強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第43話 最凶の……敵……

 

 老人が嗤う。

 

 少女達があまりにも健気で、それがとても滑稽で。

 

 傷つき、倒れた少女が一人。

 それを支える少女が一人。

 

 そして、自身に拳を向ける少女が一人。

 

「かかっ! さて、“うぬ”達はどんな声で鳴くのかのう。 しばし聞かせてもらうとするわい」

「……!」

 

 老人の嘲りをかき消すように響が詠を紡ぐ。

 彼女の武器は拳だ。 なら、近付かなければあたりはしない。

 

 一瞬で距離を詰めた彼女は、しかし、老人は木の葉如く舞い、躱していく。

 

「当たらない……!」

「これはとんだイノシシ娘じゃ。 ほれ、儂ばかり見ていていいのかのう?」

「切ちゃん!」

「――え!?」

 

 響が守るはずだった真後ろ。 切歌と調が叫ぶ。

 足を止め、振り向いた響の目に映るのは、獣に蹂躙されていく二人であった。

 

 獣化兵が通路の奥から湯水の如く湧き出てくるのだ。 歯がみをする響は反転、即座に二人と獣化兵の間に割って入ると、一体一体を拳一つで蹴散らしていく。

 

「どうして! 奏さんが足止めしているはずじゃ」

「なにを言うておる、現にこうして増援が来て居るではないか」

「……そんな、まさか」

 

 二人を抱えて響が跳ぶ。 敵の薄い個室に逃げ込むと、ドアを塞ぐ。 何でもいい、時間を稼がなくてはならない。

 ……自身の、心を整理しなくてはならない。

 

「……大丈夫、奏さんはきっと大丈夫なはずだ」

 

 この世界に来て、一番のムードメーカーが彼女だった。 例え深町晶が居なくとも、小日向未来が居なくとも、自身がここまで来れたのは、ようやく出会えた彼女の存在が大きい。

 奏は強い、自身よりもずっと。 ソレは響がよく知っている。

 

 だが、しかし。

 

 少女は知っている

 

 彼女の敗北した姿を。 彼女も、所詮は一人の人間であることを。

 

「…………かなでさんっ……!!」

 

 自然、震える両手。

 あの強い少女が、まさかこんなところで燃え尽きるはずがない。 そう言い聞かせるも、心の中で波打つ動揺が収まることはなかった。

 

 ドアが叩かれる。

 

 あの獣たちを前に、よく保った方であろうか。 薄板一枚で遮られた防波堤が、いま、獣化兵という波を前に陥落しようとしている。 失意と絶望のなかで揺れ動く少女に、その波を止める術はない。

 ならば立ち上がるしかないではないか。

 自分たちがやらなくて、一体誰がヤルというのか。

 

「ふぐぐぐッ!!!」

「負け……ないッ!!」

「二人とも!? ダメだよ、LiNKERの効果時間はもう――」

「関係ないデス!」

「……え?」

「いま、やらないといけない。 立てるときに立ち上がらないときっと後悔する。 だから、貴方も立ち上がって……!」

「…………二人とも」

 

 先ほどの戦闘開始から既に20分が経過している。 時限式の二人は、特に背中に傷を受けている切歌は息をするのも辛いだろう。

 それでも、彼女達は立ち上がる。

 

 その胸に、燃えさかるような詠が有る限り。

 

「ごめん、二人とも」

 

 こんなになってまでまだ立ち上がろうとしている二人。 彼女達が立ち上がるというのに、自身は一体どうしたことだろうか。

 

 情けなくて、ようやく出た言葉が謝罪の言葉……違うはずだ。 本当に出したいのはそんなつまらない物ではない。

 

「――――――ありがとう!!」

「はいデス!」

「うん……頑張ろう」

 

 立ち上がり、並び立った少女達。 彼女達を待っていたとばかりに扉は破壊され、獣の群れが少女達に襲いかかる。

 

『ウォォオオオオオオッッ!!!』

 

 戦士の咆哮と共に、いま、獣達は愚かにも猛々しく燃え上がる歌声の中に身を投げ込んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 通路を埋め尽くす閃光。 ソレは、ガイバーの奥の手に匹敵する威力と範囲であった。

 こんなモノをうければ、いくら身に纏う槍が力を出し切ろうとも原子分解は免れない。

 なら避けるしかない。 だが、翼無き身体では空にいるこの瞬間に移動することなど叶わず……だから、彼女に、天羽奏に打開の策などありはしなかった。

 

「ちくしょぉぉぉおおおーー!!」

「消えるがいい、小娘風情が」

 

 少女が虚空に叫ぶと…………壁が、崩れる。

 

「――――!?」

 

 一瞬、黒いナニカが現れたとときだ、天羽奏の身体は空中で自由を手に入れる。

 動いたのだ、この、絶体絶命の瞬間に、空中で身体が。 だが、自分の意識ではない。 今自身は誰かの腕の中で抱きかかえられているのだから。

 

 こんな状況で、自身を助けてくれる存在。 奏には心当たりなど一人しか居なかった。

 

 

 

「…………おせーぞ、ショウ」

「…………………………………すまん、オレだ」

「…………デスヨネー」

 

 黒い躯を持つ、バトルクリーチャー・アプトムが、すんでの所で奏を抱え上げて空を舞ったのだ。

 

「たくっ、餓鬼共だけで敵の本拠地に突っ込むとはな。 無謀も良いところだ」

「わるいなおっさん。 けどさぁ、連絡取れないおっさんもわるいんだかんな?」

「……ああいえばこういう」

 

 奏を床に下ろすとアプトムが5人組を見る。

 かつて、自身が相対した事のある超獣化兵5人衆とは違う存在。 普通ならば警戒し、様子見と行くところだが――

 

「…………天羽、チビ共はどうした?」

「先に行かせたよ。 面倒なのは全部アタシが引き受けたんだ」

「そうか……なら、急がんとな」

「え?」

 

 ―――――――血のにおいがする、切歌のだ。

 

 小さく呟いたアプトムに奏の表情が固まる。

 

 まさかと返す彼女だが、なにも言わないアプトムに、奏はそっと目を伏せた。

 

「天羽」

「なんだよ」

「そっちのレーザー持ちだけでいい、食い止めろ」

「なに、言ってんだ……?」

「他の4人はこのオレが喰うと言ったんだ」

「……………おいおい」

 

 奏があきれ声を出すとアプトムが動く。

 左半身を展開すると莫大な量のミサイルを生成、そのまま射出する。 すかさず音波兵器で迎撃されるが、その瞬間にアプトムの頭部が展開、光線を発射する。

 

「ぐぇぇッ!!?」

「まず一匹」

「……ウソだろ」

「音波が相手なら光りで対応できる。 そして、高周波の武器には――」

「おのれ貴様ぁぁあああ!!」

 

 スピアーがアプトムに迫る。 槍の示す通り先端の刃物が超速で振動している兵器ではある。 これのせいで奏が真っ向から打ち合いが出来ず、苦戦した代物ではあるが――

 

「接近武器には勿論、遠距離から攻めていく」

「ミサイルだとッ!? ぐっ……スピアーで撃ち落としてくれる!」

「馬鹿め、そんな長物を振り回したら懐ががら空きだぞ」

「なに!? ミサイルが曲がっただと!!?」

 

 思念波による誘導ミサイルは、長いが故に懐が空くスピアーの射程をかいくぐり、見事に命中した。 生体炸薬に火が付き、爆炎が超獣化兵を襲う。

 

「ぐ……ぅぅ」

「これで、2体目」

「よくも! 出来損ないのロストナンバーの分際でッ!!」

「…………ぁ?」

 

 衝撃砲と、粒子砲の超獣化兵が残っている。 それが言い放つ戯れ言に僅かな反応、片手を向けると光線を撃ち出す。

 

 無駄だ。

 

 言い放つ超獣化兵2体が、その強靱な肉体で守ると、ビームは霧散する。

 

「おっさん!あいつら、堅えぞ」

「貴様どこを向いている! オレの事を忘れたか!!」

「んなわきゃねえだろーが!!」

 

 ビームの連射は厄介の一言。 スマッシャーに比べれば威力は微々たるものだが、連射性能はこちらが遥かに上だ。 だが、速度ならばこの槍の方に分がある。

 

「おりゃあああ!!」

「こいつ、避けながら接近を――」

「はぁあああああああ!!!」

 

 胴体を一閃。 ヒールを頸部にたたき込むと、もう一度槍を振りかぶる。 縦に打ち上げ相手の背筋を伸ばしてやると無呼吸で詠を解き放つ。

 

「奏でる、この世界の果てまでも――――」

「おのれ、おのれぇぇ!!」

 

 3人目。

 奏が槍で超獣化兵を貫くと同時、アプトムは腹部を展開し、背中の装甲を広げ翅を左右に広げる。

 微細振動を繰り返すソレは周囲の温度を奪い冷気を誘い込む。

 一瞬で奏の吐息が白くなると、アプトムの腹部から閃光があふれ出す。

 

「馬鹿な! あれはまさかゼクトールの――!?」

「くたばりやがれッ、ブラスターテンペストッ!!」

『ぐぉぉおおおおおお!!?』

 

 圧倒的な熱量が超獣化兵を呑み込む。 

 断末魔を聞き遂げると、腹と背中の装甲を戻し、そのまま床に膝を着く。 慌てて奏が駆け寄るも片手を上げて押さえ込み、そのまま倒れ込んでいる獣化兵数体を見る。

 

「エネルギーが、足りん」

「結構ばかすかミサイルとか出してたもんな。 前々から思ってたんだけど、あれってどこに格納してんだよ?」

「決まってるだろう、アレもオレの体細胞から創り上げたものだ。 だから撃てばその都度補充している」

「え、じゃあ発射から装填までをあの短時間でやるのかよ。 クリスちゃんだってもう少し……いや、結構乱暴だなアイツも」

 

 イチイバルの2連装両手持ちガトリングを思い出すと、良い勝負だと漏らす奏。 そんな彼女の会話に、若干の興味を引かれながらもアプトムは消耗した体力の“補充”を行う。

 

 さぁ、食事の時間だ。

 

 横たわる5体分の超獣化兵だったモノ達。 それらに手を触れると変色し、変異し、やがて細胞ごとアプトムに“喰われる”

 2分もしないうちに、すべての残骸を食い終わるとアプトムが立ち上がる。

 

「待たせたな」

「相変わらずの健啖家だねぇ、おっさん」

「ほざくな。 ソレよりさきを急ぐぞ、天羽」

「あぁ、いつまでもこうしちゃ居らんないからな」

 

 半壊した通路を駆けだしたアプトムと奏。 しばらく走り続け、その階層にいないと知ると、二人は顔を見合わせる。

 

「でぇぇりゃあ!!」

「……躊躇無くヒールで窓をぶち割りやがった」

「おっさん、移動よろしく!!」

「仕方が無い」

 

 自身に向かって手を伸ばしてくる少女に向かって、少しだけため息。 ヒョイっと首根っこを掴むと、荷物のように彼女を運搬していくのであった。

 

 ――――時速100キロで。

 

「あぶぶぶぶっ――――おっざざざざッ!!!!」

「急ぐと言ったはずだ、天羽奏。 切歌はあの12階層上だな」

 

 限定解除を受けていないシンフォギアにはいささか刺激が強すぎる速度。 天羽奏の悲鳴をBGMにしながら、アプトムは持ち前の生体センサーでのこり三人の居る場所へと翔る。

 

「天羽、聞け!」

「あぶぶぶ――」

「奴らめ、どうやらとんでもない事になって居るようだ」

「――――――ッ」

「一人だけ生体反応がやけに小さくなっている。 ソレと、ヤツラの近くにえらく大きい反応が……間違いない、獣神将が近くに居る」

「…………」

「もう躊躇している時間は無いな、このまま突っ込むぞ天羽!」

「……っ」

 

 返事がない奏をブンブン振り回しながら、時速120キロのアプトムはクラウドゲート上空を一回転半ひねり。 月をバックに右足を伸ばせば、背中の翅を高速振動。

 

 彼は、流星となった。

 

「はぁああああッ!!」

「ぎゃああああッッ!!!」

『――――ッ!!??』

「くっそ! 少しは加減しやがれおっさんッ!!」

「だが、急いだおかげでちょうど良いタイミングで来られたようだ」

「あん?」

 

 煙の中に広がる喧噪。 その最中に見知った顔を見つけた奏は、彼女達の元へと駆け出す。

 

「響!」

「……奏さんっ!」

「よかった、皆無事だな!」

「はい。 ……だけど切歌ちゃんが」

「…………なに!?」

 

 アプトムが声だけの反応。 しかし、視線だけは決して目の前の“敵”から反らすことはなかった。 

 

「立花響、キサマラよくやった。 選手交代だ」

「アプトムさん……!」

「天羽、連戦だがいけるか?」

「誰に言ってんだ。 こちとらやっとアイドリングが終わったとこなんだ、やってやるさ」

 

 彼には分かるのだ。 バトルクリーチャーとしての生物の勘が、告げるのだ。 

 

「警戒しろ、ヤツはなにか企んでやがる」

「ほう? 出来損ないの若造、なぜそう思う」

「ふん、貴様ほどの化け物が本気を出せば、今の小娘どもを葬るぐらい容易かったはずだ。 なにを遊んでやがる……!」

「かかっ……!」

 

 ―――――この老人が、響たちに手心を加えていた事を。

 

 それは、良心と言うよりは、獲物をいたぶる加虐心。 年寄りのような笑みを浮かべているが、その内側はおそらく、ドブのように真っ黒に汚れているのだろう。

 数多くの悪意を見てきたアプトムには、この獣神将の凶悪さがよく分かる。 調に介抱されている切歌を一瞬だけ見ると、右腕をレーザー砲に構築する。

 

「嗤ってんじゃねえぞジジイ!」

「かかか! ロストナンバーズが人助けか? 見ない間に随分と生ぬるくなったものじゃな」

「黙れッ!!」

 

 アプトムが駆け出す。

 レーザーを撃ち出しながらの突貫。 だが、老人……カブラールが額のクリスタルを光らせると、窓を割り、多数の獣化兵達が通路内に侵入してくる。

 一体がレーザーを受けると、さらにもう3体がアプトムに覆い被さっていく。

 

「無駄だぜ!」

「ほほう」

「すげえ、普通あそこで避けるけど、おっさんは攻撃しながら獣化兵を喰らっていってる」

「……熾烈」

「アプトムさん……」

「おじさん……うぐっ」

 

 両手から高周波ソードを展開。 響が目を見開くと、奏は思い出す。 そうだ、あの武器はアプトムにはなかったはずだ。 いつの間に……アプトムが獣化兵をなます切りにしていく中、つい先ほどの戦闘を思い出す。

 そう、先ほどの超獣化兵5人組の能力を彼は融合捕食によって取得していたのだ。

 

 しかもそれだけじゃない。

 

「ほほっ。 うぬは随分と大食いじゃのう」

「無駄だぜジイさんッ! いくらお得意の思念波で獣化兵をけしかけようと、このオレには餌を放り投げるだけだ!!」

「…………そうじゃな、うぬはそういう生物じゃ」

「くそ、うじゃうじゃと」

「アプトム! 背中借りるぞ!!」

「ぬっ!?」

「ほっ?」

「おりゃあああ!!」

 

 空を飛ぶアプトム、その背中を踏み台にして、奏が一気にカブラールに接近する。 

 大上段からの一刀両断は、しかし5体の獣化兵によってすべて防がれてしまう。 接近することができず、けれども引くことも出来ず、攻めあぐねているところにアプトムが奏に声を上げた。

 

「あれは――」

「皆伏せて!!」

「喰らいやがれジジィッ!! ブラスター・テンペストッ!!」

「なんだと!?」

 

 本日2射目。 だが威力は散々獣化兵を喰ってきたせいか、それとも先ほどの高エネルギーをもつ超獣化兵の特製を得たからか、まったく衰えていない。

 熱を集める速度も格段に上がった、完成型のブラスター・テンペスト。

 カブラールは少しだけ眉を上げると、両腕を交差する。

 

「………………ふぅ、危ないところじゃったわい」

「くっ! バリアーか」

 

 弾かれた、それでもアプトムは攻撃を続ける。

 

「こんなもの、すぐにぶち破る!!」

「……そうだ、そのまま攻撃してくるといい」

「くそっ、エネルギーが……」

「どうした? うぬの力はそんなものだったのか」

「んだと!?」

「その程度じゃあ、貴様は“また”仲間を失うことになるだろうて。 くかかかっ!!」

「言いやがったなぁああ!!!!」

 

 安い挑発だ。 そうと知りながらも、アプトムは果敢にも攻撃を仕掛け続ける。 鳴り止むことのない怒濤の嵐はカブラールに反撃の猶予を与えない。

 その攻撃を支えるスタミナは敵が呼び出す“食料”でまかない、アプトムの攻撃を無尽蔵に支えるのだ。 ……そうだ、カブラールが与える食料を、いつの間にかアプトムは何ら躊躇無く喰らい、呑み込んでいく。

 

 その姿に不安を覚える。 

 

 恐怖からではない。 “あまりにも都合が良すぎる”

 

 だから奏はアプトムに呼びかけようとして――――――

 

 

 

 その声を、獣の咆哮が妨げた。

 

「モットダ……モットヨコセ……………!!!!」

『!!?』

「くかかかっ!! ようやく効いてきおったな」

 

 翁が笑い、少女達が戦慄する。

 

 目を見開き、牙を剥くアプトムの身体は、一気にバランスを崩した。

 整った漆黒の装甲が剥がれ落ち、中身をぶちまけた姿は、実験に失敗した合成獣(キメラ)を思わせる。

 

「コロス……クワセロ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

「おい、おっさん!!」

「どうなってるの……!」

「アプトムさん!!」

「あ、ぁぁ……」

 

 剣が生え、砲身が剥き出しになり、牙を向け、爪を立てる。 考え得る限りの醜悪な姿へと変異していくアプトム。 顔面の甲虫を思わせる仮面が剥がれ落ち、爛れた素顔が露出するとそのままゆっくりと歩き出す。

 ……翁にではない、少女達に向かって。

 

「おい、しっかりしろよおっさん!!」

「グウウウウウウウウウウウウッァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「――――てめぇ、アプトムになにをしたんだッ!!」

「ほっほ。 散々集めておいた“餌”にちぃと細工をな。 あとは自分たちで調べてみるんじゃな」

「この、野郎……!」

 

 バトルクリーチャーから心が消えた。

 先ほどまで対峙していたカブラールにではなく、いままで見方をしていた少女達に、殺意の牙を向け始める。

 切歌、そして調が竦む。

 いままで冗談すら言い合っていた仲間から向けられる殺意が、こんなにも冷たく恐ろしく、怖いものなのか。 本当の恐怖に心が囚われると、同時、奏と響が割って入る。

 

「させない……」

「おっさん、少し手荒になるけど勘弁しろよな!!」

 

 原理は不明。 だが、操られているのは確実。

 ならばまずはアプトムを食い止めることからはじめるべきだろう。

 

「ほうほう、こりゃ気骨のある嬢ちゃん達じゃ。 仲間に武器を向けるのか」

「何とでも言え! このクソジジィ!!」

「アプトムさんは返してもらう!!」

「ほほっ、こりゃ堪らん。 ほうれアプトム、お前さんの出番じゃぞ」

「グォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 カブラールが闇に紛れ、姿が見えなくなる。

 やつを探している暇はない。 響と奏は詠を紡ぎ、切歌と調がゆっくりと立ち上がる。 

 

 今は、仲間を取り戻す方が優先だ。

 

 アプトムの両腕が組み変わり、巨大な砲身ができあがり彼女達を撃つ。 

 

 躱し、槍を投擲した奏の背後から赤い丸鋸が5枚飛び出す。 両脇から緑色の鎌、橙色の拳が迎撃する。 

 

「いっけーーーー!!」

「コウルサイ……ガキがぁぁああああ!!」

「――!?」

 

 見慣れた刃が、響の鼻先をすれ違う。 両腕は確かにふさがっているはずだ、ならば今のは――アプトムの背後を見た響は、その異変に歯を噛みしめた。

 

 尾が、彼の背中から生えたのだ。

 もはや原型をとどめず、明らかに怪物へと変貌していくアプトムの背には、高周波ソードで連なる尾が創り出されていた。

 黒い翼と相まって、悪魔的な恐怖心を与える威圧感。 そのどれもが少女達に襲いかかるが如く異様さを解き放っていく。

 

「……非道い。 アプトムさんの身体を勝手に」

「差し詰め悪魔の戦闘生物(イヴィル・アプトム)ってとこか……野郎、いい加減にしやがれ」

 

 戦友が敵の手に落ち、助けを呼ぶことも叶わず自分たちに襲いかかってくる。

 

「ちくしょう、こんなんありかよ!」

「どうする……どうすればいい……!」

「おじさん!」

「あのヒトが、こんなことに」

 

 少女達が苦難の道を走り続ける最中、少年は眠り、男は目覚めない。

 

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