広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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戦闘の無い回を進めるのって、とても難しい・・・
テンポの良い会話術を学びたい・・・


仲間

バチバチバチッ!

「ぐあぁ・!?」

「至急、至急、こちらジャッジメント第四六支部!現在正体不明の敵と交戦中!

応援を請う!」

ドゴォォォォォン!!!

「ヒィィ!」

「くそッ!ここは、もうだめだ!急いで脱出するぞ!!!」

 

ゴォォォォォォォォォォ・・・・

燃えさかるジャッジメント支部の中で

「ケケケケケケ」

いやらしい笑い声だけが木霊していた。

 

 

 

「ハッ!」

気が付くと、孝一はベッドに寝かされていた。

時刻は、午前5時か6時くらいだろうか?辺りは薄暗いながらも

カーテン越しにはうっすらと陽の光を感じる。

 

そして孝一の鼻を突くかすかな薬品の匂い。

(ここは、病院?)

ジャッジメント支部での戦闘から、後の記憶がまったくない、

おそらくあの後、再び気を失ってしまったんだろう。

あの後、どうなったんだろう?

敵が再び襲って来ていたりはしないだろうか?

初春さんや佐天さんは無事だろうか?

 

「・・・佐天さん・・・・」

ふいに、孝一の口からその言葉がこぼれる。

それは本当に無意識から発せられた言葉で、孝一自身もなぜ出てきたのか分からない。

 

辺りは次第に明るくなってきたようで、部屋に少しづつ光が差し込んでくる。

今日も、一日が始まる。

孝一たちにとって、最悪の一日が・・・・・

 

 

 

「壊滅?」

その言葉が何を意味するのか分からず、白井黒子は聞き返す。

相手は第一七七支部で一緒に働いていた先輩、固法美偉だ。

 

事件から四日後の、

ここはジャッジメント第一七八支部。

 

一七七支部は稼動不能状態であるため、白井達メンバーは

近隣にあるこの支部に、仮要員として在籍することになったのだ。

時刻は午前8時。このような早朝にジャッジメント支部に呼び出される事などまれなケースである。

いったいなにがあったのか?

そんな白井の疑問に固法が答える。

 

「そう、ジャッジメント第四四支部、四五支部、四六支部、とんで五五支部から七十支部までが、

昨夜未明に何者かによって襲撃され、事実上、壊滅したの。

現場にこんな置手紙を残してね。」

そういって固法はプリントアウトした現場の写真を差し出す。

そこにはこんな文面が書いてあった。

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

親愛なるジャッジメント諸君。

君たちは銀行襲撃を予告し、無駄死にが出ないよう努めて紳士的に対応したこの私を無視し、

あまつさえ私に重傷を負わせた。

報復としてこれから毎日、各ジャッジメント支部を攻撃することに決めた。

これは確定事項だ。変更はない。

全てのジャッジメント支部がなくなるまで、私の怒りは収まることはない。

 

追伸、銀行襲撃も同時進行で開始する。

もう、予告はしない。

無能なジャッジメント諸君。命が惜しくないのなら、私を止めてみたまえ。

                     ------    Rより   ----------

 

----------------------------------------------------------------------------------

 

「・・・馬鹿にして!何が努めて紳士的にですか!

アレほど下品な忠告を、わたくしは聞いたことがありませんわ!」

そういって手にした写真をぐしゃりと握りつぶす。

「今現在、人死にが出ていない事だけが、救いといったら救いね。

でもそれも、ただ単に運が良かったというだけ。

これからも無事だという保障は、どこにもないわ。」

 

重傷者56名。負傷者152名。それが昨日の襲撃事件の被害人数だ。

その内、重傷者の中には意識不明者や腕を切断したものも含まれている。

 

「なんとか、しませんと・・・」

そういう白井の顔には焦りの色が見える。

犯人は明らかに犯行を楽しんでいる。

そして犯行動機もきわめて稚拙だ。

一連のジャッジメント襲撃事件も、最初の襲撃事件で手痛いしっぺ返しを受けた為の幼稚な報復だ。

こういった手合いは、近いうちに犯行がエスカレートする。

最悪の結末を迎える前に、犯人を捕まえる必要があるのだが・・・・

 

「・・・この事件は、とても奇妙だわ。負傷した152名に聞き込みをしたけど、

すべてが同じ答え。突然パソコンから放電現象が起きたかと思うと、

いきなり物が壊れたり、何かに殴られたり・・・・

犯人は視覚阻害(ダミーチェック) の能力者と考えるほうが妥当かしら・・・

でも、そうすると犯人はレベル3以上の能力者ということになるし、放電現象の説明が付かない・・・」

「・・・・・・」

固法に相槌を打つことが出来ない・・・・

固法がこの推理に行き着くのは、この学園都市の常識で考えるならば至極妥当である。

以前の白井なら固法の推理をさらに発展させ、そこから犯人を特定できないかと

試行錯誤していたはずである。

しかし、白井はあの日実際に体験してしまった。

自分達とは違う、未知の能力を。

 

・・・・そういえば彼、広瀬孝一は大丈夫だろうか?

あの日、意識を失ってから一度お見舞いに行ったが、その時はまだ意識が戻っていなかった。

彼に話を聞きたい。あの不思議な能力の事を。

それはきっと、犯人特定の手がかりとなるはず・・・

 

「すッすいません。おくれましたっ。」

はぁはぁと息切れをおこしながら、初春飾利は白井たちに駆け寄ってくる。

よほど急いできたのだろう。頭の花飾りが少し乱れている。

そして、白井に朗報です、とばかりに目を輝かせながら報告する。

「し、白井さん、さっき佐天さんから連絡が入りまして、広瀬さんの意識が、回復したようです!

行きましょう、今すぐ、病院へ!」

「!!」

言うが早いか白井は初春の手を掴むと、固法に向かって、

「すいません。事件関係者の事情聴取に行ってまいります!帰りは遅くなると思いますので

後の方々には説明よろしくお願い致します!」

と言い残して、二人は一瞬でその姿を消した。

「え?ええええ?」

後には事態を飲み込めていない固法だけが取り残された。

 

 

 

 

「・・・・そうか、あれから四日も寝込んでいたのか。」

シャリシャリ、と孝一が寝ているベットの横でリンゴの皮をむく佐天さん。

孝一はその音を聞きながら、佐天涙子から事のあらましを聞く。

孝一自身はてっきり五、六時間意識がないだけだと思っていたのが、四日間である。

それはあの時受けたダメージの深さを物語っていた。

「本当に心配したんだよ、あれからまた意識を失っちゃうし、ぜんぜん目を覚まさないし。」

そう文句を言いながらも、その顔はどこか嬉しそうだ。

 

孝一は知らないが、佐天涙子は孝一が目を覚まさない四日間、毎日お見舞いに来ていた。

周りの掃除をしたり、花瓶の花を代えたり、時には近況を孝一に語りかけたりもしていた。

知らない人間から見たら、そのかいがいしさはまるで意識不明の夫を見舞う妻のように見えた事だろう。

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

陽の当たる病室で、シャリシャリと、リンゴの音だけがする。

しばらくお互いが何も話さない。

そんな空間なのに、居心地が悪いことなどなく、

むしろどこか心地いい・・・。

 

しばらくの間、孝一はそんな心地いい空間を満喫していた。

 

 

 

 

白井黒子と初春飾利が、広瀬孝一の病室へ到着したのはそれからまもなくだった。

 

 

「・・・・こうしてまともに挨拶をするのは初めてでしたわね。始めまして、白井黒子と申します。

先日は敵から逃げる時間を稼いでいただき、本当にありがとうございました。

あなたがいなければ、わたくしたちは、間違いなくあいつに殺されていましたわ。

その点に関しては、本当に感謝しています。

その上で、あなたに協力して欲しいことがあるのです。」

「・・・分かっています。犯人の能力についての事でしょう?僕のわかる範囲で良いのでしたら

喜んで協力させていただきます。」

 

もう、隠し立てはしない。そう孝一は心に決めていた。

孝一の能力は、学園都市上層部からしたらこの上ないサンプルだろう。

もし白井が孝一の能力について上に報告したら、

孝一の存在など瞬く間になかったことにされるに違いない。

その後、どのような生活が待っているのか・・・想像すらしたくない・・・

しかし、それでも・・・

アイツだけはどうしても止めなければならない。

その為にも自分が教えられる情報を提供し、少しでも事件解決に役立てればと、孝一は思っていた。

 

「ご協力、感謝いたします。では単刀直入にお聞きいたします。

広瀬孝一さん。あなたにはこの学園都市の能力者とは異なる、異質な能力をお持ちですね?

そして犯人もそれと同等の能力を持っている。

わたくしの言っていることに、間違いはありませんね?」

「・・・はい。その通りです。」

孝一は素直に応える。そして---

 

カチカチカチカチ

 

「?」

静かな病室に、突然時計の音が発生する。

いったいなぜ?

「僕は、この能力をある日突然手に入れました。理由は分かりません。

本当に、突然だったんです。」

 

ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン

 

今度は蝉の鳴き声が聞こえ始める。だが蝉の姿など、どこにもない。

 

「こっこれは?」

白井が驚きの表情を浮かべ、佐天と初春も絶句する。今、この病室で起こっている

不可思議な現象が理解できないのだ。そしてしばらくして、

この現象を起こしているのが広瀬孝一という少年だということを理解する。

「こ、これが・・・」

「孝一君の、能力・・・」

 

「僕はこの能力をエコーズと名づけました。僕が日常的に聞いている音を

人や物などの物体に貼り付ける事が出来る能力。」

 

パチパチパチパチパチパチパチ!

 

今度はどこからともなく拍手の嵐。

 

小鳥の鳴き声。

時計の音。

車の発信音。

蝉の鳴き声。

猫の鳴き声に拍手の音。

 

 

静かだった病室はいつの間にやら大小さまざまな音が乱れ、雑音の大合唱会が繰り広げられている。

そして孝一が、

「エコーズ、もういい。」

そういうと

 

シーーーーーーーン

 

辺りはまるで何事もなかったかのように、再び静寂が訪れる。

 

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「す、すごい・・・」

初春が感嘆の声を上げる。嘘偽りのない、正直な感想だった。

 

 

 

 

「ほっ本当に、私の横に、そのエコーズ・・さん?がいるんですか?」

「あっ本当だ!なんかグニャグニャしたのがいる!」

「・・・正直、予想以上ですわ・・・いまだに頭の整理がつきませんの・・・」

三人とも、現実を受け止めるのに四苦八苦していた。

無理もない、孝一の能力は学園都市の常識では、まるでデタラメな能力だからだ。

 

 

「・・・以上が僕の知る全てのことです。」

 

孝一は全てを話した。エコーズの能力、容姿、弱点。本当に全てを。

これ以上教えられることは、今の孝一にはない。

 

「僕という存在をどうするのかは、白井さん達にお任せします。

ですが、上層部に報告するのは少し待ってください。

ヤツを、あの犯人を捕まえるまでは・・・お願いします。」

そう言って、ぺこりと頭を下げる。

 

「・・・ひとつ、あなたは勘違いなさっています。」

それまでエコーズの存在をいまだに受け入れらなかった白井だが、

孝一のこの発言で決意を固める。

「わたくし達は、あくまでジャッジメント第一七七支部襲撃事件の被害者である

広瀬孝一さんに、事件の詳細についての事情聴取を行っていたに過ぎませんわ。

そして一連の事件について、あなたは無関係だったという事が確認できました。

初春、そうですわね?」

「はっ、はい!そうです、そうなんです!確認できちゃったんです!

広瀬さんは事件とは無関係なんです!」

初春がぱっと明るく笑う。

「よかった!よかったね!孝一君!」

佐天涙子もまるで自分のことのように喜んでいる。

 

「いいん・・・ですか?」

そうおずおずと孝一は尋ねる。

「あなたの人となりは、これまでのわたくし達への接し方から分かったつもりです。

少なくとも、あなたは能力を悪用するような人ではありません。

ですからわたくしはあなたをシロだと判断いたしました。」

「・・・ありがとう、ございます・・・」

胸が、熱くなる。

このような能力を見せ付けられたら、気味悪がるのが普通である。

しかし、佐天達はそんな自分を受け入れてくれる。

それが、とてつもなくうれしかった。

 

 

 

 

 

 




エコーズの存在を佐天さん達に認めてもらう回です。
前回あれほど威勢のいいタンカをきった美琴おねえさまは
今回影も形もありません。
理由は病室での佐天さんと孝一君のシーンを入れてしまったから・・・
どうしても入れたかったんです。リンゴをシャリシャリしたかったんです・・・

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