強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第31話 主従

 

 

 

 

 あの戦いから、2週間が過ぎた。

 

 崩れ果てた学院と、周辺施設、さらにガイバー・フィーネによって蹂躙された都市の再建に皆が追われていた。

 風鳴弦十郎指揮のもと、2課の人間も当然この活動に参加している。 壊れた瓦礫の撤去、危険物の廃棄、怪我人の救護と、人手は多いに越したことがないからだ。 その中で深町晶の、正確にはガイバーの能力は遺憾なく発揮されていたのだ。

 

「あ、深町くんこっちお願い!」

「あーこれは大きいなぁ、まかせてください、これくらいならあっという間ですよ。 ソニックバスター!!」

 

 瓦礫はソニックバスターで粉砕、怪我人と救助者の確認はセンサーで、危険物は――

 

「皆、離れていてください!」

「すまん! アレには了子君が残したガイバーの資料……強殖生物があるんだ。 跡形もなく消してくれ!」

「行くぞ! メガスマッシャー!!」

 

 素粒子砲で一片の残しもなく排除していく。

 いささかやり過ぎな感もあるのだが、あの怪物をもう一度作られるわけにも行かない。 人類には強殖装甲を手にするには早すぎるし、こんな力は手に余る。 だからここで消しておく……完全に、何ら痕跡を残さないように。

 胸部装甲を閉じて一息つく。 次元の彼方にガイバーが消えていくと、深町少年に足音が一つ近付いてくる。

 

「深町さん、お疲れ様です」

「小日向さん、あ、麦茶ありがとう」

「はい!」

 

 渡された紙コップの中身を一気にあおる。 のどを鳴らすと容器を彼女に返し、そっと青空を見上げる。 労働中の休憩時間がこんなに気持ちの良いものだったとは知らなかった少年は、すこし、眼を細める。

 

「深町さんが参加してから作業効率が5倍に上がったってみんな喜んでましたよ」

「そうかな? そう言われると俺も嬉しいな。 ガイバーの力が、こうやって人の役に立てるんなら願ったり叶ったりだし」

「ですね」

「うん」

 

 あの激闘を思い出し、少しだけ表情が陰る。

 そんな少年の顔を見て、どう言葉をかけていいのかわからない。 未来は手に持ったお盆を握りしめると、少年と共に黙り込んでしまった。

 

 

 

 しばらく黙り込んで、少年が作業を再開しようかというときだ。 ドタバタ走りで騒動が少年に激突する。

 

「へーい! ご主人様―!」

「ぶーーーーーー!!」

「クリスちゃんがいじめるのー!」

「おいてめえ! そうやって晶をいじるのはよせって言うのがわかんねえのか! あいつ初心なトウシローなんだから刺激が強いんだよ」

「えー! 南半球からの北半球を見せつけたクリスちゃんに言われたくないなー」

「ふざけんなよ全裸ペット女ッ!! 好きであんな見せつける格好してるんじゃねえよ!!」

 

 天羽奏、その人である。

 

 深町の首に甚大なダメージをたたき出しながら、のらりくらりとクリスからの反論を回避していく。

 ちなみにこんなやりとりがあの日から2週間ずっと続いている。 深町少年の胃袋に風穴が空かないか心配だが、まぁ、ガイバーで即座に治してもらえるから大丈夫なのだろう。

 

「深町さん大丈夫ですか……?」

「うん、大丈夫、身体はね」

「その、頑張ってください……」

「無理かな」

 

 心の方が先にどうにかなってしまいそうで、少年は今日も頭を抱える。

 

 深町の首に抱きついたまま騒動に燃料を投げ込み続ける奏は、ぐったりとした少年を

見ると口を閉じる。 そっと離れて、かがんで上目遣いで彼に近付いていく。

 

「どうした? 辛いのか? 誰にやられた」

「……天羽さん」

「だったら良いじゃん、平常運転!」

「……はぁ」

 

 死んだ魚のような眼で、大きなため息をするのは今週に入って24回目。 最初こそ奏の、ソレこそトップアーティストの肢体に硬直し、慌てふためいたものの、彼女のあまりにもあんまりな接し方に疲労の方が勝ってしまっている。

 

「おい、晶もいい加減なんか言えよ! お前がいつまでもそんなんだからコイツが調子に乗るんだろうが!」

「言ってはいるんですけど」

「引っぺがせ! 引き離せ! でないとその服従趣味全裸変態女はお前の事をご主人様呼びしていつまでもついて回るぞ!!」

「…………それは」

 

 奏の衣服をぐいぐい引っ張りながら深町に檄を飛ばすのは雪音クリス。 彼女に言われるが、それでも強気になって引きはがせない少年に脱ヘタレの道は遠い。

 ところで雪音クリスの方が少しながら、それでも大きな変化を起こしているのだが、ソレこそ深町少年に心当たりがない。 いつの間にか“保護者”から“晶”と名前呼びになっているのだが、如何せん奏のインパクトが天井を突き破っているので些細すぎるのだ。

 

「……………………畜生この女、せっかくアタシが」

「どうしたのクリスちゃん? 腹巻きしてるのにおなか壊した?」

「してねーよッ!! それにハラも下してねえからな!! くそっ、調子狂うなぁ」

 

 変わらず奏の服を引っ張りながら眼をとがらせるクリスに、首を振りながらイヤイヤを繰り返す奏。 彼女達に対し多大な疲労感を覚えながらも、深町の背筋に悪寒が走る。

 

「………………じぃ」

「風鳴さん、なぜ見てるんです」

「…………また、イチャついているな」

「え?」

「奏とイチャ付いている」

「…………っ」

 

 刀剣のようなまなざしを深町に突き刺す防人は、壁に半身を隠しながら呪言を唱えている。 影縫いとか使える人物がソレをやるといろいろ洒落にならない。

 ……まさか嫉妬? 翼を置いて自分が奏とくっついているから……?

 深町晶は考えられる理由で、一番の最適解を見つけると、そっと彼女へのフォローを実行する。

 

「あの、俺と奏さんはそういう関係じゃなくて――」

「……わたしから奏を奪うのか?」

「――――え?」

「また、わたしから奏を奪うのか?」

「ちょっと、あの?」

 

 彼女の文句は、少しだけ少年の思惑から外れていたようだ。

 ジト目ながらに落涙。 まさか自分が敵扱いとは思わなかった深町は、自意識過剰に若干の照れ隠し。 頬を掻くと、彼女に言い訳を語りかけていく。

 

 そんなことはない、自身はただ、皆と平和な労働時間を堪能しているに過ぎないと――

 

「……ですから、俺は風鳴さんから天羽さんを取る気なんて。 それこそ勘違いだ」

「そうか、いや、そうであったな。 私とお前は共に戦場を駆け抜けた戦友、ならば片翼である奏と同じ時間を過ごすのも当然だろう。 いやいや、無礼が過ぎたな深町、どうにも奏のことになると冷静さが欠如するようで」

「はは、仕方が無いですよ。 だって亡くなったと思ったら無事に帰ってきたんですから――」

「――――しかし、片翼たる奏がご主人様と認めたのなら、私も深町のことを“そう”呼ぶべきなのか……?」

「待て待て待て!!」

 

 極真剣に思い、悩む刀美人を前に深町の表情が凍り付く。

 マイナス20度の極寒が少年にぶち当たる中、翼はそれはもう思い詰めて考え抜いていたそうな。

 

 結果。

 

「そういえばなぜ奏は深町の事を主と呼ぶ?」

「そ! そうですよね! まずはそこら辺の誤解を解いていこう!!」

 

 という段階に落ち着いてくれたらしい。 深町少年の首の皮が一枚だけ繋がった。

 

「それはアタシも思ったんだ、なんでそこの変態全裸オンナは晶のことをご主人様だなんて呼び出したんだよ」

「そうそう! 奏さんって初対面じゃないんですか!」

「ひ、響!! いつのまに帰ってきたの?」

「えへへー、早く診断が終わったからダッシュで来ちゃった。 それで、なんでなんですか深町さん?」

「……俺だって知りたいよ」

 

 響に身体を揺さぶられながら深町の視界が盛大にぶれる。 揺れる世界は大変気持ち悪く、彼から正常な判断をごっそりと奪い去っていった。 疲れた顔を見ると、奏がにんまりと笑う。

 

「えーと、まぁショウが使っているユニットGはもともと降臨者の持ち物だったわけだな」

「え? はい」

「で、遺跡宇宙船もそうだ」

「はい」

「そんでもってそれら二つをくっつけるのは、深町のアイデアだ」

「え?」

「あの蛹は深町の設計だよな?」

「たぶん」

「で、その中で私達はお互いの身体を溶かし愛ながら、再生のときを待った」

「え、うん…………ん?」

「この時点で深町は命の恩人だ」

 

 

 そこまではいい。 いや、一瞬良くない単語があった気がしたが少年は構わず先を促した。

 

「蛹の中で私達は強く願ったんだ。 強くなりたい、すべてを救える強靱な躯がほしい、戦えない身体を完全なものにしたいって」

「それは覚えてますけど……」

「んで、その過程で深町は巨人殖装を作り上げた」

「はい」

「で、深町の意識に混ざってアタシの願いも聞き入れたコントロール・メタルは、ついでに私の身体を再構成。 ギガンティック創造時の余剰部品でアタシの組上げを完了させたんだ」

「そ、そんなことが」

『…………』

 

 あまりにも重い話。 それをすんなりと話していく奏に装者が戦慄する。

 その、武器製造のついでに人体の再生を行う件の蛹にも驚愕だが、ほぼ戦闘不能だと聞いていた天羽奏を健常者にまで引っ張り上げたというのはおそらく……彼女が、まだ利用できるとコントロール・メタルが判断したからだろう。 

 それがなかったと考えると……皆はキュッと唇を閉じた。

 

「ところでショウ、ギガンティックはお前が作ったんだよな?」

「え、まぁそうなりますよね」

「そんで、アタシはギガンティックの部品の一部であってるか?」

「いや部品だなんて! 天羽さんは天羽さんですよ!!」

「ふっ、おまえのそう言うところが……いや、まぁ、一応アタシは“お前の”ギガンティックで命を繋いでるんだろ?」

「えぇ、そうなりますね」

「ギガンティックは?」

「俺の、もの?」

「そんじゃあ天羽奏ちゃんは……?」

「オレの……モノ……………………は? あ、いや! 何でそうなるんだよ!!」

 

 無理矢理にもほどがある。 まさか相手からジャイアニズムを強要されるとは。

 深町の非難に、しかし奏はしてやったりと大はしゃぎ。 最初からこの誘導尋問が目的だったのか、少年の周りをスキップすると満面の笑みでこう告げた。

 

「アタシは義理堅いんだ。 だから恩が尽きるまでお供するよってことさ、ご主人様―♪」

「だからその呼び方はやめてくださいよ!!」

「いいじゃんいいじゃん、ちょっとしたお遊びでさ」

「その遊びで俺が逮捕でもされたらどうするんですか!!?」

「そんときゃ旦那にでも助けてもらえばいいじゃんか」

「そんなくだらない理由で国家権力を動かせてたまるかー!!」

 

 社会的には完全に死んでいる事にされている者同士、仲良くしようぜと奏は豪快に笑う。

 

 その後ろで刀美人が「主殿……ありだな」などと地雷を地中深く設置していることなど露とも知らず、深町少年の嘆きの声が工事現場に木霊していった。

 

 

 

 それからしばらく騒いでいたが、深町の休憩終わりでダラダラと解散。 各々持ち場に戻り、街の復興作業に従事していく。

 天羽奏と立花響の両名は現在2課仮説本部(テント)で資料整理の手伝いをしている。 今回起きた事件をそれぞれの人物が意見を出し、それをまとめていく作業。 今回、二人は同じガングニール使いとして集められ、それぞれ情報を書き綴っていく。

 

「……いろんな事があったな」

「……はい」

「まさかあのとき救った中坊が、こんな立派な戦士になってるだなんて思わなかったよ」

「わたしも、まさかもう一度奏さんに会えるなんて……あのときはありがとうございましたっ!」

「いや、中途半端だったと我ながら思う。 その胸の傷、消えないんだろ? ごめんな、乙女の柔肌にそんなの残しちゃってさ」

「そんな! いいんです、これだけで済んだんですから……」

 

 言いたかったことを、余すことなく言い切る。

 聞きたかったこと、伝えたかったこと。 初めてであって別れて、そこからあった苦難の道のり……そして。

 

「わたし、このまま深町さんの近くに居て良いのかな……最近そう思ってしまいまして」

「……了子さんのことか」

「はい。 あのとき言われたこと、きっと本当だったんだと思います。 ノイズと戦ってる最中、何度か意識が飛んでるような感覚が在って、でも、その後にはすぐそばに深町さんが居て。 きっと深町さんが助けてくれたんだって思ってたけど、実際はもっと恐ろしいことが起ってたんだって」

「アタシと、ガングニールの欠片を取り込んだショウのガイバーは、アタシ達人類のこと、それにシンフォギア、ガングニールの事を解析し理解した。 だから、その影響をモロに受けてるアタシ達は、どこかでショウに引っ張られているところもあるのは間違いない」

「……」

「けど、だからってさ」

「え?」

「この胸の高鳴りはウソなんかじゃないんだ。 アタシは別に命の恩人だってだけでショウにあんな事してるわけじゃないんだ、本当だぞ?」

「そうなんですか!?」

「ま、まぁ多少やり過ぎなのはわかるけどさ」

 

 頬を掻き、ここ数日の奇行を思い返しながら少しだけ頬を染める。

 その姿に響は息を呑み、強いまなざしで続きを促す。

 

「アイツは馬鹿正直で融通が利かなくて、頑固で、頑張り屋でさ……頑張ってきちまったんだよ」

「……はい」

「普通ならもうくじけて良いはずなんだ。 ショウの親父さんのこと、響は“あのとき”見せてもらったろう?」

「………………はい」

「普通の神経してたら立ち直れない。 身も心もボロボロにされてさ、でも、立ち上がれって強制されてよ、状況が許してくれなかったんだ。 倒れて、終わることをさ」

「ガイバーの、蘇生能力」

「そんなになってまで頑張ってるアイツをさ、似てるって思ったんだ」

「翼さんに……ですか?」

「いんや、アタシにだ」

 

 理不尽の暴力で命と、大切な存在を奪われた少年はきっと激しい憎悪を抱いたに違いない。 それは、天羽奏も経験として実感がある。

 奇しくも同じ“ミナカミ山”で起きた事件として、その光景は奏の脳髄に深く焼き付いている。 そう、鮮烈なまでの死闘の数々は奏に、いいや、装者達に伝わっていたのだ。 だから……

 

「だから、アイツは怒りで……憎悪を糧に戦っていると思ったんだ」

「深町さんが……?」

「あぁ、まぁそれはすぐに違うってわかったよ。 アイツはさ、アタシなんかよりもよっぽど強かった。 仇を取る事よりも、もっと重要なことがあるってすぐに気がついて、ソッチを取る事が出来た」

 

 仲間を守る。 今生きている命を救うことを選んだのは、あの運命の洞窟の中だ。

 

「素直に凄いと思ったんだ。 それと同時に怖いって思ったんだ」

「深町さんが……ですか?」

「あぁ。 アイツは引き絞った弓矢だ」

「どういう、事ですか?」

「強く引いて放った矢は強力だが、引き絞りすぎれば弓が折れる。 そして、そんな強さで飛んでしまったら、きっと二度とかえって来れなくなる」

 

 弓はガイバー、そして矢は深町の事を言っているのだろう。

 

 あんなに強力な身体に、ただ、前向きが取り柄な少年の心はアンバランスに過ぎた。

 だから奏は恐怖した。 この、均衡のとれていない人間の行く末があまりにも不安すぎて。

 

「力になってやりたいと思ったんだ。 だからなのかな、深町を介して、ユニットが生かしてくれたんだろうな」

「……それは」

「あぁ、きっとアタシの勝手な想像に過ぎない。 でも、そう思いたいじゃんか。 すべてが合理的になんて、きっとつまらない “この胸の鼓動に、アタシは従ってきたんだ”からさ」

「奏さん……」

「だから、アイツが暗い顔してたら笑わせてやりたいし、悩んでたんなら聞いてやりたい。 知ってるか? あいつ、笑った顔が結構かわいいんだぞ?」

「それは、知らなかったです!」

 

 そう言って彼女達は席を立つ。

 書類に必要な資料は思い出せる限り大体書き記した。 後は、司令官の赤い男がやってくれるだろう。

 

「さぁて、この後は翼とクリスちゃんの番だったな」

「そうですけど、どうしてそんなにニヤけてるんですか?」

「オジャマムシが居ないんだ、ショウにスキンシップし放題」

「……ほどほどにしてあげてください」

 

 少年の胃袋に甚大なダメージを与える算段を建てている奏に、苦笑いで送り出すことしか出来ない響であった。

 

 

 

 

 

 次の、二人。

 

 

「かぁー! アタシって奴はこう、文字とかレポートだとかが苦手でよー!」

「そう言って居ても作業は終わらんぞ。 そうだ雪音、この後の夕餉は深町が厨房に立つと息巻いていたぞ」

「……はっ! こんな雑魚共瞬殺だぜ!」

「…………こういうのをチョロいと言うんだな、奏」

「あんた今、随分なこと言ってくれなかったか……?」

 

 シンフォギアに適正を見せたコンビとして選ばれた二人だ。

 音楽という才能に秀でた彼女達から見て、今回の戦いからなにか感じたことがなかったか、特にガイバーとの戦闘を複数回行った人物達だ。 それを吟味しての選考でもある。

 

「深町と、櫻井女史のガイバーの違い……か」

「あー、おっぱいが付いている方がフィーネで、なんか堅そうなのが晶だな」

「……もっとほかに何かないのか?」

「巨人と獣とかか? でも、どうして同じ強殖装甲なのにあんな方向性に違いが出ちまうもんかねえ」

「深町から聞いた話では、コントロール・メタルは殖装者の意志をある程度反映するらしい。 たとえば、初めて殖装したとき、不快感や恐怖心により防衛本能が強くはたらいた深町は防御寄りに。 逆に覚悟と、攻撃性のある巻島顎なる人物が殖装するガイバーⅢは全体が攻撃的らしい」

「晶が巨人になったのは、強い躯が欲しいって願ったからか?」

「私も詳しくは知らないが、どうやらこちらに来る直前に遺跡宇宙船なるモノに接触して居たのも要因らしい」

「で、フィーネは……」

「おそらくだが、必要が無かったんだろうな」

「なにが?」

「両手だ。 深町は護り、戦う為の躯を欲したが、櫻井女史にはそれがなかった。 結果、その躯は破壊するだけの獣へと変わり果てていったのだろう」

「……そういうもんかねぇ」

 

 トントン、と資料をまとめていく翼。

 整理整頓は苦手というモノの、そこに仕事というベクトルが加わるとこうも変わるモノかと感心する後輩が一人。

 

 さて、そんな彼女達だが、ここに来て一つ、どうしても確認しておきたいことがあった。

 

「あんた、晶のことどれくらい知ってたんだよ」

「どうしたいきなり」

「“アレ”はアンタも見てたんだろ? なのに、どうもアタシらよりもショックが少ない気がしてさ」

「……前に、少しだけな」

「ふーん……」

 

 あぁそう? なんて呟くクリスは片手で髪を一房弄り出す。 すこしだけ翼から視線をそらした顔は憂鬱に見え、それを見た翼は目をつむる。

 

「これから、新しい事を聞いていけば良い」

「……え? な、なんだよ藪から棒に。 べつにアタシはあんなヘタレのことなんかなぁ!」

「いや、奏のことだったのだが……」

「ふ、ふーん……」

「雪音」

「なんだよ」

「おまえ、すこし……いや、結構かわいいところがあるではないか」

「――――ッ!!!」

 

 などと後輩をかわいがる剣は、とてもとても切れ味が良かったそうな。

 

 

 

 

 少女達から離れたところ、深町晶がいまだガイバーを纏い、工事現場でアスファルトの粉砕作業を手伝っていた頃、彼の背中に一つ大きな影が現れた。

 

「よう、晶君!」

「あ、弦十郎さん。 来ていたんですか!」

「あぁ、流石にキミの力が合っても人手が足りないと思ってな。 こう見えても体力には自信がある」

「……どう見たって体力お化けな人だと思ってました」

「なんだ、ばれていたのか残念だ」

「隠す気無いでしょう、その腕まくりした恰好は」

「ははッ!!」

 

 ガイバーの腕力で鉄骨を運ぶ横で、足場から足場へと空中移動で建設現場を移動する弦十郎の姿は先の決戦を思えば当然の絵なのかもしれない。

 

 ただ、そのことを覚えていない深町は唯々あの大人を人外枠へと移動していった。

 

「……ところで晶君」

「どうしたんですか?」

「…………奏を所有物化した件についてなんだが」

「ぶーーーーーー!!」

 

 まぁ、最近人でなし枠に強制移動した自身に比べればかわいいモノだったが。 さて、弦十郎が深町に向き直ると、彼は少しだけ笑っているようにも思えた。 それは、からかうと言うよりも……

 

「2年前、アイツは君に会う前から既に限界だった」

「……」

「家族を目の前で惨殺され、一人残されたところに残っていたのは傷心ではなく、巨大な憎悪だった。 それは少女を戦士に変えるには十分すぎるほどの燃料だった」

「……だから、どんな無茶でもやり遂げて力を手に入れた」

「そうだ。 奏は元々シンフォギアに適合できる人間ではなかった、それを度重なる実験と、命を削り取るほどの投薬とで、それこそ血反吐を流しながらようやく力を掴み取った」

「でも、その代償は高かった……」

「……力を手に入れた時点で、アイツはもう大人になれるかどうかわからないほどの時間しか残っていなかった」

「……」

「それから毎日が戦いだった……それが、いまじゃあんなに楽しそうにしていてな」

「……はい」

「例え全裸で所有物宣言するほどまでにぶっ飛んだ事になったとしても」

「う゛ッ!!」

「アイツがあんな風に笑っていられる日が来るなんて、思っていなかったんだ」

「……複雑」

 

 しかもあながち間違っていないと言うセルフ突っ込みは置いておく。

 語弊もあるし、何より自殺に等しい発言だからだ。

 

 冗談交じりに痛いところを付いてきた弦十郎だが、その感謝の念は強い。 それは、先日行われた奏のメディカルチェックの結果が信じられない数値をたたき出したからだ。

 

――――――ほぼ、健常者と変わらない。

 

 その結果にどれほど安堵したか。 その言葉にどれだけ目頭が熱くなったか。

 今までの少女の熾烈さを、近くで見ていたからこそこの結果は弦十郎を救ってくれたのだ。

 

 

 しかし、だ。

 あそこまで傷ついた身体がなぜこうまできれいになったのか。 不安が消えた後に残る疑問は案外簡単であった。

 

「奏があそこまで回復したのは、ガイバーの再構成によるモノか」

「きっと、そうでしょうね。 あの蛹の中で液状に溶け合った強殖細胞、宇宙船細胞、さらに俺というニンゲンと、天羽さんというこの世界の人間。 それらが結合して新しい形になるとき、彼女の中にある不純物がコントロール・メタルに検知されて排出、結果あのヒトは健常者と変わらない肉体に再生されたんだと思います」

「人体の欠損すら再生可能なガイバーにとって薬で作られた不具合などものの数で無かったということか」

 

 コントロール・メタルがホンキを出せばそれだけですまない。 事実、ここには“2回”ほどやり直している人物が居ることだし。

 深町はそっと苦笑い。 過去の苦戦を思い出し、ガイバーの手の平を意識的に握りしめた。

 

 その手は、これからなにを掴み取っていくのだろうか。

 それは少年にも大人にもわからない。 だけど、ただ一つだけ知っていることがある。

 

 それは…………

 

 

 

 

 

「へーい! ご主人様――!!」

「ぶーーーーーー!!」

 

 嵐がすぐそこまで来ていることを。

 横合いからのタックルに、流石のガイバーもよろける。 なんとか体勢を整えて犯人に向かって注意を行おうかというところで、深町の全思考回路が凍結する。

 

「お、おい奏! おまえなんて恰好で!」

「なにってメイドだよ、メ・イ・ド! 最近はやりなんだろ?」

「どこ情報だ、まったく」

「っかしいなあ……メタルから送られてきた情報だとそんな感じだった気が」

「…………」

「おい、まさか……キミは」

 

 奏のその言葉に一瞬だが凍結した深町。 随分前にネットで秋葉原のメイド喫茶なる、1990年代からしてみれば近未来に等しい文明の遺産を検索した事があったのだがまさか……恐ろしい未来予想を一瞬でかき消し、少年はミニスカメイド奏ちゃんからさっと距離を開ける。

 

「どうどう? これ、なんつーかステージ衣装にもこんなんあったけどさぁ……いやぁ、似合っちまうもんだな」

「おい、晶君……」

「……お、俺のせいじゃない」

「てかこのガーターベルトエロすぎじゃね? 初心なご主人様にゃあ刺激が強すぎたかねえ」

「晶君……」

「…………断じて俺のせいじゃないッ!!」

 

 ひらひらとスカートを見せびらかしてくる奏に強く握り拳を作りながら、少年は今日も健気に生き抜いていく。

 

 それが例え……

 

「あ! ようやく見つけたぞ全裸ッ!! あ? なんだぁその恰好」

「いやぁ、ご主人様って言った手前さ、こういうのも大事かなって!」

「……奏、似合ってる」

「深町さん! 今日の晩ご飯はお肉が良いです!! フィレとかロースとか!! どうですかッ!!」

「ちょっと響! 深町さん、ガイバーで表情わからないけどとんでもない事になってるから……もう少しだけそっとしてあげよ? ね?」

 

 唯一の清涼成分に心底涙を浮かべ、もうそろそろ解散の時間だ、夕食の支度をしなければと深町は殖装を解こうと――

 

 

「クリスちゃんもやる?」

「やらん!! ていうか恥ずかしくねーのかよ男子のまえでそんなん」

「いやぁ、ショウとはもう、一つになっちまったしなぁ……いまさら――」

「い゛い゛っ!!?」

「おい、晶。 いまさっらっととんでもない事が判明したが」

「深町、おまえはどうなりたいんだ?」

「深町さんと奏さんがッ?! 未来、大変だよかなり先に走ってるよ!!」

「し、しらないよ! もう……」

 

 事実と虚実が混ざり合って何かわからない物が完成しつつあるこの空間。 少年は心臓に過負荷をかけながら胃袋を締め付けられる毎日で。 ならばもうしばらく殖装をしておこう、胃袋も心臓もほとんど無いなら平気、ヘッチャラだよねと呟くのであった。

 

 

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