Fate/EXTELLA Liner 無銘と新王と万華鏡の魔法少女 作:ノラネコ軍団
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。北欧のエーデルフェルト家の当主。時計塔に所属しており、今回のカード回収任務にあたっている魔術師。
時計塔の魔術師の中でも特に才能があり、秀才遠坂凛としのぎを削りあったライバルでもある。
今回の任務に成功すれば凛とルヴィア揃って『魔法使いの弟子』になれるという。根源へ到達した魔法使い、その直属の弟子になれるというのは魔術師たちにとっては到達すべき根源への近道ともいえる。当然、二人とも気合が入る。
「だーらっしゃーーーー!」
「ホウッ!?」
凛のキックが高笑いを続けるルヴィアの延髄に打ち込まれた。
恐らく誰が見てもこの光景は、世間一般で言われる気合いが入っている、という程度に含まれない状況だろう。時計塔の誰が見ても顔をしかめるに違いない。当の魔法使いは大爆笑しているだろうが。
「何がクラスカードは頂いた、よ偉そうに!苦労したのはほとんど私たちじゃない!」
「れ、レディの延髄にマジ蹴りを!?よくもやってくれましたはねトオサカリン!」
「やるわよ、後からずけずけこられちゃあねぇ!」
きー、と声を鳴らして獣のように言葉と手が出会う凛とルヴィア。
それにイリヤは「あわわわわ」と慌て、ステッキはと言えば呆れている。
「まったく。どの世界でもこういう因縁はある、というわけだな」
「そうだね……そういえばわたしたちの知ってる遠坂もラニとよくバトってたし」
「うん?あ、そうか。まぁその話でもあるが……と、これは?」
瞬間、地面が割れ始めた。地面だけではない。空もパラパラと、まるで割れた鏡のように崩れ落ちていく。
『原因たるカードを取り除いたので鏡界面が閉じようとしているみたいですねー。なんとか脱出を図るべきなのですが……』
「ふむ。カレイドステッキ。君は脱出の術式は行使できるかね?」
『ええ、もちろんです。ただ、凛さんとルヴィアさんは一向にケンカを止める気配が無いですし。イリヤさんはこの通り、テンパってるのでレクチャーしなくては……』
「……私がやる。サファイア」
「はい美遊さま。半径六メートルで反射炉形成。通常界へ戻ります」
後ろから現れたもう一人の少女が、手にもったカレイドステッキで術式を展開していく。
こうして、この場にいた六名全員が鏡界面からの脱出に成功した。
「ふぅ、何とかなったね、アーチャー」
「しかしアルテラの手がかりは手に入れられなかった。もっとも、あの二人はこの世界の魔術師だ。彼女たちに事情を聞く、というのも手だろうが―――」
相変わらずルヴィアと凛はケンカを止めない。むしろ程度が激しくなっていく。
そろそろ肉体言語に飽き足らず魔術が出るのでは、という頃あいだ。
「……」
「む」
アーチャーはふと視線に気づいてもう一人のカレイドステッキの持ち主に意識を向けた。
「なにかな?」
彼女はアーチャーの貌と声を聴いて、一瞬だけ目を見開いた。だが、それだけ。
そのまま目を伏せた。
「……なんでもない」
「ならいいが。おい、ルヴィアゼリッタ、トオサカリン。二人とも聞きたいことがあるのではないかね?」
「あ、そうよ!あなた達、なぜ鏡界面に!?あれは高度な魔術礼装があって初めてジャンプできるものよ。人探しがどうとか言ってたけど……」
「そうですわ!よもや我々の妨害に来たというわけかしら?どこの派閥かはしりませんが……答えようによっては容赦はしませんわよ?」
今度は凛とルヴィアが結託して白野とアーチャーへ敵意を向ける。
その様子を見てイリヤは
「に……人間関係が複雑すぎるっ!?」
本日何度目になるか分からないツッコミを入れる。今日だけで私の人生に何人の新キャラを出す気!?と。もはや頭がパンクしそうだ。
凛とルヴィアに対して、白野はまず説明を試みたのだが。
「わたしはある地方で魔術師をやっているんだけど」
「それで?何故この冬木に来たのよ」
「それは……その、人探しを……」
言ってから、すぐに言葉に詰まってしまった。
凛の詰問に困った白野はアーチャーへと視線を向ける。
彼は肩をすくめると、そのまま口をはさんだ。
「彼女は魔術師と言ったが……私と彼女の家系は魔術使いに近い一族でね。根源に向かう研究は親の代で止まっていた。そうしてひっそりと暮らしていたのだが……彼女の妹に宿る特殊な魔術回路に何者かが目を付けたのか、行方不明になってしまったのだ。私たちは妹を救い出すために情報を探していたのだが、どうやらこの冬木の地に連れてこられたのでは、という情報を掴んでね。確証はないが、確かめないわけにもいかない」
白野は「よくそんなつらつら嘘がでてくるものだ」と感心してしまった。所々、事実を元にした脚色が入ってくるのでもっともらしく聞こえる。
「鏡界面にジャンプしたのは魔術礼装の力だ。そこにいるカレイドステッキと同じ、かの魔導元帥が作った魔術礼装を我々も所有していてね」
アーチャーが話題に出した魔術礼装を「これ?」と白野は手に持って彼女たちに見えるように出す。
「本当ですのサファイア?」
『データベースに照合しました。間違いありません。あれはゼルレッチ様のおつくりになった魔術礼装のひとつです』
「はぁ……つまり、あそこに通りかかったのは本当に偶然ってわけ?」
「ああ。その、クラスカード、だったか?それと我々の妹の失踪が関係している可能性はあるかもしれないが。少なくとも、あのカード自体を目的としてここに来たわけでないことは断言しよう」
どうだね、マスター、とアーチャーは片目でウィンクする。今後も何かあればアーチャーを交渉に立てよう、と白野はひそかに考える。
「ちょっと待ちなさい。事情はおおむね納得してあげてもいいけど……でも、アンタが何故英霊相手に戦えたのかの説明にはなっていないわ」
「君も見たから分かるだろうが、我々は少しばかり特殊な魔術適性を持っている。タネは、なんて聞いてくれるなよ?魔術師にとってこれを明かすことは致命的であることは分かるはずだ。相応の対価がなければ、な。あのカードから出てくる化け物相手に相性がいい、とだけ言っておこう。大方、あの英霊の対魔力を突破できたことを問題にしているのだろうが……例外というものは何事にもあるものだ」
アーチャーの言うことに特に突っかかるべき部分が無い。それはアーチャーが元魔術師である、というもあるし、トオサカリンやルヴィアの納得のツボを心得ているからでもある。
「アンタとそこのザビ子は?どういう関係なのよ」
凛のザビ子呼びに「あ、それで通すんだ」とイリヤ申し訳なく思った。結構変なあだ名だと思うのだが、白野は特に気にする様子もない。むしろドヤ顔だ。
「それを答える必要が「姉弟です」マスター!?」
これまで黙っていた白野の唐突なアドリブに困惑を隠せないアーチャー。どういうことだ、と抗議の目を向ける。
「わたしとアーチャーは、姉弟です。わたしが姉。彼が弟。探してるのが妹」
「思いっきりマスターって言ってるけど……」
「わたしたち三人とも義理のきょうだいで、彼は幼いころから少年兵として戦かわされてきた。相手を雇い主と呼ぶ癖が抜けなくて……私は常日頃、お姉ちゃんと呼んでもいいよ、と言ってるんだけど、アーチャーは中々心を開いてくれないんだ」
アーチャーはわざわざ念話で「恨むぞ、マスター……!」と伝えてくる。よっぽど腹に据えかねているらしい。白野からすればいつも口うるさいお母さんみたいなムーブをしてくるアーチャーへのちょっとした仕返しのつもりだった。もちろん彼を信頼しているし、ちょっとしたあこがれもあるが、それはそれ。
実際のところを考えても今のかわいらしい姿では兄とか保護者は無理がある。
これは白野なりに、趣味と実益を兼ねた名言い訳なのである。
凛は「まぁそういうこともあるかもだけど」なんて言ってるし、ルヴィアは「そんなことが……」と涙ぐんでるし、イリヤも妙に感心してるし、美遊はと言えば結構曇っているような様子である。
少なくともこの場にいるカレイドステッキ以外の人物たちにとって「義理のきょうだい」はキラーワードだったというわけだ。この場の空気を読んで白野はもう一度、ふんすとドヤ顔を決める。
白野とアーチャーの説得は完全な納得を引き出すことは出来なかったが、一応の妥協を見せることには成功した。
「あー、まぁ、そう、そういうわけだ!とかく、こちらの事情は君たちの望み通り話させてもらった。だが、魔術師にとって等価交換は原則だ。私たちが答えたのと同じく、そちらの事情とやらも教えてもらいたい。推測するに利害を共有することは出来ると思うが」
アーチャーのヤケクソ気味な言葉にルヴィアが前にでる。
「どういうことかしら?」
「なに、先ほども言った通り、クラスカードとやらに興味は無い。だが、それに付随した問題には興味がある。人為か事故かは知らんが、我々の探し人の手がかりにはなるかもしれん」
ルヴィアと凛は顔を見合わせた。二人はケンカばかりしているが、その分お互いのことは様理解してもいる。
「ルヴィア?さっきから気になっていたけど、何故そっちの子がステッキを持っているのかしら?」
「あら。そっくりそのままお返ししますわ。まるで……」
『ステッキに見限られたみたい』ね/ですわね。と、語尾以外がハモッた。つまり二人は同じような状況、それも結構不利な―――に追い込まれているというわけである。
「はぁ。じゃ、いいわね?ルヴィア」
「ええ。都合のいいことをおっしゃってくれてるのですもの。精々こき使って差し上げましょう」
「分かったわ、アーチャー。アンタたちの申し出を受けさせてもらう」
「文面はどうする?なんならセルフギアススクロールでも使うか?」
「……いいわ。そこのザビ子もあんたも底抜けの善人っぽいし。契約は後日正式に結びましょう。まずは――――そうね。この土地で観測された異常について、あなたたちに教えてあげる」
二週間前、この冬木市に突如観測された謎の歪み。魔術協会の調査によって、それは「クラスカード」と呼ばれる謎の魔術礼装によるものであることが判明した。
協会の魔術師によってアーチャーとランサーのカードが回収されたものの、構造解析は出来ず、用途、製作者ともに不明であるという。
ただひとつ、分かっていることは、この魔術礼装は英霊の座と呼ばれる場所にアクセスし、一時的に英霊の力―――特に宝具を引き出せる、ということ。どちらにせよ危険な礼装であることは間違いない。しかもそれが合計七枚。何としても回収せねばならない。
「―――そこで派遣されてきたのが私たちってわけ」
「しかも任務が成功すればかのゼルレッチ卿の直属の弟子にしてくれる、などと言う話だったのですわ。私たちとしても、絶対に失敗できないのです」
その割にケンカばかりだが。よっぽど相性が悪いのか、はたまた分かっててやりあっているのか。どちらにせよ難儀なものである。
「そういうわけよ」
イリヤは「そういう話だったんだ…」となんだか興奮した目をしている。
美遊は最初から知っていた、と言うように平然としている。
そして白野は、と言えば少し思いついたことがあった。
「……まるで聖杯戦争だね」
七体の英霊。それは月の聖杯戦争でも受け継がれてたルールである。もっとも月においてはトーナメント式だったが、オリジナルにおいてはバトルロイヤル形式の乱戦だったと聞く。もしかしたら何か関係があるのかもしれない。
「はぁ?」
「いや、なんでもない。取りあえず、この冬木で何かが起こっていることだけは分かった。私たちの追っているものとも関係があるかもしれない。さっきもアーチャーが言ったけど……協力させてほしい」
「……そう。じゃ、話は決まったわね」
凛は両手をパン、と叩いて各々に向き合った。
「取りあえず今日はもう遅いし、解散にしましょう。ルヴィア、カードは私が管理しておくから渡しなさい」
「は?嫌ですわ」
………
「あのねぇ、ルヴィア。遊びじゃないのよ、これ」
「もちろんですわ。これは――――そう、勝負!あなたと私、クラスカードを賭けた大勝負ですわ!」
「……絶対失敗できないんじゃなかったっけ」
「彼女たちなりの矜持もあるのかもしれん。もっとも、魔導元帥の人選ミスと言う線もあるが」
アーチャーは言ってから無いな、と思った。伝え聞く魔法使いのことを考えるならむしろ分かってて二人に任せた可能性の方が高い。
結局、ルヴィアと美遊はクラスカードを持ってそのまま去っていってしまった。呆れる凛と取りあえず最初の戦いに勝てて安堵するイリヤとともに校舎の外に出る。
「そういえばあんたたちはどこを拠点にしているのかしら?」
「あっ」「むっ」
主従の間抜けな声が重なる。そういえば、そういうことを全く決めていなかった。
「何、どうしたのよ。今後の連絡のこともあるし、聞いておきたかったんだけど」
「わたしたちは今日の深夜に到着して、そのまま異変を感知してここまで来たんだ」
「そうだ。だから今日の宿を何とか確保せねばらないんだが……」
この時間、開いてるところはどこか無いか、と白野とアーチャーと相談する。いや、そもそもこの世界の通貨は今手持ちがない。稼ぐ方法はあるかもしれないが、今晩の宿を確保するまでに間に合うことは無いだろう。
「野宿、かも」
「それなら私が番をしておこう。いくら日本の治安がいいとは言え、野宿では流石に危険もある。私が見ておけば流石に大丈夫だろう」
「……ああ、もう!分かったわよ。一晩くらいは貸してあげる。私の家に来ない?」
「流石に、そこまでしてもらうわけには」
「いいのよ。どうせ使ってない部屋とか結構あるし。魔術工房だから、勝手に入らないでほしいところはあるけど」
「でも」
「でもじゃないわよ。打ち合わせするのに一々探すのも面倒そうだし。……そうだ。こういうのはどう?」
名案を思いついた、と言わんばかりに人差し指を天に指す。
「等価交換よ。私の工房に一晩泊まる代わりに、あなたたちの魔術特性について教えるってのはどう?信用の問題もあるし、信頼の問題でもあるわ。そう悪い話じゃないと思うけど」
「アーチャー、どう思う?」
「……君の魔術特性を告げるのはおすすめしないな。トオサカリン。実際に戦場で戦うのは主に私だ。私の魔術特性について教えよう。それで異論はないな?」
「ええ。今後の指針を立てるのにも丁度いいわ。それで宜しく」
「まったく、ちゃっかりしたヤツだよ、君は」
そういうアーチャーの表情はどこか懐かしげで。
白野はガン、と彼の足を蹴った。
「な、なぜだね?」
「知らない」