Fate/EXTELLA Liner 無銘と新王と万華鏡の魔法少女 作:ノラネコ軍団
ふたりがイリヤたちと黒化英霊との戦いに介入する少し前のことである。
校舎の屋上にたどり着いてからアーチャーと白野はどうするべきか考えあぐねていた。
校舎に魔力の歪みがある。そこで人が消えた。
どう考えても何かある状況だが、干渉する術がない。
「高位の魔術行使と考えるのが妥当だな。セラフであれば違和感を元に演算し、テクスチャを引きはがしてしまえばいいわけだが―――ここではそうもいかない。コードキャストで干渉できるか?」
「いや、ムーンセルを通して計算しているけど、どういう術式なのか見当もつかない」
困った、と二人で立ち往生していると、不意にケータイが鳴った。チッチキとひっきりなしになる電子音、続く妖しげな雰囲気の旋律。
「なんだろう、アーチャー。無性に切りたい」
「ああ。何故だか私も同感だ。着信を取ったところで碌なことにならないと私の心眼も告げているが―――」
状況を打開するかもしれない一手である、取れ、と目で告げる。白野はそれに反論するものを持っていなかったので、嫌な予感もそこそこにケータイを開いて着信ボタンを押した。
『はぁい!聞こえていますか、セ・ン・パ・イ♡』
「……君は誰?」
『えー?忘れちゃったんですかー?ひっどーい。ま、先輩のHDDってば定期的に吹っ飛んでますしィ?いつものことだって諦めがつきますけどね』
酷い言い草だ、と思いつつ、その通りかもしれない、とちょっと納得するものもあった。確かに定期的に吹っ飛んで困っている。
『何もしてないのに壊れるって言う人よくますけど。そういうのは大体使用者の無茶が原因なんですよねー。その点先輩はいつも何かしら負荷を掛けまくって吹っ飛ばしてますから、もしかしてマゾヒストなのでは?とセンパイの捻じれた性癖を心配する毎日です』
「いいから本題を言ってくれ」
『もう、センパイのせっかちさん♡でもいいですよ。今回は手短に要件を伝えてあげます。あなた達はいま、鏡面界の前で立ち往生しているはずです。鏡面界って?という無駄な質問はスキップです。簡単に言えば異世界、この世界のすぐ隣にある魔術領域と言ったところです。そこに先客がいるはずです』
「……先ほど見た二人の少女だな」
『うっわー。アーチャーさんったら乙女同士の会話に割り込むとかキモイです。通報しますよ?でもおおむねその通り。その先客は、カレイドステッキと呼ばれる魔術礼装を用いて鏡面界にジャンプしました』
「カレイドステッキって…」
『そうです!いま私とセンパイが話しているこのケータイと同じ、悪趣味な魔法使いの作った魔術礼装というわけですね。魔法少女に変身する機能とかド変態の所業ですよね。清純な私にはとてもじゃないですけど耐えられません』
ヨヨヨ、と泣き真似をするケータイの先の少女を無視しつつ、「それで?」と続きを促す。
『つまりはあなたたちもこの魔術礼装を用いて鏡面界にジャンプすることが出来るということです。ま、センパイのアリさんのおつむではそんな器用なことをいきなり出来るとは思えないので、コードキャストの術式にしてケータイに送っておきました』
パケシの匂いがむんむんですねーと笑う少女。正直何を言っているのか半分くらい理解できない。
『ま、そういうわけですので。精々、無駄な努力をコツコツ続けてくださいね、センパイ。そうすれば、いずれはアルテラさんにもたどり着けることでしょう』
「……本当に。君は、何者なの?」
『ムーンキャンサーですよ、センパイ。あるいはBBちゃんとでも呼んでください』
「それで、何を知っているの?」
『殆ど全部です♡でも教えてあげるなんてことはしないのです。だってそれじゃあ……』
『人間のもがきながら苦しむさまが、ちっとも堪能できないじゃないですか』
BBは貯めてから、まるで超越者のようなことを言うと、そのまま着信を切った。
白野は、と言えばその迫力満点の最後の一言に「めっちゃ悪ぶってるのにいい子感がぬぐえないなー」なんてこと感じている。
「まぁそうだろうな。露悪を気取っているが根の素直さを隠し切れん。もっとも、それはそれで捻子曲がっていると言っていいだろうが」
アーチャーも率直な感想を述べる。
「で、どうする?メールの着信音が鳴っているぞ」
先ほどとは違う音声が振動と共に成りだす。あのBBの言っていたコードキャストの術式が送られてきたのだろう。
「私見を述べるなら―――あのBBという少女は信用は難しいが信頼は出来るタイプと見た。今回の手助けはほぼ善意によるものと見ていいだろう」
「うん。私もそう思う」
白野もBBを何故だか嫌いになれないでいる。
彼女の言うことを信じてもいいだろう、と無条件に近い気持ちが心の底から湧いてきていた。
これが失った記憶によるものなのか、それとも別の何かなにかなのかは分からないけれど。
白野はケータイを通してコードキャストを発動する。
『mirror_Inverted();』
展開されるプログラム。その効果は境界面へのジャンプ。
反射炉が形成され、鏡界回廊が反転していく。
この世界へ飛んできた時と同じく、まばゆい光と浮遊感に包まれる。
光が収まり、視界が開けた時、目の前の風景は何一つ変わっていなかった。
「これは……」
アーチャーが絶句している。白野も違和感に顔をしかめた。
屋上の扉、貯水槽、手すり、空の風景。
いつも通りの夜、普通の校舎であるはずなのに、この世界全体から気持ち悪さを感じる。
「……音がする」
「ああ。校庭だな」
校庭からするバタバタとした走り回るような音、時折聞こえる叫び声。
アーチャーと白野は屋上の縁まで行き、その風景を見た。
そこには星形のステッキを持った少女が、黒化したサーヴァントと追いかけっこをしていた。
逃げ回る魔法少女、後方から無責任な応援を続けるどこかで見た赤い少女。
当初はそれを様子見していたのだが、ライダーが宝具を使うそぶりを見せると白野は「ライダーを狙って!」と指示をだした。アーチャーは「ふむ、宝具を使う気だな」とすぐに弓矢を投影して狙撃する。
そうしてあの場面、「我が名はフランシスコ・ザビ!拙者、義によって助太刀いたす!」につながるわけである。
「君の悪い癖だぞ、岸波」
アーチャーは頭を抱えた。
「またお人よしとかいうわけ?」
「いや、それもあるが。その、空気を読まないところがだな!?」
そこまで言って、まぁ良いかと再び鷹の瞳で標的へと意識を移す。
「彼女、やっぱり―――」
「ああ。間違いない。ライダーのサーヴァント―――ゴルゴーンの怪物、メドゥーサだろう。
何があったか霊器に変異を来しているようだが」
「勝てる?」
「愚問だな―――と言いたいところだが。君の心配も最もだ。今現在のステータスではまっとうな接近戦をして五分五分と言ったところか。だが、戦いとはスペックですべてが決まるものではない。我が錬鉄をもってすれば、充分に勝てる相手だ」
「じゃあ任せる」
任されよう、というアーチャーに気負ったところは無い。アーチャーも白野にとっても、この程度の不利はいつもの逆境に比べればなんてことはない。
弓に次の投影をつがえる。用いるは怪物殺しの概念を持った武器、ハルペー。それを矢に変換して打ち出す。
「ッッッ」
ライダーは今度こそ驚愕した。彼女の本能、霊器の底が震える。アレは危険だ。あれだけは、決して当たってはいけない―――!
最速の敏捷でもってその一撃を回避する。もちろんアーチャーの狙撃は高い命中率を持つ。弓の英霊に相応しい精度をもった一投だ。だが、ライダーとて速度で簡単に後れを取らぬからこその反英雄。最大の警戒と共にその一撃を避ける。
「やはりな。普段の君ならともかく、今のお前はそうなるだろうさ」
アーチャーは侮蔑を込めて、つぶやいた。
瞬間、ライダーの周囲にいくつもの投影宝具たちが出現した。干将、莫邪、ハルペー、カドモス王の槍、そして魔剣の原典『竜の死』。これらはすべて、ライダーが回避することを前提にあらかじめ投影しておいたもの。
無数の怪物殺しの武器が彼女の周囲に突き刺さったかと思うと、次の瞬間、それらは一気に破裂した。あふれ出る魔力、破片たち、そのひとつひとつが彼女を殺す概念の散弾となって襲い来る。
「え、ええー?」
イリヤはつい声を上げてしまう。
先ほど自分が出した散弾と似たような効果で、規模はそれよりも小さい。だが殺意というか効果で言えば自分の散弾よりはるかに高い攻撃である。
『うっわー…あれ、やばいですよ。一つ一つが強力な魔力を内包した宝具です。あれを炸裂させるとか……さしものルビーちゃんもドン引きですねー』
「ちょ。ちょっと、上の人に聞こえるよ!」
『アハハハ。まぁ目的は一緒のようですし、多分大丈夫でしょう。こちらを背中から撃つなんてことはないと思いますよ』
「それならいいと思うけど……」
心配するイリヤだが、そこに凛のヤジが飛んだ。
「イリヤ―!このままじゃ横取りされるわ!アンタも攻撃して!」
『なんて言ってますが。まぁここは凛さんに従っておいた方がいいんじゃないですか?こっちに矢を飛ばすことは無さそうですけど、このままじゃ手柄も横取りされちゃいますし。まぁ謎のライバル出現ってのも燃えますけどね!』
ルビーの無責任なひとことに一抹の共感を覚えつつ、「よし、じゃあ私も!」とステッキを振るう。黒化ライダーは屋上の狙撃手に気を取られ、こちらに意識を向けていなかった。そのためか、放った斬撃は再びライダーの腕を切り裂く。苦悶の声をあげているので、ダメージとなっていることは間違いない。
「……あれ?」
だが、そこには焦りやプレッシャー、ダメージへの苦しみよりも、屋上の弓兵より近くにいるイリヤへの害意の方が強かった。
その一撃を喰らった直後、目標を再びイリヤに切り替えた。
彼女は頭部の、宝石が埋め込まれたバイザーを掴み、それをずらした。
眼帯が外れ、ギロリとした黄色い瞳に魅入られる。
バチリ、と。まるで体中が攣ったかのように身体が動かなくなった。
「まさか魔眼!?しまった、イリヤ!」
叫ぶ凛。ルビーは「気をしっかり持ってください!カレイドの魔法少女の魔術防壁なら何とかなります!」と告げる。だが、素人であるイリヤはどうしていい分からずパニックに陥っていた。
呆けているうちにライダーの鎖鎌はイリヤに向けてまっすぐ伸びていく。
ぼんやりと、実感が無いなりに「あ、やばい」と思い――――
その一撃は白と黒の剣によって弾かれた。
シュルシュルと回転しながら飛び回る二つの剣。それに警戒する隙をついて屋上から赤い外套の少年が飛び降り、飛び回っているのと同じ双剣、干将と莫邪でもってライダーへ切りつける。
「クソッ、まずはやりやすい獲物に切り替えたというわけか――――
何をしているイリヤスフィール!オレが隙を稼ぐから、体制を立て直せ!」
「あ、うん!」
気を取り直すと魔眼の効果が切れたようだった。
ルビーの言うとおり、少し落ち着けば攣ったような感じは消えている。
『イリヤさんはとてもたんじ……素直な方のようですから、気合いを入れれば大抵の魔術呪術は防げます!ようは気合いをいれればいいのです』
「うん、わかっ……って絶対バカにしてるよねルビー!?」
『そういう細かいをことを気にしてはダメでです!さぁ、勢いに任せて初勝利をもぎ取ってください!』
「今それで死にかけたんですけど!……でも、実際のところ」
目の前で戦う赤い外套の少年と黒化英霊は五分五分の戦いを繰り広げているようだった。
投げ出される鎖鎌を双剣でいなし、時にどこからか出現させた剣を飛ばす。
アレは魔術というよりマジックでは?なんてことを思ったが、いずれにせよ、自分などよりよっぽど戦いなれているように見える。
「私は今回、見学してた方がいいんじゃないかな…」
『うーん。確かにあの二人は拮抗しているように見えます。でも、これは私見ですが―――あの方、ちょっと戦い慣れてない感じですねー』
「あれで?だったら私はただの足手まとい以下だよ…」
『いえ。確かに今のイリヤさんは戦いと言う意味ではとんでもなく役立たずですが。あの人の場合、なんというか、間合いを測りかねているというか』
ナチュラルに馬鹿にされたなー、とイリヤは微妙な顔をしつつ、戦いに目を凝らす。
……つまり、自分がサポートする必要があるということなのだろうか、と。