強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第29話 力の解放

 

 

 

 いつも通りの帰り道だった。 響と別れ、そのままフラワーへ行こうとした途中、世界は大きく揺れ動いた。

 

 それがなんなのか、誰のせいで、なんのためにこんなことになったのかはわからない、だけど今、私は命を脅かされているのはわかる。 ノイズの大群がひしめき、施設は瓦礫の山と化そうとしている。

 

 だから走る。 息を切らさないようにリズミカルに、自身のペースを保ったまま全力で走り抜ける。 こんなに走ったのはいつ以来だったろうか、遠い昔を思い出壮としたけどすぐに私は現実に引き戻される。 だって…………

 

「おいお前! こんなところでなにしてんだ! はやくにげるぞ」

「クリス!」

 

 私の手を強引に引っ張って、助け出してくれた人が居たのだから…………

 

 

 

 

「あーぁ、貧乏くじも良いところだぜ」

「ご、ごめん」

「あ、……いや、いいんだけどよ」

 

 崩壊の一途を辿る施設の中を駆け上がるのは雪音クリスと小日向未来だ。 彼女達は現在、地下14階にまで駆け上がってきたところだ。 人間の脚力では無理だと判断したクリスが、未来を抱え上げながらの高速移動。

 一刻も早く、誰よりも速く、なんとしてもこの子を外へ連れ出すのだとクリスは全力で駆け上がっていく。

 

「邪魔だお前達!」

 

 ノイズの群れは撃ち落とし、有象無象を蹴散らしていく。 今まではただ、気にくわないと思った奴に弾丸を撃ち込んでいた彼女だが今日は勝手が違う。 抱える手には力がこもり、その歌にはいつになく気持ちが込められていた。

 こんな事は初めてだ。 こんな、こんな――

 

「…………へ、わるくない」

「クリス?」

 

 胸が躍る気持ちというモノは。

 

「いんや、なんでもねえよ。 よし、そんじゃ地上まであと5階だ、もう少しの辛抱ってやつだ」

「うん、ありがとう」

「……アイツが戦う意味、なんとなくわかった」

 

 弱きを助け、悪を打倒するその姿はいつか見た深町少年を想起させるものだ。 その姿に少女が重なると自然、未来の顔に笑顔が出始める。 あぁ、この人ならば信用できると……そんな気持ちがわき上がる。

 もう少し、あと少しで地上に到達する刹那のことだ。 施設がもう一度揺れる。

 

「気をつけろ! ……なんかやべえ揺れだ」

「なにか、来る?」

「かもしれねえな。 しっかり捕まってろよ」

 

 ギュッと、クリスの身体にしがみつくと未来はそっと目を閉じる。 これからきっと人知の及ばない速度で彼女は走り出す。 ならば自身に出来ることはもう、それを邪魔しないように縮こまるだけだ。

 それを合図にクリスは全力で駆け抜ける。 非常階段、崩壊したエレベーター、道がなくなればミサイルを再構成して飛んでいくと言う技を見せながら。 火急に特急に、とにもかくにも急いだ彼女はついに地上への扉を叩いた。

 

 

 

 

 

 

「…………お、おい。 なんだよこりゃあ」

 

 

 

 そこにあった光景に、全身を凍り付かせた。

 獣と巨人、相対する二つの異常はクリスをその場に縫い付けた。 身体の節々を伝う組織群と、それを覆う装甲を見るに二つは同じ系統なのだろうとわかる。 だが、こんな者達は見たことがない、否、存在するべきではないのだ。

 こんな、こんな――

 

「……あれは、不味い」

「クリス、どうなってるの」

「わかんねえよ、こんな……」

 

 身震いした。

 獣はその牙を剥き出しにして憎悪を振りまき、巨人は圧倒的なまでに静かに佇み、その力の底知れなさを見せつける。

 

「…………」

「――うッ!?」

 

 巨人がこちらを見る。 否、見たような気がした。

 視線は相変わらず獣を射貫き、こちらには一切の興味を感じさせないはずなのに、奴は、あの巨体は確かに雪音クリスを認識したのだ。 背筋に怖気が走り、今度こそ身体が硬直する。

 そこを動くことを許されない。

 この場でとどまれと強制される。

 

 この戦いに、介入するなと命じられる。

 

 雪音クリスは背負った人物と共に、この戦いを静観するしか出来ない。

 身動きできない中、たった一つノドをならし生唾を呑み込んだ刻だ、巨人と獣がぶつかり出す。

 

「ウォォオオオオッ!!」

「…………」

 

 獣が地面に尾を叩きつけると姿が消える。 一瞬で最高速に達し、シンフォギアを着けたクリスの目からさえも喪失したのだ。 姿無き襲撃者は、しかしすぐに攻撃に移れはしなかった。

 

「…………」

「あ、アイツ動かないけど目で追ってやがる」

 

 巨人はゆっくりと拳を握る。

 雪音クリスの見立て通りならば、奴はただ静かに攻撃のタイミングを見計らっているのだろう。 その証拠に、握りしめた拳には光が収束していくのだから。

 

 あまりにも膨大な力。 シンフォギアのシステム越しでも身体に伝わるソレは、クリスには覚えがあるものであった。

 

「……この感じ、まさかアイツ」

「クリス?」

「動くなよ、そのままアタシの背中でじっとしてな」

 

 ――――バカみたいな衝撃がくるぞ。

 

 クリスが踏ん張りをきかせた瞬間、莫大な破壊音があたりに暴れ狂う。

 

 大地には爪痕、空間には重力変。 辺り一帯が次々と粉砕されていく様を未来は唯々怯え、クリスはその一部始終に驚愕し、戦慄した。

 

 獣が牙を剥くならば巨人は横合いに拳を入れ、インパクトの瞬間に尾でたたき落として回避する。 中々通らない攻撃の応酬は姿が視認できない獣がやや優勢か、少なくともクリスにはそう見えた。

実際には、真逆であることなどわかりようがない。 それは仕方が無いことだろうか。

 

「――おのれ」

「…………」

「おのれおのれ!!」

「………………」

 

 獣は疾い。 風になり、風を切って往くその姿はもはや全身凶器だろう。

 

 だが、だが――

 

「喰らえッ!!」

「っ!」

「ぐぅぅッ!?」

 

 しかし、そんな凶悪な攻撃能力も、目の前の巨人からしてみればそよ風にも等しい。 

 

 獣は限界を超えた速度で攻撃に移ったのではない、巨人の痛打から遠ざかるために回避速度を上げさせられたのだ。 無理に引き上げられる移動速度は徐々に身体を壊していき、獣からはうめき声が聞こえてくる始末。

 

 爪をこぶしで撃ち落とし、牙を立てようものならたたき折る。

 巨人は終始無言。 いまだ、底というモノを見せない。

 

 牙も爪もなくなった獣は、よだれを垂らしながら雄叫びを上げる。

 

「ソニックバスター!!」

 

 辺り一帯が塵芥に変わるほどの衝撃。 これを喰らえば例えシンフォギアだろうが強殖細胞だろうが撃墜は必須。 避けるならば大きく距離を取るしかないだろうが、生憎そのような時間も――――

 

「おいおい、ジョーダンじゃねえぞ!?」

「え?」

 

 ――――状況でもなかった。

 

 破滅の音が二人の少女に迫る刹那、巨人の口元が展開する。 見えたのは4つの金属球、ソレが高速で揺さぶられていくと、粉塵へと還られていく大地をせき止める。

 

「ギガ・ソニック・バスター!!」

『いまの声ッ!?』

 

 獣が放った声を、それを大きく上回る声量でかき消してしまう。 いや、今はそんなことどうだって良い。

 巨人から聞こえてきたのは二人がよく知る声。

 正義感は強い方、妙に頑固なところがあって、けど奥手で、半裸の美少女が居ても手を出すどころか視界に入れないようにしてしまう極度なヘタレ。 そんななじみ深い少年の声など、小日向未来はそうそう聞いたことがなく、雪音クリスは一人しか思い至らない。

 

 そう、あの巨人は――

 

「ふ、深町さん……?」

「おい保護者てめぇなにがどうなってんだよ!!?」

「…………」

 

 ガイバーⅠ=深町晶そのひとなのだから。

 

 ようやく巨人がクリスの方を向いた。 獣は相変わらずの高速移動、にもかかわらず視線を外して意識を彼女の方へと向ける彼はついに言葉を発した。

 

「雪音、さん? どうして、ここに……」

「……そりゃあアタシが聞きたいところなんだけどなあ! おい、その恰好はなんだ!」

「え? なんだこの躯……俺、いまどうなってるんですか?!」

「……おいおい」

 

 あの巨体がアタフタし始める姿はどこかシュール。 クリスも未来も肩から力が抜ける思いだが、これは仕方が無いだろう。 先ほどまでの不気味な雰囲気が巨人、深町のガイバーから消え失せたのだから。 いまだ状況が掴めていない少年に苦笑いすると、巨人の腕が反射的に何かをたたき落とす。

 

「な、なぜだ……いま完全に意識を外していたはずだぞ……!」

「なんだこの獣は――この反応はガイバー!? と言うコトは……」

「フィーネ、なのか? けどよ、なんだよその姿は……」

「櫻井さん」

 

 倒れ伏した獣を巨人が見下ろす。 その姿はそのまま力関係を指し示すかのようで、フィーネは唸り、深町は悲しそうに声を漏らす。

 

「深町晶!!」

「櫻井さん……」

 

 獣の腕が鋭利に伸びる。 高速振動の爪を展開すると、そのまま巨人の喉元へ突撃を仕掛ける。 

 

「フィーネ!」

「よすんだ雪音さん! 彼女の狙いは俺だ……決着は、俺が付ける」

「おまえ……」

 

 クリスを静止すると今度こそ獣に向き合う。 右手を振りかぶると意識を集中していく。

 

「ふ、深町さんの手が」

「……あんときの比じゃねえぞ」

 

 相手の爪に合わせて拳が打ち出される。

 あっけなく割れていくのは獣の爪。 目に見えるほどの空間のゆがみを纏う巨人の拳は威力を落とすことなく奴にぶち当たる。

 

「がッ?!」

「グラビティ・ナックル!!」

「なんて衝撃だよ!?」

「く、くりす……!」

 

 エネルギーの塊を拳ごと叩きつけられ、大地を抉りながら吹き飛ばされていく。

 

 いかに速かろうと。

 どこまで爪を鋭くしようとも。

 いつまで連撃を繰り返そうとも。

 

 その巨人には無意味、城壁のように佇むソレが攻撃に転ずれば、たかが獣に対応する余地など在るはずがない。 獣ごときがこの巨人に挑むこと自体が間違いだと、この場にいる全員が理解した。 もちろん、獣であるフィーネすらもだ。

 

「認めてやる……いまは、お前の方が強い」

「……」

 

 巨人になったガイバーはこれまでとはまさに次元を超えた強さを持った存在だ。 ソレは地下施設から拳一つで地上に飛ばされたときからわかっている。 なら、いままで反抗したのはどうしてか、フィーネの態度は深町を警戒させるに足りた。

 

 ソレはやはり、最悪の形で現実となる。

 

 フィーネの左腕が変わる。 仰々しい音を立てながら現れたのは杖、ソレは雪音クリスが最も嫌悪する聖遺物であった。

 

「ソロモン!? まさかあいつ――保護者! そいつとめろ、ノイズが来る!」

「なに!?」

「もう遅い! 来いノイズ共! 我が脆弱な躯の糧となれ!!」

「な、あいつあんなにノイズを召喚しやがったッ! いままでの比じゃねえぞ」

「深町晶! この私が身に纏っているものがなんなのかもう忘れたのか!! 貴様と同じ強殖装甲を纏っているというのなら、貴様に出来ることはこの私にも出来ると言うこと! ソレを今、見せてやるッ!!」

「…………櫻井さん」

 

 女の狂気に少年の憂い。 昔、深町晶はとある人間に言われたことを思い出していた。

 

 ユニットの力は同一。 性能差は核となった人間に左右される……と。

 

 だから、かりにフィーネのユニット・ガイバーも性能差がほとんど無い代物ならば完全聖遺物とノイズの力を結集した彼女の方に軍配が上がるのだろう。

 

「お、おい! なにやってんだよぼうっとしてんじゃねえ!」

「深町さん! あのひと、どんどん大きく……!」

「…………櫻井さん」

 

 だが、ソレではダメなのだ。

 同じガイバーだからなんだというのだ。

 おなじユニットを再現したからどうだというのだ。

 

 この身はただ、ガイバーをそのまま大きくしたわけではない。 ただ、巨大になっただけではないのだ。

 

 地獄を見た、奇蹟を見た。 力の圧倒的な差を、文字通り躯に刻みつけられた。

 自身の消滅する刹那の強力な“念”が、いまのこの躯を設計したのだ。

 

 強く。

 

 ただひたすらに強く。

 

 あの“惑星すら撃滅する存在”に打ち勝つための躯を作り上げたのだ。

 

 巨人となったガイバーを遥かに上回る巨体を創り出していくノイズ達。 城壁を越え、巨大な山となったその身は既に人知を超えた力を持っているのだろう。 今の深町ですら見上げるほどの巨体は、圧倒的な威圧感を放つ。

 

 だが。

 

「だめだ、櫻井さん」

「貴様がいくら力を増そうが問題ではない! 私の野望は、願いはこのような場所で朽ちる物ではない!! どうだ先ほどまでの立場を入れ替えてやったぞ! いまは貴様がアリのようにみえる。 消えろガイバーッ!! 」

「…………それじゃダメなんだ、櫻井さん」

 

 ガイバーの持つ力は、そうやって操るモノじゃない。

 深町は呟くと、両腕、腹部を直線に配置すると重力をねじ曲げていく。 不可視の衝撃砲がフィーネを貫く。 血走る瞳、ねじ曲がる表情は深町を鋭く睨み付ける。

 

 その涼しげな姿が気にくわない。

 あの巨人となった少年を一刻も早く潰したい。

 すでに目的と手段が消え失せ、ただ、オリジナルのガイバーを消し去るだけ。

 

 獣が変じ、その躯をいまだ肥大化させる。

 口を開くと無数の牙。 その一つ一つが重力を操り、高周波を生み出すことの出来る複合兵器だ。 ガイバーの巨人化に刺激されての変異は、フィーネに巨大な力を与えたのだ。 彼女の黒い意志がそのまま具現化すれば空間を歪め衝撃砲が撃ち出される。

 

「喰らえ! プレッシャーカノン!!」

「――――ッ!」

 

 巨人の躯が初めて地に転がる。

 雪音クリスと小日向未来を今の攻撃から守るためだろう、バリアーを展開したにもかかわらずダメージが通ってしまったのだ。 あの巨人ならば避けられただろう事はクリスにだってわかる、彼女は歯ぎしりをした。

 

「おい、保護者――」

「……良かった無事で、けが、無いですよね」

「それよかお前の方が!」

「大丈夫、傷一つありませんから。 ほら」

「けどお前」

「大丈夫、なんとかなるから」

 

 そんな彼女を、どことなく明るい気持ちで窘めるのは深町晶。 言ったとおり傷一つない躯だが、それでもとクリスは叫んだ。 また無理をしているのではないか、自身の不具合を話したがらない少年に、ついにしびれを切らす。

 

「ここで待ってろ、アイツと一緒に全部終わらせてくる」

「だめ、まってクリス!」

「おい保護者! なに一人で恰好付けてやがる! 似合わないんだよお前にそういうのは!」

「……雪音さん」

 

 銃を手にクリスは深町の横に並ぶ。 一瞬だけの目配せは、いまだこの巨体が少年だと信じられない証左。 首を振りすぐさま正面に銃口を向ける。 今は、困惑している場合じゃないと撃鉄を上げる。

 

「クリス……貴様ごときが加勢してどうなるというのだ」

「随分と自身満々だな、身体がデカくなって持ち前の傲慢さもさぞ大きくなったんだろうなあ」

「結構な威勢の良さだ……どうした? 銃身が震えてるぞ」

「……うるせえ!」

 

 いままで彼女の生き方を定めていたのはあの獣、フィーネに他ならない。 そんな存在に刃向かうのだ、いままでの自分を否定するのだ。 その覚悟は並大抵の物ではないだろう、まだ、身体が震えて心が迷っても仕方が無いだろう。

 そんな彼女を獣が嗤う。

 こんな少女に罪を背負わせた女が少女を嘲る。

 

巨人は少女の前に一歩踏み出し、獣へバイブレーション・グロウヴを響かせる。

 

「雪音さんの決意、お前にはわかるまい」

「なんだと……?」

 

 巨獣となったフィーネは尾を振るう。 衝撃で近くの街が甚大な被害を受け、暴風が深町達に襲いかかる。

 そんな強大な力を見せつけても、少年はただ大きくなっただけと哀れむ。

 

「そんな他人を犠牲にし続けて手に入れた力が、いったい何の役に立つと言うんだ」

「貴様とて、その躯に天羽奏を取り込み、ここへ来るまでの道のりで多大な犠牲を払っているのを忘れたか!」

「あぁそうだ、俺はここに来るまで多くの人と出会い、別れていった。 みんな明日を信じて俺たちに託してくれたんだ」

「託す……?」

「血肉だけでは受け継がれない、ヒトが人である為に必要な命の根源を!!」

「ソレを冒涜するシステムで戦っているお前がなにを言う!!」

「ガイバーに囚われているからこそ尊び守っていくんだ! 思いを、魂を!!」

 

 所詮力は力。 その方向性を決めるのは扱うモノ次第なのは少年が重々承知している。 だからこそ、ソレを与えてくれた人たちに報いなければならない。 強く声を張れば心が奮え、身体中に力があふれ出す。 

 

「俺のこの力は俺だけで作り上げたモノじゃない!! 一緒に戦った巻島さんや遺跡宇宙船を守り続けてくれた研究所のみんな、時間を稼いでくれた村上さんにずっと支えてくれた哲朗さんと瑞紀! そして……そして――」

「なんだ、奴の身体中のクリスタルが……この反応は馬鹿な! フォニックゲイン……だとッ!?」

「こんな俺を受け入れてくれたこの世界のみんなのために! 俺は負けるわけにはいかないんだ! だから俺は戦う、この身体で――――ガイバー・ギガンティックの力で!!」

 

 ガイバー・ギガンティック。 少年が名を授けてようやくこのガイバーは完成に至る。 全身のクリスタル物質=エネルギー・アンプが彼の意志に呼応するかのように輝いていく。 ヒト、強殖細胞、遺跡宇宙船細胞、そしてガングニールの少女の細胞が生み出す多大なエネルギーを集約し、増幅していく。

 輝く身体を解き放ち、極光を空に向かわせると深町はそっと呟いた。

 

「……みんな、俺に力を貸してくれ」

 

 光が大地に沈む。

 地下深く、いまだ倒れ伏したシンフォギア装者二人のもとへ、ありったけの力が流れ込んでいく。

 

「ふ、ふはははは!!」

 

 それを嗤う。 巨獣となったフィーネは心底おかしかった。 少年の力は脅威だ、しかし力の使い方がなってない。 今の輝きが矢となって自身に向かうかと思ったが、まさか死に損ないに向かわせるとは。

 いま、この瞬間。 圧倒的な力をもつ自身を前にしてまだ仲間だ信頼だのと言う余裕があるとは。 可笑しくておかしくて……自然、口元が歪む。

 

「貴様ハ本物だ! ホンモノの愚か者だ!! 役立たずなど捨て置き、少しでも戦力を温存しておけば良い物を! くは! くははははは!!」

「……」

「いまからでも遅くないぞ? 失ったフォニックゲインを取り戻すんならちょうど隣に一人シンフォギアがある、喰らってみたらどうだ?」

「…………」

「保護者……」

 

 ギガンティックは動かない。

 ただそのときを待って、クリスの前に立ち、巨獣の笑い声を受け流す。 もうなにを言ってもダメなのだろう。 自分がいま、彼女になにを言ったのかさえ理解してもらえないのだろう。

 

 だから、あんな生物として独りよがりな進化をしてしまったのだ。

 

 故に、彼女は“自分たち”に敗北する。

 

ギガンティックのデュアル・コントロール・メタルから閃光が迸る。 あまりにも眩しく、近くに居たクリスは思わず目をつむる。

 瞳を閉じ、その暗闇はほんの一瞬だっただろう。

だがその一瞬だけで十分だった。

 

 少年の思いを、意志を受け取るのには十全な時間であった。

 

 

 

 

 

 

 力を手に入れてしまった。 望まないままに、途轍もない力を。

 

「……え? なんだよ、これ」

 

 敵だ、この力を狙って次々と怪物が襲ってくる。 俺が狙われるだけなら良い、けどみんなが。

 

「これ……アイツの……?」

 

 守るんだ、みんなを、俺のすべてを振り絞ってでも。

 

「記憶、なのか」

 

 哲朗さんが敵に捕まった。 瑞紀がヤツラに攫われた。 父さんが人質に取られた。 俺の周りに居る人たちが巻き込まれていく。 俺が、力を手に入れてしまったばかりに。

 

「…………っ」

 

 なんとか助け出すことが出来た。 哲朗さんも、瑞紀も、父さんも――

 

「…………なぁ、おい」

 

 父さん……いま、安全なところに連れて行くから。 ごめん、俺がこんな力を手に入れたばっかりに。 父さんは男手一つで俺を育ててくれて、朝は俺より速く起きて、夜は俺が寝た後に帰ってきて。

 

「……おいったら!」

 

 ずっと俺を見守ってくれた父さん。

 そんな父さんを戦いに巻き込んでしまった。 守るんだ、クロノスの手から父さんを救い出すんだ。

 

「……おいっ! おまえなにやってんだよ!」

 

―――父さんを、救おうとしたんだ。

 だけど父さんはもう父さんじゃなかった。 背中から腕を4つ生やして、強殖装甲を切り裂き、俺の目の前で怪物の姿になってしまった。 

 

「よせよ! こんな――ほかに方法はなかったのかよ!?」

 

 頑張った、頑張ったんだよ。

 どうにかしようとした。 メガスマッシャーも高周波ソードも使わないように、なんとか父さんを無力化しようとした。 でも、でも……頭を何かで叩かれたと思ったら、怪物になった父さんは居なくて。

 

「もう、いい……」

 

 ……やったんだ。

 

「いいったら」

 

 ……おれが、やったんだ

 

「もういいっ! それ以上言うな!」

 

 俺が父さんを殺したんだ。

 

 俺が皆を巻き込んだ。 おれのせいだ、おれがすべてを壊してしまった。

 おれが、おれが――おれが、こんどこそみんなを守らなくちゃいけないんだ。

 

「もう、いいだろ……なんでそんなになって……」

 

 おれは奪ってしまったんだ。

 父さんも、あの街にいた多くの罪亡き人たちを。

 

 きっと明日死ぬとは思っていなかった、ただ普通に毎日を暮らしていた人たち。 そんな人たちを巻き込んで、俺は戦い、生き延びてきた。 ―――だから俺はまだ死ぬわけにはいかない。

 クロノスを打ち倒し、世界に本当の自由を取り戻すその日まで俺は、すべての悲劇を胸に刻みつけて運命と闘わなくちゃいけない。

 

 俺はもう逃げない。 過去を思い返すことはあっても前に進むことをやめはしない。

 

 俺は…………だから、力を貸して欲しい。

 

「……あぁ」

 

 例えこの身が巨大な力を手に入れても、出来ることが極端に増えたわけじゃない。

 

「……そうだ、そのとおりだ」

 

 俺が出来る事は少しだけだ。 だから、皆の力を貸して欲しい。

 

「いいぜ、ドンドン持ってけよ」

 

 俺の力を皆に貸す、皆の力を結集しなければ櫻井さんを止める事は出来ない。 だから、みんな……今この瞬間、すべての力を――

 

『あぁ、任せろッッ!!!!』

 

 

 

…………ありがとう、みんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と羽を休めてしまったな」

 

 蒼い光が地上に駆け上がる。

 ソレは青空のように無限に広がるクリアな色。 鋭く、澄み渡り、ただ真っ直ぐな心を映し出す光景は刀剣のような実直さだ。

 

「あーぁ、まったく変に熱くなっちまったぜ」

 

 紅の光が空を焼く。

 焼け付く炎のような過激さとは裏腹に、そのウチには痛みを理解できるやさしさが宿っている。

 

「……遅くなりました、合流しますッ!!」

 

 橙色の衝撃が大地を割る。

 不安、恐怖、それらをかなぐり捨てた姿はもう未熟な少女の物ではない。 少年の心に触れ、彼の本心を垣間見ることが出来た彼女の心に、もはや一点の揺らぎもない。

 

 三人のオトメが揃いし刻、彼女たちの纏うギアが一斉に鳴動する。

 剣が、銃が、拳が。 三人の戦乙女が白い輝きに包まれる。 淡く、もろく、壊れやすい光達は、だからこそ必死に少女達を守護し、力を与えていく。

 

「ようやくわかった。 受け継がれ、連なっていくヒトの意志。 ソレが命なのだと深町が教えてくれた」

「犯した罪を悔いるだけが償いじゃないって、あのヘタレに説教されるなんてなぁ……」

「みんないろんな傷を背負って生きている、自分一人じゃどうしようもない痛みだってある……だからヒトは手をつなぐんだ!」

 

 シンフォギアの鳴動は止まらない。 心が、その血肉にまで歌が流れ込むと少女達の背に光りがあふれ出す。

 

「……馬鹿な、お前達はなんなのだ」

 

 その光景はフィーネが知り得ないモノだった。

 

「ソレは本当に私が作ったモノか?」

 

 シンフォギアは自身が作り上げたモノ。

 故にその力量は全部把握しているはずだった。 出せる力、必要な要素、その、すべてを彼女は知ったつもりで居たのだ。

 

「いまお前達が身に纏うソレはなんだ? お前達はいったい何なのだッ!?」

 

 こうして彼女は奇しくも“彼等”と同じ末路を辿ることになった。

 

「その規格外はいったい何なのだッ!!!!」

 

 

 

『シンフォギアァァァアアアアアアアッッ!!!!』

 

 

 

 その身に宿るは悠久の翅。 果ての無い世界を駆け抜けるための双翼を羽ばたかせ、少女達はいま天を駆け上がる。

 

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