広瀬"孝"一<エコーズ>   作:ヴァン

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 侵食

黒妻(くろづま)さん・・・・・・。ちくしょうっ。一体、誰がこんなんなマネを・・・・・・」

 

「そんなの、分かりきってるだろ。ヤツラだよ。能力者の野朗共がやったに決まってんじゃねぇか!」

 

「だけど、黒妻さんには怪我らしい怪我はまったくねぇぞ。一体どんな能力を使ったんだ?」

 

「それは、わからねぇけどよ・・・・・・。俺らが知らねぇ、未知の能力か何かだろ? とにかく、襲った野朗がわからネェことには、どうしようもねぇ・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 病室のベッドで、黒妻綿流(くろづまわたる)は、虚空を見つめている。彼の体に取り付けられた計器類は全て正常に作動しており、彼がまったくの健康体である事がうかがい知れる。しかし、心は別だ。

 黒妻の精神はまったくの空白の状態になっていた。

 例えるなら精神だけを他のどこかへと置き忘れてしまったような状態だ。

 そんな彼が眠っているベッドに、彼の舎弟達が数十人。悲愴な面持ちで黒妻を見下ろしている。

 あるものは下唇をかみ締め、感情を押し殺して涙を浮かべ。あるものは握りこぶしを作り、行き場のない怒りの感情に体を震わせている。

 

「おい。目撃者がいたぞ! この辺りを根城にしている玉美って野朗だ」

 

 舎弟の一人が、病室のドアからすごい勢いで飛び込んできた。

 

「なに!? ホントか? よしっ。そいつんとこに案内しろ」

 

 舎弟たちが怒りの捌け口を探すように、口々に「ぜってぇ、探し出してボコボコにする」「全殺しだ」と息巻き、病室を後にする。

 

「・・・・・・・・・」

 

 誰もいなくなった病室。そこに、1人の男がやってくる。

 その男は虚ろな瞳で虚空を見る黒妻に視線を合わせる。

 

「・・・・・・・・・」

 

 完全に心が抜けた状態の黒妻と、視線を合わせる事が出来るはずも無い。 

 だが、それでも男は無言で黒妻を見やる。

 

「・・・・・・・・・」

 

 しばらくの間。静寂が室内を包み込む。

 やがて、男は黒妻に背を向けると、病室を後にする。

 

「・・・・・・落とし前は、きっちりつけさせるぜ」

 

 去り際に、仲間の敵を撃つと宣言をして。

 

 

 

 

「はぁ~あ。なぁにが悲しくて、こんな朝っぱらから、ゴスロリ女と街中を歩かなきゃいかんのだ」

 

「はぁ!? それ、エリカのセリフだし。なんで朝っぱらからあんたのキモイ顔を見なきゃならない訳。ほんと、ウザイわ。死ねばいいのに」

 

「んだとこら」

 

「なに、やんの? 言っとくけど、エリカ超強いからね。あんた五秒もかからず殺せるわよ」

 

 早朝の通学路を、異様な出で立ちの二人組みが言い争いをしながら歩いている。

 一方の男は頭を金髪に染め、眉毛と鼻、そして両耳に金色のピアスをしている。

 年齢は二十歳くらいだろうか。夏場のこの時期に、アロハシャツに短パンは良く似合っている。しかし完全にそのスジの人間だとはばからない格好は、行く先々で人々の格好の視線の的になっている。

 もう一方の少女は、黒い日傘を差し、頭にはちょこんと小さめの帽子を乗せている。ウェーブのかかった黒髪は、黒いゴスロリ服とマッチしており、それだけで人々の注目の的だ。

 

「なあ」男が少女が引っ張る黒い旅行用カバンを見る。

 

「なによ」少女は、自身の丈の半分程の高さのカバンを、ゴロゴロと転がして、男をジト目で見る。

 

「いつも思ってるけどよぉ。そのカバン、邪魔じゃね? お前の能力なら、そこらへんのものでも何でも仲間にすぐ出来るだろ? 意味あんのそれ?」

 

「いいじゃん。エリカのお気に入りをそろえても。なに? それであんたに迷惑かけた? この金ぴかピアス! 死ねばいいのに」

 

「うわ、ひでっ。そこまでいう。おめぇ。そのうち誰かに刺されて死ぬぞ。マジで」

 

 30分程彼等は言い争いを続け、やがて指定された場所までたどり着く。早朝の公園。その場所に、彼等の依頼主である二ノ宮双葉はいた。

 

「やあ。お久しぶり。真壁さんに、岸井さん。お二人ともお変わり無いようで何より」

 

 小説を読み時間を潰していた双葉は、二人の姿を確認すると、ベンチから腰を上げ、彼等を出迎えた。

 

「べっつにぃ。いいアルバイトがあるってゆーから来ただけだしっ」岸井エリカはツンとそっぽを向く。この態度は彼等に対してだけでなく、在る意味彼女の平常運転なので、2人とも不快に思うことはない。

 

「それで? 電話の話じゃ、人を一人攫うって? いつもみたいに子供を大量に攫うんじゃないのかよ」

 

 隣の真壁竜一がピアスをチャラン鳴らし、大きく伸びをする。

 

「ひっとり!? そんなんでエリカたちを呼んだの!? 何で? なんで? 」

 

 岸井エリカがさも驚いた様子で目を大きく見開き、双葉に訊ねる。

 

「実はね、標的の友人達にスタンド使いが多数いる。これがなかなか手強そうで、僕1人じゃ手こずりそうなんだ。だから君達に協力を頼んだんだ」双葉は「ま、アルバイトのつもりで気楽にやってよ」と最後に付け加える。

 

「ま、俺は金さえもらえればいいけど。そんで、手順は?」

 

「そーそー。てじゅんは?」

 

 2人が双葉に攫う人物と、その手順の詳細な説明を求める。

 双葉は簡単に作戦を説明する。

 

「なるほどね。でも疑問。その佐天涙子っての、あんたの何? そこまでする価値あんの?」

 

 エリカが至極全うな質問を双葉にぶつける。

 その言葉を聞いたとき、双葉の表情が変わる。

 目はどこか翳りを見せ、「ウフフフ」と、薄ら笑いを浮かべはじめる。

 

「・・・・・・大有りさ、彼女が全ての元凶だ。だからそれ相応の罰を与える。どうしようもない孤独の中、死にたいと思っても死ぬことすら許されず、永遠に孝一君に近付いたことを後悔させながら、残りの人生を生きさせてやる」

 

「あんた、前々から思ってたけど・・・・・・。思いっきりイカレてるわ」

 

 双葉の嬉々とした様子を見て、エリカは呆れ顔で、肩をすくめた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・おはよう」

 

「・・・・・・おはよ・・・・・・」

 

 教室に入った孝一が机に突っ伏している涙子に声をかけると、気だるそうな返事が返ってきた。机から起きた彼女の眼の下にはうっすらとクマの様な跡がついている。

 

「まさか、全然寝てないんじゃ・・・・・・」孝一が自分の席にカバンを下ろし、着席する。

 

「そんな事ないよ・・・・・・。全然なんかじゃ・・・・・・。3時間くらいしか眠れなかっただけ・・・・・・」後ろの席の涙子はそう言って、「ふぁあ」と大きくあくびをした。

 

 昨日の出来事は、やはり涙子にとってかなりショックな出来事だったのだろう。考えてみれば、自分が人知れず誰かに恨まれていることなど、これまでの生活で想像すらしていなかったことだ。それをあのように悪意をむき出しにしてぶつけられたのだ。心中穏やかで眠ることなど出来ないだろう。

 実際、双葉が報復に自分のアパートまで押しかけてくるんじゃないかと恐ろしくて、涙子は昨日殆んど眠る事が出来なかった。

 

「・・・・・・何というか。ゴメン」

 

「いーって。いっーって。悪いのはあの娘なんでしょ? だったら孝一君に罪はないじゃん」

 

 涙子が手をひらひらさせて薄く笑う言う。その後再び「ふぁ~」と欠伸(あくび)が出た。

 

「――起立」

 

 授業開始のベルと共に、担当教師が入ってくる。学級委員の号令と共に、教室の生徒が全員立つ。慌てて孝一と涙子も、それに倣う。

 

「――礼。着席」

 

 授業が始まる。教師は早速前回のおさらいとして、簡単な数式をホワイトボードに書き込んでいく。

 その時涙子が孝一の背中をちょんちょんと叩き、小声で声を掛ける。

 

「正直、今は頭の中がゴチャゴチャしてるし、まとまりつかないんで、ちょっと寝たいかも。というわけで、後よろしく~」

 

 そういって机に突っ伏すとそのまま寝息を立て始める。

 

(ほんと、ゴメン・・・・・・)

 

 後ろの涙子にチラリと目配せをして、孝一はもう一度謝罪をした。

 

 

 

 

「おいコラ。玉美! さっき言ったことホントなんだろうナァ!?」

 

 とあるビルの裏側。人通りの少ない路地で、ビッグスパイダーのメンバー達は、玉美と呼ばれた男をぐるりと取り囲んで尋問をしていた。

 玉美はこの辺りで学生を恐喝したり、詐欺行為を働いたりして日銭を稼いでいるチンピラだ。

 昨日の夜。たまたま通りを歩いていたら、1人の女に対して、複数の男達が暴行を働こうとする現場に遭遇してしまったとのことだった。

 

「まあ、なんというか俺もおこぼれに預かろうかなと思いまして・・・・・・。うへへっ・・・・・・」

 

 玉美は下卑た笑みを浮かべ、照れ笑いをする。

 だが男達の誰も、笑うことはない。それよりも早く続きを話せと、無言で威圧してくる。

 それを察した玉美は、「あはは」と愛想笑いを浮かべると、いそいそと続きを話し始める。

 

「あー。それで、ですね。1人の男がその女に抱きついたとたんに、そいつが急に倒れこんだんですよ。その後、驚く男達も同様、地面に急に倒れてしまって。・・・・・・それでですね。その様子がとても奇妙なんですよ。はい」

 

「奇妙だぁ!?」

 

「はい。倒れた男達は、幼児退行っつーのかな。急に赤ん坊みたいに泣き叫んだり、記憶がすっ飛んだみたいにボケーッとしたりで、ほんと、あの現場は一種異様でしたわ。そんで、そんな時に、おたくらのリーダーの黒妻さんがやってきたんですわ」

 

 ”黒妻”という名前で、男達の顔つきが変わる。

 

「それで、黒妻さんも、同じ目にあったんだな・・・・・・。オイ玉美。その女の特徴は!? 詳しく教えんかい!」

 

 取り巻きの一人が巻き舌で玉美を睨みつける。

 

「・・・・・・えーと、ですね。髪は肩まで伸びたセミロングで、髪の色は黒。顔つきはどこか幼さが残るくらいでぇ。・・・・・・あれー? でも、あの顔。どっかで見たような気が・・・・・・」

 

「おい! そこが重要なんじゃねぇか! 思い出せ!」

 

 男達が口々に「はよ思い出さんかい!」「しっかりしろコラ!?」と、がなり立てる。まったくのとばっちりに玉美は泣きそうだ。

 

「うーん・・・・・・。うーん・・・・・・」

 

 玉美はこの状況から解放される為に、脳を総動員して必死に思い出そうとする。しばらく考えた後、記憶の端に引っかかるものを感じ、やがてそれを思い出す。

 

「そうだ! 確か、S.A.Dっていう。電気スタンドの会社だったかな? そこのPVにその女が映っていました。名前は・・・・・・。確か俺とよく似た語呂で・・・・・・。確か、タマ・・・・・・たまお? ああ、そうだっ。玉緒って名前でした」

 

 出るものが出てすっきりといった表情で、玉美は答えた。

 

「S.A.D。・・・・・・これか」

 

 男達が携帯で検索をかけ、ホームページを表示させる。そのメンバー一覧に、玉美のいう女は・・・・・・。いた。のほほんとした顔つきの女が、仲間と思しき人間達と映っている。男の1人が携帯の画面を玉美に見せ、「こいつか?」と確認を取る。画面を見た玉美はコクリと頷き「間違いないっす」と答えた。

 

「場所は、第七学区のビルの・・・・・・。なんだ、近いじゃねぇか」

 

 男達は互いに目配せをすると、玉美など初めからいなかったかのように、ぞろぞろと足並みをそろえて、目的の場所へ向う。

 

「やれやれ・・・・・。やっと解放されたぜ・・・・・・」

 

 残された玉美は、特に危害を加えられなかったことに安堵し、男達とは逆の方向へと歩いていった。

 

 

 

 

「ハァ・・・・・・」

 

 二ノ宮玉緒は、机に突っ伏しため息を吐いた。

 

「ハァ・・・・・・」

 

 もう一度。

 今度は椅子に寄りかかり、天井をボケーっと眺めている。

 

「あの・・・・・・玉緒君? さっきからため息ばかり吐かれると、おじさん気が滅入っちゃうんだけど・・・・・・」

 

 四葉が迷惑そうな表情で玉緒を見ている。さっきから仕事のレポート作成がまったくといっていいほどはかどらない。原因はもちろん、突然オフィスにやってきた玉緒だ。

 

「というか・・・・・・。君、学校は? 今日、創立記念日かなんかだっけ?」

 

「・・・・・・なんか、やる気でなくて、サボったっす・・・・・・」

 

「ええ!? 君、それはだめだろう・・・・・・」

 

「はぁぁぁぁ・・・・・・」

 

 四葉の問いには答えず、玉緒は盛大なため息を吐いた。

 昨日の夜の双葉の言動。

 玉緒にはあれで全てが丸く収まるとはどうしても思えなかった。

 長年一緒に暮らして来たから分かるが、双葉が一度執着した相手に引き下がるなんてありえない。

 きっとどこかで機会をうかがい、孝一を監禁でもするのではないか。そう思うと、とてもじゃないが学校なんかに行ってられなかった。 

 でもその反面。双葉のことをどこかで信用しようと努めている自分がいる。それはやはり、血を分けた肉親だから・・・・・・。心のどこかで、反省をして全うに生きてくれるんじゃないかと甘い期待を抱いてしまう。

 双葉は危険だ。でも、心のどこかでは信じたい。

 そのジレンマに玉緒は悩まされ、身動きが取れなかった。自分はどうするべきか。双葉を信じるのか、信じないのか・・・・・・。

 

「うがぁぁっ」

 

 玉緒がバリバリと頭をかきむしる。その様子を四葉がぎょっとした表情で見ていたのだが、「またいつものことだ」と無理やり自分を納得させ、レポートの作成にいそしむことにした。

 

 

「オイコラァ! 玉緒ってのはお前か!? ちょっと顔かせや、コラァ!」

 

 突然の罵声がオフィスに轟く。見ると、複数の見知らぬ男達が、エレベーターから降りて来た所だった。だがその様子は、とても事件捜査を頼みに来た風には見えない。男達の手には、それぞれ釘バットや、鉄パイプ、角材などが握られ、その風貌も学ランにチェーンを通していたり、両腕に刺青を彫っていたりと、かなりお近付きになりたくない人種の人達だ。

 

「な、なんのようですか?」

 

 試しに四葉はコンタクトをとってみる。

 

「うるせぇ! じじい! てめぇにゃあ聞いてねぇんだよ! すっこんでろ!」

 

「は、はい・・・・・・」

 

 コンタクトは失敗に終わった。

 

「おい(アマ)! お前ぇだ! お前ぇ! 」男が、鉄パイプを玉緒に向け、怒鳴る。「よくも、黒妻さんをやりやがったな。テメェが能力者でも関係ねぇ。この落とし前はきっちりつけさせてやる」

 

「え・・・・・・」

 

 その一言で、直感した。

 双葉だ。

 あいつが、何かしたのだ。

 嫌な予感がする。

 今日という一日が、このまま無事に済むとは到底思えない。

 あいつが、双葉が狙うのはもちろん・・・・・・

 

「――行かないと」

 

 玉緒は自分の浅はかさに後悔した。そして双葉を信じようと思った自分を激しく責めた。

 何をおいても、目を離すべきじゃなかった。

 孝一が、涙子が、危ない。

 

「おい! 無視スンナコラァ! 」

 

 何か玉緒を罵倒するような言葉を発していた男が、何の反応も見せない玉緒に苛立ち、前に歩み寄る。

 

「邪魔しないで下さいっす。友達が危険にさらされているっす」

 

「ああン!?」

 

 男と目を合わせた玉緒は、自分の間合いまで歩み寄ると男に足払いをかける。

 

「んな!?」

 

 男の体がぐらりと揺れた瞬間。懐に飛び込み、見事な一本背負いをきめた。きめられた男は「ぐえ」と声を洩らすと、そのまま意識を失った。

 

「てめぇ!?」

 

 仲間がやられたのを見た男達は、それぞれの武器を手に、玉緒を取り囲み、ジリジリとその間合いをつめていく。玉緒は倒れた男を解放すると、男達と対峙する。

 

「こんな事しといて何ですけど・・・・・・。犯人は自分じゃないっすよ。やったのは、妹の双葉・・・・・・」

 

「ふざけんな!? そんなたわごと、誰が信じんだコラァ!?」男達が口々に、「死ね」や「コロス」などの罵声を玉緒にぶつける。

 

「いいですよ。信じなくても。その代わり、全員ぶっ倒すだけっスけど」玉緒が身構える。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 重苦しい沈黙が、周囲を包み込む。まさに一触即発。ちょっとしたバランスが崩れれば、たちどころに大乱闘に発展するだろう。

 

「待ちな」

 

 沈黙を破ったのは、以外にもビッグスパイダー側の人間からだった。

 それまで男達の背後で事の成り行きを静観しているだけだった男が、一歩前へ歩み出る。

 

「・・・・・・・・・」

 

 男達がその人物のために道を開ける。

 

「おい。姉ちゃん。あんた、さっき友達が危機にとか言っていたな。そしてその件には、あんたの妹が絡んでいる」

 

 男は低い、しかしよく通る声で玉緒にたずねる。この圧倒的な雰囲気。

 この男は周りの連中と違うと、玉緒は本能的に分かった。

 学帽と学ランに身につけた金属の鎖。腰に巻いた二本のベルト。そして何より、190cm以上ある長身と筋肉質な肉体は、見るものを威圧するには十分過ぎる。

 

「そういう認識で間違いないか? ここにいるヤツ等全員をぶちのめす覚悟で挑むほど、大事な用件なんだな?」

 

 再び玉緒に質問する。このえも言われぬ威圧感に、思わず「コクリ」と頷いてしまう。

 

「妹の居場所は。姉ちゃんは知ってんのか」男が三度尋ねる。

 

「・・・・・・たぶん。柵川中学っす」玉緒が素直に答える。理由は分からない。だけど、この男には嘘や隠し事はしないほうがいいと、何故か思った。男は周りの取り巻き立ちに目をくれると「・・・・・・柵川中学か」と短くいう。

 

「じょ、丞太郎(じょうたろう)さん!? あんた、まさか・・・・・・。信じるんですかい? この女のたわごとかもしれないんですよ? 」

 

 取り巻きの一人が丞太郎と呼ばれた男に、慌てて言う。せっかく犯人が目の前にいるのに。といった表情だ。

 

「そいつを判断するのは、このお嬢ちゃんの言っている事が真実か確かめてからでも遅くはねぇぜ。それに、名前と住所は分かってんだ。お前等なら、逃げても見つけ出すなんて簡単なことだろ」

 

 丞太朗が口元を吊り上げ、男達を見る。そういわれれば悪い気はしない。とたんに「そりゃあ、まあ・・・・・・」と口ごもる。

 

「いいんすか? 信じるんすか? 自分のことを」玉緒が丞太郎に声をかける。

 

「別にあんたを信用しちゃいねぇ。嘘だとわかれば速攻で締め上げる。それより、早く案内しな。」丞太郎は帽子を被り直すと玉緒に目配せをして、先導するように促す。

 

「あんたの妹さん。もし噂に聞いた通りの能力の持ち主なら・・・・・・。柵川中学は、今頃大事になっているぜ」ポツリと洩らした言葉を玉緒は聞いた。

 ――たぶん、その通りになる。玉緒は丞太郎達の後を慌ててついていきながら、予感めいた何かを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

「――さあて、はじめようか」

 

 柵川中学の校門前、孝一のいる教室を見上げながら、双葉が率いる2組の男女が校舎に足を踏み入れる。

 

「最終確認だけどぉ。エリカ達は相手のスタンド使いを引き止めておけばいいのね?」

 

「そう。後の細かいことはボクがやるさ」

 

 双葉は自身のスタンド『ザ・ダムド』を出現させる。同時にエリカは黒い旅行用のカバンを開く。

 中には大量の骸骨でできた人形が入っていた。

 

「・・・・・・やっぱりさあ。その人形より、現地のものを使ったほうが効率よくね?」

 

 竜一はそうぼやきながら、スタンドを発現させる。銀色の不定形状のスライムが、ぶよぶよと蠢き、地面を這う。

 

「うるさい『金ピア』。エリカのお気に入りだからいいのー。さあさ、マロンちゃん。ログネちゃん。エンネちゃん――。全員出撃よぉ」

 

 エリカもスタンドを出現させる。頭、両腕、両足に、金のメダルのような物体が装着され、全身が黄金色に輝く、カラフルなスタンドだった。そのスタンドが、髑髏の人形に触れると、とたんに生命を得たかのようにビクビクと痙攣し、やがてゾロゾロと動き始める。

 

「ギギギギギギ」

 

「ウグゴゴゴゴ」

 

「ギシャアアア」

 

 それぞれの髑髏がそれぞれの奇声を発し、目的地を目指す。

 

 

「――なんだ!? 君達! ここは関係者以外立ち入り禁止――」

 

「――うるさいよ」

 

 学校の職員と思しき男が双葉達に歩み寄った瞬間、『ザ・ダムド』の放った触手が職員を切り裂いた。

 

「・・・・・・・・・」

 

 職員はその体から大量のシャボン玉を噴出し、地面に倒れこんだ。

 

「くくくく、佐天涙子。もうすぐ行くからね」

 

 柵川中学校舎内に3人の悪魔が侵入を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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