強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第28話 再臨 巨人殖装

 

 

 

 今回は、なんとか間に合った。

 戦場のなかにおいてほんの一瞬だけよぎったのはその一言だ。 後一瞬、ほんの一息の最中で危うく仲間をもう一度失うところだったのだ。 

 

「つばさ……さん」

「響君、気をしっかり持つんだ」

「わた、し……つばささん……に」

 

 それでも立花の負った傷は深い。 ギアも身体も、そして心もだ。 放心し、司令に抱えられている彼女の身体は既に制服姿に戻っている。 シンフォギアを維持するだけの精神力さえ無い、そこまでの激闘だったのだとは思う、だが。

 

「貴様! 立花になにをしたッ!!」

「簡単よ、事実を告げたのみだ」

「なに?!」

「夢見る少女に現実の厳しさを教えてやったまでと言ったのだ! 行け、ガイバーⅠ!」

 

 ヤツが叫ぶといままで立ち尽くしていた深町が、否、ガイバーⅠがこちらに向かい高周波の刃を展開する。 あれはアームドギアすら切り裂く代物、真っ向から打ち合えばただではすまない。 即座に剣を振りかぶると一閃、蒼い斬撃を飛ばす。

 

「蒼ノ一閃!!」

「…………」

 

 やはり避けられたか。 こちらの動きを先読みされている感覚、深町との訓練が仇になっているのか。 ガイバーの持つセンサーと、コントロールメタルの高度な演算能力は確かに脅威だ。 現にこちらは攻撃が当たらず、徐々に被弾が増えてきている。 だが、ソレがなんだというのか。

 

「はぁ!!」

「…………?」

 

 一振りアームドギアをヤツの真横を通過させる。 それに気にかけないヤツは、両手を砲門のように見立てて……そこで動きが止まる。

 

――――影縫い。

 

 人の影とはその人間の裏、すなわち半身である。 それに特別な暗示と念を込めて突き刺すことで対象をその場に縫い付ける。 緒川さんのように完全な物ではないが、相手の意表を突く事ぐらいなら出来る。

 一見何でも無いアームドギアの投擲を、そうとも知らずに見過ごした奴の痛打。 ここを攻めない剣ではない――――反撃に転じる刹那、横合いからの気配に身をかがめる。

 

「ちっ! 外したか」

「っく、2対1は流石に分が悪い」

 

 不可視の攻撃、重力砲が飛んできたのだろう、頭上に風を感じると近くの壁が一気に瓦解する。 あの威力をこの距離で喰らえばひとたまりも無い、ここは狙いを変えて一気に櫻井女史を落とすべきか。

 一息の溜。 腰を一気に落とすと横方向の跳躍。 距離を一気にゼロにすると白い装甲に蹴りをたたき込む。

 

「ぐぅぅうう!?」

「貴方にはここで沈んでもらう!」

 

 剣が、刃が。

 二人の獲物が同時に展開すると、それぞれが交錯する。 手応えは半々だ、ならば確認するまでもなく獲物は捨てた方が良い。 すぐさま新しいアームドギアを創り出すとそのまま大型の刃に展開する。

 

「思い切りは良いが甘いぞ!」

「―――!?」

 

 赤い閃光が頬をかすめる。 っく、ヘッドビームか、アレなら確かに隙が少ないが、この速度に付いてこれるとは、もしかしたら深町よりもガイバーを使いこなせているのか。 しかし、やることを変えるつもりなど微塵もない。 ガイバー相手に中、遠距離戦など敗戦確実、決してこの距離を開けてはならない。

 

膝蹴りをもらい息を吐き出しそうになるが、足首の刀剣を変形させて反撃。 バックステップで距離を取られ、手の平がこちらに向く。 撃たせるか、そう思い距離を縮めると待って居たのは堅牢な拳の雨だった。

 

「がっ――」

「ガイバーの怪力はバケモノを素手で殺す、ソレをもろに喰らえばどうなるッ!」

 

 顔面に1発、胴と右肩に3発ずつ受けてしまう。 この間のクリーチャーを素手で瞬殺した攻撃は、いくらバリアフィールドで守られたギアですら耐えきれる物ではない。 徐々に軋んでいく。 

 

「ぐふっ――!!」

「離れろ……」

「だぁあああッッ!!」

「離れろと言っているのがわからないのか!! おろかものがぁあああ!!!!」

 

 そんなことは先刻承知、嵐の中心地に向かう愚行などいつもやってきたことだ、慣れている。 それにこんな拳の雨などステージのスポットライトに比べればどうと言うことは無い。 戦闘継続だ。

 

 高周波の刃は可動範囲に難がある、通り過ぎざまに切りつけるような武装は接近戦では逆にジャマになる。 至近距離は本来なら立花が有利になるはずの位置取りだが……今はいっている場合ではないな!

 

「1」

「くっ!」

「2」

「このっ」

「3」

「こいつ、動きを読み始めているだと!?」

「情報だけではわからないことが確かにある、実践の繰り返しによる戦闘感。 貴方にはソレが圧倒的に足りない!!」 

 

 この世界でガイバーとの戦闘経験はおそらく私と雪音の首位独占だろう。 だからわかる、ガイバーの弱点というモノが。

 

「ソニック・バスター」

「はああああ!!!!」

 

 音波攻撃にはグロウヴの調整のためか一瞬の予兆がある。 私達で言うところの歌う前の深呼吸、その息づかいを肌で感じた瞬間に右手に持ったアームドギアを高速回転。 ……奏、技を借りるよ……

 二人の周囲に風が吹きすさび、壁となって閉じ込められる。

 

「小型の竜巻! チューニングが追付かない」

「ここだ!」

 

 ヤツが視線をこちらから外した一瞬の刹那。 アームドギアに全エネルギーを注ぎ込み、刀身を蒼く発光させる。 溜を終えた瞬間に白い装甲がこちらを向いた。 視線が交わるとヤツの手の平が動く。 ガイバーに防御の機能は無い、先手を取ったこの一撃を防ぐ事は不可能。 肩口目がけて袈裟切りにする。

 

―――蒼ノ一閃

 

「……………………」

「――――――――」

 

 剣は確かにヤツを捕らえた。

 装甲を切り、肉を裂き、重要臓器にさえ届いたはずだ。 そこまでの強力な斬撃、胸部装甲の片方を潰した今の一撃はヤツを沈黙させるに足る威力であった。 切り裂いた私はしかし即座に背中を冷や汗が通る。

 ヤツの目が赤く光る。

 憎しみか、それとも憤りか。 決してプラスの感情ではないそれを前に、心まで剣と化したはずの私は気後れしてしまう。 圧倒的な隙、ヤツはソレを見逃さなかった。

 

「取ったッ!!!」

「なに……ッ!?」

 

 普通ならば、そう、ただの人間の身体なら。 シンフォギアを纏ったという想定ならば致命の一撃だっただろう、しかし相手はほぼ不死身の身体を持つ強殖装甲システム、ガイバー。 そんな身体の仕組み、肉体の修復を考えに入れていなかったのは最大の失点であった。

 ヤツは、必殺の一撃を放った直後。 その後の身体の硬直を決して見逃さなかったのだ。

 

 獲物ごとヤツの身体に縛られた私は理解した。 そうか、これはあのときの奏と同じ――

 

「貴様、ギアごと私を取り込むつもりかッ!」

「完全聖遺物ですら出来たのだ、今更人間一人どうだというのだ!!」

「狂ってる……!」

 

 ギアを突き破らんと、ヤツの装甲が触手状にばらけて襲いかかってくる。

 

「喰ってやるぞ! 天羽々斬ッ!!」

「ぐぅぅッ!!」

 

 シンフォギアの装甲を、バリアフィールドを突き破って強殖細胞が私を襲う。

 細胞の隙間をすり抜けるように私のなかに入り込み、己の色に染め上げようと暴れ狂うようだ。

 

 剣を、腕を、胴体すら巻き付かれて犯されて行く最中、私がしたことと言えば……思い出すことだった。

 

「あぁ、そうか」

「なに?」

「やっとわかった。 奏の、あのときの思い」

 

 剣は所詮剣でしかない。 折れず、曲がらず、よく切れる。 それは己の生き方にするには相応の覚悟が必要で、決して楽な生き方ではなかった。 だが、人類守護を心に決めたとき、私は確かにその身を剣としたのだ。

 奏はただ、その生き様を貫き徹したからあんな顔で私を送り出したのだ。

 

「…………Aa」

「このフォニックゲインの高まり……まさかッ!」

 

決して曇らぬ一振りの剣に、いま出せる最高の詠を聞かせる。 まるでギアに己の血脈が広がるような感覚。 真に剣と化した私は、その意識を白い装甲へと向ける。 胴に浸食していた強殖細胞が勝手に千切れ、地面に落ちていく。

 

「身を捨てる気か風鳴翼!!?」

「なに!? 翼ッ!!」

 

恐怖はない。

当然だ、この身は既に剣と化した。 そこに映る波紋には一寸の曇りがあってはいけない。 あるのはただ、己という存在だけ。 切ると言う感情すら邪魔になる。 雑念のすべてを取り払ったその先、常在戦場を越えた無明の領域まで……

 

 剣を引き抜く。

 

 本当にただそれだけの動作ですべてが終わった。

 

 

 

 全身のギアは粉砕し、持っていたはずの剣は微塵へと相成った。 あぁ、この領域はまだ私には早かったか。

 

「翼……翼ッ!!」

「し、れい……」

「おまえ……なんてことを」

「あとは――」

 

 そうだ、一つとなった(わたし)が微塵となったのだ、この結果は当然だった。 だが、まて。 もう少しだけ用事がある。 あと一言で良い、時間をくれ。

 

「任せたぞ、フカマチ……」

「………………」

 

 私に出来ることは、ここまで……だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風鳴翼が、その身を賭した全身全霊の一撃は振り抜けなかった白いガイバーの装甲を、否、完全聖遺物と一体化した未知のガイバーを一刀両断にした。 切り裂かれた左半身は再生することも出来ず微塵になって消え失せ、体勢を狂わせたフィーネは地面に倒れ込む。

 背を地に着けるまで、己の身に起った事を理解できずにいた。

 

 物のついでだと思った天羽々斬、風鳴翼。 ガイバーⅠ、深町晶に比べて高い技量を持つ彼女は、しかしある一定の爆発力がない、言ってしまえば小綺麗に整った戦力であった。 故に御するのは簡単だと、どこか見下していたところにこの反撃だ。

 

「くく……」

 

 だから嗤った。

 自身の計算違いがここまで楽しいのはいつ以来だろうか。 あの、追い詰められたシンフォギア装者が放つ絶唱を、まともに食らって地に伏せた、これは良い。 仕方が無い事だろう。 全身を血流のように巡るフォニックゲインをアームドギアに収束、斬撃として放つのが天羽々斬が持つ絶唱。 しかし今のは違う。

 

 すべてのフォニックゲインをアームドギアという末端から放出するのではなく、己がすべてを刃と化したのだ。 出力による負担を度外視した攻撃力はまさに必殺の威力を持っていた。 完全聖遺物と強殖装甲を身に纏うフィーネですらその攻撃力に身体を粉砕されるほど。

 

「今のは、効いたぞ」

「ふ、吹き返した……だとッ!?」

 

 そう“身体は粉砕された”からこそ、嗤いが止まらなかった。

 

 ここまでされて、ソレこそ完全聖遺物の回復力ですら間に合わないダメージを負ったと言うのに意識はあるし、徐々に身体が戻っていく感触もある。

 

「ガイバーⅠ! お前がくれたチカラは最高だッ!!」

 

 ……だが。

 

「な、に?」

 

 不意に、装甲がひび割れる。

 そこは先ほど回復したばかりの箇所だったはずだ。 新しい細胞に置き換わり、次の細胞を生み出すために蠢いていたところで、突然その活動を終わらされたのだ。 この変化に皆が驚く。

 

「ぐッ!? なんだ、回復したところが崩れていく!!」

「翼の絶唱がまだ続いているのか!? 装者が倒れた後まで続く攻撃、いや天羽々斬の斬撃!」

「く、はぁっ! か、身体が……ッ」

 

 風鳴翼の全身全霊を受け、ただで済むことも叶わず。

 かの竜殺しを逸話に持つ大和國の刀剣、それはネフシュタンと言う大蛇をいつまでも切り裂き続けた。 再生を象徴する蛇だと言うのなら、その都度殺すまでだと切り裂くさまは執念すら感じさせる。

 

「がッ!? ぐあああああ!!」

「死と再生の連続、普通の精神ならば既に発狂してもおかしくはないが、脳に絡みつくコントロール・メタルがソレを許さないというのか」

「やめろ! これ以上は! ガッ! ギヤァアアアア!!」

「傷口から斬撃が全身に回っていく、アレはもう毒ではないのか」

 

 弦十郎はまだ気がつかなかった、あの白いガイバーは今、自身の能力故に苦しみ喘いでいるのだと。

 

「取り込んだ翼のギアか! っく、排除できない」

「翼のギアが!?」

「ノイズ、来いノイズ共!! 私の傷を塞げ、身体を作り直せ!!」

 

 一つ呼べば養分に、二つ呼べば再構成を促していく。 組成を変更していくことで翼からの傷を消していこうとする算段だろう。 だがそれでも彼女の斬撃は収まるところを知らない、傷口は再生に拮抗するように広がろうとしていく。

 立ち上がることすら困難なフィーネは、ここで一つ決断を下す。

 

「……やれ」

【……ッ!】

「なん、だと!?」

 

 フィーネのガイバーが両断される。 唯一無事である頭部を残し、その躯はノイズ達に喰われ、黒炭に変換させられた。 まさかの事態に目を見開いた弦十郎だが、すぐに感づいた。 彼女の悪魔のような発想に。

 

「了子君……まさか!」

「頭部さえ無事ならば後はノイズを躯へと再構成する……頭部のすげ替えなど普通は拒絶反応で不可能だが、ガイバーならば出来るはずだ」

「こんなこと、可能なのか」

 

 既に生物としての枠組みを超えた存在、ソレがこのフィーネであると確信した。 死ぬはずのダメージを与えても蘇り、死に続けるはずの攻撃さえも回避したその躯は徐々にヒトの形から離れていくようであった。

 

「ふ、はは……いいぞ、躯を再構成してやったぞ」

「キミはもう、人間ではないのか……!」

「あぁそうさ、私は既に人類を超越した! 完全聖遺物、ノイズ、強殖細胞! そのすべてを融合し、昇華したこの躯はもはや貴様等人類には到達し得ない段階へ昇ったのだ!!」

「……それが、そんな獣のような姿なのか」

 

 白い躯に黒い外殻が形成されていく。 その躯は先ほどの引き締まった体躯ではなく、荒々しい猛獣を思わせるモノへと変異した。 多数のノイズと、完全聖遺物を取り込み、ガイバーの強殖細胞が強制的な進化を遂げてしまったからなのだろうか。

 その姿はどう見ても“後戻り不可能”なレベルに到達していた。

 

「風鳴翼」

 

 ヤツの脚が防人へと向く。 深町晶は手中にあり、立花響は脅威たり得ない、ならばいまやることは一つしか無い。 先刻の絶唱、アレは危険だ。 もう一度奇蹟が起きないとも言えないのなら、可能性の芽はここで摘むべきだろう。

 

 フィーネの腕が歪に変形していく。

 

「よせ……ッ!!」

「そこで見ていろ弦十郎ッ、ここで、貴様の……が死にゆく様を」

「おまえ……!!」

 

 爪だ。 刀剣などという芸術品ではない刈り取る事を前提にした禍々しい形。

 既にシンフォギアが解除された翼にはその爪はあまりにも鋭すぎて、殺傷力が高すぎる。 それほどの殺意、そこまでの危機感をフィーネは確かに感じていたのだ。

 

 だから、ここで立ち上がるのだ。

 

「ま、て……」

「……弦十郎」

 

 男が立ち上がる。 歪む景色は頭を振って戻し、身体の傷は強がりでやり過ごし、圧倒的な戦力差は――――

 

「ここで立ち向かえないでなにが大人かッッ!!!!」

「こいつ、まだこんなチカラを隠していたのかッ!!?」

 

 気合で補うだけだ。

 

 弦十郎の咆哮が開戦の狼煙だった。

 襲いかかる爪を最小限の体裁きで回避、一息の合間にヤツとの距離を限りなく零にする。 拳を振るうことすら叶わない世界で、フィーネの身体にそっと手の平を沿わせようとする。

 

「二度同じ事を許すと思うか!!」

「がはッ!!」

 

 弦十郎の身体が横凪に払われる。 奴の身体、その後ろから伸びる装甲にやられたのだ。 

 口の中に鉄の味が広がり、視界が半分赤色に染まる。 気を失わないだけありがたいのだが、如何せんこれ以上の戦闘力は発揮できそうにない。

 

「……肋骨を4本持ってかれたか」

「火事場の底力がそう長続きするモノか。 今度こそそこで待って居ろ、いま、カタを付ける」

 

 先ほど攻撃に使用した、尾のような装甲を自在に操り翼を拘束していく。 右手を軋ませると獣の爪がさらに鋭く伸びていく。 喉元へ伸ばすと顔を歪め勝利の余韻に浸る。 あぁ、自身をここまで痛めつけた存在を今度は逆に殺生与奪を握る。 それは代えがたい至福であった、快楽であった。

 だから、もう少しだけ浸りたい気持ちに駆られて……

 

「おっと、手が滑った」

「うっ……」

「翼ぁぁッ!!」

 

 肩口に刃が貫通する。

 ゆっくりと嬲り、人類守護のために立ち上がった防人を辱めていく。 弦十郎という不確定要素を無力化したのだ、ならば、もう自身を遮るモノなど――

 

「おい、そいつを離せ……」

 

 フィーネの歪んだ笑顔が一瞬だけ素に戻る。

 

「今の声は……」

「ま、まさか!」

 

 フィーネはおろか弦十郎さえ驚愕し、愕然となる。

 今の声は、ここにあるはずのない、いいや、この世にあるはずのない声であった。

 

「今の声は、お前が出したのか……!」

「…………」

「こ、答えろ!」

 

 熾烈で苛烈、しかして根底にあるやさしさは最後には一人の少女の心さえ救って見せた。 信念と使命を背負い戦場を駆け抜けたはずのあの―――

 

「ガイバーⅠ!! ……いや、“天羽奏”ッッ!!!!」

「キミ、なのか……!」

 

 ガイバーⅠの持つバイブレーション・グロウヴから発せられるあの少女の声。 それは二人の間を貫き、混迷の戦場を穿った。 

 

「あり得ん! 私はそのような行動を設定した覚えはない!!」

「……はなせ」

「なに!?」

「翼を……離せ!!」

「貴様!!?」

「ハナセェェェエエエエエ!!!!」

 

 身体が引きつけを起こしたかと思えばガイバーⅠが激変していく。

 

 身体が肥大化し、その背中が隆起すると一対の腕が生えそろう。 あまりにも異常な事態に弦十郎もフィーネも彼から距離を取り、その激変を見守ることしか出来ない。

 

「な、なんなのだお前達は」

「ソイツニテヲダスナ!! オイ、“オマエ”モハヤクメェサマセ!!」

 

 獣が咆哮する。

 ガイバーⅠの躯から沸き上がり、今にも飛び出そうとあがくソレは檻に入れられた怪物であった。

 

 腕が4本となったガイバーⅠはフィーネに肉薄する。

 

「こ、コイツ!!」

「グゥゥウウウ!! オマエ タタキツブス!!」

 

 フィーネはすかさず高周波ソードを展開、ガイバーⅠへと叩きつける。

 肥大化した躯を切り裂いていくソード。 同時、フィーネのガイバーが尾を振り回しはじめ、鋭利な刃となった尾はガイバーⅠの胸部を切り裂こうと迫る。 

 

 喚くこともなく、ただうなりを上げるガイバーⅠは4本の腕を地面に叩きつけ地面を滑空する。

 

「速い!?」

「ウォォオオオオ!!」

「違う、先ほどまでの機械的な戦闘じゃないぞ、あれはヒトの感情がある戦いだッ! まさか――」

 

 烈火の如く拳を振るうその姿は過去どれのガイバーを思い起こしても当てはまらない。 しかし、2年以上まえに弦十郎は確かにこの戦いを観た記憶がある。 ソレは、一本の槍となって戦場を貫き徹した彼女の姿である。

 

「……奏、キミなのか」

「死に損ないが手を組んで復活とは! ……貴様はもう舞台から下りたのだ! なら、素直に消えるのが定めだろう!!」

 

 四本の腕は攻防を繰り返し、フィーネの攻撃を捌いていく。

 本来の腕が防御をすれば増えた腕で攻撃を行う。 攻防一体のその身体は、まるで二つの意識が躯を操っているような気さえおこる。 めまぐるしい戦闘はフィーネに過度な負担を強いる。

 

「つぁあ!!」

「………ッ!?」

 

 高周波ソードを重ね合わせると超音波があたりを破壊する。 その共振の最中、フィーネの尾が鋼の鱗を展開し、ガイバーⅠの頭上へ弾丸の雨となって降り注ぐ。

 

「――――ッ」

「はははは!! 勢いだけの貴様など所詮この程度!」

 

 全身を穴だらけにされたガイバーⅠはもろくも崩れ去ろうとした。 だが、ソレを許さないと背中の腕が地面を叩く。 まだ、内側に眠るで在ろう存在が敗北を許さないのだ。 戦え、立ち上がれ、悪を倒せと空っぽになった深町に熱をくべていく。

 

「…………ッ」

「なぜまだ立ち上がる」

 

 愚劣なまでの進撃。 ここで倒れるわけにはいかないと、ここでアイツを倒すんだという気迫はついに執念を凌駕した。 鬼神のごとき姿で鱗の雨を超音波でかき消して、高周波の刃は重力変を起こした片手で受け止める。 

 

「こいつ、徐々に戦い方を――」

「………………」

 

 洗練されていく戦い方。

 弾かれるたびに速く、撃たれるたびに見切りの精度を上げ、攻撃をするたびに強くなる。 ソレは機械のままでは出来ない進化の仕方。 他を取り込むだけでは決して出来ない、研鑽されていく事による成長はここに来て、確かにフィーネの予測を超えていく。

 

 完全聖遺物を、ヒトの力が凌駕する。

 

「あり得ない! いくらオリジナルのガイバーといえど……遺伝情報の違いで性能差が在ろうとも、ソレを完全に超える仕組みを考え実行した! なのになぜ奴はこれほど追いすがる!!」

 

 フィーネのコントロール・メタルが淡く輝く。 暗く、禍々しく。 その心内を現わすかのように真っ黒に。

 

「あぁ、ここですべてを終わらせてやろう……装甲、展開!」

「な!? あれはッ!!」

 

 フィーネの胸部と尾の装甲が堅い口を開ける。 中にあるレンズ体が大気に触れると、ゆっくりとしかし強く発光していく。 

 

「こんな地下でメガスマッシャー……だとッ!!」

「塵芥に還るがいいッ!!」

「…………」

 

 フィーネの照準はガイバーⅠで間違いないだろう。 だが、こんなところでスマッシャーを撃ってしまえば間違いなく崩落が起こり、内部に残された人間など圧死は免れないだろう。

 もうチャージは終わってしまっている。

 彼女に攻撃を取りやめる気など無く、ここを乗り切るためには同じ物をぶつけても無駄な事だろう。

 ……どうすれば、これを押し切ることが出来るのだろうか。

 

 ガイバーⅠの両腕が体積を増大していく。 あまりの筋肉量は攻撃のためではない、そう、これは骨格の強度不足を補うための処置でしかない。 ガイバーが4本の腕で黒いひずみを収束させていく。 アレは、危険だ。

 

「極小のブラックホールだとでも言うのか!? ガイバーにそんな出力は出せないはずだ!!」

「ソイツニ ツバサ テヲダスナ!!」

 

 獣が叫ぶとフィーネに収束したはずの黒いひずみが威力を増大していく。

 

 大地が鳴動し、空間が揺れる。 殖装者の異常事態にコントロール・メタルが解析不能の動作を起こし、殖装体がその形態を保つことが出来ずにいる。 故の体積の増加、だからこその暴走。 フィーネにすら予測不可能な事態に弦十郎はただ、近くに居る少女達が巻き込まれないように抱き寄せることしか出来ない。

 

「くそッ! すべて消え去れ!! メガスマッシャーッ!!」

「ウォオオオオオオオオオオッ」

「晶君、奏……」

 

 その声は、彼等の鳴動にかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

 

――――あぁ、また殺された。

 

 少年はチカラが欲しいと願った。

 

――――俺はなんて弱い。

 

 ただ、その力を振るうのに値する存在がこの世界に居なかっただけであって。

 

――――チカラが欲しい。

 

 シンフォギア装者も、ノイズも、完全聖遺物ですら“アレ”が顕現するには脅威度が低すぎたのだ。

 

――――圧倒的な、誰にも負けない躯が必要だ。

 

 危険度がないから深町が必死にならなかった。

 たかが片腕の炭化じゃ足りない。

 躯が半分になるのもまだ刺激が足りない。

 彼が本当にチカラを欲するには足りないのだ。

 

――――この程度で死ぬようじゃ、アイツに勝てない。

 

 どれもこれも足下に及ばない……あの、神がごとき力に比べたら……

 

 

 すべてをなげうって、それでも届かないであろう超越者。 人類の祖であり、すべてのロードの源であるあの金色の超生物。

 

 倒さなければならない。

 守らなければならない。

 どうすれば良い?

 ……そんなこと、最初からわかりきっている。

 

 強大な力が現れたというのなら、自身を脅かすチカラが現れたというのなら――――

 

 

 

 

――――――――ソレを破壊する、さらに強大無比な力を振るえば良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■――――!!!」

「な、なんだこれはッ……」

「メガスマッシャーが……吸い込まれて往く」

 

 深町のガイバーが雄叫びを上げる。

 すべての力を結集したマイクロブラックホールに、尾を加えたフィーネのメガスマッシャーが無力化されていくのだ。

 

 

「な、なんだこれは!?」

 

 弦十郎は我が目を疑う。 今し方撃たれたメガスマッシャーは強力無比、普段深町が放つ威力の優に10倍は出ていたはずだ。 フォニックゲインとガイバーとの相乗効果をフィーネが計算した上での攻撃なのだからそれは当然だったろう。

 

 放たれた3門のスマッシャーは、しかしガイバーはおろか地下施設に直撃することは無かった。

 

 すべてだ。 フィーネのガイバーが今もてるすべての攻撃は今、ガイバーⅠが出した黒いひずみの彼方へと消えていったのだ。

 

 それがどこへ繋がっているかなどわからない。 その向こう側になにがあるかなどわからない。

 

 だが、フィーネは強殖装甲越しに感じ取ってしまった。

 

 

――――今の攻撃が呼び水になってしまったのだ……と。

 

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおお!!」

「な、なんだというのだ貴様は……そして、その背後には何があるというのだ!!」

 

 叫び声がヒトの理性を取り戻していく。

 獣の声ではない、ヒトの形をした声は只叫んでいるのではない。

 

 呼んでいるのだ、誘っているのだ。

 

 この世界に、歌声が守護しているこの星に現れた異物を今度こそ打ち倒すために。

 

 

――――――――少年は、力を求め叫んだ。

 

「ガイバーぁぁあああッ!!」

『!!?』

 

 脈動した。

 歪みの向こう側で何かが目を醒す。 ソレは、この世界では不要だったはずの力。

 

「ガイバーぁぁああああああああああッ!!」

 

 起動した。

 次元を超えし世界で“ソレ”は静かに動き出した。 力を真に求めた主のため、今一度その姿を顕現させる。

 

「ガイバぁぁぁあああああああああああああああッ!!!」

 

 ガイバーⅠの背後にある歪みが一気に押し開く。

 幾重の刻を重ね、自らの間違いをようやく理解した少年の願い。 その叫び声が響くとき、力が世界に再臨する。

 

「ガイバァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――――――――――――ギガンティック!!!」

 

 少年はその名を解き放つ。 瞬間、世界が戦慄き恐怖する。

 

「な、なんだそれは……」

「アレは……ガイバーなのか?」

 

 歪みの向こうからやってきたのは……装甲。

 頭部、両腕、両足、ヒトの形にそって配置されたそれらは一つ一つが大げさなまでに強固であり、強大であった。 ヒトが、ガイバーが纏うにはあまりにも大きすぎたソレは、明らかに規格外の物体である。

 

 だが考えてもみよ、そもそもガイバー自体こそ規格外という名を冠する存在なのだ。

 

 ならばこれはきっとただの鎧では……そもそも、装備ですらない。

 

 …………新しい躯なのだ。

 

 腕に組み付けば剛力を与え。

 脚を伸ばせば強靱な脚力を。

 胴体を包み込めば堅牢な躯を形作る。

 

 規格外に規格外を掛け合わせる。 そんな間違いだらけの禁断の力を今、少年はこの世界に呼び出してしまった。

 

「…………」

「おまえは、なんなんだ……」

 

 静かに佇むソレはあまりにも巨大。 ただ、獣が吠える姿を聞き流せば、そっと腕を振るってみせる。

 

「――――ぐぅぅっ!!?」

「奴が吹き飛んだ……だとッ!?」

 

 それだけで難敵を遠くへ退かせてしまう。 あまりにも簡単に、あっけなく。

 

「…………」

 

 巨人は歩く。 悠然と、仲間達の元へとゆっくりと。 風鳴翼と立花響を、巨大な腕で抱えると今度は弦十郎のもとへ。 非常にゆっくりとした動作なのは余裕の表れか、はたまた手にした者達を傷つけまいとする気遣いか。

 二人をゆっくり地面へ横たわらせると弦十郎と目が合う。

 先ほどまで死闘を繰り広げたガイバーと一人の大人だが、今はもう、その隔たりは消えているのだろう。 ゆっくりと身を起こした巨人は、装者二人に両手を置き、頭部を淡く輝かせる。

 いままでのコントロール・メタルを中心に金属リングが追加されたデュアル・コントロール・メタルは、今までよりも強固な発信を行い、二人の装者の覚醒を促す。 が、ソレを見逃すフィーネではなかった。

 

「させるか……させて堪るかガイバー!!」

「くっ、奴めまだ――晶君!!」

「…………」

 

 フィーネの全身が励起すると、鱗状の物体が巨人と仲間達の周囲へと襲いかかる。 逃げ道を完全に経ったこの攻撃に、弦十郎は咄嗟に少女達のうえに覆い被さった。 せめて彼女達だけでも……その思いはとても尊くて、美しいものだ。

 

 だから守ろう。

 

 この美しい人たちを、自分は守っていくんだ。

 

 そう、ガイバーはもう破壊するだけの生物兵器なのではない。

 

 

「……………なにが、おこった」

「……」

 

 爆発は起きたはずだった。 しかし弦十郎も少女達も無傷。

 ただ周囲の地形だけはすっかり変わり果て、通路だったこの場所はもはや広場と化している。 その中で、ただ自身を、いいや、巨人を中心に数メートルだけもとの景色を残しているのだ。 それは、ここだけ爆発を免れたと言うコト。

 

 打ち落としたのか?

 

 だがいったいどんな武装を……おもう弦十郎に、フィーネが否定した。

 

「このガイバーは……バリアを張ると言うのか!!?」

「バリア……だとッ!?」

 

 今までにはない新しい機能は、守るための力だ。 ソレこそガイバーにはなかった物であり、少年が求めていた機能に他ならない。

 

「だったら肉弾戦で――」

 

 フィーネのガイバーが尾を地面に叩きつけると一気に強襲してくる。 あの巨体だ、先ほどから動きは散漫だし機動力は大幅に落ちているのだろう。 そう考えた上での単騎特攻は――

 

「しッ――――!!」

「…………」

 

 巨大な拳が近付いてくる。

 

 それはあまりにも強固で、力強い者だとわかる。

 

 人の目で捕らえられない威力は、しかしガイバーのセンサーによりなんとか追うことが出来た。

 

 拳の周りに高エネルギーが張られ、ソレが自身に迫っていると認識した瞬間――――

 

 

 

「―――――――ぐぅぅぅうううッッ!?!?」

 

 

 

 フィーネの顎下から頭上に向けて甚大な衝撃が走り抜けていった…………

 

 途方もない力の衝突に彼女は意識を手放し、後に来る背中への衝撃で目を醒すまでの20秒間、彼女はひたすらに地上へ向けて飛翔していく。

 時速200キロで地上へ吹き飛ばされていくフィーネを巨人のセンサーが追っていく。 その先にある光景を透視すると、巨体の背中からプラズマが迸り、彼は天へ駆け上がっていった。

 

 悪魔を倒すために、巨人は今地上に飛びだつ。

 

 

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