強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第46話 その日、少女が降り立った話

 

 

 

 カブラール・ハーンが、正体不明の敵によって斃されてからすぐ。 いまだ騒ぎに沸き立つ新宿を後にして、ガイバー一味は根城である小田切邸に帰還していた。 しかし、彼等は一向に中へ入ろうとせず、暗い外でじっと、少年がドアノブを捻るのを待つのだった

 

「なにやってるデスか……?」

「キリちゃん、しっ」

「今日は大目に見てくれ」

 

 そう言った奏は複雑な笑顔を見せると、その空気を察してか、切歌と調は口を閉じる。 静まりかえった夜の闇に、ぽつり、彼の声が墜ちていく。

 

「……ここに、みんなが」

 

 すぐに消えてしまいそうな声だけど、その音色はここに居る誰もが心を打たれるモノだった。

 まるで、数十年来の我が家に帰ってくる感慨深さと、もう既に会うことがないと思っていたモノ達との再会を感じさせる、そんな、震えをもった声。 そんなものを聞かされてしまえば、普段、騒がしい奏ですらもう、言葉をしまうしかない。

 

 しばらく、彼が立ち止まっていると、ドアが勝手に開いてしまう。

 

 心の準備も、開けようとする動作もする暇が無かったそのタイミングで、唐突に開け放たれた扉に、深町は身を強ばらせて、目を見開いて…………

 

「…………晶?」

「…………ぁ」

 

 声を押し殺した。

 叫びそうになる我が身を、その、極まった感情を、向こうの世界で鍛えてきた精神力で押さえ込んだのだ。 だが、彼のその、精一杯の努力も無駄に終わる。

 

「晶ッ!!!」

「瑞紀……!」

 

 胸に飛び込む彼女を、彼はしっかりと抱き留める。

 仕方が無いだろう。 だって、どうやったって死ぬはずだった存在が、今こうやって帰ってきたのだから。

 親友も、家族も、あらゆるつながりを捨てて生きてきた日々で、唯一の希望がいま、帰ってきてくれたのだから。 目を腫らすまで、彼女が泣いてしまうのは、仕方が無いことだろう。

 

「…………アタシら、先行ってるかんな」

 

 そう言い残し、小田切邸に入っていった奏の顔は、近くにいた調にも伺い知ることは出来なかった……。

 

 しばらく、何も発せず小田切邸のソファで座り込む奏達。 いまだ気を失っている響をベッドに寝かしつけ、少年がこの家に入ってくるまで、いまの状況を整理することにしたのだ。

 

「……まさか、とんでもない援軍を連れ帰ってくるとは思わなかった」

「あぁ、そこら辺はアタシも驚いてる。 まさかあのタイミングでショウが割り込んでくるとは思わなかったから」

「しかもガイバーはギガンティックっていう新たな力を手に入れて帰ってきた」

「フカマチさん、とってもすごかったんデスよ。 あたしたちが束になっても出来なかった限定解除を、簡単にやり遂げたのデス!!」

「あの巨人殖装、とんでもない力だった」

 

 さらにカブラール・ハーンを、流れで討伐できたのも大きい……のだが、そこら辺はかなり引っかかりを覚えるのも事実である。

 ギガンティックという戦力を持ってしても苦戦を要する巨獣神を、事も無く撃退したであろう謎の存在。 ソレが、どうにも哲朗には不安材料にしか成らなかった。

 

「その、カブラールを追い払ったというか、トドメを刺したのはやっぱり晶じゃないんだよな?」

「あぁ、奴が居なくなる直前、ショウは既に一回ギガスマッシャーを使っていた。 つまり、決め手を欠いた状態でカブラールと戦うしかなかったんだ。 ソレなのにあっという間にけりが付くなんてあり得ないだろ? だから、たぶんショウが言ってた“響を助けた男”がやったんだと思う」

「……そいつも、ガイバーなのか?」

「いや、聞いた話からだとむしろ獣神将だと睨んでる」

「…………内乱って奴なのか?」

 

 もともと、クロノスが一枚岩ではないというのは哲朗も理解している。

 村上征禧、ギュオー、アプトム、そしてガイバーⅢ=巻島顎の存在がそれを決定づけている。 だが、それでも獣神将と決めつけるには事態があまりに複雑すぎた。

 

 圧倒したのだ。

 あの、無茶を突き通すシンフォギアの装者達ですら敗北を知らしめた巨獣神を、ほぼ一瞬で消し去った存在など、只の獣神将であるはずがない。 過去に戦ったギュオーですらガイバーのメガスマッシャーに手を焼き、激昂したことさえあるというのに。

 それをも超える力を持った存在など、考えつかないし考えたくもない。 と言うのが実際のところだろうが……

 

 一人頭を抱える哲朗に、しかし奏は冗談交じりに新情報をプレゼントする。

 

「――――けどそいつ、どうにも敵じゃないみたいなんだよね」

「なに?」

「たぶん響のファン。 それも重度のね」

「…………いや、意味わからんぞ」

「ホントだって! ショウから聞いた話が本当ならさ『ごはんとやらを所望だ、早く用意してやれ……』――キリっ!! って、やってたらしいよ」

「おいおい、晶がそう言ってたのかよ」

「うん、8割がた」

「……まじかぁ」

 

 奏単独だと信じられないが、そこにあの少年が挟むと一気に跳ね上がる話の信憑性。 だが、だからといって安心など出来るわけもない。

 

「……仮にだぞ、もしもその圧倒的な戦闘力をもった奴が、本当に立花の味方だとして」

「うん」

「なんで今まで助けに来なかった? アイツ、ここに来る途中も随分危ない助教が続いてたんだぞ?」

「……うーん」

 

 ソレが突然、いまになって助け船を出すなんて相当な気分屋か、なにか助け出せない理由があったのか……

 

「響おまえ、アタシが来るまでの間になにしてたんだよ…………」

 

 それは、いまだ夢の中をさまよう少女だけが知っている事だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――数ヶ月前。

 

 ガイバーが遺跡基地での決戦に敗れ、日本が、世界が……否、この星がクロノスの手に落ちて1年が経過したある日、ある時。 日本を遠く離れたとある僻地に、彼女はこの世界に降り立った。

 

「…………むにゃ」

 

 …………というか、ここでも彼女は寝ていた。

 いい加減、健康上の心配が必要になる安眠体質は、悲しいかな彼女の大きすぎる消費カロリーと相まって、決して治ることのない不治の病。 ただ、その姿は眠り姫というより小山の大将というべきほどの大胆さであり、とても色気があったモノじゃないのがなんとも悲しい性である。

 そんな、女子力最底辺の寝相を晒している少女、立花響はの前髪がふわり、風に揺さぶられる。

 

「…………くすぐったい……むにゃ」

「………………?」

 

 いや、風ではなく、物理的な干渉であった。

 何者かの手が、指が、彼女の頭をゆっくりとなぞったのだ。

 だが響の反応から見ても、ソレが害ある行動ではないのは明らか。 ならば彼女が目を醒す理由にはならない。 よって、安眠は依然続行中である。

 

「…………此奴、どうやってここに」

「すぴー」

「起きろ。 貴様、ここを何処だと思って――」

「うぇひひひ――――」

「――――びくッ!!!」

「むにゃ……もう、そんなに食べらんないよ…………おかわり」

「なんなのだ此奴は」

 

 そうだ、そうなのだ。 彼女はいま、未知の場所で、名も知らぬ人物とファーストコンタクトを取ったのだ。

 あられもなく、女子力も無く、美しさの欠片もない、そんな最初の出会い。 しかし相手は相当ご立腹らしい。 なぜ? 形だけならばそれなりの美少女に値するだろう彼女に対して、何処が不満なのだろう。 奏が居れば出てきそうな問いは、案外簡単なモノであった。

 

「此奴はなぜ、我の寝台で寝息を立てている?」

「おなか……すいた……」

「答えろ、命令だ」

「…………すぴー」

「此奴……!!」

 

 苦労して帰ってみれば見知らぬサルが寝床を荒らしていた。 これが一番わかりやすい答えだろうか。

 いかにニンゲンから見て美男美女だろうと、いま、この場に居る存在にとっては雑草と変わらぬ些末事に過ぎぬ。 だから彼は、まるで摘むように目の前の障害を排除する―――

 

「――――♪」

「…………ぬ」

 

 手が、止まる。

 

 何故だろう。 それは鼻歌だったか、寝言だったか。 ともかく、彼女が紡いだ一小節が、彼の耳に届いた瞬間、どうしてか今までの苛立ちは霧散していった。

 

「……ふむ」

「――――」

「何だったか、此れは……たしか、ハミルカムが何度か口ずさんでいたか……」

「いっちゃえ……ハート……すぴー」

「そうか、詠と言うのだったな。 確か人間共が音に合わせて言葉を並べていく口遊びだったはず」

 

 だったはずなのに。 そう切った彼の視線は既に響の口元釘付けだった。

 いや、別にやましい理由があったわけじゃない。 むしろ彼にもその訳がわからなかったのだ。

 どうして、この少女の声がここまで気になるのか。 何故こうまで自分のナニカを揺さぶるのだろうか。 気になって、我慢できなくて、ついには寝床を盗られたことすらも忘れ、その場に座り込んで彼女の寝言をただ、ゆっくりと聞き込んでいく。

 

「――――ぱちん」

「ぬ」

「む、ん~~~~よくねた」

「もう少し寝ていても良かったのだぞ?」

「いやぁ、これ以上寝たら石になっちゃいますよ…………って誰!?」

「……それは此方の言い分だとは思わぬか? 名も知らぬ娘よ」

「あ、や、そう言えばそうなるのかなぁ……はは」

 

 目の前の少女が苦笑い。 ソレに対して彼はどこか心境複雑な顔であった。 少女の詠もそうなのだが、彼にとって深刻な問題がいま静まってしまったのだ。

 

「…………眠気が、無くなった」

「え? 眠かったんですか?」

「何処かの阿呆が我の寝台を占領していたからな」

「非道い話ですね」

「………………貴様の事だ」

「ふぇ?」

 

 男の顔に走る青筋。 しかし少女の顔があまりにも阿呆なので、怒りの炎は一気に鎮火してしまう。 行き場のない憤りを持て余すように、彼は深くため息をした。

 ――同時、響の腹部が返事を返す。

 

「あ、はは……おなか、空いちゃいまして」

「此れだからお前達未調整の人間と言うのは」

「言ってることよくわかんないけど、またバカだと思われたのはわかる気がする」

「ほほう、少しは知能があるようだな、猿」

「むっ! わたしお猿さんじゃないよ」

「そうだな、其方は他とは少々毛色が違うようだ」

「え? 髪はこれ染めてなんか無いけど……」

「神? いまは創造主の話などしていない」

「…………あ、うん」

 

 なんだかなぁ、と頭を抱える両者。 お互い全然かみ合っていないが、ソレが両者相手のせいだと思っているのがまたなんとも言えない。

 そんな即席凹凸コンビは、とりあえずそこから動くことにした。

 日は既に頭上にまで上り詰め、立花響の空腹も限界に近い。 いつ可愛らしい凶戦士になるともわからぬのだ、さっさとナニカ納めないと生けない。 いけないのだが……

 

「コンビニってあります?」

「なんだそれは? そのようなモノ、ここにはおらん」

「え? あ、じゃあナニカ食べれるものって」

「知らんな」

「そんなー!」

「そも、我は食物の摂取など必要としない」

「それはウソだよ」

「阿呆、貴様と同じ物差しで我を測ろうとするな」

「むぅ」

 

 彼は諸事情で眠りはするが栄養補給は必要でない。 だから、この島で何が食えて、どれが口にしてはいけないなど彼には一切考える必要が無いのだ。

 

 だが、それではあまりにも目の前の娘が不憫すぎる。

 目尻が光る彼女のせいで、彼は一計を案じなければ成らなくなった。 遠くを見て、小さく口を動かすと即座に大気が揺れる。

 

 黒い影が彼の目の前に現れると響の身体は一瞬だけ硬直する。

 

 獣が、いた。

 だが只の動物などではない。 2足歩行の、いわゆる獣人と形容できる存在が彼女の目の前に現れたのだ。

 どう見たって自然界の存在ではない、その、目の前の存在は牙を剥き出しに彼等へと歩いてくる。 一瞬の迷い、アレは何なのかと考えを巡らせる刹那、隣に居る男を思い出した彼女は胸に手を当て身を挺して前に出る。

 

…………いきなり、男に対して頭を垂れた獣に対して。

 

「……へ?」

「うむ、よく来たな」

「……グル」

「この者が口に出来る食物を集めよ、簡単で良い」

 

 言うなり獣の姿が消えてしまう。

 2分と経たずに帰ってくると、その両腕には様々な果実が抱えられていた。 あまりの展開に呆気にとられる響は、彼の顔を見る。

 

「どうかしたか?」

「あの、お知り合いでしょうか……?」

「む? あれが我に従うのは当然のことだろう? なにを言っている」

「あ、はぁ……」

 

 だから、あの獣のヒトはなんなだと。

 狼狽える響に彼は何も言わない。 むしろ、なにも聞いてくれるなと素っ気ない態度で彼女を突き放すかのよう。 それでもあの獣人が持ってきた果実をあげる辺り、彼の人柄を察した響は、笑顔でりんごっぽいものにかじりつく。

 

「いっただっきまーす!! って、にがい――――ッ!!」

「文句を言うな。 ソレが一番栄養がある」

「でもでも……」

「……手が焼ける。 此れはどうだ?」

「むむっ」

 

 次に響が手にしたのはバナナのようなもの。

 においは大丈夫そう、だが、先ほどの経験からどうにも疑心暗鬼が抜けきれない彼女は、おそるおそる、ゆっくりとそれを口にする。 味は、普通。 想像したものよりも甘味が強い、むしろ甘さに偏りすぎているようだったが、今の響にはちょうどがいい。

 

「うん、これおいしいよ!」

「そうか。 ならさっさと食え。 そしたら貴様の元いた場所に帰るといい」

「……………………」

「どうかしたのか?」

「んぐんぐ……ごくん! いやぁ、ここ、何処なんでしょうかね?」

「…………はぁ」

「んーおいしー!」

 

 あっけらかんと、モグモグをとめないで言われた言葉に、彼は今度こそ頭を抱えたという。

 

「おかわりくださーい!!」

「いい加減にせよ、娘」

「娘じゃないよ。 わたし、響」

「む」

「立花響だよ」

「そうか、娘」

「……そういうとこ翼さんみたい」

「なんだ? もしや今、我の事を小馬鹿にしたのか?」

「そんなことないよ、ただ、肩肘張ってるなっておもっただけで……あはは」

「よくわからぬがこれが我だ、今更変える気も無いし、変えようがない」

「そりゃそうか」

 

 彼女の名を聞かされた男は、何処か微笑んで見えたが、その姿は日の光で隠れてうまく響には見えなかったという。

 さて、腹ごなしも終わり、そろそろここを動こうかと響がやる気を出したところだ。 ソレとは反比例して男はすこし、表情が緩い。 どうしたの? 声をかけた響に対して、何でも無いと吐き捨てたその顔は、まどろみに半分浸かっていた。

 

「眠い?」

「……あぁ、いや、別に貴様がどうでも良いのは関係が無いのだが、此ればかりはどうにもならん」

「……病気、なの?」

「あぁ、昔創造主に逆らったときの後遺症でな」

「え?」

 

 なんで、このような事まで彼女に言ってしまったのか。 こんな事まで言ってしまったのは、あの、自身に絶対の忠を捧げる科学者を置いて他には居ないというのに。

 男が目元を抑えると、響は付き添うようにその場で座り込む。

 

「どうか、したのか?」

「ううん。 疲れてるなら休もうよ? すこし休めばきっと体調も良くなるよ」

「そうだと良いのだがな」

 

 明らかに気を遣っているのは見え見えで、でも、そう悟られないように少女が頑張っているのも事実であって。 それが、何だか……そこまで考えると思考を切り上げ、男は、ゆっくりと目をつむる。

 

 やや、温暖な気候の中で吹く風の気持ちよさ。

 男の髪をなでるかのように通り過ぎた風。 感じたこともない優しいそよ風は、響にも未体験だった。 少しだけ目を見開き、深呼吸。 新鮮な風に湯くられて自然、彼女はゆっくりと歌を紡いでいた。

 

「……む」

「あれ?」

「なんだ、貴様か」

「えっと……今のはゆっくりと眠りに落ちるアレなのでは……?」

「貴様のソレは我を眠らせぬ。 ……そうだな、賑やかな祭事のようだ」

「お祭りオンナですか、そうですか……」

「ぬ?」

 

 まぁ、自分でおしとやかとは遠く離れている自覚はあるのだけれども。

 響ががっくし気落ちしている中、一瞬だけ目を閉じただけの男は、まるで12時間快眠したニンゲンのように、ゆっくりと腰を上げ、腕を天に向かって伸ばす。

 

 この姿をあの科学者が見たら驚天動地なのだが、まぁ、本人にもやはり自覚がないのだからいいとするべきか。

 

 だがこれがいい。

 いままで、誰にも成し遂げられなかった偉業を、そうとも知らずに彼女は達成したのだ。 ソレが男をどれほどに救ったか、彼女はまだ自覚がないし、男も確証がないから言い出せない。

 でも、確かにいま、男にとって奇跡が起こったのは事実であって。

 

「…………貴様、なんだったか」

「ふぇ?」

「名は、なんだったかと聞いている」

「あ……うん! わたし、立花響、16才! 身長は――」

「ヒビキ……そうか、あぁ、良き名だ」

「あ、ありがとう、ございます……?」

 

 でも、そんな奇跡はあまりにもどうでも良くて。

 

 彼女の歌が自身にどのような影響を与えたかなんて推し量れない。 だって、その歌よりも少女の笑顔の方がとてもまばゆくて、心を温めて……

 

「こうして獣神将以外のニンゲンと話すのは久方ぶりだった」

「ぞ、ぞあ? えっと」

「我の部下だ」

「会社勤め?」

「まぁ、そんなところだ」

「忙しいんだね」

「いや、そうでもない。 最近は事がうまくいってな、もう、我が出張る必要も薄くなり、存分に休眠期を迎えていられる」

「お昼寝が特技?」

「くっ……くはははははははははッ!! そうか、其方にはアレが昼寝に見えるか」

 

 地球誕生以来初の大笑い。 ここまで笑ったのは初めてで、どうしてこのような感情が生まれたのかなんて、この救世主には一切理解が追付かなくて。 でも、どうしてだろう。 この娘を前にするとどうしようもないのだ。

 

 自身で、感情がコントロールできないのだ。

 

「……ふぅ。 其方、中々予想外のニンゲンだな」

「そうおもいます……友達にも意外性の塊だって」

「ほう、其奴、中々鋭い観察眼を持っているな。 だがまぁ、ある意味見た目通りと言えようか」

「どういこと?」

「そのままだ」

「ひどい!!?」

 

 そんな調子で談笑が続き、あっという間に日が落ちる。 なにを語ったかなんて問題じゃない、ただ、自身が今日をそのままで終えたというのが重要なのだ。 あの、あらがえない眠りを振り払った少女を瞳に写すと、自然、彼は空を仰ぐ。

 

「其方は、ここの人間ではないな」

「うぇ? 確かに日本育ちの――」

「違う、そうではない。 其方はこの星の人間ではないと行って居るのだ」

「どういう、こと……?」

 

 視線は空、でもその思考はヒビキの胸の奥を見据えている。

 ひどく、歪な彼女の内情を察しつつも、今現状の彼ではどうにもしてやることは出来ない。 この身は、ナニカを壊すことしか出来ない、人造の代物だから。

 

 だから、今の彼に出来るのは、気を廻すことぐらいであって。

 

「……其方も大分苦労しているのだな。 人とは、見かけによらないとは聞くが……その身体でその笑顔が出来るものなど、我は見たことがない」

「え、え?」

「それでは不便も多かろう、我を楽しませた礼だ、困難に襲われたときはいつでも呼ぶがいい」

「あ、うん! ……うーん」

「どうかしたのかヒビキ? 此れでは不服か」

「そうじゃなくて……キミの名前、知らないから」

「そうか、そうであったな」

「うん!」

 

 そう言った彼は、試しに彼女へ言葉を投げかけてみた。 ……でも。

 

「AL■■■■■――――」

「あ、ある?」

「うむ、やはり聞き取れぬか」

「あ、あ……」

「…………」

 

 名を語れぬ寂しさを感じるとは思わなかった。

 どうにかして、知って欲しい。 そう思った事などなかった彼は、あの手この手を考えてみたが、やっぱり出来なくて………

 

「アルくん」

「ぬ?」

「なんだか長そうだからそれでいいかな?」

「……あぁ、そう呼んでくれて構わぬ」

「うん!」

 

 そう言ってくれて、とても気分が弾んで。

 だから、彼は笑った。 創生の時より見せなかった、穏やかな気分を持って、たった一人の少女を送り出す。

 

「わたし、帰らなくちゃ」

「そうだな、其方にはまだやらなくてはならない事が……帰らなくてはならない場所があるのだろう」

「……わかるの?」

「あぁ、顔を見ればな。 我もそうだ」

「そっか、似たもの同士だね?」

「……………………あぁ、そうだ」

 

 彼も、帰りたい場所行きたい場所がある。

 でもそんなことは誰にも言えようはずがなくて、現状、その手段もない。 だけど彼女は違う。

 

「帰れるというのなら、帰るべきだ。 ソレが出来る内はな」

「うん」

「……だが」

「え?」

「また、顔を見せてはくれないか?」

「え、え!?」

「其方と居ると賑やかで良い。 どうにも、十二神将どもと居ると“肩肘を張って”しまうのでな」

「あ、うん!」

「あぁ、そうだ」

 

 ソレが先ほどの意趣返しだとわかった響は笑顔で頷いた。

 この世界で初めて出来た友達に、とびっきりの笑顔の花を咲かせ、立ち上がり、腕を振って歩いて行く。 ……行こうと、したのだが。

 

「―――――あの、どうやってここから出れば良いのでしょうか……?」

「最後まで締まらんな、実に其方らしい」

「うぐっ!」

「まぁ、いい。 時期に迎えをよこす、ソレまではしばらく休んでいるといい」

「あ、はい!」

 

 言うなりまぶたが重くなっていく。 そよ風のせいか、それとも慣れない土地での気疲れか。 響がゆっくりと寝息をたてると、男は遠くに視線を飛ばし、静かに一言、命令を下した

 

「来い、マサキ」

「――――参りました、アルカンフェル」

「皆まで言わなくてもわかるな?」

 

 それだけですべてを察したのは、男の忠実な僕。

 誰よりも信頼を置いたその存在に、立花響を日本に送り届けることを決定した彼は、そのまま誰も居ない寝台にまで歩いて行き、横になる。

 

 響は既にこの島を発った。 ならば、もうこの身が起きていることは出来ぬだろう。

 

 猛烈な眠気に襲われた彼は、長い、そう、とても長い夢を見ることになる。

 

 又いつか、歌が世界を揺れ動かすその日まで…………

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁぁぁぁ……むにゃ」

「お? 響が目ぇ醒したぞ!」

「っと、晶を呼んでくるか」

「おはよーございます……むにゃ」

 

 霧散した過去の思い出。

 立花響が目を醒したのは小田切邸のベッドの上。 そこで寝相も悪くまぶたを開けた彼女は、そのまま周囲を見渡して、少しだけ、沈んだ顔。

 

「……そっか、夢だったんだ」

「何がだい?」

「うーん、こっちで初めて出来た友達の夢ですよ…………って!?」

「おはよう、立花さん」

「ふ、ふふ深町さん!!?」

 

 それもすぐに霧散する。

 あの決戦の記憶もおぼろな響は、思いもがけない人物と目が合い、気が動転して、そのままベッドから転げ落ちる。

 盛大な衝突音が奏でられると、そのまま彼女は困ったように笑い、深町は返事とばかりにその手を握って彼女を助け起こす。

 

「……遅くなってごめんね」

「大丈夫です、みんなで頑張ってましたから!」

「うん、ありがとう」

 

 握り返した手は温かく、力強い。

 その言葉が嘘偽りの無いものだと悟った深町は、穏やかな顔を切り替えて、彼女達についに打ち明けることになる。

 

 

「このあと、みんなに伝えなければならないことがあるんだ」

「…………はい」

 

 その顔は今まで見たこともなく真剣で、少年の決意を感じさせるには十分。 だから少女はすぐに立ち上がった。

 例え、彼がもたらすであろう情報で、今までのすべてがひっくり返る事になろうとも…………

 

 

 

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