強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

46 / 54
第45話 神に連なるモノ達

 

 

 

 巨人殖装。 深町晶が死の淵より生み出したガイバーの重武装形態。

 それは彼に訪れた死の間際、立ちふさがる巨大な敵に打ち勝つという、何よりも強い思念を設計図にして完成した究極の武装である。

 

 そう、彼が見た“メシア”を超えるために創出された武装なのである。

 

 故にこの姿は、真の獣神将を打倒できる可能性を秘めた、超兵器なのである。

 

 

 ソレが降り立つ。

 ついにこの世界に力をもって帰還する。 少年の凱旋に、数千の獣化兵の集合体が出迎え、彼を見下ろし咆える。

 

「小僧、どうやって反転照射されたメガスマッシャーを生き延びたかは知らぬが、出てくるタイミングを間違えたな」

「…………こいつ、どれほどの獣化兵を吸収しているんだ」

「少々サイズが変わったようじゃがな。 くかか!! 貴様ハ、今、この巨獣神カブラール・ハーンに粉々に粉砕されるのだ!!」

 

 一歩、踏みしめた途端に大地震と見まがう衝撃。

 巨獣神の巨体が動けば世界が震える。 穴だらけになったクラウドゲートから飛び降り、大地に降り立つカブラール。 その真下に己が思念波で呼び集めた一般人がいくらか圧死したが、そんな些細な事、奴が気にすることはなかった。

 死体が奴の躯を補強していくだけ。 その光景、その、なんの罪もないニンゲンをむさぼる姿に、巨人殖装が静かに拳を握る。

 

 奮える心を握りしめるかのような姿に、立花響は傷ついた身体に無理を強いて、立ち上がる。

 

「…………ふ、深町さん」

「――――立花さん、その姿」

「すこし、みんなに無茶してもらいまして。 ……でも、ぼろ負けです」

「いや、キミは決して奴に負けてない」

「え?」

「……ずっと、夢の中で見ていた気がするんだ。 どんな窮地に陥っても決してあきらめないみんなと、そんな彼女達を守るために、最後の最後まで立ち上がったキミが見えた。 見えただけだった」

 

 ソレがもどかしくて、速く駆けつけたくて。 その思いが彼を目覚めさせて、蛹の堅い外殻を開かせ、巨人殖装をこの世界に顕現させた。

 

 そう、少女達の中に流れ続ける詠が、深町晶の強い思念を呼び起こしたのだ。

 

 そして、いまこの場に巨人殖装が来たと言うコトはどういうことか……すぐにカブラールは思い知ることになる。

 

「立花さん、手を」

「え?」

「…………ちょっと、ちいさいかな」

「え、あの、深町さん?」

 

 巨人の手の平が、シンフォギアの白い装甲に触れる。 そう形容できる程のサイズ差がある握手だが、彼から伝わるぬくもりは確かに響へ伝わり、身体中に広がっていく。

 

「こ、これ!?」

「立花さんのガングニールに残っている力を、エネルギーアンプで増幅して、繋いだ手を伝わって循環させているんだ」

「か、身体の奥からなんか…………!」

「なんだ? 小僧ども、この期に及んでなにを企むと言うんだ」

「そして、立花さんからもらって増幅したエネルギーはこんなことも出来る――――みんな! 受け取ってくれ!!!!」

『――――!!?』

 

 既に限界が近い奏に、制限時間すれすれの切歌、そして調に向かって虹色の輝きが降り注ぐ。

 

「あ、暖かいデス……」

「光りが抱きしめてくるみたい」

「これは、翼たちにやったあのときの……ショウ、おまえ」

「どういうことだ!? のこりの小娘どもが立ち上がったじゃと!?」

「カブラール。 確かに貴様の姿は強大で、この巨人殖装を持ってしても勝てないかも知れない。 でも、俺は一人じゃない。 共に戦い支え合う仲間や、帰るべき場所がある限り俺達は負けない、負けるわけがないんだ!!」

「戯言を。 虫けらが束になったとて、それで倒される巨獣神ではないわ!」

 

 カブラールが叫び、大地を揺るがす最中、そこから抜けだし天へ駈け上がる乙女達が居た。

 

 その姿は立花響と同じく、己が限界を突破した姿に他ならず、シンフォギアの最大稼働の先である。 光り輝くギアの出力は、絶唱とは比較にならない力を彼女達に与えるが、不思議と、その力が身体を蝕むことはなかった。

 むしろ、まだその先が出せる。 自分たちは歌い出したばかりなのだと、彼女達の力は際限なく増え続ける。

 

「これが、限定解除デスか」

「……エクスドライブ。 フィーネの野望を食い止めたシンフォギアが持つ真の力」

「すごい、4人で無理矢理力を上げたときよりも全然楽なのに、途轍もない力を感じる」

「よかった、うまくいった」

「へっ! おいおいなに自信なさげに言ってるんだよご主人様! まだまだこんなモンじゃないんだろう?」

「うん、まぁ」

「……ごしゅじんさま、デスか」

「…………やっぱりこの人があのドヘンタイの」

「あの、なんだかとんでもないこと言われてる気がするんだけど」

「そのことはまた後で。 いまは、あのカブラールを」

「あ、うん……わかった」

 

 先ほどまで絶望に向かっていた世界が晴れていくよう。 4人のエクスドライブが翼を広げると、同時、ギガンティックの重力衝角が伸長する。

 

「よし、行くぞみんな!!」

『応ッ!!』

「例え数が増えたところでキサマらがここで死ぬ事になんら変わりはない! 喰らえ、煉獄砲!!!」

 

 カブラールの口が三つ叉に開き、中にある光球から灼熱のエネルギーが放出される。 それを避けるどころか向かって行くギガンティックに、なんら疑うことなくシンフォギアが続いていき、輝きを放っていく。

 ギガンティックの全身に配置されたエネルギーアンプが輝くと、周囲の空間が揺らめく。

 

「グラヴィティ・ラム!!」

「煉獄砲を突っ切るじゃと?!」

「いけえええ!!」

 

 極炎を貫く弾丸。 重力すらねじ曲げる巨人殖装のエネルギーが装者達を守ると同時、カブラールから這い出てくる無数の巨顔触手どもを穿つ。

 

「いまだみんな!」

 

 深町が叫ぶと、皆が一斉にアームドギアを再構成していく。

 

「貫け!」

「……切り裂く」

「行くデス!!」

 

 鋭利な槍、巨大な鋸、無数の鎌。 そのどれもが先ほどまで扱っていたものからかけ離れた威力を持つ超武装である。 次々と巨獣神の強靱な外殻を切り裂き、弱い中身を露出させていく。

 そして、唯一その手に武器を持たぬ響は――

 

「でりゃああああ!!!」

 

 発声と共に全身からフォニックゲインを放出する。

 ガントレットが変形したパイルバンカーが、響の気合に呼応するかのように巨大化し、それを振りかぶりながら奴の胴体に向かい突貫する。

 

「くらええええええ!!」

「させるか小娘!」

「それはこちらの台詞だ!」

 

 カブラールの身体から伸びる大量の触手が、接近してくる響を捉えようと蠢く。 しかし、それを見越した深町は既に両の手の平を重力制御球にかざし、射線を奴に定め終わっていた。

 

「プレッシャーカノン!!」

「ぐっ!? 一瞬で10の触手が消されたじゃと!?」

「行くんだ立花さん!」

「はぁあああああああああああああああ!!!」

 

 飛翔する乙女が光りになったとき、カブラールの腹部に閃光が炸裂する。

 

 皆が切り裂き、脆くなった外殻を粉々に打ち砕いた響のバンカー。 あまりの事態に一瞬の混乱、一歩、あの巨獣神が後退したと思えば、激痛から叫び声を上げるに至る。

 

「キサマラ……貴様らぁぁあああああああああ!!」

「おうおう、あの怪物も随分と弱ってきたじゃないのさ」

「油断は禁物」

「そうデス! まだ倒れてないのデスよ」

 

 巨獣神に与えたダメージはそれなりと言ったところだ。 確かにどれも強力だったが、サイズ差がありすぎる。 だが、それでも効いたのは間違いなく、ソレが奴を焦らせる要因となる。

 

「おのれ……餓鬼ども」

「カブラール、この新宿に住む罪のない人々の命を喰らった罪、支払ってもらうぞ」

「いい気になるなよ小僧! ほんの少し亀裂を入れただけで勝った気になるな! はぁああああああ!!」

 

 叫び声と共に、カブラールの巨体が激動する。

 大地が津波のように動き出したのだ。 それをなんらかの攻撃だと察知した深町は、ギガンティックのセンサーで奴を即座に探る。 目に映る情報だけでなく、そこに隠れた真実さえも見抜かんとするガイバーの万能センサーに、ソレは、映り込んだ。

 

 その瞬間、深町は一気に沸点まで上り詰める。

 

「させるかッ!!」

「おいショウ!!」

 

 一人、カブラールに突撃していく深町。 その姿にいい知れない焦りを感じ、一緒に跳んでいく奏は、思い出す。 そう、彼にとって奴が今行って居ることはトラウマよりも痛烈な出来事。 罪のない人間を、まるで道具のように利用し、殺していく悪魔の所行に他ならない。

 

「来い獣化兵ども、早く儂の血肉になれ!」

「貴様ぁ!!」

 

 ギガンティックの高周波ソードが展開する。 背中をプラズマが迸れば超加速を持って奴の真横を突っ切る。

 

「ぬぐッ!?」

「させて溜まるか! これ以上、貴様に融合させる獣化兵は……ニンゲンは居ない!!」

「ひ、響さん……深町さんの様子が変デスよ」

「うん、急にヒトが変わったみたい……」

「………………仕方、ないよ」

「確かに。 あんな風に力を手に入れるなんて悪魔のやること」

「そうデス! おじさんだってもう少し時と場所を選ぶデスよ」

「……うん」

 

 大地に群がる獣化兵へ伸ばした触手が、ギガンティックにより防がれる。

 高周波故に只のガイバーだった頃と切断力は変わらぬ一撃、しかし、伸長の制限が取り払われた巨人殖装のソードは際限なく伸ばされ、あの巨大な触手を一刀両断にしてみせる。 

 

「……凄い」

「そりゃそうだ。 あれは翼が使う天の逆鱗よりも切れて、使う本人の膂力も段違い。 あれほどの芸当になるのはむしろ当然だ」

 

 ガイバー特有の音のない叫び声が大地に転がる触手を微塵に還す。 同時、ギガンティックの右拳に光が集まると空間が歪む。

 

「グラビティ・ナックル!!!」

「ぐぉ!?」

「体勢を崩した!? いまだみんな!!」

「いっけー!」

「せりゃああ!!」

「はぁあああ!!」

 

 巨体の片足が浮いたところへ、皆が渾身の一撃をたたき込んでいく。 槍で貫き、大鎌で刈り取り、丸鋸で削り取って行けば拳をたたき込む。 5人の連携により、カブラールが融合する隙を与えないのだ。 歯がゆい思いを迫られるカブラールは咆哮を上げ、大振りの攻撃を繰り返す。

 

「いけるぞショウ!」

「…………」

「どうしたんだよ」

「いや、うまくいき過ぎている気がして」

「それだけ深町さんとわたしたちのパワーが強くなったって事じゃないんですか?」

「うん、それはそうなんだけど」

「フカマチさん、背が大きいくせに随分と小心者なんデスねぇ」

「石橋を叩いて…………壊す?」

「渡る、ね。 いや、そうじゃなくて。 いくらみんなのシンフォギアをギガンティックのサポートで強化したと言っても、あの巨獣神を相手にここまで接戦出来ているのが、不思議で」

 

 櫻井了子を相手取ったときは、まだ彼女にその戦力に対する“慣し”がなかった、だからその隙を突くことが出来たし、彼女が体勢を整える前に畳みかけることが出来たからこそ勝利できたのだ。

 だが、今回は違う。

 

 獣化兵はそもそも遺伝子レベルで身体の構造そのものを戦闘兵器に調整するモノだ。 故に、その上位種である獣神将も同じ傾向がある。 自身の戦闘スペックを即座に把握し、十全な戦いを行うことが出来るのだ。

 だからこそカブラールは数多くの獣化兵を操り、あのアプトムさえ傀儡とし、そして数千の獣化兵を肉として身体を構成したのだ。

 

 その、獣神将のすべてを出し尽くした怪物相手に、なぜ只の巨人で有る自身が功も善戦出来ているのか。 深町晶はソレが不安で成らなかったのだ。

 

 

 そして、ソレはやはり最悪の形で現実となる。

 

「散れ、散れぇぇ!! 小童ども!!」

「ぐ!? なんて大量の触手だ」

「奴め、形勢不利だと睨んであがきはじめたか!!」

「迎撃するにしたって限度があるデスよ!?」

 

 巨顔触手が、奴の足下から生えるように群がる。 足下の細胞を増殖させ、コンクリートやアスファルトを貫通して一気に地上へ出てきたのだろう。 不意を喰らう形になった深町や装者たちは、対応に追われ孤立状態になってしまう。

 激しく変わった戦略図を前に、一番地上に近い響はその異変にいち早く気がついた。

 

 「ダメ、集められていた街の人達が!!」

 

 気がついたところで、もう手遅れではあったのだが…………

 

 巨獣神の身体が、体積が、爆発的に増大していく。

 吸い取った命でさらなる力を得ようという浅はかな考えだ。 だが、その卑劣な策は、目の前で拳を握る少女には効果覿面であり、最悪な世界を創り上げていく。

 

「ィィィィィイイ!!」

「こ、こ……は…………おr…………かえって…………」

「いだい…………だずけ…………」

「あぁ、……ぁぁ……!!」

 

 気のせいにしては強すぎて、意思を感じるかと言われれば弱すぎる、断末のささやき。 彼等は、この、命を材料に変換させられていくニンゲン達は、まるで請うようにその手を響に伸ばし、顔を絶望に染め上げる。

 だが彼女は間に合わなかった。

 その手を伸ばすが、握りしめてやることが出来ず。 一人、伸ばした手を胸に抱きしめる。

 

「ごめ、なさ……い」

 

 出来なかった……助けることが。

 

「あんなに……ちかく……に……」

 

 あざ笑うように大地が揺れ動き、むさぼっていった獣化兵達を吸収していくと益々その身体を増大させていく。 

 何も知らず、いつもと変わらぬ明日の予定があったであろう、只人たち。 ソレが、こんな惨い終わりを迎えることが許されるのか? 問うた答えは、ただ、巨獣神のけたたましい咆哮がかき消していくだけだ。

その事実が彼女の心に突き刺さると、黒い獣が蠢き出す。

 

「キサマ……!!」

「まだだ、まだ足りぬ。 早くこのカブラールのもとへ集まれ、獣化兵共!!」

「――――――」

 

 カブラールの声が、響にかかっていた戒めを、解いた。

 

 黒く染め上がっていく、シンフォギアと立花響。 変貌した彼女の色とカタチは、その憎悪に沿うようで居て禍々しく、どす黒い。 突然の変貌に皆が不意を突かれる中、構うことなくカブラールは一気に身体の再構成を終えていく。

 

「おぉ…………ついに、ついに手に入れたぞ儂の身体を」

 

 自重の圧倒的増加と、体積、密度、強度が順当に繰り上がった巨獣神の真の姿。 だが、奴の姿は依然として完成ではない。

 

「なんだよアレ」

「背中が、開く……!?」

「あ、あぁ……!!」

 

 細胞の増殖と、外殻の再構成が加速度的に進むカブラールの背中。 そこから見えたのは、まるで翼竜のような骨格と、それを覆うように形成されていく膜状の皮膚。 一体その翼にどれほどの命を費やしたのか。 強大なそれを羽ばたかせると、強風を生み、奴は一気に闇夜を駈け上がる。

 

「くかかかかか!! これが儂の巨獣神殲滅体(ドラグロード・アナヒレイション・モード) さぁて、もう後戻りは出来んぞ!!」

「跳んだ!?」

「いや、普通に空を飛んで行ってるぞ!!」

「アイツ…………アイツ!!!」

「ちょっ、みんな! 響さんがおかしいデスよ!?」

「あれは!?」

「響の奴、力に飲まれやがった!?」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

 漆黒に染まった翼を広げると、彼女は後を追うように空の彼方へ消えてしまう。 後を追うべく深町たちが天を見上げると、彼等の周りの“残骸”が蠢き出す。

 

「ショウ! またあの触手だ!」

「しつこいデスっ!!」

「いい加減、見飽きた」

「くっ! 邪魔だ、どけ!!」

 

 残骸となった奴の体細胞から、触手が数十本。 もう、手段を選んでいる場合ではない。 急がないとさきにいってしまった響が、あの巨獣神に返り討ちに遭うのは明白だ。

 

 ――――巨人殖装の胸部装甲が開く。

 

「ショウ?!」

「な、何デスかあれ!?」

「凄い、ひかり……」

「お前達と遊んでいる暇はない!! 原子の…………塵に帰れ!!!」

 

 腹部、胸部の計3個の重力制御球が発生する膨大なエネルギーを、全身の結晶体で増幅し、莫大なエネルギーを生み出せば、目の前に蔓延る有象無象を光りの濁流に呑み込ませる。

 雲を切り、空が裂け、やがて雷雲を生み出し空を覆う。 それほどの衝撃、環境を変えるほどの一撃を、只の巨人が成し遂げる。

 

 街の上空を通り過ぎ、地平線の彼方へ消えていったギガンティックのギガスマッシャーに、切歌と調が戦慄する。 だが、彼女達の機嫌を伺っている暇も無い。 説明も少なく、彼は背中のジェットに火を付けた。

 

「頼む、早まらないでくれ立花さん!!」

 

 

 

 

 

 新宿4千メートル上空。

 速度にして時速200キロを優に超える速さで飛行し、辿り着いたカブラールは両翼を広げ、夜空に乗っかるように滞空する。

 

 眼下、獣と蟲と巨人が足掻く様を、貌のない姿でねっとりと笑う。

 

 散々だと。 もう、ここで仕舞いにしてしまおうと。 ほくそ笑んだその姿は、巨獣神の姿では違いがわからない。 …………だが、その貌を気にくわないと咆える獣が居た。

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

「……ほう、ウヌはあの……じゃが随分様変わりしたようじゃな。 くかかか!!」

 

 咆える様が愉快でならない。

 この、巨獣神殲滅体を前に、もはや正気をもって対峙する事すら叶わないと見えたらしい。 ソレが、溜まらなく腹に来て、龍の顎が3又に開きはじめる。

 

「くかかかかか!! 所詮、獣は獣。 儂等はクロノス十二神将、神の席に連なる存在じゃ。 ウヌごときがいくら叫ぼうが届かぬ高見に居る! それをいま、わからせてやろう」

「――――ぅぅぅ!!?」

 

 巨獣神の手が、黒化した響を掴み上げる。 きしみ音と共に絞り出された絶叫は、苦痛と怒り、そして悲しみが雑多に混ぜ合わさった不協和音。 この世界に奏でるに相応しい、混沌とした嘆きの詠が、理性を失った少女からこぼれ、墜ちる。

 

 その姿に、カブラールはついに感嘆の声を上げた。

 

「さんざ手を患わせおって。 じゃが、それもここまで。 ウヌはこのまま骨の一本ずつを砕き、へし折り、臓物をその口から絞り上げてくれる」

 

 先ほどの攻撃の恨み辛みが吹き出していく。 泣けと、喚けと獣をいたぶる姿は、新しく玩具を与えられた子供のようにも思える。 そう、奴はいま、純粋に立花響を殺すことに楽しみを覚えようとしていた。

 その姿が、その、ヒトを人とも思わぬ所行が許せない。 たった一つの、何よりも大切な命を、自分の欲望の為だけに消費していく奴を何よりも許せない。

 

 だから少女は叫ぶ。

 

 離せ……ではなく。 絶対に許さないと獣が龍に吠えていく。

 

「所詮、獣は獣。 巨獣神の儂に敵うものなぞ、存在せんのじゃ!!」

「ぐぅぅ……ああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 だが声だけじゃ龍を倒せない。

 

 故に力が必要だ。

 しかし、シンフォギアに、そんな不純な願いを込められた詩に何ら意味は無く。 吐き出されたうめき声は、欠片の価値もない、光りを失った宝石に等しい。

 

 

 

 

 

 ――――――――その様が“許せない者が居た”

 

 

 

 

 

 

 

「……………………ほう、貴様はいつから、十二神将の頂点に立ったのだ?」

「な、あ……?」

 

 居た。

 いいや、気がつく前からもうソレは、そこに存在していた。

 

 龍が獣を握り潰さんとしていたときにはもう、ソレは奴の手から獣を奪い取り、抱きかかえ、空中を悠然と歩いていた。

 

「う、ぅぅ」

「……なんという、ことだ」

「あ、……ぁぁ」

「其方らしくはないな、そのような音色は」

「ぅぅぅぅぅ」

「む、そうか、今日は其方が言葉を解せぬ日であるのだな。 まぁ、そういう日もいいだろう」

 

 ソレは、獣だった者を抱きかかえると態度を一変。 人のカタチをしながらも、まるで異質な瞳で龍を“射貫く”

 

「貴様、よもや我の言葉を忘れたわけではあるまいな」

「あ、ぁぁぁ貴方様は……!」

「カブラール・ハーン……死にたいのか?」

「――――!!!?」

 

 突然の言葉に、龍は一瞬、本当に死を覚悟した。

 

「質問をしているのは我のほうだが」

「………………っ」

 

 どうやら、自身はまだ死ぬ事ハないらしい。

 

 安堵と共に、三又の口が閉じると、龍は思い当たる節を探し、思考を加速させていく。

 

「儂が、“なにかしました”かな」

「まずは腕からだ」

「ぐぉぉぉおおおお!!?」

 

 ソレが呟くと、小さな空間の乱れ。 ……同時、巨獣神の右腕が消失する。

 

 叫びだしたカブラールの事など、まるで眼中にない瞳をしながらも、その表情は確かな苛立ちを携えていた。

 

「何故!?」

「…………失望したぞ、いいや、貴様など初めから期待などしていなかったな」

「なぜ御身がこんなところにまで動く必要があるのか……! 何故、このような仕打ちを!?」

「その左足は要らないと見て良いのだな?」

「グギャアアアアア!!?」

 

 睨んだだけで巨獣神の足が吹き飛ぶ。

 

 それだけじゃない。 今し方行われた会話の中で、すこしでもソレが眉をひそめれば、カブラールの身体のどこかしらが欠損していくのだ。

 

「う、むぅ…………すやすや」

「ようやくもとの音色を取り戻したな。 其方はやはり、それが良い」

「あ、ある…………かん…………なぜ……」

「誰が口を開いて良いと言ったか」

「あがっ……ぐぇ!?」

 

 ねじれ、切り刻まれ、圧縮し、燃えさかる。

 

 およそ考えられる限りの処刑方法を、目の前の巨体で試し、どれも納得がいかないのだろう、途中でやめては“あご”に手を持って行く。

 

「どうすれば、其方を傷つけた代償を払えるだろうか」

「あ、がが…………!」

「命程度では釣り合いがとれんな。 そも、カブラールと其方とでは存在の重みが違いすぎる」

「ぎ…………ぎぃ」

 

 息も絶え絶え。 既に半身を消失されたカブラールは、この日、改めて己が傲慢を思い知った。

 そうだ、この身がいくら巨大になったとしても、出来る事に限界は当然としてある。 ヒトの身にまがい物の力を植え付けた存在が、どうして真の獣神将に対等な位置に居られると勘違いしてしまったのか。

 

 既に言葉も発せ無くなったカブラールは、残された時間で考えた。

 

 なぜ、いま自分はこんなことになっているのだろうか…………と。

 

「――そんなもの決まって居るだろう。 リヒャルト同様、我に造反を企てた時点で、貴様の命運は尽きていたのだ」

「グェエエエエエエエエエエエエエ!!!?」

「…………む?」

 

 ひねり潰したと思ったのだが、いささか予想外の動き。

 まさか自身に向かってまだ抵抗の意思を見せるとは思っていなかったソレは、巨獣神の背から射出された生体ミサイルを見ながら、その手をかざして――

 

「…………ほう、狙いが逸れたか」

 

 ソレを通り過ぎ、遥か彼方の小さなしま目がけて落下していく不発弾。 そんな些細なこと、既に興味も無くなったと言わんばかりに、ソレはそっと響の寝顔をのぞき込む。

 

「……むにゃ、おなか……すいた」

「ふふ。そうか。 では仕方が無い、其方とは一旦お別れだな」

「…………すや」

 

 穏やかな貌で響を抱きかかえると、暫し目をつむりその吐息を耳で楽しむ。

 詩ですらない、只の呼吸音ですら、ソレにとっては極上の音色を響かせる歌声に他ならない。

 

 いくら時間が経っただろうか。

 自身の足下でなにやら大きな音が聞こえたと思いきや、ソレにとっては随分と懐かしい者が飛来する。

 

「た、立花さん――!!?」

「…………ほう、神の衣を纏うモノか」

「え、あの……キミは、いったい。 ソレにカブラール・ハーンの反応がこの一体から消えただと……?」

「知らんな……」

 

 ついに遭遇した二人。 片や巨人の背格好というか、その身を構成する物質に思い入れがあり。

 片や私服姿のニンゲンが、何ら装置の補助もなく空を飛ぶことに若干の驚愕を抑えつつ、響を抱きかかえるその姿が、とても暖かな者だと悟ったショウ年。

 

 そんな二人の間に挟まれた少女は、ただ、暢気によだれをたらしながら夢の続きを見続けるだけであって。

 

「むにゃあ……ゴハン」

「はぁ、よかった。 いつもの立花さんだ」

「おい、貴様」

「え? あ、はぁ」

「この者はいま“ゴハン”とやらを所望している」

「あ、まぁ、割といつものことで安心、してます」

「そうだな。 これがこの者にとっての正しき姿よ。 して、神の衣を纏うものよ、貴様がアレか? 確か、調理人とかいう世話係であるだろう?」

「え? いや、まぁ……雪音さんには確かに一時期保護者で通ってたけど。 でも俺別に―――」

「よく食わせ、よく寝かせてやれ。 それだけで彼女は良い音色を紡ぐ」

「あ、ちょっと!?」

 

 なんだかよくわからないうちに響を譲渡され、アタフタしている内に“それ”は消えてしまった。

 おそらく、クロノスの関係者なのは間違いないとして、しかし奴の目的が一向に読めない。

 

でも、一つだけわかる事がある。

 

「…………いい人だったな。 あのひと」

「ふかまちさん…………おなか…………ぺこぺこ…………」

「あぁ、はいはい。 待っててね、カブラールをどうにかしたら、一杯食べさせてあげるから」

 

 そう言って全周囲を探査しはじめたガイバーギガンティックであったが、その甲斐むなしく。カブラールの残骸すら見当たらず朝日を終えてしまう。 あんなに巨大な生物が、一体何処に消えてしまったのか。

 解明できない謎を抱えながら、しかし今回は…………少年は、仲間のもとへ帰ることを優先したのであっ

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。