広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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炎熱の終焉 ―孝一編その⑦―

 落下していく。

 サルディナさんを抱えながら

 下へ、下へと落ちていく。

 

「ニガザネェエエエ!!」

 

 上空ではデクの声。

 そしてともに落ちてくる破壊され、溶け出したコンクリートの一部。

 このままだと、地面に激突し、ただではすまない。

 

「act3!」

 

 act3を出現させ、僕の体を支えさせる。

 各エコーズには飛行能力が備わっている。

 エコーズの中で一番パワーがあるact3なら、落下の速度を減速させられるはずだ。

 案の定、重力の法則に従い落ちていくだけだった僕達の体が、そのしがらみから開放されていく。

 少しずつゆっくりと、まるで気球を操作するように、下へ下へと滑空していく。

 やがて、下方にコンクリートの床がみえ、僕達はその場所へ無事に着地した。

 

 

 サルディナさんを下ろし、辺りを見渡す。

 周囲にはパソコンやテレビなどの家電が展示されている。

 ここは家電製品を取り扱うフロアのようだ。

 

「・・・・・・ううっ」

 

「ぃ・・・・・・・」

 

 周りにはたくさんの人の息遣いと、うめき声。

 このフロアにも、たくさんの人達が、拘束されているようだ。

 

「・・・・・・まずい」

 

 ――しまった。

 僕達がここに逃げたということをデクは知っている。

 当然追ってこのフロアにやってくるはずだ。

 今ここで戦闘になれば、彼等を巻き込むことになってしまう。

 

「サルディナさん! はやくここから――」

 

 サルディナさんの手をとり、このフロアから逃げ出そうとするが一歩遅かった。

 

 ズシィイイン、という岩が地面に激突したような音を立てて、デクが降下してきたのだ。

 

「ガキィイイイイイイ!! おんなぁああああ!! どこいったぁあああああ!!!!!」

 

 デクはあらん限りの声で叫び、僕達を呼ぶ。

 当然その声につられて出て行くほど、お人よしじゃない。

 僕達は近くの家電製品の展示したあるテーブルに身を隠す。

 

「――うぐぇえ? ぉぉぉぉぉおおおお!?」

 

 デクの様子がおかしい。

 体をくの字に折り曲げ、両腕で自分の顔や腹などを掻き毟る。

 そして大量の吐しゃ物を撒き散らす。

 明らかに薬の拒否反応だ。

 もしかして、このまま自滅するのでは? 一瞬、僕はそんなことを期待したがそれは甘かった。

 

「うっがぁあっぁあああああああああ!!」

 

 デクが周囲を見渡す。

 その瞳が暗闇で怪しく光る。

 バチバチといって、周りの家電製品が火花を散らす。

 よく見ると、白い煙が立ち昇っている。

 これは、マズイ。

 上の階の再現だ。

 

 「ボン!」という爆発音が立て続けに三度、起こり――恐らくテレビだろう――その後周囲全てのブラウン管が破裂する音が聞こえた。

 

「うわぁあああああ!?」僕は思わず悲鳴を上げる。

 

 衝撃で、辺りに黒煙が立ち上り、薄暗い店内をさらに黒く染め上げる。

 例えるなら、全てのテレビに、爆薬をセットし、一斉に爆破したような感じだ。

 あまりの爆発の衝撃と飛び散るガラス片に、僕達はたまらず頭を庇い、地面に横ばいになる。

 

「うがぁ!! うごぉぉお!? がぁあああああ!!」

 

 デクは頭部を大量に出血させ、頭を抱えながらフラフラとした足取りでこちらにやってくる。

 そのたびに、周囲の壁や家電製品が火花を散らし爆発し、巨大な火の柱を作り上げている。

 その炎のお陰で薄暗かった店内が限定的に明るくなる。

 周囲を赤く、そして怪しく染め上げながらこちらにやってくるデクは、あまりに異質で、まるで遠い日に見た悪夢のようだった。

 

「――ハァ。ハァ。ハァ。ハァ」

 

 僕は荒い息づかいでこの光景をただボーぜんと眺めていた。

 ひょっとしたら、息をすることも忘れていたのかもしれない。

 ――かなわない。

 素直な感想が出てきた。

 あいつは視界に入る者すべてを焼き尽くす。

 いくらエコーズがあいつに見えないといっても、姿をさらして前に出すことはあまりに危険だった。

 思考する。

 あいつに対抗する方法を。

 

 この状況で使用できるエコーズは2種類。

 act1とact2のみ。act3は論外だ。

 act3の3 FREEZE(スリー・ フリーズ)は確かに強力だが、その反面、射程があまりにも短い。

 攻撃するには射程距離の5mまで近付かなくてはならないからだ。

 今の状況でそれを使うことは自殺行為に等しい。

 となると、射程が長く、直接攻撃が可能なのはact1とact2のみとなる。

 だが、ac1の文字の攻撃は実体に直接的なダメージを与えられるわけじゃない。

 逆にデクが逆上して、あたり一面を灰にする可能性だってある。

 じゃあact2か?

 だけど、それだって完璧じゃない。

 仮に地面にシッポ文字を貼り付けたとしても、デクが必ずしもそれを踏んでくれるとは限らない。

 直接ぶつけるか?

 だけど、果たしてそれでアイツを倒せるのか?

 もし耐えられたら?

 今のアイツの状態だとそれは考えられる。感覚が麻痺して痛みすら忘れている可能性だってある。

 それに攻撃するには、どのみちあいつの前に躍り出ないといけない。

 もし失敗したら?

 

 もし・・・・・・もし・・・・・・もし・・・・・・

 だけど、だけど、だけど・・・・・・

 

 駄目だ。

 どんなに考えても、堂々巡りだ。ネガティブな意見しか出てこない。

 

「孝一! 危ない!」

 

「え?」

 

 サルディナさんの声とともに、凄まじい爆風と、熱線が僕を襲った。

 数秒して、僕達が隠れていた場所が爆破炎上されたことにやっと気が付く。

 

「見ツケタゾ!!

 

 デクと視線があう。

 あいつは親の敵に出会ったみたいな、憎しみと歓喜が入り混じった表情を浮かべている。

 

「――しまった!?」

 

 意識を別の所に巡らせていたせいで、デクの攻撃に対処する時間が遅れた。

 だけどもう遅い。

 アイツの視界に入った以上、僕達に助かる道はなかった。

 

「しねぇええ!!」

 

 デクが絶叫し、その目が赤く光る。

 視界に入ったものを全ても燃やす能力。

 たぶんこれで僕達の体を焼き尽くすのだ。

 後には骨すら残らない。

 

「!!」

 

 僕はとっさにサルディナさんを庇い、その場にうずくまる。

 無駄かもしれないが、せめて男としてこれくらいはかっこつけておきたかった。

 まあ、これから死ぬのにそんな事気にしていてもしょうがないけれど。

 

「・・・・・・っ!!」

 

「・・・・・・っ!!」

 

 そして僕達の体は赤い炎に包まれ――

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・・・・

 

 ・・・・・・あれ?

 なんとも、ない?

 僕はまだ生きてる?

 視界をそっと開ける。

 そこには、信じられない人物が立っていた。

 

 茶髪色の髪をヘアピンで留め、常盤台の制服に身を包んだ少女。

 彼女が懐から取り出したコインを親指と人差し指で弾き、上空に放る。

 そして右腕を真っ直ぐ伸ばし、標的のデクに狙いを定める。

 

「あ・・・・・・。あなたは・・・・・・」

 

 そうだ。僕はこの人を知っている。常盤台のエースで佐天さん達と友達の、そして学園都市に7人しかいないといわれるレベル5の――

 

「――御坂、美琴さん・・・・・・」

 

「くらえええっ!!」

 

 御坂さんが大量に発声させた電気と同時に、コインを撃ち出す。

 コインは高速の弾丸となって、デク目掛けて一直線に伸びていく。

 

 佐天さんたちから聞いたことがある。

 コインを電磁加速により超高速で打ち出す、御坂さんの必殺技。

 御坂さんの通り名。その名は――

 

超電磁砲(レールガン)・・・・・・」

 

 一直線に伸びた弾丸は、このまま光の矢のごとくデクに当たる。

 予定だった・・・・・・

 

「うがぁあああああ!!」

 

 デクの目が怪しく光ると同時に、発射されたコインが巨大な火炎に包まれる。

 爆炎をあげ消滅するコイン。

 煙の中から顔を出したデクは無傷だった。

 

「――相殺、された?」御坂さんの目が驚きに包まれる。

 

「じゃまぉお! するなぁああ!!」

 

 デクが怒りの表情を浮かべる中、御坂さんがすぐに第二投目のコインを打ち上げる。

 でもだめだ。

 あいつの能力を、美坂さんは知らない。

 あいつに姿を見せちゃいけないんだ。

 

「だめだ!? 御坂さん! あいつの視界に、入るなぁ!!」

 

「・・・・・・え? 孝一君?」

 

 初めて僕の姿を認識したのだろう。美坂さんは驚いた表情で僕を一瞬見る。

 でも、今は感動の再会を喜び合っている暇はない。

 僕はエコーズact2をデクの前に躍りださせ、シッポ文字を投げつけた。

 『ドォオン』という文字がデクに当たる。

 大砲の着弾する音を基に造りだしたact2の文字。当たればかなりのダメージを追わせられるはず!

 

「ぐぐぐぐぐぐぎぎぎぎっぎっぎいい!」

 

 倒れない?

 デクは奇声を発生させのけぞるだけで、攻撃をこらえた。

 身体能力が飛躍的にアップしているという話しだったけど、まさかここまでとは・・・・・・

 そして当然、怒りに狂ったデクは、攻撃された方向に向けてやたらめったらと炎をで攻撃しまくるだろう。

 恐らくその攻撃は、エコーズに当たる。

 

「くぅっ!!」

 

 僕は今度こそ死を覚悟した。

 その時だ。

 デク目掛けて、家電製品が飛んでいき、頭にぶつかる。

 

「がぁ!?」

 

 デクは一瞬の不意打ちでバランスを崩し、在らぬ方角を攻撃してしまう。

 誰もいない、廊下側の壁が激しく炎上し、爆発が起こった。

 

「君、大丈夫か?」

 

 助けてくれた人物が僕に声を掛ける。

 それは、高校生と思わしき男性だった。

 

「えっと、はい」

 

 僕は純粋に感謝の言葉を述べる。

 

「気をつけて! あいつ、まだやるきだよっ」

 

 今度は別の、中学生らしい少年が声をかける。どうやらこの子は水流操作(ハイドロハンド)の能力を持っているらしい。少年の足元には大量の水の塊が意思を持ったように動いている。

 彼等だけじゃない、周りには複数の能力者の思わしき人達が戦闘に参加する為にこちらに駆けつける。

 

 これは一体? どういうことだ?

 気が付くと、薄暗かった店内に電気が復旧したのか、明かりが宿る。

 

 

「――何があったかは分からないけれど、キャパシィティ・ダウンが解除されたようね。どこのどいつが仕掛けたかわからないけど 、ずいぶん好き勝手してくれたじゃない」

 

 いつの間にか御坂さんが僕のそばに立ち、嬉しそうに拳を鳴らしている。

 

「孝一君。まさかこんな所であうなんてね。積もる話もあるけれど、まずは――」

 

 御坂さんの体から大量に電気が放射され、バチバチと火花を散らす。

 

「コイツをぶっ倒してからにしましょうか!?」

 

 御坂さんが両手を広げ、電流を周囲に放射する。

 すると同時に大量の家電製品が宙を舞い、デク目掛けて襲い掛かる。

 普通ならこれで勝負がつくところだが、今のあいつは普通じゃない。

 

「ぐああああっ!!!」デクが叫ぶ。

 

 宙を舞った家電製品が次々と爆破され、黒煙を撒き散らす。

 

「!?」

 

 それを見て周囲の人達が一斉にデクに対し攻撃を仕掛ける。

 水流の渦を放ち、バスケットボール大の火の玉を打ち出し、風の力により周囲の物体をぶつける。

 だか、それは焼け石に水だ。

 水流は蒸発させられ、火の玉は飲み込まれ、打ち出された家電製品は溶けて灰になる。

 

「ちぃっ!? それならぁ!!」

 

 御坂さんはむき出しになっていた鉄骨や鉄筋を能力で引き抜き、デクの周囲へと飛ばす。

 大量の鉄骨が一直線にデクを襲う。

 溶ける。

 デクが標的を目視した瞬間、鉄骨が飴の様に溶け、周囲に降り注ぐ。

 かつて鉄骨だったものは「ジュゥ」というこげた臭いを発生させ、水蒸気を発生させる。

 

「無駄ぁ!!むだだぁあああああ!!! ・・・・・・うげぇええええええ!!」

 

 デクの体から発生する煙がだんだんと大きくなる。

 やがて、「ボン」と体から炎が立ち昇る。

 

「あああああ、あがががががが!!」

 

 苦しむデクを見て確信した。

 肉体の崩壊が起こっているんだ。

 このまま、コイツが自滅するのを待つっていう選択肢もあるけど、追い詰められたデクが最後になにをするのか分からない。

 それまでに何人かが犠牲になる可能性がある。

 人死にはなるだけ避けたい。それはデクを含めてだ。

 

 考えろ。

 考えるんだ。広瀬孝一。

 この現状を打開する方法を。

 

 手持ちの備品を見る。

 僕が持っているもの。

 10階で拾った、昔の型の懐中電灯。

 アハドを縛ったゴム紐。

 そして麻酔銃用の(ダート)のみ。

 ・・・・・・これしかないのか。

 

 周囲を見る。

 なにかアイテムが無いか、確認するためだ。

 ・・・・・・ん?

 あれは?

 僕達の後方にダンボールが積まれ、中から商品が顔を出す。

 こいつは!?

 コイツを活用すればあるいは――

 だけどまだ足りない。アイテムが足りない。

 そうだ。

 

「サルディナさん。君、確か――」

 

 僕はサルディナさんに説明する。

 

「ああ、確かにそれは可能だが――。だがどうする? どうやってあいつまで近付くのだ?」

 

「それにはもう1人、協力者がいる――」

 

 

「――もらったぁ!!」

 

 苦しみだすデクを見てチャンスだと思ったのか、御坂さんは地面に散乱する砂鉄を集め、一本の剣とする。

 このまま近接戦闘に持ち込むようだ。

 しかしそれは自殺行為だ。

 それに今回の作戦の要の御坂さんを、ここで失うわけには行かない。

 

「御坂さん。待った!」僕は御坂さんの体を掴み、押しとどめる。「あいつは、その眼に映るものを燃やす能力を持っています。今はその力を薬で底上げしている状態です。正直、近接戦闘はやめたほうがいい」

 

「じゃあ、どうするっていうのよ? このままじゃ、埒が明かないわよ」

 

「いいアイデアがあります」僕は事のあらまし、作戦内容を美坂さんに説明する。

 

「マジで? あたしはいいけど、下手したら、君、即死よ?」

 

 僕の作戦内容に御坂さんは呆れたようにいう。

 だけど、それはここにいても同じことだ。

 だからあえて美坂さんに発破をかけてやる。

 

「あれ? 御坂さん。ちょっとして、自信ないんですか?」

 

「・・・・・・なんですって?」御坂さんの眉がピクっと反応する。

 

「確かに、複数操作って高度な技術ですもんね。美坂さんにはまだ難しかったってことで納得しますよ」

 

「ちょっと、待ちなさいよ」

 

 御坂さんがガシッと僕の肩を掴む。

 

「――言ってくれるわね。いいわよ。やってやろうじゃない。その代わり、死んでも文句言わないでよ」

 

 かかったな。

 プライドの高い御坂さんのことだ、きっと乗ってくるだろうとは思っていた。

 

「大丈夫。死にませんよ。御坂さんがちゃんと成功させてくれさえすれば」僕はにやりと笑う。

 

「なまいきっ。言われなくても、やってやるわよ」同じく御坂さんも同様に笑う。

 

「さて、行きましょう」

 

 僕はエコーズを出現させ、準備態勢をとる。

 

「なんか、この状況って、前にもあった気がしない?」と、御坂さん。

 

 そういえば、スタンドに目覚めて間もない頃、音石と対決した時を思い出す。

 あの時もこうして御坂さん達と協力して敵を倒したっけ。

 

「それじゃ、カウント3で開始するわよ」

 

「はい」

 

「3、2、1。スタート!」

 

 美坂さんの号令とともにデクを倒す作戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

「うっげええええええええ!!」

 

 デクは突然起こった猛烈な吐き気に襲われ、その場に吐しゃ物を撒き散らす。

 これは、あの薬を飲んだときからずっと続いている。

 わからない。

 わからない。

 自分に何が起こっているのか、まったく理解が出来ない。

 デクの体は既に限界だ。

 体内の細胞は死滅し始め、突然与えられた強大な力をもてあまし、肉体が崩壊を始めている。

 このままでは、デク自身が自分の能力で身を焦がし、自滅するのは時間の問題だった。

 だけど、その前に、あのガキと女だけは、始末しなければ――

 

 既にデクの思考はそのことだけで頭がいっぱいだった。

 そういえばあのガキはどこだ?

 少し気分が安定したデクは周囲を見渡す。

 散乱した家電製品2時の方角に、孝一はいた。

 

「あああああああ!!」

 

 それを見た瞬間デクに怒りの感情が沸き起こる。

 あいつを殺す!!

 あいつを殺す!!

 そのことしか考えられない。

 

「!?」

 

 その孝一の周辺に、大量の小さな何かが浮かんでいることにデクは気が付いた。

 小さくて、ぬいぐるみ状のそれは、ゲコ太だった。

 それは、上条当麻がその階層に残したゲコ太のバッグ。通称ゲコバックだった。

 ゲコバックの体内には音声認識用の小型コンピューターが内蔵されている。

 電気を帯びたものなら、美琴は操作可能なのだ。

 そのゲコバックが大量に宙に浮かんでいる。その総数およそ100体。そして一斉に、デク目掛けて襲い掛かってくる。

 あるものは上空から急降下して。

 あるものは真っ直ぐにデクの方向へ。

 四方八方から襲い掛かるそれを、デクは馬鹿にされた気分で見つめ、感情の赴くままに破壊しだす。

 次々と、ゲコ太たちが爆炎の中に沈んでいく。

 

(これでいい。作戦通りだ)

 

 その様子を、孝一は冷静に観察していた。

 

 100体あるゲコ太の内、98体は実はおとりである。

 本命は2つ。

 1つは上空をひっそりと飛行し、デクの背後にある五m先の壁にたどり着いたゲコ太A。

 このゲコ太にはエコーズact2が作りだした文字が貼り付けてある。

 そのゲコ太が壁に触れる。

 その瞬間。大音量で爆発音が発生し、壁が破壊される。

 

「!?」

 

 デクが驚き後ろを振り返る。

 何かが、爆発した?

 一体何が?

 デクには最後までそれが孝一の作戦だとはわからなかった。

 

 生物は、突発的な大音量が後方で聞こえると、思わず後ろの方向を振り向いてしまう。

 それはどんな生き物でも、避けられない習性だ。

 実際、デクもその法則に従い後ろを振り向いてしまった。

 それは時間にして3秒にも満たない短いもの。

 しかし孝一が欲しかったのは、まさしくその時間だった。

 本命のゲコ太B。

 そのゲコ太がデクのすぐそばまで歩み寄り、着ぐるみを脱ぎ捨てる。

 そこには何かを構えるエコーズがいた。

 

(先端部分を破壊し、完全に円柱状態になった懐中電灯。

 それにゴム紐を通し、即席のパチンコを作り出す。

 投射するのはジャックさんから受け取った麻酔銃の(ダート)。そしてサルディナさんから受け取った、眠りの魔術が作動状態の羽根)

 

 孝一は確信していた。

 みんなの力を合わせたのだ。必ず成功すると。

 

 スタンドを見る事を出来ないデクは、目の前に不自然に浮かぶ懐中電灯に必ず反応が遅れる。

 そしてヤツが振り向いた3秒という時間。

 この状況でその時間のロスは命取りだ。

 ――絶対に、当たるはずだ。

 

 そしてエコーズはゴム紐を引き絞り、デク目掛けて一気にそれ解き放った。

 

 

 

 

 


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