ACE COMBAT ZERO-Ⅱ -The Unsung Belkan war-   作:チビサイファー

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EX Mission -円卓の鬼神-

 ガルム大隊が続々とオーレッド国際空港へと着陸する。着陸は燃料の残量がない機体を最優先とされ、損傷機及び被弾が少ない機体は上空待機を続ける。その中で損傷がひどく、長く飛べない機に関してはオーレッド湾にて脱出、搭乗者をヘリまたは船舶で回収する手はずとなっていた。

 

 次々と着陸する戦闘機を見ながら、スザクとやまとは牽引されて貨物地区に運ばれるベルクートの胴体の上で座っていた。着陸して発覚したベルクート改の損傷具合はやはり激しく、両方のエンジンは完全に廃棄が確定し、メインモニターは衝撃で砕けて映らないし、機体本体のダメージも正直明確なチェックをしたくないほどのものだった。

 ただいえるのは、胴体そのものは改造前のノーマルベルクートの流用のため、二度と飛べないのは確実だった。あの高機動戦闘で機体寿命は当の昔に超えていたのだ。

 

おかげで自走もできず、今のベルクートの役割はスザクとやまとの移送であった。もっとも、スザク自身の怪我も酷かったため、消防隊の応急処置受けて搬送中というのが一番正しいだろう。左目に眼帯をつけられ、右腕がうまく動かなくなったということなので、三角巾で吊り下げられていた。

 

「…………終わった、のね」

「ああ」

「実感、わかないわね」

「ああ」

「もうすることないのかしらね」

「ああ」

「…………好き」

「ああ…………ああ!?」

「やっと反応した」

「おま、なんで今言うんだよ」

「帰ったら言いたいことあるって言ったじゃないの」

「そうだけどよ、何も今言わなくても……」

「返事」

「え?」

「だから、返事聞かせて」

「…………」

 

 じっと見つめるやまとの瞳は真剣そのものだった。いや、これは自分も言おうと思っていたから今がチャンスなのだろうが、いかんせん突然すぎて頭が追いつかなかった。誰か助けてくれないかと思って滑走路に目を向けると、燃料漏れで優先着陸に回されたY/CFA-42がタッチダウンしたところだった。ガルム隊の頼れるメンバーの助けは来ないみたいだ。

 

「……やまと。その、だな」

 

 その時である。死んでいたと思っていたメインモニターが突如として点灯し、FLANが文字を打ち込んだ。

 

<CAUTION! CAUTION!>

 

 何事かと二人はコックピットを覗き込む。ノイズ交じりでFLANがレーダーを写し、そしてそこには目を疑いたくなる光景が映し出されていた。それと無線機があわただしくなるのはほぼ同時だった。

 

『ミサイル接近! 高速でオーレッド国際空港を目指しています!』

『迎撃、迎撃急げ!』

『だめです、人手が足りません!』 

「なんだ……いったい、どこのミサイルだ!?」

 

 スザクが叫ぶと同時に、FLANがミサイルの詳細を送る。その文字群の中に、見たくない文字を見つける。Trinity。

 

「ウソだろ!?」

 

 最後のトリニティ弾頭だった。スザクたちが破壊したトリニティ弾頭ミサイルの生産工場は、最後の一発が運び出された直後だったのだ。その一発が、遠く低空を飛んでいたベルカのB-2爆撃機から射出されたのだ。作戦完了後に安堵する、空港のこの瞬間を狙っていたのだ。

 

 直後、真上を一機の戦闘機が飛びぬける。青い翼、氷の妖精のノーズアートと赤い犬。それを見た人物は叫ぶ。

 

『サイファー!』

 

 

 

 

 接近真正面から接近するトリニティ弾頭と対峙したサイファーは自身がいかに無謀なことに挑戦しているのかよく理解していた。背後から弾頭ミサイルを撃ち落とすことはできたが、真正面からなんて正気の沙汰ではなかった。だが、それでもやれるのは自分しかいないのだ。

 

 機銃の残弾を確認する。何てことだ、あと9発。トリガーを引ききる前に弾切れを起こす。だが、それしかもう残っていない。しかし、その9発で決めて見せる。決めればそれでいいのだ。

 

 ミサイルが視界に入る。瞬き一回ですべてが決まる。サイファーは見る。そして信じる。己の力を。師から教わった持てるすべての技術を。

 

 

 

 ここで一つ、エースの定義について話したいと思う。エースというものはあらゆるジャンルの物事において存在するものであり、日の目を浴びる者もいれば影のエースとして語られる存在もいる。戦闘機乗りもまた例外ではない。

 

 だが、歴史に名を残すエースというのは実はそう多くいないのだ。歴史に名を残したものといえば、ユージア大陸のクーデター鎮圧に貢献したスカーフェイス。ベルカ戦争、そして国境なき世界と戦った円卓の鬼神、初代サイファー。エルジア戦争のリボンの死神と言われたメビウス。一般的な見解だと、彼らこそがエースといわれるだろう。

 

 だが、実際はそうじゃないのかもしれない。エースは敵にも味方にも無数にいるのだ。OBCのブレッド・トンプソンが調べた結果、ベルカだけでも数百人のエースと呼ばれるパイロットがいた。

 

 では名前が世界に歩いた彼らはいったいなんなのか? もしかしたら、こういえるかもしれない。

 

 彼らはエースではなく、正真正銘の、「死神」や「鬼」なのだ。エースの境地を超えたものが得られる名前。それこそが、その戦闘機乗りのたどり着いたさらなる高みなのだ。

 

 そして、今ここにいるサイファーもその境地にたどり着く。

 

(なんだ、これ……)

 

 サイファーは自身の認識している世界がとてつもなくゆっくり進んでいることに気が付く。高度計、速度計、ターゲットまでの距離をカウントする数字がとんでもなくゆっくりに見えた。機銃の弾頭計算だって簡単にできるような気がしていた。そして唐突に理解する。これが、師の言っていた境地なのだと。

 

 サイファーは見る。そして、トリガーを引く。20mmの弾丸が発射される。その発射していく弾丸すら、認識できたのだ。

 

 放たれた9発の弾丸はまっすぐトリニティに飛びかかる。まず1発目が弾頭の真正面に直撃し、進路を捻じ曲げる。続いて2発目が安定翼を吹き飛ばし、バランスがさらに狂う。3発目が胴体真ん中をたたき、食い込む。4発目がもう片方の安定翼をへし折り、くるりと半回転したミサイルの真ん中に5発目、6発目、7発目が当たる。そして、8発目がついにミサイル内部に達し、9発目がミサイルを貫通、刹那。

 

 トリニティは誘爆を起こし、その衝撃でサイファーは地面に叩きつけられたかのような衝撃に襲われる。メインモニターに亀裂が入り、悲鳴のような警報が鳴り響いて配線がショートし、火花が飛び散る。直後、サイファーは後頭部をぶつけて意識を失った。

 

 

 

 

 トリニティの衝撃波に包まれた空港は一瞬混乱に陥ったが、すぐに体勢を立て直して被害状況を確認する。空港の手前の海上、7キロ地点で起爆したおかげで被害は最小限で済みそうだった。しかし、混乱する無線の中でゆたかが叫びをあげていた。

 

『ガルム1! ガルム1応答してください! 高度が下がっています、上昇してください、サイファーさん!』

 

 サイファーからの応答がなかった。レーダーでは確認しているが、高度が急激に落ちている。付近を飛んでいたガルム4、ベルカンナイツリーダーがサイファーのX-02を見つけた。

 

『こちらガルム4、サイファー機はロールしながら降下中! パイロットの意識がないかもしれん!』

『そんなっ……サイファーさん、起きてください! サイファーさん、サイファーさん!』

 

 煙を上げながら、ワイバーンは海に向かって落ちていく。破片を浴びた青い翼は黒くなり、可変翼がうまく機能していないのか片方の主翼は半分折りたたまれたままだった。そのせいでバランスがさらに崩れていく。早く立て直さなければ海面に落下する。たまらずスザクが無線に向かって叫ぶ。

 

「サイファー起きろ! おい、こんなところでくたばるんじゃねぇ!」

「サイファー起きて、起きなさい! 海里さんが待ってるのよ、起きて!」

 

 誘導路に入り、停止したY/CFA-42のキャノピーが跳ね上がり、中から海里が立ち上がる。遠くに小さく見える黒い煙。ワイバーンが引いているものだった。

 

 無線機はゆたかやスザクたちのサイファーを叩き起こす声でいっぱいになっている。だが海里はそれと同様に無線に飛びつこうとはしない。ただ信じてる。信じてるからこそ、彼女はその空に向かって叫んだ。

 

「サイファーー!!!」

 

 水柱が上がる。それを見ていた空港の兵士たちはうなだれ、だめだったかと座り込む。ここまで引っ張ってきた鬼神の再来がこんなにあっさり落ちるなんて。なんてあっけないものなのだと。

 

「おい、あれ!」

 

 だが、その落胆はすぐ終わる。水柱の中から、青い翼が舞い上がった。飛翔する飛竜。そのエンジン音が聞こえてくる。まるで咆哮のように響き渡るその音、それを聞いた男たちから歓声が巻き起こった。

 

 

 

 機体を立て直したコックピットの中で、サイファーは息を荒くし、ヘルメットを脱ぎ捨てて汗をぬぐう。危なかった、あと二秒遅れていたら海面にキスしていた。まだ若干追いつかない思考を奮い立たせ、損害を確認する。右主翼が展開しておらず、電気系統が死んだのだと察した。サイファーはロックを解除し、風圧で主翼を開くと再固定。バランスを取り戻す。モニターに目を向けると半分以上が機能しておらず、しかしその中でエンジン一基破損、燃料漏れ、火器管制が完全に死亡したことが分かり、見上げるとキャノピーにも亀裂が入っていた。

 

『サイファーさん!』

「ああ、大丈夫だ。だいぶ危なかったがな、心配かけた」

『ほんとにあなたは……もう!』

 

 無線の向こうでゆたかが涙ぐんでいるのが分かった。それ以上泣かれると悪者になってしまうから勘弁してほしいのだがと思いながら、緊急着陸を要請する。

 

「とりあえず機体の損害が激しい。緊急着陸を要請する」

『了解です、オーレッドタワーにコンタクトしてください』

 

 

 

「サイファーが下りてくるぞ!」

「エンジンから煙が出ている、消火、救護車両の手配を急げ!」

「時間がない、誰でもいいからいけ!」

 

 オーレッド国際空港は再び慌ただしくなる。すでに滑走路の向こうには車輪を下したX-02が接近してきていた。トリニティの中に飛び込んだせいでエアインテークが変形して半分ふさがっていた。車輪もうまく機能するか不明だったが、そこは祈るしかない。

 

「オーレッドタワー、こちらガルム1。エンジン一基破損、その他損害多数。緊急着陸を要請する。」

『オーレッドタワーよりガルム1へ、了解。滑走路34Rへの緊急着陸を許可する。お帰りなさい、サイファー』

 

 生き残ったもう一基のエンジン温度が上がり始める。これ以上飛ぶと爆発する危険があったため、早急に着陸しなければならない。だが、焦ったらそこで終わりだ。サイファーは細心の注意を払って機体を降下させる。ギア、OK。フラップ、ダウン。エアブレーキ、開。機体進入角度、良好。

 

 高度100。進入灯通過。ピッチアップ3度。滑走路進入、出力アイドル。X-02は損傷しているとは思えない鮮やかさでタッチダウン。機首上げのまま減速し、ノーズギアも設置する。ブレーキ展開、車輪に異常はなし。そのまま滑走路の真ん中で停止し、エンジンをカットした。

 

 

 

 

 消防車両の消火を受けたのち、ワイバーンはトーイングカーにてエプロンまで運ばれた。キャノピーを開き、疲れ切った体をどうにか起こしてラダーに足をかけるが、最後の一段を踏み外しそうになり、駆け寄った海里が危うく受け止める。

 

「すまねぇ……もう歩けん」

「バカ……ほんとに、無茶するんだから」

 

 肩に腕を回し、どうにかサイファーを持ち上げて歩かせる。この男は本当によくやった。みんなは英雄だというだろうが、海里はどちらかというと心配をかけてばかりの旦那に呆れていた。しかし、今日は許してやろう。いま彼は地面に降り立ち、安心しきっていたのだから。

 

「……ほら、見て」

 

 海里はサイファーに顔を上げるように促す。顔を上げてみると、目の前には見知ったヴァレーのメンツと、各国から集められた兵士たちが歓声を上げてサイファーを迎えていた。

 

「円卓の鬼神、万歳!」

 

 そんな声があちこちから聞こえてくる。自分はそんな玉じゃないのだがとサイファーは思うが、海里は違うと否定する。

 

「彼らはあなたを鬼神って認めたのよ。再来でもなんでもない、本当の鬼神になれた。お父さんは、今のあなたを誇りに思うに違いないわ。あなたは立派に鬼になれたのよ。サイファーがどう思っていようとも関係ない。周りがあなたを鬼と呼ぶ。それでいいじゃない」

「…………そう、かな」

「そうよ」

 

 ギャラリーはヒートアップし、上空待機していたほかの戦闘機が上空でアクロバット飛行を行う。歓声は鳴りやむことを知らず、無線機はサイファーをたたえる声で満たされていた。少しむずがゆいところはあったが、まぁいいかと思う。

 

「そっか。そうだな」

 

 サイファーは自分の右拳を見る。ぼろぼろになった手は青春とともに歩んできた大切なもの。その手につかんだのだ。自分が目指したものに。その手で守ったのだ。隣にいる自分の守りたかったものを。

 

 サイファーは右手を大きく突き上げる。そして叫んだ。

 

「俺は! 円卓の鬼神だ!!」

 

 

 




オーレッド湾上空。一気のB-2爆撃機が悠然と飛んでいる。その機体から放たれた復讐のためのミサイル、トリニティは確かに目標に向けて飛んだ。だれもが油断している最高のタイミングで放ち、成功するはずだった。

 なのに迎撃されたのだ。真正面から突っ込んできた戦闘機に、機銃で。最後の任務を任されたベルカパイロットたちは困惑した。

「バカな! なぜだ……なぜこうも!」
「こうなったら、我々が首都に飛び込んで爆破だ! そうすれば一矢報いることが……」
『残念だがそれはさせない』

 無線の中で誰かわからない声がする。なんだと? パイロットがそう言おうとした瞬間にミサイルアラート。回避するまもなくB-2は炎に包まれ、復讐者の断末魔を残し、破片を散らしながら落ちていく。

 火を噴き、海に没したステルス爆撃機を、二機の戦闘機が見下ろしていた。先頭を行くのは主翼を青く染めたF-15C。そして後方にいるのはリボンのエンブレムを背負ったF-22だった。

「さて、後始末完了だ。これで心置きなく安心できるだろう」
「まったく、あなたもおせっかいな人だ。隠れていろって言われていたのにのこのこと出てくるなんて、変わりませんね」
「まぁ、そう言わんでくれ。お前だって娘が心配できたんだろう? お互い様じゃないか」
「義父親として当然のことをしたまでです。隠居しなきゃいけないあなたが来なくても、私だけで十分でした」
「まぁ、娘たちに父親らしいことをしてやれなかったからな。せめてもの償いだよ」
「私だって、あの子に父親らしいことなんてできてません」
「そうは思えんな。娘さん元気にやってるじゃないか。そして彼女を育てのはお前なんだ。自信持てよ、ひよっこ」
「まだそれ呼びますか」
「お前は一生俺のひよっこだ。これは揺るぎない。まぁ父親としては一人前だがな」
「……面倒な人を教官にしてしまったな」
「なんか言ったか?」
「なにも」
「ふむ、さて俺たちの出番も終わりだ。帰ったら娘の結婚式に出席する準備しないとな。お前さんもそう遠くないかもしれんぞ」
「変な男なら主翼のミサイルパイロンに括り付けてマッハ超えてやるんで」
「おーこわいこわい」

 イーグルのパイロットはオーレッドの方角を見てにやりと笑う。さぁ、そろそろ帰ろうじゃないか。これからは彼らの時代だ。自分の出る幕はもうない。これから帰ったら長いこと会ってない娘たち、そして愛弟子に顔を出してやらねばならないだろう。

「オールドガルム、並びにメビウス1。任務完了、これより帰投する」

 二機の戦闘機が、翼を翻して東に向かい、朝日の中に消えていく。歴戦の兵士が去るその様は、まるで新しい時代を受け入れ、そして古き時代の終わりを告げる世界を体現したかのようであった。


ACE COMBAT ZEROⅡ   THE・UNSUNG BELKAN WAR

                                ―終―
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