強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第47話 悪魔の骸

 

 

 ガイバーⅠ=深町晶が帰還して1月。 ようやく戻った少年は、しかし激変した世界には戸惑いを隠せず、しばらく、その表情から明るさが隠れるようになった。

 

 響たちの世界で体験した、居心地の悪さ。 それがまさか帰ってきても味わわされるなど、考えてもみなかった彼の苦難は想像すら出来ない。 

 

「…………俺は」

 

 そんな、暗い顔して背中を曲げる少年に、一振り、最速で最短な激励が成される。

 

 

 

 

「へーいっ! ご主人さまーーーー!!」

「ぐへ!?」

「へいへい、なんだいなんだい! そんなしょげた顔して」

「天羽さ……あ!? 天羽さん!!?」

「ちょ! 奏! なんで半分裸なの!?」

「え? あぁ、風呂上がって暢気してたらさ、なんだか暗い雰囲気のショウが居たからなんとなく」

 

 生乾きの髪を振り乱し、ショウに体当たりを仕掛けてきたのは元トップアーティストの片翼。 遠慮から羞恥心からすべてを放り投げたハグは、大型犬のようでいて人懐っこさ全開である。

 

「天羽さん、天羽さん!!」

「なんだよ水くさいなショウ。 アタシとアンタの仲なんだ、いい加減、奏って呼んでくれないのかい?」

「首に息が!? そんなに強く抱きしめてこないでください! せ、背中に――」

「……晶」

「あっはっは! さぁ、降参しちまえ!」

「だ、だれか助け―――」

「ちなみに哲朗さんは地下室で速見さんとよろしくやっているのであしからず」

「てつろうさあああああああん!!!!」

 

 幼なじみと、自称ショウ年の所有物である少女二人に大きく振り回される毎日。 そりゃ、暗くなってても潰れる暇などない。 許してくれなかった。

 

「…………やっぱりフカマチさんって」

「…………ドヘンタイ」

「あはは、まぁ、アレを観ちゃうとそうなっちゃうよね」

 

 などと、遠巻きに観戦している中学生二人にも許されず。 さらに、彼女らとそのお守りの響をおいていくように、奏はドンドン深町へと押し迫っていくのであった。

 

「まったく、お前もいい加減こういうのは慣れろよ? スキンシップだろ、こういうのは」

「いやいや、その密着具合をスキンシップって呼ぶのは距離感がおかしいよ奏」

「そうかな? ……瑞紀だってこういうのはしたことあんだろ?」

「――――なッ?!」

『えぇ!? 瑞紀さんが!!』

「あ、ちょっ! あ、あれは色々と切羽詰まって、感極まって……それに、アプトム……が」

「……ぁ」

 

 一変する空気。

 そうだ。 この一ヶ月のあいだ、ついに彼は帰ってこなかったのだ。 切歌が視線をさげると同時、瑞紀は胸元に手をやり言葉を失う。

 

「…………大丈夫」

「響さん?」

「アプトムさんなら大丈夫。 だって、あのヒトは不死身なんだから!」

「…………はいデス」

「立花さん」

 

 包み込むように切歌の手を握ったのは響。

 彼女の優しい声に促されるように返事をした切歌は、そっと顔を上げるのだった。 

 

「……でもまさか、あのアプトムがみんなを助けてくれてたなんて。 俺はてっきり、巻島さんが手引きをしていたのかと思ってたから」

「おっさん、ずっとショウの事を待ってたんだ」

「そうですよ? “アイツを倒すのはこのオレだ!”とか“勘違いするな、きさまらはガイバーⅠをおびき寄せる餌に過ぎない”とか」

「それとおじさん、助けてくれるときはいつもソッポ向いていた気がするデス」

「…………なんかイメージちがうなぁ」

 

 アプトムの激変は、装者たちのせいだ。

 そもそも、女っ気が少ないガイバーの戦闘風景に詠と武道を持ち込んだ意外性少女がいけなかったのだ。 汗を流しながらお好み焼きを口にぶち込まれるグラサン男など、今後みられるかどうかというレアものであろう。

 

 そんなアプトムが、やられた。

 あの、不死身の生命体が獣神将を相手に響たちをかばい、操られ、散っていったのだ。

 

「…………大丈夫だ」

 

 あのキメラのような身体を思い出して、深町は自然、呟く。

 

「アプトムは戦ってきたどの獣化兵よりも強かった。 それは実際に戦った俺にもよくわかる」

「はいデス」

「あのメガスマッシャーを受けて倒れないなんてガイバーだって難しいんだ。 それを生き延びたアプトムが、簡単にやられるとは思えない。 ソレに……」

 

 言いかけて、一度みなの顔を見渡す。

 

「アプトムは“仲間”の為なら何だってするニンゲンだ。 みんなを残して消えるなんて考えにくい」

『…………!』

 

 あの、肉体を書き換えるまでに燃え上がった激しい復讐心は、仲間への思いそのもの。 そんな強い情をもつ彼が、どうして少女達を置いていけようか。

深町少年にもある、その、なにを置いても守らないといけないという感情は、ある意味で強い信頼を抱かせるのだった。 

 

 

 

「アプトムの事は、これはもう帰ってくるのをひたすら待つしか無い」

「あぁ、そうだな。 あのカブラールとかいうクソじじいは、勝手にやられちまったし、相手はよくわからないし。 肝心要の響に至っては覚えてないときた」

「だ、第一声がお腹空いただったもんね」

「…………その節は大変お世話になりました。 あと、久々のカレーライス、大したお手前でした」

「響さん、ときどきへっぽこデス」

「違うよキリちゃん。 こういうときは、肝心なときにしかヤクにたたないって言ってあげるんだよ?」

「……ぐすっ」

「あぁ、もう! 二人ともやめなって! 立花さんがまた泣いちゃうよ?」

「泣いてないですよ……ぐすっ」

 

 強いんだか弱いんだかわからない響のメンタルに亀裂が走る。

 両手を動かしながらなんとか慰める深町だが、彼女が立ち上がる気配が一向に現れない。

 仕方が無いので瑞紀の方を見るが、苦笑いだけを返されてしまい、助け船を期待できそうになかった。

 

 今日が終わり、装者の面々が寝床に就くなか、一人ベランダで夜空を見上げるモノがいた。

 吐いた息が、白くなる。 冷え切った空気はむしろ、色々と混乱しはじめていた自身にはちょうどの良い冷却剤となる。

 

 ガイバー・ギガンティック

 シンフォギア

 クロノス12神将

 

 ……そして、降臨者

 

 すべてを整理するには情報が多くて。 コントロール・メタルでさえ忘却してしまった強大な記憶はもう、遠くの彼方。 それでも、ゆっくりと整理を付けていく少年は思う。

 

「早く、クロノスと……」

「おんや? こんなところでどうしたんだいご主人様」

「あ、あもう――」

「か な で」

「あ、いや……」

「……言ってくれないんだ?」

「その……」

 

 振り返るとメイドさんが。 いや、自称メイドさんの天羽奏が、半袖短パンの内着姿で少年に対して上目遣いをしてくる。

 就寝前の無防備さと、風呂の後からか、鼻をくすぐる香りに思わず息を呑んでしまう。

 

 そんな少女が、ふれあうかどうかと言うところまで近付き、そっと、名前を呼んでと懇願する意味はもう――――

 

「か、かな……」

「お、お?」

「で、――さん」

「…………このヘタレめ」

「すみません……」

 

 一歩引いた少年はまだまだ青いと言ったところか。 戦場では鬼神の如き強さを誇る彼も、日常生活ではごらんのあり様だ。

 だけど、それがいい。

 常日頃から戦いばかりで居ると、きっとどこかでほころびが生じて崩れてしまうだろうから

 

「けどまぁ、いつかはきっちりしてくれよな?」

「ぜ、善処します」

「ウチの片翼みたいにビシっと頼むよご主人様」

「あ、はい……」

 

 なにをきっちりしていいのか……?

 目の前にある色気の塊に正常な判断持つかず、ついうっかりと返事をしてしまった少年の明日はどっちか。 ただ、そのおかげかどうかはわからぬが、少年の気むずかしい表情は、いつの間にか穏やかなモノへと戻っていった。

 それを見て、奏もニコリと笑ってみせる。

 

「さぁてと、本日のメイドさん最後のおつとめも無事に完了かな」

「え? 奏さん、なにかやってたんですか?」

「今やってたろ? ふふん、ご主人様のご機嫌取りをさ」

「あ、いや……その……」

「あはは! やーい、照れてやンのー!」

 

 やはり深町晶は奏には勝てないようだ。

 戦闘ではあんなにも指揮を執り、力を振るう巨人がもう、言葉さえ出せなくなっているのだから。

 

「そんじゃ、今日はもう大人しく寝るよ」

「あ、うん。 おやすみ天羽さ――」

「ん? 聞こえないな、ご主人さま」

「……奏、さん」

「あいよ」

 

 その姿に満足した奏は、足取りも軽く部屋に戻っていく。

 

「……まったくあのヒトは」

 

 言葉とは裏腹に表情がほころんでいる深町。 彼もそろそろ自室に戻ろうかと、月明かりに背を向けた、そのときである。

 

――――――――足下に、もう一つの影がある。

 

「!?」

 

 振り向いた。 

脊髄反射で戦闘態勢を取った彼は、見る。

 

「―――――――」

「あいつ! まて!!」

 

 翼を広げた怪人、否、獣化兵に似たナニカだった。 けど、その姿はあまりにも人間から離れた代物だったが。今は気にしている場合ではない。 少年は走りだし、敷地の外に出た瞬間周囲の空間が歪曲する。

 

「来い、ガイバー!!」

 

 一瞬で完了する殖装。 そのまま強化された躯での全力疾走で、彼は空を飛ぶ獣化兵のようなモノを追いかける。

 

「知られた……みんなの帰る場所をクロノスに――!!」

 

 夜空を飛ぶのは良いが、流石に人の眼を気にする必要がある時間帯だ。 彼はそのまま陸路を駆け抜ける。 地上からなんとか打ち落とせないかと、額のビーマーを光らせるも、相手の機動力が植えすぎてかすりもしない。

 あんな機動力を持った獣化兵が居たか? 覚えのない深町だが、自身が居なかったあいだに起こったクロノスの技術革新を目の当たりにした現在、そんなものは些末事に過ぎない。

“あれは機動力に特化した超獣化兵”と仮定した彼は、両掌を奴に向けて重力変動を引き起こす。

 

「ダメだ、こんなところでプレッシャーカノンは使えない」

 

 すんでの所でかき消し、そのまま空の敵を追いかける。 目的地はどこかわからぬが、もう既にクロノスに情報が行って居ると思ってもいいだろう。

 獣化兵は、文字通り兵隊を意味し、その上位種である獣神将に思考と視界を掌握されている。 

 

「つまり、あれが見た光景は、既にヤツラの知るところとなってしまった。 奴は今ここで叩く、絶対に!!」

 

 それでもいまここで余計な火種は消しておかなくてはならない。 帰る場所を失う悲しみなど、彼女達に味わわせる訳にはいかない。 

 

 深町はとにかく走った。

 ソレが、誘導されているなど思いもせずに。

 

「開けた場所に出た……工場地帯!?」

「クケェェエエエエエエエエエ!!」

 

 突然咆えはじめた獣化兵を前に、ガイバーは一気に肉薄する。 ここまでくればもういいだろう。 人目を気にせず、存分に戦いに集中できるはずだと。

 

「――――」

「奴め、なにを!?」

 

 高周波ソードを展開したときだ。 目の前の獣化兵は突如としてその声を消す。 代わりに広がるのは不気味な音。 不協和音とも言うべきそれは、ガイバーのセンサーで捉えきれない程の音域で広がり、やがて世界を揺るがす波となる。

 

「こ、この感じ……」

「グ、げ……」

「なんだ!? あいつ、身体が……再構成しているのか!?」

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 翼しか持たぬ獣が、その身体を隆起させて増幅させて変貌させる。

 鳥の翼に獣の四肢、亀のような甲羅を装甲にすると、その身体が重量を引き上げられて地面に陥没する。

 

「質量すら増やして行く……コレじゃまるで……」

 

 響たちが使う、シンフォギアのようだと深町は見た。

 それは正しい。 獣化兵や獣神将はあくまでも己が肉体の構成を変えるか、余所から奪い、補うかの方法でしか質量を増大させなかったのに対して、アレは何処にもないところから持ってきているように見える。

 

 翼の雨ノ落涙や、奏のSTARDUST∞FOTONなどが良い例だ。

 

 そう。 その光景はまさに“この世界ではあり得ないもの”であった。

 

「…………お前は何者だ!」

「ゲェェッッッッッッ!! GUOOOOOOOOOOO!!!!」

「く、来る?!」

 

 ソレが此方に牙を向ける。

 四肢を使った強引な高速移動は、深町はおろかガイバーのセンサーすらも通り越して、彼に肉薄する。

 気がついたら目の前に居たと言う事態に、深町は防御の姿勢もとれず、腹部の衝撃と共に工場へ吹き飛ばされていく。

 

「ぐぁ!!?」

「キシャアアアア!!」

「こいつ……ぐふぉ!」

 

 激痛が走り抜け、一瞬だけ意識が消えそうになるがすぐさま重要な痛覚以外がシャットアウトする。 コントロール・メタルの保護機能か、殖装者への余分な刺激を削いだのだ。

 

 だが、それは根本的な解決にはならない苦肉の策。 このままではすぐにガイバーは倒れるだろう。 そう、ガイバーのままでは確実に。

 立ち上がろうとして、しかし身体に力が入らず、あっという間に膝を付く。 自覚のない消耗は、痛覚を遮断した弊害であり、いかに強殖装甲と言えど、腹の風穴を修復するには十分な休息が必要となる。

 

 獣が飛びかかる。 またしてもあの爪で、牙で、今度こそガイバーを仕留めようと襲いかかるのだ。

 その明確な殺意を前に、彼はようやく意を決して叫ぶ。

 

「――――!!」

「ガイバァァァアアアアアアア――――ギガンティックッッ!!!!」

 

 異空間から現れるのは鉄壁の硬度を持つ蛹。 ソレが爪を弾き、牙を砕くとガイバーと共に空高く飛翔する。

 中身のない殻を開くと、ガイバーを招き入れ、彼の身体を瞬時に破壊し、再構成してしまう。

 

 

 傷だらけの殖装者は、巨人となって殻を破った。

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

「――――!?」

 

 巨人殖装の拳が獣に突き刺さる。

 重力の補助すらない無骨な拳は、そのあまりある質量だけで凶悪な兵器と化す。 圧倒的な膂力と共に穿たれた拳打に獣が吹き飛び、工場地帯が大きく揺れる。

 たったの一振りで辺りが騒然となる。 これが巨人殖装、コレがガイバー・ギガンティック。

 力を解放した少年に、もはや獣如きが敵う道理もない。

 

「グギ……!」

「貴様は一体何なんだ! なぜ、あそこに居て、俺を誘い出した!!」

「グオオオオオオオオ!!!!」

「くっ……やはり理性と呼べるものが無い。 コイツ、只の獣化兵じゃ無いぞ!!」

 

 ギガンティックとなって、改めて奴を観る。 姿カタチは“こちら側”の存在だが、その構成方法と、先ほどから発せられる不快音のあり方はまるで“あちら側”を思わせる。

 まさかと思ったそのとき。 深町にとって最悪な事態が発生する―――空間が、歪曲する。

 

「この反応、この感じ……まさか」

【…………】

【………………】

「な!? ノイズ……だとッ!!?」

 

 不定形な存在、ノイズ。

 ソレが暗い色で塗りつぶされながらギガンティックの前に現れたのだ。

 

「存在の固定がされてない。 当然か、詠が流れてるシンフォギアでなければヤツラには触れない」

【……】

【!】

「来る――」

 

 突撃してくるノイズが、槍のように形状を変えて飛翔する。

 

 瞬間、ギガンティックの身体を、ノイズが突き抜けていった。

 

 

「…………やはりか」

【_?】

【ギ……?】

 

 身体の炭化は……起こらない。 そもそもいま、ノイズは確かにギガンティックを突き抜けたが、傷つけたわけではないのだ。

 

「キサマらノイズは、人間に対して炭化させるのはもう知っている。 ソレは人間の細胞を取り込んで強化したガイバーも例外では無い。 だけど、今の俺の身体を構成しているのは遺跡宇宙船と溶け合った強殖細胞だ、もう、人間、深町晶の細胞が表に出れないほどに厚く構成された躯だ!」

【……!】

【……】

「グギャアアアア!!」

「だからキサマラの炭化はガイバー・ギガンティックには通用しない!!」

 

 その代わりカウンター以外の攻撃もヤツラには通用しないのだが。

 

 そしてノイズはともかく、それを連れ出した元凶には既に攻撃が効くのは証明済み。 周囲に人の気配がないのはセンサーで拾っている。 ならば、彼が加減しながら戦う理由など存在しない。

 

「グラビティ・ナックル!!」

「――――!!?」

 

 吹き飛ばす。 ノイズをかき分けて殴り抜けた深町は、そのままバイブレーション・グロウヴを展開。 不快音波を出しつつ、一気に奴の固有振動波にチューニングを合わせていく。

 

「――――」

「跳んだ?!」

 

 空へ逃げて体勢を整えるつもりだろう。 今度こそ両手を伸ばし、奴に照準を定めると手の平に高重力の塊を作り出す。 それが崩壊した瞬間、莫大な衝撃波が方向性を持って夜空を駆け抜けていった。

 翼をもがれ、それでもなんとか空に滞空する獣だが、ギガンティックの追撃は止まない。 彼は、右の拳にエネルギーを収束させていた。

 

「喰らえ!!」

 

 背中のプラズマジェットを吹かして空を翔る―――――瞬間、頭部の金属球が蠢く。

 

「KISYAAAAAAAAAAAAAA!!!」

「なんだ!?」

 

 その場で急制動。 重力球の制御により姿勢をそのままに奴を観る。 ……明らかな変化が、あの躯に起ころうとしていた。

 

 四肢が膨れあがり、躯の体積はさらに増え、背中からは尾が生える。

 

「あのカタチ、あの黒い装甲……見覚えが」

「小僧……ガイバーの、小僧……」

「声……だとッ!!?」

「貴様さえいなければァァァアアアアア!!」

 

 金切りのような叫び声。 ギガンティックの装甲さえ揺るがすその音波に、深町は咄嗟に両腕を交差し、バリヤーを展開する。

 

「使ったなバリヤーを!」

「なに!?」

 

 基本、ガイバーには死角などないが、意識の外というモノは当然存在する。 集中の外側から、ミサイルが飛来したのだ。

 接触と同時、ミサイル内の生態炸薬が混ぜ合わさり、空気と反応して炎を上げる。

 衝撃がバリヤーを襲うが、ギガンティックのエネルギーアンプに支えられた障壁に目立った揺らぎは存在しない。

 

 むしろ、揺れているのは深町の精神である。

 

「今の声、いや、あり得ない」

「なにを言っているガイバー!! 貴様を倒すために、地獄の底から蘇ってきたぞッ!!」

「ダブってる……一つは奴だ……だ、だが――」

「くははははははッ!! そうじゃ、儂をコケにしたキサマラには、只では済まさぬ!!」

「貴様! カブラール・ハーン! だが、その躯はまさか!!」

 

 肉体の再構成と、増幅。 さらに機能の統合と、強化。 それらを行える獣化兵など存在するはずがない。 ソレはあまりにも正規品から逸れた存在。 クロノス製造の獣化兵の規格外品、つまり損種実験体(ロストナンバー)でしか為しえない能力。

 

「貴様!! アプトムの躯をッ!!!」

「くははははははははは!! 空打ちしたミサイルに紛れて脱出してやったわい……キサマの首を手土産にしてくれよう」

「悪魔め……!!」

 

 まだ、他者を利用しようと言うのか。

 懲りず、すべてを己が部品としか思っていないカブラールに、ギガンティックのエネルギー・アンプが深町の意思を受けるかのように輝く。

 バリヤーを維持しつつも、その拳に最大級の攻撃力を蓄積していくのだ。

 

「ふん、バリヤーとはまた面倒なモノを」

「貴様の攻撃など――なに!?」

「じゃが、このミサイルには意味を成さぬようじゃな」

「バリヤーをすり抜けて……!?」

 

 先端がドリル状になったミサイルが、バリヤーの表面を分解、侵入。 そのままギガンティックの装甲に接触すると“バリヤー内で大規模な爆発が起こる”

 

「がはっ!?」

「効くじゃろう。 いくら巨人殖装といえども、そのミサイルの爆撃を、バリヤーに包まれたまま喰らえばひとたまりもあるまい」

「あ、……ぐ……!」

 

 巨人が地に落下する。

 爆炎から出てきたその躯は焼け焦げ、両肩と両腕のエネルギー・アンプは破損。 重力攻撃とギガスマッシャーはもう使えない。

 

「さぁて、そこらに広がっている“もどき”どもにトドメを刺させるか」

「もどき……? ノイズのことか」

「ノイズ? ほう、ウヌの方が事情に詳しいようじゃな。 じゃが、いらん知識じゃ……ここで、死ぬ貴様にとってはな!!」

 

 残るは、唯一無事な右腕の高周波ソードと、ヘッドビーマー3門、先ほどから調子の上がらないバイブレーション・グロウヴ。 それと――――

 

「うぉおおお!!」

【……!】

【…………っ】

 

 巨体から繰り出すパワーだけだ。

 ノイズからの攻撃は多少受けるモノとして、そこから丁寧にカウンターを当てていく。 だが肩やひざなど的が大きいところにはいくらかダメージが入り、右肩のエネルギー・アンプは完全に抉られてしまう。

 

「くっ!」

【……】

「うおりゃあ!!」

【…………】

「ダメだ、数が一向に減らない。 何より攻撃が当たりにくい」

 

 カウンターなら当てられると言うコトは、すなわち此方から仕掛けることが出来ないと言うこと。 しかも、向こうも只単純な波状攻撃だけではなく、様々な角度から、豊富な種類の攻撃を行ってきて対処に難がある。

 直線だと思えば急に曲がり、緩やかな速度だと思えば突如として激流のようになる。 その、惑わせるような攻撃を前に、エネルギー・アンプを失ったギガンティックでは荷が勝ちすぎている。

 

 その姿に悦に浸っているカブラールはここで獣の躯を激変させる。

 またも、酷使されていくアプトムの躯が、徐々にだが赤黒く変色していく。

 

「あいつ……人の身体で勝手なことを」

「くかかかか!! このゾア・クリスタルにはさしものアプトムの融合捕食も敵わぬ。 さぁ、トドメを刺してくれるぞガイバーの小僧!」

 

 高周波の槍を作り出すと、振り乱し、周囲を砂塵へと変えていく。 

 

「だったらコッチも!」

「ほう、その身体のソードは随分と変わったのう」

 

 伸縮自在の高周波ソード、それを鞭のようにしならせてランスを巻き取るように受けきる。 相手の武器を封じた深町は、頭部のビーマーを光らせた。

 

「当たらぬわい」

「けど、隙が出来た!」

「なに……? 此奴、翅を!」

 

 一瞬、ほんの少しだけ造ったその隙を、深町は決して逃さなかった。

 プラズマジェットを点火、即座に右拳に力を込める。

 

「喰らえ!!」

「悪あがきか! そんな拳一つ!」

「はぁぁあああああ!!」

 

 重力制御もなにもない、ただパワーだけを込めた渾身の一撃。

 

 カブラールの躯へ命中し、捻り、貫き、臓物を炸裂させる。 3メートルに届く巨体から放たれるパワーは伊達じゃない。 アプトムの躯だったモノは大地を削り、遠くの建物に激突する。

 20メートルは吹き飛んだろうか。 それほど遠くない距離だ、が……今この瞬間の深町にとっては好都合である。

 

 既に左右の腕のアンプが修復を終えているからだ。

 

「…………ダメだ」

「よもやここまでやるとは。 じゃが、いま攻撃の手を緩めたのはウヌの弱さじゃ」

「…………くっ」

 

 頼みの重力砲も撃てず、相手は躯を作り替えるように回復していく。 無尽蔵とも言えるゾア・クリスタルからのエネルギー供給により、アプトムの再生力を増強しているのだろう。

 

 いくらその身が巨大になろうとも、どれほどの力を手に入れようとも……

 

「くかか! 所詮貴様ハそこまでよ! ガイバーⅢ=巻島顎に比べれば羽虫も同然」

「……だけど」

「ぬ? なにか、言ったか?」

「たとえそうだとしても、お前みたいな悪魔に……負けるわけにはいかないんだ!!」

「こ、こやつ!?」

「うぉおおおおおおおおおお!!」

 

 激突するかのように躯を掴み上げてそのまま空を駈け上がっていく。 止まる気配もなければナニカ策が有るとも思えぬこの行動。 だが、両腕で躯を掴んでいる深町に対して、躯の構成を自在に変えられるカブラールには恐ろしく有利な展開となった。

 

 奴は、何ら遠慮もなくギガンティックの躯を刺し貫いていく。

 

「ほうれ、その胸部装甲を引っぺがしてやろう」

「ぐぅ!?」

「次は左足じゃ」

「があ!!」

 

 次々と削られ、切り落とされていく躯のパーツ。 だがそれでも深町は速度を緩めない。 音速に限りなく近い速度でアプトムの躯と共に弾丸飛行を続行する。

 

「くかかか!! コレで仕舞いじゃ! そのコントロール・メタルをえぐり取ってくれる」

「…………っ」

「死ぬがいい小僧!!」

 

 肩口から体細胞を束ね、刀剣のような触手を作り出す。 当然のように先端が高速振動し、触れた物を微塵に還す破壊力を持たせる。 

 振りかぶる。 ギガンティックの頭部に向かって突き刺そうと、その触手を持ち上げた時だった。

 

「……」

「………………ぬっ!?」

 

 突如としてアプトムの躯が動きを止める。 不意に言うことを効かなくなった躯、その原因は何かと振り上げた槍をカブラールが見上げると、今度は視界が半分ほど真っ暗になる。

 

「ぬおぉお?!」

「まだだ! まだ、こんなもんじゃない……!!」

「ガイバー! 貴様の仕業か!?」

「半分だけだ! 俺は、ただ、貴様を道連れに高度を上げながら音速に近い速度で飛んでいるんだ! バリヤーが無い俺達が、そのままで居たらどうなると思う!!」

「そうか、高高度による凍結……じゃが、ゾア・クリスタルのエネルギーならば」

「そんな暇を俺が作ると思ったか! うぉおおお!!」

「な!? こやつ、まさか儂もろとも砕け散るつもりか!?」

「ちがうな! 俺はこんなところで死ねない! お前を倒す、アプトムも助ける! みんなを元の世界に返す! 俺にはまだ、やらなくてはならない事が山積みなんだ! こんなところで……貴様のような奴を相手に倒れるわけにはいかないんだ!!!」

 

 巨人殖装のデュアル・コントロール・メタルが輝く。

 殖装者である深町の意志力が高まり、その声に応えようと左右の腕にあるエネルギー・アンプが稼働する。 左腕で極低温の冷気を受け手、奴の躯ごと氷付けにされる。 右腕に攻撃力を全部割り振って、彼は最後の攻撃に打って出た。

 

「カブラール・ハーン!」

「貴様! まだそんな力を――」

「すべてを犠牲にしてまでも手に入れたその邪悪な力! 今ここで粉砕する!!」

「貴様、貴様! こ、小僧ぅぅううううう!!」

「はぁぁああああああああああああッ!!」

 

 渾身のグラビティ・ナックルが、アプトムの躯に命中する。

 

「くっ、頭部を狙ったのに……冷気で躯が」

「やれやれじゃわい、なんという奴だ。 危うくゾア・クリスタルを持って行かれるところだったのう」

「もう、一回――」

「させるとおもうたか?」

「ぐふっ?!」

 

 奴の躯から槍状の突起が複数生え、ソレがギガンティックの装甲を刺し貫く。 貫通はしていない、巨人殖装はそれほど柔ではないからだ。 しかし、確かなダメージはある。 深町は掴んでいた手を凍結部位ごと突き放すと、そのままカブラールから距離を取る。

 

「お、お前を……お前のような卑劣な悪魔をこのままにしておく訳には」

「その身体で何が出来る! もう、死に体のその躯で!!」

「…………くっ」

 

 アプトムの躯に無制限のエネルギーでは分が悪すぎる。 いくら巨人殖装だろうが、エネルギーの増幅もままならないこの状況下では再生もままならない。 しかも、強力すぎる力は下手をすればアプトムを完全に消し去ってしまう。

 少しでも細胞が残っていれば……その甘い期待さえも、奴にとっては織り込み済みだった。

 

今やられたところは巨人殖装の統制力で細胞を殺してしまうのだ。

 

 スマッシャーを封じられた巨人殖装と、周囲から温度を奪えず発動出来ないブラスターテンペストを持つアプトムの躯。 泥仕合へともつれ込んだ両者は、ひたすらに殴り合い、お互いの躯を削り取って行く。

 

 全身のエネルギーアンプを貫かれると同時、ギガンティックの躯がその機能を鈍らせる。

 

 震える拳を見たカブラールはほくそ笑み、しかし、鉛となった躯に見切りを付けた深町はここで驚愕の行動を取る。

 

「蛹よ――」

「なんじゃこれは!」

「戻れ! ギガンティックッ!!」

「ぬ!?」

 

 巨人の躯が分解される。 中身であるガイバーⅠの躯が再構成される。 そう、無傷なガイバーの躯が今、カブラールの前に現れたのである。

 

「此奴! ここに来てまさか――」

「原子の…………塵に帰れ!!」

 

 半ばはぎ取るかのようにこじ開けた胸部装甲内は既に臨界にまで温度を上昇させていた。 内部に流れる素粒子が、荷電を伴いあふれ出す刹那、深町は強力な意志力を持ってトリガーを引いた。

 

「メガスマッシャァァアアアアアアアアアッ!!」

「巨人殖装を解いただと――――――!!?」

 

 遂に穿たれたカブラールが操るアプトムのなれの果て。 ソレが一気に崩壊していく刹那、彼等に向かってナニカが横切る。

 

「―――――――」

「アイツ、いまカブラールの躯を……?」

 

 消失したカブラールの肉体をかすめ取るかのように横切ったなにか。

 深町は咄嗟にセンサーで追うも、ガイバーの探知範囲から即座に逃げ失せ、やがて見えなくなってしまう。

 

「……っく、随分と消耗が激しい。 …………後を追うより、まずは帰るべきだな」

 

 気になる飛翔体を見逃す。 追いかけるのも手だが、ここまで来るのに誰にも報告も相談も無しだ、もしもがあればまた、彼女達に多大な迷惑をかけることになる。 ソレは、少年の望むことでは無い。

 

「もうこれ以上、みんなに心配をかけるわけにはいかないからな。 瑞紀達が待ってる、今回のところは戻ろう」

 

 まるで言い聞かせるように呟き、再び巨人殖装を呼び出すと、背中のジェットを点火して彼は小田切邸に帰還していく。

 

 

 

 遠くの空で、怪異が“獣神将の結晶”を取り込んでいるとも思わずに…………

 

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