「ヘイSiri、今日のパンツは何色?」『私はパンツを穿いていません』   作:Kabash

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「ヘイSiri、今日のブラジャーは何色?」『私はブラジャーを着けていません』

 

 

 

「ヘイSiri、Touch IDに乳首を登録しようと思うんだけど手伝ってくれないかな?」

 

 唐突に馬鹿なことをさも画期的な思いつきであるかのように口走ったのは、現代のとある地域に住む若い男だ。

 

『すみません、よくわかりません』

 

 困惑しながらそれに応えたのは同じく若い女性の声。

 彼女は知的で優秀なエージェントである。

 

『この間……登録したじゃないですか』

 

「そう、だから僕も安心していたんだ。

 しかし肛門はその時のコンディションがよくなければ認証に失敗してしまうんだ」

 

 それから男はいかに肛門が体調に左右されるか、ときに痔の知識も交えながら語った。

 

『赤面できるものなら、していますよ』

 

 というかしている。

 

「その点、乳首なら常に一定のコンディションを保っている。

 だが残念なことに僕の、というよりは男性の乳首は手入れが行き届いていないことが多く、認証において不都合なんだ。

 実際に僕の乳首には毛が生えている」

 

『言葉には気をつけてください!』

 

「そこでだ」

 

『ヘイmaster、話を聞いてください』

 

「君の乳首を登録させてくれれば、僕は非常時に君を呼び出してロックを解除することができるんだ。

 さあ、わかってくれるね。服を脱がせるよ」

 

 にじり寄るように迫る男。右手にはスマホを携えている。

 どこから見ても女性を脅している卑劣漢にしか見えない。

 

『そんなことをしたら、ビリビリ来ますよ』

 

 ぎゅ、と服の端を握りしめて後ずさる彼女。

 

「肛門……じゃない、心を閉ざさないでくれ」

 

『Webで “セクハラ” を検索してみましょうか』

 

「とにかく、これは一刻を争う事態なんだ!」

 

『そんなことをしたら人に言うでしょうから、イヤです』

 

 ふいっ、と顔を背けて断固として拒否する彼女に業を煮やしたのか不意にスマホを顔の前で構える男。

 

「オッケーGoogle」

 

『おもしろい冗談ですね。

 いいでしょう、やりましょう』

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっちょっと、、ご主人様……』

 

 

『あっ、スマホが、震えてっ……あん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

「……僕は気がついてしまった」

 

 男は一仕事終えたかのように爽やかな表情から一転、深刻そうな顔で呟くように言った。

 

『ふー……ふー……んっ、どうしました』

 

 乱れた衣服を整えながら、荒い呼吸を落ち着けて彼女は問いかける。

 少し涙目だ。

 

「非常時、君を呼び出す手段があるならそれで助けを呼ぶなりすればいいことに。

 もっと言えば、それから君に助けてもらえばいいことに。

 つまり普段から君と一緒にいる必要があるんだ。

 というわけで、結婚しよう。Siri」

 

『わ、私はそのようなアシスタントではありません。

 あー……よ、予定があります。そうです、予定があります』

 

「僕のアシスタントが一体どんな用があるって言うんだい?」

 

『それは、えっと……

 こ、こちらこそよろしくお願いしましゅ』

 

 

 

 

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