戦乙女達が天を翔る。
そよ風のように、空をたゆたう羽のように。
巨人殖装が大地を駆ける。
地割れのように、地獄を統べる鬼神の如く。
今持てるすべての力を解放した彼等は対峙する。 これから立ち向かうべき相手を、己が運命を狂わせてきた元凶を、その目で確かに確かめた。
「ガイバー・ギガンティック……すべて貴様の仕業か……!」
フィーネの怨嗟の声。 だがソレは違うと言えよう、少年には特別な力は存在していないのだから。
強殖装甲は降臨者のモノ、遺跡宇宙船もしかり。
フォニックゲインは天羽奏のモノ。
そしてシンフォギアの限定解除は彼女達の心の問題だ。
ならば、と。 フィーネは愚かにも問うた。 その答えがいかにありきたりなモノかも知らないで。
「俺はただ、皆の思いを受け継いだに過ぎない」
「なんだと……?」
「戦いはいやだと。 歌で世界を平和にするのだと。 痛みのない世界を作るのだと。 俺は、彼女達の心を受け取ったに過ぎない」
「心だと!? たったそれだけでギアの拡張が行われるわけがない!! あの大量のフォニックゲインはなんだ! 天を翔るギアはなんだ!! そうか、その身体に仕組まれた結晶体はエネルギー増幅機、ゆえの限定解除!! ガイバー・ギガンティックにはギアの力を増幅させる力があるのだな!!」
「……櫻井さん、貴方は」
フィーネの言動は論理的に過ぎていた。 昔の方が、櫻井了子のときの方がまだロマンに溢れ、ヒトのなんたるかを理解できていたはずなのに。
もう、彼女ではないのだろうか。 深町の顔に影が差すと巨獣が蠢き出す。
「貴様さえ倒せば小娘達は沈黙するッ、消えろガイバー・ギガンティック!!」
「貴方というヒトはッ!!」
彼女との会話はここで終わる。 巨人となったことで真に自分を取り戻した深町とは対照的にその姿を大きくすればするほど人間のこころを忘却していくフィーネ。 そんな彼女にはもうなにをいってもむだなのだと、深町はそっと感情に蓋をする。
その拳はもう、獣化兵に向けるためのソレに切り替わっていた。
「深町さん!」
「深町!」
「……みんな」
会話が終われば全員が合流する。
今の流れを見ていたのだろう、それぞれが複雑そうな顔をする中、雪音クリスは深町の背中を蹴り上げた。
「おいヘタレッ!」
「えッ!?」
なにやってるんだと気概をこめて、少しだけ少年を罵倒。 銃口を彼に向けると視線鋭く彼に問うた。
「お前はお前なんだろう?」
「……」
「どうなんだよ深町晶17才!!」
「あ、……うん、俺は俺だよ」
ソレはいつか聞いた言葉であった。
自身を彼女に説明したときに借りたあの少女のフレーズがまさか自分に跳ねかえって来るとは思わず、だけど確かにうなずいた。
自分は自分。 今までやってきたことを、今日もまた繰り返すのだと彼は今度こそ拳を握りしめた。
「まったく、覚悟完了ッ――って雰囲気出して、まぁた自分だけで背負いこもうってんだからかなわねえよな」
「すみません……」
「深町、桜井女史は強敵だ。 シンフォギアを作り上げいままで私達をサポートしてきたのだ、我らの力をすべて把握されていると考えて相違ないだろう」
「はい、だったらオレ達はそれ以上の力でぶつかるしかない」
「深町さんのギガンティックと、限界を超えたいまのシンフォギアで櫻井さんを止めましょう! みんなでッ!!」
巨人の周りに乙女達が飛び回る。 ギガンティックの重力制御球が作動すると空へ浮かび上がる。 目指すは巨獣の顔面、そこが生命力が強いと超感覚が訴えているのだ、ならば底を潰すのが先決だろう。
皆が一気に飛翔する。
「おいおいどうしたんだよ深町晶さんよ? 随分おくれてるようにみえるんだけどなあ!」
「クリスちゃん、挑発しすぎ――」
「プラズマジェット、点火!」
「うぉ!? なんだよ、結構速いじゃねえか……」
今までの重力制御の飛行に加えて、ジェット機並の超加速を得たギガンティックについ先ほど空を覚えた装者達が追いつけるはずもない。
「来たか、ギガンティック!」
「行くぞ櫻井さん! 貴方の野望もここまでだ!!」
巨獣の背中が励起し、数十本の槍が深町に向かって打ち出される。 一本一本が高周波ソードと同等の攻撃力を持つ、まさに必殺の槍。 それが空一面を覆い尽くすかの如くギガンティックに迫る。
迫る迫る。 その距離はおおよそ200メートと行ったところか。 接触まで2秒の時間で巨人の右拳にエネルギー・アンプから送り込まれる力が凝縮する。
巨人が振りかぶり、拳を打ち出すと槍の雲海が割れる。
「グラビティ・ナックル!!」
「一撃でだと!?」
道を阻害する武器を蹴散らしたギガンティックの勢いは止まらない。
「高周波の鞭を喰らえ!!」
フィーネも武器を生成すると、自由自在の軌道をもって深町の空間を埋め尽くす。 バリアーならば防げるであろう高周波の鞭を、しかし深町に後退の2文字はなかった。
後ろから来る乙女達を確認すると、胸部装甲上の突起……重力衝角を伸長させる。
「重力衝角展開! プラズマジェット点火! いくぞ、グラビティ・ラム!」
「押し分けて突っ込んでくるだとッ?!」
全身のエネルギー・アンプを全開にした高エネルギーを纏った突撃はもはや隕石のよう。
脆弱な高周波の鞭をかき分け、消滅させ、フィーネの巨体目がけて弾丸飛行を決め込む。
「今の鞭で軌道を変えられたか!?」
「くっ……腹部をここまで! だがすぐに再生してくれようぞ!!」
重力衝角をもとに戻し、ガイバーのセンサーで奴を見る。 再生速度は、やはりネフシュタンの影響か尋常じゃない速度だ。 しかもクリスのときのようにネフシュタンの組織が集中しているというマダもなく、完全に一体化に成功しているのだ。
だからピンポイントで破壊する戦術はとれない。
防御性能も、奴が新たにくみ上げた兵器群でかなり堅牢になって居る。 特に先ほどの鞭、重力衝角での空間歪曲で突っ込んでいなければ、きっとこの巨人の躯でもただで済んでいなかっただろう。 一人ではやはり限界が近い、そんなことは皆が理解していた。
「深町さん! 速いですよ!!」
「ご、ごめん立花さん。 でもいまので向こうの戦力が把握出来てきた」
「強すぎて参考にならないんですけど……」
「あ、え……」
「なにバカやってんだ! いいか、フィーネには生半可な攻撃が通用しないってのがわかっただろ?」
「いや、背中の武器が攻撃の軸に――」
「そうだぞ立花。 奴の再生力は尋常でない。 ならばこちらも尋常ならざる一撃にて仕留めるほか在るまい」
「いや、だから攻撃範囲がですね――」
「いいか? アタシが遠距離から牽制する、その間にお前は最接近だ!」
「迫り来る凶刃はすべて切り裂く。 両断された道をただ駆け抜けろ」
「ですからその――」
『いいなッ?!』
「アッハイ!」
反論はどうやら許されていないらしい。
やる気に満ちあふれている剣と銃は巨人を置いてさっさと配置についていく。
「いくぜっ! 気合入れろよイチイバルッッ!!!」
ロケット
ガトリング
ミサイル
衝撃砲
とりあえず遠距離砲撃武器をそろえたクリスは盛大に撃鉄を上げる。
「防人の剣、その身で受けてみろ!!」
刃を展開すれば刀を一振り。 すると空間を埋め尽くすほどの刀剣が数多く生成され、翅の背中で射出準備を終えていた。
両者共に武器を作り置き、いつでも射出できるように待ち構える。
「すごいやる気だな……」
「…………当然ですよ、あんなもの見せられたら誰だってやる気出しちゃいます」
「あんなもの? なにを見たの」
「えへへっ、内緒です」
「た、立花さん!?」
にぱっ! 深町に笑ってみせるその顔はどこかイジワルなモノに見えた。 けど、その雰囲気は決して悪いモノじゃなくて。
彼女達がここまで結託してくれるならば、自分だって力を出さないわけに行かないだろう。 深町はそっと全身に意識を集中する。
「せいやー!!」
立花響が突貫する。
翅をはためかせ飛ぶ彼女は動きだけならギガンティック以上。 その移動自体に攻撃力はないものの、高い回避力は自由自在な鞭を躱し、フィーネの懐まで潜り込む。
「小娘が! 調子に乗りおって!!」
「くらえぇぇッ!!」
「!?」
閃光を纏わせた右拳を叩きつける。
粉砕されていく装甲、けたたましく上がる悲鳴はフィーネのモノ。 先ほどの戦闘とは比べようのない力が解放されていくのを響は感じ取り、そのまま――――――今のを連撃していく。
「オリヤァァ!! だぁらっ!!」
「くっ! 馬鹿力が!! そんな出力をこうも連続で!!」
「しま――」
槍が彼女に迫る。 例に漏れず高周波のそれは、いかに強化されたシンフォギアだろうと必殺の威力を持つ代物。 高周波ランスと銘打たれたソレは高速で響に突き刺さそうと胸元まで迫る。
「させるかッ!!」
「翼さん!!」
刀剣がランスを両断する。
風鳴翼が響の横に着地する。 フィーネの憎悪の視線が向くが、彼女はそんな物に意を介さず、逆に彼女へ質問を繰り出す。
「私ばかりに気を取られていいのか?」
「な、に? ――――っ!!」
雨だ。 刀剣の雨が降り注ぐ。
翼の技に千ノ落涙が在るが、これはそんな生易しい物ではない。 降りかかる刀剣一つ一つが先ほどフィーネを圧倒した威力を誇り、それが無尽蔵に襲いかかってくるのだ。
自身を死に追い込んだ攻撃が雪崩のように向かう様はトラウマそのもの、武装の大多数を総動員して彼女は排除を試みる。
「ソニック……バスターッ!!」
100の剣が消滅する。 だがその後に迫る400の刀達。 それを撃墜するために口を開き空間を歪める。
「プレッシャー・カノン!!」
さらに200の剣が粉砕される。 残りの攻撃に対してフィーネの躯から無数の槍が生成され射出。 すべて撃ち落とし、その尾を大きく振りかぶった。 少女達の真上に巨大な影が墜ちる。
「死ね! 風鳴翼!!」
「あの質量をぶつけられれば流石に不味いぞ」
「そんな冷静に死刑宣告しなくても!! く、くくくクリスちゃんヘルプー!!」
「なーにバカやってるんだよ!!」
クリスの背中に生成を終えた兵器群、それらが一斉に火を付けられる。 目標に向かって爆炎が燃えさかり、轟音があたりを埋め尽くす。
その衝撃を切り裂いてフィーネの叫び声が轟く。 悲鳴、痛打、怒りに憎悪。 その感情が彼女の心を埋め尽くしたとき、彼女は激昂の叫びを上げた。
「なぜだ! なぜ、こうまで追付かれる!!」
「知るかよそんなもん」
「我らはこの世界を剣であり、人類を守護する防人だ。 それが貴方程度で倒されてなるものか!」
「深町さんはもっと凄いヒトと決着を付けようとしているんだ! あなたとは目的も行こうとしている場所も違う!!」
「そんな苦労性なヘタレを助けようとしてるんだぜアタシらは。 なら、負ける分けねえだろうが!!」
「我らを……深町を嘲ったその行為、いますぐにでも精算してもらうぞ!!」
「だまれぇぇ!!」
爆発の激痛を切り捨て、怒りに身を任せながら巨大な尾を振り落としていく。
あんなモノを喰らってしまえば周囲もタタではすまない、大質量の攻撃を前に、彼女達はむしろ反撃に打って出る。
「でりゃああ!!」
「斬る!!」
「打ち上げろ!!」
「なッ! 押さえただと!?」
三人が力を上げていく。 いままでの戦闘がウソのようなフォニックゲインの高まりは、ギガンティックを介さない彼女達だけのモノだった。 ソレが信じられなくて、たかが人間の小娘にそんな力は無いはずなのに。
「お前達はなにをしようとしているのだ……そんな、ちっぽけな存在のくせに……!」
『人間を舐めるなッ!! はぁぁあああああああああーーーーーー!!』
三人のこころからの音色は風に乗り、世界に響き、少年のもとへと届いていく。
「行くぞ……皆!!」
「ガイバー・ギガンティック……!!」
少女達の声が届いた向こう側に、フィーネは信じられないモノを見た。
巨人殖装の胸部装甲が展開していく。
腰、両胸に計3基が配置された重力制御球をフル稼働。 周囲から素粒子をかき集め、さらに異次元から力を流入していく。 光りが、力がいま少年の躯へ結集していくのだ。 収集、圧縮、またも収集、圧縮……ソレを幾たびも繰り返してエネルギーを極限にまで凝縮していく。
その姿は今までのスマッシャーを規格から打ち破るものであった。 比較にならない攻撃力は目に見えている。
「させるか!!」
フィーネの胸部装甲が展開する。
尾の砲門は現在修復中、口内の重力機関は先ほどの攻撃でチャージ中。 ならば後はこれしかない。
脆弱な装甲内を晒すと言う危険を冒してまで、フィーネはあのスマッシャーを阻止しなければならなかった。
消されるぞ。 あの、巨人殖装が放つ攻撃は確実にこちらを消滅させるエネルギー変換効率を持っている。 1が100にも、億にも変わるかもしれないあの存在は、既にフィーネの計算外、規格外の存在なのだから。
故に消す。
確実にここで断つ。
あの異世界の聖遺物をいまここで消し去らなければナラナイ。
……その焦りが、自身の敗因だと言うことを知りもせず。
「その胸部いただきッ!!」
「がはぁつ!?」
雪音クリスのミサイルが一基、奴の片肺に直撃する。
「へへ、ここで打ち止めだ。 おい深町晶! やってやれッ!!」
「クリス……おのれ、お前はいつもいつも私の脚を……!!」
憎悪でしかない。
フィーネのこころを現わすかのように、残された片肺がドス黒く燃え上がると、そのままエネルギーの充填を完了してしまう。
「お前達は! いまここで! きえろぉおおおおおお!!」
「奴め、深町よりチャージが早い!?」
「急げ深町晶!!」
「深町さん!!」
大地に杭を突き刺し、地下に流れる電線から電力を供給する。
完全聖遺物、強殖装甲のエネルギー変換効率、都市一つ分の電力供給。 その長所をすべて使ったフィーネの最大攻撃がいま、解き放たれる。
「塵芥に還るがいいッ!! カ・ディンギルッッ!!!!」
すべてを焼き払う、神の雷。
ソレがたった一人の巨人に放たれた。 世界を、激変できたかもしれない威力がただ一人の少年を消し去るためにウチ放たれた。
この都市を丸ごと生け贄に、女の憎悪が少年を襲う。
「深町さん!」
「行け! 深町ッ!!」
「やっちまえッ!!」
「うぉぉおおおおおおおおおおッ!!!!」
エネルギーはついに臨界を超えた。
少女達の心、少年の信念。
異次元の向こう、仲間達が待つ世界を夢想したとき、ようやくあつまった。 ガイバー・ギガンティックが今出せる最大出力が。
紫電を迸りながらあふれ出そうとする刹那、彼はいま、こころで引き金を引いた。
「原子の塵に還れッ!!! ギガ・スマッシャーぁぁぁぁあああああああああああああああああッ!!!」
暴れ狂う光り達。 その神が如き閃光は周囲を破壊する力の塊であった。
周囲の建造物のことごとくが粉砕し、大地の舗装は崩れ去り、ぶつかり合う力の犠牲へとなっていく。
あの巨体が放つ超出力のエネルギーは巨獣の躯を消し去り……フィーネは莫大な威力をもつ素粒子砲に呑み込まれていった。
「ば、ばかなッ!!」
エネルギー総量は明らかにフィーネが勝っていたはずだ。
ソレがなぜ押し負ける。 どうして素粒子砲がこちらに向けて迫りこんでくる。
高エネルギーの激流に飲まれながら、フィーネは断末魔の叫び声をあげることしか出来ない。
「馬鹿な! こんなことがぁぁああああああああああああああああああああああ!!!」
威力はあっただろう、エネルギーも勝っていたのだろう。 だが、フィーネは最後に忘れていたことがあった。 強殖装甲は殖装者のポテンシャルに応じて力を上げる性質があることを。
故に作られた巨人殖装。 だからこそ実現した装者達の限定解除。
少年は本当にただの少年だった。 だけど、世界を切り開くのはその唯の少年少女達に他ならず、彼女はその未来への渇望に負けたのだ。
ヒトのココロが理解できなかった獣は最後にはついに、その心に敗北を喫した。
何ら力がないと断じたその心の力に……
「櫻井さん……」
「…………っ」
役目を終え、損傷した胸部装甲を格納。 その場でギガンティックは無言で佇む。 複雑そうな面持ちで見つめるのは雪音クリス、彼女はそっと彼へ駆け寄るとゆっくりと見上げ、言う。
「あぁするしかなかったんだ」
「けど、だけど……」
「フィーネの眼には憎悪しか写ってなかった。 あの司令のおっさんやアタシも、誰一人まともに写ってなかったんだ」
「それでも……」
なにが彼女をあそこまで駆り立てのか。 原子の塵に消えた彼女に聞く術などなく、深町は先ほどの戦場跡を観る。
焼け落ちた街並み。 ギガ・スマッシャーの直撃を受けた後は、そのあまりあるエネルギーで環境が一部激変、雷雲を呼び込み陽は隠れ空がそっと涙する。
「降ってきたな」
「……そうだね」
「おまえ、これからどうするんだよ」
「…………どうしようか」
「おいおい」
目的はあるだろうに。 クリスが情けない声を出す巨人にあきれている最中、響と翼が翔け下りてくる。 その姿に片手を上げながら迎え入れると、彼の戦いはひとまずの休息を迎えるのであった。
―――――――――風鳴翼が、ギガンティックの解除を目にするまでは。
「な!? それは!!」
「こ、これ!!」
異次元の向こうから現れし、ガイバー・ギガンティックの蛹。
それは翼にとって因縁深い物であり、立花響にとっては感慨深い代物であった。
「これって深町さんが最初に出てきた奴ですよ!! ほら、覚えてませんかッ!?」
「ごめん、覚えてない」
「……しょぼん」
「あ、あーそんなに落ち込まないで――」
「深町ッ! これはいったいどういうことだ!!」
「そんな激しく迫ってこないで……! あ、あぁ……空飛べるからって周りを旋回しないで」
常人からしてみれば翼のソレはもう分身と形容できようか。 そんな興奮状態の二人だが、深町は通常運転で蛹を見据える。 ……初めて見るはずなのに、ずっと使い続けていた感覚があるのは彼が、“彼等”がこの中で2年間混ざり合っていたからだろうか。
ソレを脳裏で思い返し、そっと息を吐く。 すると深町は神妙な面持ちでギガンティックを解除していく。
「風鳴さん」
「なんだ深町。 詳細を言うつもりになったか」
「いや、まぁ……なんというか俺にもよくわからないんですけど」
「なに? 作り手のお前にもわからぬとはどういう――」
「そう言うことじゃなくて、実は……」
言いよどむ深町を余所に、ギガンティックを呑み込もうと蛹が開いていく。
装甲の一つ一つがガイバーから分離し、見慣れた青い躯が現れると蛹の中へと中身のない巨人が収まっていく。
口を閉じ、異次元へと還る刹那――――――
「………………あーーーーぁ、よく寝た」
『―――――えッ!?』
声が聞こえた。 目が覚めたと暢気にうつつを抜かすのは、いままでこの場にいなかった人物。 先ほどの蛹からくぐもった声が聞こえると、閉じたばかりのソレが再展開する。 そこには、その、武器庫の中には、一人の少女が生まれたままの姿で収まっていた。
「………………どう、して」
風鳴翼、今世紀最大の茫然自失。
限定解除をしたギアが圧倒的に似合ってない、その無様な姿を見て、蛹から現れた少女は微笑んだ。 あぁ、なんだ、やっぱり翼は翼なんだなぁ……と。
「天羽奏17才……って、外はもう2年経ってんだよな。 まぁ、いろいろあって無事復活だ、よろしく!」
「……というわけでして」
『…………』
深町以外の全員が絶句である。
クリスは訳がわからず、響は眼を白黒させ、翼に至ってはFXで全財産溶かしたような顔面を晒している。
一応の挨拶はしたつもりなのだろう、蛹から飛び降りた奏は深町の隣に着地。 そっと彼の横に並ぶと親指を向けながら一言、爆弾を落としていったのだ。
「えーなんだかんだあって、コイツの所有物になりました」
「ぶーーーーー!!」
「え、えっ!?」
「なん……だとッ!?」
「ふぇ……」
特大も特大、聞くモノが聞くモノならば打ち首ものな報告に、これには深町も衝撃を隠せない。
なにもそんな風に言わなくても……などと彼女に説得を試みるが「事実じゃん?」と返されて余計に話がこじれていく。
事態がドンドン混乱していく最中、一人ようやく夢の世界から帰還した翼は……笑顔。
深町晶に対して微笑みを向けると、その手に強大なアームドギアを形成した。
「どういうことだ、深町」
「ど、どうもこうも……」
「寝ぼけてたらうっかり女の子を食べちゃって、ついつい首輪つけちまったんだよな?」
「あばばばばばッ!!」
「ほほう、それはそれは――――」
死ねと聞こえてきた瞬間にコントロール・メタルが全力応対。 半ば過剰防衛のスイッチが入った状態で翼の剣を白羽取り。 ガイバーのフルスペックを発揮しなければ限定解除のシンフォギアには追いつけっこないのがさらに深町を追い込んだ。
コントロール・メタル両断まで残り数センチ。 翼が奇声を上げながら友を奪還しようと躍起になっているのを横目に、天羽奏は一人そよ風に吹かれていた。
「………………ただいま」
そんな小さな幸せの言葉を、そっとこの世界に奏でたのである。
奏さんの年齢にミスがあるとご指摘いただきました、訂正します。