Fate/EXTELLA Liner 無銘と新王と万華鏡の魔法少女   作:ノラネコ軍団

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サバフェスのひろやま先生の限定礼装いいですよね。
ルヴィア主役の悪役令嬢モノパロとかぜひ本編も描いて欲しいところ。
絶対ひどいことになる(確信)


第10話 遠坂との契約/ガールミーツガール・アフター

 根本的な話をするなら、だが。白野とアーチャーに睡眠は必要ない。

 食事もしなくても最悪何の問題も無い。

 なぜなら二人はムーンセルにおいては情報の塊であり、この世界においては魔力で構成された疑似的な身体だからだ。存在の在り方、と言う意味ではサーヴァントに近いだろう。

 そうなると魔力を供給する元が必要となるが、彼らの場合、魔法のケータイによる並行世界からの無限の魔力供給と、ムーンセルからのパスが両方通っている。

 

 この世界は認識宇宙だ。地球と言う惑星に、人間と言う霊長類のためのテクスチャ、人理が貼り付けられることで今の世界を構成している。

 いわば彼らの在り方はセラフという環境に適したデータを、地上の人理テクスチャに持って行って無事なように変換したもの、と言ってもいいかもしれない。

 

 そういうわけで、別に宿を無理に取る必要はないのだが。それはそれとして、岸波白野は人間としての生活リズムを持っていて、アーチャーも彼女はなるべくそれに従って生きた方がいいと考えている。

 セラフにおいてすら、必要のない食事をみんなして取っているのである。精神衛生上、必要なことと言えるだろう。

 

 だから遠坂凛の申し出を受けて、一晩、泊まらせてもらうことになったのだが。

 

「とは言っても、いつまでもお世話になるわけにもいかない」

「道理だな。なんとかして私たちの拠点を築く必要があるだろう」

 

 遠坂邸の一室。屋敷全体から歴史を感じられる造りで、この室内もやや時代がかったものを感じる。

 部屋のしつらえからドレッサーやベッドと言った調度品まで、すべてが貴族の邸宅のようだった。

 

 時刻は早朝6時。普段よりも少し早起きして今後の指針を軽く話し合うことにした。

 アーチャーが霊体化して確かめてみたところ、遠坂はまだ寝ているようだった。

 まず当面の問題は活動資金について。

 

「アルバイトでもしようかな」

「学生が稼げる程度は知れているだろう。かといって今の私が働ける場所があるわけでも無し。そもそも、だ。私たちの目的はあくまでアルテラの捜索だろう。そんなことに時間を割いていては本末転倒だと思うがね」

「……そうだけど」

 

 ではどうすればいいのだろう、と白野は思案する。

 彼女はこれまで地上に出たこともないし、働いたことも無い。

 お金というものはエネミーを倒せば湧いて出るものだが、ここでそんなことを言ってはゲーム脳呼ばわりされるのがオチだろう。

 

「背に腹は代えられん。ここはムーンセルの演算能力をもってちょっとしたズルをするのも止む無しだろうな」

「でも、違法なことをするってのも気が引ける」

「何、犯罪に手を染めろとは言っていない。チートを使うにしろ、非合法ギリギリな範囲内ですればまだマシだろう」

 

 例えばムーンセルの演算能力を用いて各所にハッキングし、戸籍を準備する。

 今後の株価について予測し、銘柄を購入する等々……

 

「もっとも先立つものは必要になるからな。そこについては若干、失敬させてもらう必要がありそうだが……」

「とても正義の味方らしからぬ発言だね」

「何、募金と思いたまえ。一つの口座からいきなり数百、数千万を失敬すれば問題が起こるだろうが、一つの口座から10円、20円と失敬し、それを数百万人からもらうという形にすればそこまで大きな問題にもなりにくい。それを元手に増やしていけばいい。当面の生活費を稼ぐ緊急手段だ」

 

 ああ、そういえばこの人の属性は秩序善じゃなくて中庸中立だったな、なんてことを思いつつ、とは言え対案も出なかったのでそうすることに決めた。とかく、アルテラを探すことが先決なのも確かなのだった。

 

「……それで、アーチャー。クラスカードのことはどう思う?」

「ふむ。英雄王はあの呼符とかいう魔術礼装がアンカーとなる、といっていたのだな?」

 

 そうだ、と白野は頷いた。

 英霊(ゴーストライナー)と接続できる魔術礼装。これがアルテラのいる場所へつなげてくれる、と。

 

「英雄王の言を信じるなら、アルテラが巻き込まれた何事かとクラスカードは関係していると考えるべきだろう」

「やっぱりそうだよね」

「ああ。それにしても英霊を呼ぶ、か。君も先ほど言っていたが」

 

 主従の頭にある言葉が浮かんだ。

 ――――聖杯戦争。

 七騎の英霊を呼び出し、最後の一騎になるまで争わせる儀式。

 それに対して英霊を宿した七枚のカード、という方式は何か近いものを感じさせる。

 

「冬木の聖杯戦争は様々な幹において派生した儀式を生み出している。君の知っている月の聖杯戦争もセラフが観測したそれがベースとなっている。だからこれも聖杯戦争のひとつの派生、と考えられるかもしれん」

 

 もっとも、冬木式聖杯戦争の形式にも元となった儀式がある。魔術世界において七と言う数字は重要な意味を持っている。必ずしも聖杯戦争が元となっている、とは言い切れないのも確かだった。だが。

 

「……あの、蒼いカレイドの魔法少女」

「えっと、美遊だったっけ?」

「ああ。君が聖杯戦争、という言葉を言った時、彼女の表情がわずかに変わった。まるでその言葉を知っているかのような、あるいは忌避するかのように」

「彼女は聖杯戦争を知っているってこと?」

「その可能性は高いだろう。マスターだったのか、関係者か。・はたまた――――」

 

 聖杯戦争には掛けられるべき聖杯が必要だ。アーチャーの記憶の底、もはや記録にも近い、ある正義の味方の思い出が告げてくる。

 聖杯とは、必ずしもモノである必要はない。魔力を貯め、願いを集約させうる器であれば。

 ――――冬の城の少女の姿がアーチャーの脳裏に浮かぶ。

 

「そういうことだ。彼女について注意を向けておく必要はあるだろうな」

「わかった。彼女は要チェックということだね」

「ああ。ひとまず、今後の指針はこんなものだろうな」

 

 時計を見れば七時前。遠坂は学生の筈だからそろそろ起こさねばならない時間だろう。

 彼女が起きる気配がないので、ふたりで遠坂を起こしに行くことにした。

 

 

 彼女の朝の弱さは相当なものだった。まず起こしても起きない。「ちょっとまって」を繰り返し、一向に布団から出る気配が無い。

 昨日は遅かったから仕方がないかもしれない、と白野は思った。

 アーチャーは「キッチンを借りるが問題ないか?」と遠坂に聞き、言質を取ると嬉々として向かっていった。恐らく朝食を作っているのだろう。

 

「はぁ……」

 

 白野と凛は今のソファで向かい合って座っている。

 ため息をついて寄りかかる遠坂を見て、月の聖杯戦争で知り合った友人のことを思った。

 

 ―――わたしは、彼女を殺した。

 遠坂を見て罪悪感のひとつでも浮かんで来ればよかったのだけど、どうもそうはなっていない。むしろ、懐かしさまで出てくる。記憶がおぼろげで実感が薄いから、だろうか。だとしたら懐かしさももっとおぼろげであることが自然だろう。

 

 彼女は単純に、遠坂のような人間が好きなのかもしれない、と思い至った。

 

「ちょっと、なにジロジロ見てるのよ?」

「……いや、なんでも」

「そういえば気になってたんだけど。あんた、なんで私の名前を知ってたわけ?」

「それは―――」

 

 昨夜……正確に言えば今日の早朝。白野は彼女を見て、つい「遠坂」と呼んでしまったのだった。

 どう答えるべきか、白野は迷う。

 ―――わたしはあなたのことを前から知っていた。

 ―――わたしは来世のあなたと縁がある。

 ―――実はわたし、超能力者で。

 白野が考えついたのはどれもストーカーかさもなくば電波人間と言って差し支えないものばかりだ。今出た選択肢は却下して、ここは正直に言おうと思った。

 

「……海外で、遠坂という人と会ったことがある」

「海外で?」

「そう。あなたとよく似た魔術師だった。本家ではなくて、分家だって言ってたけど」

 

 聖杯戦争のおぼろげな記憶。断片がまるで欠けたパズルのように頭の中に刺さっている、と言う感覚。そのピースのひとつ。

 文脈や流れは正確に思い出すことは出来ない。だけど、大切だったという気持ちだけは残っている。だから、忘れていないのだろう。

 

「わたしは彼女と友人だった」

「……そう」

「だから、馴れ馴れしくしてしまったと思う。ごめんなさい」

「別に構わないわ。そういうことなら納得がいく。父さんが海外に行ってた時期は長かったみたいだし、そこで現地妻くらい作っててもおかしくないものね」

「私がいうのもなんだけど……それ、嫌じゃない?」

「別に?魔術師は根源にたどりつくことを使命とした一族よ。父さんはそうするべきだと思ったから子を為したのだろうし。……まぁ、ショックじゃないっていえば嘘じゃないけど。でももう死んだ父さんに、今さら文句を言ってもね」

 

 白野は「彼女はやっぱり強い人だ」と笑みを浮かべた。確かに別人だけど、面影がある。ドライだけど、どこかに優しさを隠し切れない。そんな人柄。何せ昨夜であったばかりの自分を家にまで泊めてくれているのだ。これから彼女といい関係を気づいていきたい、なんてことを思った。

 

「ふむ、起きたかね、トオサカリン」

「ええ。お陰さまで。というか何それ?」

 

 アーチャーはお盆を二つ、体形の割に危なげなく運んできた。

 片方には食事が乗った皿、片方にはいい香りを漂わせたティーポットとカップが載っている。

 

「朝食だ。トーストと目玉焼き、それと紅茶を淹れさせてもらった。茶葉も食材も勝手に使わせてもらったが」

「本当に勝手だね。勝手知ったる他人の家」

「それもいいわ。使っていいっていったのは私だし」

「だ、そうだ。まぁここはこれで一つ」

 

 アーチャーは白野と凛の前に食パンの乗った皿、目玉焼きとサラダの乗った皿とティーカップを配膳する。

 すかさずポットをかざし、カップへと紅茶を淹れた。アーチを描いて赤い液体が注がれていく。白野は宝石みたいだ、なんてことを思った。アーチャーの手馴れた手つきに凛も感心している。

 

「出た、アーチャーのどこでも紅茶」

「秘密道具みたいな言い方はよしてくれ。なんだその言い草」

「いや、戦場でも野営地でも所かまわずお茶入れてるじゃない、アーチャー」

「なに、戦場であるからこそ心の余裕は必要、というわけだ。君の精神安定を兼ねた知恵だよ、知恵」

「ホント、仲いいわよねあんたたち。流石姉弟ってわけかしらね?」

 

 凛は羨ましそうに言うと、カップに一口つけた。

 

「驚いた。おいしいわ」

「それは光栄だ。食事も是非手を付けてくれ」

「……普段は朝食は取らない派なんだけど。作ってもらってそんなこと言うのも

バチが当たるか。いただくわ」

 

 こうしてひとまずは食事ということとなった。

 和やかな朝の時間、二人で皿を空にする。アーチャーは、と言えば「私は後で良い」などと言い出す。彼にとって自分が食べるものと人に食べさせるものには違いがる。

 彼は決して食事を軽視していない。むしろその逆なのだが、自分が食事に加わるということは積極的にはしない。もしかすると、一応友好的とは言え、まだ立ち位置が定まり切っていない凛のことを警戒してのことか。あるいはその奉仕体質の故か。

 白野は「あとで文句言ってやろう」と考えた。

 

「おいしかったわ。ごちそうさま」

「ふむ。お粗末さまだ」

「さて、それじゃ―――今後の話と行きましょうか」

 

 凛と白野たちの間で取り交わされた契約は魔術的拘束を伴う呪術契約、ということになる。しかしその拘束力はセルフギアススクロールほどではなく、違反した際に拘束力を持った呪いが身体を駆け巡る……と言う程度のものである。

 いわば保険のようなものだ。

 白野はその効果を聞いて「大丈夫なの?」と不安そうにする。

 

「そう心配しなくても大丈夫よ。この契約はあくまでお互いの領分をはっきりさせるためのものよ。もっとも、破るつもりがあるってのならこちらもそれ相応の態度を取らせてもらうけど」

「……わかった。なら大丈夫だよ」

 

 建てられた条項は以下の5つ。

 1つ、岸波白野、およびアーチャーは魔術協会から派遣されたクラスカードの調査を行う魔術師の妨害をしてはならない

 2つ、同二名は回収されたクラスカードを許可なく解析してはならない

 3つ、遠坂凛は両名が上記に反しない限り、冬木市での調査活動を認める

 4つ、調査中に得たクラスカードの情報は魔術協会の調査員に報告すること

 5つ、この契約は観測されたクラスカード、そのすべてを回収するまで有効とする

 

「どうかしら?」

 

 主にアーチャーと遠坂が話し合って決めたので、白野にしてみるとどう、と聞かれてもよく分からない。これは良い内容なの?とパスを通じて聞いてみた。

 

『まぁ、悪い内容ではないだろう。特にトオサカリンがこちらの冬木での調査を認める、ということは重要だ。下手な争いを避ける意味でもね』

 

 ―――でも契約の穴を突かれたり、ということはないだろうか

 

『それを言うならこの程度の大雑把な文面、こちら側も突く隙がある。例えばそうさな、クラスカードの情報の報告義務があるが、それも即時なのかという時間の指定が成されていない。それもこちらが知ったとして、相手にばれなければ何の意味も無いわけだ』

 

 白野はそういうことか、と納得した。つまりお互いに牽制しあえる程度の内容だということ。

 

『何、それに万が一この条項がこちらにとって不利になったとしても、こちらには切り札がある。破戒すべき全ての符―――少なくともこれがあれば、最悪の状況は防げるだろうさ』

 

 最後の切り札だろうがね、とアーチャーは苦笑した。そのような状況には陥りたくないものだ、というニュアンスである。

 

 白野は文面を吟味するふりをしながらアーチャーと念話をしていた。会話が終わると、「分かった。これで異存は在りません」と発言する。

 

「決まりね。もっとも締結はルヴィアも同席した状態で行いたいわ。これをたたき台として彼女の意見も容れる可能性があるから、そのつもりで」

 

 とにかく、これで二人は冬木市での活動の自由を得たということになる。

 

 

 

 それから二人は遠坂邸を出ることにした。凛は「今夜、さっそくもう一つのカードの回収に出かけるわ。10時ごろにもう一度、この家まで来なさい」と言っていたので、それまでは地盤固めに使えることになる。

 

 ひとまず二人は今朝話し合った通り、新しい口座を開いてムーンセルを用いたチートを行うことにした。ムーンセルの力を用いれば、データ上、不正の足は付かない。太陽系最古のアーティファクト、強力な演算能力を持った聖杯の異世界最初の使い道が口座の開設と勝手に募金を募る行為だというのは若干情けない。

 

 ただ、これによって当面の活動費は確保できた。捜索にどれくらいの時間がかかるかは分からないが、これも投資を用いて増やしていけば今後の活動も大丈夫だろう、と判断する。

 

「良心が咎めるなら、すべて終わったら募金でもしたまえ。慈善活動だよ。貧困地の恵まれない子供たちを救うのに使うとなれば失敬された人々も文句は言わないだろう」

「……まぁ、募金するか最終的に返すかは分からないけど」

 

 どちらにせよ、彼女たちには目的がある。まずはそれを果たさなくてはならないのだ。

 

 

 

 ひとまず活動拠点として定められたのが新都の冬木ハイアットホテルである。高層階だとやや割高だが、快適な生活は遅れるだろう、ということからだった。

 

「ぶるじょわじーな一室だ……」

「仮の宿だ。今後何かあれば移動することもあるだろうが」

 

 ぼふ、とベッドに大の字になって飛び降りる白野。なんだかこうしておかねばいけない気がしたのだった。

 

「まったく……」

 

 アーチャーも呆れこそすれ、特に小言は言わなかった。年相応に普通にはしゃぐ機会があってもいいだろう、ということなのだろうか。

 だが少年の姿と声変わり前の声で言っても何一つ説得力は無い。ムカつくクソガキが関の山だ、なんて憎まれ口をたたいた。

 

「ふ、君も存外視野が狭いな。見た目で人を判断するべきではないと、あまたのサーヴァント戦を潜り抜けてきた君ならばよく分かっているはずだが?」

 

 その言葉自体がすでに生意気そうな少年感をだしているのだが。

 彼にこれ以上言っても認めることは無いだろう、と諦めた。

 

「それで、これからどうしよっか」

「ふむ。私たちなりに情報収集をするのもいいが……ひとまずは、クラスカード回収に加わるのが手と見る」

「アーチャー。アルテラとこの事件、関係があると思う?」

 

 この世界について一日なので二人ともはっきりした情報は手に入れられていない。だが、今のところ、つながりが良く見えてきていないのが本当のところだった。

 

「ふむ。少なくともアルテラが最後に持っていただろうカレイドステッキにはたどり着いた。一度、機を見てルビーに尋問してみるか」

「カレイドステッキ。少なくともアレは関係してたんだよね。でも、ルビーとサファイアだっけ?二本あるんだし、個体ごとに違ったりするかもしれない」

「それは調べてみないと分からんな。もっとも、聞いたとしてアレがまともに答える未来が考えられんが」

 

 ああ、そうだった、とうんざりした。あのステッキ、かなり性格が破綻している。あらゆることを茶化し、シリアスをシリアルに変えることに杖生を賭けているように見えた。

 

「いっそのことさ、アーチャーが学校に行っちゃうってのはどう?ルビーってイリヤと一緒にいるらしいし。ルビーの監視とイリヤとの連絡、両方とれて一石二鳥だと思う」

 

 まともに取り合わないだろう、と思い軽い気持ちで白野は言った。

 彼女のいつもの悪戯心、悪乗り、というつもりだ。

 帰ってくる返事は「馬鹿なことを」と鼻で笑われるか、あるいはアーチャーも悪乗りで返すか。

 

「ふむ……」

 

 しかしアーチャーは手を顎に当てて何事か考えた。まさか、と白野は曖昧に笑う。まさかそんな、いくら見た目が小学生くらいとは言え、アーチャーが羞恥プレイみたいなことを承知するとは思えない。

 ―――思えなかったのだが。

 

「いいかもしれないな、それ」

 

 アーチャーはにやり、と何かを企んでいるような笑みを浮かべて言う。

 

「その場合は君も、ということになるが」

「……私も?」

「そうだ」

「この背格好で小学生は厳しいんじゃないかな」

「いやそうでなくて。君、昨夜の学校の造りがどんなものだったかは覚えているかね?」

「学校の造り?えっと―――」

 

 なんてことはない。生では初めて見たが、記録上で見た普通の小学校に近かった、と回想した。特におかしなところは無かったと思う。

 

「学校の敷地の隣にもう一つ校舎があったろう?インターネットで少し調べてみたまえ」

「そうだったっけ?」

 

 コードキャストを展開してインターネットにつなげる。アーチャーの言うとおり、穂村原学園は小等部、中等部、高等部がある小中高一貫の私立学園のようだ。

 

「もうひとつ、彼女を起こしに行った時にクローゼットが見えたが、遠坂凛も穂村原の学生のようだった」

「アーチャー、そんなことまで……」

 

 少し気持ち悪いが、いつものことだし話が進まないので無視しておく。

 褒め言葉だと思ったのかふふん、と得意げだ

 

「つまり、君が穂村原学園に通えばトオサカリンとの連絡も簡単につくということになる。それに、だ。オレにとってはこちらの方が大事なんだが……

君も、月海原で学園生活を送ったことはあるだろう。だがあれは極限状態、命のやり取りを伴ったもの。決して普通の学園生活とは言えない。ここでひとつ、同年代の人間とまっとうなモラトリアムを味わってみても罰は当たらないと思うのだが」

「それは」

「何、遊んでいるわけじゃない。オレは小等部で、君は高等部で調査活動を行う。それに学園生活が伴う、というだけのことだ。君に何かあればオレもすぐに飛んでいけるしね」

 

 アーチャーの言ったことは白野にとってとても魅力的で、新鮮な言葉だった。普通の高校生活。予選でもなく、聖杯戦争でもなく。ただ、学んだり友人を作るためだけの学園生活。ああ、それはきっと楽しいだろう、と白野は感じる。

 

「どうだろう?」

「……ありがとう、アーチャー」

 

 心の内側から温かいものがあふれてくる。こんな時でも、彼は白野のことを考えていた。ちょっと過保護なところもあるし、今はかわいらしい少年だが―――でも、彼が自分のことを考えてくれているのはよく分かった。

 

「わたし、学校行ってみるよ」

「……そうか。そうなると、さっそく準備しなければなっ」

 

 とはいえこのやり取り、社会復帰を決めた不登校の生徒と母親の会話みたいではないだろうか、と場違いな感想も浮かんできたのだが。

 

 善は急げ、とでも言うように戸籍の捏造作業が始まった。転居前の住所、転居後の住所、在学記録、各種証明証をでっち上げ、穂村原学園に連絡し転入手続きを行う。

 明日から、というのは普通に考えれば非常識なのだが、幸いなことに私学だったので多少融通も効くようだった。

 アーチャーは転入が決まり、白野も翌日、休日を利用して試験と面接を受ける手筈になっている。

 

「思ったよりもあっさり決まった気がする」

「それだけムーンセルの演算機能が高い、ということだな。もっとも君は聖杯の所有者ということになるのだから、もっと堂々としていいと思うが」

「学校か……」

「なに、感傷にふけっている暇はないぞ。準備すべきものはいくらでもある。そら、新都の商店街まで買い出しと行こう」

 

 張り切っているアーチャーに困惑しつつ、でもそれはそれで楽しみだ、と思いながら彼の後ろについて行った。

 

 

 

 

 美遊が穂村原小に転校してきて、クラスもイリヤも色々揺れ動いていた。初対面は昨日のカード回収の時、ルヴィアとともに現れたもう一人の魔法少女。。

 クールキャラ、なんかすごい学力、美術力、料理の腕前、イリヤにとって特に大事なのは足の速さでまで負けたという事実である。

 小学生にとって足の速さは重要な問題だ。だってそれだけでモテる。モテなくても尊敬されたり一目置かれたりするわけで、まぁそれはともかくとしても、突如現れたもう一人の魔法少女は完璧超人というわけである。

 

 ちょっとしたコンプレックス、あと近寄りがたさ。イリヤは美遊にそういうものを感じ取っている。だから、放課後の通学路、たまたま出会った彼女に

 

『……それじゃあなたはどうして戦うの?』

『その程度の理由で戦うの?』

『あなたは戦わなくていい。カードの回収は全部わたしがやる』

『せめて、私の邪魔だけはしないで』

 

 そんなこと言われてしまうと、理不尽じゃないかとか、ただ巻き込まれたからやってるのになんでそこまで言われなくちゃいけないのか、とか。もう色々ルビーに愚痴とか言ってしまわざるを得ない。

 

『いやーどうなんでしょうねー。美遊さんはイリヤさんとはまた別の方向の魅力はありますが、それにしても若干シリアスがすぎるというか、重いと言うか』

「そうだよ。大体、巻き込まれたっていうのならあの子も一緒じゃない…」

 

 ぶつぶつと言いながら歩みを続けるイリヤ。そんな彼女の帰途に、本日二回目の再開がやってきた。岸波白野とアーチャー、カード回収に乱入してきた魔術師の姉弟(イリヤ視点)だった。

 

「……また?」

「あっていきなりウンザリされるとは。わたし何かしたかな」

「昨日のアレは相当だと思うが」

 

 白野は昨日のシンプルなワンピースとは違って白いシャツとスカート、アーチャーも鎧では無く黒いTシャツとジーパンの上に赤いパーカーを羽織っている。

 

『おや、ザビ子さん。あとアーチャーさんも。お二人はどうされたのですか?』

「ちょっと新都に買い物を。イリヤは学校帰り?」

「はい……それでザビ子さまはわたしに一体どのようなおお叱りのお言葉があるのでしょうか?」

「なんかあったの、イリヤ?」

『いよいよ卑屈さに磨きがかかってきましたね。実はですね?』

 

 ルビーはつい先ほど、イリヤと美遊の間にあったことについて語った。「アニメとか ゲームみたいで楽しそう」と言ったところ、美遊は憤りと共に強い言葉でイリヤに当たったのだ、と。

 

『まぁそんなわけです。わたしはそんなこと考えなくたっていいとおもうんですけどねー』

「はははー…」

 

 イリヤは曖昧に笑いつつ、横目で二人を見る。

 美遊に面と向かってあんなことを言われたのである。面食らったのもあるが、内心ちょっと傷ついてもいる。彼女は少しナイーブになっていた。こんなことを言ったら、二人にはなんて言われてしまうのか、と。

 白野は読めない。美遊と同じように感情が薄そうに見えて、あの名乗りから察するとお調子者なところもありそうだ。

 アーチャーには厳しいことを言われるかもしれない。不思議な安心感と頼もしさ、懐かしさを感じたりもするのだが、昨夜の戦いの様子や語っていた来歴からすると美遊と同じように厳しい性格のように見えた。

 

「別に、戦う理由が薄いことを恥じることは無いと思う」

 

 白野は美遊とは違う、イリヤにとって安心できる返答を返してきた。

 

「そう、だよね」

「うん。わたしも、こういう世界に関わって、戦いを目の当たりにしたりしているけど。最初から強い動機や理由があったわけじゃない」

「……状況が人を作る、ということもあるからな」

 

 アーチャーも口を出す。皮肉げな様子はなりを潜めているので、イリヤを慰めようとした言葉なのだろう。厳しそうに見えて以外と優しい人なのかもしれない。

 だが、白野は言葉を続けた。

 

「ただ―――人によっては強い思いや理由があることもある」

「……やっぱり、そういう理由がないとダメなのかな」

「そうじゃない。ただせめて、理由を持って戦う人には誠意を持つべきだとは思う」

「別に……わたしはミユさんのことバカにしたわけじゃないよ!」

「うん。だからイリヤが魔法少女として戦っていくなら……これからもカード回収に関わっていくのなら。あなたが決して悪意を持っているわけではないと彼女に分かってもらえるまで、彼女とコミュニケーションを取っていくしかないと思う」

 

 そう言った時の白野はとても優しそうで、イリヤを応援してくれているのがよく分かった。

 そういえば、こういう人はイリヤの周りにはあまりいない。リズはちょっとズボラだし、セラは小言がうるさい。ママはあまり家にいない上、いたとしてもちょっと破天荒なところがある。最近であった凛は落ち着きがない。

 白野はそのどれとも違う。等身大で、寄り添ってくれて、でも包み込んでくれるお姉さん、みたいな――――

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、アーチャー。今のわたし、なんかお姉ちゃんって感じしなかった?」

「それを言わなければ君の成長を素直に喜べたんだが……うん、色々台無しだな!」

 

 イリヤとルビーと別れてしばらくしてから、白野はそんなことを言った。正直な話、イリヤの悩みは白野にとっては身近なもの、これまで味わってきたものに近い。

 自分もあんなことがあった、なんて、そんな先輩風をつい吹かしたくなったのだった。

 

「だが、困っているものに自分なりにアドバイスを、というのは良い傾向だろう。君も経験が蓄積されてきた、というわけだ」

「うん。……なんだか放っておけなかったのも本当だし。でも、アーチャーもちょっと優しくなかった?」

「そうかね?」

「うん。普段だったらもっと厳しい言葉を投げかけるか、そもそも彼女に何も言わないというか」

「気のせいだろう。そもそも、いくら私でもあのような子供相手にそんな厳しいことは言わないよ」

 

 首をすくめるアーチャー。答えるつもりはないということだろう。

 白野はちょっと不満に思った。

 

「そんなことより、マスター。ひとまずの買い出しはこれで問題ないな?」

「うん。制服は買ったし、取りあえず後は食事をとって遠坂の家に行くだけだね」

「ああ。今日またクラスカードの回収がある、ということだったが……さて、今度はどんな蛇が出てくるやら」

 

 凛とルヴィアの言葉を思い出す。魔術協会はアーチャーとランサーを先んじて回収していた。昨夜ライダーを回収したので残りは四枚ということになる。

 

「残りのクラスはなんだろう?」

「残りはセイバー、アサシン、キャスター、バーサーカーと考えるのが妥当だな」

「どうして?もっと偏っててもおかしくないと思うけど」

「もしこれが冬木式聖杯戦争の再現なら、クラスの重複はあり得ない。君の経験した聖杯戦争とはルールが根本的に違う。ならば残りは基本クラスと考えるのが妥当だろう」

「……セイバー、か」

「どうした?」

「いや。英霊を呼ぶものなんだよね。アレにアルテラが引っ張られて封印されている、とかあるかもしれないと思って」

 

 アーチャーは少し思案して「その可能性は低いだろうな」と言った。

 

「何故?」

「理由は二つある。ライダーの状況を見るに、彼女はサーヴァントではなく、英霊を現象として再現したもののようだった。そこに意志は無い。あれはサーヴァントの意志を塗り替えているのではなく、意志が存在しないように力を抽出していると考えられる。リンとルヴィアも言っていただろう?あのカードは宝具を人間が使えるようにしたものだ、と。

この考えが正しければ、もしアルテラがカードに引っ張られていたとしても、あの魔術礼装に意識を完全に塗り替えられるとは考えられない。

もう一つはクラスカードがつなげている場所は恐らく英霊の座だろう、ということだ。もしクラスカードとアルテラが繋がったとしても、引き出されるのは英霊アルテラの力であって、新天地にいたアルテラではないはずだ」

 

 まぁ、カレイドステッキによって混線を起こした可能性はゼロではないが、と結ぶ。

 やはりアーチャーはサーヴァントだけあってクラスカードの力を感じ取っているようだった。

 

「ま、どちらにせよ仮説だ。まずは今夜の回収がどうなるかだな。気を抜くなよ、岸波」

 

 もちろん、と頷いた。気合いを入れて、ホテルへの帰り道を歩いていく。

 どのような敵が出てきても、わたしのアーチャーは絶対負けない―――と。

 




ちなみにプリヤ原作での次回サブタイトルは「負けました」です。
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