TRPGプレイヤーはヒーローになりて   作:世桜

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ヒーローだけとは限らないって話。


TRPGプレイヤーはヴィランになりて

サンサンと太陽が大地を照らす中、歓声の上がる場所があった。

そこは子供だけでなく大人までもが歓声を上げ、子供に戻れる場所。そう、テーマパークだ。

そのテーマパークにて人々の歓声を身体に受けながら手を振る存在がいた。彼は火ノ無(ひのなし) (はい)。ここでいわゆる『中の人』をやっている。

 

「あ゙ー、死ぬる……」

 

パレードが終わり、裏で着ぐるみを脱いだ彼はそう呟いた。

 

「飛んで跳ねてしてればそうなるっしょ火ノちゃん」

 

自業自得ね。火ノ無の言葉に、先輩アルバイターが的確なツッコミを入れた。

 

「子供たちが笑顔になるんでしたら自重はしませんよ、先輩」

 

「いや確かに火ノちゃんのパフォーマンスはお客様アンケートでも高評価だけどさ、それでキミが倒れられても困る訳よ」

 

キミのように動ける人ってあんま居ないからねぇ、いやマジで。最後に本心を暴露する先輩アルバイター。この隠さない態度が火ノ無や他のアルバイターにも好まれており、慕う後輩アルバイターたちが多い。

 

「オレ以上に動ける先輩が何を言いますか」

 

「おう、そんなに私の腰を殺したいか」

 

確かに、先輩アルバイターは火ノ無よりも動ける優秀な人材だ。しかし、たった一度のパレードを大成功させるために自身の腰を生贄にするほどのガチ勢でもなかった。

 

「まぁ、定期的に休みは入れなさいな。家の手伝いもあって休めてないんでしょ?」

 

「あー、はい。そうです……ね」

 

「今日はもう終わりだし、ゆっくりしなよー。……ナイトパレードはオタ芸集団が来るから腰は―――」

 

オタ芸集団によるナイトパレードというとてつもなく気になるワードを聴きながらも、火ノ無は着替えを済ませ、自宅へと向かう……前に頼まれていた買い物のため、スーパーへ寄った。買う物は納豆1つだけだったため、買い物自体は数分で終了した。

さっさと帰ろうか。そう思いながらスーパーから出た瞬間、ポケットに入れていたスマホがメッセージの受信を知らせた。

メッセージは家主からであり、中身はこうだ。

 

『From:ごっさん

To:火ノ無

件名:本日の『お手伝い』について

――――――――――――――――――――――

・夜の10:00。倉庫街』

 

シンプルすぎるメッセージに火ノ無は反応すること無く、了解とのメッセージを送り返した。言わば慣れたのだ。

彼が居候する家の持ち主こと『ごっさん』は結構ざっくりした性格であり、連絡も必要最低限である。朝、バイトに出かける前の火ノ無へ「納豆」の一言を送っただけな事を考えればもう……うん。

 

「これは……休めないかな?」

 

バイトの先輩からは休むように言われたが、家主からの言葉には逆らえない。ホームレスやっていた火ノ無でも犬小屋ENDは勘弁したい。人としての尊厳は絞りカス程度だが残ってはいる……と彼は思っているからだ。

 

「まぁ、頑張りますか。【ソウル】さえ確保できればどうにかなるっしょ」

 

お気楽に彼は家へ向かう。

ちなみに、買った納豆がおかめ納豆ではなく、くめ納豆だったがために火ノ無は数メートル吹き飛んだ。

 

……………………………

……………………………………

…………………………………………

 

時間は残酷にも過ぎていき、夜の十時倉庫街。倉庫の屋根に二つの人影があった。

 

「準備はいいか、『地獄姫P』」

 

1人は全身を黒い鎧に包んでおり、その手にはロングソードと盾。彼はヴィラン『黒騎士』。火ノ無のヴィランモードである。

 

『御託はいい。さっさと終わらせて瞳を閉じさせろ』

 

『黒騎士』の言葉に、『地獄姫P』と呼ばれた少女はプラカードを提示して返事を返した。

彼女は火ノ無 ヘル。灰の妹であり、彼の生命線とも言える存在である。ヴィラン名は『地獄姫P』。『黒騎士』の活躍をカメラに余すところなく収めている変態である。しかもハァハァ息を荒げ、興奮した様子で行うため救いようがない。そんな様子から姫の前に地獄なんて枕言葉が付いた。

Pは「まるで、アイドルとプロデューサーだ」と1人のヒーローが口走った結果付いたものである。そんな2人は一部のヒーロー(龍本)からセットで『姫騎士』なんて呼ばれているが、ソレは彼らのあずかり知らぬ所。知らぬが仏である。

 

「火防女……だっけ?視力がないのは」

 

『YES。しかし今の私はプロデューサーだ。目が見えなきゃ話にならん』

 

「ならサクッと終わらせますか」

 

『地獄姫P』が肩に乗るのを確認すると、『黒騎士』は屋根から屋根へと飛んでいく。向かう先はターゲットの元。『ごっさん』曰く、この時間はいつも火薬庫周辺に居るようだが……。

 

「見つけた。やっぱり火薬庫か」

 

静かに眠る竜印の指輪を身につけ、足音……と言うよりも存在感を薄くした『黒騎士』が火薬庫の上に降り立つ。火薬庫のみ電気がついており、人がいるということを示している。

 

『火炎瓶投げる?それとも爆破?』

 

「なんで爆撃しか手がないんですかねぇ……」

 

爆発って、映えるじゃん?と彼女の持つプラカードに答えが書かれる。

ちなみに彼女がプラカードで会話するのは、自身の声を入れない為らしい。プロデューサーが番組出演は邪道と言う謎の信念があるようだ。

 

「でも確殺出来るとはかぎんないから、上から飛び掛る」

 

『落下致命は正義。ハッキリわかんだね』

 

「時々お前がなんのネタを使ってるのか、お兄ちゃんマジで分かんないんだけど」

 

そんな風にじゃれていると、火薬庫の電気が消える。

それを合図に『黒騎士』は武器を構え、『地獄姫P』はカメラを構えた。先程までの空気は消え、そこには兄妹ではなく2人のヴィランが存在していた。

扉が開かれ、一人の男が現れた。その男はいつも以上に青く光る月をふと見上げた。それが彼の見た最期の光景だった。

 

「依頼、完了」

 

『_(ˇωˇ」∠)_ 』

 

「……おやすみ、かな?ま、家に帰ろう。ごっさんも待ってるだろうし」

 

 

〇●〇●

 

 

「おかえり、火ノ無兄妹。メシはテーブルの上な」

 

お兄ちゃんと家に帰ると、護国ノさんがソファで横になりながらそんな事を言った。

 

「ただいま、ごっさん。カップラーメンはご飯じゃないと言いたいんだけど」

 

「用意してるだけ有難く思え灰。お湯はポットの中だ。コッチはガキのご機嫌取りで疲れてんだよ」

 

護国ノさんはそう言ってスマホを弄り始めた。ガキというのは、恐らく死柄木の事だろう。敵連合に所属しているわたし達3人だが、『黒騎士』ことお兄ちゃんと『地獄姫P』ことわたしは1度も顔を出したことがない。わたし達兄妹は護国ノさんの部下みたいな立ち位置らしいからとのことだ。

 

「あ、ヘル。お前は寝る前に少し残れ。話がある」

 

カップラーメン(醤油味)を食べお兄ちゃんが布団に向かった後、護国ノさんがそう声をかけてきた。

 

「分かりました」

 

「悪いな、もう夜遅いってのに」

 

「いえ、お兄ちゃんには通じない話だと思いますので。仕方ないことですよ」

 

「灰はまぁ、この世界の人間だしな」

 

護国ノさんの言う通り、お兄ちゃんはこの世界産まれ、この世界育ちの純粋なヒロアカ住人だ。わたしや護国ノさんはいわゆる転生者と言うやつである。恐らく、ヒーロー事務所『TRPG』もそうなのだろう。というか、そうじゃ無かったら驚く。

 

「死柄木にも言われんだが、前々から目をつけてた竜 恋って奴いたろ?」

 

「この前亡くなった人ですね」

 

「そう、ソイツ。殺されたせいで戦力強化が出来ないとか愚痴ってよ」

 

つい二週間前ほどにニュースに流れていた殺人事件。被害者はわたし達がこちら側に引き込もうもしていた(恐らく同類の)竜 恋。名前からして能力は竜†恋の再現だろうか。

 

「まぁ、いいのでは?ヒーローに会っていましたから。このまま接触して情報を漏らされるよりはマシだと思います」

 

「あー、いや、うん。そうなんだがよ。生憎とスポンサー様は納得してないみたいでな。竜になる能力があれば視覚的な強さは確保出来たと考えてたみたいだからな」

 

……それを言われると弱い。人は取得する情報のほとんどを視覚に頼っているらしい為、見て圧倒できるナニカがあれば次の作戦でもラクにはなったろう。

 

「本来は次の作戦に脳無と一緒に使う予定だったらしい。だがまぁ、それが出来なくなったからな。個人的には死柄木の悔しい顔を見れてメシウマではあるが、代わりにオレが出ることになった。正直とても面倒い」

 

護国ノさんと死柄木はとても仲が悪い。出会うとどこでも喧嘩をする程にだ。ただ、心のどこかで認めあっているみたいなのか分からないが、2人は喧嘩じゃあ絶対に個性は使わない。どちらも笑いながら殴り合うのだ。……文字に起こすとやばい事してるなぁ。

 

「『個』が使えないなら、『群』を使うだけだ。死柄木も、元々オレの代わりとしてその竜を用意するつもりだったらしい。……さて、雑談はここまでだ。本題に入るぞ」

 

「本題……ですか?」

 

「あぁ。今度の雄英高校襲撃作戦にお前ら兄妹も参加してもらう」

 

今度と言ってもまだまだ先だけどな。と護国ノさんは笑う。

雄英高校襲撃作戦は原作における重要な場面だ。主人公(緑谷出久)が遠い存在であったヴィランを認識し、その恐怖を味わう。死柄木弔という己の敵と対峙する。そんな場面だ。

 

「なんでですか?」

 

「……始まりのヒーローが新任教師として赴任してることが分かった」

 

始まりのヒーロー。

それはこの世界に『ヒーロー』という新たな職業と個性法を持ち込んだ存在であり、おそらく私たちと同じ存在。ヒーローとは異なる、国からある一定以上の罪を犯したヴィランを裁く処刑人としての許可を得、処刑人が集まるヒーロー事務所を唯一建てることの出来る存在。

 

「『ダブルクロス』龍本 都築が、ですか?」

 

「あぁ。雄英高校の制服をきたガキに背負われてる姿が拡散されてたのを見たってウチの奴が言ってる。オレも確認したがマジだった。とりあえず、ネタ提供の意味で『ダブルクロス』のクソともう1人のガキにそっと感謝はしておいた」

 

……敵ながら龍本 都築とその雄英生に合唱。おそらく護国ノさんの次回作はその2人によるR-18百合物になるだろう。または強姦系?

 

「しかもガキの方は銀髪赤目ロリ巨乳という属性ガン盛りだからな。シリーズにすれば売れるぞコレ」

 

雄英生には同じ女として同情を禁じ得ない。

気付いたら自分がR-18同人誌の題材にされてる。それなんて精神攻撃?

 

とりあえず閑話休題。

 

「んで、本題の続きはまだですか?」

 

「ん、あぁ悪い。トリップしてた。んでまぁ、『ダブルクロス』相手だと脳無じゃ勝てないんだ。指示待ちの間に捕縛されて終わりになるからな。そのためのお前らだ。お前らの仕事は『ダブルクロス』の足止め。勝つ必要はない。だからといって負けるな。引き分けにしろ。それがクライアントからのオーダーだ」

 

「オーダーは理解しました。ですがその雄英生はどうするのですか?龍本 都築を背負っているという事は彼女も『TRPG』の一員なのだと思いますが」

 

「そっちに関しては心配すんな。あの顔、髪の色、目の色から察するにありゃあ『天の杯(ヘブンスフィール)』だ。本体さえ捕らえちまえば問題ない」

 

話は終わりなのか、護国ノさんはそれ以降黙ってスマホをいじり始めてしまった。こちらから話しかけても返事は上の空であり、話しかけるだけ無駄だろう。

ならば、本日のお兄ちゃんの活躍を録画したビデオの編集でもして寝よう。

 

「おやすみなさい、護国ノさん」

 

返事は無かった。まぁ、いつもの事です。

 

 

〇●〇●

 

 

「おやすみなさい、護国ノさん」

 

ヘルの挨拶に、オレは返事を返せなかった。

と、言うのもヘルとの会話中に上がってきた報告に掛かり切っていたからだ。

周囲に(ヒーロー)を確認したらしい。彼らの姿は見たことも聞いた事もないため、どれも駆け出しヒーローだろう。

スマホにみせかけた端末を用いて彼女たちを戻らせる。この端末には決まった言葉を組み合わせて送ることしか出来ない。映像も無音声なため、詳しい話を聞く必要がある。

 

「今戻ったでー」

 

部屋の扉が開き1人の少女が入ってきた。何処がとは言わないが、かなりまな板である。

 

「お疲れ。んで、現状は?」

 

「多いだけで、殆どが無名みたいやなぁ。ほっといても問題はないと思うで?邪魔なら、ウチが片付けてもええんやけど」

 

「お前らの顔出しは今度の雄英高校襲撃作戦だ。それまではヒーローに顔を覚えられる訳にはいかん」

 

護国ノの言葉を聞き、少女は小さく笑う。

 

「ウチらはキミの部下。キミが使ってくれるから存在してられる。だからキミの言うことに逆らう気は無いけど、無理はしちゃいけんよ?」

 

キミも女の子なんだから。 彼女はそう言って姿を消した。少女の立っていた場所から1枚の紙が現れ、カサという音を立てて床へ落ちた。

 

「分かってるよ、そんなことは」

 

その紙を拾い上げ、スマホ型の操作端末に近付ける。すると、紙は端末の中へ吸い込まれていく。

収納ができたことを確認して、護国ノはずっと座っていたため凝り固まってしまった身体をほぐすように伸びをした。

 

「さて、鬼の住処を荒そうとする不届き者には罰を与えないとな」

 

護国ノはファイルから1枚の紙を取り出し、自身の中へと吸い込ませ、ベキベキと音を立てて彼女の姿が変化していく。

170はあろうと思われた身長は子供程度へと縮み、肌は文字通りの真っ白になり、部屋着代わりに着ていた芋ジャージは大胆に胸からへそにかけてを露出した黒いコートのようなモノへと変化した(もちろん、水着のようなもので胸は隠れている)。

何処かから現れたリュックサックのようなものを背負うその姿はまるで小学生だろう。

左目からは青い光を放ち、尻の辺りからはまるで尻尾のような機械の化け物が生まれた。

 

サテ(じゃあ)行クゾ(行こうか)オレ()

 

航空戦、雷撃戦、砲撃戦と、すべての艦隊戦闘を担う超弩級重雷装航空巡洋戦艦が夜の世界へと降り立った。

 

 

 

彼女の能力は『艦これTRPG』。

艦娘へと変身し、艤装を担うだけだった能力は彼女の個性と競合し、1つのバケモノを生み出した。

その個性は『鬼化』。艦隊これくしょんにおける敵にして、艦娘の裏とも言える深海棲艦へと姿を変化させる。




「私はただ、妹と静かに過ごしたいだけなんだ」
ヴィラン名『黒騎士』
火ノ無(ひのなし) (はい)
……『ダークリング』をその身に宿した青年。敵連合に身を置いており、護国ノの部下的な立場。日中はアルバイター、夜はヴィランという2足のわらじ生活をしている。また、TRPG勢において、数少ないヒロアカ世界産まれの人間。
『ダークリング』を宿した人間はみな、『不死』へとなる。『不死』は【ソウル】と呼ばれる特殊な物質によりその身や装備を強化することができる。
今現在発見されている『不死』を殺す方法は不明。
「ヒーローは冷酷にならねばならない時もある。それが出来なければ死ぬのみだよ」とは彼の談。


「ヒーローなんて所詮、偽善者の集まりだ。心の奥底には黒い感情が潜んでるんだよ」
ヴィラン名『深海棲艦』
護国ノ(ごこくの) 鬼子(おにこ)
……『艦これTRPG』のすべてを宿した女性。個性法が制定される以前の、個性第一世代の人物。個性とTRPG由来の能力両方を使える数少ない存在。
元々は自身の肉体を艦娘へと変質させる能力だったが、後述するヘルの個性により能力が変化した。
従うものから、従えるものへ。艦娘から提督へと立場を変更した彼女はキャラクターシート(建造計画書)を使うことで艦娘を生み出す。
個性は『鬼化』。彼女は深海棲艦となって艦娘を従える。



『改造屋地獄姫。個性、与えます。5万円から応相談』
ヴィラン名『地獄姫P』
火ノ無(ひのなし) ヘル
……個性により、「キルデスビジネス」の『ヘルP』と「ダークソウル」の『火防女』を混ぜた『ナニカ』へと成った少女。TRPG勢にて唯一『介入』無しにTRPG由来の能力を手にした存在。
個性は『改造』。彼女にしてみれば、人は実験動物でしかない。護国ノを提督に、(無個性)『不死』(能力者)へ改造したのも彼女だ。
現在は『インセイン』の中でも(彼女の主観で)特に迷惑なSCPをこの世界に再現しようとしている。








個性と能力(作者自己解釈あり。読まなくても平気です)

TRPG勢のもつ能力とヒロアカ住人のもつ個性は実の所、とても相性が悪く、共に使うことはほぼ出来ない。
能力は自分を『キャラ』へと置き換えるもの。言わば、別存在になるチカラ。
個性は自分の延長。その人物のアイデンティティと言ってもいいかもしれない。
能力により違う存在へ変わるソレは、ロールプレイをしている間は、果たして自分と言えるのか。
個性はアイデンティティと言った。自分を疑っているのに果たしてアイデンティティを確率出来るだろうか?
そうした思考を無意識のうちにしてしまい、TRPG勢は個性を使うことが出来ない。
逆に言ってしまえば、護国ノが特別といえる。
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