強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第49話 限界時間

 

 巨獣人となった、完全聖遺物のなれの果て。 それが深町のギガンティックに襲いかかる。

 同サイズまでに膨れあがった獣を前に、深町は背後の装者たちをかばうようにその場で迎え撃つ。

 組み合う巨人。 その衝突が響たちに衝撃となって襲いかかる。

 

「ショウ!」

「あ、あの巨人になった深町さんがおされてるデスよ……!」

 

 巨人となったその身すらも圧倒される巨獣人の膂力。 こんなモノをただのシンフォギアに叩き付けられてしまえば、彼女達も無事では済まない。 それを意識してしまえば深町の闘い方は窮屈になり、選択の余地が無くなる。 一気に防戦一方になる。

 

「ガァアアアア!!」

「こい、つ――!!」

 

 押される。

 身を引く。

 足をかけて転倒させる。

 

 勢いに任せた巨獣人の体勢を乱し、右手に収束させたエネルギーと共に拳をヤツに叩き付ける。

 なんら回避も取らず、グラビティー・ナックルをもろに受け、ヤツの黒い装甲がひしゃげる。

 

「……や、やった!」

 

 その姿を見て、誰かが歓喜の声を上げかけたそのときだ。 ギガンティックの頭部センサーがヤツの躯に起る変化を捉えた。 …………修復するのだ、あの巨獣人の黒い装甲がだ。

 

「……ゥゥゥゥ!!!!」

「はやい……ガイバーだってあそこまで完璧な再生は不可能だぞ」

「完全聖遺物をアプトム細胞に喰わせて、それをゾア・クリスタルの無限に等しいエネルギーと統制力で束ねてるんだ。 あれくらい造作でもないだろうな」

 

 戦慄する奏に、冷静に、しかしゆっくりと拳を握り直した深町の巨人殖装。 いちいち送られてくる“強敵だという事実を証明するデータ”が段々と煩わしくなりつつも、それを決してないがしろにしない。

 

「グォォオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「な、なんだ!?」

 

 遠吠えが響たちの身体を震わせる。 その振動はすぐに気合と共に振り切れるもの……そう思っていた響だが、急速に掌から力が失せていく。

 

「こ、れ……!?」

 

 足に力が入らず、遂に地面に膝を付く。 いったい何だと周りを見渡すと、自身と同様に調も切歌も、同じ体勢で苦しそうに息を切らせている。

 

「た、立花さん!?」

「なんで……あいつの声が届く度にギアから力が抜けていく……!」

「まだLiNKERの限界時間じゃないのに……」

「どういう事デスか」

「お、おいお前等どうなってんだ!」

『…………え?』

「え?」

「か、奏……さん?」

 

 だが一人、たった一人だけ声に抗い立ち尽くした者が居た。 理解が及ばないが、わかる事は一つだけ。 いま、自身と深町だけがこの状況を打開することが出来ると言うコト。

 

 ならば、ここで歌い出さないわけにはいかないだろう。

 

「……どうやら、一回死んだのがここに来て功を奏してきた感じかもな」

「ど、どういうことですか……ぐっ」

「そりゃ、この中で“ニンゲン”を辞めてんのはアタシとショウだけだったことさ。 ……どうやら、あいつはギアとの適合係数を下げるチカラが有るみたいだぜ?」

「どういうことですか……?」

 

 切歌と調は元々適合者ではなく、響は胸に聖遺物の欠片が突き刺さることで、後天的に適合者へとなった融合症例。

 だが奏は立花響すら届かない適合係数をもってシンフォギアを纏っているのだ。 いいや、その身は既に……

 

「アタシは……そうだな、血の一滴から髪の一本まで作り変わったから……」

「あ、天羽さん――」

「あぁそうさ、アタシはもうただのニンゲンじゃ無く、ご主人様に隷属した最強のメイドさんなんだぜ? そりゃあ、あんな遠吠え一つで屈服するほど尻軽じゃ無いのさ!!」

『………………えぇぇ』

「天羽さん、ふざけないで」

「へへっ、まぁそう言いなさんな」

 

 そう言って槍を構えた奏は、巨獣人を見据える。 軽口を叩きながら行われていく品定めは既に終わっている。 構えた槍が展開し、その矛をさらに鋭くすると、姿勢を落として彼女は息を吐く。

 

「………………ショウ!」

「あぁ!」

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

 二度目の遠吠えで遂に両手で地面に触れる三人。 それでもなんら変化の無い奏は、手に持った槍にフォニックゲインの炎をともす。 胸を反らし、片足を上げて、槍を引き、引き、引き、引き、…………地面に触れるかと言うところで、彼女は一気に状態を起こし、槍を投げる。

 神速の投擲。 だがその程度の速さではヤツの目眩ましにしかならず、だから奏はすぐさまギガンティックに駆け寄り、その手を伸ばす。

 

「行くぞショウ! 限定解除だ!!」

「行きます!」

「うおりゃああああああああッ!!」

 

 少年の文字通り大きな手に触れた瞬間、彼女を包むシンフォギアに大量のフォニックゲインが流れ込んでいく。

 背には翼を広げ、羽根を散らすとその手に巨大な槍を再構成していく。

 

「わ、わたし……たち……も……」

「よしとけ響。 いまのお前等じゃ身体がギアの出力に負けちまうよ」

「け、けど……!」

「心配すんな。 ……あんくれぇ、アタシとショウが居れば速攻だからさ」

「奏さん……!」

 

 ヒールを鳴らすと空気を正す。 まるで最初から張り詰めていたかと思わせる変貌ぶりに、思わず深町も背筋を正す。

 正面の敵の遠吠えは収まり、こちらを見直すと少しだけ首をかしげたかのように見えた。 

 

 ……なぜ、これはまだ、地に伏せっていないのか……

 

 尽きぬ疑問を抱えた幼子のようでいて、まるで伏せるのが当然だとする傲慢ささえも感じさせるその態度。 ここで深町は確信する。 いま、響たちを襲う謎の虚脱感は、あの怪物がしでかしたのだと。

 

 それを理解した瞬間。 巨獣人はその姿を揺らした。

 

「―――くっ?!」

「奏さん!?」

「グゥゥゥゥウウウウ!!」

 

 爪だ。 ヤツの爪が奏の構えた槍を捉えた。 その巨体が生み出す重量と、圧倒的な膂力を持って彼女を押し潰さんと責め立てる。 普段のガングニールならば押しつぶされる圧力も、チカラを解放したいまの奏には十分対抗できるものである。

 

「こ、の――」

 

 一瞬の脱力。 身体をしならせ、大地に踏み込み勢を付け、身体全体の反動と共に繰り出した右のヒール。 ヤツの鼻っ面に直撃すると巨体が後ろによろける。

 

「奏さん……すごい……」

「あの巨人もどきを」

「蹴った!?」

 

 そのまま槍を胸元まで引くと、灯したフォニックゲインの刃先をヤツに向けて投げ飛ばす。

 

「おんどりゃあ!!」

「ギィィイイイイ!!」

「――ちっ、防がれた」

 

 腕を振るだけで、あのフォニックゲインの塊を射出する奏のガングニールを防いで見せた。 そのチカラを冷静に分析した深町は、両掌を腰の前に突き出す。

 

「――――ギッ!」

「そんな!?」

「深町さんのプレッシャー・カノンまで!」

「……強い」

「次」

『え!?』

 

 防がれた衝撃波を見るや、ギガンティックが右の高周波ソードを伸ばす。 触手のようにヤツへ伸びると、それをジャンプで躱す巨獣人。 圧倒的な隙を見逃す奏ではなく、すかさず再生成したフォニックゲインを射出する。

 

「―――グルッ」

「躱した……だと!?」

「やはり飛ぶのか」

 

 背中から翅が生えると高速で振動する。 崩壊した街を飛翔する巨獣人は、そのまま眼下の装者達に向けて手を伸ばすと、その腕がぐちゃぐちゃに溶けて、全く別のカタチに作り替えられる。

 

 生体ミサイルランチャー、とでも言うべき代物が形成されると、ソレが火を噴き深町と奏を襲う。

 

「奏さん、後ろに」

「任せたよご主人――」

 

 言い切る前に空間が歪むと、爆音がバリアを揺らす。 ミサイルの発射速度と弾速が、アプトムや雪音クリスのそれを遥かに凌駕している。 もう少しだけ深町の判断が遅れていたら、今頃自身も瓦礫の仲間入りだろう。

 

「ありゃ、今のガングニールでも受けたくないね……」

「ギガンティックでも只じゃすまない威力だ。 絶対に防いでいかないと……」

「グォオオオオオオオオオオ!!」

「深町さん! 次が――」

「分かってる……!」

 

 そういう深町だが、今度はバリアーを展開しない。 その姿に三人が焦れるように身を乗り出すが、奏だけは何も言わずに只、反撃のタメに歌を紡ぐ。

 

 言葉すら交わさない二人に対して、雄叫びを上げた巨獣人は腕のミサイルを二本生成。 先端を歪に捻らせていくと、高速回転を加えた弾頭が射出される。

 

「ふ、深町さん――!!」

 

 あまりに不可解な行動に響が遂に叫ぶ。 だが、その声を打ち消すかのように、今度は巨人殖装が“口を開いた”

 

「――――ギガ・ソニック・バスター!!」

 

 空間が轟き、爆炎が空を焼く。

 地上に到達する前に、音の衝撃でミサイルが反応し、塵に還る寸前で起爆したのだろう。 その威力は先ほどまでも上がっている。 それを見て、だから迎撃したのだと理解した響だが、深町の狙いは別にある。

 

「グゥゥゥウウウ!?」

「その獣化兵の死肉で創り上げた身体を、ここで消し去ってやる!!」

「ォォォォオオオオオオオオオ!!」

「なに!?」

 

 巨獣人の“口が開く”

 そこから飛び出す咆哮は、巨人殖装と同質の破壊音を奏でる。 不快音波の衝突は、お互いを打ち消して、世界から音を消し去るほどの衝撃を辺りに響かせる。

 

「深町さん……!」

「む、無茶苦茶デス……」

「あ、あれが巨人同士の……戦闘」

 

 世界から音が消える中、それでも紡がれる歌がある。 2体の巨人が戦場を破壊する中、一本の槍が空に向かって飛翔する。

 

「―――――奏で、貫く!!」

「――!?」

「これがアタシの………………ガングニールだぁぁああああああああああッ!!」

 

 大空に翼をはためかせ、巨獣人の大きく開かれた口に、大型展開したガングニールをぶち込む。 顎が砕け、後頭部を貫き、やつの身体が硬直する。

 

 その、圧倒的な隙を深町晶が見逃すはずも無く……巨人殖装の片肺を、ヤツに向かってさらしていた。

 

「――――原子の」

 

 開いた胸部装甲に収束する素粒子。 その、巨体ですらまかりきれない程のエネルギーをその身に集め、彼はデュアル・コントロール・メタルから提示される照準を定める。

 

「塵に還れ!!」

「ッ……!?」

「ギガ・スマッシャー!!!」

 

 放たれる破壊の渦。 光りが巨獣人の視界を焼くと、ヤツは身動きを封じられそのまま素粒子の波に呑み込まれていく。

 熱された大地が赤熱化し、大地が溶け始めていく。 そこまでの威力、それほどの凶器。 さしもの獣人もひとたまりも無いだろう。 奏は戦いの終わりを予想するが、しかし深町は構えを取る。

 

「……まだだ」

「え?」

「――――」

 

 ……身体の半分を消された獣人が、牙を剥き出しに巨人を睨む。

 

 うなり声を上げ、消失した右半身からはボコボコと体液が、まるで沸騰した液体のように泡をあふれ出させている。 その異様さに年下二人が嗚咽を漏らし、響は表情を歪ませる。 

 

 だが深町にとってこんなもの、既に見慣れた光景である。

この少年にとって、こんな醜悪な場面など…… 無言で拳を作りだすと大地を蹴る。 空間を歪ませ、力場を形成した右拳を突き出すと、獣人の顔面目掛けてジェットを吹かす。

 

特大の衝撃音。

 ギガンティックのグラビティ・ナックルは巨獣人に激突する。

 

「…………」

「……こいつ」

 

 手応えが、浅い。 肉を裂き、骨を砕くいつもの感触がないのだ。 防御されたのだと深町の脳が理解する前に、頭部のビーマーが意識外に作動し、熱線を打ち出した。

 

「ギ――」

「こいつ、こんな状態で掴みかかってくるなんて……!」

「ショウ!?」

 

 恐竜のような筋肉量から来る怪力が、あの巨人殖装を押さえ込んでいく。 焼かれた半身が泡立ち、体液を噴出しようともお構いなく、目の前の脅威を排除しようと襲いかかってくるのだ。

 対して深町は、既に一度スマッシャーを撃ってしまった反動からパワーダウンを起こしている。

 あの強烈なギガ・スマッシャーは全身のエネルギー・アンプをフル稼働させ、3個に増設された重力制御球から発生したエネルギーを、さらに増幅し放っているモノ。 故に巨人殖装のエネルギーは限りなくゼロに近付いている。

 

 それを、ただの本能でかぎ分けた巨獣人は、ここぞとばかりに攻め込むのだ。

 

「キシャアアア!!」

「ぐぉぉぉ!」

「ショウから離れろ!! はぁあああああ!!」

 

 牙を立てようと大口を開くも、奏が足下にスライディングで突撃。 足払いのカタチを作ると今度は膝を胸元まで引きつけ屈伸……限界まで縮ませると手で地面を叩き、勢いを付けて両足のヒールを巨獣人に叩き付ける。

 

「ガア!?」

「堅い!?」

「ギガ・スマッシャーに耐えきったんだ、アイツの装甲はもう獣神将のそれ以上だ」

「どうすんだよそんなヤツ。 奥の手の響は機能不全、絶唱どころか限定解除も出来やしない。 んで、アタシの攻撃だけじゃ威力が足りねえ。 ……肝心要のご主人様は……」

「もう巨人殖装を保っているだけで限界だ。 このまま戦闘すれば、5分と経たずにもとのガイバーに戻ってしまう」

「……やばい」

 

 あの半身を焼かれた獣人を見るだけならば、此方が有利のはずだ。 だが、奏の長年培った戦闘勘が現状不利だと訴える。

 

 ガイバーの物まね。

 アプトムの特性。

 巨獣神のクリスタル。

 

 その三つの要因から来る、ヤツの手札が読み切れないのだ。 ……いいや、ヤツは只の獣ならば、手札を選んで“切る”という行動はおそらく無いだろう。 だが、あの厄介な要素を重ね合わせた生物が、いまだ力押ししかしていないことに、奏は確かに不安を抱いているのだ。

 

「スマッシャーとか、テンペストとか、そんなモンが飛んできたら対処できねえ」

「ヤツがあの身体になってまだ少ししか経っていない……だから、その慣しが終わる前になんとか出来ればと思ったけど……」

 

 巨人殖装の巨体が、ゆっくりと前に出る。

 ソレはまるで目の前の危機から、奏達を守る壁になるように、ゆっくりと。 それに気がついた奏は気にくわなかったのだろう、無言で1歩……いや歩幅が足りない……もう2歩だけ進んで、深町の横に並ぶ。

「やんぞショウ! 仕切り直しだ!! ……アタシら主従のちから、見せてやろうじゃねえか!」

「はい! ……は?」

「奏さん……!」

「こんなときまで……」

「すごい元気デス」

 

 ピンチ何だかチャンスなんだか分からない空気を作り出した奏に皆が困惑な声。 だがそんな事を理解出来ない巨獣人は、その場でうなりを上げると、体積の大幅な増加を起こす。

 回復をするつもりか……? 即座に構えた深町だが、ヤツが体積を増やしたのは半身では無く背中だ。

 

「グギギ……!!!」

「ありゃまさか……!」

「巨獣神……カブラール・ハーンが使った殲滅形態!? 奴め! 空を?!」

「グォオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 一瞬であった。

 まるで、始めから再生をあきらめ、その背に翼を生やすことにだけ集中していたかのような手際の良さ。

 

「おいおい……スマッシャーどころか煉獄砲だなんてリクエストにもいれてねえよ!!」

「やらせるか……!」

「――――」

『飛んだ?!』

 

 ボロボロの半身で大空に飛び立つ巨獣人。 その速度は今の奏ならば追いつけるし、巨人殖装ならジェットを吹かしてすぐだ。 しかし……

 

「あ――」

「ショウ!?」

 

 巨人殖装の躯が“砕ける”

 

 腕が、脚が、強靱なはずの体躯が、すべて分離し、その躯を維持できなくなる。

 

 空を飛ぼうとしていた深町は呆然と一個になった重力球で浮かび上がり、背後に残った巨人殖装へ振り向いた。

 あとからやってきた“蛹”が外殻を開き、無情にもパーツを格納し異次元へと飛び去っていく。 さらに……

 

「あ、クソ……こっちもダメか……!」

「天羽さんのガングニールが、もとの色に」

「やっぱり巨人殖装に頼った限定解除だと、こうなるよな」

「こうなったら……」

 

 “この世界”から完全に蛹が消え去った途端に、もとの調子に戻ってしまうガングニール。 それを、苦い表情で受け止めた奏が呟くと、即座にガイバーへ戻った深町にしがみつく。

 

「あ!?」

「おまえいま、ひとりで行こうだなんて考えたろ!」

「………………」

「巫山戯んな! そうやっていつも勝手に頑張ろうとしやがって!!」

「だけどこのままになんて出来ない、いつヤツがまた暴れ出すか……」

 

 もう姿も見えない巨獣人をセンサーで探る深町。 だが、只のガイバーで探れる範囲からは既に消えてしまっている。

 あきらめて、地面に下りると同時に奏が深町から離れる。

 

 巨獣人が去ったからか、響たちもようやく立ち上がることが出来たようで、彼女達は深町に駆け寄ると複雑な表情。 それもそうだろう、意気込んで挑んだ戦いに、お荷物どころか只の観戦者になって居たのだから。

 だから……

 

「みんな、大丈夫だった? ……よかった、怪我は無いみたいだね」

「…………」

「立花さん?」

「あ、ひゃい!?」

「どうしたの? どこか痛めた?」

「い、いやぁ……あはは! すこし……」

「え?」

「……おなか、空いちゃいまして……たはは!」

「??」

 

 その笑顔が引きつって見えたのは、決して気のせいなどでは無かったはずだ。

 

 

 

 

 

「んで、これからどうするよご主人様?」

「え? あぁ、ううん……」

 

 帰ってきた小田切邸。 そこでスーパーアイドルのメイドさんに紅茶を差し出した深町少年は、トレーを片手に悩み顔。

 あの巨獣人は難敵だ。 ここに居る装者全員と連携を取ってなんとか……だと思うのだが、ソレもあの謎の現象によって敵わない。 現状、あの敵に立ち向かえる装者はゆったりと深町が煎れた紅茶に舌鼓を打つメイドさんだけなのだ。

 

「だが変な話だな。 なんでその巨獣人ってヤツに咆えられて、立花達のシンフォギアが機能不全を起こしたんだ?」

「おそらくだけど、それは取り込まれた完全聖遺物というモノが関係しているんじゃ無いかな」

「あ、ハヤミ!」

「おはようございます、速見さん。 あ、お茶煎れますね」

「え、あぁ、すまないね……って、奏さんがやるんじゃないんだ」

「え、まぁ……?」

 

 なんでそんなことを聞くんだろうと、不思議な顔をして去って行く深町と、すぐそこで暢気にお茶している自称メイドさんを見比べる速見。 疲れ目を労るような仕草をすると、話題をなんとか戻していく。

 

「切歌さんたちの使うシンフォギアは、もともと聖遺物を機械的に加工しなおし、ソレが持つ力により対ノイズ戦闘を可能にしている。 詳しい動作とかは門外漢だから分からないけど、おそらくその聖遺物が、今回の出力不足の原因だと思うんだ」

「機械的な故障ではなく?」

「あぁ、聞いた現象が切歌さんや、調さんだけだったならそっちの線もあったんだけど……」

 

 そういうと速見の視線は響に向かう。 少し、浮かない顔をしていた彼女だったが、話題が自身に振られたのを悟ると、その顔をいつものアホ面に戻してしまった。

 

「ふぇ? わたし、ですか?」

「あぁ。 確か、キミと奏さんは聖遺物のペンダント無しで……そう、キミは体内にある聖遺物の欠片でシンフォギアを現出させているんだよね?」

「そうみたいです」

「そうか! その立花が月読たちと一緒にダウンしたって言うんなら――」

「あぁ、話はもう機械の不具合では収まらない。 おそらく、聖遺物そのもののチカラを減少させる能力を、例の巨獣人とやらは持ち合わせているんだろう」

「……あれ? でもおかしい」

「どうした? 月読」

「それならどうして奏さんはわたしたちみたいにならなかったの?」

『………………』

 

 そこは、デリケートな話題だ。

 

 速見と哲朗は本人から直接、響はその実体を現象として確認していて、深町は言うまでも無く。

 事ここに至って、奏の全容を知らないのは瑞紀と調に切歌だけなのだ。 それを仲間はずれにしたとは思わないだろうが、如何せん話題が暗くて……

 

「あぁ、アタシの身も心も、全部ショウのだかんな」

「ふぁっ!?」

「そ、そそそそそれは一体!?」

「初対面の時な、意識がはっきりしてなかったアイツに身ぐるみ剥がされて喰われちまったんだ」

「ねぇ! 晶!! ちょっとこっち来て!!」

 

 そんな空気を切り裂いて、ご本人様があっけらかんと口を開いた。

 

 当然の如く飛び火する少年の尊厳。 あっという間に三人の敵を作り、半ば軽蔑の眼差しを送られる。

 苦笑いで紅茶を速見に差し出すと、トレーを彼女達との壁にして状況を説明していく。

 

「奏さん、へんな事言わないでくださいよアレは――」

「おっかしいなぁ……半分くらい事実だと思うんだけどなぁ」

「いやいや……」

「だってほら、出会い頭でガイバーに呑み込まれて」

「えぇ」

「ガングニールとかの情報は全部“蛹”に取り込まれちまったろ」

「はい」

「んで、死にかけボロボロの奏ちゃんは、意識朦朧の中、ショウさま好みの躯にされちまって……」

「は……い゛!?」

「もうご主人様無しでは生きていけない躯にされちゃったのです! ……およよ」

「ちょっと!?」

『ジトォ……』

「いやいや!」

 

 全然まとまらない話。 どうにか元に戻したい兄貴分は、徐に立ち上がると、その拳を奏のアタマに叩き付けていた。

 

「話を戻させろ!!」

「ぎゃん!?」

「これ以上は晶があんまりにもアレだ、いい加減辞めたれ」

「……うぃーす」

「立花と天羽は“融合症例”……言ってしまえば、機械と聖遺物、そして人体の有機的な結合だ」

「……俺たちガイバーみたいだ」

「そう。 だけど晶君が使うガイバーと彼女達とでは圧倒的に違うモノがある」

「え?」

「……コントロール・メタルの存在だ」

「あ!?」

 

 はっ、とした。

 いままでずっと見てきたでは無いか。 あの、完全聖遺物であるネフシュタンや、正体不明の聖遺物。 それらが一体どれほどに危険であるか。

 

「雪音さんが使わされていたネフシュタンは、隙があれば装者を取り込もうとしていた……」

「そのネフシュタンというのは話でしか分からないけど、その完全聖遺物と、例の怪物との話を合わせると……残念ながらガングニールにも同じ特性があっても不思議じゃ無い」

「え?」

「で、でも響さんたちは全然そんな危険なことにはなってないのデスよ」

「あぁ…………晶君のおかげでね」

『え?』

 

 いままでの事を知らない合流組は首をかしげ、いままでショウ年と共に戦ってきたモノ達は合点がいったように、しかしゆっくりと固唾を呑み込んだ。

 

「おそらくだが、融合症例という言葉から君達は遠からずニンゲンという壁を崩されて、聖遺物と一体になる運命が待って居たはずだ。 けど、例の蛹とギガンティック創造の行程でガングニールを取り込んだ晶君のガイバーによって、その構成を維持されている状態なのだと思う」

「そうだと思う。 アタシも響も、この躯の隅々まで聖遺物のチカラが回っている特異体質に変わっちまったから……」

「だけどね、その融合度合いというか、ガイバーとの接続の強さというのかな? それはきっと奏君の方が特段に強いんだ」

「あー、そっか、アタシは肉体改造されてっから」

「そうだと思う。 ガングニールでありながら、ガイバーの統制の影響を受ける細胞に変換されていたんだとしたら。 むしろ、例の怪物の影響を受けないのは当然だったんだ。 なにしろ、すぐ近くにより強力な統制機構があったのだから」

 

 あのアプトム細胞ですら拒絶出来るガイバーのコントロール・メタル。 そこから何らかの繋がりがあるのならば、確かにあの存在からの干渉など……

 納得した深町だが、すぐ近くに居る響の浮かない顔。 うつむいてしまい、目元までは見えなかったが、その口元を見ただけで分かる……彼女は、またナニカを堪えている。

 

「あの、立花さん」

「が、頑張りますから!」

「……え?」

「次は負けません! あんな奴の声に、膝なんか付きませんから!!」

「あ、うん……わかった」

「はい!」

 

 その頑張りはいつもの通り。 だけど……

 

「……響」

 

 彼女の心の震えに、只一人、瑞紀だけは眉をひそめていた。

 

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