広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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妖刀と少女

「ちょっと、ちょっと、お嬢さん、どこいくの?」

 

 犯人と纏のやり取りを遠巻きに眺めていた四ツ葉は、立ち上がり、彼らの元に行こうとする初春の襟首を慌てて掴み、その場に押し留めた。

 

「離して下さい! 佐天さんを助けないとっ! このままじゃ、逆上した犯人が何をするかっ・・・・・・!」

 

 涙子は先程犯人に地面に叩きつけられ、その場から動けないでいる。ひょっとしたら意識を失っているのか、もしくはそれ以上の状態なのかもしれない。初春としては友達の危機にいてもたってもいられないのだろう。だが、今の状況では近付くのは難しい、何故なら犯人は、ただの人間ではない、スタンドという一般人には視る事も叶わない未知の能力を有しているのだ。その事がわかっているから、四ツ葉は努めて冷静に、しかしはっきりと、強い口調で初春に告げる。

 

「だめだ。今君をあそこに行かす訳には行かない。はっきりいって、スタンドを見ることの出来ない君は、あの場では邪魔な存在だ。かえって犯人の人質になる可能性のほうが高い」

 

「でも、でも・・・・・・」

 

 初春はそれでも友達を見捨てる事が出来ない。その顔は血の気を失っていて今にも倒れそうだ。そんな初春を、四ツ葉はポンと肩を抱き、優しく諭す。

 

「大丈夫だ。うちの隊員は飛び切り優秀だからね。纏(まとい)君なら、きっと一瞬で犯人を捕まえてくれるよ。だから、私達は彼女を信じて待とう」

 

 そして四ツ葉は、犯人と対峙する纏に視線を移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 相手に向かい突進したオシリスのスタンドは、剣を大きく振りかぶるとそのまま犯人に向かい、振り下ろそうとする。

 

「はっ、甘ぇよっ!」

 

 そういうと犯人は自身のスタンドの手を広げ、何か光るものを飛ばした。

 

「!?」

 

 とっさにオシリスはその光る何かを剣でさばく。剣にはなにかドロリとしたものが付着していた。

 

「これは、粘液!?」

 

 纏は瞬時にその正体を把握する。

 

「ビィンンゴォ! 粘液を弾丸状にかえ、超高速で発射する! これが俺の能力だぁ」

 

 纏は改めて犯人のスタンドを凝視する。全身がどろどろの粘液に覆われた人型スタンド。犯人の近くから離れない所を見ると、恐らく近距離パワー型だろう。そして近距離型の弱点である射程距離を、弾丸を打ち出すことで克服している。犯人の言葉通りなら、近接型で、なおかつ飛び道具の無い纏には、確かに分が悪かった。

 

「しかも流れ出てくる粘液は無尽蔵! つまり、永久に弾丸は尽きる事がねえんだよぉ!!」

 

 そういうと犯人は、スタンドの十の指から、粘液の弾丸を、四方八方に撃ちまくる。

 

 街の街灯が、ガラスが、コンクリートが、犯人の攻撃によって粉々に砕かれる。一発一発の威力もかなり高かった。

 

「そおらっ! 全身穴だらけになりやがれっ!」

 

「くっ!」

 

 犯人は四方に撃っていた弾丸を、纏一人に集中させて撃ちこむ。対する纏は、スタンドで防御するが間に合わない。捌ききれなかった弾丸が、纏目掛けて高速で迫ってくる。

 

「!」

 

 瞬間的に纏は体をねじり何とかその攻撃をかわす。だがその瞬間、纏の妖刀・オシリスはその形態を維持できなくなり、霧の様に四散してしまう。

 そう、纏はスタンド使いではない。妖刀・オシリスをマジックアイテムとして使用しているに過ぎない。  基本的にマジックアイテムはその大きさ、能力、ランクによって使用制限がかかる。より強大な能力を使用するには、それなりの代償を払わなければならないということである。

 このオシリスのランクはFクラス。使用する際にかなりの制約がかかるのだ。

 この場合、剣の柄を地面に突き立て、その場から動かないという制約を守らないと、とたんに纏は能力を使用出来なくなるのである。

 

「・・・・・・おいおいおいおい。どうやら一定の構えを崩すと、能力が解除されちまうらしいなぁ! とんだポンコツ能力だなぁ。おいっ!」

 

 犯人は攻撃を止め、ニヤニヤとした表情を浮かべ、地面にうずくまったままの纏を見下ろしている。

 

「・・・・・・確かに、訂正しなければなりませんね。あなたの能力に・・・・・・。結構やるじゃないですか。あなた”程度”ならこれでいけると踏んだ、私のミスですね。これは」

 

 そういうと纏は地面から立ち上がり、妖刀を右手に持つ。

 

「なんだよ? また弾丸を・・・・・・」

 

 喰らいたいのか? と言おうとして、犯人は口をつぐんだ。何かがおかしい。あの刀からものすごいプレッシャーを感じる。すると、

 

 ジャラリ。と言う音がして、妖刀にかかっていた鎖が地面に落ちる。そして、纏はその鍔に手をかけ、刀を引き抜いた。三日月刀は太陽に反射して、まるで猛獣の牙の様に光り輝いている。

 

「・・・・・・侵食率50パーセント。ってとこですかね? あなた”程度”を倒すのに・・・・・・」

 

「な、なんだ? 刀から?」

 

 一瞬、あの妖刀から先程のスタンドが、纏の体に吸い込まれるように入っていったのを男は目撃した。その瞬間、纏の様子が激変した。

 

「ウォォオオオオオオ!」

 

 纏は獣のような雄たけびを上げ、犯人の男に向き合う。良く見ると、黒一色だった瞳は青白く変色し、顔には不思議な文様が表れている。それはまるでエジプトの象形文字のようだった。

 

「フシュルルルルルルル」

 

 犯人と対峙する纏は、先程とまるで別人だった。纏は刀を中段に構え、切っ先を犯人のスタンドにむけている。

 元々、オシリスの妖刀は、もう一つの対なるアヌビスの妖刀と共に、刀を鞘から抜いた者を操る能力を有していた。それを長い年月をかけ、手綱を握ればなんとか操る事が出来るまでにしたのは、マジックアイテムを使う、纏の一族である。この場合の手綱とは、纏の手の甲に移植された、先代から引き継がれた魔を封じるルーンである。これがあるからこそ、纏はオシリスに意識を乗っ取られることなく、妖刀を振るう事が出来るのである。

 

 それを今、一時的に元の形に戻した。

 オシリスのスタンドを、纏い自身に憑依させた。

 もちろん完全に憑依させるわけではなく、約半分。50パーセント程、侵食を許可した。それ以上を許せば、たとえ魔封じのルーンがあるといえど、意識を完全に乗っ取られてしまう。

 

(この状態でいられるのは約3分。その間に、決着をつけます!)

 

 纏は次第にぼやける意識を抑え、犯人に直接、切込みをかけた。

 

「なんなんだ!? おまえはっ! おまえはぁ!?」

 

 纏の様子に尋常ではないものを感じ取った犯人は、一直線に向かってくる纏を自身のスタンドで、迎撃しようとする。纏の体を包み込むように弾丸の嵐が襲い掛かる。だがそれを纏は驚異的な身体能力で、全て潜り抜けていく。

 

「うそだっ! こんな、馬鹿な事がっ!」

 

 犯人はやたらめったらと弾丸を撃ち、纏を近付かせないようにする。だが、今の纏に交わせないものはない、身体的に強化された彼女の視力は、打ち出された弾丸全てがまるでスローモーションの様に見えていた。弾丸と弾丸の間を縫いながら次第に犯人との距離をつめていく纏は、三日月刀を鞘に戻す。そして、左手で刀の鯉口を切り、右手に柄を握る抜刀体勢をとり、ついに自分の攻撃が届く射程距離に入った。

 

 その瞬間、纏は吼えた。

 

「うああああああああああ!!!」

 

 敵のスタンドが間抜けにも、一秒遅れの銃撃を纏に仕掛ける瞬間、纏は敵スタンドの懐に飛び込み、横一文字に抜刀した。

 切りつけられた敵スタンドからは、鮮血も何もほとばしらなかった。その代わりに切られたわき腹を中心にその部分がしだいに散り散りになっていく。

 

「・・・・・・オシリスの妖刀は、呪いや人々に取り付いた邪気をはらう為に作られた神事様の破邪の剣。この剣で切られたスタンドは四散し、二度と元には戻らない」

 

 纏は犯人にそう言うと、妖刀を鞘に戻した。いつの間にか彼女の状態は元に戻っていた。

 

「お、おい。俺は、俺はどうなったんだ? 切りつけられたはずなのに、どこも痛くねぇ! でもわかるんだ。俺の中で何かが確実に失われている! なんだ? なんなんだよ! これ! 俺は、どうなるんだ?」

 

 犯人は自分に起こっている異変に対処しきれず、纏に怒鳴り散らしている。見ると彼のスタンドは、もはや原形をとどめないほど散りじりになっており、このまま消滅するのは時間の問題だ。そんな犯人に対し、纏は冷静に結果だけを報告する。

 

「別に? どうもしませんよ。元の”無”能力者に戻るだけです。・・・・・・一度得た能力を、二度と取り戻す事が出来ないという後悔を抱き続けて、これからの人生を生き続けなさい」

 

「あ・・・・・・あ、ああ・・・・・・」

 

 そういって纏は犯人の所までやってきて、蔑みのまなざしを送る。

 犯人は抵抗しなかった。自分のスタンドの消滅を、実感してしまったからだろうか? 地面に膝をつき、力なく項垂れている。その犯人に対して、纏は柄で後頭部を思い切り殴りつけた。

 

「がはっ!」

 

 地べたを這うようにして気絶している犯人に対し、最後に纏はこう付け加えた。

 

 

「私の友達を傷付けたんですから、そのくらい安い代償でしょう?」

 

 

 

 




この話は戦闘シーンがメインです。纏を刀を持ったキャラにしてしまったため、戦闘描写がものすごく難しくなってしまいました。普通のスタンドにしておけば良かったと、今更ながら後悔しております。
 以下、纏のステータスです。



スタンド名 :オシリス
本体    :なし
現在の所有者:黛纏(まゆずみまとい)

破壊力  :C
スピード :C
射程距離 :C(10メートル)
持続力  :C
精密動作性:E
成長性  :E

刀身に触れた者の精神を支配し、操るという、アヌビス神と同等の能力を有する。それを纏の一族が長年をかけ、強制的にマジックアイテムとして使役している。無理やりに従わせているため、威力・精度とも本来の三分の一程度しか発揮できていない。また、使用する際は、それなりの制約が必要になる。刀で切った人や物の呪いを浄化すると言う能力を有している。

オシリス:バーストモード

破壊力  :A
スピード :B
射程距離 :E
持続力  :E
精密動作性:A
成長性  :E

オシリスの持つ精神支配を利用したモード。
自身とオシリスの精神を同化させ、戦闘力を底上げする事が出来る。使用者は肉体能力・身体能力が飛躍的に上昇する。
 侵食される割合が高いほど、技の威力やスピードなどが上昇するが、反面、意識を完全に乗っ取られる確率も増えてくる。(侵食率が90パーセントを超えると、完全に精神が支配されてしまう)
持続時間も非常に短い。(侵食率が10パーセントの場合でも、10分が限界。それを超えると強制的に能力は解除されてしまう。)

以上です。

残す所、あと2話位で終わりそうです。


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