ULTRAMAN NEXES THE THIRD 作:スマート
よければ感想いただけると嬉しいです。
『その日、地球は再び脅威に晒される』
それは黒かった。地球上に存在するありとあらゆる物質よりも光を呑み込んでなおまだ、輪郭すら見えないそれは誰からも認識されることなく、誰からも触れられることもなく、ただその場にあり続けた。彼、もしくは彼女には意思があった、それはこの生命体が無数に暮らす緑の星『地球』においてどういった活動を行うかと言う問題である。
不定形な自らの身体を蠢かせ、周囲に満ちる光を吸収しながら。自らがこの地球と言う星でどうすれば生きながらえることが出来るのかを思考する。
『THE ONE』は失敗した。地球上の生物を取り込み、自らがその生態系の支配者にならんとして弱小種族だと見下していた民草の怒りを買ったのだ。今やその威風は見る影もなく、肉片となって精々がその場に居合わせた生物を脅かすだけの程度の低い生き物になり下がった。
『THE NEXT』も失敗した。『THE ONE』を追って地球に降り立ち、地球人と呼称される知的生物と融合するまでは良かったが、人格をある程度残してしまった所為で感情という合理性に欠けるものに支配され、あろうことか地球人に協力し『THE ONE』打倒の末に自らも力尽きることになってしまった。
だからこそ思考する。例え間違いであったとしても、地球に降り立ってしまった以上俗に言われる『地球外生命体』であるところの自身は、上記に挙げた二人のように短命に終わる可能性が高かったからだ。地球に置ける対応を間違えれば、いつ自らの身に火の粉が降りかからないとも限らない。二人の生物の死(分離)は、無視できないほど重かったのだ。
彼、もしくは彼女に『THE ONE』のような野心は存在しない。地球の生命を脅かそうという気はないし、まして支配者を気取ろうとも思ってはいない。
彼、もしくは彼女に『THE NEXT』のような善性は存在しない。誰かのためではなく他ならぬ自分自身の生存の為にその力のすべてを使おうとするだろう。
前例は二つしかない。何れも個性も性格も全く違う存在だ。参考に出来るデータなどとれるわけがない。だが、それ以外に頼る物もない以上、彼らの失敗した要素を限りなく排した人格を、彼らの成功した要素を限りなく有したポテンシャルを身に着けなければいけない。それが現状においてもっとも有力な生存方法なのだから。
まずは、彼らの生存を分けた地球人という存在を知らなければならない。彼らと自身は地球外生物以前に種族的なつながりが僅かながら存在していたため、ある程度の知識はお互いに持っていた。だが地球人という存在に関して彼、もしくは彼女は全くの無知であったのだ。
一見弱くも見える辺境の星の一種族だが、『THE ONE』を退け『THE NEXT』を感化させてしまう技量を見るに、彼、もしくは彼女が地球内で活動するに関して無視できない存在であることは確かだった。
「あ…あああ…」
金属をすり合わせたような、声にならない声が響く。身体をすり合わせ空気を振動させること数時間、やがて明瞭なそれへと変化し、地球人と比べても遜色ないような声色を作り出す。近くを通る地球人を観察し、彼ら特有のコミュニケーションである原始的な『会話』を習得しようとしたのだ。だが、話す内容を聞き取り、その声色を再現しようとも文体を未だ理解できていなかった彼、もしくは彼女には『会話』は出来なかった。
ここで『THE NEXT』であるならばお互いの思考を交換、交流するいわゆる『テレパシー』という方法を取るだろうが、地球人という存在が完全に理解できていない状況で思考をやり取りするという愚を犯すわけにはいかなかった。『THE NEXT』がその結果彼らに感化されてしまった以上、彼もしくは彼女もその二の舞になるという可能性が否定できなかったからだ。
だからこそ更に時間をかけて彼もしくは彼女は、地球人を観察することにした。幸いな事に自身の身体は地球人には認識されにくくあるようで、多少多く地球人が集まる場所に近付いた程度では地球人は何の反応も示さなかったのもあり、そのデータ取集はおおむね順調に進んでいった。
「わたし…は…まいご…なの」
未だ片言であり、たどたどしい日本語であったが、それでも意味ははっきりと理解し、相手に通じるような文体の体を保てていた。不定形だった形も人型に合わせ、黒いシルエットの形に変化していた。
そして、彼もしくは彼女は地球人を観察して知っていた、人型の子供は周囲から警戒されにくいと。作られた人型はシルエットの状態から試行錯誤を繰り返し、やがて一つの地球人そっくりの少女の形へと変貌を遂げる。
「わたしは、まいごなの」
一度そうなってしまえば、あとは簡単だったのだろう。地球人の骨格から推測される挙動や仕草を完璧なまでにトレースした彼女はうわ言の様に『地球人をひきつけやすい言葉』をつぶやきながら昼の街を歩いていく。彼女にはサンプルが必要だった、どれほどうわべを取り繕うとも中身は不定形でしかない存在だ。それが自身の考えで地球人に限りなく似せることが出来たと判断したとしてもそれは、自己満足にしかならない。自身がどれほど地球人としての体を保っているかそれを実地で試すしかなかったのだ。
「わたしは、迷子なの」
街を歩く途中で見つけた雑誌や書籍、テレビから必要な情報を抜き出しながら、彼女はいかにも薄幸そうに唇をかみしめ涙腺を緩ませ周囲の大人たちの気を引こうとする。だがあくまでも初実験、彼女自身悪戯に注目を集めることは避けたかった。故に彼女は自分の姿に近い子供が多くいそうな『学校』の付近で初めてその姿を人前にさらす。
光を呑み込むことで黒一色に染め上げていた体表から、光を解放することで反射が行われ彼女の外観が明らかになる。薄い絹の様に白くきめ細かい肌に、漆のような光沢を放つ黒い長髪、そして余りにも整い過ぎた顔立ちは、非現実的でまるで人形のようにも見える。
そこへ一筋入った薄紅色のぷっくりとした唇は、白い肌に輝くように生え何処か艶めかしい。ある程度童顔に調整し直されているとはいえ、日本人の男性が見れば10人中10人は振り向くだろう顔立ちだろう。
反対に衣服はそこまで奇をてらったようなものではなく、使い古されたサイズの合っていないTシャツとズボンだった。美しい顔立ちと、それに似合わない薄汚れた衣服、この組み合わせは地球人の『庇護欲』を刺激する。つまりは捨てられた子犬を思わず拾ってしまうような、地球人の方から接してくれるような恰好をとったのだ。彼女が自分の姿を作り出す過程で、地球の雑誌を大いに参考にしたであろうことが窺えた。
そしてその容姿を使い、大人であれば上手く躱し、子共相手であれば、この数日で身に着けた知識で巧みに誘導し必要な情報を得れるという確信が彼女にはあった。同じ子供の姿を取ったのはそれも理由である。
「おかしい…へん…こども…ない?」
だが一つだけ彼女の犯したミスはと言えば、現在その日その地点は特殊警戒区域に指定されており、周囲の子供や大人は全て避難しているという事だった。彼女は自身に必要な知識のみを取り入れている傍ら、そのほかの情報は現状では必要ないと切り捨てていた。そうでもしなければ人型となり知能も人並みとなった彼女の情報処理能力では追いつかなかったのだ。
不定形であれば考えずとも出来たことが、『人型を保つ』という役割に身体の機能を裂いてしまっている以上知能が落ちるのは当然といえた。それでも地球人と話す分には何の問題もなかったが、こと地球(未知の惑星)で未知の状況に偶然にも陥ってしまった時、対処できるだけの判断力は持ち合わせていなかったのだ。
その類を見ない慎重さと、敵を作りにくいステルス性を帯びた黒さの所為で、今まで外敵にさらされることなく過ごしてきた彼女が、『避難』とよばれる概念についてよく理解していなかったのも原因だろう。
生物的な脅威にさらされたのは、この地球が初めてなのだ。
昨日まではたくさんいた子供たちが、今日は何故か休日でもないのにいないなと彼女が疑問を覚えた。この地域での特別な行事、地球人の大まかな生活習慣を把握していた彼女は、昼間の学校付近に人の気配が一切無くなっているのを見て思わず立ち止まる。
「これは…におい…?」
何かリサーチ出来ていないものがあったのだろうか。例えば年に一回という極めて少ない頻度で起こる、地球人の行事という可能性。でそういった無数の可能性を考察し始めた彼女は、そこでふとどこからか漂う刺激臭に顔をしかめた。
まがい物ながらも地球人の姿を模っているからこそ感じ取ることが出来たその臭いは、彼女はまだ知らない事だが、主に医療現場にて使われるような薬品の臭いだった。鼻がむずむずするという未知の感覚に悩まされつつも彼女は、その臭いを特に関係の無いものだと判断してしまう。
いずれにしてもこのままでは、自身の姿が正しく地球人の体を成しているのか確かめることも出来ない。場所を移動しようと彼女が再び足を動かそうとしたその時、誰かに手を掴まれたのだ。突然の事に彼女は動揺するも、身体のざわめきを何とか抑え込む。
「おい、子供がこんな所で何してる!?」
酷く焦った様子の声に、疑問を感じて振り向くと黒い革ジャンを着込んだ短髪の男がそこに立っていた。それは彼女が待ち望んだ地球人との邂逅だった。
移動しようとしていた彼女は、男に引かれるままに足を止めて、もう一度自分の身体に問題がないかを確かめる。動揺して少しでも少女の形が崩れていたらそれは、地球人を観察するどころの話ではないからだ。
「此処がどんな場所かわかってるのか!警報は出てたはずだ……くそ、迷い込んだのか?おい、お前家はどこだ?親はどこにいる?」
何時間も炎天下にいたのか日焼けした顔に汗を流しながら男は、彼女の手を引いてこの場から連れ出そうと掴んだ手を引こうとする。だが、彼女にしてみても、言葉は理解してもこの男が言わんとする意味が分からないのだ。
普通の子供ならば、意味が分からないままでも、その雰囲気から何かを感じとって男についていっただろう。
彼女の頭ともいえる不定形の中で『警報』『迷子』『親』といった単語の羅列がもやもやと通り過ぎていく。何か焦っている事は彼女にも理解できたが、それがどういう事なのか分からない以上彼女は、見ず知らずの地球人に流されたくは無かったのだ。
彼女の中には地球人は『THE NEXT』を絆させた(洗脳)者としての印象が根強く残っている。言ってしまえば彼女は、迂闊に地球人に関わり過ぎる事で起こりうる、地球人に洗脳されるという事態を警戒したのだ。
望むべくは、まず近くで地球人と話して見る事……それ以上をいまはしてはいけない。何故なら、彼女はまだ地球人という生命体のすべてを理解したわけではないのだから。
手を引かれても彼女は一向に動こうとしない、その仕草に彼女が身構えていると勘違いしたのか、男は苛立ちまぎれに、彼女の肩を掴んで揺り動かす。だが、彼女はその行為に地球人のコミュニケーションは、『会話』の他にこういった他者とその接触を伴うものなのだろうかと見当違いの考えをしてしまうのだ。
「…あなたは…だれ?」
「俺は准だ。それよりお前の親はどこにいるんだ、迷子にでもなったのか?悪い事は言わない、早く此処から逃げろ」
准と名乗った男は、彼女の言葉にハッとしたように肩から手を離し、警戒させちまったかと呟いて彼女の目線に合わせてしゃがみ込む。そして乱暴だが、ゆっくりとした口調で言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。その間にも何かに警戒しているように常に周囲に視線を向けるのは、何処かそういった経験を積んできたかの様な歴戦の雰囲気を感じさせる。
だが、先ほどと一転してまるで子供慣れしているかのような口調は、本質的は子供でも、まして地球人でもない彼女には響かなかった。
「わたし…に…なにか…のぞむ?」
避難警報の意味も理解できなかった彼女には『逃げる』という言葉が、意味がわからなかった。取りあえず何処かへ行こうというのだろうとは理解できたが、それ以上は少ない処理能力では判断できない。だからこそ彼女は、直接『准』に自分に何をしてほしいのか問うたのだ。それが的外れな問いだとしても、今の彼女にはそれが精一杯だった。
「のぞみだぁ?何かのごっこ遊びのつもりか、悪いがそんな状況じゃねぇんだ…早く逃げろ!わかるな?ああ…くそっ…きやがった!!」
彼女と准が押し問答を繰り広げている時、突如として彼女と男の目の前にそれは飛来した。
それは一言で表現するならば「ウミウシ」。だがそれは図鑑に載っているどのウミウシよりも巨大で醜悪だった。疱瘡のように膨らんだ疣を全身に身に纏い、赤黒い触手を手足の様に伸ばしている薄紫色の姿は、ウミウシと言うよりも巨大な肉塊と言った方がわかりやすい。
空中から叩きつけるように落ちてきたそれは、襲うべき獲物を見つけたと思わず耳を塞いでしまいそうな金切り声をあげ、ウミウシ状の胴体の中心が裂け、そこから触手を無数に伸ばし始めたのだ。
彼女を軽く覆い隠してしまえるほどに大きな巨体は、ゆっくりとだが確実に歩幅を狭め近づいていく。だが彼女はそんな恐怖を煽る場面において何の動作もなくただ生物を見つめているだけだった。懐かしい、そんな感情は彼女には存在しない。彼女が気になったのは、目の前の生物がかつて地球に飛来した『THE ONE』と似た波長を纏っていたことである。
見た目は明らかに違う、身体構造もその動きも、臭いであってさえ同じものは一つとしてない。だが、地球の生命体からは感じる事の出来ない同郷を同じくする者が持つ独特の波長。それが目の前の生物から何故か感じられたのだ。
『THE ONE』はもういない。死んだと表現するよりは、肉片となって散らばったと表現する方が正しいが、その規模はアメーバ程度のごく小さな生き物になっていたはずだった。少なくとも過去に彼女が観測した限りでは、特に命の危険を感じるほどの大きさの生物ではなかった。
そこで彼女は一つの答えにいきついた。それは『THE ONE』の持っていた特性である。地球外生命体には地球人が予想しえないような能力を保有している存在が多くいる。その中でも『THE ONE』は他の生物を取り込み自身へ反映させる特別な力を持っていたと。
カラスやネズミを取り込み、その特徴を反映させ地球人の言うところの『悪魔』の様な姿になった『THE ONE』を思い浮かべ、彼女は目の前にいる生物が『THE ONE』のその特性を引き継いだまま、明確な意思なく獣の様に動いているのだろうと辺りを付けた。
『THE ONE』の置き土産とも言うべきか地球人にとっては迷惑極まりない代物であるが、彼女にとっては脅威足り得ないものだった。むしろふってわいた『THE ONE』の肉片をサンプルとして手に入れることが出来るこの状況を好機とさえ感じていた。当時東京で大規模な戦闘を繰り広げた『THE ONE』の死骸は何故か綺麗に処理されてしまっていて彼女は、手に入れることが出来なかった為だ。
こうして変異してしまっている以上明確な死因を特定することは困難だったが、それでも地球人と接する上で必要な情報が得られるかもしれない。特に『THE ONE』が蓄えているであろう情報に彼女は、非常に興味をそそられたのだ。
出来ることならその情報が欲しい。この地球で生きるために「失敗」したというデータが欲しかったのだ。
『THE ONE』と彼女は多少なりとも面識はあった。「同じ宇宙空間にいるもの」というだけの認識だが、それでも波長さえ分かっていれば姿かたちを変えようとも、認識する事など彼女には容易い。彼女は准がその場に居るのにも目もくれず『THE ONE』の肉片へと一方的に波長を送り付け交流を図ろうと腕を伸ばす。
「もう追って来やがったか……おいガキ、俺から離れるなよ!」
「なぜ……っ?」
だがその手は、彼女の前に立ちふさがった男の背中によってさえぎられてしまう。
何度も彼女の邪魔をする男に対して不満の言葉をぶつけようと口を開いた彼女だったが、男が手にしていた赤い光が瞬く白く細長い筒を見て言葉を飲み込んだ。
そこから漏れ出す波長も、彼女がよく知るものだったのだ。
「……ねくすと」
『THE ONE』よりも彼女が警戒していた存在、その事実に彼女は思わず一歩後ろに下がる。男とその波長の持ち主にどのような繋がりがあるのか、いずれにしても彼女にとってあまり芳しいものではなかったからだ。
地球人に接触は出来たものの、嫌な波長までおまけについてきたのは、いただけない。予想外に起こった戦闘をもう少し観察したいという欲求もあったが、彼女は身の安全を天秤にかけるつもりは更々なかった。
怪物と男が戦っているのを幸いと此処から離脱した方が良いと考えた彼女は、そっと男の背を後にするのだった。
男との出会いは偶然だったのかもしれない。だが地球に降り立った彼女が一番初めに出会った相手が、彼だったと言うのは。そして、立て続けに出合うものが怪物だったというのは……偶然で片付けてしまうには、いささか出来過ぎていた。
まるで何かに導かれるかの様に、その因果に誰かの意思を感じずにはいられない。
物語は佳境へと進む。
仕事が落ち着いて久々の小説投稿はいささか疲れました。
他のも疎かにしていますが、日が経ちすぎてしまった為リハビリもかねて、取りあえずはこちらを優先に進めさせていただきます。