強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第51話 不信

 

 感動の再会から一晩が経った。 それぞれあてがわれた部屋に就寝中。

 だがそれも部屋が朝焼けにさらされるまでのこと。 やがて自然と目を覚ました少年が、物音立てずに立ち上がる。

 ゆっくりと、微睡から起き上がった戦士が朝からやることといえば当然アレしかない。

「朝の仕込みしとかないと……」

 そう、台所に立つ戦士ならば、まずは料理の下ごしらえから始まるものだ。

 ガイバーⅠ=深町晶の朝は早い。

「……?」

 なのだが、彼が着替えを終えて台所に入ると、見知らぬ影が見える。

 瑞樹は今日の当番ではないし、そもそも彼女は昨日、奏と響に引っ張られて女子会とやらに参加させられてグロッキーなはずだ。 そして、彼女以外に料理ができるものなどこの屋敷にはいない……なら、だれだろうか?

「まさか巻島さんだったりして」

 などと冗談めかしに言う深町は、エプロンを首からかけると、ゆっくり台所へと入っていく。

「残念ね、私よ」

「あなたは…確か、えっと」

「マリアで構わない、ショウ」

「あ、はぁ…?」

 一目見ただけでも美人だとわかる容姿とそこからくる近寄りがたさ。しかし、そんな彼女から出てきた何ともフランクな対応に一瞬呆ける。

 彼女とはここに帰ってくる前に一度だけ相対したことがある。 最悪の出会い、一方的な殺意を向けられ、襲い、襲われた間柄。 そんな彼女が、こうも柔らかい表情を向けるのだから戸惑うのも無理はない。

「こんな朝からどうしたんですか? あ、もしかして寝れなかったんですか?」

「いいえ、むしろ快眠させてもらったわ。 あんなにゆったりと眠れたのは数か月ぶりよ」 

「え、あ、はぁ」

「ところであなたは? 見たところ起き抜けというわけじゃなさそうだけど」

「俺ですか? いや、これから朝食の準備をと思いまして」

「…………え?」

「え? ……て、何か変なこと……ありますか?」

「いいえ、でも……貴方、男の子なのよね」

「そうですけど」

「…………」

 今度はマリアが呆ける番だ。 体つきは決して華奢じゃない、どう見てもごく普通の男性な深町少年。 そんな彼が手料理をすること自体は大して驚きじゃない。 昨今、男性が台所に立つなど珍しくもないからだ。

 ただ、朝早く皆が寝静まっている中で家事を行うなんて、そんなものはもう――――

「……マム、のようね」

「ま…って、ただの当番ですよ。 昨日は瑞樹だったから今日は俺なだけで。 それに立花さん達だって、料理の手伝いくらいしてくれますし」

「……いえ、ちょっと待ちなさい。 確か貴方には専属のメイドがいたはずよ」

「アレをメイドさんと呼ぶにはいささか抵抗があるんですが……というか、そこまで話が及んでいるんですね」

「えぇ、自分を所有物だなんていう人間が、まさかあんなに明るいなんて物語の中でも見なかったわ」

「そうですね、俺もです……」

 規格外なメイドさんの話もそこそこに、深町はしゃがみ込むと調理器具を出していく。 あらかた並べ、順番に洗い、吹いていくと今度は冷蔵庫に。 そんな彼の姿を眺めるマリアは、ただ、何も言わずに彼の調理光景を眺めていた。

「よし、後はみんなが起きてきたら火を通して終わりだ」

「すごいのね、本当に手馴れているわ」

「まぁ、もともと男家庭でしたから、慣れてるんですよ」

「……そう」

 そういうと今度は脱衣所のほうへと行く。

 まさか……と声を漏らしたマリアは、そのまま彼の後ろについていくことにした。

「女物は瑞樹がやるんですよ」

「で、男物はあなたが担当しているの?」

「えぇ、あいにく洗濯機は一つしかないですから、こうやって時間をずらしてやってるんです」

「そ、そう」

 主婦がいた。 いいや、主夫か。

 テキパキと家事をこなしていく主夫深町を、それはもう複雑そうな瞳で見続けるマリアさんは、もう、それ以上言葉を発せなくなっていたという。

 そうして、すすぎが脱水に変わろうかという頃には皆が食卓に集まりだす。

 その中には当然、あの自称メイドさんも含まれていたのだが、その姿を見たマリアは思わず血相を変えて駆け出す。

「ショウ……おなかすいた……」

「貴方なんて格好で出てきているの!? お、男の子もいるのにそんな――」

「はいはい、いま用意するから待っててね」

「マム?! やっぱりあなたはジャパニーズ・おかあさんよね!?」

「あはは……そんなんじゃないですよ。 奏さんにはもう慣れただけであって」

「深町おかーさん……ごはん」

「わかっているよ立花さん、少し待っててね」

「あーい……」

「ここの女性ってどうなっているの…?」

 少なくとも高校生ほどの年齢ならば、もう少し異性に対して警戒心というか、少なくともキャミソールとショートパンツでいられるようなものではないはずだ。

 そしてそれは、おそらく高校生男子であろう”主夫町少年”にも言えることだ。

 あんな無防備な姿を見てあの対応をしていいのはよほど枯れているか女慣れしているか―――

「なるほど、ここの生活リズムはこの時間から開始か」

「アギト、貴方も起きていたのね」

「2時間前にはすでに目を覚ましていたが、物音がするまで待っていた」

「そう……ところでこれを見てどう思う?」

「…………キミのいた世界の女性のレベルの平均値はずいぶんと」

「これと一緒くたにしないでくれるかしら!?」

 よほどの堅物くらいなものだろう。

 眉一つ動かさないで席に座り、コップに牛乳を注いでいる巻島に怪訝な顔。 まぁ、彼があんなのだというのは自身がすでに証明していることだ。

 いつか、シンフォギアの制御に失敗し、ほぼ半裸で倒れ伏してしまった時も、彼は顔色一つ変えずに自身を抱え上げ、医務室のベッドに放り投げたこともある。

 だから彼の反応は、気にならない。

「まったく、ここの人たちって……」

「おや、ずいぶんにぎやかだね皆」

「ミスタハヤミ」

「おはよう、マリア君。 キミはずいぶんと早起きだね」

「え、えぇまぁ」

「速水さんどうします?」

「飲み物だけもらっていくよ。 あとは残しておいてもらえば勝手に頂こうか。 彼女たちの準備ができた頃にね」

「わかりました」

 この人の対応は、おそらくこの年齢の男性ならばおおよそ正解なのだろう。 だらけている女性陣のほうになるべく視線を向けず、必要最低限の会話で、それでも悪印象を与えずに去っていく。

 その手際の良さに感服し、彼の人柄の良さに好感を持つマリア。

 そして――――

「みんなおはよう」

「ミズキ」

「おはよう…って、おい天羽! 立花!! お前らなんて格好で!!?」

「兄貴! ちょっとあっち向いてて」

「言われんでも」

「―――そう、その反応が見たかったの!!」

「マリアさん!?」

「ここの人たちはどうにもずれ込んでて、感覚が鈍りすぎよ! その点、貴方は至極まっとうな反応……本当にありがとう! あなたたち、本当に良い兄妹ね」

「ど、どうも……というか、いい加減目に毒だからこいつらどうにかしてください」

「そ、そうね。 私もどうかしていたわ」

 ようやく溜飲が下りたのか、マリアが無防備二人組を自室にぶち込んで着替えさせる。 その間に主夫町少年が朝食の準備を終えてしまう。

 味噌汁に目玉焼き、鮭のムニエルとほうれん草のソテーだ。

 少し、多いかもしれない朝食だが、育ち盛りが大半を占めるこの環境ならば、むしろ少ないとさえ形容できる量だ。

 帰ってきて、そのメニューを見たマリアは、目を丸くして主夫町少年を見るだけだった。

「いやぁ、深町さんのゴハンはおいしーデスなぁ」

「ほうれん草が、おいしい……」

「すごい……あの子たちが好き嫌いをしないなんて」

「え? そうなんですか? そんな風には見えないですが」

「それは貴方が――いえ、あなたのおかげで、好き嫌いを克服できたというべきね」

「そうデス! 瑞樹と深町さんのゴハンはおいしいのデス!!」

「お魚、おいしい…」

 施設ではそれはもう微妙な味付けの、何とも心のこもっていない料理みたいなもので腹を膨れさせていたのだ。 こんな家庭料理に陥落しないわけがなかった子供たち。 そんな幸せいっぱいな彼女たちを見て、マリアは、言い知れぬ思いに胸を弾ませる。

「ショウ、ミズキ。 ありがとう」

「え?いや、むしろ助けられたのはこっちのほうで」

「あの子たちが居なかったらここまで明るい生活はできなかったですよ」

「そう言ってもらえると、こちらとしても助かるわ」

 その思いを素直に打ち明けて、彼女はそっと席を立ち上がる。

「居候の身でこれ以上の贅沢はできない。 片付けくらい、させてほしい」

「わかりました」

 そう言って食器を洗いだしたマリアだが、彼女は見逃さなかった。

「さすがねショウ。 既に使い終わったフライパンの洗い、乾燥に収納まで終わっている。 これはもしや食事を始める前には……?」

「いや、そんなに驚くことかな……」

「ふふ、言われてもなかなかできないことよ」

「あ、はぁ……?」

 何がそんなに楽しいのだろうかと、思わず瑞樹と顔を合わせた深町。 だが、彼は知らないだろう。 彼女が、このようなだんらんを得難いと、心の奥底で渇望していただなんて。

「さぁ、かかってきなさい。 この程度のこと、物の数ではないのだから!」

「いや、食器を洗うだけなんですって」

「マリアさん、わかんないなぁ……」

 いまだ彼女のキャラクターをつかめない瑞樹が、そっと苦笑いをする中、マリアはスポンジで泡を立てながら片づけを済ませていった。

 彼女たちの戦場、否、洗浄が終わり、少しだけで来た空白。

 リビングから離れ、地下室にいる速水へ差し入れをもっていこうと深町が席を離れた。 その間に、ふと、巻島が思い出したかのようにつぶやいたのが始まりだった。

「ガデンツァヴナは、ああいう側面があるのだな」

「それはどういうことかしらアギト?」

「いや、ずいぶんとアイツにご執心だと思ってな」

「アイツ? そうかしら? でも、確かにそうかもしれないわ」

 彼女のこの反応に、巻島は少しだけ以外そうに眉を挙げる。 もう少しだけ生娘のような反応が返ってくると思っていたのだろう。 彼女への認識をやや修正、年相応の落ち着きを持った者だと改める。

「確かに最初は驚いたわ。 話に聞いていたよりも、全然印象が違うのだから」

「そうか? いや、そうだな。 奴もここ数か月、いや、もしかしたらあのときから相当に成長したはずだ。 印象も変わるだろう」

「あの時? アギト、貴方いつあの事件のことを知ったの?」

「事件? ……まぁ、敵に放ったスマッシャーが跳ね返されたといわれれば事件だといえるか……いや、待て。 貴様何を――」

「あ、……―――ッ!?」

 そこまで言われて気づかないマリアではない。 しばし言葉に詰まったマリアを鼻で笑う巻島。 その姿が忌々しくも、大声を出すわけにもいかない彼女はワキワキと手だけを動かして何とか耐える。

 この仏頂面、こともあろうにあの少年とのことをたきつけてくるのだ。

「まぁいいじゃないか。 ないんだろう? お前は向こうでもそういうことは」

「なにを勘違いしているのかはわからないけど、私から見たあの子の印象は尊敬の部類よ」

「……ほう? あの深町を、尊敬」

「なに? どこか変なのかしら」

「いいや、奴もずいぶんと買われるようになったな……とな」

「そう、なの…?」

 そう語る巻島の表情は何らかの含みを感じてならないが、自身の気持ちに偽りはない。 はずだ……

「ほんの5分、元の世界で話し、刃を交じえた。 それだけで十分だわ」

「そういうものか。 わからんな、お前たち武人の類の思考は」

「そうね。 貴方のようにロジックでしか考えられない人にはわからないでしょうね」

「あぁ、そうだ。 まったくわからんな」

―――――お前は深町晶に劣っている。

 巻島の脳裏にあの夜の光景がフラッシュバックする。 顔に出さず、しかし、歯を食いしばっていることに気が付くのに一瞬遅れると、目の前のマリアが怪訝そうな表情をしていた。

 何とか平静を保ち、だが、そこに彼が返ってきてしまう。

「あれ? どうかしたんですか巻島さん」

「…………いや、長旅の疲れがまだとれていないらしい。 悪いが少し席を外させてもらおう」

「あ、はい」

「…アギト」

 深町の顔さえ見ずに部屋を出ていったその姿は逃げるようにも思える。 もしかしたらそうなのかもしれないし、今は、そうするしか巻島には手段がなかったのかもしれない。

 彼は、以前とは違い強くなった。

 あの、いつまでも自身の後ろでチョロチョロと生き死にを繰り返していた無様さが、すでに見当たらない。

 周囲の反応も彼をたたえるものばかりだ。

 だが、それもいまのうちの辛抱だ。 そう、今はまだ、巻島顎人に力がないだけなのだから。

そして、そのチャンスはすぐに来ることになる。

「深町君、みんな!」

「速水さん?」

「急いで下に来てくれ、事件だ」

『!!?』

 地下室からの声に皆が一斉に振り向く。 次いで飛んでくる緊急事態の言葉に、巻島顎人が部屋から出てくる。

「これを見てくれ」

「こ、これ……リビングにおいてある奴よりもいいテレビじゃないですか」

「え? あぁ、粗大ごみから引っ張ってきたんだよ。 いや今はそんなことよりもこっちだ」

 

 そう言ってモニターに出てきたのは、炎が逆巻く街並みだった。

 逃げる人々、画面の向こうが揺れるたびに上がる悲鳴は、事態の深刻さを皆にたたきつける。

「こ、これは……!」

「情報収集中に拾った映像だ。 おそらくクロノスの中継車からの映像だと思う」

「じゃあこれって今起きてることなんですか……!」

「間違いない」

 いきなりの事態に調と切歌は固まってしまっている。 そんな二人を抱き寄せるマリアと、すぐさまここを出ようと声を出そうとした深町……それを制して、巻島が前に出る。

「場所は?」

「巻島君? ……あ、あぁ。 ここから10キロ先。 県境の河川付近」

「ということは近くに住宅地があるのか」

「いや待て! 無線を傍受し始めた……河川敷から20キロ先にも被害が出てる」

「え!?」

「驚いている場合じゃない立花。 大方あのアプトムとやらの力で分体でも作り出したのだろう」

「ど、どうするんですか!?」

 

 町の被害に過敏な反応をする響をよそに、目をつむり、思考をまとめ上げる巻島。 そんな彼は、ゆっくりと瞳を開けて深町に問うた。

「どう思う?」

「……二手に分かれるべきだと思います」

「メンツは」

「俺と巻島さんを分けて……」

「アタシはもちろん――」

「今回は巻島さんとお願いします」

「はぁ!?」

「立花さん、そしてマリアさんと俺で一番遠い方の状況を見てきます」

「おいおいなんでだよご主人様!!」

「この中で自由に動けるのは俺と巻島さん、そして奏さんの三人だ、それに……」

 言いよどむ深町をよそに、どこか納得というよりもそう来たかと小さく笑って見せた巻島が口を開く。

「あの両名は、こちらの世界でいうところの不安定なガイバーのようなもの。 それの安定を望むならば、深町のそばにいるのが一番なのだろう」

「……そりゃ確かにそうだろうけどさ」

 

 まだ納得のいかない奏だが、深町がなだめて何とか落ち着いてもらったようだ。

「わ、わたしたちは!」

「どうなるデスか!!」

「えっと、二人は……」

「留守番だ」

『そんなことって!!』

「残念だがもしものことを考えると、俺はもとより、立花とガデンツァヴナの面倒までも見なければならない巨人殖装の深町にも、二人をそばに置く余裕がない」

「けど、なにか役に立てるはず」

「そうだな。 俺か深町のどちらかが戦闘不能になった時の援軍を願いたいところだが」

「そんな場面あるわけが――」

「…………」

 

 二人はいらない。 そんな無言の圧力をかけられているかのよう。

 だが彼女たちは知らなかった。 ガイバーの二人は、幾度となく敵に敗北し逃げて回ってきたことを。

 だからこそ、それを知っている只の人が、彼女たちを抑え込む。

「月読、暁。 別にお前たちをないがしろにしているわけじゃないんだ、わかってくれ」

「それにここには戦えるのは私しかいなくなってしまう。 守りを少しでも固めておきたいんだ、わかってくれるね?」

「そんなこと言われたら残るしかないじゃないデスか、ハヤミ」

 そう言って腰を落ち着けた二人は、ほほを膨らませながらも深町たちが出ていくのを見送ったのだった。

 

「おいどうすんだよ巻島」

「なにがだ?」

 殖装と聖詠を終えた二人は現場へと駆け抜ける。

 自動車の速度よりも早く、燃え盛る街を目指して走るなか、奏はそっとガイバーⅢの姿をのぞき込む。

 深町のそれよりも一つずつ増えた左右の高周波ソード。 鋭利で攻撃的なフォルムに、闇のように黒い走行で身を覆うその姿は、まさに野心の塊のような心を現出させたかのよう。

 そんな彼に対して、わずかばかりの警戒をいまだ解かない奏。 だがその姿を知っていようがいまいが巻島顎人には関係がなかった。

「――深町も、ずいぶんと成長していたものだな」

「あん?」

「昔ならキミの身かわいさに、全員で一か所に行くか、全部を俺に預け一人だけで解決しに行っただろうな」

「……あぁ、そーだろーな」

 ぶっきらぼうに答えて見せたが、事実その通りだった。

 

 前の…それこそ、ほんの少し前の深町だったならこのような効率的な分担作業などしなかっただろう。

「けどいいのかよ?」

「なにがだ?」

「あんた、ギガンティックもなしにアタシと二人だけでだなんて」

「ふん、なに。 何も巨人殖装だけが戦う力じゃない。 このガイバーとて十分に上等な戦力なのは変わるまい」

「まぁ、そうだけどさ」

「さぁ、無駄話はここまでだ。 現場が近いぞ、気を抜くなよ」

「わかってんよ……そんじゃ、行きますか!」

 いうなりアームドギアを展開した奏は、ガイバーⅢを追い抜く形で一気に速度を増していった。

「奏さん達だいじょうぶかな……」

 ところ変わって別動隊。 深町率いる3人組部隊は、今現在地上2キロメートルの大空を弾丸飛行していた。

「しかし現場から20キロ……小田切館から30キロ以上も離れた場所にどう行くかと思いきや、まさかこの巨人の力でジェット機のように飛んでいくとは」

「この方が早いですし、空を飛べる敵は限りなく少ないですから」

 それこそ、獣神将クラスの敵でなければめぐり逢わないだろう。 

 巨人殖装のバリアの内側、方のエネルギー・アンプに掴まりながら大空を見渡すマリア。 片割れの響は何度か限定解除で経験しているからか落ち着いたものである。

「ところでショウ」

「え、はい?」

「貴方、ずいぶんとアギトに信頼を置いているようね?」

「そりゃそうですよ」

「巻島さんと深町さんはわたしたちよりももっと前からの戦友ですもんね?」

「うん、そうだよ。 あの人には何度も助けられた。 瑞樹も哲郎さんも、あの人が居なかったらどうなっていたかわからない場面が何度もあったんだ」

「……そう」

 ギガンティックの肩に掴まっているせいで、マリアの表情をうかがい知ることができない。 だが、彼女の言わんとしていることも、わかるのだ。

「巻島さんが”そういうことをする人間”なのは、何となく思うようになりました。 向こうの……みんなの世界で、同じような人が悪に落ちていくところも見た」

「……」

「だけど信じたいんだ。 同じ時を、苦労を分かち合った仲間だから」

「そう。 ……貴方は強いのね」

「みんなが居るからですよ」

「そういうことが言えるから、みんなが力を貸したがるの。 覚えておきなさい」

「はい!」

 ……逆に、それができない人間はいつか。

 誰よりも強い力を持ってしまったからこそ、誰かの力になろうとする少年に、今できる精いっぱいのアドバイスを送るマリア。 だがそれは、何も少年のことだけではなくて。

 そのことを彼女が自覚する前に、彼らは現場に到着してしまう。

「に、逃げろ……!!」

「空から化け物が!!?」

「ぎゃあああああ!!」

 深町、否。 ガイバー・ギガンティックが現れると同時、燃え盛る街にさらなる悲鳴が上がる。

 慣れない世界、されたことのない反応。 人々のおびえる目に一瞬、マリアが困惑する。 だが、それでも深町晶は決して歩みを止めるわけにはいかなかった。

 逃げ惑う人々の頭上に瓦礫が落ちてきたのだ。

 

「危ない!!」

『!?!?』

「あっ!!」

 咄嗟に頭上へ飛んでいき、彼らを守るようにバリアーを張る。

 彼らをよけるように落下していく瓦礫。 それらを呆然と、しかしいまだ恐怖で動けないでいる人々に、巨人は今来た道を指さした。

「あっちへ!」

「……え?」

「まだ火の手は回ってない、急いで逃げるんだ!」

「あ…」

「なに、たすけてくれるの……」

「でもあれクロノスの警備員じゃないよな……」

「いやでもいま俺たちを助けたぞ」

「じゃ、じゃあ…!」

 徐々に巨人の指し示す道に歩き出していく人々。 ぞろぞろと、ゆっくりではあるものの、だんだんとこの”戦闘区域”から立ち去ってくれるようだ。

 次第に人気が居なくなった頃、ギガンティックの生態センサーが過敏に動く。

「立花さん、マリアさん!」

「来たんですか!?」

「あぁ、それもどうやら”当たりを引いたみたいだ”」

 深町が言うと、遠くの方から破壊音。 ビルが倒壊し、中から黒くおぞましい姿の獣が……そのすぐ下、足蹴にされたナニカが悲鳴を上げて食われていくのだ。

「……くっ」

「融合捕食……!」

「間違いない。 アプトムの力を、奴は―――」

 正直、見るに堪えないその光景。 だがなんとか視線を逸らすことなく対峙することができたマリアは、ここで彼らとの力量の差を思い知ることになる。

「ショウ、彼らは―――」

「行きましょう深町さん! あいつをあのままにしておけない!!」 

「あぁ、一気に片を付けてやる!!」

「……二人とも」

 既に覚悟を決めて拳を握る両名に、マリアは自然と気後れしてしまう。

 

 無理もない。 誰も責めはしない。 だって彼らは、ここまでくる間に多大な犠牲と、悲劇を飲み込んで生きてきたのだから。

 だから、それがわかってしまったから、彼女は知らぬ間に歯を食いしばり、嗚咽を切り捨てるのだった。

 

 何とか当たりを引いた深町。 これで、戦力を分担したことに何とか意味を見出すことができたと、内心そっとしたその裏では……

「おい……巻島……巻島!!」

「大声を出すな……たかが左腕をやられただけだ」

「畜生…まさかこっちが”当たり”だなんてよ!!」

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 左腕を高周波の刃に変えた巨獣人が、ただの殖装者を追い詰めていた。

「深町……やはり当たりは、二つ居た……さっさとケリをつけろ……!」

 

 おびただしい量の体液をまき散らせ、倒れそうな体を奮い立たせながら、巻島顎人の野心の目は、まだその炎を燃やし続けるのであった。

――――――――――あの力を手に入れる最大の好機をつかむために。

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