強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第33話 開門 地獄への入り口

 

 

 

 

 たどり着いた新世界。 日本という島国を離れ、大陸へと渡ったのは少年少女5人とちょっと強い大人が二人。

 月が沈もうかという時間に、彼等はとある製薬工場を前にして身を隠す。 戦いは、既に始まっていたのだ。

 

「……どうだ晶君、ガイバーで中を透視できるか?」

「大丈夫です、特に変わった磁場とかは無いようで、センサーで地下まで見渡せます」

 

 特に変わった様子のない施設はやはりブラフ。 本題は10キロ平方にまで広い地下施設にあるようだ。 深町が見れる範囲ではおおよそ地下20階はくだらないだろうこの施設はやはりクロ。

 櫻井はここを拠点として、非道な実験を行っていたに違いない。

 

「…………櫻井さん」

「ショウ、切り替えろ。 まずはここのいる人たちの解放が優先だろ」

「わかってます。 ……手はず通り俺が先行します、2時間して帰ってこなければ突入してください」

『了解』

 

 既に殖装を終えているガイバーⅠが、手の平に重力変を引き起こすとそのまま地面を掘削していく。

 目指すは地下施設の一番監視の目が少ない箇所、トイレだ。

 生命反応と、空間の広がり具合を確認しながら施設に接近していくと、ちょうど良く開けた場所をセンサーが拾う。 もうそろそろか? などと様子をうかがった深町は、そっと施設の壁に穴を開ける。

 

「……よっと、潜入成功」

 

 着地と同時に殖装を解き、トイレの個室にこもる。

 あらかじめ衣服の下に仕舞い込んでいた白衣だけを纏うと、何食わぬ顔で廊下へと出て行く。

 

「…………弦十郎さん、本当にこんなんでいけるんですか」

 

――――――潜入捜査なら先週予習を終えたところだ。

 

 やけに自信満々の司令に促されるまま、通信機すら使えない、今現状一番危険な状況にあるはずの深町では在るが……

 

「……あれ?」

 

 ナゼか。

 

「おかしいな……」

 

 先ほどから。

 

「おい、そこのお前! なにをしている!!」

「……っ」

「ソッチは女子更衣室だ、いくら地下にモグラだったとしても守るべき事は守れ……気持ちはわかるが」

「…………ウソだろ」

 

 警備が、ざるではないだろうか。

 

 クロノスへの潜入経験がある深町からしてみても、ここの職員の緊張感の無さは尋常では無かった。 いや、比較対象が秘密結社とフィーネの尖兵という差があるのだが。

 

「さて、と。 さっきガイバーで覗いたときだとここが地下7階だろ。 さらに地下に潜ったところから聖遺物の反応がしていたから、一回だけそこを観よう」

 

 何か手がかりがあるかもしれない。 要らない欲を出してしまったが、こればかりは仕方が無いのだろう。 少年が神経を集中しながら歩いて10分の距離に階段、その間にはエレベーターがあるのだが出来れば使いたくは無かった。

 

 ……エレベーターにはあまり良い思い出がないからだ。

 

「監視に引っかかると面倒だし、変な質問されてもめたら大変だしな」

 

 呟く深町は早歩き。 生まれ持っての潜入スキル“特徴の無いのが特徴”が無事に役に経った瞬間である。

 階段を駆け下り、そのまま目的地へと行こうかと言うところで彼の背中に怖気が走る。

 

「なんだ、いまのは」

 

 深町の背中、正確にはガイバーを呼び出す細胞が埋め込まれた誘殖組織が、何かに反応するように蠢いた気がした。 何かがいる、そして深町を呼んだのだ。

 

「…………まだ、時間はあるよな」

 

 気になるレベルでは無く、行くべきだという確信が深町には有った。 今まで背中の組織がこのような反応を見せたことがないからだ。 なにか、ある。 ガイバーに深く関わる存在が、この施設の地下13階にある。

 少年は入り口を観るが、残念なことにカードキータイプの施錠がされており中身も見えない。

 

「だめか」

「なにがダメなんですか……?」

「……ッ!?」

 

 背中からの声に、心臓を止めること2秒半。 そっと、本当にゆっくりと顔を背後に動かす。

 

「……なんですか?」

「女の子……?」

 

 振り返った先には中学生くらいの女の子が一人。

 

「どうしたの……?」

「みたことない人が居るんですよ」

「……また、女の子」

 

 否、二人だ。

 

 最初に声をかけたのは、朗らかな印象の金髪の子。

 黒髪の、目元が鋭い子がその後ろからやってくると、そっと深町の眼を覗く。

 

「……この人、確かに知らない人」

「あ、いやおれは――」

「でもいい人そうですよ! 目が死んでないですし」

「え、あ、そう! 俺は決して悪い人じゃ無くて。 ほら! 最近人員が減ったから補充できたんだよ」

「……ぁ」

「そう、でしたか……」

「ん?」

 

 嘘から出た誠なのだろうか。 深町の咄嗟の言い訳だったが、なにやら事情があるようどで。 不意に表情が暗くなる少女二人に、深町はすこし違和感を覚える。

 

「ところでキミたち、こんなところで何してるのかな?」

「なにって、そんなの実験に決まってるじゃないデスか」

「実験……」

「あなた、本当に大丈夫? このエリアは初めて?」

「え、あぁ、まぁ」

「……そう、可哀想に」

「…………」

 

 黒髪の女の子が、辛辣な視線を向ける。

 まるでこの先を呪うかのような眼差しは、少年の背中を震えさせるに十分だ。 こんな、まだ20にもなって居ないような子供がどうしてこのような貌をするのか。 深町にはすぐに検討が付き、歯がみする。

 

「どうしたのデスか? お、おなか痛いデスか?」

「え? あ、いや……」

「変な人。 まぁ、どうせ貴方もすぐ慣れるから大丈夫」

「…………この子達、まさか実験の被害者なのか」

 

 こっそりと右拳を握る深町晶。 彼女達のような人間を集めてなにをする……? その疑問に櫻井了子と天羽奏を組み合わせると、とてもよくできた回答ができあがる。

 

「君達、完全聖遺物の起動実験を……?」

「な! なんでそんなこと知ってるのデスか!?」

「貴方本当に新人? 聖遺物の事は極秘のはず」

「しまった……!」

 

 少女二人の警戒心を一気に引き上げてしまった。

 一気に耐性を変えるとクラウチングスタートの構え。 即座に撤退を心に決めると全力で廊下を蹴った。

 

―――――――――――――――緊急警報 緊急警報

 

「な、もう見つかったのか?!」

 

―――――――――――――――実験室を緊急閉鎖 職員は至急待避を 繰り返す……

 

「こ、これは!?」

「まさか“ネフィリム”が!」

「ねふぃるむ……? たしか、エノク書とかにある共食いの……はっ!?」

 

 ここにある完全聖遺物はソレのことか。 ひらめいた深町だが、その回答には一部矛盾が発生する。 その聖遺物がここにあるというのならさらに地下にある者はいったい何なのか。

 思考する刹那、深町は眼前の景色に叫び声を上げた。

 

「キミたち逃げろッ!!」

「え?」

「……あ!」

 

 いまの騒動で何かが暴れたのか、少女達の頭上がもろくも崩れて行くでは無いか。 こんな地下で落盤など洒落ですまない。 どうにか、なんとかならないかと思考をフル回転させた深町は叫ぶと同時に走り出していた。

 一歩、二歩と力強い走りで彼女達に駆け寄るや否や、両手で突き飛ばし、自身は真上から迫る落盤の直撃をうける。

 全身が動かない。 おそらくただで済んでいないだろうし、このままでは確実に不味いことになる。 意識がなくなれば、この少年は普通に死んでしまうのだから。

 

「あ、わわ……ど、どうするんデスか!? さっきのお兄さんが!!」

「いまのわたし達じゃどうにも出来ない。 マムのところに行けば薬があるから、それを取ってこよう」

「…………なんでもいいから、ここからにげてくれ」

 

 少女達が慌てる中、深町は恐ろしいまでに冷静だ。

 自身が後どれくらい意識を保っていられるか、その延長方法を模索し、痛みに寄る刺激をひたすら与えていく。 具体的には折れたあばらを肺にこすりつけていくと言う狂気の沙汰。

 

「い、いまタスケを呼んでくるデスから! し、死んじゃダメデスよ!!」

「いこう、急がないと手遅れになる!」

「……………………やばい、意識が」

 

 少女達の足音が遠くへ消えていく。 落盤は勝手にどかないし、自身はもうすぐ命の灯火が消えるだろう。

 

 冗談ではない! 己はまだ死ぬわけには行かない。 死して終わるわけには行かないのだ。

 

「…………ガイ、バー……ぁぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 落盤が消し飛ぶ。

 

 少年の叫びに呼応して中身のない躯が異次元の向こうから現れる。 死体寸前の躯に組み付くと、全身の細胞を書き換え、脆弱な生き物を強靱な戦士へと変えてみせる。

 着地し、当たりをセンサーで見渡す深町は即座にかがむ。 頭上に風邪が吹きすさぶと、雄叫びのような暴風が彼を襲った。

 

「ネフィリムッ!! キサマァアアアッ!!」

「――ッ!?」

 

 槍だ。 ガイバーの首目がけて凶刃が一閃したのだ。

 どうにか躱し、一気に距離を取る。 同時、施設の機材が限界を超えたのか火花を散らし、辺り一面を火の海に変えた。

 

「……オマエは、いったいどれほどの犠牲を出せば気が済むんだッ!!」

「な、なんだ……!」

「ここでキサマとの因縁を断ち切る!! はぁあああ!!」

 

 戦士が一人、ガイバーに襲いかかる。

 フルスイングの槍をバックステップで回避。 着地と同時に手の平を前に突き出すと、襲撃者の足下目がけて衝撃砲を打ち込む。

 

「効くかそんなもの!!」

「……いや、それでいい」

「――――!?」

 

 戦士が槍を振り回して衝撃を受け流すと、不意にヤツの身体を浮遊感が襲う。 足下をくりぬかれ、そのまま地下に落とされたのだ。

 

「……なんだったんだ、いまのは」

 

 凶戦士をやり過ごし一息。 再びセンサーに意識を集中すると、再びセンサーに反応が。 ソレを追っていこうとした深町はコントロール・メタルからの緊急指示を脳内で鳴らされ、咄嗟に身体のコントロールを受け渡し、背後に衝撃砲を打ち込んだ。

 

「キシャアアアアアアアアアッ!!」

「なんだ、こいつ……強殖生物のバケモノか!?」

 

 ソレは異形。 それは怪異。

 

 ノイズと呼ぶには実態がはっきりしていて、生物と言うには常識から逸脱していた。 その姿、今現状起こしている惨事は、もう、手遅れなまでに甚大な被害をこの世界に与えていた。

 

「……おまえ、その口のものはなんだ」

「hyuUUUUU!!」

「……たず、げで……う、ごっ……!」

「その人を離せッ!!」

 

 口から鮮血をほとばしらせた怪物に向かい、ガイバーは既に鬼神と相成った。 人の命を喰らう怪物は嗤う。

 次はオマエか……なんて生きの良いエサなのだと。

 

「嗤うな……俺たち人間を……嗤うな!!」

「……ッ!!」

 

 右の拳打から左の手刀、そのまま高周波ソードを展開すると、一気に引き裂き奴を両断する。

 だが、狂ったように雄叫びを上げると、ヤツのカラダの傷がふさがっていく。

 それを尻目に深町はいま救出した人物を抱き上げると、先ほどの穴から降下。 あの怪物と一気に距離を開ける。

 

 駆ける駆ける。 一刻も早く、胸の中で虫の息となって居る人物を外に連れ出さなければならない。 焦る少年に、しかしその人物は心穏やかに唱えた。

 

「もう……いい……」

「良くない! こんなの人間の死に方じゃない……こんな、身体の半分を喰われて、それでも無理矢理意識を縛り付けられて」

「しかた、ないんだ……これは天罰さ」

「なに言ってんだ! 神様なんて居るわけないだろう!? 理不尽なんてのは人間達の罪のなすりつけあいなんだ! だから……!」

「あんた……そのからだ……櫻井了子の研究資料にあった……フカマチ……だろ。 気をつけろ……あんたの望んだものは……あの怪物が……ねふぃりむが……」

「もういい! いまは俺のコトより――」

「     」

「…………ちくしょう」

 

 息絶えた研究員を地面に寝かせる。 このまま外に連れ出してあげたいところだが、もう、“完全に手遅れ”のようだ。 だから……

 

「……クソッ! ……ソニック・バスター!!」

 

 少年は死体を、塵に返してやる。 せめて最後まで痛みが無いように、完璧な調律で一瞬で。 男をこの世から消し去ってやる。

 

「…………おまえ、今なにをした」

「……?」

 

 観たモノが居た。

 虫の息の男を、最後だと言わんばかりに粉塵に変えた鬼神を。 その身体を血に染めて、まるで地獄の使いだと言わんばかりに容易に命を奪ったのだ。

 

「キサマ……そうか、その姿、人間の遺伝子を取り込んで変異したのだな……!」

「な、なにを言っているんだ……俺は――」

「怪物と馴れ合う習慣はない!! 消え去れーーーー!!」

「ぐっ!? コイツ!!」

 

 血走った目で槍を振るうのは一人の女だった。 黒い装束で黄色い槍を振るう姿は、ふかまちのよく知るバトルスタイルである。

 

「ガングニール……だとッ!?」

「はぁああああ!!」

 

 槍の一閃をなんとか躱す。 ガイバーのセンサーが無ければとっくにコントロール・メタルを粉砕されていただろう。 それほどの速度、そこまでの威力。 今このとき、あの一本の槍はどの装者よりも強く、猛々しい。

 それがどれほど殺意に満ちた物であっても。

 

「ネフィリム!!」

「くっ! 人違いだっていってるだろ!?」

「うおぉおおおおおお!!」

「だめだ、この人も立花さんみたいに心が……だったら」

 

 躱すにも限界がある。

 ガイバーの強殖装甲すら切り裂く激槍は、振るわれるたびに鋭さを上げ、威力を増していく。 そんな攻撃にガイバーだけでは対処できない、しかし、人間相手に巨人になるまでも無いのも事実である。

 だから、深町は……

 

「ぐッ……!」

「取ったッ!!」

「…………いや、狙い通りだ」

 

 腹部を貫かれると同時、槍の使い手を引き寄せる。

 

 両腕を背中に回し、いわゆる鯖折りの体勢に持って行くと、そのまま一気に抱き上げる。

 

「くっ! はなせ!!」

「そっちこそいい加減に話を聞けよ!!」

「……なに?」

 

 ガイバーのコントロール・メタルが輝く。 同時、オンナから猛々しさが消え、深町の声がようやく届きはじめる。

 

「俺はネフィリムなんかじゃない!」

「なにを言うかと思えば! 例えそうだとしても先ほどあの者に行った非道はどう説明する!!」

「あのヒトはもう限界だったんだ。 あれ以上は、人間じゃ無くなっていただろう……」

「…………おまえ」

 

 深町の声は震えていた。 例え半死人で、この先が無いとわかっていても、その介錯をさせられて少年の心が揺らがないわけがない。 強固な装甲で必死に隠していた強がりが揺れ動くと、同時、オンナの表情から怒気が消える。

 

「おまえじゃ、ないのか」

「……そうだ、俺は……ニンゲンだ」

「………………そうか……その、あの……」

 

 オンナが、不意に深町から視線を外す。 当然だ、まさか必死の形相で槍を向けた相手が他人の死にあんな声が出せる聖人のような善人で、しかも自身の勘違いを身を挺して是正しようとしてくれたのだ。

 申し訳なさで潰れてしまいそうになるのは当然であった。

 

「苦しかったですよね、すみません今下ろします」

「……気遣い無く。 もともとはこちらの……くっ!?」

「ちょ、ちょっと!? ……こ、これは身体が」

「力を手に入れようとした者の末路だ、気にしないで」

「……」

 

 オンナの身体の中で不純物が蠢いている。 ソレがなんなのかは、答えは半年前に立花響から教えてもらっている。

 

「貴方は聖遺物の欠片を身体に……」

「これしか無かった。 LiNKERなしであの怪物に渡り合い続ける方法など、もう……」

「けれど無茶だ! 完全聖遺物ほどではないにしても、シンフォギアは身体に負担がかかるんだぞ!」

「……知っているさ……」

「……まったく、この人は」

 

 故に、彼女は運が良い。

 

「おい、なにをする……!」

「すこしおとなしくしていてくれ。 ……あばれているのがガングニールだというのなら、このガイバーのメタルで統制出来るはずだ……」

「……からだが、かるく」

「なんとかなったか」

 

 以前、暴走する響に使ったのと同じ感覚だ。 ソレをこの人物にも適用した深町はセンサーで彼女の身体をくまなく調べる。

 

「良し、怪我もないみたいだ。 もう平気ですよ」

「……すまない。 いや、それより貴方の傷の方は! 私が、その……」

「あぁ、まぁそのうちふさがると思うので……」

「なに!?」

「ここの施設の人間なら知っていると思ったんですけど――――」

 

 お互いの状況を話し合っている時間はもう無かった。

 深町の背後、暗闇の中から牙が突き出される。 センサーでオンナの身体を観ていた深町は一瞬の遅れ、だが、それがなんだというのか。

 

「…………蛹よ」

「!?!?!?!?」

「なんだ、なにも無いところから……」

 

 絶対防御の外殻が凶刃を阻む。 次元の隙間から顕現したのはガイバーの新たな躯。 その入れ物が口を開くと、怪物が一歩後退する。

 

 本能的に恐れたのだ。 あの外殻に使われている材料と、その本質が――――自身を滅ぼす、天敵に他ならないと。

 

「貴方は……いったい……」

 

 怪物の、ネフィリムの怯えた姿など後にも先にもこれっきりだ。 故にオンナはわからなかった。 この、善人の男が何者で、どうしてこんなに傷だらけになっても戦い、そして――――

 

「ガイバー・ギガンティック!!」

「ぐっ!?」

「キシャアアアア!!」

 

 この男が、どれほど強大な力を持っていたかなんて。

 人の尊厳をあざ笑うかのように、ただ、食い殺したかったからそうした怪物に対して、深町は一切の容赦を捨て去った。

 巨人の姿を顕現させ、怪異に向かって拳を打ち付ける。 途方もないエネルギーの無駄遣い。 たった一体の聖遺物に対して、あの巨獣を葬った拳を向けるのだから。

 

「喰らえ! グラビティ・ナックル!!」

「――――――――!?」

「すさまじい……」

 

 衝撃波だけで施設が揺れ動く。

 豪腕で吹き飛ばされたネフィリムは地上へ向けて弾丸飛行。 その姿に開いた口がふさがらないオンナは、そのままギガンティックに担がれてしまう。 少しの戸惑い、それを許さない強引さで深町は重力球でこの場を離れようとする……刹那。

 

「まつデス! バケモノ!!」

「……その人を離して」

「ま、た……」

 

 今度こそ頭を抱えそうになった。

 先ほどの焼き直しと言わんばかりに今度は二人の少女がこちらに向かって咆え、襲いかかってこようとしているではないか。

 担ぎ上げたオンナからは「……ウチの者だ、申し訳ない」などと謝罪の言葉が聞こえるが何ら慰めになって居ない。 いい加減建物も限界、それに調べ物の途中である深町は少女達を強引に担ぎ上げる。

 

「な、なんデスかいきなり! うぉ! この肩車すごい高いデスよ!」

「はしゃがないで…………貴方は、敵? それとも……」

「すくなくともニンゲンだよ。 今はね」

「ほんとデスかー?」

「……わかった、信用する」

「ありがとう」

 

 バリアーを展開するとそのまま地上に向けて飛び上がっていく。

 まずはここからの脱出を果たさなければならない。 急ぎ地上へ出た深町は、女性陣を下ろすとすぐさまセンサーをフル稼働。 そして……

 

「大きな人!」

「え、俺?」

「お願いがあるの……」

「どうしたの?」

「じつはさっきワタシたちをかばって瓦礫の下敷きになった人が居るのデス!」

「その人を助けてほしい、おねがい」

「…………」

 

 彼女達の願いは純粋で、真摯だった。 そのきれいな心に触れた少年は、穏やかにこう答えたのであった。

 

「大丈夫、だって――」

「ほんとデスか!」

「あぁ、だから……」

「……おねがいします」

「いや、だからね……?」

 

 その人は俺……と訂正したい深町だが、残念ながらもう時間が迫ってきている。 怪物の足音が迫る。

 彼女達を背に、高周波ソードを展開すると怪物に走らせる。 伸縮自在の刃が空を駆けると、怪物の右腕を切断すし、飛び跳ねたそれをソニック・バスターで消し去る。

 

「……ネフィリムがいとも簡単に」

「貴様は今ここで、消す!!」

 

 明確な殺意を持って怪物と退治する。 それは今まで観たことのない鬼神の姿であり、助け出したモノ達は身震いし、巨人と怪物との戦いを静観した。

 なんてことの無い、ただ一方的な暴力。

 

 片腕が消失した怪物を、エネルギーを込めた両拳で殴り、潰していくだけ。

 そこに技術だとか、戦闘経験など無い。 彼は感情の赴くままに怪物を撃破していく。

 

「……なんて、ちから」

「この人、すごすぎデスよ」

「…………鬼、巨大な鬼神」

 

 怪物からうめき声すら上がらなくなった。 ギガンティックの口が開くと、金属球が超振動を起こしていく。

 

「ギガ・ソニック――――」

「gua giyaaaaaaaaaa!!」

「なに!?」

 

 トドメを刺そうと、巨人がその身を消しかけたときだった。 不意の雄叫びに深町の狙いが逸れ、怪物は一気に逃走を企てる。 

 

 

 

 

 

あの巨人の力は強大無比、この世界にあるどのような力でもきっと勝つことは出来ないだろう。

 

「gyaaaaaaaaaaaa!!」

「なんだ、なにが起っているんだ……!」

 

 あの巨人は自身の存在を脅かす。 特にあの額に輝く光輪は、己が機能を強く阻害してくる。 どうすればいい……どこに行けば奴を倒す力が手に入る……?

 

「おいショウ! なにがあった!?」

「天羽さん!? それに立花さんも! なぜここに」

「胸騒ぎがしたんです。 深町さんの身に良くないことがおこるって!!」

「……俺の?」

 

 ちょうど良い事に“餌”も集まりつつある。

 気を計らい、少しずつ取り込んでいけばきっと奴を超えられる。 だから……だから――――いまはここから逃れなくてはならない。

 

「giiiiiiaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

「こ、コイツ!?」

「なにがおこって――」

「不味い、アイツを中心に空間がねじれ曲がっている……!!」

 

 逃げる。

 とにかくこやつ等から離れる。

 

 どこでもいい。

 この身を完全な物にするために、時間と材料のある場所に――――

 

「空間が消失する……! 皆!! 俺のすぐそばに来るんだ!」

「giaaaaaaaaaaa!!」

「来い、蛹よ!!」

 

 

 

 

 我を、逃がせ……時空を操る聖遺物……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………

 

 怪物の力が暴走し、当たりを呑み込み消し去った。 施設に居た三人と、ガングニールの少女二人はこの世界から消え…………

 

「俺は……死ねない……みんなを、守るんだ……!!!!」

 

 深町晶は、己が全存在を賭けて、少女達を護り、導いていく。

 

「みんなを……俺が!!」

 

 

 …………狂おしいほど待ちわびた、懐かしい地獄へと。

 

 

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