強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第38話 見知らぬ赤、衝撃の黒

 

 

 小田切邸 地下施設

 

 人の背丈を大幅に超えた容器の中に、人影が一つ浮かび上がる。 

 暗闇の中でもその姿は決して陰る事無く、傷ついた躯を癒やしていく。 ソレを眺めると手元のコンソールを操作し、ゆっくりと腰を落ち着ける。

 容器の中で眠る少女の身体は、戦闘の後遺症で毒素が残っていた。 それは細胞単位に影響を及ぼす時限式の爆弾。 その撤去作業をようやっと終えたのだ、気が抜けてつい背後の人物に気がつかなくても仕方がない。

 

「――どう?」

「おっと……!」

 

 ずるりとこけそうになり慌てて意識を背中に向けた。 ……当然そこには敵など居らず、ただ、コーヒーカップを2個もった少女が、自身を案ずるかのように困った顔をしていた。

 彼女は最近瀬川兄妹の、いいや深町晶君の仲間になった人物。 その戦闘方法の特異性から巷では“詠の戦士”など呼ばれてはいるが、こうやって見ると本当にただの17才の女の子である。 そんな少女が容器……調整槽をのぞき込むと、こちらをチラリと見て口元を歪める。

 

 ……あぁ、また彼女はろくでもないことを考えているな。

 

「……速見サンのえっち」

「…………そういうのはやめたまえ」

 

第一、いくら調整槽に浸かっていると言っても専用のスーツを着てもらっては居る。身体のラインがいくらか出るが決して裸ではない。 だから私がそんな不名誉をいただく謂われはないはず……なのだが。

 

「まぁ、発展途上も乙なもんだよな」

「こらこら、それは切歌君に失礼だ」

「おっと、一本とられたか?」

 

 冗談を言い合いながら彼女からコーヒーを受け取り、そのままコンソールを操作していく。 ふと、立て掛けてある時計が視界に入り込むと、切歌君の状況をモニターしながらのつきっきりで、既に10時間が経過していた事にようやく気がついた。 ……うむ、緊張の連続で時間の感覚が麻痺していたか。 これは研究所時代からあまり変わらない悪癖だな。

 

「速見さん」

「なんだい?」

「キリちゃん、治りそうかい?」

「治すさ、そのために私は生き残ったのだから」

 

 この子だけじゃない。 私の、そう“私達”の命はこの世界に生きるニンゲンの為に遣うのだと決めたのだ。 だから、この程度の労働は無理とは言わない。 コーヒーを半分ほど飲み干し、改めてモニターを見る。 ……すこし、苦みが強いな。

 

「あの溶液は、定期的に盗ってくる必要があるのか?」

「いや、アレの組成はもう読み取れたし、しばらくのストックは確保できた。 毎日戦闘など馬鹿げた事さえしなければ、向こう半年は保つはずだ」

「それを過ぎたら?」

「材料を調達できるまで聖詠禁止」

「そりゃ大変だ」

 

 本当ならLiNKERを使わせること自体有ってはならないのだが。 こんな、まだ10代もなかばの少女にクロノスとの戦闘を任せるというのは、やはり心苦しい。 生き残るためとはいえ、戦う力が弱い損種実験体になったことが悔やまれる。

 私達に、もっと力があったのなら。 彼女達、異界の少女たちの戦いを見るたびに心が締め付けられそうになる。 ……あのとき、深町晶君たちが戦い、傷ついた刻と同じだ。

 

 そんな私の苦悩が表情に出てしまったのか、目の前の彼女、天羽奏君がなんともいい知れない表情をこちらに向けている。 どうしたのだろうか。

 

「アンタが味方で良かったよ」

「……どういたしまして」

 

 あぁ、この少女の、こんなところが狡いと思う。 意図した冗談で引っかき回して、意図しない真摯さでこちらの心を救っていく。 たった一つの小さな言葉と、可憐な花のような笑顔を添えられてしまえば、“こうなった”私でも、こそばゆくなってしまうというモノだ。

 それからしばらく無言が続いたが、不思議と嫌ではなかった。 たまに聞こえてくる鼻歌が、なんとも聞き心地の良い戦慄を奏でるモノだから、すこし眠気を誘うのが難点と言えば難点なのだろう。

 

 でも、この程度の難点ならば、むしろありがたいくらいだろう。

 

 もうすぐ切歌君の浄化作業が終わる。 そうすれば彼女はほとんど元の身体に戻ることが出来る。

 

 よかった 傷ついた少女をこの手ですくうことが出来て。

 

 私のフガイなさで 己が身をけずった彼女をてだすけすることができて。

 

 

 

 …………もうのこり少ないキゲンの中で かれらの力になることができて ほんとうによかった。

 

 ほんとう に…………

 

 

 

 

 

 

 

 最近、速見さんの様子がおかしい気がする。

 元から明るい性格ではなくて、どこか普段から影がある人格者というのがアタシの評価だったけど、近頃はその落ち着きぶりが達観の行きに辿り着いたように見えてしまう。 その姿は医者に見放された入院患者、生きることを放り投げた死人にも等しい。

 

「響が運んだ機材って、なにに使うんだ?」

「LiNKERの毒を摘出する際に、その毒素と人体を詳しくモニターするセンサーがなかったんだ。 調整用の機材はここにもあるけど、アレは2世代ほど古くてね、信頼性があまりにもなかったから、切歌さんに使うわけにはいかなかったんだ」

 

 ……そんな機材で、自分たちの改造はしていたのに。

 どうしてこの男達は、自分に対してこうも厳しいのだろうか。 アタシらがいた世界の男子共は、もうちょっとわがままで、甘ったれだったのに。 

 

 切歌の治癒が終わりに近付いた。 コーヒーの器を片づけようと、二人分のカップを台所にまで運ぼうとしたとき、視界の隅で速見さんの身体がぶれた。 めまい? アタシが? 一瞬の混乱はすぐさま勘違いだと気がついた。

 

「……ぅ」

「おい、速見さん!?」

「すまん、すこし立ちくらみが」

「……速見さん」

「大丈夫だよ、すこし、徹夜のしすぎかもしれないなぁ」

 

 …………この世界の大人達は、皆ウソが下手すぎる。

 

 子供を欺すことを知らないと言えば良いのか、それともごまかす余裕すら無いのか。 そっと微笑んだ速見さんの表情は白く染まっていて、医師でもないアタシでも、身体の異常を察することができる。 ……わかってしまう。 あのヒトが、無理をしていることが。

 

「奏、ごはん出来たよ」

「瑞紀? えっ、もうこんな時間かよ」

「すまないね瑞紀さん、こっちももうすぐ終わるから、そしたらいただくとするよ」

「はい、上で用意しておきますから」

「ありがとう瑞紀さん。 さぁ、行っておいで奏さん」

「……あぁ、わかったよ」

 

 速見さんへの追求はまた今度。 あのヒトもオトナだ、その信念を今更曲げてもらうことなど出来やしない。 瑞紀の後へついて行き一階のリビングに出ると、哲朗がこっちに振り向いた。 なにか話があるみたいだけど、あれ、昨日のことなら洗いざらい話したんだけどな。

 

「天羽、お前のことなんだが」

「え? なんだよ哲朗、今更アタシのファンになったってんなら手遅れだぜ? なにせこの身も心も――」

「そういうのはいいから、帰ってきたら存分に晶に甘えてやれ」

「……で? このプリティ奏ちゃんにいったい何のようだよ」

「この間、おまえが随分無理をやったと聞いたが、実際のところ大丈夫なのか?」

「無理って、誰がそんな誤情報を流してんだよ」

「アプトムだ」

「げっ、あのおっさん…………余計なことは言うなって言ったのに」

 

 正直に言うとギアのバックファイアによる傷はまだ治まってない。 寝起きするのにお腹は痛いし、こうやって普通に立ってるのも気を張る時もある。 でも、前に比べれば全然マシだ、めまいもなければ全身を貫く痛みもない。 何より、普通に生きていられるのだから。

 

「ショウのおかげで時限式から融合型に進化したからな、切歌ちゃんに比べりゃあ断然マシ」

「……融合型? まぁ、お前とアプトムのおかげで立花と速見さんが目的を達成したし、これでしばらく動かなくても良いわけだ。 ゆっくり休んでくれよ」

「そのつもりだよ」

 

 そういうと哲朗は視線を外して、テーブルの上にある食事を平らげていく。 さてと、アタシも飯をいただくとしますか。 

 

「んじゃ、いっただきま――」

「立花響! ただいま戻りました!!」

「およ? そういや居なかったな響、どうしたんだよ飯時に席外すなんて……って、なんだその髪の毛」

 

 帰ってきた大飯ぐらいが、ちょっと見ない間にヘアスタイルが変わっていた。 ショートボブからロングに。 しかもメガネまでかけちゃってまぁ、なんかイメージ変わるな、喋らなけりゃ清楚な箱入り娘だ。

 

「なつきさんからエクステやらウィッグやらお借りしまして。 ほら、わたしたち素顔を晒しちゃってるから、獣化兵の警察官とかに見つかると大変なことになるって哲朗さんが」

「そういやそうだな、獣神将はアイツら越しでこっちの風景も見れるんだったな」

「はい、だからこうやって変装を。 どうですか? もう、バッチリ他人って感じしません?」

「あぁ、ぶっちゃけ詐欺だよな」

「え゛!?」

 

 大人しそうな少女と思って近付いたら、元気いっぱいのゴハン大好き骨太女だったなんて、どんな騙しのテクニックだよ。 あぁ……そうか、こいつをキャラメイクしたのはおそらくなつきだな? きっとこんな感じがショウに受けそうだなんてそそのかしたに違いない。

 だめだめ、アイツは大人しそうな子に惹かれるところあるかもしれないけど、結局奥手だからコッチからグイグイ行く感じじゃないと釣り合いがとれねえんだよ。

 

 その点、アタシはもうグイグイ行って、バンバン攻められる活発系メイドさんだからな。 

 

「甘いな響。 所詮貴様はお色気装者の出涸らしよ」

「な、なんだってッ!!?」

「おい、お前等?」

「そんな装備でアイツを揺さぶれると思うてかッ!!」

「――――うッ?!」

「だから、お前等さっきからなにやってんだよ……」

「お色気の話だ!!」

「変装の話が一切見当たらないんだが」

 

 このあとメシもそっちのけで、二人でコーディネート大会を開催。 ただの衣服調査から下着の組み合わせまでに発展すれば歯止めがきかなくなり、最後にはショウの好みに辿り着く。

 

「清楚、可憐、それでいて草食系をむさぼる凶暴性、つまりお色気! やはり時代は歌姫エロメイドなんだよ!!」

「おぉッ!! そういうものも有るのか!!!」

「うるさい、飯時だ!!」

「ぎゃん!?」

「わ、わ……」

 

 まぁ、最後には哲朗からアタシだけ怒られて終わるんだけどさ。

 なんでこういうとき、率先してアタシが拳骨もらわなけりゃならないんだ、不公平だぞ哲朗。

 

「騒動の中心はいつもおまえの方だろうが。 邪悪の根は元から引き抜かないと」

「えー! 聞き耳立てておきながらそりゃないよ兄さん!!」

「……たててたんですか?」

「立てるかッ!!」

 

 思いっきり怒鳴るのは良いけれど、顔が真っ赤になっちゃ説得力ゼロだよ、瀬川のアニキ。

 

「晶、頼むから早く帰ってきてくれ……」

「……そうですね、深町さん、いつコッチに辿り着くんだろう」

「だな、アタシもそろそろアイツの体温が懐かしくなってきた」

『……』

 

 二人が凄い顔してるけど、別に変な意味ではない。 断じてない。

 アタシは文字通りショウと一つに溶け合ったんだ、あのギガンティック創造時の蛹の中で。 そのときの暖かさを私は忘れない。 あの、傷つき倒れそうになったアタシの身体と、いまだ悪鬼がうずいていた心を引き留めたアイツを。

 

 あぁ、ほんと。 今どこでなにやってるんだか……

 

「お待たせしたデス! 暁切歌ふっかつデーース!!」

「切歌ちゃん!」

「顔色も良くなったな」

「なんだ、着替えちゃったのか、似合ってたのに……」

「デス!?」

 

 速見さんと切歌の二人が部屋に入ってきて、同じ食卓を囲む。 調整槽だなんて聞かされて最初はかなり戸惑ったし不安を覚えたけど、なんとも無さそうで良かった。

 腹が減ってたみたいで、切歌はむしゃぶりつくようにメシを平らげていく。 ……おぉ、こりゃあ食い気だけなら響を超えるな。

 

「……身体の方はまだまだだけど」

「なんデス?」

「だめだよ切歌ちゃん、いま奏さんはろくでもないことを考えてるんだから」

「哲朗―! 最近響が強かでつまんなーい!!」

「はいはい、晶が帰ってきたら相手してもらおうな」

「えー!?」

 

 切歌がメシを喰いつつ、台所から瑞紀が顔を出す。 こちらの様子をうかがうと、にこりと笑ってまた調理に戻っていった。 あぁ、いいね。 こうやって皆が笑ってられるのは本当に。 ……だからさ、ショウ。 どこでなにやっているかわからないけど、早く帰ってきなよ。 それまでアタシがなんとか持ちこたえてやるから……!!

 

 

 

 

 

 同時刻 クラウド・ゲート近辺

 

 少年少女達が団らんを過ごす中、そんな生ぬるい空気から遠ざかる男が一人。 傷だらけの躯には夜の風は冷たく、そっと腕をさする。

 まともな食事にありつけず、限界まで空腹を訴える躯をなだめる男に、耳をつんざく叫び声が飛び込んでくる。

 

「はぁ、はぁ――――」

「待て!」

「貴様、ここでなにを見た!!」

「な、なんなの……あれは。 あいつらはいったい――!!」

 

 眼下に映り込む騒動は男とは無関係。 この町では、いいや、あのクラウドゲート近辺にはたまにああいうことが起るのだ。 どうせ好奇心旺盛なテレビ報道やら、記者やらが、いらぬ案件に首を突っ込んだのだとろう。

 女一人を、黒ずくめのヘルメット達が追い回している。

 女はタダモノではないのだろう、俊足を生かして追っ手を躱してはいるが、土地勘がないのかゆっくりと袋小路へ追い詰められていく。 長い直線に出てしまい身を隠すところがなくなると、女は脱するために猛然と駆け抜ける。

 

 よく頑張った方だが、あそこはだめだ。

 

「…………獣化兵が、居るな」

 

 その気配が男を動かした。

 女のピンチでもなく、姿の見えないその臭いだけで、彼はこの案件に首を突っ込むのだ。

 

 腹が減った、もう、まともに食事も出来ていない。 ……ちょうど良いから腹ごなしをしよう。

 

 そんな気軽さで、男はついに現場へ介入する。

 

「はぁ! はぁ――」

「待て! 貴様!!」

「捕らえろ!」

「情報を保っているかもしれん、逃がすな!」

「…………待つのはお前達だ」

『!!?』

 

 追っ手と逃亡者の間に着地すると、男はかけていたサングラスを放り投げて目の傷をヤツラに見せる。

 その姿、その風貌。 明らかに常人じゃない。 それは逃亡者の女にもわかる事であり、追っ手共にとっては既知の事実であった。

 

「貴様、まさか――」

「出来損ないのロストナンバーズ、最後の生き残り!」

「……ふっ、この俺も随分名が知れたモノだ。 だが、一つ間違えてるぞ貴様等」

 

 男達が躯を肥大化させる。 ニンゲンからの脱線、その細胞を激変させていくと怪物へとくみ上げていく。

 大猿のバケモノに、カマキリのクリーチャー。 多種多様の怪物が男を囲むと、彼の背中で女が小さな悲鳴を上げる。 ソレにたった一言苦言を呈すと、黒い男はジャケットを脱ぎ捨ててその身体をさらなるバケモノへと変貌させる。

 

「……ぅッ!!」

 

 女が見たのは、まさしく地獄。

 

 

 

 黒い躯を闇夜に溶け込ませて、本能が赴くままに敵対者に迫り、獣の獰猛さで得物を刈っていく。 逃げる隙も許さず、身じろぎさえさせないままに息の根を断つ。 背中に抜き手、首を刎ねるとほとばしる鮮血を浴び、その細胞の乾きを潤す。 黒い生物と、怪物達がはじめた闘争。 その残酷さで行われるのは“食うか食われるか”を体現した戦い、彼女は原初に還った争いを見て、ただ躯を振るわせることしか出来なかった。

 

「…………」

「はぁ、はぁ――!?」

 

 黒い捕食者が歩き出す。 ゆっくりと、女に向かって確かな歩みを繰り返す。 無慈悲な足音が女の耳に響くたびに躯の震えは止まらず、その場に縛り付けられてしまう。

 

 奴との距離はあと2メートル。 女が覚悟を決めるには短くて、でも、捨て鉢になるには十分な距離だった―――

 

「こ、殺されるくらいなら……!!!!」

「おい、貴様なにを!?」

 

 銃……否、女が手にしたのは注射器だ。 針のない、インジェクタータイプのソレに込められた薬剤を、首の静脈へ打ち込むと彼女はソレを放り投げる。 

 突如、瞳孔が開き、喉からは叫ぶような声が鳴り、響く。

 

「ぐ、う……!」

「……コイツ、なにを」

 

 そのうめきがやがて意味のある旋律を奏でると、男の耳に信じられないモノが聞こえてくる。

 

「Various shul shagana tron」

「詠……だとッ!?」

 

 驚愕する中で彼女の身体に装甲が組み付いていく。 力なき華奢な身体を、闘争に身を置くモノへと組み替えていく。 歌声が止み、静寂が戻ると彼女は強い視線で黒い怪物を睨む。

 

「……ここで、死ぬわけにはいかない」

「シンフォギアだと! 貴様、いったい何者だ!?」

「死ねない! 死ぬわけにはいかないッ!!」

 

 女が致命的なナニカを見落としている。 そうとも知れずに男は、バトルクリーチャー=アプトムは翅を広げて空に待避。 シンフォギアが空を飛べないと踏んだ行動とその黒い躯が闇夜に溶け込む姿は、女をさらに追い詰める。

 

「ふぅ、ふぅぅぅうううッ!!」

「なんだ、これは!?」

 

 女が付ける、赤いシンフォギア。 その頭部にある二振りのコンテナが起動する。 中身が露出し、ギア特有の再構成で創り上げた弾丸がアプトム目がけて射出する。 黒い生態装甲を横切ると、その衝撃で表層が削れ、切り裂かれる。

 

「手裏剣、いや、丸鋸ッ?!」

「……まだまだッ!!」

 

 見たこともない聞いたこともない武装に、相変わらずと呟くアプトム。 翅を細かく動かすと高速の旋回。 女を眼下に納めながら右腕の装甲を展開すると、生態ミサイルを4基発射する。 赤い丸鋸を次々に撃ち落とすと頭部の装甲を展開する。

 集まる熱量、その高熱が光りを持つと夜の止みを切り裂いて少女へ走る。

 

「くっ――」

「そう、飛べない貴様はここで避けざるを得ない」

 

 ついに地面から脚を離した女を見て、アプトムの翅が大きくわななく。 風を切り、空を断つ速度で女の腹部へ拳を向ける。

 その姿を視認こそすれ、空中で身動きのとれないシンフォギアに、昆虫と動物の長所を取り込んだ超人に迫ることなど叶わず。 アプトムの右拳が放つ衝撃が、内臓を通り抜けて背中へと突き抜ける。

 

「うぐ!?」

「…………ふぅ、ようやく静かになったか」

 

 くの字に折れた女の身体を左腕で抱え込むと、ゆっくり地面へ降り立つアプトム。 肩の上で息をしていることを確認すると、背中の触手を伸ばして、地面に転がるインジェクターを拾い上げる。

 顔に近づけ、そっとにおいを拾い上げるとアプトムは盛大にため息をついた……

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ、“あいつ”の関係者か…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 顔だけ人に戻ったアプトムは苦い顔。

 突然襲いかかってきた詩の戦士、怯えながらも刃を向けてきた闘志、どこか戦闘慣れしていない闘い方。 そして……真っ平らな体つき。

 そのどれをもとって、彼女があの子供達の仲間だと言うことを理解したアプトムは、密かに思う。

 

「…………キリカの奴にどやされるな、これは」

 

 ――――そして天羽奏にあらぬ誤解をされ、立花響が良くない反応をするところまでがワンセット。 その騒がしい光景を脳裏でよぎらせると、アプトムは盛大なため息。 肩にかかる小さな重みを背負い治すと、うんざりとした表情で小田切邸に進路を向けた。

 

 こうして赤いシンフォギアを纏う小さき少女は、最悪なカタチで戦闘生物と出会った。

 

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