Fate/EXTELLA Liner 無銘と新王と万華鏡の魔法少女 作:ノラネコ軍団
第1話 岸波さんちの今日のごはん
アーチャー、無銘は悩んでいた。
「くっ……!どうすればいいんだ…!」
脳内ではひっきりなしに計算が渦巻いている。アレではいけない。だが、この手では恐らく満足のいく結果は得られないだろう。さぁ、どうすれば――――
「どうすればアルテラの食育に適当な料理を出せるんだ―――!」
無銘は悩んでいた。岸波さんちの今日の御飯のことでである。
アーチャーが軍神の剣を用い、アルテラをヴェルバーから分離してから数か月ほど。
現在、月の新王の宮殿でネロ、タマモ、アルテラの3人と彼のマスターは一緒に暮らしていた。
女性同士特有のギスギスしたような、かと思えばキャッキャとはしゃぎだす雰囲気に満たされた宮殿は非常に姦しく、賑やかである。
アーチャーはそこで白野の補佐や家事、調理担当などと言った仕事をして日々を過ごしていた。
大変結構なことにここ最近はセラフは平穏な日々を過ごしている。
いつまた次の遊星が襲来するかは分からないが、その日まで英気を養うことは必要だろう。
そこで重要なのは小さくなったアルテラの教育である。
彼女に人間らしい楽しみを味合わせることはマスターも他のサーヴァントたちも一致した目的であり、食事などもそこに含まれている。
そういうわけでネロもタマモも度々料理をしてはマスター、ひいてはアルテラの舌鼓を打たせている。
しかし。
「確かにセイバーのローマの宮廷式料理も素晴らしいものだし、キャスターの和風料理も甲乙つけがたさを持っているが!しかし彼女たちはおいしさや豪華さ、量という点にばかり目が行きがちだ。真に人を思う料理とはすなわち、身体にも気を使い、心身ともに健やかになってもらうことを言う。その点で言えば彼女たちのそれはやや偏りが―――」
「いいんだけどよ、アーチャー。それ俺に店先で言うことか!?」
八百屋で店番でアルバイトをしているランサーに突っ込まれた。
セラフの各階層が解放されたことで、各地にNPCや地上からやってきたウィザード、限界したサーヴァントたちの都市が出来始めている。
そこでは各人が居住するスペースや娯楽施設、こうした食材を取り扱う店も点在しており、サーヴァントの中にはそこで働いてるものも多くいた。
ランサーもその一人である。八百屋や魚屋などあちこちを渡り歩いているのだという。
「何、私は理解してほしいだけだ。いかに私が苦心し、皆の食事を用意しているかをな。いずれ君からもマスターに言ってほしい。セイバーもキャスターも私の言葉は参考にしか聞かないが、マスターの口から聞けばある程度は考慮するだろう」
「なんつーか、女子寮の管理人っぷりが妙に板についてんな……」
「まぁそういうわけだ。で、ランサー。今日のおすすめはなんだね?」
「はぁ……まぁ、このしめじとかどうよ?俺の畑で栽培してみたんだが、最近ようやく形になってきてな」
「しめじ、しめじか……確かにきのこは栄養価も高く、バターと組み合わせて味も見た目も鮮やかな料理にしやすい。ここはほうれん草あたりとバターでいためるか、鮭とホイル焼きにするか、はたまた和風パスタと言う手もあるな……」
「いいからさっさと買えよ!」
結局、アーチャーはしめじを購入した。通貨はQP。かつての聖杯戦争でも使われたセラフのリソースである。一応、彼は月の新王の直属のサーヴァントなのでQPに困ることは無い。とは言え糸目を付けずに使いまくる浪費家でもないのだが。
町を見れば色々な店や人があふれている。中には雑貨屋などというよく分からないものもあったりする。そこでアーチャーは見知った顔を見つけた。
「む」
「おや、貴方は」
紫の無いが髪を持った美女、ライダーだ。真名はメドゥーサ。アーチャーとは色々因縁があり、ヴェルバーの騒動の際にもたびたび衝突していた。だが、目的はセラフの平穏を守ることで一致している。険悪と言うわけでもなかった。
「アルバイトかね、ライダー。そしてそこにるのは、桜くんか」
傍らには聖杯戦争において保健室を担当していた間桐桜がいた。二人はいつの間にか仲が良くなっていたらしく、度々一緒にいる時を見かける。
「どうもアーチャーさん。どうかされたんですか?」
「いやなに。夕飯をどうしようか、吟味しようと商店街を回っていたのだが。偶々この骨董屋に通りがかってね。別に何か用があるというわけでもないのだが」
「冷やかしですか、アーチャー。あなたも随分暇なようですね」
「失礼な。これでも日々マスターの執務の補佐や、やたら騒ぎたがるセイバーとキャスター、それにアルテラの世話など、忙しい日々を送っているとも」
「貴方も変わりませんね。……そういえば、ですが。少し前にアルテラがここまで来ていましたよ」
「なに?珍しいこともあったものだな。何か迷惑でもかけていないかね?」
「そういうことはありませんでしたが。買い物をしていきました。おもちゃのステッキです。いかにも魔法少女が持っていそうな、という」
ライダーは妙に羨ましそうに語った。体系や可愛らしいものが似合う、という点で彼女の容姿はライダーの理想形に近い。
「おもちゃのステッキか。まぁ遊びに興味が出てくるというのは悪いことではないだろうが、無駄遣いをするようなことがあれば大変だな。少し様子を見た方がいいか……?」
「ふふっアーチャーさん、すっかりお母さんみたいになってますね」
「馬鹿なことを言わないでくれたまえ。まぁあれらの保護者みたいなところは確かにあるがね」
そういうアーチャーは妙に満更でもない。桜は「あはは…」と笑い、ライダーは呆れ顔でため息を吐いた。
宮殿についたアーチャーは早速、購入した物品たちと現在残っている食材の情報を閲覧し、献立を計算していく。
量子虚構世界において食事というものは必ずしも必要と言うわけではない。人によっては一切食事をとらない、というものもいるくらいだが、しかし人間と言うのは生活リズムを持っているものだ。睡眠、食事、風呂など、必要でなくてもその生活リズムを整えるために行ったり、あるいは娯楽として行うものもいる。極限状態だった聖杯戦争ですら魔力リソースとして食べ物を再現したものがあったのだから、こればかりは必要か否かではないのだ。
そして、調理についても必ずしもアーチャーが手を加える必要があるわけでは無かった。データベースに蓄積されている料理のデータをもとに、再現したものを出せばいいだけである。だがこれもアーチャーにとっては楽しみであり生活リズムでもあったので、ついつい自分の手で行うことになっていた。そもそも食材を扱う店舗があるということは、この世界で生きている人々に「自分で調理をしたい」という者が一定以上存在することの証左でもあるだろう。
「今日はしめじとツナの和風パスタだ」
颯爽とお盆を2つ手に取ってダイニングに現れたアーチャーは、いそいそと皿を皆で囲む食卓に配膳した。
席にはすでにキャスター、セイバーが座っていた。
「うわぁ、そのドヤ顔!相変わらず妙にうざってぇですねぇ。あ、でも料理は美味しそうです」
「うむ、いつもご苦労であるコックのサーヴァントよ」
「だれがコックか。せめてバトラーと呼びたまえ」
「バトラーはいいんですか、あなた……」
セイバー、キャスター、アーチャーはいつもどおりの呼吸でやり取りをした。彼らは同じく岸波白野のサーヴァントである。軽口や皮肉の言い合いはもはや日常茶飯事だった。マスターは『仲良いよね、みんな』と常日ごろ苦笑している。
「む。そういえばマスターの姿が見えないが」
「そういえば。アルテラさんの姿も見えませんねぇ。そちらセイバーさんは何かご存じで?」
「聞いておらぬぞ?そういえばアルテラは午後から町に出て遊んでいる様子だったが」
3人とも行方を知らない、ということだった。
「このままでは料理が冷めてしまうぞ」
アーチャーがそういうと、マスターがあわただしくダイニングに入ってきた。彼女は息を切らし、そわそわした様子である。
「マスター、どうしたのかね。食事の時間だが―――」
「ねぇ、みんな!アルテラがどこにいるか知らない!?」
白野はアーチャーの言葉を遮った。珍しく取り乱している。
「アルテラがどうかしたのか、マスター?」
「宮殿のどこにもいないし、周りのNPCに聞いても知らないって。もうとっくに帰ってきていてもおかしくないんだけど……」
「それは一大事だぞ、奏者よ!皆で手分けして探そうではないか!」
「まぁ、どこかで道に迷ったとかそんなオチな気もしますが……とかく、探しに行くべきでしょう。アーチャーさんは?」
「無論探しに行くとも。気になる話を聞いていてね。夕飯の買い出しに行った時にアルテラを目撃したという話をきいた」
「え、どこで?」
「ライダーの働いている骨董品店だ。あのあたりを中心に目撃情報を集めるのが適当と見る」
「相変わらずマメな男よな、アーチャー。では奏者よ。まずはその城下町に行ってみようではないか」
そうして白野とサーヴァント三人によるアルテラ捜索が始まった。
始め、誰もが不安を感じてはいたが、それでも楽観していた。
きっと、すぐにアルテラは見つかるだろう、と。
だが、それは大きな間違いだった。四人が力を尽くしてもアルテラを発見することは出来なかったのだ。
セラフの新天地はエクステラで語られた通り、七つの階層が解放され、NPC、地上から来たウィザード、サーヴァントたちによって生活が営まれています。
「NPCってことはサクラもいるんだろうなー。ライダーもバイトしてるっていうし、二人が仲良くしてたりしたらいいなー」なんてよく考えたものです。SN的にも、アルターエゴ的にも関係深そうですよね。
ちなみに彼らがいるのは原作におけるローマ領。
ネロはあくまで副官と言う立場で白野の下にいますが、アーチャーは都市の運営にそこまでこだわりは無いので彼女の好きにさせている、という感じです。
勝手にライブスタジオを建設させない、くらいの口出しはしているでしょうが。