強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第50話 黒き意志

 

 

 曇り空、生暖かい風。

 向かい風に逆らい歩きつづけ、通り抜ける空気が男の黒いコートを翻す。

 あの屈辱的な邂逅から、数か月が経った。

 深町晶だと思われる謎の物体を狙い、クロノスの支部に潜入をかけ、謎の男…風鳴弦十郎に足払いとともに撤退を余儀なくされた黒いガイバー……巻島顎は、表情を消して目的の場所まで歩いていた。

「……ここか」

 たどり着いたのは、日本の新宿からそう遠くない廃館。

 人影のない、もう、数十年前に打ち捨てられたはずの底に、彼はただ一人たどり着いたのだ。

「ここに奴らがいるのか」

 誰がとは、最早言うまい。

 最初はあの”男”を探していた顎だが、いくら追い詰めようともカスミのように行方をくらますあの存在。 3回目の捜索失敗をもって計画を変え、彼は、いまだ少ない戦力の増強のために”旧友”を求め、探し続けたのだ。

「いままであったクロノスの被害状況と、前に話に聞いていた秘密の研究施設のおおよその場所から割り出したが、まさか本当にこんなところにあるとはな」

 決して都心から遠く離れていない、近くに、他所の家屋があるこの場所。 そんなところに調整槽月の研究施設があるとは、この巻島顎の目をもってしても見抜けるものではなかっただろう。

 武装は、いらないだろう。

 それは彼らに敵意を示すことにつながらず、これから行う交渉に支障をきたす恐れがあるからだ。

 マリアは潜伏させてある。 もしもここがすでに敵の手に落ちていたら、挟撃をもってせん滅をするのが効率的だからだ。

 ……というのは表向きの言い訳であり、その実巻島は、あのマリアが身にまとう黒いシンフォギアが信用ならないものだと感じているからだ。

 装着者の精神が弱ければ弱いほど、暴走の恐れがある。 暴走するものならば前例がないわけではないが、あれは深町とはまるであり方が違う。 注意すれば回避できるものではなく、その心の揺れで武器に意識を食われ乗っ取られるのだ。

 そんなものに、彼は信頼を置くことはできなかった。 彼女が使い物にならなくなった時、それを思えばこのままの戦力では――――

「さて、行くか」

 そうつぶやいた巻島は、小さく、しかし確かな音をもって扉を3回ノックした。

「鬼が出るか……蛇が出るか……」

 息を呑み、雰囲気を意識的に和らげる。

 かつての遺跡基地までのように……また、彼らの中に溶け込めるように。

 そうして黒い牙を隠した彼の前にある扉、そのノブがゆっくりと動き――――

「――――やぁ、ずいぶんと久しぶりだったな」

「だれ?」

「………………なに?」

 その作り笑いは、幼い仏頂面の前に硬直することになる…………

 時は、少しもどる。

 

 あれから数日。 深町少年たちが、激戦のダメージを回復しきった頃。

 リビングでつかの間の休息にソファへ体を預けている装者たちと瑞樹。 別に何かをするでもなく、ただ、過ぎ去っていく時間に身をゆだねるだけであった。

 沈黙に耐え切れず、ため息のように、響が瑞樹に言葉を投げかける。

「……深町さん達、まだ会議やってるのかな」

「そうみたいね」

 男連中は地下にこもり、今後の方針を決めあぐねていたのだ。

「アタシらも混ぜてくれりゃあいいのに」

「本当デス!」

「わたしたちに、言えないことでもあるの…?」

「し、調ちゃん」

 やや気落ちしているように見える調。 無理もない。 この世界に来て、激戦続きではあったが、その実、一番の戦力はガイバーで、それに追随できているのはガングニールの二人だけ。 しかも、前回の戦闘ではあの巨獣人に対してほぼ無力化されたのだから。

 そんな戦力外のものに、聞かせる話などないのだろう……言われたわけでもないのに、彼女は自分自身を責めた。

「――違うって」

「奏さん?」

「まったく、調ちゃんはちっこい癖して責任感だけは立派なんだからさ」

「わわ!?」

 呟きながら、突然。調の背中から抱きしめて見せた奏。 そのまま腕を交差させると、方に顎を乗せてゆったりと体重をかける。

「男連中、アタシらに気ぃ使ってんのさ」

「え?」

「この間の敵は、ショウのギガンティックですら手こずった奴だ。 そんなのと普通のシンフォギアを、しかも時限式で無理やり薬で使えるようにして戦う調や切歌に、負担をかけたくないのさ」

「けど、それだったら一緒に戦ってた深町さんだって凄い負担があるはず」

「……まぁ、そうなんだけどな。 アタシは一応、女の子だからまぁ、想像だけになるんだけど…」

 少し、言いよどむ奏。 だけど調の疑問の眼差しは途切れることなく続き、やがて困ったように笑った瑞樹が、彼女の続きにこたえていく。

「晶は男の子だから」

「え?」

「女の子に戦わせてばかりなのは、きっと嫌なんだと思うよ。 だから、ちょっと自分が疲れていたって、決して弱音を吐かないんだと思う」

「……わかんない」

 さすがの奏に瑞樹も、こればっかりは困り顔。 いかんせん、少年の背負い込み体質は筋金入りだ、それを説明するには年下の少女たちは深町のことを知らなすぎるのだ。

「えへへ! そのうちわかるよ、調ちゃん!」

「響さん……でも」

「そうデスよ調! ワタシも、調もまだここでは”シンザンモノ”デス! わからないことがあるのも仕方がないのデスよ」

「キリちゃん…」

 普段とは役回りが逆転している切歌と調。 速水と数日行動を共にしてたからか、アプトムとの邂逅が成長を促したのか……いつの間にか凛々しい顔をするようになった彼女の顔を、ちょっとだけ複雑そうな表情で返した調は――――

「だから、悩むなーーおりゃ!」

「ぎゅむ!?」

 奏のハグで、これ以上余計な悩み事ができない状態にまで甘やかされていくことになった。

 上で臨時の女子会が咲き乱れ始めたころ。

 地下では堅苦しくもむさくるしい……いいや、今後を決める重要な議題を、男連中が始めていた。

 響たちの世界から見たら、6世代以上も前になるほどの旧式パソコンを使いながら、今までの情報をまとめ上げていく哲郎。 キーボードを叩きながら、彼はふと、つぶやいてしまう。

「……こんな時、アイツが居てくれりゃあなぁ」

「あいつ……あぁ、彼か」

「そうですね。 いてくれればとても心強いと思います」

 クロノス、獣神将、さらには巨獣人と呼称した敵。 今まではシンフォギアのトンでもと、巨人殖装のパワー、さらにアプトムという手数の多い存在で誤魔化してきた戦力不足だったが、支えのアプトムの消失、さらには巨獣人の持つ特殊能力により、奏以外のシンフォギアが作動不能になるという緊急事態。

 実質、戦闘を行えるのが晶と奏となれば、戦力の安定化を望む声は避けられない。

 ほぼ満場一致で、人手不足の戦力不足を嘆くと、出てくるのはあの”黒い男”であろう。

「巻島の奴、今どこで何をやってるんだ」

「生きているんだとは、思います。 だけど、ガイバー同士の交信もなければ、戦闘があったという情報もない」

「巻島君のことだから、むやみに仕掛けて敵に捕まったりもないだろうけど、なにかあったのは間違いないだろうね」

「はい。 立花さん達だけだったらまだしも、俺という……巨人殖装になったガイバーが帰ってきたのなら、その存在を巻島さんが、ガイバーⅢが感じ取らないはずがない」

 ……その裏で起きた動乱など、彼らが知る由もない。

 まさかあの武闘派のオトナが一人、クロノスの支部を揺るがせていただなんて誰が信じられるだろうか。

 

「晶くんからの呼びかけはどうだい?」

「一度、やってみたことはあったのですが、どうにも巻島さんが殖装していなかったのか、戦闘中だったのか、反応が返って来なくなくて」

「ガイバー同士の通信でもダメとなると、いよいよお手上げだぞ」

『……』

 沈黙が辺りを支配する。

 議論はここで行き止まり。 打開の方向性は見出せたが、その手段がないと来たのだ。 ならこの話はここまでだと速水が切り上げる。

「……一つ、確認しておきたいことがあるんだ」

「どうしたんですか?」

「巻島君の話が出たからちょうどいいと思ってね。 ……アプトムのことだ」

「――――」

 深町の表情がこわばる。

 いろいろと事情が拗れている彼と少年の関係。

 片や仲間の仇。

 片や仲間の恩人。

 そして、その実を犠牲にしてしまい、もういない者でもある。

 だが、これに関しては皆、薄々とだが感づいている。

「”アプトムの行方について”ですか」

「そうか、やっぱり深町君も気が付いているんだね」

「えぇ、この間、確かに感触がありましたから」

「ど、どういうことだよ晶。 まさか、アプトムの居場所がわかったっていうのかよ?」

「居場所というか、状況です」

「え?」

 こればかりは直接戦闘をしたことがある深町にしかわからない。

 あの、戦闘生物アプトムが、いかに不死身であるかということを。

「アプトムはおそらく、あの巨獣人の中にいる」

「…………はあっ!?」

 一度ならず二度も殺しあった相手だ。 アプトムの特性は把握しているし、その生態反応もガイバーはすでに記憶している。 それが訴えかけるのだ。 あの中に、あの巨獣人を構成する細胞のどこかには、まだ、きっと――――

「アプトム細胞が、アレの中に取り込まれ、残っているはずなんだ」

「あいつなら簡単に死にそうにないとは思ってたし、ただで死ぬとはみんな思ってないさ! け、けどよ! アプトムの能力ならあの怪物を食い破って出てきそうなもんだろ? なんでそうならないんだよ」

「それはおそらく、アレの額についているらしいクリスタルというのがカギだ」

 頭部に存在するであろう統制機構。 それはあのイマカラムだったり、カブラールだったり、すべての獣神将についているもの、つまりゾアクリスタルである。

 それがアプトム細胞の活性化を抑制しつつ、有用な情報だけを抽出し、自身の力へと変換しているのだ。

「あの巨獣人がシンフォギアと獣神将の力を複合的に使えるのは、おそらくアプトムの細胞を”繋ぎ”に使っているからだと思われる」

「た、たしかに。 完全聖遺物ってやつと、獣神将の力を共生させるってのは無理だと思ったけど。 そうか、アプトムの細胞に食わせて”モノ”にしていたんだな」

「そうだ。 そして、そこがアプトム救出の要になる」

「救出!?」

 まさか提示された一縷の希望。 しかし速水、そして深町の表情は険しい。

「……そうだよな、晶のギガンティックですら苦戦した相手から、アプトムの細胞だけを取り出すなんて至難の業だよな。 というか、無理だ」

 その表情ですべてを思い知らされた哲郎。 いったいどうすればと頭を悩ませる彼に、だけど速水はどこか楽観的な表情に見えた。

「速水さん、あなたは――」

「……」

 言いかけた深町に、速水はゆっくりと片手で抑える。

「あくまでも、本当にどうしようもなくなった時の話だよ、晶君」

「……」

「どうしたんだ晶?」

「え? ……いえ、その」

「アプトムもそうだけど、その作戦を確実にするにはどうしてもシンフォギア以外の戦力が必要になる。 いざとなったら――」

「え? それってまさか?!」

 驚愕に立ち上がる哲郎に、速水は今度こそ静かにと声を出して注意を促した。

 

 

「はぁー、まだ終わんないですねぇ」

「だな」

 立花響と天羽奏がソファを立ち上がる。 男衆が地下に入って3時間、そろそろなにかあってもいいんじゃないかと、お茶の差し入れに見せかけた偽装工作に走ろうかと相談開始。

「わたし、少し様子見てくるね」

「あ、瑞樹!」

「アタシも行く行く!」

 ゼロタイムでお盆におにぎりとお茶を乗せた瑞樹が階段を下りていくものだから、合鴨のように後を追っていく奏と響の図が出来上がる。 わちゃわちゃと騒がしくなりつつも、その雰囲気は戦闘直後よりもだいぶ柔らかいものになった。

 その雰囲気を、ぶち壊す騒動がやってくる。

「た、たたたたた!! 変態デス!!!」

「大変? でしょ?」

「どうしたのさキリちゃん? ちなみにアタシはまだ何にもしてないかんな?」

「奏さんのことじゃないデスよ!」

「……奏、これから何かする気だったんだ」

「まぁまぁ、瑞樹。 それでどうしたの?」

「笑顔が気持ち悪い変態不審者がやってきたデス!!」

「……穏やかじゃないねぇ」

「いま調が睨んで動きを止めてるデス! 援護お願いデスよ!!」

 などと供述している切歌だが、瑞樹は少しだけ…いいや、かなり怪訝な顔をしている。

「ねぇみんな、ちょっと冷静に考えて?」

「こうしちゃいらんねぇな、もしかしたら敵かもしんねぇ」

「そうですね! 調ちゃんの援護に行きましょ!」

「いやだから、敵だったらこんなゆったりとこっちの動きを待つなんてこと――」

『いざ! 出陣!!』

「ねぇってば! お願いだから話を聞いてよみんな!」

 そうこうしている間に、奏を一番槍に二番槍、後鎌と、続々と凶器が玄関へと走り去っていく。

「…………一応、晶たちに知らせてこよう」

 そういって一人、別行動をとれるようになった彼女は、ひっそりとたくましく成長していた。

「貴方、だれ?」

「……ここの家主の知り合いなのだが」

「貴方のような気味の悪い人、知らない」

「いや、こちらこそキミのような子は知らないのだが」

「…………不審者?」

「いや、決して怪しいものではない」

「わたしを前にした大人の人はみんなソウ言う……もしかして変態不審者?」

「マテ」

「だれか―! タスケテー!!」

「待つんだ! 早まるんじゃない!!」

 

 まさかの事態に、あの巻島顎が大きく取り乱す。

 クロノス元幹部候補で、レジスタンスの首魁で、やがて世界を狙うゼウスの雷ともあろうものが、見た目小中学生の幼女にいいようにされる姿は何とも無様である。

 だが彼の不幸はこんなものではない。 今の小さく抑え込んだ悲鳴で、家の中のものが駆け込んでくるのだ。

「…………まぁ、いい。 どうせ中にいる人間に用があったんだ、これで――――」

「――――――調をカドワカス不審者はお前かぁぁデス!!!!」

「ぐぼぉ!?」

 これまた小さな女の子が――切歌が――巻島の腹部にドロップキックを決め込んだ。 まさかの一番槍を飛び越えてきた死神の鎌に、さしものゼウスの雷も膝をつく。 一瞬の呼吸困難に陥ると同時、酸素の届かなくなった頭で何とか思考を廻そうとする。

「二番槍ィィィィイイイ!!!!」

「ぶっ!?」

 その思考の最中に、いつか見た赤い男の影を纏う少女の真空飛び膝蹴りがさく裂した。 意識とともに宙を舞う巻島の体。 それと同時、最後にやってきた奏が、珍しくメイドらしくモップをもって駆け抜ける。

「お掃除の時間だぁぁぁあああ!!!!」

「――――ッ!?!?」

 

 振りぬき、眉間にさく裂した奏の全力フルスイングは、見事巻島顎の意識を刈り取ることに成功したのであった。

 モップを振り、払い、わきに挟み込むと腰を落として構えをとる。

 息を吐き、そのまま倒した敵に意識を定めれば、見事な残心が完成する。

「また、つまらぬものを切ってしまった」

「さすが奏さん! 頼りになります!!」

「いやぁ、それほどでもあるかなー」

「それにしてもこの人、感じからしてクロノスじゃなさそう」

「でも調に気色悪い顔でにじり寄ってきてたデスよ。 不審者じゃなかったとしても変態なのは確定デス」

「無関係でもどうせこの館のことを知られたんだ、ただで返すわけにはいかないよ」

「奏さん、言ってること完全に悪役」

「薬で洗脳してない分まだへーきへーき」

 奏の問題発言。 しかし、そのあとだ、問題はそのあとにやってくる。

「…………おやぁ?」

 奏、ここで何か大変よろしくない事態に気が付く。

「…………あれぇ?」

「どうしたんデスか?」

「奏さん? あの変質者がどうかしたの?」

「いやぁ、なんか……でもそんな」

 この男、どこかで見たことがある。 そんな気がする奏は、必死に過去の記憶をひねり出す。

 しかし悲しいかな、出てくるのは深町少年と片翼の風鳴翼威が、さして過去の記憶がおぼろげだ。 それでも、何とか思い出そうとする彼女だが……駄目だ、途中で思考を放棄してしまう。

「どっかであった気がする。 詳細は思い出せない」

「あの」

「どったの響?」

「この場合、奏さんが知っていて、わたし達が知らないってことは……もしかして」

「あ! 深町さん関係……?」

「そうデスよ! もしかして深町さん達のお客さんかもしれないデスよ!」

「…………言われてみると、ショウと一緒にいそうな面構えかも……」

 さー……っと、奏の背筋から血の気が失せる。 

 急ぎ、行動を開始。 若干赤く染まったような気がするモップをふろ場に叩き込んで、倒れた(倒した)男をリビングのソファに寝かせる。

「響! 氷枕!」

「はい!!」

「なんてことだ、この打撲、よほどの衝撃が加わったに違いない」

「……融合症例のわたしたちの全力攻撃でしたから」

「ギアを纏ってないのにすごい音だった」

「さすが奏さんデス!」

「あぁ、うん……ありがと、またあとでね、ほめてね」

 やべぇよ、やべぇよ…などと漏らしながら倒れた男の頭に絆創膏でバッテンを作る奏。

 彼女にしてはあまりにもわかりやすすぎる焦り顔に、響はゆっくりと聞いた。

「この人、知っているんですか?」

「……うん」

「もしかしなくても重要人物ですか?」

「……うん」

「えっと、深町さんの協力者?」

「あのね、この人ね……ガイバーⅢ=巻島顎なの」

「あちゃぁ」

 倒して意識を刈り取ってから思い出される。 あの、黒い強殖装甲を纏う男、深町の戦友である巻島顎を、あろうことか生身で圧倒してしまったのだからさぁ大変だ。

 いま、事の重大さを理解した響は、そっと立ち上がると地下に向かって走り出した。

「深町さーん!! 奏さんがガイバーⅢを倒しちゃいましたー!!」

「裏切ったな響ィィ!!!!」

 この知らせを受けて、地下室での会議は中断。 そのまま皆が地上に上がると、膨れ上がったたんこぶを必死に隠そうと努力している奏を押しのけ、巻島顎とようやく対面することになる。

「ま、巻島さん……」

「おのれ……おのれ……」

「さっきからうわ言でアタシへの殺害予告をしてくるんだ」

「…しゃあない、全部天羽が悪いな」

「哲郎にいさん!!」

「あも……奏さん、あとで謝れば許してくれるよ? ね?」

「うん、うん……ごめん、ショウ」

「いや、俺じゃなくて巻島さんにね?」

 久しぶりの戦友との再会が、果たしてこんなものでいいのだろうか。

 騒がしくならないように皆を地下室に押し込めた少年。 しばし複雑な感慨にふけっている深町だが、やがてその思考を遮るように、うめき声が収まる。

「……うっ、ここは」

「あ! 巻島さん!!」

「……深町? おまえ、深町か!!」

「久しぶりです、心配、かけました」

「あぁ…深町こそ無事だったんだな」

「は、はい。 今の巻島さんに比べたら全然」

「なに? ――――痛っ!? 全身が痛む…これは…?」

 ―――新たな仲間が、貴方をリンチにかけたんです。

 決してそういえず、不幸な事故があったと遠回しに説明をしていく深町。 だが、彼の必死な説明に思うところがあるのか、すこし、彼は視線を床に落とすと、小さくとつぶやいた。

「なぜ俺はこんな目にあったのだろう」

「すみません、決して悪気のある子たちじゃないんです。 ただ、必死なだけであって」

「……はぁ、そうか」

 

 深い、それはもう深いため息を吐き出した彼は、そのままソファに座り直し、背もたれに背中を預ける。

 そこから、少しだけ事情を説明すると、深町はここにいる全員を巻島に紹介しようとして…

 オレンジ頭が、必死に何かを少年に訴えかけてくる。

「…………アタシ、後でいい」

「しょうがないなぁ」

「なんだ? 扉の向こうに誰かいるのか?」

「あ、あぁーその、一人体調が悪いので、その人以外を紹介させてもらえればなぁと」

「そうか。 確かお前がその、向こうの世界というところで仲間にしたのは女子供ばかりだと言っていたな。 ならば仕方があるまい」

「すみません、いろいろと」

「いや、いい」

 騙してすみませんと心の中で謝罪した深町。 そこから地下室のほうへ声を飛ばすと、皆がゆっくりと地上に出てくる。

「こんにちは」

「初めましてデス! 全然初めましてデス!!」

「お初にお目にかかります」

「あぁ、……む? 君達、どこかで……?」

『初対面です』

「そうか、そいつは失礼した…?」

「巻島さん……みんな……」

 本来なら喚起にむせび泣くシーンなのだが、しでかしとヤラカシで空気がめちゃくちゃである。

「まぁいい。 ところで深町、確認したいことがあるのだが」

「え?」

「お前が行った彼女たちの世界では、装者と呼ばれる人物は此処にいる人員ですべてなのか?」

「いえ、もう2人ほど……」

「違うよ」

「え?」

「そうデス! マリアがいるデスよ!!」

「あ、そうか! あの黒いガングニールの人!」

「なるほど、やはりそういうことか」

「どういう、ことですか」

 言うと懐から端末を取り出した巻島。 起動し、誰かに通話を始める彼は、そのまま端末を調に向ける。

「ほら、君たちの仲間からだ」

「……え?」

「もしかして――」

[調! 切歌!! もしかしてそこにいるの!?]

『マリア!!』

「……なるほど、そこの二人のお仲間だったわけか。 いいだろう、すぐにこっちに合流してくれガデンツァヴナ」

 そう言って通話を切って2分ほど経つと、外に一人、人影が現れる。 駆け足で玄関に向かった切歌と調は、ひっそりと佇むその人物を急ぎ、館の中に連れ込み、抱き着いた。

「マリア!!」

「会いたかったデスよ!」

「調、切歌……よかった、貴方たちも無事で」

『うん』

 ようやく合流できた彼女たち。 それを見守るように頷き、目を伏せた深町はそっとリビングに戻っていく。 その先で待ち構えていた巻島が、まるで指し示すかのように地下への扉に視線を飛ばした。

「すこし、いいか?」

「…………はい、俺も話がありましたし」

 そうして男たちはひっそりと地下へと潜り、少女たちが混ざれない、血みどろな話を開始していくのだ。

「あのさ、ここ、アタシが逃げ込んだって知ってて誘いに乗ったんだよな?」

「……すみません、つい」

「雰囲気にのまれたと?」

「……はい」

「深町、この方は?」

「あ、あぁそうだ。 この人は―――」

「――――ツヴァイウィングの片翼、シンフォギア・ガングニールを纏う装者の一人、天羽奏だ」

「そうか、君が最後の一人」

「んでショウのメイドさんで所有物だ」

「………………まぁ、なんだ深町。 おまえもずいぶんやるようになったじゃないか」

「違うんです、そうじゃないんです。 だからそんな無表情で笑いかけないでください!」

 そうか、これは確かに雰囲気も変わるなと一人納得する巻島と、どうだいうちのご主人はすげえだろと自慢気な奏。 それを遠くに輝きを失った瞳で眺めている深町は、すでに限界が近い。

「冗談はさておき」

「そうだな。 真実しか言ってないけど冗談は此処までにすっか」

「ほう?」

「へへっ!」

「哲郎さん、助けて……」

「身から出たさび……いや、少女だなこの場合。 とにかく自分で何とかしてくれ」

「…………ぐっ」

 もう天羽奏の問題を手助けする人物はこの世にいないらしい。

 残酷な現状把握が終わったら、次はいよいよ本題だ。 そういわんばかりに咳ばらいをした巻島が深町を見据える。

 恐ろしく鋭い視線、数多くの修羅場をくぐりぬけてこなければ卒倒しそうな空気に、深町は歯を食いしばる。 

「彼女たちの世界から来た怪物を、ご存じだろうか?」

「あの黒い怪物……さすが巻島さんだ、もう情報を」

「黒? あれは赤い化け物だろう?」

「え? あか?」 

「風のように現れ、林を駆け抜けるがごとき体裁きで、火のごとく敵を薙ぎ払い、最後には山のように静かにたたずむ人外魔境のことだ」

「……それって」

「おっさんのこと?」

「やはり知っていたか。 そうだ、風鳴弦十郎のことだ」

『…………そういえばあの人も十分怪物だった』

 というか彼がこっちに来ていること自体には大して驚きがない時点で、もう、あの人間に対しての扱いがうかがい知れている。 巻島は、深町もやはり弦十郎を人外認定していると確認をとると、もう一つの質問に移る。

 そうガイバーⅠが手に入れたあの力のことだ。

「そうか、遺跡宇宙船の細胞と、制御装置……」

「はい。 おそらくあの時、ガイバーと宇宙船とがつながったのが原因だと思います」

「…………そうか、ならば」

「巻島さん?」

「いや、これからは深町、お前が軸になった戦闘になるのだと思ってな」

「……はい」

「もうすでにガイバーの力だけではどうにもできないところまで来ている。 現に、この間現れたカブラール・ハーンの戦闘形態。 巨獣神には、おそらくだがガイバーのままではどうにもできなかった。 そうだろ?」

 だから、ここから先は力があるが皆を引っ張らなければならない。

 そう言い放った巻島は視線をそらし、席を立つ。

「その力があればクロノス打倒は近い。 俺がこの日本に帰ってきたのも、お前という戦力が舞い戻り、集結した力でこの世界をひっくり返すことができると踏んだからなんだ」

「巻島さん」

「今こそ、好き勝手に世界を変えてくれたクロノスに反旗を翻す時だぞ深町」

「…………」

 その通りだ。

 あの悪逆非道の限りを尽くし、友を、家族を奪ってきたクロノスは決して許しておくわけにはいかない。

 しかし、深町は知っている。

 この世界は、何も悪いことだらけではないことを。 そして、クロノスが決して一枚岩ではないということを。

 そして、それは……どの世界でも変わらないということを。

「巻島さんの言うことは、わかりました」

「そうか、なら早速だが――」

「だけどそうすぐにクロノスを打ち倒すことはできません」

「……なに? いや、確かにいくら巨人殖装だとしても獣神将をせん滅しきるのは難しいが、策を弄すれば必ず勝てる。 いや、勝って見せる」

「………はい」

 もうすでにクロノスへ反旗を翻す準備を始める勢いな巻島に対して、深町は乗り気ではない返事を返していた。

 なぜ、そんな低い返事を返したのか自分でもわからない。 でも、このままもし巻島の言うままに動いたとして”その先はあるのだろうか?”と、今まで考えもしなかったことを思う彼は、一人、部屋の天井を仰ぐのであった。

 

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