強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第39話 反攻の兆し

 

 

 

 暗い部屋だった。

 ソレは視覚情報ではなくて、心が写す風景だ。

 

 苦痛に耐え、居もしない存在に怯え、苦痛を分かち合うモノ達は日を追うごとに少なくなっていく。

 

 会話を交わしたモノは先ほどまでの記憶を失い。

 明日の食事を約束した友は、翌日の朝日を目にすることが出来ず。

 共にここから抜け出そうと結託しようとすれば心を砕かれる。

 

 いとも容易くニンゲンの尊厳を剥奪されていく。

 

 逃げ道はなく、自身が歩みを止める事を許されない。

 止まれば死ぬ、振り返れば死ぬ、だけど前に進んでいけばいつか死ぬ。

 

 光りの差し込まないソコはまさに地獄。 前に進んでいるはずなのに、心は、魂は暗い底へと沈んでいく一方だ。  ……ならば。

 

 

 

 

 

 

「…………ううん」

 

 目を醒す。

 

 少女の視界は真っ暗闇。 そこがどこなのか、いま自身がどんな体勢なのかも把握出来ない。 その状況は不味い、状況判断を優先した彼女は、まず、己の身体を確認した。

 

 …………着ていた服を脱がされている。

 

 最悪だ、気を失っている間に衣服を剥がされ、しかも全身が浸かるほどの溶液の中に放り込まれている。

 息は出来る。 口に固定されているマスクから、一応呼吸は保証されている。 自身の命が保証された訳では無いが。

 

 次にあたりを見る。

 幸いと誰も居ない。 まだ自身が意識を取り戻したことを誰も知らないのは重畳だ。 数少ない好機を逃さず、さらなる情報を探す。 なにか無いか、何でもいい、手がかりの一つでもあれば、せめてここを脱出出来るナニカ――

 その焦りが良くなかった。 水槽を揺らした彼女は、直ぐに見つかってしまう。

 

「…………」

「ん-!! んんーー!!」

 

 …………アイツだ、あの黒い獣がこちらを見て嗤った。

 弱り切った獲物を睨み付けるその姿はまるで血に飢えた捕食者。 ヒトという仮の姿から滲み出る凶暴性は、その姿を見ただけで少女を震え上がらせる。

 

 死。 ただそれだけしか見えない未来。

 魂をも捕まれた少女は暴れもがく。 蜘蛛の巣に絡まれた翅虫のように、黒い男へ最後の抵抗を決行する。

 

「んー! んーーーー!!」

「あ、起きたんだその子」

「あぁ、いまさっきな」

「んー! ……………………ん?」

 

 ……しようとは、したのだ。

 

 

 

 

 男の雰囲気が変わる。

 その背に見えるのはただの女性。 自身が知りうる中であまりにも無防備な一般人、なのに彼女を見た瞬間に、獣がただのニンゲンに戻ったのだ。 そう、殺意溢れる姿が見えなくなったのだ。

 少女は水溶液越しに彼等の動向を探る。

 

「でもアプトムも災難だったよね」

「言うな瀬川瑞紀。 我ながら奇縁を不安に思っているのだ」

 

 ……談笑だ、あの戦闘生物が女性と談笑をはじめたのだ。

 

 信じられない、おそらく罠だ。

 あの連中は普通の人間からバケモノへと切り替わった。 なら、あの姿はフェイクであって、こちらを欺す手段に他ならない。 少女は強く睨み付ける。

 

「ぐぅぅ…………!」

「あの子、なんだかこっちを睨んでない?」

「知らんな」

「もしかしてアプトム」

「俺はなにもして居らんぞ。 天羽のような勘ぐりを入れるのは――」

「……怯えられているんじゃって……おもうんだけ……ど」

「………………うっ」

 

 怯んだ……だとッ!?

 女性の一言であの凶暴な獣がたじろいだのだ、まさか寛恕は幹部の首領だとでも言うのだろうか。 苦笑いで謙遜気味に接する姿すら恐怖にしか映らない。 

 

 そうか、ここのボスはあの女性の方であったか。

 

 アレをも上回る戦闘力をあの女性は持っているというのか。 どこまでバケモノ揃いなのだ、この世界は。

 少女が身じろぎすると、女性の背後からまた一人、誰かがやってくる。

 

「おーい、目が覚めたんだって?」

「あ、アニキ」

「――ッ!?」

 

 兄貴、そう言ったのか? 

 少女は今の言葉を疑い、信じ切れなかった。 なにせあの獰猛な怪物を押さえつける女のさらに上位の存在が目の前に現れたのだ、既に彼女の許容量は限界に近い。

 だけど……と、彼女は思う。

 いまアニキと呼ばれた男性は、どう見ても黒い男より強そうには思えない。 体型は戦闘向きではないし、醸し出す雰囲気は朗らか。 とてもじゃないが悪鬼羅刹には見えない。

 

「あの子、なんだかお前を睨んでは居ないか?」

「そんなこと無いよ! あたしじゃなくてアプトムだよ」

「まーたそうやって言い訳する。 どうせ天羽に触発されてナニカやらかしたんだろ!」

「ちがうったら」

 

 …………あの女性が、獣を飼い慣らした女傑があの朗らかな男性に気圧されている……だとっ!?

 

 少女は3度の驚愕に身を震わせる。 水溶液内は酸素の気泡で乱れに乱れ、そのバイタルは不安定に傾いていく。 ソレを、看過できない男が哲朗の背後から歩いてくる。

 

「みんな、彼女が怯えている、すこし落ち着いてくれ」

「あ、すみません速見さん」

「速見さんおはようございます」

「速見、貴様もう起きていいのか?」

「ありがとうアプトム。 大丈夫、少し徹夜続きで疲労がたまっただけだから」

 

「――――ッ!?」

 

 皆が……あの、百鬼夜行の怪物達が一瞬にして平伏した……だとっ!?

 

 少女の前に広がる世界は次々と塗り変わっていく。 だけど彼女の心は変わらない、あの、黒い男が居る限り危険が去ったわけではないからだ。 否……

 

 この世界に飛ばされた瞬間から、自身には一切の安息を許されなかったのだ。

 

 息つく暇も無ければ、頼れる存在すら居なかった。

 

 けどもう限界だ。 自身が一人で歩ける距離などたかが知れている。

 LiNKERは品切れ、戦う力なくして生き残れるほどこの世界は優しくない。 歌の響かぬ異邦の地は、少女には辛すぎた。

 

 だから……もう、いいのかも知れない。

 

 弱音が心の中によぎると、暗い感情が芽を出し、不安と恐怖が複雑に絡み合う。

 

「キリちゃん……会いたいよ」

 

 その言葉を吐き出す。 初めて口から出た弱音は、水溶液に混ざり、気泡となって消えていく。

 

「……キリちゃん」

「あっ! 調、起きたデスか!」

「……………………?」

「いやー、アプトムのおじさんがムリヤリ連れ込んだって言うから心配したデスよ」

「おいキリカ、その言い草はなんだ」

「でも、事実だろ」

「瀬川哲朗!」

「わたしも確か晶が殖装出来ないときにいろいろと……」

「瀬川瑞紀! あのときはアレしか方法がなかったのだ!!」

「アプトム大変だったからね、わかるよ」

「速見! 貴様、そのすべてわかったような顔はやめろ!! 俺を哀れむな!!」

「………………ゴポゴポ」

 

 ……ついでに少女の恐怖その他、一切合切消えていく。

 

 そう、居たのだ。

 この戦いの世界ではぐれた片割れが、意気揚々とあの怪物達を制してこちらに近付いてくる。

 

 その姿にひとつの恐れもなく。

 怪物達を押しのけ。

 輝かんばかりの陽気さでテクテク歩いてくる。

 

 自身が探していた、暁切歌という少女が、バケモノ達をかき分けこちらへ近付いてくるのだ。

 

「――――キリちゃん!?」

「調、おはようデス!」

 

 酸素マスク越しに最大音声。 今出せる大出力に溶液が震えると、ガラス管越しに切歌が微笑む。

 その顔を見るだけで良かった。

 少女の心から恐怖心が消え失せ、強ばる身体がゆっくりとほどけていく。

 

「ハヤミ、調はまだ治らないデスか?」

「切歌さんよりは症状が軽いから、あと少しだね。 LiNKERを使ってはいるけど、直ぐに戦闘を止めたのが功を奏した」

「おじさん、ありがとうなのデス」

「フン、絶唱とやらを使われて勝手にボロボロになられたんじゃ堪ったモノじゃないからな」

「…………」

 

 あの怪異に自信は気を遣われていたと言うことか。 調はアプトムを見ると、昨夜のことを思い出した。

 確かに少女は追い詰められていた。 最後にはきっと捨て鉢になり、特攻めいた絶唱を繰り出すこともあったかも知れない。 そこまで行かないようにしたアプトムには感謝をする、だが。

 

「…………あんなに頑張ったのに」

「フン、俺と貴様等ガキどもなどと比べようと思わんことだ」

「そうだよ、調さん。 アプトムは戦う為に身体を極限まで作り替えた存在、いわば戦闘生物と呼ぶべき代物だ。 最近、奏さんと響さんに攻撃力で迫られているのに焦ってはいるけど」

「なにを言っている、俺には進化したブラスター・テンペストが――」

「デスデス! サングラスでなに考えてるかわからないデスが、決してやましいことは考えてないのデスよ」

「……おい」

「あの日だって決しておじさんは調を食べようとしたわけではないのデス!」

「キリカ、おまえ少し――」

「半裸で、ボロボロになった美少女を背負って帰ってきたけど、決してやましい意味は無いって信じてたデス!」

「おい天羽ッッ!! てめえこのガキになに教え込んだぁぁああ!!!」

 

 アプトムが右腕を獣化させながら階段を駆け上がる。

 後ろで「あまりうるさくすると警察が……」などとズレた心配をしているが構ったモノじゃない。 怒り心頭のグラサン男は、暢気にソファーでうたた寝している元アイドルと大立ち回りを繰り広げることになる。

 

 美少女と野獣のクロスカウンターが炸裂するころ、ようやく水溶液から出るコトになった調は、瑞紀が持ってきたタオルに包まると周りを見渡す。

 

 研究施設と言うには生活感があるけれど、やはり普通の住宅とも言いがたい雰囲気がある。

 周りを見ると次に自身の確認に入る。 あのとき、アプトムとの戦闘でLiNKERを使い、身体に変調が起りつつあったのだが、ソレが見事に消されている。 ここまでなにも残らないのはあの研究所でも出来ない芸当だと、調は心内で驚く。

 

「…………ありがとう、ございます」

「どういたしまして。 こっちも、アプトムが悪かったね」

「いえ、あの、わたしが話も聞かないで戦ってしまったから……」

「それは仕方ないデスよ、誰だってあんな黒ずくめを見たら反撃してしまうのデス」

「キリちゃん……」

 

 ぬれた身体を拭いていくと速見と哲朗が背中を向けて一階をのぞきこむ。 騒動は一段落したようで、そのまま男衆は階段に脚を乗せる。

 

「んじゃ、後は頼んだぞ」

「私達は上でゆっくり待ってるから、調さんの事はお願いするよ」

 

 そう言って出て行った二人に調は頭を下げると、切歌と瑞紀の二人に手伝ってもらいながら、普段着へと着替えていくのであった。

 

 

 そして、しばらく彼女達と話し合いが続く中。

 

「アプトムゥ! アタシの惰眠を妨害するとは良い度胸じゃないか!!」

「天羽奏ェ!! この俺の評判をどこまで落とせば気が済むのだ!!」

「全部ホントのことじゃん! 知ってるよ、昔、瑞紀のことひん剥いたってのは」

「あ、ぐ、ぅぅぅ!!」

 

 どうにも今日はアプトムの古傷が痛むらしい。 片膝を着くと奏を睨み付け、奥歯を強くならす。

 

「まぁまぁ、冗談はそこら辺にして」

「昨日クラウド・ゲート近辺にて小競り合いがあったとアプトムから聞いて、色々調べたんだが興味深い情報が入った」

「あん? ラーメン屋でも出来たか」

「茶化すな。 ……俺達がちょっかいを出してるとは言え、どうにも警戒が強いから色々観て居たんだが、どうもアメリカの支部でレジスタンスが活動しているらしいんだ」

「へぇ、この世界にもやっぱりそういうのはあるんだな。 でも一般人に出来る事なんて些細なことだろ」

「そうだ、一般人ならな」

「ん?」

「これ、見てくれ」

 

 哲朗が操作していたパソコン、その画面を皆がのぞき込む。

 解析中と出ている一枚の画像がゆっくりと鮮明になっていく。 そこには、二つの影が映し出されていた。

 

「この体格、何より頭角、まさかガイバーッ!?」

「あぁ、暗いからわかりづらいけど、おそらくそうだろう」

「ショウか!?」

 

 奏が身を乗り出す。 画面を射殺すように睨むが、夜だったのだろう、暗い風景に黒い影では認識しづらい。

 

「……おそらく、巻島だろうな」

「どうして言い切れるんだよ、もしかしたらショウかもしんねえだろ?」

「アイツだったら真っ先に日本に帰ってくる。 前に“雪音クリス”って子と一緒に孤島から日本列島にまで帰って来れたんだろ? なら、同じことをして帰ってこられるだろうさ」

「…………そう、だよな。 アイツだったら真っ先にアンタらに会いに来るはずだ」

「天羽にもな」

「よせやい……!」

 

 奏が嬉しそうに哲朗の背中を叩く。 若干強すぎたのかむせる彼にアプトムが背中をさすってやっていた。 だが、その目は決して優しい物ではなく、画面を睨み付けた男は、そっとその場から離れていく。

 

「おーじさん!!」

「――ぐおっ?!」

「どこ行こうとしてるデスか? 調がお礼言いたいからもう少し待つデスよ」

「礼などいらん、さっさと目的を果たせたのだから良いだろう」

「おじさん! また遊びにくるデスよ!」

「…………あぁ、機会があったらな」

 

 やることも出来たことだし。 アプトムがやんわりと切歌を退けると、そのまま小田切邸を出て行ってしまう。

 

 男が出て行ったところに入れ替わりで、一人少女が彼等の前へ歩いてくる。

 

「……キリちゃん」

「調! もう動いて平気デスか?」

「うん、なんとか」

 

その足取りはいまだ重く、若干のふらつきはある物の、いつぞやの切歌に比べれば大分マシなことは哲朗はおろか瑞紀にだってわかる。 そんな少女は周りを見渡すと、少しだけ後退、切歌の後ろに隠れる。

 

「なになに、どうしちゃったのさ調ちゃん」

「し、調?」

「…………じぃ」

「おい、天羽えらく警戒されているが何したんだ」

「アタシはまだなにもしてないって」

「…………まだ?」

「いや、する予定もないって!」

 

 参ったなと後頭部を掻く奏に対して絶賛ジト目発動中の切歌と調。 息の合った反応だが、その実、視線に込められた意味は正反対である。

 

「キリちゃん、この人は何者……!」

「愛に生きる戦士、天羽奏さんデス。 ちょっと変わってますけど、いい人デスよ」

「あもう、かなで……たしか、マムが言っていた、その人は2年前に」

「おっと、その情報はもう遅いんだなぁお嬢さん方。 今のアタシは主人の帰りを待つ忠犬メイ――」

「いい加減にしとけな、天羽」

「ぐぴっ!?」

 

 ジョークが過ぎる彼女に哲朗が拳を唸らせると、逸れた話の軌道を修正していく。

 アプトムが離脱、その代わりに調という仲間が増えたが、哲朗は彼女を戦力とは見たくないのが本音だ。

 いくら彼女が……

 

「キリちゃん、わたし頑張るから」

「どうしたですか調?」

「……頑張る!」

「…………なんであの子はあんなに張り切ってるんだ」

 

 哲朗に視線を配りながら握り拳を作っていたとしても、だ。

 なにが彼女をあそこまで奮い立たせるのか……まさか彼女が恐れを抱きながらの発言とは露とも知らずに、哲朗はやる気に満ちあふれている調と切歌の扱いに困り果てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京は新宿を遠く離れた異邦の地、荒野の片隅に一つ、不自然な岩山がおいてあった。

 

 そこには一つの影。 小さく、だけどあまりにも自然からかけ離れた存在は岩山に向かって手を添える。

 

「……いま、帰った」

「随分早かったじゃない」

 

 独り言に堪える声が一つ。

 ソレと同時に岩山が“ひらく”

 

 中から階段が見え、そこをゆっくりと下りていく。 背中に差し込む光が徐々に無くなると、岩山が閉じる。 ソレに意を介さず、ひたすらに地下を目指していく。

 

 歩き続けること2分、鉄のシャッターを前にするとソレはゆっくりと息を吐いた。

 輝く、うねる。 そして身体が弾ける。

 ソレが消えて無くなり、ただの男の身体が現れると同時、鉄のシャッターが開く。

 

「きちんと追跡は追い払ったようね、アギト」

「……あぁ、皆、排除させてもらった」

 

 迎える声は女のモノ、堪える声は男のモノ。 ……そしてその名前は、日本にいる兄妹がよく知るものであり……

 

「ガデンツァヴナ、日本の様子はどうだ」

「今のところ動きはないわ」

 

 もう片方の声は聞き覚えのないモノ。

 アギト……巻島顎が殖装を解き、シャッターの内側へと入り込むと椅子に座り込む。 殖装をしていたためか汗の一つすらかいていない彼に、ガデンツァヴナと呼ばれた女性は水をカップに入れ彼に手渡す。

 視線すら向けず受け取ると一気にあおり、そのままカップをテーブルに置く。

 

「深町が消えて2年、クロノスの世界征服が完遂してからというものの我らはその身を隠し機会を伺っていた」

「だがそれも時期に限界が来る、そんなときに現れたのが……」

「マリア・ガデンツァブナ・イヴ、君のことだ。 そして貴方が現れてから徐々に状況が変わっていくことになる」

 

 巻島がコンソールを操作する。 目の前の画面が忙しなく動き出すと、一つの画像を写しだす。

 

 摩天楼を照らす橙色の輝き。

 その影に隠れては居るが、確かに存在を確認出来る“見たことのない物体”

 

 ソレを睨み付ける巻島は、彼女にこう続けた。

 

「この攻撃が貴様の見知ったモノ達が原因だというのは間違いないだろう」

「えぇ、おそらくフィーネを打ち破ったシンフォギアの装者達で間違いないわ」

「この二人は追々わかるだろう、問題は――」

 

 巻島が画像を拡大する。 光りの柱にではなく、その影にかくれた物体をよく見えるように。

 

「本当にこれは君達の世界の代物では無いのだな?」

「…………えぇ」

 

 そこには一つの異変が映し出されていた。

 これは彼女達の知るものではないという。

 ならば……そう思い、巻島が考えを巡らせた刹那、部屋のドアから声が聞こえてくる。

 

「顎様」

「志津か。 どうした、そんなに慌てて」

「顎様から報告を受けた例の案件、情報を掴みました」

「なんだと!?」

 

 入ってきたのは巻島顎の使用人の孫娘だった女性。 彼女はマリアに一瞬だけ視線を流すと、巻島の横にしゃがみ込みコンソールを操作する。 そんな彼女の行動を見向きもせず、巻島はひたすらに画面を注視する。

 ここまで彼が入れ込む案件。

 そこまでこの男が注目する事件。

 

 それは……それは――――

 

 

 

 

 

「風鳴弦十郎の行方を掴んだのだな!?」

「はい、彼等はいま太平洋沖を潜行しています」

 

 

 

 

 …………OTONAの捜索である。

 

 そう、彼はこの世界でいま、獣神将でも、深町晶でも、装者でもなく、たった一人のデタラメ武道家を捜し求めていたのだ。

 

 なぜ、彼がこんなになって探し続けるのか。

 

 どうしてこの男がここまで躍起になっているのか。 

 

「奴め、“アレ”を奪還したら必ず追付いてみせるぞ」

「………………顎さま」

「そして問いただす。 甲殻の塊の正体と、この俺が深町よりも劣ると言う理由をな。 風鳴弦十郎!」

「……」

「巻島顎、貴方というヒトは……………はぁ、彼は……いいえ、皆は無事かしら」

 

 憎悪とも殺気とも違う、その、ぎらついた眼差しをみて、マリアはそっとため息をつくのであった。

 その皆の中に一人、いまだ言葉を震わせたショウ年を夢想しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

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