Fate/EXTELLA Liner 無銘と新王と万華鏡の魔法少女 作:ノラネコ軍団
アーチャーは、と言えば無事に魔法使いに会うことに成功した。セラフには地上の街並みが再現されている。
聖杯戦争における月見原学園の教会は日本の地方都市冬木を再現したスペースにそのまま移築されていて、蒼崎青子はそこに残っているようだった。
「あら、アンタ、白野さんのサーヴァントよね?」
扉を開くと赤髪の女性は聖杯戦争の時と変わらず、壇上の椅子に座っていた。
「いかにも。アーチャーのサーヴァントだ。真名はわけあって無いものでね。そう呼んでくれて構わない」
青子は「そりゃどーも」と言うと、アーチャーを歓迎した。
本来、この教会は彼女のものでもなんでもないのだが。
彼女は茶飲み話でもするかのように、しかし、と続ける。
「なんか感慨深いわねー。一番見込みがなさそうなマスターが最後まで生き残って、月の新王とか呼ばれるようになっちゃうんだから」
「その賛辞はマスターにも届けておこう」
アーチャーは協会をぐるりと見まわした。
「蒼崎橙子はいないのか?」
「え?あ、うん。アネキなら目的は果たしたからって帰ってったわよ」
聖杯戦争終わり間際ぐらいでね、と彼女は意味深に笑う。
「それで、今日はどういう要件かしら?まさか魂の改竄ってわけでもなさそうだけど」
「まさか。いまさらステータスを弄る必要も無い」
「そうよね。別にやってもいいけど……やる?」
「やらない。そろそろ本題に入っていいかね?」
アーチャーはカレイドステッキ絡みの話について青子に話した。アルテラは恐らく魔法使いの杖を手にて、その直後に失踪していること。
「うーん……まぁ、遊星の端末が行方不明ってのはこの軸にとってはちょっと困ったことになりそうよね。でも私が出向くほどのことでもないし……なによりきな臭い未来はまだ見えたまんまだし。うーん」
青子はしばし悩んでから、トランクを引っ張り出して中身を広げた。
「それは?」
「あ、これ?件の魔法使いの爺様が作った魔術礼装のお仲間よ。ちょっと前にかっぱらう機会があってねー」
「む、大丈夫なのかそれは。いや、主に制御精霊の人格とかそういう部分で」
「あ、大丈夫大丈夫。精霊は積んでないわよ。これは魔法のケータイで、並行世界から並行世界に電話を掛けられるって礼装なんだけど」
アーチャーはどこかで聞いたことあるなぁ、と冷や汗をかきながら青子の話を聞く。
「これの隠しモードにどうもカレイドステッキと同じ機能があるらしくてね?魔法少女への変身機能があるって話なのよね。私は絶対試さないけど」
「いかにもあの御仁がやりそうなことだが……」
「要するにカレイドステッキで並行世界に飛んだなら、こっちもカレイドの力で並行世界に飛べばいいってわけ。これを使えばあなたもカレイドの魔法少女って寸法よ!問題はちょっと恥ずかしいことくらいだけど……まぁ私が出来るのはこれくらいかしら」
「……マスターと要相談だが。ありがたく受け取っておこう」
「ええ。あ、それとこれは予想なんだけど」
「なにかね?」
「白野さん、魔法少女も似合うんじゃないかしら」
「そういう無責任な発言は魔法使いの特徴なのか!?」
アーチャーは苦虫を噛み潰すような顔で青子を見たが、彼女はあはは、と笑うだけだった。
この手のタイプはまともに相手をしようとするこちらが損をするだけだ、むしろ解決策を一つ貰ったのだから、となるべく自分を抑えながら、教会を後にするのだった。
こうして、作戦は結構されることとなった。すなわち、並行世界にいるだろうアルテラを救い出すため、白野とそのサーヴァントが魔法のケータイを用いてドリフトする、という作戦である。
並行世界に飛ぶ以上、何らかのアンカーが無ければ文字通り、漂流者になってしまうのでは、という懸念もあったがそれもギルガメッシュから下賜されたというカードで解決した。彼の見立ては恐らく正しい。
そして多くの人が不思議に思っていることだが、彼は白野の不利になることは基本的にしないのである。
「しかし信じられんな……ギルガメッシュが君に宝具を渡すだと?」
「契約がどうとか言ってたけど」
「君が嘘をついていないと判断するなら私から言うことは無いが……それで、どうするマスター?」
「何を?」
「並行世界への冒険だ。かの魔法使いのアイテムである以上、身体への危険性は無いだろうが……どんな危険が待っているか分からない。どのサーヴァントを連れていくか、じっくり吟味する必要があると思うが」
「はいはーい!私が行きまーす!ご主人様を守ることから掃除洗濯その他家事、なんなら寂しい夜のお・夜・伽まで♡このキャス狐が最適かと♡」
真っ先に手を挙げたのがキャスター。
「あ、ずるいぞ!余、余はどうだ!何せ余は最優のサーヴァントセイバー!あらゆる面で天才たる余がいれば、あらゆる状況下でも負けることほぼなし、だ!異世界の無聊も余の歌を聞けばあっという間に晴れるというもの。これはもう決まったようなものだな!」
ついで手を挙げたのがセイバー。
「何よ、歌なら私だって負けてはいないわよ!すごいんだから、私の超音波!小鳥たちはあまりのショックに一撃でメロメロ、みんなして地に落ちてじっくり聞きほれていくくらいなんだから。それに子リス?あなた今度は魔法少女になるらしいじゃない。そうなれな私も翼を広げて真夜中のミッドナイトにランデブー……!二人きりの浪漫飛行……!そして二人は愛を囁きあい、錐揉みしながら夜景に溶けていくの……きゃっ子リス、まだキスは速いんじゃないのかしら……」
そして最後がエリザベート。もはや何の勝負か分からない、白野はそう思った。
あと魔法少女になるかどうかはまだ決まってない。
「ネロ、タマモ。二人の気持ちはうれしいけど、私の気持ちはもう決まってるんだ」
「みこんっ!?」
「なんと!?」
「それと、エリザ」
「な、なにかしら」
「何度も出てきて恥ずかしくないの?」
「ちょっと子リス私にだけ当たりきつくない!?それに今回は何度も出てきてないわよ初登場よ!」
落胆するセイバーとキャスター、キレ芸が板についてきたランサーを尻目に、白野はアーチャーに向き直った。
「アーチャー」
はぁ、やれやれ、といった表情で三騎とマスターを見ていたアーチャーは白野の呼びかけにふと気を取りなおす。
「なにかね?」
「私と一緒に来て」
アーチャーは一瞬、不意を突かれたように呆けた。アーチャー自身はそんなことを露とも考えていなかったのだ。彼女がアルテラを救いに行くのなら、このセラフを守るのは彼女のメインサーヴァントたる自分だ、と。
彼女を守ろうとする気持ちはセイバーもキャスターも強い。
強いて自分が行く必要も無いだろう、と考えていたのだ。
だが。彼女はアーチャーを選んだ。無銘の英霊と無名のマスター。
彼女はもう覚えていないが、多くの戦いを共に駆け抜けた相棒だった。
「もちろん。サーヴァント・アーチャー。君の行く先にある、君を害するもの、そのことごとくを打ち砕こう」
言葉はすんなりと出てきた。彼女と共に異世界へと冒険する。それは自分の役割ではない、なんて思っていたが―――なるほど。そういってもらえると存外うれしいものだ、と。
「――うん!」
外野たちは当初こそ文句をぶつけてきたが、やがて仕方がないと(未練を残しつつ)諦めた。
マスターの満面の笑顔を見れば、それ以上、何も言う気が起きなかったからだ。
「じゃあ、後のことはお願いね、ネロ、タマモ」
「うむ。任せるがよい!皇帝としてしっかりセラフを纏めて見せよう!」
「ええ、ええ。私も粉骨砕身、このわがまま皇帝が好き勝手やらかさないか見張っておきますとも」
「ぬう、貴様だって国を何度も傾けた狐だろうに!貴様にだけは言われたくないぞ、キャス狐!」
「え、ちょっとまって。もしかして私の出番ここで終わり!?どういうことなのかしらプロデューサー!?」
「あははは……大丈夫かな」
「まぁ、皇帝ネロは暴君としても知られるが執政官としては非常に人気があったとも伝えられている。政治能力で言えば彼女は手腕を持っているし、キャスターにせよランサーにせよ、君のことを強く思っているのは変わらない。裏切ったりセラフを乗っ取ろうなんてことは考えないだろう。もっともトラブルは何個か侵すだろうが……何かあればこのケータイに連絡が来る手筈にもなっている」
白野は手元のケータイを手に取る。
旧世紀の、いわゆるガラケーと言われる電子機器。
セラフにいる彼女にとってはあまりなじみが無いそれをまじまじと見つめる。
「アーチャー」
「なにかね?」
「私、うれしいんだ。私がかりそめの命であったことを知ってから、地上にいる誰かのコピーであることを知ってから。ただ自我を持ったに過ぎないNPCだって知ってから。セラフの外に出て、広い世界を見ることができるかも、なんて考えたことが無かった」
「……」
「でもそんな旅を、アーチャーと一緒に行けるのは、とてもうれしい。私はもうおぼろげにしか覚えていないけど……ずっと私を守ってきてくれた、私のアーチャーと一緒に戦いたい」
「ああ。私もうれしい。きっと君とアルテラが無事に帰れるよう、私も力を尽くそう」
アーチャーの言葉に白野は強くうなずくと、ケータイを開いて起動詠唱を唱えた。使い方は分かっている。
『コンパクトフルオープン 鏡界回廊最大展開』
万華鏡の光が視界にあふれた。さんざめくキラキラ星を目で追いながら、新たな戦いへの覚悟と、未知の世界へと心躍らせる。
『我は我の望む場所へ、我は我の望む法を』
手向けるは金の札。英雄王が貸し与えた『英霊を呼ぶための魔術礼装』。
これをアンカーにすることでアルテラのいる世界へと跳躍できるのだという。
英雄を呼ぶ札がアンカーとなる世界とはどういうものなのだろう、と考えたところで、世界はホワイトアウトした。
ここじゃないどこかへと落ちてく浮遊感が身体を包む。
やがて、ケータイ電話から音が鳴り始めた。
「っ、マスター!」
桜の花びらがくるくると回るアイコン、中央には『Now hacking』の文字。
初めて聞く/どこかで聞いたことがある音が鳴り響く。
やがて小気味のいいSEとともに『OK』と表示され―――――
『なーんて。そんな簡単にいくわけないじゃないですか。セ・ン・パ・イ♡』
これまた、初めて/どこかで聞いたことのある声が耳の中を満たした。
本作のキーアイテム、魔法のケータイ。
当初はCCCエンド後に謎の美少女Bの声が聞こえる黒いケータイさんで
白野が魔法少女カレイド☆はくのんに変身して桜とともに旅をする作品を考えてました。