強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第35話 少年の居ない世界に奏で、響く

「へぇ、奏ちゃんってアイドルだったんだー。 どうりでねぇ」

「アイドルって言うか、まぁ、ユニット組んで好き勝手歌ってただけって言うか」

 

 多賀なつき。

 瀬川哲朗の同級生だった女性。 遺跡基地崩壊後、紆余曲折あり現在兄妹の潜伏先を提供している彼女は、昨日増えた新たな仲間、天羽奏と親睦を深めていた。

 

 深刻な事態にもかかわらず、その生粋の明るさは皆の心の支えとなっている事は本人もあまり自覚はない。 人懐こく、物怖じしない性格はどこか奏と通じる物があったのか、二人は直ぐに打ち解け合い、意気投合したのだ。

 

「で、深町君はどうして奏ちゃんのご主人様になったのかな?」

「いやぁ、それには語るも涙、聞くも涙の愛憎劇があってな」

「無かったですよね、そんなの……」

「おいおい響、ノリわりーぞ! こういうときは尾ひれ付けといてナンボじゃねーか」

「……話、後で響に聞いた方が良いのかな」

 

 主に深町少年を抉る形の方向ではあったが。

 

 部屋の片隅で哲朗がため息をつく。 あの少年の事を思い出し、同情に近い念を送る姿は向こう側での彼の苦労を知ってか知らずか……

 いろんな意味で再会を待ち遠しく想う彼に、奏は想いきり背中を叩く。

 

「へい! 兄さん、元気ないねー!」

「痛ッ!! ……そりゃこんな状況じゃ、無理ないだろう」

「え? せっかく美少女4人に囲まれてんのに? たしかショウが吹き飛ばされて1年経ってるから一つ上だろ? いいじゃん、年下の女の子」

「……俺は晶みたく前向きには行かないんだ。 いいか、あの日遺跡基地を落とされてここ2年、クロノスは武装決起を開始。 ものの数ヶ月で全世界を征服して今じゃ宗教全廃、国境が無くなり、全世界がクロノスの統治下にあるんだぜ? 真実を知らなきゃ平和だけど、裏側を知らされてるオレたちゃ毎日が地獄なんだぞ」

「――でも、アンタはその地獄でも生きることをあきらめなかった」

「……晶が、救ってくれなきゃとっくにあきらめてたさ」

「いいね、あんたやっぱりショウの兄貴分だよ」

「そういう天羽こそ随分とやり手だよ、まったく」

 

 晶が観念する日も近いだろうな。 あくまで前向きで、そして人を引っ張っていくその姿勢に早くも彼女のペースに乗せられていく哲朗。 両手を挙げて降参だと背を向けると、近くのパソコンのキーボードを叩く。

 その姿は、向こう側での深町少年を彷彿させる物であり、響がこっそり「……やっぱり兄貴分なんだ」と呟く。

 

「シンフォギア……か。 立花からおおよそ話だけは聞いていたが、昨日実物を見て益々驚かされた」

「まぁな。 向こう側だってそんなに解明されてない異端技術だし」

「それもなんだが。 こう、歌いながら戦う姿がさ」

「あはは。 それ深町さんも言ってました」

「だよなぁ。 晶も最初は随分と度肝抜かれただろうな。 いままで散々殺風景で戦ってたら、あんな豪勢なモン見せられてさ」

 

 奏が使った槍が分裂するヤツは、どう見てもインチキ臭いし。

 哲朗の意見もごもっともだが、ガイバーも十分規格外だ。 それはどこぞの科学者がビッグバンのミニチュアと見立てた胸部粒子砲を思い出せば納得できよう。

 

「でもまぁ、ようやっとショウの願いが叶ったってのに、肝心の本人が居ないってのもアレだよなー」

「あいつ昔からそう言うところがあったよ。 他人の為なら頑張れるんだが、いざ自分の事になるとボーっとしちまうんだ」

「そうそう、晶ってテスト勉強もギリギリまでやらなかったし」

「……意外。 ごはんはあんなにおいしく作れるのに」

 

 下ごしらえも結構なお手前だったのに……

 そんな響だが、それもひとえに“おなかを空かせた女の子の為に”彼が頑張った結果なのだから、やはり少年が力を出し切れるのは相手が居てからこそなのだろう。

 

 どことなく、少年の居ない寂しさを埋めるように彼等の話は盛り上がる。

 だけどいつまでも過去に浸っては居られない。 刻は止まってくれないのだから。

 

「……んで、そろそろ本題なんだけど」

「あぁ、クロノスの事はさっき言ったけど、晶たちガイバーと村上さんが倒れた後に世界を統治し終えて、いまじゃ各国の日常に溶け込むとこまでいっている」

「というと?」

「一般人が調整……獣化兵に改造する手術を、まるで献血のような軽さで行っていると言えば事態の深刻さがわかるか?」

「……おいおい、それって相当やばいだろ」

 

 奏の顔が青ざめる。

 調整と言えば、後戻りの効かない人体改造であり、それを受けてしまえばもう、完全にクロノスの手駒と化してしまう。

 たとえどんな強靱な精神をもった人物だろうが、獣化兵にされてしまえばクロノス幹部――獣神将(ゾアロード)からの思念波により傀儡となる。

 その典型例が深町親子の死闘であり、ガイバーⅠがクロノス打倒を掲げる最大の理由でもある。

 

「どうして誰も疑問に思わない!? 人間なんだぞアタシらは! あんなバケモノになんてなりたくないってのが普通だろッ!!」

「……そこがあのクロノスの恐ろしいところさ。 なにせ調整を受ければ虚弱体質者は健康体になるし、最近だと就職先の条件が調整済みの人間に限るだとか、様々なところで一般人を懐柔して行ってる。 もう、普通の生活をしていて獣化兵になって居ない人間の方が珍しいくらいさ」

「……ありえねえだろ、それ」

 

 奏の嘆きに響はうつむく。

 自身がここに来て2ヶ月。 その間にこの世界を見たが、もう、異常としか言いようのないほどに狂ってしまった常識は、とても深町少年に見せられた物じゃない。

 

 あんなにボロボロになってまで、クロノスと戦ってきたのに。 こんな結末はあんまりではないか。

 

 悔しさがこみ上げてくると、きゅっと口を閉じる。 まだ、自分たちはいい。 本当に悔しいのはこの世界で生まれ生きてきた彼等なのだから。

 故に響は歯を食い縛る。

 だから奏は立ち上がる。

 

「……敵ははっきりしてるんだ、むしろ好都合じゃねーか」

「天羽、なにを!?」

「こっちから攻め込んでやるんだよ!!」

「ダメだ!! せめて晶が帰って来るまで待つんだ!!」

「いいか哲朗! アタシらはいままでノイズなんてバケモノに、ゴールの見えない戦いを繰り広げてきたんだ。 それがどうだ、こっちは随分わかりやすくていいじゃねえか!」

「そっちの話は大体聞かせてもらってるよ。 たしかに位相差障壁だなんて訳のわからん防御に、炭化能力は脅威だろうさ。 そしてそんなバケモノ相手に戦ってきたお前達は凄いよ。 だがな、だからって獣神将相手にいままで通りって訳には行かないんだよ!」

「そんなもんやってみなくちゃわかんねえだろ!」

「なんのバックアップもないんだぞ!? この世界でお前達に味方してやれるのは、ここに居る数人だけなんだ!! ……助けてやりたくても、戦力にならないヤツらだけなんだ……」

「………………哲朗」

 

 モニターを睨みながら、彼は大粒の涙を流す。

 今まで……そう、どんなときだって彼は助けられる側だった。 戦場に立つことなど出来やしない脆弱なニンゲンに過ぎない。

 

 助けたい。 力になりたい。

 そう思ったことは恐怖した数よりも多い。 でも、自分に出来る事は、こうやって情報を集めて彼が帰ってくることを待つだけなのだ。 彼が……帰る場所で居続けることしか出来ないのだ。

 震える声は奏を押しとどめるには十分だった。

 

 この青年の事は、深町との“再製”で観て居たから。

 

 だから、彼女は哲朗の心を汲み、その場に座り込む。

 

「……すまなかった。 ショウの生まれ育った世界が無茶苦茶にされてると思ったら、つい頭に血が上っちまった」

「いいんだ……」

「アニキ……」

「奏さん」

 

 下手をすれば全世界70億全員が敵になるこの世界。 たった数人で出来る事など、それこそ敵本陣への一点突破しかあり得ない。

 

 だが……それを行うには、今現状の戦力ではあまりにも非力だった。

 戦力。 そう、力を持つ存在は居ないのかと思いふける奏は、不意に黒い影を思い出す。

 

「なぁ、哲朗」

「どうした?」

「そういやさ、ガイバーⅢ=巻島顎はどうした?」

「あ……深町さんがよく話してた第三のガイバー! そうか、あの人ならきっと力になってくれるはずですよ!!」

「……遺跡宇宙船陥落から音沙汰無しだ。 下手をしたらあのままお陀仏か、最悪の場合、晶と同じく別世界になんてことも……」

「…………もしそうなったら、たぶんガイバーⅢは帰って来れないかもな」

 

 巻島顎は、遺跡宇宙船で致命的ミスを犯している。

 

 ガイバーの母船であり、外敵から守る城でもある宇宙船との接触時、船からのコンタクトを持ち前の洞察力と判断力で回避した彼は、宇宙船のナビゲーション・メタルとのリンクを果たしていない。 つまり、彼はどうあってもギガンティックのような躯を創る行程には移れず、その手に次元を超える力は無い。

 さらに……

 

「アタシらだって運良くこの世界に来れたようなもんだからな。 たぶん、日に日に増していくショウの強い思念と、蛹、そしてあの怪物みたいな聖遺物との共振で来れたんだろうとは思う」

「巻島にそんなことが出来るのか、と言われると……」

 

 リアリストである巻島顎に、そんな夢みたいな事が引き起こせるとは到底思えない。 おそらく思いを力になんて現象から人一倍遠ざかったニンゲンの一人だ、故に攻撃性能ばかり強いガイバーを身に纏い、だからこそ意外性という名の武器を失った。

 

 その意外性が、どれだけ深町に奇蹟を起こさせたかも理解できずに。

 

 さて。 ここまで話してきてかなり時間を要した。 そろそろ時計が真上を指し、響のおなかから愉快なアラームが鳴り出す頃だろう。 そっと席を立つ瑞紀に響が期待の眼差し。 その光景にため息をついた哲朗となつきは、重い腰を上げながら片隅に締まってあったちゃぶ台を組み立てていくのであった。

 

 食事中は割と和やか。

 さきほど、言いたいことはお互いに吐きだした反動か、会話は主に深町少年を軸にした何気ない話になっていく。

 

「前々から思ってたけど、瑞紀のごはんって深町さんと味が似てる」

「え、そうかな? 意識したことないから……」

「まぁ、もともとあいつん家は男家族だったから、よく瑞紀がメシ作りに行ってたからな。 だからいつの間にか似たような味付けになったのかもしれんぞ」

「へー、深町くんって家事得意なんだ」

「はは……まぁ、ウチの汚部屋職人に比べればマグマとオゾン層だな」

『……御部屋?』

「あぁ、汚部屋」

 

 とある刀美人の評価が著しく下がったり。

 

「アタシもうかうかしてらんねえなぁ。 瑞紀がこんなにメシうまいと、アタシが勝てるのなんて色気だけだしなぁ」

「そ、そんなこと――」

「しかもスタイルだってクリスちゃんの方が数段上だしな。 なんだか中途半端だ」

「……なん、だと……! 天羽よりッ! 上の!? 女の子が!!!」

「アニキ、食らいつくんじゃない」

「というか奏って深町くんの胃に穴を開ける係じゃないの?」

「誰だよそんなこと言いふらすの」

「…………へいき、へっちゃら……かくご、したから……」

「ヒ・ビ・キッッ!!! おま! この前の哲朗が言ってたヤツ!! あれもお前か!!」

「ふえーん!! 望郷の思い出をつい口走っちゃったんですー!!」

「ゆ゛る゛さ゛ん゛!!」

 

 トランジスタグラマーのトリガーハッピーが高評価を受けたり。

 

「あたた……」

「まったく。 なんでなつきがアタシのこと物珍しそうに見てるか不思議に思ったけど、あること無いこと言いふらしやがって」

「でも奏っち、深町くんにメイド服で迫ったんでしょ?」

「あぁ、あいつ顔真っ赤にしちゃってさー」

「裸で抱きついたのは……?」

「いや、あんときはなんか目が覚めたばっかで気分がさ」

「……所有物宣言は?」

「だって事実だし」

『はいアウト-!!』

「なんだよお前等、いいじゃんこんくらい」

「なはは、奏さんって深町さんが絡むと常識の敷居が一気に墜ちますよね……」

 

 少年の受難を思い、哲朗が壮絶な男泣きを繰り広げる。

 ……うらやましいだとかが出ないあたり、どれだけ哲朗が深町を信頼しているかがうかがえる。

 

 雑談もほどほどに、空になった食器を鳴らした響は立ち上がる。

 特に取り決めがあるわけではないが、用意してもらっているのならば、片付けなければ御飯様に嫌われるとのこと。 そんな彼女の強い姿勢につきあい、奏が席を離れようとしたときである。

 

 インターホンが、そっと、鳴らされる。

 

「……哲朗、二人を」

「お、おう」

 

 長年の戦闘勘か、それとも女の勘か。 空気を一変させた奏は非戦闘員を奥の部屋へと避難させる。

 自身をトップ、バックスには響を配置したこの陣形は、奏の方が応用力が効くと言う判断であり、アイドルという職業柄、演技もそつなくこなせるという算段でもある。

 

 そんな彼女の狙いが当たるかどうか、それはこの軽い扉を開けばすぐにわかる。

 

 答えは―――――――

 

 

 

「……む? 貴様はたしか、あの槍の女」

「傷のおっさん!?」

「え!? アプトム!?」

 

 

 

 

 

……当たらずとも、遠からじ?

 

 開いた先にいたのは、この間の戦闘で世話になった男である。

 サングラスに黒い革ジャンの、その“いかにも”という恰好は、ここが1990年代だからだろうか奏でや響から見て時代錯誤もいいところだ。 そんな昭和硬派の代表格が、未来形アイドルの奏を見て……直ぐに視線を切る。

 

「貴様等に客人だ」

「え? 俺たちに……?」

「あぁ、こそこそとオレをつけ回していたかと思ったら、とんでもなく厄介なネズミたちが居たんでな」

「……だれ?」

 

 こっそりと響がアプトムの背中を見る。

 壮年の男性が一人、ボロボロのコートを羽織り佇んでいる。 やせ落ちた頬を柔く曲げて表情を崩すと、響に頭を下げる。

 

「こんにちは、お嬢さん。 初めまして」

「こ、こんにちは……」

 

 この人は、自分が知っている人ではない。 それはアプトムだってわかっているだろうに。 響が不思議そうに首をかしげると、後ろから大きな足音が近付いてくる。

 

「あ、あんたはッ!!」

「……無事だったんだね、哲朗君」

「よく無事で……速見さん」

 

 それは小さいながらも、確かに強力な援軍であった。 遺跡基地陥落からその行方が不明だった仲間が一人、こうして無事を確認出来たのだから。

 

「みなさん、元気そうで安心しました」

「そちらこそよく無事で。 あの、ほかの研究所の人たちは」

「…………」

 

 速見が押し黙る。

 その顔は苦悶の色に染め上がり、新参者の奏と響は、それを見ただけで胸を締め付けられる。 そうだ、この顔を彼女達は見たことがある。 ……あの少年とこの人は、同じ顔をしたのだ。

 

「…………言ってください、速見さん」

「……え」

 

 声に出したのは響だった。 彼女には、この男がナゼこんな表情をするのかがわかってしまったから。 ……この世界は、自分たちが居た場所よりもひどく悲しい世界なのだと、とうに理解させられたのだから。

 

 だから、彼女は聞く。 この男の苦悩を、ここまで来る為に払った犠牲を。

 

「私以外の研究員は、皆その命を私に託し、この世を去りました……」

『!?』

「私達、遺跡基地で研究を行っていたモノ達は、造反防止の為にあるウイルスを身体に組み込まれていた。 それは、定期的にワクチンを接種しないと体内で爆発的に増殖、その者を死に至らしめる」

「そ、それって……」

「じゃあ速見さんは!」

「私は、いや、私達はそれをなんとしても克服しなければならなかった。 だが、製造方法はクロノスが独占していてね。 ……どうしても、組成を読み取ることが出来ず、ワクチンを開発することが出来なかったんだ」

 

 もう、死ぬことが決められた身体。 響と奏は怒りを噛みしめながら話を聞く。

だが……速見は付け足した。 このウイルスを克服することが出来る抜け道を。 そして彼はふと、アプトムを見た。

 

「そうだ、俺たち損種実験体への調整だ。 研究員に植え付けられたウイルスは、獣化兵への調整により排除されるが、それはクロノスへ忠誠を誓うという事に他ならない」

「だが、彼のような損種実験体には高確率で獣神将からの感応波に反応しない個体ができあがる。 私達はそれに賭けた」

 

 自分たちを使った、文字通り命がけの実験を積み重ねて……

 

 速見の言葉に、奏の背筋に怖気が走る。

 そうだ、この人物は……

 

「あ、あんた……まさか」

「そうだよ、お嬢さん。 私はね、使ったんだよ……仲間である皆の命を」

「……そこまでして」

 

 奏自身、自らが実験台になる事で力を手に入れた経緯がある。 そこはいい。

 だが、彼等は……この男達は、失敗することがわかっている実験を繰り返し、己が命を最後の生き残りに託していったのだ。

 

 己が苦難に遥かに勝る“業”を、この男は確かに持っている。 奏は静かに息を呑んだ。

 

「……すまないね、暗い話になってしまった」

「そんな! 俄然、やる気が出てきました」

「そうだな響。 アンタの話、心に来たよ」

「……ありがとう、お嬢さん」

「奏だ、天羽奏」

「立花響です」

「あぁ、私は速見利章(はやみ としあき)。 君達に、研究員すべての思いを託しに来た」

 

 そういって頭を下げた速見。 瀬川兄妹となつきは静かにうなずき、アプトムはサングラスで表情を隠す。

 彼の自己紹介、そして合流の挨拶はこうして終わった。

 だが、アプトムの用件はまだ終わったわけではない。 この話にはまだ続きがある。

 

「あぁそうだった。 ここに来たのはもう一つ理由があってね」

『??』

「実はみんなに紹介したい子が居てね」

「……今回貴様等のところへ出向いた最大の要因だ。 特にタチバナヒビキ、おそらく貴様関連だ」

「え、わたしですか!?」

 

 アプトムの言葉が幕開けだった。 この世界に来て、二つ目の騒動であり……

 

「こんにちは……は、初めましてデス」

「…………だれ?」

「なに? このガキは貴様預かりではないのか? 例の詠の戦士になったのだぞ」

「うたって……え! シンフォギア!?」

「暁切歌デス! ……あの、こちらにあのときの大きいヒトは居ないのデスか?」

『…………こいつも晶関連か!!』

 

 深町少年の胃痛要因である。

 きっとギガンティックを纏った少年に会えるのだと、期待していた彼女はその目をキラキラと輝かせていた。 だが居ない、居るのなら出して欲しいくらいだ。 そんな、すれ違いに定評ができあがっていく少年を余所に、困難は徐々に大きくなる。

 今はまだ小さな力は、やがて波紋なり、周囲を巻き込むうなりとなるからだ。

 

 少年の帰る場所は、どっちだ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――とある施設

 

 暗い部屋、その中に広げられた不穏な影。 その暗闇よりも深い存在が、12の獣神が……この空間にそろう。

 

 ヒトを超え、獣を超え、そして神へと至ったモノ達と……

 

「皆、そろったようだな……」

『……はっ』

 

 神になるべく、創造主に生み出された超越者がついに姿を現わす。

 

「此度の席、何故呼び出されたのかは言うまでも無い」

「先日新宿で観測された、未知のエネルギーについてでしょうか」

 

 神の言葉に、老人が答える。 

 それに頷き、神は続きを老人に託す。

 

「……日本の新宿上空に突如として観測された未知のエネルギーは、皆の者存じて居るな」

「あぁ、報告によると翁の傑作品を打ち倒すほどの力をもった存在と言うでは無いか」

「なんと……」

「まさかそれはガイバーだとでも」

「馬鹿な! ヤツラは遺跡基地で一網打尽にしてやっただろう」

「…………だが、誰も死体を確認しておらんのだろう?」

『!?』

 

 神の言葉にその場の全員が背筋を凍らせた。 あの爆発、あの規模の破壊、あれを生き残ることはまず出来ない。 そんなおごりが自分たちにあった、それは、目の前の神が動くほどの失策であったのだ。

 皆は動揺するが、一人、老人だけは冷静に声を出す。

 

「あの光りがガイバーのモノと言うのは、まだ判断材料が足りん」

「……なに?」

「あの光りは確かにネオ・ゼクトールの力を凌駕した。 そこが不自然なのだ、あのガイバーめにゼクトールが破れるとは考えにくいのでな」

「……どういうことですか」

「まさかガイバー以外の何者かが?」

「それは……!」

 

 老人は近くにあるコンソールを操作すると、スクリーンにある映像が映し出される。

 

 それは、この世界にはない第三の力。

 

 普通ならば“それ”を戦いに使うなどと、凶人の考えだと笑うところだ。 それがどうだ……

 

「な、なんだこの少女達は!?」

「これは……歌!」

「なぜ歌なのだ!!」

「この力はなんだ!? ゼクトールが押されているだと!」

「ブラスター・テンペストが押し返されただと……」

 

 神々は恐れ戦く。

 いままで支配してきた人類の矮小な力。 戦車、戦闘機、重火器。 その戦力よりもさらに矮小な歌の力が発する光りはなんだ! この身体を震わせる声はどういうことだ! なぜ、たかが女子供がこのような力を生み出せる!!?

 画面に映る少女達の力強い歌声に、神々は確かに目を見開いたのだ。

 

 ……そして。

 

「…………ふむ」

「……どうかされましたか?」

「……いや“見間違いであろう”」

「は?」

「気にするなと言ったのだ」

「は、は!」

 

 その映像を見て、神が僅かに表情を崩したのだ。

 

 少女が纏うチカラにではない……

 

「……………………やはり、其方の声は……」

 

 少女の歌声に、神は確かに反応したのだ。

 

 声を認識し、歌を耳にし、その心のカタチを見て、たしかに表情を崩す。

 近くに居た老人が顔を驚愕に染める中、一人好戦的な獣神が席を立つ。

 

「この者を捕らえ研究材料とすれば――――」

「ナラヌ」

 

 そのモノを視線と声だけで押さえ込む。 あまりにも冷徹な声は、好戦的な獣神の戦意を奪い、彼をその場に縛り付ける力となる。

 新たな勢力の芽を早々に摘もうというだ。 それは、戦場を賭けるモノにとっては当然のことであり、指導者としても確実な方法である。

 故にいまだ状況が読めない。 なぜ、自身がこのような苦境に立たされたのかが理解できない。 だから無謀にも声を発してしまった。

 

「…………え?」

「貴様、我に同じ言葉を並べさせる気か?」

「……ッ!!?」

 

 その声が神の逆鱗に触れそうになる。

 すんでの所で自制を働かせたのは神の気まぐれかそれとも……

 

 いまだスクリーンに投影された戦姫が、その歌声を重ね合わせると画面が真っ白に染め上がる。

 

「此度はここまでだ。 皆、我の言葉を努々忘れるでないぞ」

『……はっ!』

 

 言葉を残し、神はこの場から消えていく。

 残された獣神達の疑問は大きいが、あの娘達を……詠の戦士たちへの接触は極力避けるべきだと、彼等はいまこのとき深く誓ったそうな。

 

 それほどの怒気を、あの神から脳髄にたたき込まれたのだから………………

 

 

 ヒトと獣と歌声が重なり合ったこの世界。 いま、降臨者さえも予測できなかった大きな波が、この地球を呑み込もうとしていた。

 

 

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