・・・・ダッテヨォ。聞ナカッタカラ。ワザワザ聞カナイ事ヲ、親切ニ教エテヤル義理ハネーヨナ。俺ハオ前ノオ袋ジャアネンダゼッ!」

 

 古谷敦は、自分のドクロ型スタンドに食って掛かっていた。その顔は蒼白で、額からは大量の汗がにじみ出ている。

 

「そんな・・・・・・。リスクって何だよ? どんなペナルティがあるって言うんだよ?」

 

「俺ノ能力ハ、時間ヲ1時間巻キ戻ス事ガ出来ル。・・・・・・ダガヨォ。ソノ能力ハ俺カラ借リタモノ。必ズ返済シナケレバナラナイ。クレジットカードノキャッシュローント一緒サ。期限ガキタラ、使ッタ分ハ、必ズ払ッテ貰ウ」

 

「・・・・・・へ、返済って? どうやって?」

 

 その敦の問いに、スタンドは冷酷に事実を答える。

 

「一回時間ヲ遡ルゴトニ、1年分。オ前ノ寿命ヲ頂ク。ダカラァ・・・・・・。ダイタイコレマデノ使用回数ヲ計算スルトォ・・・・・・。ザット、249年分ッテトコカナ」

 

 頭の中が真っ白になった。

 

 何だって?

 

 にひゃくよんじゅうきゅうねん? ・・・・・・249年?

 

 そんなの返せるわけない・・・・・・

 

「・・・・・・返セルワケナイッテ顔シテルナァ。デモヨォ。取立テハモウ、始マルンダゼ?」

 

 ・・・・・・どうやって?

 

 そう、敦が問うまもなく、突然、暴走した車が敦目掛けて突っ込んできた。

 

「!?」

 

 あまりの突然の不意打ちに、敦は受身も取る事が出来ずに、吹っ飛ばされた。だが、死んではいない。多少の擦り傷は負ったが、まだ無傷だ。

 

「・・・・・・正確ニ言ウト。オノ寿命ハモウ尽キテイルンダ。後ハドウヤッテオ前ヲ殺スカ。ミンナデ審議中ダ」

 

「ひぃいいいいい。何だよ!? みんなって?」

 

「ソリャア寿命ノ取立人ッテイヤア・・・・・・”死神”シカイネエダロ。タダシ、”運命”トイウ名ノ死神ダケドナァ」

 

 四つんばいで這いつくばっていた敦の周囲に影が出来る。それはだんだんと大きくなってきて、やがで敦自身をすっぽりと覆ってしまう。

 

 上に何かある?

 

 それを敦は最後まで確認できなかった。

 劣化して脆くなったマンションのコンクリートの一部が落下し、敦の体に直撃したからだ。

 周囲には敦のほかにも数名の学生がいたが、”なぜか”彼らには一片の欠片も当たらなかった。

 

 

「・・・・・・ナンツウカヨォ。コンナコトニナッテカライウノモナンダケドヨォ・・・・・・。オ前ガ本当ニ幸運ダッタノハ、能力ニ目覚メル前ダッタヨナァ・・・・・・。世間ニ対シテブツクサ文句イッテル時ガ、一番幸セナ時間ダッタノニヨォ・・・・・・ッテ、モウ聞イチャイネェカ・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 スタンドは、物言わぬ骸と化した敦の周りをフワフワと漂い、やがて彼からは離れていった。

 

「オッ、離レラレル。ラッキー。・・・・・・次ハ、モット面白ソウナ奴ニ憑リツキテエナァ・・・・・・」

 

 周囲に野次馬が集まってくる。

 

 スタンドは周囲の人ごみの中に紛れ、やがてその姿を消した・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後三時。

 

 「・・・・・・ぼくじゃない、ぼくじゃない、ぼくじゃない、ぼくじゃないっ!!!!」

 

 どこをどう走ってたどり着いたのか、わからない。和喜は自宅のアパートまでたどり着くと、そのまま布団を被り、ブルブルと震えている。

 

 さっきまでの光景が頭から離れない。あれは本当に、現実の出来事なのか?

 

 たしかにぼくはあいつらに消えて欲しいと願っていた。

 

 それを叶えてくれるといった出来物の誘いに乗った・・・・・・

 

 でも、でも・・・・・・こんなことになるなんて・・・・・・

 

「うっ!?」

 

 急に吐き気を催し、和喜は洗面所に駆け込んだ。

 

「・・・・・・うげぇ!!」

 

 中の内容物を全てぶちまけてしまった。

 

「・・・・・・」

 

 ふいに鏡を見る。血の気の引いた酷い顔がそこにあった。だが、酷いのはそれだけではなかった。

 

「うっ、腕が!?」

 

 和喜の右腕が、正確に言うと右腕の出来物が、急成長を遂げていた。大きさはミカン大位。それがだんだんと大きくなっている。

 

「ひぃいいいい!」

 

「・・・・・・そんなに驚くなよ。大丈夫。落着きなって。これからお互いが入れ変わるだけなんだからヨォ」

 

 出来物は急成長を遂げ、次第に人間のような形状になっている。頭が出来、腕が生え、胴が伸び・・・・・・。反対に和喜の体は少しづつ、出来物に吸収されるかのように縮んでいく。

 

「・・・・・・お前の体を乗っ取って、パワーを得た。これで完全に入れ代われる。・・・・・・今までありがとうよ、お前は依り代としちゃ、最低だったぜぇ!!」

 

 出来物は出来たばかりの醜い顔を、さらに醜く歪ませ、笑う。和喜は既に赤ん坊くらいのサイズにまで縮み、体を動かす事が出来ない。

 

 吸収される? いや・・・・・・侵食されているんだ・・・・・・

 

 消えていく・・・・・・。ぼくの意識が・・・・・・

 

 ・・・・・・

 

 ・・・・・・和喜の意識は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

「ひゃはははははぁ! もうすぐ、もうすぐ肉体を得る事が出来る! 馬鹿な宿主に代わって、俺が”内田和喜”に成り代わるんだ! まずは何をしよう!? フへへへッへへ」

 

 宿主から肉体を奪ったことに、喜びを禁じえない”スタンド”は高笑いを繰り返す。その時、玄関のドアが開き、一人の人物が顔を出す。

 

「なぁ!?」

 

 それはショートカットの少女だった。彼女は軍服の様なものを着込んでおり、鋭い目つきでこちらを見つめている。その服の襟にはS.A.Dという刺繍が施されているのが見える。彼女は腰から下げた刀袋から、刀を取り出すと、構えの姿勢もとらずに、その刀を床に突き立てた。

 

「なんだぁ!? てめえはぁ!?」

 

 突然の乱入者に怒りと戸惑いの声をあげるスタンドに対して、少女は凛とした声で返答する。

 

「S.A.D 第二支部・隊員ナンバー2、黛 纏(まゆずみまとい)! あなたを、退治しに来たものです!」

 

「退治ぃ!? その刀でかぁ!? そんな刀でどうやって俺を切るっつーんダヨォ!!」

 

 出来物の言うことも もっともだ。少女は刀から鞘も抜かずにいるのだ。しかも、この刀には、鎖によって封印がれており、安易に刀から抜くことも出来ないのだ。だが、そんな事に、少女は動揺もしていない。

 

「刀を抜くのは、私ではありません。この刀に宿る、スタンドですっ!」

 

 その瞬間、床に突き立てた刀から、何かが姿を現した。

 

 頭に纏う巨大な王冠。

 

 全身にくまなく巻かれた包帯。

 

 右手に持つ輝く刀身と刀を振るうにふさわしい筋肉質な体。

 

 

 それはスタンドだった。

 

 

 

 ・・・・・・世の中には稀に、本体が死亡しても、そのまま消滅せずに現世に留まるスタンドがある。それは例えば、刀であったり、時計であったり、拳銃であったり、人形であったり・・・・・・。たいていが土地や物に縛られており、しばしば呪いの土地や、アイテムとして伝承で語り継がれたりする。

 そして、そんな呪いのアイテムを使いこなす人間もまた、存在する。

 

 彼女、黛 纏は、そんな一族の血を引く少女であった。彼女自身はスタンドを認識することは出来ない、だがこの刀、”オシリスの妖刀”と同化することにより一時的にそれが可能になるのだ。

 

 

「・・・・・・ゲェ!? スタンド!? ば、馬鹿な!?」

 

 驚きの声をあげる出来物。一瞬にして実力の差を感じ取った彼は、どうにか逃れようとするも、それが出来ないことを悟る。

 

「・・・・・・」

 

 オシリスのスタンドが自身の体重を乗せ、自分目掛けて刀を振り下ろしているのを見たからだ。

 

「まッ待て!? 俺を殺したら、宿主のコイツもッ・・・・・・!?」

 

 その言葉を、最後まで言えなかった。出来物は、体を真ッ二つにされ、そのまま、ズブズブと煙を上げると、消滅してしまった。

 

「・・・・・・オシリスの怪刀。その能力は、触れた物体や人間の呪いを浄化する事が出来る・・・・・・」

 

 そういって、スタンドを刀に戻す。

 

「・・・・・・」

 

 そこには、床に倒れている和喜の姿だけがあった。

 

 

 

 

 

「・・・・・・良かった。気が付いたね」

 

 気が付くと、見慣れない少女がいた。少女は和喜の顔を覗き込み、状態を確認している。

 

「危ない所だった。もう少しで、君はアイツに取り込まれていたよ。でも、もう大丈夫。アイツはこの世から消え去った。もう悪さすることもない」

 

「・・・・・・君は? だれ?」

 

 思わず訪ねてしまう。こんな女の子。絶対に知り合いなどではないはずだ。

 

「チャットで、君の助けを求める文章を見て、いてもたってもいられなくなったんだ。嘘にしては話に信憑性があったし・・・・・・。だから、悪いけどチャットの運営者に頼んで、君の住所を教えてもらったんだ。”日陰者”くん?」

 

「・・・・・・もしかして、”フラワー”さん?」

 

 そう問いかけると、少女はニッコリと和喜に微笑みかけた。

 

 

「・・・・・・ことばが、届いた・・・・・・」

 

 和喜は誰ともなしにつぶやいた。

 

 不意に、委員長の言葉が思い出された。

 

(ほんとの事、話したいことを話してもくれなくて、どうやって分かれって言うのよ!?)

 

 本当にその通りだ・・・・・・。

 自分の中でだけ気持ちを押し込めて、それで相手にわかってくれなんて、独善的過ぎる・・・・・・

 

 あの時初めて、自分の言葉をチャットを通して発した。

 大抵の人は、無関心のままだったけど、それでも、耳を傾けてくれる人がいた・・・・・・

 

(踏み出す勇気・・・・・・か・・・・・・)

 

 少女に介抱されながら、和喜はそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後六時半。

 

「くそっ! どこだっ! 一体どこに!」

 

 陽が次第に傾き、夜の様相を呈し始める。

 広瀬孝一は、都会のざっそうの中、一人奔走していた。

 

 あれから一時間近く探したが、手がかりはおろか、痕跡すら見つからない。

 

(どうしたらいい・・・・・・?一体どこを探したら?)

 

 ほとほと困り果てていたその時、メールの着信を知らせる音が入る。

 

「? 誰からだ?」

 

 孝一が開いたメールには件名でこう記されていた。

 

 

 件名:高井直人の居場所

 

 

「!?」

 

 そのメールには、高井の現在位置の情報が記入されている。

 

「なんで? 一体誰が?」

 

 だが、迷ってはいられない。相手が何者だろうと、今は僅かな可能性にでも賭けるしかないのだ。

 孝一は一抹の不安を禁じえなかったが、そのメールの記されている場所に行ってみることにした。

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 高井の位置情報を孝一の携帯に送信し携帯をぱたりと閉じる。佐伯にネリーと呼ばれた褐色肌の少女は、そのまま、街の雑踏に消えていく孝一の後姿を眺めている。

 

「一人で捕獲できないこともないけど、面倒くさいリスクは避けなきゃね。・・・・・・悪いけど、協力してもらうよ。広瀬孝一君・・・・・・」

 

 

 

 

 

 とあるビルの屋上。

 学園都市の誇る巨大な風力発電の風車を遠巻きに眺め、狼型のスタンドが遠吠えをする。しかし、スタンドである彼の遠吠えに耳を傾けるものなど存在しない。それに構わずスタンドは遠吠えを繰り返す。まるで、原始の記憶が呼び覚まされたかのように、何度も、何度も。

 

「・・・・・・」

 

 右手にはぐったりとし、意識がない状態の高井が、しっかりと握られている。

 

 その時、ガチャリと屋上のドアが開く。そこに顔を出したのは、広瀬孝一だった。

 

「高井君・・・・・・」

 

 孝一は高井の無事を確認すると、スタンドと向き合い、エコーズact3を出現させた。

 

 そのエコーズの姿を見るなり、スタンドは敵意のこもったうなり声を上げ、孝一と対峙する。

 

 ビリビリと下っ腹に響く威圧感。

 

(なんとかして、アイツから高井君を引き剥がす! だが、出来るだろうか?)

 

 なんとなく嫌な予感を感じながら、孝一は敵の前に一歩足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとこさ、古瀬君と内田君のエピソードを終えることが出来た・・・・・・
長かった・・・・・・

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