強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第34話 並び立つ、槍

 

 

 

 月だ。

 

 目を開けたら輝く光。 ソレが夜空にたゆたう満月だと理解したとき、その者は自身が仰向けに横たわっていることを自覚した。

 

 全身に力が入らず、だけど痛みがないと言う事はどうやら怪我は無いようだ。 そっと息をつき、その人物はゆっくりと身体を動かしていく。

 

 ……空が、蠢いた。

 

 風が吹き、周囲から人の気配が消えていく。

 明らかな環境の変貌に彼女は表情をきつく引き締めた。

 

「……どうなってるんだよ」

 

 順を追って記憶を辿る。

 

 櫻井了子の研究所を調べに行った。 そこで深町晶と別行動を取り、1時間が経った頃に横に居た立花響が急に走り出し、自分だけ追いかけたところまでは覚えている。 その先がどうも不鮮明であり、不吉である。

 もうしばらく時間が欲しい彼女では有るが、残念ながらこの世界はそれほど優しくなかった。

 

「……なんだ!?」

「……いい加減!!」

「貴様だけはこの手で!!」

「誰か戦っているのか……!」

 

 夜の大空に衝撃が走る。 身を震わせるほどの迫力はそれが現実であると少女に、天羽奏に思い知らせる。

 夢見心地だったところからの目覚ましに、彼女は一気に駆けだした。 それがなんなのかわからない、なにが戦い、誰が悪なのか知りもしない。 けれど、そこに争いがあるというのなら、少女は走らないわけには行かなかった。

 だって、あの少年ならきっとそうするだろうと思ったから。

 

 だけど、しかし。

 

 彼女は見るべきでは無かったのかもしれない。

 

「…………おいおい、こりゃなんの冗談だよ」

 

 暗闇の中で戦うのは、黒い外骨格を持つ異形達。 それらが大空を飛び、風を切り、お互いに身を削り合う。 シンフォギア装者同士の戦闘ではない事は一目同然であり、そして、あの姿はどちらかと言えばガイバーのような生命力のある躯であった。

 

 いいや、もう、それ自体が一つの生命だった。

 

「黒い個体が2体。 一方はショウみたいなプロポーションで丁寧にまとまっているけど、もう一方……アイツ、凄いな、まるで全身重装甲だ」

「死ね! アプトム!!」

「ぐぉおおお!?」

「なッ!? ……細い方が墜落したな、あっちか」

 

 高速で地面に落下していく個体の後を奏は追う。 もしも、いま聞こえてきた単語と、あの姿が思っている通りならば、自身はきっととんでもない事になってしまっているのだと。 強い確信を持って、彼女は“ショウの因縁の相手”へ走っていった。

 

「……ここら辺か」

 

 誰も居ない空き地。 息を切らせながらたどり着いた奏は周囲に目をやる。 地面に血痕を見つけるとそれを追っていき……ついに、見つける。

 

「何者だ……女」

「……あんた、たしか……」

 

 黒い外骨格を持つ男。 頭部だけ人間のその男性は、顔の半分に傷が走り、男の辿ってきた人生の壮絶さを物語る。 スカーフェイスの視線が少女を射貫くが、それを奏は撥ねのけ、気丈に男へ詰め寄る。

 

「アプトムだったな……?」

「なぜこの俺の名を知っている」

 

 事切れる寸前なのか、気力が徐々に無くなりつつある男は、奏に興味が無いと言わんばかりに視線を外すと上空を見上げる。 

 

「昔……その、ショウに教えてもらったんだ」

「!?!?」

 

 男の興味が一気に移り変わる。 目の色が変わり、死に体も同然だった瞳の中に轟轟と炎が燃え上がる。

 血を吐き、這いずり回りながらも、今度は男の方が少女に詰め寄った。

 

「女! おまえは深町晶の関係者なのか!?」

「……あぁ、まぁそう言うとこだな」

「いつ、どこでその話を聞いた!!」

「2週間くらい前だよ」

「……そうか、ならばヤツはまだ生きているというのだな」

 

 男の躯に生命力が戻ってくる。 そこまでの執着、それほどまでの執念。 この傷の男がどこまで深町晶にこだわりを見せたかを、天羽奏は実感として受け止めた。

 

「…………アイツもとんでもないヤツに捕まったな」

「なにか言ったか女……!」

「いやいや、なんでも。 で、あんたはどうしてこんなところに居るんだよ? 寝床にするなら殺風景すぎやしないか?」

「それは――くそ、奴めもう追付いてきたか」

「ヤツ?」

 

 上空に黒い個体が現れる。 生物然としながらも、その躯には金属よりも堅牢な外骨格を備え、瞳には明確な殺意が浮かび上がっている。

 

「ようやく追い詰めたぞ、アプトム」

「ゼクトール……しつこいヤツだ、貴様も」

「確か、超獣化兵5人衆の……そのリーダー格だったか」

「なんだ貴様は、なぜこのゼクトールの事を知っている」

「……くっ、深町晶への手がかりをこんなところで失うわけには」

 

 アプトムの躯が蠢く。

 損種実験体(ロストナンバーズ)である彼は、度重なる実験の末に、他者の遺伝形質を取り込み、その力を己の物にする事が出来る。 その力で、ヤツに向かって反撃を企てようとするのだが。 身体が、思うように操れない。

 

「無駄だ。 俺の身体には対アプトム用の抗体が流れている。 この血肉を吸収するどころか、体液に触れるだけでも貴様は地獄の苦しみを味わうことになるのだ」

「……くそ」

「…………おいおい、こりゃあどうすりゃいいんだよ」

 

 奏からして見ればどっちもショウの敵である。 片や殖装不能な少年をいたぶり、片や深町史雄の死因と言っても過言じゃない相手。 それがお互いつぶし合ってくれるのだから、彼女にしてみればむしろ好都合なのである。

 ……あるのだが。

 迷う奏にもう一押しと言わんばかりに事態はさらに揺れ動く。 ……この現場に、“彼等”が到着してしまったのだ。

 

「晶ッ!!」

「……む?」

「馬鹿共め、なぜ……来た……」

「アレは!」

 

 天羽奏にとっては初対面で、しかし知識だけならあるモノ達。 蛹の中で、常に流れてくる情報の中で特に大きな割合をもった彼等、深町晶の仲間達が、この空き地に無防備にも集合してしまったのだ。

 

 瀬川哲朗、瑞紀そして……

 

「か、奏さん!!?」

「響か!? おまえ、なんでそっち側に居るんだよ!?」

「響、知り合い?」

「えっ、わ、わたしの先輩でして」

「そうか、あれが例の晶の胃痛の原因か!」

「……おい待て、いまサラッと聞き捨てならない単語が飛んできたんだが」

 

 大柄の男性、瀬川哲朗から飛んできた単語に青筋立てながら響を射貫く。 若干荒げた声に、少女が萎縮しながら頭を下げると、もう一人の少女、瀬川瑞紀が周囲を見渡しながら奏に尋ねる。

 

「……晶は、居ないんですか」

「あぁ、残念ながらアタシもはぐれちまってる。 まったくあのご主人様と言ったらすぐ迷子になるんだからさ」

『…………』

 

 味方陣営に甚大なダメージ。 主にこの場に居ない人間にとんでもない裂傷を負わせた。

 

「……貴様等、なにを遊んでいる」

「良いでは無いかアプトム」

「……なに?」

「今生での最後の戯れ、気持ちよく終わらせてやるのも構うまいッ!」

 

 少女達の騒動を、律儀にも見送ってやったゼクトールが動く。 もう、その機能を果たすことが出来ないアプトムは後回しに、まず狙うのは最近増えた邪魔者である。

 

「貴様にはこの間の借りがある! 死ね! 詠の戦士よ!!」

「――!?」

 

 ゼクトールの腕から放たれるのは熱線。 それが事もあろうか立花響に向かって行く。

 

 これにはアプトムも予想外だったのだろう、攻撃が彼を素通りして少女の方へ走っていく。

 

 だが、だが――

 

「……」

「――」

 

 彼女達は息を乱さなかった。

 呼吸の乱れは気持ちの乱れ。 ならば一切のざわつきさえない彼女達は、事ここに至ってまでも平常運転なのであろう。

 

 心に熱を、その声に思いを。

 

 詩のない世界になにを想うか。 少女達は、ただ、この殺伐とした世界に己が詠を奏で、響かせる。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

「Croitzal ronzell gungnir zizzl」

 

 詠が力を持つ。 声が波動となって空間をみたせば、乙女達の身体に装甲が組み付き、力を与えていく。

 

「なんだ、こいつ等は……」

 

 驚嘆の声を出したのはアプトム。 女、子供と侮った者が、未知のエネルギーを発しながら拳を握るではないか。 獣化でも殖装でもない、第三の力の行使に、バトルクリーチャー・アプトムは確かに戦慄したのだ。

 

「奏さん、あのヒトは――」

「前情報なら深町から聞いてる。 超獣化兵5人衆のゼクトールだろ?」

「はい! そして、とっても強いです!」

「……ざっくりとした前情報ありがとさん」

「どういたしましてです!!」

 

 そのやりとりは阿呆のそれだが、戦闘生物であるアプトムは彼女達の身体からあふれ出る力の波動を確かに感知した。 

 

「さぁて、暴れちゃうぞ……!」

「まさか戦士がもう一人居たとは」

「行くぞ響! 今夜はアタシとお前でダブルガングニールだッ!!」

「応ッ!!」

 

 二振りの槍が大地を蹴る。 響はその拳を振りかぶりゼクトールへと接近。 強固な装甲に拳を打ち込む。

 

「堅い!」

「貴様の拳などこのゼクトールに傷一付けられぬわ!」

「打撃がダメなら――」

「アタシの出番だろうが!!」

 

 響の後ろで奏がガントレットを変形させる。 両腕を合わせて一つにすると、その形を槍へと構成していく。 構え、振りかぶり、貫いていく。

 神速の槍はゼクトールの装甲を突き、彼を後方へ吹き飛ばす。

 

「フンッ!!」

「……いやいや、堅すぎだろ」

「はッ、今ので終わりか小娘共! 随分歯ごたえがない!!」

 

 奏の槍すら徹らない黒い生態装甲。 傷一つ付かない姿を確認すると二人は別方向に飛ぶ。 元いた場所が黒く焦げる。 レーザーに焼かれたのだと理解した瞬間、奏は槍を投げる。

 

STARDUST∞FOTON

 

 大量に分裂した槍が、雨のように振りそそぐ。 だが、先ほど通用しなかった矛先が徹るはずも無く、雨水が如く攻撃は弾かれていく。 ほんの少しヤツの脚を止めるだけの行為は、しかし、奏の狙い通りである。

 

「でりゃぁぁあああッ!!」

「奴め、この期に及んでまだ何かを企んでいるのか」

 

 立花響の咆哮。 それと同時に右手に握るのはフォニックゲインの光りである。 純粋な輝きを発するそれは、響の歌声と共に威力を引き上げていく。

 

 響け、響けと。 そのハートを燃やす彼女は今、全身で詠を紡いでいる。 その音色が血脈を振るわせると輝きが一気に臨界にまで達する。

 

「うおぉぉりやああああ!!」

「ぐぅぅうッ!?」

 

 一瞬だ。 ゼクトールが回避を取ろうと翼を広げたその瞬間に、立花響はその輝きを槍に見立てて放出した。 避ける暇も無く、腹部を撃ち抜かれたゼクトールは悶絶する。

 

「なんなのだ、あの小娘どもは……急に力が上がっただと」

 

 両腕のレーザーを見切られ、生態ミサイルは発射するタイミングで妨害される。 この、見た目に似合わぬ経験の豊富さに、超獣化兵を超越したゼクトールも手に負えなくなっていく。

 一人一人は大した事が無いはずなのに、並び立った二本の槍は途轍もない戦闘力を発揮した。 それはゼクトールに危機感を与えるほどであり、彼に“禁”を破かせるには十分である。

 

「…………まさか、貴様等にここまで追い詰められるとは」

「へぇ、褒めてくれるのか、ありがとうな」

「いや、素直に感心している。 最初は拳すら握れなかった小娘が、ここまで強くなったのだからな」

「…………」

「響……?」

 

 黒い重装甲が翅を広げた。 大空に飛び立つゼクトールが目指す先は、夜の向こう側。

 その光景、ヤツの目的を理解したのは他ならぬアプトムであった。

 

「太陽光……まさか奴め、ブラスター・テンペストを!?」

「傷のおっさん、なんだいそりゃあ!」

「……ゼクトールが持つ最後の兵器だ。 それをあそこまで強化された躯で放つと言うことは……メガスマッシャー級の攻撃が来るぞ!」

「哲朗! 瑞紀! お前等はおっさんと避難!」

「二人とも早く!!」

「え、おう……」

「二人とも気をつけてね……!」

「……あいよ」

「まかせてください!!」

 

 黒い躯を持ち上げて、その場から離れていく兄妹。 彼等を見送ると二人は深呼吸。 互いの鼓動を聞き、そろえ、やがて重なり合わせていく。

 

「やるぞ響!」

「はい!」

 

 奏と響は手を繋ぐ。

 二人の詠が重なり合うと、それが爆発的なエネルギーを生み出す。

 

 絶唱を輪唱にて威力を増幅させる。 

 

 同じ詠が流れ出る彼女達だからこそ出来る、複雑至難の必殺技は、この土壇場に来てようやく日の目を見た。 立花響の創り出した莫大なフォニックゲインを、天羽奏が持つアームドギアにて矛先を与え、二人の絶唱に乗せて撃ち出す。

 

 だが、事はそう簡単にはいかない。

 

「……う、ぐ」

「響……すこし速い……もう少し抑えろ」

「ぐぅぅ……!」

 

 苦痛の声が上がる。 巨大な激流の中を泳ぐかのような行為はまさに自殺にも等しい。 だが、限定解除の成されていない現状のシンフォギアでは、メガスマッシャーに拮抗することすら出来ないだろう。

 だから、彼女達は死力を尽くす。 すべてを出し切れなければ、少年が守りたいものをここで失うことになるのだから。

 

 

 すべてを燃やし尽くす。

 それは……あのゼクトールも同様であった。

 

 

 

 衛星軌道上にまで飛び立つ、黒き重装甲。 彼は背中の翅を広げると、地球に向かって降り注ぐ太陽光、その絶大な熱量を拝借していく。

 

「ヒビキ・タチバナ……唯の小娘と侮っていたが、最後に良い目をする」

 

 だが……

 続けたゼクトールにもはや甘さはない。 その翅を振動させ、エネルギーを全身でフル回転。 強化された躯にありったけの無理を強いると、彼の腹部が強制的にパージされる。

 

「俺の躯は度重なる調整で既に限界を超えている。 その躯で、我が必殺のブラスター・テンペストを撃てばどうなるか……いや、アプトムさえ討てるのなら、もはや心残りはない」

 

 すべては仲間の魂を鎮めるために。 彼にはもうクロノスだとか、ゾアロードなどとうに関係なく、唯、それだけの為に命を燃やし尽くそうとしていた。

 

「行くぞ! 我が全身全霊――ファイナル・ブラスター・テンペスト!!!」

 

 発射と同時、黒い躯が崩れ去る。 すべてを燃やし、その人生を復讐に費やした男の最後は、誰の目にも映ることがなかった。

 

「エレゲン、ダーゼルブ、ガスター、ザンクルス……いま、お前達の元へいく…………」

 

 

 

 

 

 流れ星が降る。

 地上に向かって、5人の願いを叶えようと極光が降り注ぐ。 その輝きは執念、殺された仲間達へ向けた弔いの光りだ。 悲しき力の激流を前に、装者の二人は唯、歌声を重ね合うのだった。

 

「響け!」

「奏でろ!!」

「この世界に!」

「この、瞬間に――!!」

『わたしたちの……歌をぉぉおおおおおお!!』

 

 二人のフォニックゲインを響が増幅し、それを奏のアームドギアで射出する。 歌が輝きとなり、それが槍となって解き放たれる。 二人のすべてを賭した絶唱は確かにこの世界へ鳴り響いたのだ。

 天空とから降り注ぐ流れ星は…………空へと還っていった。

 すべてが終わり、静寂が当たりを支配する。 そのなかで装者達は息を切らし、大地に両手をつく。 もう、限界だ、どう合ってもこれ以上は出せない戦いをした。

 

 そんな彼女達の活躍を、傍観して居る者に気づかないままに。

 

だけど、男はそれを許さなかった。

 

「ぐぎゃぁぁああああ!?」

「ん、なに……!」

「敵……!」

「安心しろ、もう片が付いた」

「……おっさん」

 

 アプトムが彼女達の後ろで“邪魔者”を“料理”していた。 既に事切れた敵の躯をむさぼって、己の養分とする姿はまさしく異形であった。

 

「……ちっ、まだ躯に入り込んだウィルスが残ってやがる。 獣化兵を完全に食い切れんか」

「おっさん随分とアグレッシブだねぇ」

「…………ふん、どういう気か知らんが、俺は貴様等と馴れ合うつもりはない」

「アプトムさん……」

「いいか、タチバナヒビキ。 貴様はどうでもいいが、そこの瀬川兄妹はなんとしても守れ。 そいつ等の元へガイバーⅠ=深町晶は絶対にかえって来る」

「はい!」

「そのときこそ俺とヤツが雌雄を決するときだ。 ……ガイバーⅠは、必ずこのアプトムが刈り取る! それを忘れるな!!」

「……はい、気をつけて」

「ちっ……」

 

 言うなり街の影へと消えていくアプトム。 

 その姿を寂しげな目で見送った響は、そっと胸の傷跡に指をなぞらせた。

 

「……ようやく一段落か」

「奏さん、危ないところ助けてもらってありがとうございました」

「なに言ってるんだよ。 戦いはじめたのはほぼ同タイミングだったろ。 てか、なんだか妙にあの兄妹と意思疎通が出来ているみたいなんだが……?」

「いえ、その……実はわたし、今から2ヶ月前にここに来ていて」

「立花が路地裏でハラならしながら倒れているのを、ウチの家主が拾ってきたんだ」

「はぁー……随分とまぁ大変だったみたいで」

「あはは……面目ない」

 

 後頭部を掻きながら苦笑いの響に対して、哲朗はいきなり真剣な顔になる。

 奏を見て、その全身を確かめる。 あぁ、なんだ……いくらショウの仲間と言っても、まだ初対面なんだ、なら警戒されても仕方が無い。 奏が少しだけ肩を落とすと、その動きに哲朗は生唾を呑み込んだ。

 

「……すごい」

「え? なんだって?」

「瑞紀、おまえこれ勝てそうに無さそうだぞ」

「ちょっとアニキ!?」

「あんなスタイルで、しかも向こうではアイドルだったんだろう? そんな人がメイド服でご主人様だなんて甘えてきたらおまえ……おまえ……晶のヤツ、本当に大丈夫だったんだろうな」

「……あぁ、そういう」

 

 どうやら話は全部伝わっているらしい。

 

「そこら辺のエピソードは追って説明するよ。 ところで、アタシら以外に向こう側の人間は確認出来てるのか?」

「いいえ、あの施設の人たちも。 それに……」

「ショウも、か。 あの蛹の力でなんとかなりそうなもんだけど、もしかして」

「晶がどうかしたんですか!?」

「アタシもおぼろげなんだけど、アタシらが何らダメージ無くここにたどり着いたのは、もしかしたらショウがまた無茶をしたからかもしれないんだよ」

「…………そんな、また」

 

 だから、もしかしたらトラブルが起きているかもしれない。

 付け足した奏の言葉に、瑞紀の顔色が曇る。 うつむき加減の彼女に、昔の翼が入り込むと、奏はそっと彼女の背中に腕を回す。

 

「なんとかなるって! 大丈夫、ショウはヘタレだけどやるときはやる男だ。 それはアンタが一番わかってるはずだろ?」

「……うん」

「それにショウはアタシらのとこでうんと強くなったんだ。 あの遺跡宇宙船のときから、ずっとな」

「そうなんですか……?」

「あぁ、ヘタレランクも充当に上がっちまったけど」

「ふふっ」

「うっし! ようやく笑った」

 

 瑞紀の笑顔を見ると満足げな奏。 ガッツポーズを取ると、響を抱き寄せて彼女達の家へと進路を向ける。 その背中をそっと見守る哲朗は、遠い地に居るであろう友をそっと夢想するのであった。

 

「……晶、おまえ今まで大変だったんだな」

 

 ――――あんな美少女に囲まれて、それでも一切の邪な感情を出さないなんて。

 

 すこし衣服が乱れたままの奏を、そっと視界から外した哲朗は、深町の強靱な精神力にそっと涙を流したのであった。

 

 

 

 

 

 

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