広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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最初のお仕事

「こんにちわっす! 二ノ宮玉緒といいます! たいちょーはいますか?」

 

「はあ、たいちょーさんですか。・・・・・・申し訳ありませんが、我が社にはそのような名前の社員はおりませんが・・・・・・」

 

 S.A.Dのビルを塞ぐ形で、そのビルは立っていた。だから、S.A.Dを訪ねる人間は、最初のうちは必ずこのビルが目的のビルだと勘違いしてしまう。今受け付け譲を困らせているこの少女もご他聞に漏れず、このビルをS.A.Dと勘違いしていた。少女はキョロキョロと辺りをうかがうと、大声でたいちょーと連呼し始めた。

 

「たいちょぉおおおお! 玉緒っす! どこっすかぁあああああ!?」

 

「おおおおおお客様ぁ!? 何をなさっているのですかぁああ!? ただちに止めてください!!」

 

 今からちょうど10分前の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ~っ。申し訳ないっす。今日だと思ったんですけどねー」

 

 そういって二ノ宮玉緒と名乗った少女は「にひひ」と照れ笑いをして頭をかく。

 しかし、四ツ葉に詫びの言葉を入れるその態度からは全然悪びれた様子は見られなかった。一方の四ツ葉もそんな彼女の態度を平然と受け流し「まあ、来ちゃったもんはしょうがないよね」と、近付きつつ、玉緒と孝一の肩に手をかける。

 しまった、と孝一が思った時には遅かった。

 

「ああ~。予定より一日早いですが、新しい隊員がやってきました。これで、欠勤の一人を除いて隊員数は5名。何とか組織としての体面を保つ事が出来ます。まあ、堅苦しいことは抜きにして、これから皆で仲良くやっていきましょう」

 

「はいっ! 改めましてっ! 二ノ宮玉緒ですっ! これからお世話になるっす!」

 

 その言葉に、その場にいる全員(孝一を除く)が「おお~!」と声をあげる。

 

「いやあ。今日はいい日だ! こうして一気に仲間が増えて! おじさんはうれしいなぁ!」

 

「あの、は、始めましてっ! 黛纏(まゆずみまとい)といいますっ! メ、メルアド、交換しませんか?」

 

「おめでとう。堅一郎。これで本格的にお仕事が出来ますね。ハルカはとてもうれしいです」

 

 孝一と玉緒を中心に隊員たちが集まる。四ツ葉は声高々と、「君達は希望の星だ」と褒め称え、黛は玉緒にさっそくメルアド交換を申し込み、清掃ロボットのハルカは四ツ葉をヨイショしている。

 カオスだ・・・・・・。カオスな空間がそこにあった。

 

 (かえれない・・・・・・)

 

 完全に帰るタイミングを逃した孝一はその場に佇むしかなかった。

 

「んー・・・・・・?」

 

 いつのまにか玉緒がじーっと真顔で孝一を観察している。

 

「ん? ああ、彼は広瀬孝一君。君と同期入隊ということになる。お互い年齢も近いし、仲良くしてね」

 

 そういって四ツ葉は二人の肩をぽんぽんと気さくに叩く。いつのまにか隊員扱いされている孝一はたまったものではないが、それよりジロジロとこちらを観察している玉緒のほうが気になった。

 

「な・・・・・・なんだよ?」

 

 その孝一の問いに、玉緒はしばらく考え込んでからおもむろに---

 

「君、背ちっこいっすね~。かわいいっす」

 

 そういって孝一の頭をよしよしと撫でた。

 

(・・・・・・コノヤロウ)

 

 ビキッと孝一の額に青筋が立ったのはいうまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・うううう。なんで僕がこんな目に・・・・・・」

 

「こーいち君っ。頑張るッす! もっと腰に力入れるっす!」

 

 玉緒が孝一にハッパをかけるが、そんなの知ったことではない。孝一は自身におきた理不尽な出来事に呪わずに入られなかった。

 

 いつの間にか孝一はオフィスの清掃を手伝っていた。ジャージに着替え、床や壁をゴシゴシと清掃中だ。その孝一のすぐ隣では、玉緒と纏がいらないファイルやパンフレットなどを段ボール箱に入れている。

 

「まゆまゆ。このファイルはいらないっすねー? 捨てちゃいますよ?」

 

「まゆまゆ!? ああああ・・・・・・今日はなんていい日なんだろぉ。友達が二人も出来ただけじゃなく、こうしてニックネームまでつけてくれるなんてぇ・・・・・・」

 

 纏は玉緒の付けてくれたニックネームがよほど気に入ったのか、天を仰ぐようにしてジーンと感動していた。よほど友達がいなかったんだな。と孝一は思ったが、勿論そんなことは口には出さない。

 

「みなさん。一息入れましょう。ハルカがお茶をお持ちしましたよ」

 

 そういって、掃除ロボットがマジックハンドの手を器用に使い、お茶を持ってきた。きちんとお盆に人数分のお茶を注いで持ってくるさまは、テレビで見たからくり人形みたいだ。

 何でもありだよなぁこのロボット、と孝一は思った。四ツ葉になついているようだが、彼がプログラムしたのだろうか? そういえば、先程からその四ツ葉の姿が見えない。どこにいるのかと思ったが、かすかに香るタバコの匂いで全てを理解した。

 

 かくれタバコだ・・・・・・。あのオヤジ、人をこき使うだけ使っておいて・・・・・・。

 

 怒るのを通り越して呆れた。本当は「何してんですかと」怒鳴り込みたいが止めておく。そんな元気も体力もすでに無い。

 

 

 

「・・・・・・あの、二ノ宮さん。S.A.Dに所属するって事は、あなたも、スタンド能力をもっているのかな? どんな能力なのか聞いていい?」

 

 孝一達が地べたに腰を下ろして一息入れていると、おずおずと纏がそんなことを質問してきた。これから一緒にやっていく仲間の能力に興味津々といった感じだ。

 

「まゆまゆぅ。二ノ宮さんは、他人行儀っすよぉ。自分達もうフレンドじゃないですか。だから下の名前で呼んでくださいよぉ。んーっとぉ。玉緒だから、タマタマでいいっすよぉ」

 

「タ・・・・・・タ・・・!? マ・・・・・・!!?」

 

「ブフォォオ!?」

 

 纏は思わず顔を真っ赤にしてしまい。彼女達の会話を聞いていた孝一は思わず口に含んだお茶を吹き出してしまった。

 

「ん? かわいいじゃないっすか~? タマタマ。語呂もいいし。何かおかしいっすか?」

 

 一人玉緒だけは何がいけないんだという顔をしている。

 

「タッ、タ、タマッ・・・・・・おさん! ・・・・・・玉緒さん! ・・・・・・うう、今はこれが精一杯ですぅっ。玉緒さんって呼ばせてくださいぃ」

 

 纏は何とか玉緒の期待にこたえようとしていたが、やはり、羞恥心には勝てなかったようだ。うっすらと目に涙をためて、弱弱しく、そう玉緒に訴えた。その姿はどちらが年上なのか分からなく程の威厳のなさである。

 

「ま、いいっすよ。名前なんて呼びやすいほうで。ようはフィーリングっすから」

 

 あっけらかんとした表情で彼女は答え、「あ、自分の能力っすけど」と先程の纏の質問に答える。

 

「今の自分の能力は、発火能力(パイロキネシス) っす。レベルは1っす」

 

 そういって玉緒は人差し指をたて、能力を発現させる。ポッ、と小さな炎がそこから現れた。とても戦闘で役立つとは思えないその能力に、纏だけでなく孝一も驚き、つい会話に参加してしまう。

 

「ちなみに・・・・・・。スタンドとかは見えたり・・・・・・」

 

「しないっすよ? まったくもって視えないっす」

 

 そういって玉緒はニヘラっと笑った。

 

「・・・・・・」

 

 おいおいおいおいおいおい。何考えてんだあのオヤジ。来る者拒まずかよ。人員はもっと慎重に選べよな。孝一は心の中でそう四ツ葉に突っ込みを入れた。

 

(はっ!? 違う違う違う。これじゃ、僕がこの組織を心配しているみたいじゃないか。・・・・・・僕には関係ない僕には関係ない。僕は部外者僕は部外者。心配なんかしてないぞ。・・・・・・よーし。落着いてきた。掃除を終わらして早くかえろう。それがいいそうしよう)

 

 そう自分を叱責しつつ、少しずつ深みにはまっていく孝一なのであった。

 

 

 

 

 

 

 オフィスの掃除は結局午後になっても終わらず、残りは明日になってからという事で各自解散となった。時刻は午後三時。やっと介抱された孝一はフラフラとした足取りで帰路につくのだった。

 

 

 

「・・・・・・堅一郎。あなたの采配を疑いたくはありませんが、あの二ノ宮という女性。なぜ彼女の入隊を許可したのか、伺ってもいいですか」

 

 隊員が誰もいなくなったオフィスで、一人くつろいでいる四ツ葉にハルカが尋ねてきた。四ツ葉は孝一達がいなくなったので、机で悠々とタバコをふかしている。

 

「んん~? ハルカちゃんはあの子を気に入らなかったの?」

 

「いえ、個人的には好意を感じていますが・・・・・・。彼女の能力には疑問が残ります。今後のS.A.Dの活動に彼女の能力は必要なのでしょうか?」

 

 言うようになったナァ・・・・・・。などとハルカの成長振りに軽い感動を覚える四ツ葉。彼は咥えていたタバコから煙を「ふうっ」と吐くと、こう答えた。

 

「・・・・・・確かに、彼女の能力は使い勝手が非常に悪い。戦闘面でも役に立たない事がしばしばあるだろう。使い道も分かりづらいしね。だが、使いようによっては、非常に有効な能力だともいえるんだよなぁ・・・・・・」

 

「発火能力(パイロキネシス)が、ですか?」

 

「違う違う。あれは彼女のホントの能力じゃないよ。彼女の能力はね・・・・・・」

 

 そういって四ツ葉はハルカに玉緒の能力を教えてあげた。

 

 

 


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